「デザインで行政に貢献していきたい」デジタル庁CDO浅沼尚さんのデザインプロセスとは?
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『今回のゲストは、今年9月に設立されたデジタル庁にてCDO(Chief Design Officer)に就任された、Japan Digital Design株式会社の浅沼尚さん。
これまでのデザイナーとしてのキャリアの変遷や、CDOやCXO(Chief Experience Officer)としての役割、普段から実践しているデザインのプロセスについてうかがいました。
■ プロフィール
浅沼 尚(あさぬま・たかし)
デジタル庁 Chief Design Officer、Japan Digital Design株式会社 Chief Experience Officer。
2018年から三菱UFJグループ戦略子会社においてCXO(Chief Experience Officer)としてデザインチームの組成、三菱UFJグループと協業による新サービス開発の体験デザイン、従業員体験デザインを中心とした組織開発に従事。
2021年9月からデジタル庁のCDOに就任。
大手企業のインハウスデザインとデザインコンサルティング経験を活かし、大規模プロジェクトにおいてデジタルプロダクトからハードウェアまで幅広い領域でデザインプロジェクトに参画。
IF Design Award、Red Dot Design Award、グッドデザインアワード等、国内外のデザイン賞を受賞。
花城 泰夢(はなしろ・たいむ)
BCG Digital Ventures, Partner & Director, Experience Design。
2016年4月、BCG Digital Ventures Tokyo の立ち上げから参画。東京拠点のExperience Designチームを牽引し、ヘルスケア、保険、消費財、金融などの領域で新規事業立ち上げやカスタマージャーニープロジェクトを実施。
日本のみならず、韓国でも金融や小売業界にて新規事業立案やカスタマージャーニープロジェクトを行ってきた。UI/UXを専門領域としている。
CXOとして一番大事なのは組織のカルチャーをつくること。
花城:デジタル庁でCDOに就任されたことをはじめ、浅沼さんのデザイナーとしてのキャリアの変遷が気になる方は多いと思います。
これまではどのようなキャリアを歩まれてきましたか?
浅沼:キャリアはちょっと特殊かもしれません。
デザインコンサルティングの仕事はここ5年ほどで、もともとはメーカーのインハウスデザイナーとして活動していました。
2017年頃からデザインファームで金融、航空、リテール、流通などでUXのコンサルティングに従事し、その後、MUFGの戦略子会社Japan Digital Design株式会社で新サービス開発や金融サービスの体験デザインを行っています。
そして今年の9月から政府の仕事を始めることになりました。
花城:政府の仕事を始める前に、金融業界を経験しているんですね。
金融サービスのデザインをしていた経験が行政に役立ったりもするのでしょうか?
浅沼:そうですね。
金融業界は、タイムラインや仕事の進め方が特徴的ですし、他の業界と比べると開発費も大きく社会インフラとしての責任も負っています。
そういう意味で、政府の仕事に近しいものはあるかもしれません。
花城:デザイナーとしての役割も、過去と比べて変わってきているんですか?
浅沼:はい、私は工業デザイナーからキャリアを始めているのですが、比較的歴史の長いクラシカルな領域なので、一人前になるまでに5年、10年は当たり前なんです。
当時はUXデザインの明確な定義がないなか、デザイナーはあたりまえのようにUXデザインと近似したアプローチでデザイン業務をしていました。
製品開発においてあたりまえのようにUXデザイン的なことをやりながら、デザインマネジメントやデザインディレクターとしての経験も積んできた。
大雑把に言うと、そんな感じのキャリアです。
花城:ちなみに「Chief Experience Officer」のような肩書きになったのはいつ頃からですか?
浅沼:ここ数年の話なので、2018年くらいからですね。
「CXO」のようなタイトルを設置すると、会社としてデザインに注力しているという姿勢を対外的に示せると思うんです。そういう意図もあり、戦略的につけたという背景がありました。
花城:浅沼さんの考えるCDOやCXOの役割はなんだと思いますか?
浅沼:これまでの自分の業務を俯瞰してみると、次の4つが挙げられるかなと思います。
組織に魂が宿るためには、3つ目の「カルチャー」の部分が特に大切だと思っています。
花城:僕も企業のインハウスデザインを支援したり、組織づくりの支援をしたりするのですが、取り組みの中でもとりわけ難しいのが「カルチャー」だと思います。
もともとあった企業文化や働き方も活かしながら、「アジャイル」や「ヒューマンセントリックなものづくり」といったトレンドも組み込もうとすると、組織内から思わぬ抵抗にあったり、周囲の理解を得ていくのがなかなか大変です。
カルチャーづくりのポイントはありますか?
