雇用保険料引き上げ、22年度にも

雇用保険料引き上げ、22年度にも 雇調金増大で財源不足
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA216MN0R20C21A7000000/

 ※ 『雇用保険は仕事を失った人が生活に困らないようにする失業者など向けと、雇用安定・能力開発の2つの事業に大別される。企業などからの保険料収入を財源にし、好景気の際の積立金も使って給付する仕組みだ。

ただ、コロナを受けて雇用安定の事業の一部である雇調金の給付が急増した。企業が労働者に支払う休業手当を助成するもので、コロナを受けて支給要件緩和や助成拡充の特例を設けた。2020年3月以降の支給決定額は4兆円超になった。』

 まあ、そうやって、人々が「首になって、生活が困窮する」のを、防止したわけだ…。
※ 『ただ、コロナを受けて雇用安定の事業の一部である雇調金の給付が急増した。企業が労働者に支払う休業手当を助成するもので、コロナを受けて支給要件緩和や助成拡充の特例を設けた。2020年3月以降の支給決定額は4兆円超になった。

財源が不足し国の一般会計から約1兆1千億円を繰り入れ、失業者向け事業の積立金からも約1兆7千億円を借りた。この積立金はコロナ前の19年度に約4兆5千億円あったが21年度に約1700億円に減る見通しだ』

 と言うことで、本来の制度だけでは足りず、『国の一般会計から約1兆1千億円を繰り入れ、失業者向け事業の積立金からも約1兆7千億円を借りた。』と言うことだ…。
 前にも語ったが、「一般会計」で「国の予算を使う」と言うことは、「他者の拠出した税金」をも使うということだ…。
 世の中、「他人に雇用されている人」ばかりじゃない…。自分で事業やっている人、農林水産業やっている人なんかが、あまたいる…。そういう人々と、「他人に雇用されている人」の利害は、鋭く対立する…。

 ※ 『企業が負担する雇用安定・能力開発の料率は現在は賃金総額の0.3%。本来の0.35%を目安に上げる。』
 と言うことで、「厚生年金」の制度もそうだが、「雇用されている人」が絡む場合、「雇用している人≒企業(株式会社なんかの法人)」の場合が多いので、「費用」は被用者と企業で折半…、という制度設計にしていることが多い…。
 なので、企業側の「料率を引き上げる」と、それだけ企業の「利益は減る」から、「研究開発費」や、「設備投資」「経営陣に支払う報酬」「株主への配当」なんかも、それだけ「減額」への圧力となる…。
 ここでも、利害が鋭く対立する…。

 ※ 『失業者向け事業の料率は労使折半で本来1.2%だが、現在は0.6%にしている。保険料収入は0.1%の引き上げで年2千億円増え、1.2%の場合の労使の負担は1兆円規模で増す。月収30万円の人だと保険料は900円から1800円に増える計算になる。』
 「失業者向け事業」とは、「失業中の人」に対して、「パソコン使えるように、セミナーやったり、講習に参加させたりする」と言った類いの事業のことだろう…。
 そういう「事業」も、「労使折半」で「財源を積み立てておいて」、実施してたわけだ…。

 ※ 『雇用保険の対象にならないフリーランスの働き手の経済危機時の対応をどうするかなど、日本社会で働き方が変わる中、雇用のセーフティーネットを巡る課題は多い。

財源を巡っても、雇用安定・能力開発の財源は企業のみが負担しており、経団連などは国の一般会計の負担拡充を求めてきた。英国やドイツは失業給付を労使の保険料収入でまかなう。欧州では雇用支援の多くを国費で支える国もある。

日本政府も国費投入などで21年度は雇調金で約1兆2千億円分を確保するが、4月からの約4カ月で支給額は8千億円を超えた。この規模の支出が続くと21年度末までの財源が足りず、緊急措置として一般会計からの追加投入を視野に入れる。』
 と言うことで、日本の「雇用構造」自体が、「正社員」中心の安定的・固定的なものから、流動化・複線化しつつある状況で、どういう「制度設計」にしていくのか、課題は山積…、ということだ…。

 この問題は、「どうやって、そういう流動的な・複線的な収入を、(国側が)捕捉して行くのか」という問題でもある…。

 マイナンバー、マイナカードなんてものも、そういう問題に繋がってくる…。

『厚生労働省は雇用保険の保険料率を引き上げる検討に入る。新型コロナウイルス感染拡大で雇用調整助成金の給付が増え、財源が逼迫しているためだ。国費投入のほか、企業や働く人の負担も増える。フリーランスの働き手の拡大など、働き方が多様化する中で財源の確保策とともに、雇用の安全網をどういう中身にしていくかも課題となっている。

雇用保険は仕事を失った人が生活に困らないようにする失業者など向けと、雇用安定・能力開発の2つの事業に大別される。企業などからの保険料収入を財源にし、好景気の際の積立金も使って給付する仕組みだ。

ただ、コロナを受けて雇用安定の事業の一部である雇調金の給付が急増した。企業が労働者に支払う休業手当を助成するもので、コロナを受けて支給要件緩和や助成拡充の特例を設けた。2020年3月以降の支給決定額は4兆円超になった。

財源が不足し国の一般会計から約1兆1千億円を繰り入れ、失業者向け事業の積立金からも約1兆7千億円を借りた。この積立金はコロナ前の19年度に約4兆5千億円あったが21年度に約1700億円に減る見通しだ。

積立金に余裕があったため16年度以降、保険料率を下げているが、健全化に向けて22年度にも引き上げる。企業が負担する雇用安定・能力開発の料率は現在は賃金総額の0.3%。本来の0.35%を目安に上げる。ワクチン接種でコロナが落ち着けば年間給付を賄える可能性があるという。

失業者向け事業の料率は労使折半で本来1.2%だが、現在は0.6%にしている。保険料収入は0.1%の引き上げで年2千億円増え、1.2%の場合の労使の負担は1兆円規模で増す。月収30万円の人だと保険料は900円から1800円に増える計算になる。

上げ幅は給付の対象者数や経済状況を勘案して決める。負担増になるだけに雇用保険全体の役割の見直しも課題となる。

コロナ下で雇調金は雇用維持に一定の効果が出ているが、休業手当を補う内容のため、人手があまる業界に働き手がとどまりかねない。長引けば労働市場の調整機能がゆがむ面もある。人手が必要な成長分野への移動が起きるよう学び直しの機会を増やす必要がある。
雇用保険の対象にならないフリーランスの働き手の経済危機時の対応をどうするかなど、日本社会で働き方が変わる中、雇用のセーフティーネットを巡る課題は多い。

財源を巡っても、雇用安定・能力開発の財源は企業のみが負担しており、経団連などは国の一般会計の負担拡充を求めてきた。英国やドイツは失業給付を労使の保険料収入でまかなう。欧州では雇用支援の多くを国費で支える国もある。

日本政府も国費投入などで21年度は雇調金で約1兆2千億円分を確保するが、4月からの約4カ月で支給額は8千億円を超えた。この規模の支出が続くと21年度末までの財源が足りず、緊急措置として一般会計からの追加投入を視野に入れる。

料率見直しは労使代表者と有識者らでつくる労働政策審議会(厚労相の諮問機関)で秋にも具体的な議論に着手する。22年の通常国会にも雇用保険法改正案を提出する。

【関連記事】
・雇用調整助成金とは コロナ下、支給決定4兆円超
・雇調金支出4兆円超える 21年度は4カ月分で8000億円
・雇調金特例、年末まで延長 最低賃金上げで企業負担軽減 』

コロナ禍で学ばなくなった

コロナ禍で学ばなくなった テレワークの意外な副作用
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC1373K0T10C21A7000000/

 ※ 別に「コロナ禍」のせいでは、無いだろう…。

 ※ 「学問する」「学ぶ」ということの本質は、「独学」だと思っている…。

 ※ そういうことを「実現できる能力」が無いことが、「露わになった」だけの話しだろう…。

 ※ 未だに、「対面で」「他人に、分からないことを「どうすればいいですか」とすぐ質問すること」が学びの重要な要素だと考えていることの方が、驚きだ…。

 ※ 世の中に、知りたいことが何でも書いてある「虎の巻」「教科書」、なんてものは無い…。

 ※ 分からないことを「質問すれば」、親切に教えてくれる「賢者」、なんてものは存在しない…。

 ※ 「分からないこと」「知りたいこと」は、自分で一つ一つ、コツコツ調べて、「この世の真実」に一歩づつ近づいて行くんだ…。

『新型コロナウイルスの感染拡大によりテレワークは広がったが、日本人の学ぶ時間は減っている――。こんな実態が7月5日、明らかになった。リクルートワークス研究所が2016年1月から毎年実施する「全国就業実態パネル調査(JPSED)」で分かった。

同研究所は同調査で全国15歳以上の男女約5万人を対象に、調査前年1年間の個人の就業状態や所得、仕事の状態などについて、同一の個人を追跡調査している。加えて、同研究所同調査を基に「Works Index」という加工統計を作成している。

Works Indexは「就業の安定」「生計の自立」「ワークライフバランス」「学習・訓練」「ディーセントワーク」の5項目で数値を算出し、合成したものだ。ディーセントワークとは仕事量や負荷が適切で、差別やハラスメントのない職場であるといった健全性が保たれていることを意味する。
働き方、総合的には前進したが…

