「首相秘書官」「首相補佐官」どう違う? “影の総理”評の大物も (2018/5/11(金) 14:20配信)https://news.yahoo.co.jp/articles/5cb82682457d2dbdd8b0bce97c39c7fc898e988b?page=1
『日本の行政トップは内閣総理大臣(首相)ですが、時に“影の総理”や“総理の懐刀”と呼ばれる人たちがいます。中曽根康弘内閣時代の後藤田正晴官房長官や小泉純一郎内閣での飯島勲首相秘書官らがその人です。
【写真】ニュースでよく聞く「政府」ってそもそも何?
いま国会を揺るがしている森友学園や加計学園をめぐる問題でも「首相秘書官」「首相補佐官」が注目されています。国会質疑の中で、今井尚哉(たかや)首相秘書官や和泉洋人首相補佐官、最近では元首相秘書官の柳瀬唯夫氏がニュースで取り沙汰されています。
首相を支える官邸スタッフにはさまざまな役割の人たちがいます。それぞれどんな権限があって、どんな仕事をしているのでしょうか。
◇
東京都千代田区永田町2丁目。国会議事堂の南西側、東京メトロ溜池山王駅のすぐそばにあり、外堀通りからよく見えるガラス張りの大きな建物が総理大臣官邸(首相官邸)です。
普段から厳重な警備がされている首相官邸は、首相が仕事をする上での拠点になっており、「内閣官房」という首相を支えるチームも仕事をしています(内閣官房自体は内閣府庁舎と官邸に置かれています)。つまり官邸は、日本の行政府が入っている建物で、行政府の象徴と言ってもいいでしょう。
●内閣官房と内閣府
よく似た名称の組織なので、混同されることが多いのが「内閣官房」と「内閣府」です。ともに首相主導の政治、内閣機能の強化の実現のために誕生し、組織改編されました。
内閣府は、2001年に総理府・沖縄開発庁、経済企画庁が統合して生まれました。内閣の重要な政策ごとに内閣官房を支えます。首相を補佐するというよりは、大臣で構成される内閣全体を支えるといった色合いが強いと言えるかもしれません。
これに対して内閣官房は、総合的な戦略を立案して、首相自身の政治的な決断やリーダーシップを助ける役割を担う組織です。トップはもちろん内閣官房長官です。
内閣官房は首相のブレーン的な役割、内閣府はその内閣官房の補佐と調整をする部署と考えるとイメージがしやすいかもしれません。今回は、主にこの内閣官房とその中の役職について見ていきます。』
『●首相秘書官
[図]首相を支える主な役職
首相秘書官は内閣官房の一員で、正式には「内閣総理大臣秘書官」といいます。その名の通り、首相に影のように寄り添って、各種の事務を取り扱い、首相の指示で政府の各部署や与党、各省庁などとの調整に当たる大事な役職です。
首相秘書官の存在は内閣法第20条で決められ、定数を7人とする国家公務員です(将来的には定数は5人になる見込み)。その内訳は、政務担当秘書官1名、事務担当秘書官6名の計7名で構成されています(あくまで慣例)。
政務担当秘書官は、一般的に「首席秘書官」と呼ばれることもあります。首相に永年連れ添ってきた国会議員秘書が就くことが多く(近年は官僚からの登用もみられる)、首相秘書官の取りまとめ役としての色合いが強くなっています。大臣である副総理や官房長官を除けば、ある意味、首相に最も近いポジションとも言えます。
森友学園などをめぐる一連の問題で、キーパーソンとして取り沙汰される今井尚哉氏は、現在、安倍晋三首相の首席秘書官であり、まさにこの役職に就いているということになります。今井氏は経済産業省出身で、第一次安倍内閣では事務担当秘書官を務め、その際に安倍首相と確固たる信頼関係を築いたといわれています。
加計学園の問題で名前が挙がっている柳瀬唯夫氏(現経済産業審議官)は、第二次安倍内閣で2012年12月に事務担当の首相秘書官に任命されました(2015年8月に退任)。
首相秘書官は、具体的にどのような業務を担当しているのでしょうか。柳瀬氏は10日の国会での参考人招致の中で、こう答えています。「首相が所掌する政策分野は広い。私(の担当)はイノベーション、成長戦略、TPP、地球環境問題、エネルギー、規制改革など多岐にわたる。それぞれごとに現状や課題について担当の部署などから話を聞き、必要なことは首相に相談し報告する」
2013年11月に女性初の首相秘書官に就任した山田真貴子氏(2015年7月に退任)も首相官邸のホームページで「情報通信政策、女性登用政策、地域活性化策などを担当するとともに、広報担当として総理官邸の情報発信、記者対応等を担っています」と説明しています。
ちなみに政務担当である首席秘書官には、今井氏のように首相からの信頼が厚い人物が任命されることが多く、その意味で、首相に強い影響力を持つと評されることがあります。歴代の秘書官の中では、小泉内閣における飯島勲氏(メディア戦略に長け、政務担当秘書官として官邸を束ねる)の当時の政権内での影響力の大きさはよく語られるところです。