浅沼:イレギュラーなのであまり参考にならないかもしれませんが、CXOになった翌年にコーポレートカルチャーのチームをつくり、そこのヘッドも兼任させてもらったですよね。
デザインチームとカルチャーチームの両方の権限を持たせてもらったかたちです。
「カルチャーは大切」ということを経営層に啓蒙することはとても重要です。
トップにカルチャーへの理解を促し、お金と人と時間をかけるべき経営資源であることを伝え続けました。
カルチャーづくりをするなら、ハイレイヤーなマネージャーたちを巻き込むことが必須だと思っています。
花城:なるほど!経営層にも理解を得ていく為にカルチャーチームをつくるのはいいですね。
カルチャーチームは何人くらいの規模だったんですか?
浅沼:チーム自体は3人だったのですが、大事なのは社長直下に部署をつくるということです。
「会社の方針」というメッセージになるので。やっぱりカルチャーがないと人材が定着しないし、プロダクトやサービスをつくる上で迷った時に拠り所になるものがなくなってしまうので。最近では、戦略つくるよりカルチャーつくったほうが早いなんて思ったりしています。
花城:それはめちゃくちゃ共感します。
カルチャーづくりには横断的に物事を見えるデザイナーがやるから相性がいいですよね。
それから、「つぎのCXOやCDOのポジションをつくる」というのはどういうことですか?
浅沼:今って「CXO」や「CDO」の存在が認知され始めた時期だと思うんですよね。
「CXOをつくってみたけど意味なかったね」とならないように、ポジションとしての価値や存在意義をきちんと示していくことが大切だと思っています。
まずは、つくってみる。デザインプロセスの考え方
花城:次は、浅沼さんのデザインのプロセスをお聞きしたいです。
普段どのようにプロジェクトに関わっているのか、秘伝のタレ(笑)を教えていただけますか。
浅沼:特殊なことはぜんぜんしていません。私はいわゆるデザインシンキングのプロセスに則っているのですが、「ダブルダイヤモンド」のプロセスを「トリプル」にしています。
金融サービスのような規模の大きなサービスを動かすとき、プロトタイプフェーズと開発フェーズを混同してしまうことってよくあると思うんですよ。
基本的にはプロトタイプでソリューション検証をしてから開発のフェーズに進まなければいけないんだけど、検証しないで本開発に着手してしまう。
花城:そこを一緒にしないためにダブルダイヤモンドにひとつ加えて「トリプル」に切り分けたんですね。
浅沼:そうです。
「お客さんのニーズを捉えていますね」「課題解決の検証もできましたね」という二つのゲートを通った上で初めて「開発して、グロースさせていきましょう」という段階を踏むべきだと思うんです。
それに、明確なプロセスにまとめることで、デザイナーが入るべきタイミングの見極めや適切なデザイン活動ができると思っています。
花城:BCGDVでも顧客への理解からはじまり、AsIs(現状の姿)とToBe(あるべき姿)を可視化しながら、プロトタイプで解決策をどんどん形にしていき、そこから開発へと繋げていくのでプロセスは非常に近いですね。
ちなみに、③(開発実装・評価)まで進んで「2マス戻る」みたいなこともあるんですか?
浅沼:さすがに「2マス」はないですね(笑)。
でも、②(ソリューション発想・検証)で検証してみたらビジネスとして成り立たなそうだと分かり、①(顧客理解・課題定義)に戻ることはあります。
それでも、実装してしまってから気づくよりはマシですよね。検証の結果「できない」と分かることは一つの知見だと思っています。
花城:それぞれの期間はどれくらいですか? 「顧客理解」に1ヶ月、「ソリューション検証」が1ヶ月、「実装・開発」が1年とか?
浅沼:いい線ですね。金融サービスは開発に1年くらいかかるものも多いですね。
花城:なるほど、金融となると基幹システムとの連携やセキュリティも含めると長期の開発期間がどうしてもかかりますね。
ソリューションを産み出していく際のデザインをするときに心掛けていることはありますか?
浅沼:「Thinking(仮説) ⇄ Doing(検証)」と書いたのですが、デザイナーの立場としては「まずはつくってみよう」という姿勢を大切にしています。
頭でっかちにならないで、まずは手を動かしてみる。
花城:プロトタイプ思考にはすごく共感します。
僕もプロジェクトにおいては「Thinking」と「Doing」の往復を高速で繰り返すようにしています。
リサーチと並行しながら、得た気付きをもとにDay1からプロトタイプをつくっていくことで「Thinking」の深みが増していくんじゃないかと思ってます。
エンジニアとデザイナーでイテレーションしながらプロダクトを進化させていくことで理想の顧客体験に近づくはずなので。
社会的意義が大きいのにビジネスになりにくい分野に、デザインの力で取り組んでいく
花城:普段は、どんなインプットをされているんですか?