17年1月のJPSEDに基づく「Works Index 2016」から21年1月のJPSEDに基づく「Works Index 2020」まで、5年間の変遷をたどると「『学習・訓練』を除く4つの指標で水準が上昇し、総合的にみると、日本の労働者の働き方は前進したといえる」(リクルートワークス研究所の孫亜文研究員・アナリスト)。

背景について孫研究員は「新型コロナ感染拡大以外にも、政府や企業が働き方改革に本格的に取り組んできたことや、セクハラ撲滅を掲げる#MeToo運動などの影響が大きい」と分析する。
「学習・訓練」は2年連続で上昇していたが、2020年に低下した(出所:リクルートワークス研究所)

「学習・訓練」は17年に31.3ポイントだったが、18年に32.5ポイント、19年に33.1ポイントと2年連続で上昇した。しかし20年には17年水準を下回る31.0ポイントまで下がった。

20年は、働き方改革により労働時間の短縮や休暇取得の増加が進んでいたことに加え、新型コロナ感染拡大により一部業種で休業や短時間勤務が求められて労働時間はさらに短くなった。

JPSEDではコロナ禍でテレワークが幅広い業種や職種で進んだことも明らかになっており、通勤にかけていた時間が浮いた人も少なくない。にもかかわらず、学習・訓練が20年に低下したのはなぜか。

学習・訓練の指標を細かく分析すると、20年はOJT(職場内訓練)の機会が19年と比べて1.9ポイント低下していた。OJTの種類には「(上司による)計画的な指導」「必要に応じた指導」など複数あるが、その中でも「(上司や先輩などから指導を受けてはいないが、他の人の仕事ぶりを)観察する(ことで新しい知識や技術を身に付ける)」の減り方が最も大きかった。
20年はOJTの中でも「他の人の仕事ぶりを観察する」が減った(出所:リクルートワークス研究所)

また調査ではコロナ禍で対面研修が延期されたり中止になったりしたためでOff-JT(職場外訓練)の機会も大きく減ったことが分かった。

コロナ禍にテレワークが広がり、オフィスへの出勤が制限されたことで、OJTの在り方は変化した。学ぶ側は周りにいる人を観察したり、分からないことを「どうすればいいですか」とすぐ質問して学んだりすることが難しくなり、教える側も相手の表情などを見て内容やレベルを調整しながら指導することがしにくくなった。

新たなOJTをどう進めればいいのか。孫研究員は「今後は上司が仕事の進捗などについてより積極的に部下に尋ね、相談しやすい環境をつくることが求められる。テレワークによって企業が提供する学びの在り方だけではなく、マネジメントの在り方も変わる」とする。

「自ら学んでいる」も減少

学習・訓練の指標のうち「自ら学んでいる(自己啓発)」も19年の27.0ポイントから20年には26.1ポイントまで減った。この背景として、孫研究員は2つの回答の関連性に注目しているという。具体的には、「仕事の難易度が下がった」という回答が増えていることと、「単調ではなく、様々な仕事を担当した」が減っていることとの関連性だ。
20年は「仕事の難易度が下がった」という回答が増え、「単調ではなく様々な仕事を担当した」という回答が減った(出所:リクルートワークス研究所)

この2つの回答からは、テレワークに移行しても従来と同じように業務を進める必要があったため、通常よりも業務の幅を狭めるケースが多かった可能性があるという。

オフィスに出勤しないために雑談や偶発的な出会いが減り、新しいアイデアや新しいプロジェクトなどが生まれにくくなっていることも、仕事が単調になっていると感じる人が増えた一因に考えられる。

18年にリクルートワークス研究所が実施した調査分析によると、自己学習をする労働者は全体の33.1%。7割程度の人が仕事のために自分の意志で学んでおらず、学ばない人の半数は「学ばないことに理由はない」という結果だった。

さらに同調査では、時間ができたからといって学ぶようになるわけではないことや、自発的に学ぶようになるには企業が学ぶ機会を提供するとともに、個人にとって難易度の高い仕事を担当させることが欠かせないことも分かった。

社会全体の人的資本を高めるためには、個人の自発的な学びを定着させる仕掛けが欠かせない。そのためには「企業は難易度の高い仕事を提供し、学ぶ意欲をかきたてることが必要。加えて、学んだことを役立てられる場を設けて評価し、継続的に学ぶ意識や習慣を身に付けてもらうことが大切だ」と孫研究員は語る。

テレワークが新常態となりつつある今、学びに関するこうした課題を克服し、学びを継続するための新たな仕組みづくりが求められる。

(日経クロステック/日経コンピュータ 外薗祐理子)

[日経クロステック2021年7月12日付の記事を再構成]

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多様な観点からニュースを考える

※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

村上臣のアバター
村上臣
リンクトイン日本代表
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分析・考察

テレワークの副作用として、業務の幅を狭めるケースが多かったこと、仕事が単調になっていること、そしてOJTの機会が減っていることなどから学びの機会が減ったというのは興味深いです。難易度の高い仕事にチャレンジすることが学ぶ意欲をかきたてることに繋がるとのことですが、テレワークでどう実現するかはまだまだ課題がありそうです。
一方でe-learningによる自主的な学習は増加しています。LinkedInの提供するLinkedInラーニングの利用は、コロナ前後の比較で3倍弱の視聴時間となっており、テレワークで空いた時間を有効活用している様がデータでも見て取れます。
2021年7月27日 11:43

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武田佳奈
野村総合研究所未来創発センター 上級コンサルタント
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別の視点

記事にあるリクルートワークス研究所の調査で分かったという「時間ができたからといって学ぶようになるわけではない」という結果に注目したい。以前、週休3日制の記事に対し、週休3日制導入目的の一つとして学び直しによる人材力の底上げが挙げられているが、時間を付与するだけのインセンティブでは限界があるのではないかと指摘した。もともと能力向上意欲の高い人は現状でも研さんに取り組んでいる人が少なくなく、そこまでではないが関心はある人や関心がない人にも行動を起こさせられるかが課題になる。コロナを機とした働き方の変化が全てを解決するわけではないことも忘れてはいけないと思う。
2021年7月27日 15:10
細谷雄一のアバター
細谷雄一
慶應義塾大学法学部 教授
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分析・考察

こういった記事は有り難いです。なんとなく、そうなのかな、と思いながらも自分ではそれを調べたり確認する機会がないので、こちらの記事を読みあらためて、学習時間の低下という現実を直視しています。自分にもあてはまるかもしれません。やはり、以前から言われている、雑談などが仕事の効率を上げるという指摘が的確なことの証左かもしれません。「オフィスに出勤しないために雑談や偶発的な出会いが減り、新しいアイデアや新しいプロジェクトなどが生まれにくくなっていることも、仕事が単調になっていると感じる人が増えた一因に考えられる。」ポストコロナに向けての、重要な示唆が含まれているように感じました。
2021年7月27日 12:32

大湾秀雄のアバター
大湾秀雄
早稲田大学 教授
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ひとこと解説

これまでは、新入社員の教育訓練機会が減っていることが長期的にこの年次の稼得能力にどのような影響を与えるかという点に関心を持っていましたが、より広い年次でOffJTのみならず自己研鑽も減っているというのは、深刻な問題であると捉えるべきです。2つの問題があります。まず、在宅勤務でより権限移譲を進め自律的な働き方を広げる必要があるにも拘わらず、それが進んでいないという点です。2つ目に、自律的なキャリア形成機会を与え、本人が自律的に必要な知識や技能を身につけることが求められてきているのに、そのサポートや意識改革が進んでいないという点です。現状の会社主導の人材育成の行き詰まりを示すデータだと思います。
2021年7月27日 11:59

鈴木一人のアバター
鈴木一人
東京大学 公共政策大学院 教授
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分析・考察

なかなか興味深い統計資料。人が学ぶという過程に人との接触や対話があり、それはオンラインではなかなか実現しないものというのがここからも明らかになる。大学が対面授業なしに教育をきちんと続けられるかという問いにもつながる問題。
2021年7月27日 10:58

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根回しはひきょうじゃない 部長の反撃は先にくらえ

根回しはひきょうじゃない 部長の反撃は先にくらえ
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOKC236X50T20C21A6000000/

『ベストセラー「入社1年目の教科書」の著者、岩瀬大輔さんに聞く「部長の倒し方」。3回目のテーマは、会議で部長の壁を越えるための根回しです。
企画立案を進めるにあたって、越えなければいけないのが部長の壁です。

「成功例」を先に押さえよう

企画書の作成に悩んでいる方にオススメしたいのは、先輩や上司から過去の企画書を見せてもらうことです。厳しい審査を通過する企画書とはどんな構成で作られているのか、自分の企画書とは何が違うのかを洗い出します。先に企画書の「成功例」を押さえてしまうわけです。

いくつもの企画書に目を通す中で、部長がどんな目線で企画を判断しているかも次第に理解できるようになります。

若手コンサルタントだった頃、ある大手電機メーカーに提案書を持参した時のことです。応対した役員が資料にほとんど目を通さないまま「つまらん提案をするんじゃない!」と怒り始めました。当時は理不尽に感じましたが、今振り返れば、あの役員は他のコンサルから同じような提案書をたくさん持ち込まれていたのでしょう。