これに対して事務担当秘書官は、基本的に財務省、外務省、警察庁、防衛省、経済産業省から1人ずつ内閣官房に出向する形で役割を担います。出向してくる秘書官は、出身省庁の課長級や局次長級、あるいは審議官級というエリートで、将来の事務次官候補と目されるケースが多いのが特徴です。』
『●首相補佐官
首相秘書官とよく似た名前の役職として「内閣総理大臣補佐官(首相補佐官)」があります。秘書官と同じく、内閣官房の一員です。基本的には、与党の国会議員がその職に就きます。内閣法第19条に規定されていて、特定の政策の企画や立案に当たる仕事です。定数は5人です。首相補佐官は、首相直属のスタッフとしての色合いが強く、時の政権が取り組む重要な政策や外交防衛問題など高度に専門性の高い政策の立案にも携わります。
首相秘書官と首相補佐官。どちらの権限が大きいかは、なかなか難しいところです。補佐官が特定の政策立案のスタッフだとすれば、秘書官は省庁間の調整を含めたかなり広範な実務を担っている、まさに首相の秘書としての役割ということができるでしょう。したがって実質的な首相への影響力は首相秘書官の方が大きいと見る人もいます。しかしこれも、首相と秘書官、補佐官の関係性や、国会議員であるか官僚出身か、政治家としてのそれまでのキャリアや人柄などによって変わってくるものでもあります。
●官房長官
内閣官房長官は、内閣官房の長です。国会議員から選ばれ、閣僚の一員でもあります。「首相の女房役」と呼ばれることもあり、内閣官房の事務全般を取り仕切る役職です。組閣の際、最初に任命される点からも、その重要性が分かります。過去には、中曽根内閣での後藤田正晴氏、橋本龍太郎内閣の梶山静六氏、小渕恵三内閣の野中広務氏らのように“影の総理”と称される大物もいました。
主な役割としては、内閣のさまざまな案件について、行政の各部署、国会各会派(特に与党)との調整役のほか、内閣の取り扱う重要な事柄や、政府としての公式見解などを発表する「政府報道官」(スポークスマン)としての役割があります。第二次安倍内閣以降は、菅義偉(すが・よしひで)衆院議員がその職に就いています。官房長官経験者が後に首相になるケースも多くあります(鈴木善幸内閣の宮沢喜一氏、竹下登内閣での小渕恵三氏、小泉内閣での福田康夫氏ら)。
官房長官を補佐する役割としては、内閣官房副長官がいます。特別職国家公務員で、定数は3人です。慣例によって、政策担当として衆院議員と参院議員で2人、事務担当として事務次官経験者などのキャリア官僚から1人が任命されます。』
『●省庁の官房
実は内閣だけではなく、各省庁にも「官房」と呼ばれる役職があります。省や府、庁、行政委員会と会計検査院に置かれる部局の一つで、各組織の内部管理と行政事務の総合調整を行います。各省庁内の各所と調整を行う役割と考えると分かりやすいでしょう。基本的にキャリア官僚がその職に就きます。 機能強化と首相官邸
今回、解説している各役職は「首相官邸機能の強化」あるいは「内閣機能の強化」の流れで設置され、その役割が見直されてきた経緯があります。
官邸機能の強化は、アメリカ大統領府の大統領補佐官制度や、イギリス型の議院内閣制などを手本にされているといわれています。
そもそも首相官邸では、従来は財務省や総務省、外務省といった中央官庁の役人の力が強かったため、その状況を改めるべく、国民が選挙で選んだ国会議員から選出される首相を筆頭とした官邸機能を強化することを目指しました。また、首相が任命する大臣の集まり、つまり内閣の力を強めて、政治家主導でさまざまな政策を決定し、実行していく狙いがあります。
こうした方向性が生まれたきっかけは、1995年の阪神大震災で政府の初動対応が遅れたという苦い経験にあります。当時、首相官邸のスタッフは、内閣官房長官、官房副長官を除くと全てが官僚でした。日本の官僚機構は優秀ですが、さまざまな局面で必ずしも即座に判断を下せる組織ではありません。急な事態、不測の事態に機敏に対応するのは、組織の構造や法的な位置づけからして難しいのです。
特に大災害やテロ、他国からの侵略行為などの非常事態には政治家による政治判断を次々に出していく必要があります。そうした政治家の判断、首相の判断を下しやすいようにする、そうした環境を整備したのが官邸機能の強化です。
※ ※
首相の公式な事務所である首相官邸、そして内閣官房を中心に、さまざまな役割の人たちがチームを組んで、首相を支えています。政治家や政治家の秘書、中央官庁の官僚らがブレーン役、調整役として役割を担っています。こうした視点をもとに国会や政治をとりまくニュースを見ると、より分かりやすくなるでしょう。
■戸桝茂哉(とます・しげや) ライター、時事アナリスト。神奈川大学卒業。衆院議員秘書として活動後、IT企業に就職。地方創生とメディア運営の知見を生かした講演活動や独自視点を交えた政治経済予測を行う 』