浅沼:今回まとめてみて、コロナ禍でうまくインプットできていないなと改めて気付かされたのですが、個人的に心に残るインプットの手段は、人、本、実体験の3つくらいです。
やっぱり人と会って話した内容は、自分が行動するときに影響しますよね。
デザイナー同士でコミュニケーションするときも、そのときのトレンドを踏まえようとすると、やっぱり「話す」が一番早いんですよね。
花城:本だと、どうしても半年から1年くらい情報が遅いと感じることもありますよね。
その点、現場で活躍するデザイナーの生の声や意見は貴重ですよね。
浅沼:「本」は、体系化されているので学びやすいですよね。
デザインでも業界が変わると、かなり勉強しないといけないです。
一般的な業界のルールや、ビジネスの成り立ちのようなところを新たに学ばないといけない。
プロジェクトによってはビジネスコンサルティング会社が出しているようなレポートを3年分くらい読むこともあります。
花城:それから、実体験ですね。
浅沼:はい、自分の中に残るという意味で、実体験は影響力が大きいですよね。
最近って、物の売買がかんたんになりましたよね。気になったガジェットは一旦買って使ってみる。それで、ダメだったら数ヶ月で売っちゃうというやり方をしています。
花城:これから挑戦していきたいことは何かありますか?
浅沼:ここ数年は、デザインでどのように社会に貢献できるかについて考えています。
企業のなかで新規事業のデザインを行ってきましたが、企業にいるとそもそも取り組むのが難しい領域があることが分かってきました。
その一つが、社会課題の解決といわれる領域です。この図は、書籍『ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す(山口周著)』からの引用です。
出典:『ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す』山口周・プレジデント社
浅沼:横軸が「問題の普遍性」で、縦軸が「問題の難易度」です。
問題の普遍性が高いということは、解決するとスケールしやすいので、収益性が高くなりやすいですよね。
一方で、普遍性が低いということは個別対応になりでスケールしにくいので、収益性を上げるのが難しくなります。
そして縦軸は、問題が難しければ難しいほど必要な投資額が大きくなる。現在の資本主義活動のなかでは、必然的に「経済合理性限界曲線」という線の内側しか解決できなくなる傾向にあります。
企業活動においては、問題の普遍性が大きくて、難易度が比較的低いもの、図でいうと右下の部分はスイートスポットで、みんながやりたがる事業領域ですよね。
一方で、比較的少人数しか困っていなくて、解決するために多くの投資が必要な左上の部分は、現在の資本主義の考え方でいうと「儲からない」領域でなかなか手がつけられないんですよね。
でも、ここを本当に切り捨てていいのかというのは最近考えています。
花城:なるほど。「問題の難易度が高いけど、収益性が低い」領域で何か具体例はありますか?
浅沼:例えば、高齢者福祉や児童教育の世界ですよね。
個別性が高いのでみんなに同じものを渡してもなかなか解決できないけど、カスタマイズしようとすればお金がかかるので、本当はすぐにでも着手したほうがいいのに放置されがちなんです。
それから「難病」とか「地域の過疎化問題」などは、社会的意義が大きいのに、ビジネスにはなりにくい。
こういう領域での課題を解決できるような活動に携われるといいなと、最近は考えています。
花城:BCGDVでも、SDGsや企業の環境への取り組みをイノベーティブにサポートしていく”Green Ventures” という取り組みを始めました。社会課題に向けた動きは今後も加速していきそうです。
それでいうと、行政への取り組みも浅沼さんの中ではデザインで挑戦していきたい領域ということですね。。
浅沼:そうですね。
行政や社会課題解決の分野においてデザインで貢献するというのは、チャレンジングでありながらもやり甲斐があるデザイン領域だと思っています。
花城:今回、浅沼さんとお話してデザイナーのキャリアとしてCDOやCXOへの道があることや、まずは「カルチャー」に取り組むことへの重要性を伺うことができました。
デザイナーだからこそ部門を横断したり、カルチャーの基点づくりになっていけるのだと改めて思いました。
そして行政を含め、まだまだデザインの手が届いていない領域でのチャレンジで社会に貢献していく姿を感じることができたので、今後のご活躍も期待しています。
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Akiko Tanaka
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