私は企画書を作成するときは必ず、持ち込む相手の経歴や実績を調べ、どういう話題なら興味を持ってくれるか、どういう道筋で話を進めるかを考えるようにしています。相手の立場になって物事を見る、どんな優先順位で判断を下すかを考える想像力はビジネスでは非常に重要な能力です。

根回しで得られる6つの効果

企画内容を議論する会議では、先に「正解」を用意する方法もあります。いわゆる、部長への「根回し」です。根回しの語感は決して良くありませんが、ミーティングを円滑に進めるための重要なステップととらえてください。

根回しの効果は6つあります。
①前提情報の共有
②論点の洗い出し
③初歩的な質問に対する回答
④思考の整理
⑤合意形成
⑥対処可能な反論をつぶせる

 ーーです。

具体的には、会議で使用する資料をあらかじめ部長に見せて意見を求めたり、企画の懸念点を聞いたりします。話をするときには、質問事項を書き留めたメモを見せながらが効果的です。聞き逃しを防げますし、しっかり準備をしていることも印象づけられます。

会議本番は、事前の根回しで部長から指摘してもらった反対意見や不安材料についての回答を準備して会議に臨みましょう。その場で企画の弱点を突かれて慌てるよりも、あなたの説得力は高まり、話し合いが行き詰まることなく、議論を次のステップに進めることができます。

とはいえ、根回しがひきょうに感じられる人もいるかもしれません。その場合は、会議本番で「事前の説明でいただいた指摘」として、参加者全員に見せてしまうのはどうでしょうか。根回しの内容をオープンにすれば、後ろめたさもなくなります。

予習・本番・復習は等分に

私は仕事の予習、本番、復習には3:3:3の法則があると考えています。予習、本番、復習にかけるべき労力は等分ということです。つい、「1:9:0」や「0:10:0」にしていないでしょうか。根回しとは、この予習にあたる必須作業なのです。

会議本番についても話しておきます。入社1年目のみなさんは何らかの方法で会議に貢献することを考えてください。コピー取りでも、資料配りでも構いません。あなたが会議に参加する資格を確保する必要があります。

国際イベントで講演する岩瀬さん

そして、必ず何か発言すること。トンチンカンな発言でも良いのです。部長は新人のあなたに成果を期待していません。しかし、入社したばかりのあなたの見方が部長たちには新鮮で、議論に新しいアプローチを提供できるかもしれません。本社からは見えにくいリアルな現場情報や顧客の生の声も喜ばれます。

議事録づくりは学びの宝庫

会議の書記役、つまり議事録取りも新人の重要な役割です。頼まれなくても、率先してやりましょう。議事録は意思決定のプロセスにおいて非常に重要であり、役所では議事録が「命」と言えるほどの存在感を持ちます。

議事録作成は簡単な作業ではありません。勘違いしている会社も多いのですが、議事録は会話を一言一句、書き取る必要はなく、議論の大きな流れを意識して、要点や決定事項だけを簡潔に記します。最初は大変ですが、議事録取りを続けるうちに議論のポイントを押さえたり、発言の要旨をくみ取ったりする力が養われます。

作成した議事録は24時間以内に参加者全員で共有します。そして、決定事項を改めて確認し、参加者の認識を擦り合わせます。また、議事録の体裁や内容には先輩や上司から様々な指摘があるでしょう。これこそ学びの宝庫。復習に最適です。

次回は最終回、部長に惚(ほ)れてしまう方法をお伝えします。 』

50点で構わない、今すぐ部長に突撃だ 迷宮脱出への近道

50点で構わない、今すぐ部長に突撃だ 迷宮脱出への近道
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOKC236V70T20C21A6000000/

『ベストセラー「入社1年目の教科書」の著者、岩瀬大輔さんに聞く「部長の倒し方」。2回目のテーマは、部長の信頼を得る仕事の3原則です。
前回、入社1年目の仕事ぶりで社会人のキャリアが決まるというお話をしました。最初の仕事をきっちりやり遂げれば、働く上で重要な「信頼」を手に入れられます。信頼があれば、多くの仕事が割り振られ、成長するチャンスを得られます。

それでは、部長から信頼されるためにはどう働けばいいのでしょうか。まずは、3つの原則を心がけてください。

①頼まれごとは必ずやりきる

②50点で構わない。早く出せ

③つまらない仕事などない

いずれも、入社1年目でしっかり身につけたい基本中の基本です。1つずつ説明します。

まず、「頼まれごとは必ずやりきる」。これが、部長から信頼を勝ち取る近道です。部下を持つと痛感しますが、頼まれごとをやりきれない部下に仕事は任せられません。

部長はささいな指示でも覚えている
「あの仕事どうなった?」と催促されるのもよくありません。また、催促されないから大丈夫と高をくくってはダメです。上司はささいな事柄でも指示した仕事を覚えています。
頼まれたことをやるなんて当たり前だと思われるかもしれませんが、できない人が意外に多い。優秀な人が集まっているはずのコンサルタント業界でも、頼まれたことをやりきれない新人が1~2割いるものです。

2つ目の「50点で構わない。早く出せ」。何日もかけて100点を目指すよりも、1日で50点に仕上げて上司の判断を仰ぐ方がゴールへの近道になります。中間地点で指示を仰げば、仕事の方向性を間違えることもないでしょう。

「嫌われないか」などと気にするな
前回も言いましたが、仕事は総力戦です。わからないこと、できないことは上司の力を借りればいいのです。ましてや、新入社員は何を聞いても良い特権を持っています。そして、的確なアドバイスをするのは上司の仕事です。

「部長に嫌われないか」などと気にする必要はありません。1秒でも早く、正しいアウトプットを出す。これが仕事の目的です。

最後は「つまらない仕事などない」。仕事とは本来、嫌なことや面倒なことの繰り返しです。それでも、すべての仕事は気の持ちようで楽しくできるもの。単調な作業でも、自分なりの工夫で作業効率を高めたり、新しい提案をしたりすればモチベーションが上がります。どこかに楽しい仕事が転がっていないかを探すよりも、目の前の仕事をどうすれば楽しめるかを考えましょう。

岩瀬さんは現在は香港を拠点に活動している

では、どうすれば自分なりの工夫ができるのでしょうか。重要なことは、部長から仕事を頼まれた時に必ず「納期」と「目的」を確認することです。「いつまでに必要ですか?」(納期)の一言で、仕事に優先順位をつけられます。「何のために必要ですか」(目的)の一言で、アウトプットの方向性が見えてきます。

小さな仕事は大きな仕事の一部
いきなりの質問が失礼で気が引ける人がいるかもしれません。その場合は、最初に「わかりました」と引き受ける意志を部長に示しましょう。その上で「部長、2点確認してもよろしいでしょうか」と続けるのです。

具体例を示しましょう。例えば、部長から資料のコピーを頼まれた時。高齢の役員に配るためとわかれば、文字が見えやすいように拡大しても良いでしょう。取引先に渡すためなら、カラーでコピーし、クリアファイルに挟んで手渡せば上司に喜ばれます。漫然とコピーを取るよりも、自分なりの工夫を凝らした方が仕事が楽しいと思いませんか?

上司からの頼まれ仕事は、いつも大きな仕事の一部。大きな仕事を細分化した一部分があなたに割り振られています。頼まれた仕事の背景にある大きな仕事を知り、意識しながら働く心がけが、正しいアウトプットにつながります。

次回は、会議で部長の壁を越えるための「根回し」についてお伝えします。』

キヤノン、工場従業員にDX教育 成長職種へ配置転換

キヤノン、工場従業員にDX教育 成長職種へ配置転換
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC079NS0X00C21A6000000/

『事業構造改革に向けて社員にデジタル関連などの再教育をする企業が増えてきた。キヤノンは工場従業員を含む1500人にクラウドや人工知能(AI)の研修を実施する。医療関連への配置転換などを通じ成長につなげる。三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)はグループ従業員5万人にデジタル教育を進める。デジタル技術の進化に対応した「リスキリング(学び直し)」に世界各国が取り組むなか、政策の後押しも課題になる。』

『キヤノンは就業時間を使い、半年程度の専門教育をする。プログラム言語やセキュリティーなど、デジタル知識のレベルごとに14系統の190講座を用意した。必要に応じ統計や解析、代数などの基礎知識も学べるようにして、幅広い人材の職種転換を後押しする。

講師は社内の技術者のほか、クラウド技術などは米マイクロソフトなど外部からも招く。
まず1500人を対象とする。2021年春の新卒採用数の4.6倍に相当する。』

『取り組みは既に一部で始めている。プリンター開発をしていた20代の社員は3月から新たに医療機器部門で働き始めた。コンピューター断層撮影装置(CT)など医療機器の検査精度を高めるため、機械学習と画像認識を組み合わせる商品開発をしており、先輩社員についてソフトウエア開発を担当している。』

『今後は生産職向けの研修も増やす。医療機器にクラウド技術を組み合わせ、遠隔地の専門医が脳卒中患者のCT画像を解析するといった「スマート医療」を進める人材などの育成を目指す。

主力だった事務機やデジタルカメラは市場が縮小している。医療機器などメディカル事業の売上高を2025年12月期に6000億円と5年で約4割増やすなど、事業の入れ替えを急ぎたい考えだ。御手洗冨士夫会長兼社長最高経営責任者(CEO)は「教育を通じて縮小部門から戦略部門に人材を振り向け、競争力を高めたい」と話す。』

『SMFGは三井住友銀行などの従業員5万人を対象に「デジタル変革プログラム」を始めた。eラーニングなどを通じ、デジタルツールの活用法や取引先のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援する手法などを身につけてもらう。

銀行は店舗を拠点にした対面サービスの見直しを迫られている。送金や決済はスマートフォンでも可能になり、企業向け融資ではクラウドファンディングなどの新手法も広がっているためだ。既存のノウハウだけでは競争力を維持できない。』

『電機や金融に限らず、AIやデジタル領域に代表される成長分野は慢性的な人材不足に陥っている。欧米では転職やキャリアアップのための再教育を政府が積極的に後押しする。

日本政府も支援を拡充しているが、まだ遅れており、企業は主体的に内部での再教育に踏み切る。ただ、中堅・中小企業にできることは限られる。講師の育成なども含め、学び直しを支援する公的な仕組みの拡充が必要だ。』

企業は倫理では動いていない。

企業は倫理では動いていない。 : 机上空間
http://blog.livedoor.jp/goldentail/archives/26354745.html

 ※ 現在の「名ばかり事業主」「IT利用高収益企業」の本質を、抉っていると思われる…。

 ※ 「システム」としては、この通りのものだとして、その中で「生きて行かざるを得ない個人」が、どう「生き延びて行く」のかが、問題だろう…。

 ※ 別に、オレに、「処方箋」があるわけのものじゃ無い…。

 ※ 「使い捨て」にされないように、ある程度の「余力を残して」おく…。

 ※ 情報収集を怠らず、その収集した情報を「解析」「整理・意味づけ」していく、「コアな思考体制」を自分の内部に培って行く…。

 ※ まあ、その程度の「常識的な」アドバイスしか、できんな…。

『はっきり言ってしまえば、昔の企業が倫理や道徳として責任を持っていたものを、コストとして切り捨て、実際に作業を行う作業者に、ちょっと色をつけた賃金を払って、全部押し付けたのが、いわゆる「IT企業」の本質だったりします。トータルでは、使い捨て労働で、リスクを削減して、企業にとって収益率が上がります。

これは、末端の労働者のみならず、中間管理職、もしくは役員でも同じです。業績を数値で出して、期待に合わなければ、首をすげ替える。あくまでも、雇用は期間で契約して、パーフォーマンス次第では、継続は保証しない。そういう、形式が一般化しつつあります。』

『今では信じられないでしょうが、昔の大企業では、子飼いの人材を育てる為に、必要に応じて、優秀と認めた社員に奨励金を出して、必要な教育を全面的にバックアップしていた時代がありました。それには、大学進学も含まれていました。学費の面倒を企業がみてくれたのです。つまり、仕事に責任を持てる能力を持った人材を確保する事が、その程度の投資でできるなら、安いものだと考えていたのです。

今は、そういう能力を持っている人間を連れてきて、首をすげ替えるのが主流になりつつあります。仕事は稼ぐ手段であり、コストに当たるものは、徹底して切り捨てるのが、優秀な経営者という事になります。法律に触れなければ、倫理的にもギリギリを攻めていいというのが、常識になっています。』

『そんな中で高みを目指すのは、誰にとっても苦しいのですが、アップアップをした途端に蟻地獄の底へ転がり落ちるので、アメリカのホワイトカラーは、巨大なピルケースに、何種類もの抗精神病薬を入れて、服用していたりします。薬で体をいじるのに、抵抗が少ない社会なんですね。なので、体の見た目を作る為の筋力増強剤なんかも、大人気です。

医療の発達で寿命が伸びてますが、いずれ寿命は短くなるんじゃないかと考えています。』

地銀、深刻なIT統治不全 ベンダー頼みのツケ重く

地銀、深刻なIT統治不全 ベンダー頼みのツケ重く
金融PLUS 金融グループ次長 亀井勝司
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB212F90R20C21A6000000/

 ※ どうも、最大の問題点は、「銀行側に、ITに精通した人材が無く」「ベンダー側に、経営・業務に精通した人材が無い」というところのような気がする…。

 ※ その両方の領域を、つなぐ人材が、決定的に欠いているという気がする…。

 ※ これを、「プライオリティの判断」という観点から見れば、従来・旧来の「銀行経営におけるプライオリティの判断」と、「IT導入におけるプライオリティの判断」が、決定的に乖離しているという気がする…。

 ※ 例えば、あるITシステムを導入しようとしているとする…。
 当然、そこにおいては、「導入することによるメリット」と、「導入したことによるデメリット」があり、そこを「抽出」「利益衡量」することが必要となる…。
 
 ※ さらには、「パッケージソフト」を導入して、安上がりに上げようと考えたとする…。

 ※ その場合、その「お仕着せ」による従来の業務執行形態を「変える必要があるのか、否か」「そのメリット・デメリット」の利益衡量をどう図るのか、などという問題も出てくる…。

 ※ 「お仕着せ」からハミ出した、「特殊業務」を残すのか否か、そこを組み入れて、一から「システム発注」するのか否か、その場合の後々の保守・管理業務のコスト計算をも含めた「プライオリティの判断」が必要となる…。

 ※ こういうものは、従来・旧来の「銀行の経営判断」とは、全然違う…。

 ※ そういう「判断」や、その判断に必要な「要素の抽出」が、できる体制になっているのか…。人材、手順の構築は、なされているのか…。

 ※ そういう辺りが、決定的に重要なんだろう…。

 ※ さらには、「新技術」への対応・拡張性…、という問題もある…。

 ※ オンプレミス全盛時に、クラウド環境への「備え」を考えておくということは、不可能事かもしれない…。「神対応」かもしれない…。

 ※ しかし、そこの「備え」が無いと、「後れを取って」、競争における敗者となる…。

 ※ こうして検討してみると、いわゆる「日本企業」が、決定的に「苦手」としている「分野」「事例」のようだな…。

『みずほ銀行で起きたシステム障害は、システムが銀行経営に死活的に重要なことを端的に示した。ただその重要性と裏腹に、銀行、とくに地方銀行自身が主体的に関与できているかといえば疑問符がつく。』

『「監視を厳しくしないといけない。システム対応できないか」(地銀幹部)

「半年後になりますね」(システム会社)

NTTドコモの電子決済サービス「ドコモ口座」に絡む不正送金があった2020年9月。ある有力地方銀行とシステム会社で交わされた会話だ。新しいサービスの開発からマネーロンダリング(資金洗浄)につながる不正送金の対策まで、システムは銀行経営の要だが、開発や運用はシステム会社に頼っている実態が浮かぶ。』

『システム会社はベンダーと呼ばれ、みずほ銀行が4500億円を投じて導入した新システム「MINORI」は日本IBM、富士通、日立製作所、NTTデータの4社が中心となって開発した。もちろん、数千万口座を抱えるメガバンクと地方銀行のシステムには差があるものの、地銀も平均して年間50億円弱のシステム関連経費がかかっている。

金融のデジタル化が進み、システム部門の戦略的な位置づけは高まっているが、上位地銀でさえシステムの実務部隊はベンダーにほぼアウトソースしているところも多い。効率化の一環で自行のシステム人材をベンダー側に移管し、開発・運用を委ねている。ドコモ口座で問題になったインターネットバンキングから「○○ペイ」にチャージする場合も、自行からの出金にもかかわらず、その取引情報を保有しているのは銀行自身ではなくベンダーだという。』

『特定のベンダーの製品やサービスに強く依存することで、他社の同じような製品への切り替えが難しくなることをベンダーロックインと呼ぶ。言い換えれば囲い込みで、公正取引委員会もかねて問題視してきた。機動的に機能を追加したいと思っても時間と多額のコストがかかる。それでもベンダーに依存しているため「言い値」を受け入れざるをえない構図が浮かぶ。』

『銀行業務の基幹である勘定系システムを日本ユニシスからマイクロソフト社のクラウドサービスに移行した北国銀行のように、ベンダー丸投げと決別する地銀はまれだ。北国銀はクラウド上に集積した顧客データを活用し、取引やサービスの利用実態を人工知能(AI)などで分析。営業やコンサルティングにつなげる計画で、システムのフル活用を経営の中核にすえる。

システムに関していえばベンダーが銀行に対して優越的地位に立っているように見えるが、ある金融庁関係者は「だからといって地銀が『被害者』かといえば、それは一つの断面だ」と指摘する。ベンダーロックインが機動性を奪い、高コストになっている面は否めないが、ベンダー側からみれば「非効率で硬直的な事務を温存しているため、それをつなぐのに複雑な仕組みが必要になり、結果的にコストが高くなる」という声も漏れる。』

『実際、システムを共同化している信金と地銀のコストの差は、システムにあわせて事務も共通化しているかどうかの違いが大きい。システムと一言でいっても、債務者の情報を管理するシステムや取引内容を記録するシステム、担保物権を管理するシステムなど多岐にわたる。そのうえ、ほぼ取り扱いがない商品もスクラップすることなく新たな機能を付け加えようとすると、「結果的にアクロバティックなシステムになり、その分コストも上がる」(金融庁関係者)という。』

『自行に必要な機能を絞り込み、コストを減らして機動性を高めるために何が必要かを把握し、それにあわせて不要な事務を削る判断がIT統治(ガバナンス)だとすれば、ベンダーロックインはその欠如が招いた帰結にも見える。もっとも、マネロン対策など迅速に対策を打つ必要があるシステム改修で多額の費用を求め、より安価なサービスを提案する他社を阻むのは優越的地位の乱用だ。金融庁は銀行の委託先であるベンダーに立ち入り検査することもできる。

金融犯罪への対応は新たな手口が出てくるたびにシステム的な対応が必要になり、金融サービスのデジタル化もシステムの裏付けがあってこそだ。ベンダーロックイン問題は、「銀行はシステム産業」といいながらシステムを傍流に追いやってきた姿勢に変化を迫っている。』

『浅川直輝
日経BP 「日経コンピュータ」編集長
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分析・考察企業内のITシステムを構築・運用する情報システム部門は本来、社内の業務とシステムの全体最適を考え、ときには経営陣や事業部門に「このやり方ではダメだ」と業務改革やサービス改革を迫ることもいとわない重要な部門です。

そんな情報システム部門の役割を外部のITベンダーに丸ごとアウトソースすれば、内発的な改革は起こりようがありません。ITベンダーも「良かれ」と考えて全てのIT関連業務を受託すれば、結果として顧客企業のデジタル変革(DX)の機会や意欲を奪う結果につながりかねません。

DXが企業競争力に直結する時代、企業とITベンダーの関係を今一度考え直すべきでしょう。』

やはり「電話」はいらないのか…。

やはり「電話」はいらないのか 不要論の背後に、皆が気付かない「力学」:“いま”が分かるビジネス塾(1/4 ページ)
view-source:https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2106/22/news053.html

『電話に関していつまでも意見が食い違うのは、背景にある「力学」について多くの人が認識していないからである。電話の是非に関する議論は、基本的に立場が「強い」「弱い」、つまり権力を持っているかどうかに関係しており、最終的には格差問題につながっていく。』

『結局のところ、相手の状況などお構いなしに一方的に電話をかけられるのは、上司や顧客など、立場が上の人(つまり権力を持っている人)に限定される。ひろゆき氏も「立場が強くて無能な人ほど電話を使いたがる」と述べている。

 ひろゆき氏が言うように、立場が強く、かつ無能な人ほど、一方的に電話をかけてきて、メモもしっかり残さないので、後でもめることが多い。つまり電話をストレスなく使えるのは、互いを尊重し合える関係が構築できている相手に限定される。』

『職種によっては、取引相手に電話で長々と説明せざるを得ず、(ムダだと分かっていても)それに付き合わなければならない人もいる。結局のところ、無意味なコミュニケーションを避けられるのは、自身のコミュニケーションスキルと相手のスキル、そして双方の力関係で決まってしまう。

 自身にスキルや能力がない場合、使い慣れたツールしか使えず、相手に迷惑をかけることになる。一方で、自身が高いスキルや能力を持っていても、相手が単一のコミュニケーションを望み、それを回避できなければ、それに付き合うしかない。』

『職種によっては、取引相手に電話で長々と説明せざるを得ず、(ムダだと分かっていても)それに付き合わなければならない人もいる。結局のところ、無意味なコミュニケーションを避けられるのは、自身のコミュニケーションスキルと相手のスキル、そして双方の力関係で決まってしまう。

 自身にスキルや能力がない場合、使い慣れたツールしか使えず、相手に迷惑をかけることになる。一方で、自身が高いスキルや能力を持っていても、相手が単一のコミュニケーションを望み、それを回避できなければ、それに付き合うしかない。』

『電話しか連絡手段がなかった時代は、他に選択肢がないので、どんな環境の人も同じツールを使っていた。だが今の時代は次々と新しいコミュニケーションツールが登場しており、スキルが高い人は新しいツールを積極的に使いこなすだけでなく、必要に応じてツールをうまく使い分けている。連絡を取る相手についても、機転が利くスキルの高い人だけを選別しようと試みるはずだ。』

『結果としてツールをうまく使いこなせる人は、似たような人とビジネスを進めることになるので、生産性が向上し、経済的にも成功しやすくなる。一方でツールを使いこなせない人、使いこなせない人を相手にせざるを得ない人は、低い生産性のほうに引き寄せられてしまい、経済的な利益も小さくなる。

 結局のところ電話の問題は、自身がどれだけ自由に行動できるのか(つまりどれだけ優位な立場にいるのか)に依存しており、最終的には格差問題を引き起こす原動力となってしまうのだ。』

物価は上昇しても「給料」は上がらない、根本的な問題

“物価は上昇しても「給料」は上がらない、根本的な問題:“いま”が分かるビジネス塾(1/4 ページ)”
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2104/13/news038.html

『4月から公共料金や食品など多くの商品が値上がりしているが、一方で給料はまったく上がる気配が見えない。コロナ後の景気回復を期待する声もあるが、今後、賃金をさらに下落させる新しい制度が始まっている。収入を増やすには、副業などに積極的に取り組むしなかさそうだ。

日本は事実上の生涯労働制へ
 日本ではデフレが続いているとされてきたが、実際はそうではない。物価の上昇率こそ低く推移してきたが、物価そのものは着実に上がっている。しかも、インフレやデフレというのは、多数の商品価格を平均した消費者物価指数を基準に判断される。高額商品など不景気で値下がりした商品があると、それに引っ張られて指数も下落しがちだが、生活必需品は価格が上昇しているケースが圧倒的に多い。つまり多くの人にとって日本社会はデフレでも何でもなく、インフレというのが現実である。

 生活必需品が値上がりしても、給料も上がっていくのなら何とか生活は維持できるが、日本の場合、賃金だけは上がらない。それどころか賃金下落のダメ押しとも言える制度が4月からスタートしている。それは企業に対して70歳までの就業機会確保を努力義務とする「改正高齢者雇用安定法」の施行である。

改正高齢者雇用安定法が4月にスタート(出典:厚生労働省)
 これまで、企業は希望する社員について65歳まで雇用することが義務付けられていたが、4月1日以降は、70歳までの就業機会の確保が努力義務となる。これは雇用ではなく就業機会の確保なので、再雇用とは限らず、フリーランスとして業務委託契約を結ぶといった形態も可能となる。加えて、現時点では「努力義務」なので、企業は順守しなければいけないというものではない。

 だが大手企業にとって努力義務というのは、限りなく義務化に近いものであり、コストという点からいっても、雇用を延長したことと大きく変わるわけではない。つい最近まで企業の定年は60歳だったが、それが事実上、70歳まで伸びたようなものである。

 近い将来、70歳までの雇用が完全義務化される可能性はそれなりに高いと考えられるので、今回の法改正によって日本は事実上、生涯労働時代に入ったと考えてよいだろう。

社員数が多すぎる最大の理由は…… 』

『社員数が多すぎる最大の理由は雇用制度
 とりあえず70歳まで働けるということは、年金減額が確実な状況において朗報といってよいかもしれない。だが賃金という面で考えた場合、この制度は、日本のビジネス社会に致命的な影響を与える可能性が高い。

 日本企業はもともと大企業を中心に終身雇用と年功序列の雇用体系となっており、ビジネスの規模に比して社員数が多すぎる。日本企業の生産性データなどから計算すると、日本企業は米国やドイツなど諸外国と比較して、同じ収益を稼ぐために投入する社員数が1~2割多い。

 これは事業の付加価値が低いというビジネスモデル上の原因もあるが、社員数が多すぎることも大きく影響している。日本企業には、会社に在籍しているにもかかわらず、事実上、仕事がないという、いわゆる社内失業者が400万人以上もいるとの調査結果があるが、これは全正社員数の1割に達する数字である。諸外国と比較して、社員数が多すぎるのはウソではない。

ビジネスパーソンの給与は、やはり上がらないのか
 そして日本企業において社員数が過剰となる最大の要因は、やはり雇用慣行と考えられる。

 諸外国の場合、業務内容をあらかじめ決めた上で採用を行う、いわゆるジョブ型雇用がほとんどなので、同じ仕事をずっと続ける社員が多い。一方、日本はそうではないことから、新入社員に現場仕事や雑務を割当て、年齢が上がると、多くの人は能力にかかわらず管理職に昇進する仕組みになっている。

 このため、常に新卒社員を採用し続けないと現場の業務が回らない。一方で、定年は延長になっているので、中高年社員は管理職として、長期間、会社に雇用され続けることになる。結果として、日本企業では社員数が膨れあがってしまうのだ。

賃金を取るのか、雇用を取るのか』

『賃金を取るのか、雇用を取るのか
 以前は「60歳定年」という切り札があったが、これが65歳に延長され、今回の改正で事実上、70歳まで延長された。社員の平均在籍期間が延びれば、当然の結果として総社員数が増えることになる。一方で、企業が社員に支払う人件費の原資は決まっているので、1人当たりの賃金は下がらざるを得ない。

 つまり日本においては、雇用制度を抜本的に変えて雇用の流動性を高めない限り、今後も継続して賃金が下がる可能性が高いのだ。若いビジネスパーソンにとっては、逃げ切りにも見える中高年社員に対しては複雑な感情だろうが、とりあえず雇用だけは保障されている点において、若い世代も日本型雇用慣行の恩恵を受けている。

雇用制度を変えなければ、賃金は下がる可能性が高い
 企業によって程度の違いはあるものの、日本全体としては、賃金を取るのか、雇用を取るのかという二択が迫られていると考えてよい。

 これは日本特有の現象であり、海外事情とは無関係である。一方、諸外国は新興国を中心に高い成長が続いており、全世界の物価は今後もさらに高騰することが予想されている。しかもコロナ後を見据えた先行投資が相次いでおり、食糧品価格や資材価格はすでにコロナ前を大きく上回っている。

今後、節約は意味をなさない 』

『今後、節約は意味をなさない
 日本で消費される製品の多くは輸入なので、日本国内の状況とは関係なく価格が決まってしまう。つまり今春の値上げは前哨戦である可能性が高く、年後半から来年にかけて、さらに生活必需品の価格は上がっていくと考えられる。そうなると、今後、モノの値段だけが上がり、給料は上がらないという悪夢のような事態になる可能性が十分にある。

平均給与の推移(出典:厚生労働省)
 これまでの時代は、節約が事態を解決する有力な方法の一つだったが、その概念は崩壊していくだろう。もはや節約だけでカバーできる状況ではなく、年収の絶対値を増やさなければ、今の生活水準は維持できない。スキルアップに成功し、年収が上がっている一部のビジネスパーソンを除き、副業への取り組みはもはや必須になったと考えるべきだろう。』

仕事ができない高学歴社員はなぜ生まれるか

仕事ができない高学歴社員はなぜ生まれるか
同志社大学政策学部教授 太田 肇
https://bizgate.nikkei.co.jp/article/DGXMZO7051546031032021000000/?n_cid=TPRN0016

 ※ いわゆる、「優秀」の中身を、はき違えているんだろう…。

 ※ 企業は、「利益獲得目的団体」だから、「利益獲得」に役立つと思って、「優秀人材」を採用する…。

 ※ それで、「仕事をさせてみると」、カラッキシなわけだ…。

 ※ おそらく原因は、以下のようなことなのでは…。

 ※ こういう「優秀人材」は、抽象的な「目標」「方針」「戦略」を立案することには、長けている…。

 ※ しかし、それらを「実現するためには、実際にどうすればいいのか。」という現実の方策を立てることができない…。

 ※ 企業側としては、「方策を立てる」から、さらに踏み込んで、「実際に、実現に向かって、行動して行ってもらいたい。」わけだが、そういう「現実処理能力」「実務の遂行・推進能力」が”皆無”と来ている…。

 ※ 結局は、「口ばかり達者で、使えないヤツ。」という烙印が押される…。

 ※ 最後は、「なんで、あんなヤツを採用した!」と、人事担当者の責任問題まで生じてくる…。

 ※ そういう「現実処理能力」「実務遂行・推進能力」は、書類選考や面接、インターンでの様子の観察なんかでは、なかなか見抜くことができない…。

『あなたの周りにこんな若手社員はいないだろうか?

・失敗を認めようとせず、何でも周りのせいにする。

・いつも自分の評価が低すぎると不満を口にする。

・自分にはもっと高度な仕事を任せられるべきだと思っている。

 彼らに共通するのは、自己評価と周囲の評価に大きなギャップがあることだ。それが、はた迷惑な態度や行動につながっている。

学歴社会が生んだ「能力」の過大評価

 多くはいわゆる一流大学を卒業したり、MBA(経営学修士)の資格を持ったりしている。そのため自分は優秀だと信じ込んでいる。彼らにとって学歴=能力、偏差値=「頭のよさ」なのだ。したがって、いくら間違いを周りから指摘されても、仕事ができなくても自分に問題があることを認めようとしない。なかには「頭の悪いやつにはわからない」と吐き捨てる者もいる。

 しかし、彼らが責任を周囲のせいにするのは、必ずしも的外れではない。会社や社会が彼らの能力を評価しないのが問題なのではなく、むしろ高く評価しすぎたことが問題なのだ。

 周囲も「いくら優秀でも人間性が備わっていないとだめだ」とか、「頭がよいのと仕事ができるのとは違う」というように、彼らの優秀さ、頭のよさを認めた議論をしてしまうことがある。そのような議論を続けている以上、彼らの思い上がりと責任転嫁はなくならない。

 大事なのは、そもそも「優秀」や「能力」といったことは何かを真正面から考え直すことである。とくに技術革新などによって人間を取り巻く環境が大きく変化している現在、会社も社会も評価や選別の前提になっている「能力」の基準が変わってきたことを頭に入れておかなければならない。

 たしかに工業社会、キャッチアップの時代には記憶力や理解力に優れ、豊かな知識を応用して問題を解決する能力が重宝された。また語学力や計算力なども重要だった。受験秀才=優秀と考えても、あながち間違いではなかったわけである。

IT、AIで「能力」の基準が一変

 しかしIT化が進み、AI(人工知能)も普及したいま、これらの能力が決定的に重要だとはいえなくなっている。つまり受験で問われる能力の大部分がAIなどに取って代わられつつあるのだ。極端な話、大学入試問題の大半はAIを使えば瞬時に解ける。なお読解などAIが苦手とする問題も、単に人間用の問題をAIが解けないだけであって、人間が介在しない世界では読解力も必要としないだろう。

 逆にAIがなかなか代替できないのは、勘やひらめき、感性、想像力、空気を読む力といった人間特有の「つかみどころがない能力」である。そして、これらの能力は学歴や偏差値とほとんど関係がない。また、これらの能力の発揮は状況依存的、すなわち本人が置かれた状況や実際の場面に応じて発揮される性質のものである。したがって企業が採用試験などを工夫し、人物をふるいにかけようとしても限界がある。

 要は、実際に仕事をさせてみないと「優秀」かどうかわからないのである。』

『責任転嫁できない環境をつくること

 その点、欧米では半年から1年といった長期のインターンシップで能力と適性を見定めて採用するし、採用後は個々人に権限と責任を与え仕事を任せる。したがって、少なくとも自分にどれくらい仕事の能力があるかを知ることができる。

 いっぽう日本では学歴(学校歴)中心で、あとは簡単な適性検査と面接くらいで採用するケースが多い。最近はインターンシップを取り入れる企業も増えてきたが、それでも期間は数日からせいぜい1カ月程度である。そのため仕事に必要な能力や適性はほとんどチェックされていないといってよい。

 それでは自信過剰型の社員が現れるのは当然である。

 問題は、彼らにほんとうの実力をどうやって自覚させるかである。

 対策として、まず仕事を思い切って任せてみること。そして顧客や市場の中に出すことである。上司や社内の評価には文句を言えても、顧客や市場の評価は受け入れざるを得ない。つまり、責任転嫁ができない環境をつくり、自分の実力を冷静に見つめさせる必要がある。

 ただ、それでも自分の「優秀さ」「頭のよさ」を疑わないかもしれないし、逆にリアリティー・ショック(理想と現実のギャップ)で挫折する恐れもある。そこで問われるのが、無条件に彼らを優秀だと信じ込ませてきた学歴社会と、彼らをエリートとして迎え入れた会社の責任である。

 いずれにしても自分の実力を過大評価させてきた以上、彼らをいかにフォローするか、難しい課題が残る。』

備えたことしか、役には立たなかった ~ある官僚たちの震災~

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210305/k10012898801000.html?utm_int=news_contents_tokushu_005

『大きな揺れ、迫り来る大津波。状況の把握もままならない中での初動対応。がれきに遺体が残る中での道路啓開。遺体を埋葬するための「ひつぎ」の確保…。

「備えたことしか、役には立たなかった」

あの日、経験なき大災害に直面しながら数々の判断を迫られた、ある官僚の告白です。
(社会部災害担当記者 清木まりあ)

3月11日午後2時46分/地震発生
「ロッカーや棚がガタンガタン倒れて。揺れの長さと大きさで、ただごとではないと」

当時、東北地方整備局長だった徳山日出男さん。陸・海・空を管轄する国土交通省の出先機関のトップでした。

当時の徳山さん

局長に就任したのは2011年1月。
阪神・淡路大震災など、過去に災害対応にあたったこともありましたが、基本は東京で対応。被災地の現場経験は、ほとんどありませんでした。

そして、就任2か月後の3月11日。あの巨大地震が発生しました。
当時は、局長室で打ち合わせをしていましたが、大きな揺れが収まるまで身動きがとれなかったと言います。

徳山さん
「宮城県沖地震の発生確率が高いことは頭に入っていました。ただ正直、自分が遭遇するとは…」
揺れが収まるとともに、防災服を着用。

A4の「メモ用紙」と「シャープペン」を握りしめて災害対策室に走りました。
3月11日午後3時/混乱の“初動対応”
災害対策室には、徐々に職員が集まり始めていました。
しかし「何が起きているのか」「何をすべきか」は混乱の状況。

発生直後の災害対策室

徳山さんが書いたメモ

<職員たちへの指示を書き出す>
思い思いに動いていては、組織としての初動対応を誤ることになる。

徳山さんがまず行ったのは、部下たちが何をやるべきか、自分の経験や知識を振り絞ってメモ用紙に書き出すことでした。「職員の安否確認」「道路や河川・港湾施設の被害状況の把握」「本省とのやりとり」「メディア対応」…。

メモで頭を整理しながら、職員の意見も参考にしていきました。

すると、駆け寄って来た防災課長から重要な提案が。

<職員無しで“防災ヘリ”離陸>
「局長、防災ヘリを上げていいですか。時間がないので“無人”で」

被害状況を把握するための「防災ヘリコプター」を職員無しで飛ばす提案でした。

通常のルールでは、防災ヘリを飛ばす時には職員が同乗することになっています。しかし、整備局からヘリコプターがある仙台空港までは、通常でも1時間弱。迅速な被害把握のため、職員を待たずにパイロットだけでヘリコプターを飛ばそう、というのです。

徳山さんは防災課長の提案を受け入れ、防災ヘリを飛ばすよう指示します。

しかし、仙台空港の管制からは…。

「飛ぶのであれば、自分の判断で安全を確認して飛んでほしい」

地震の影響で管制機能を失っていたのです。
飛び立つ防災ヘリ みちのく号
ーとにかく初動が人の生死を分ける。

それでも徳山さんはヘリを飛ばすよう指示します。
午後3時23分に仙台空港を離陸。地震発生から37分後のことでした。

徳山さん
「リスクがあるのはもちろん分かっていた。でもやらないで後悔するよりは、やって後悔した方がいいと思ったんです。責任は、何かあってから考えればいいと」

冠水した仙台空港(NHK映像)

その後、午後4時ごろ、仙台空港にも津波が押し寄せ冠水してしまいます。

結果として、この判断が功を奏しました。

3月11日午後4時~/最大の被災地はどこだ

リアルタイムで送られてくる防災ヘリからの映像は、想像をはるかに超えるものでした。

※このVTRでは津波の映像が流れます

押し寄せる巨大津波。次々に押し流される住宅。
仙台市から南方向の、福島県いわき市までの状況を把握することができました。しかし天候不良で北上はできず、三陸方面の状況は把握できませんでした。

こうした中、内陸の出先機関からは、土砂崩れや道路陥没などの被害情報が相次いで入ってきます。

通常なら、情報がある現場に職員や作業員を派遣して応急復旧にあたります。

ー情報空白地こそ、被害が大きいのでは?

この時、徳山さんの頭にあの大災害がよぎります。1995年の阪神・淡路大震災です。
地震発生直後は、比較的、被害が少なかったところからの情報が相次ぎ、本当に被害が大きかった地域の把握や支援が遅れてしまったのです。

このため徳山さんは、最大の被災地は“情報が無い”三陸など沿岸だと確信します。沿岸につながる救援ルートの確保を最優先にすることを決めました。

徳山さん
「被害が分かっている地域に応援を送らないという判断は、もちろん心苦しかったし、あとで問題になるかもしれないという懸念もありました。ただ、人も機械も燃料も不足することが予想される中、最大の被災地はどこなのか、優先順位の見極めが大事だと思ったのです」

3月11日夜~/救援ルートを確保せよ

沿岸に、一刻も早く救助隊や自衛隊が到着できるようにしなければならない。

しかし沿岸に近づけば近づくほど、道路は、押し流された家や車、がれきで埋もれています。海側から船で近づくにも、まだ「大津波警報」がでている状況。とにかく、道路の障害物を取り除いて、道路を啓開するしかありませんでした。

どうやって救援ルートを確保するのか。夜を徹した打ち合わせが続きました。

そこで結論に達したのが「くしの歯作戦」でした。

「くしの歯作戦」の図

沿岸近くを南北に走る国道45号線は、ほとんど通れないことが予想されます。一方、内陸を南北に走る国道4号線や東北縦貫道には、大きな被害はありません。そこで国道4号線から沿岸に向かって東へ、「くしの歯」のようにルートを啓開する計画です。

その一方で、啓開する機材や人員が確保できるのか、徳山さんには不安がありました。

そのとき、ある報告が飛び込んできます。

「地元の建設業者たちが、みずから動き始めています!」

東北地方整備局からの指示が無い中でも、地元の建設業者たちが、各地に集まり始めていたのです。地震の翌日、12日朝の時点で500人を超える作業員が集まりました。

地元の建設業者も“被災者”。家族や知人の安否がわからない人もいました。

それでも地元のために集まってくれた人たち。

ーありがとう…、ありがとう…。

徳山さんは胸が熱くなったと言います。

3月12日/苦難の道路啓開

地震翌日の12日。東北の沿岸では、まだ大津波警報が出ています。当時、東北地方整備局が定めていた業務継続計画(BCP)にも「津波注意報が解除された後に、巡回・復旧作業にあたる」とありました。

それでも徳山さんは12日からの道路啓開を決断。現場の作業員たちには「10分以内に高台や安全な場所に逃げられる場所でだけ作業をするように」と指示しました。

徳山さん
「また津波や地震が来たら命にかかわる…作業員の安全を考えると、悩みました。ルールを逸脱することになってしまうけど、道路を啓開できるのは私たちだけ。そう考えたら、やらないという選択肢はなかったんです」

がれきで埋もれた道路

がれきの撤去作業も、苦難の連続。

現場からは悲痛な訴えもありました。

「がれきに遺体があって重機が使えません…」

中から「遺体」が見つかり、大型の重機で作業することができなくなることもありました。このため手作業でがれきを取り除き、警察に来てもらったうえで、遺体を運び出してもらいました。

行方不明になっている家族を、がれきの中で捜している人も多く、重機での作業を嫌がられることもありました。そのたびに救援ルートを確保するために必要な作業であることを丁寧に説明してもらったということです。

啓開した道路

作業を始めた3月12日には、計画していた16の国道のうち、11のルートを啓開。3日後の15日には、15のルートを確保しました。(福島の1ルートは原発事故の影響で確保できず)

ルートが確保されたことで、救急車や警察、自衛隊などの緊急車両が通行可能に。医療チームも被災地に入ることができるようになり、少しずつ支援物資も届き始めました。

3月16日/被災地に足りないもの…

救援ルートができた。

次に徳山さんが取り組んだのは、被災地の市長や町長などに必要としている物資を聞き取り、届けることでした。

しかし、電話の聞き取りの中で、思わぬものを求められます。

当時の徳山さんのメモです。
「カンオケ(ひつぎ)」「遺体確認しても持ち帰れない」

道路の啓開によって、自衛隊や警察などによる捜索活動が進み、多くの遺体が見つかりました。一方で、「ひつぎ」が足りなくなっているというのです。

被災地の市長
「火葬場も被災してしまったので、今は仮埋葬(土葬)するしかない。でも、泥の中におられたご遺体を、そのまま土の中に埋めるなんてことはできません。『ひつぎ』をお願いします」

本来、「ひつぎ」は、国土交通省の所管外の物資です。職員たちからは、「所管外のことまで手を出して大丈夫なのか」という不安の声も上がりました。

国土交通省の予算で支払いが認められるのか、目途はたっていませんでした。しかし迷うこと無く「ひつぎ」を買い取り、被災地に送ることを決断します。背景にあったのは当時の国土交通大臣のことばでした。

徳山さん
「当時の大畠大臣がテレビ会議で言ってくれたんですよ。『徳山くん、現場のことは君が一番よく分かっているから、すべてを任せる。君が国の代表だと思って、あらゆることをやってくれ』と…だから、迷いなくできました」

その後、徳山さんが自治体に向けて出した通知文書です。

ー私を「整備局長」と思わず、「ヤミ屋のオヤジ」と思ってください。

「ほしいものは何でも用意するので気軽に言ってください」というメッセージでした。

要望を受けて調達した物資は、水や食料はもちろん、燃料や仮設トイレ、生理用品、洗濯機など、200種類以上にのぼったということです。

徳山さんは、その後も局長室に寝泊まりしながら対応を続けます。2013年7月まで局長として道路や堤防の復旧、住宅の高台移転など復興事業を進めました。

備えたことしか、役には立たなかった

あれから10年。当時の臨機応変な決断を徳山さんはどう感じているのか。聞いてみると、返ってきたのは意外なことばでした。

徳山さん
「あのときの機転だけでできたことなんて、一つもなかったんですよ。備えていたことしか役には立たなかった。災害が起きる前にどれだけ準備できていたか、というのが非常に大きかったんです」

地震直後の格納庫

震災が起きる前までの「備えが」判断を支えていたというのです。

<防災ヘリ>
たとえば初動を支えた防災ヘリ。
過去の災害で、すぐに飛び立てなかった教訓から、格納庫の中の一番手前に駐機するようにしていました。また、震災の2か月前には、ヘリの運航を委託する会社とすぐに連絡が取れるよう、緊急時の専用回線を新たに設けたばかりでした。

<道路啓開>
震災の翌日、なぜ500人もの作業員が集まれたのか。
東北地方整備局は、震災の前に多くの建設業者と災害協定を結んでいました。通信が途絶えている中でも、自主的に道路の被害状況を確認し集まっていたのです。

国道の多くが本体に損傷を受けていなかったことも復旧を早めました。阪神・淡路大震災の後、橋の耐震補強対策を強化してきた結果でした。
「備えていたことしか、役には立たなかった」

この言葉で始まる本があります。

「災害初動期指揮心得」です。

徳山さんを始め、東北地方整備局の職員たちが当時の経験をまとめた本で、全国に教訓を共有したいという思いから、電子書籍で無料公開されています。

この本にはもう一つのことばが記されています。

「備えていただけでは、十分ではなかった」

つまり、備えていても、実際に行動に移す意識を持ち、訓練などをしていなかったら十分に役立たないということです。

あれから10年。徳山さんは国土交通省を退職し、現在は、震災の教訓を伝える活動を行っています。

徳山さん
「今の災害でも『想定外だった』『被害情報がないから初動が遅れた』とよく聞きます。でもそれは10年前に日本が経験したこと。震災の教訓は何だったのか、教訓を生かすためには何をしておく必要があるのか。これを考えることからしか、災害への備えは始まらないと思います。だから私は自分が経験したことを伝え続けていきたい」

震災10年 何を“備え”につなげるか

多くの人が犠牲となった東日本大震災。

この10年、私たちは、今も苦しんでいる被災者の方々や、国や自治体の政策に足りないことなど、被災地や復興の課題を伝えてきました。

今回、徳山さんを取材して感じたのは、教訓は“対応できなかったこと”の中にだけあるのではないということです。当時、被災地では“対応できたこと”もあります。意外に気付きにくいのですが、実はその中にも多くの教訓がありました。

「備えたことしか、役には立たない…」

被災地の課題だけでなく、こうした教訓も含めて伝えていくことが、将来の災害への“備え”につながるのだと強く感じました。

社会部記者
清木まりあ
2010年入局
初任地は長野局
社会部災害担当として
防災や復興、
インフラの課題などを
取材
注目のコンテンツ』

キュメント3・11 イギリス大使館はなぜ「真実」を見抜けたか(上)

https://www.dailyshincho.jp/article/2021/03080530/?all=1

『 Foresight 2021年3月8日掲載

2011年3月11日に発生した東日本大震災・福島第1原発事故による大混乱の最中、イギリス大使館は放射性物質の飛散リスクなどについて的確な情報を発信し続け、外国人のみならず日本人にとっても信頼できる貴重な情報ソースとなった。その指揮を執ったデビッド・ウォレン元駐日大使への直接取材で再現する、危機対応とパブリック・ディプロマシー(広報文化外交)のケーススタディー。』

『2年前の3月21日、ロンドンの日本大使公邸。多くの日英関係者が居並ぶなか、鶴岡公二駐英大使(当時)はデビッド・ウォレン氏に旭日大綬章を授与した。駐日大使(2008年~12年)を含め計3回通算13年の日本勤務と、英外務省を退職後、文化交流団体ジャパン・ソサエティ(本部・ロンドン)の会長(12年~18年)として日英関係に多大な貢献をしたとの理由だが、特筆されたのが東日本大震災での対応だった。震災に合わせた3月にわざわざ授与式をもったのもそのためだった。

鶴岡駐英大使はこう祝辞を述べた。

「ウォレン大使は震災2日後に被災地に入り、英国人の安否確認をするだけでなく、日本人被災者を励ましました。さらに英政府が立ち上げた緊急時科学助言グループ(SAGE)の客観データーをもとに、英国大使館を東京から移したり、英国人を東京から脱出させたりする必要はないと決定しました。英国のこの日本に対する揺るぎない友好的な姿勢は2015年のウィリアム王子の被災地訪問に結びつきました」』

『3・11では欧州を中心に少なくない在京大使館が放射性汚染を恐れ、大使館の機能を関西に移した。自国民を特別機で日本から大量脱出させ、また外国人の幹部や従業員が我先に帰国して、企業活動がマヒしたところも多々あった。後日、「申し訳なかった」と自国民の行動を謝罪した大使もいる。

そうした中、最も冷静かつ的確に対応したのが英国だった。ブレることのなかったその姿勢は、応援部隊を含め200人を超える大使館スタッフを率いたウォレン氏の指導力と、同氏と本国の連携に負うところが大きい。

 同氏はジャパン・ソサエティの会長職にある時、3・11の経験を文章にまとめている。昨年、東京で詳しく話を聞く約束だったが、新型コロナウイルス問題で来日がかなわず、電話で取材した。同氏の行動を中心に英国の対応を振り返る。』

『被災地の英国人は600人、誰とも連絡がつかなかった

3・11のこの日、ウォレン氏は昼、帝国ホテルでもたれたホテル創設120周年の記念昼食会に出席した。終わると、大使館に戻り、経済部の日本人スタッフ1人を連れて大使車で横浜に向かった。午後3時に日産自動車本社で英国人役員と対英投資について意見交換する約束があったからだ。英国への投資誘致は英大使の重要な仕事だった。

 大使車が同社の玄関に着き、降りようとしたその時、「ジシン!」と運転手が叫んだ。
「日本に通算13年暮らした私も経験したことのない激しい揺れだった」

日産の役員との携帯電話はつながらない。大使館に戻ろうと運転手に告げた。大使車のテレビは尋常ならざる事態を伝えていた。しかし道は大渋滞し、東京に入ったのは夜だった。最後は動かない車を乗り捨て、皇居のお堀伝いに歩いた。歩道も帰宅する人で溢れていた。同氏が千代田区一番町の英大使館にたどり着いたのは午後9時だった。』

『大使館内に入るやウィリアム・ヘイグ英外相(当時)から電話が入った。大使館スタッフの全員無事を確認した外相は、東京の状況を尋ね、津波に襲われた福島第1原発がどうなるか仔細にフォローするよう指示した。容易ならざる事態と認識した英政府も、関係省庁が参加する危機管理委員会(COBRA)を立ち上げていた。大使がベッドにもぐりこんだのは午前1時半を回っていた。公邸の寝室は、落下した本などで足の踏み場もなかった。』

『このような大災害・大事故の時に出先の大使館の仕事は大きく3つ。日本にいる自国民の安否確認と保護。対日支援。そして信頼ある情報発信、だ。

英国大使館は大阪の総領事館と合わせて計130人のスタッフがおり、このうち英外交官は約30人。英外務省はロンドンと各国の英大使館からスタッフを東京に送り込み、80人の増援部隊が到着した。ウォレン氏は200人超のスタッフを3班に分け、3交代8時間勤務の24時間体制を敷いた。英外務省とは4時間ごとに電話協議を持った。

英国からは日本にいる家族や親せきの安否の問い合わせが殺到していた。これを捌くため、安否確認の電話は大阪の英総領事館に自動転送するよう回線設定された。

「約1万5000人の英国人から在留届が出ていて、被災地には約600人が暮らしているとみられた。連絡網を作っていたが、誰とも連絡がつかなかった」』

『「東京の大使館はナンバー2が指揮できる」

 日本政府に支援の打診も行った。水や食料や物資、それに救助犬を連れた緊急援助隊を日本に送り込みたいが、どこの空港が受け入れてくれるのか。首相官邸が情報を一元化していたが、福島原発問題に忙殺されていて、問い合わせに「後で返事する」と繰り返すだけだった。業を煮やしたウォレン氏は12日朝、こう伝えた。

「救援機がマンチェスターで待機している。日本政府の許可がいらず、被災地にも近くて足場がいい米軍の三沢空軍基地(青森県)に飛ばしたい」

 大使の電話に、首相官邸の担当者は

「我々もそうしてほしいと思っていた」

 と後付けの返答をした。』

『13日夜、英救援機が三沢空軍基地に到着。救助犬と緊急援助隊の英チームは岩手県大船渡市に展開し、米、中国チームとともに1週間、捜索に当たった。これ以後、三沢空軍基地は英国から水や食料、放射能検査機器などを運び込む拠点となった。

 被災地に住む英国人と依然として連絡はとれなかった。「避難所に外国人がいる」との情報もあったが、東京からではいかんともしがたかった。安否確認には被災地に入らなければならない。大使は現地に入ることを決めた。』

『震災3日目の3月13日朝、5人のスタッフと、スポーツタイプの大型車に同乗して仙台に向けて出発した。事前に日本政府から、緊急車両以外は通行止めとなっていた東北自動車道の通行許可をとった。ドライブインでは車に詰められるだけ食料や燃料、水、防災グッズを買い込んだ。

「大使は東京にとどまって指揮をとり、現地は部下に任す考えはなかったのですか」
と聞くと、こう返ってきた。

「こういう時はトップが被災地に姿を見せることが大事なのだ。英国は自国民を見捨てないというシグナルであり、困難な状況にある日本人被災者に『英国は日本人と共にここにいる』と、勇気づけるメッセージにもなる。東京の大使館はナンバー2が指揮できる」』

『被災地入りの決断を支えた「SAGE」の助言

当時、福島第1原発はすでに危機的状況にあった。前日の12日午後に、1号機が水素爆発。後に明らかになったが、13日早朝には3号機の炉心溶融が始まり、14日朝には核燃料の大部分が圧力容器の底を突き破って、格納容器へ溶け落ちていた。2号機も放射性物質を放出し始めていた。大使は放射線リスクをどう見ていたのか。』

『「本国政府を通じてSAGEの見解が随時入っていて、日本政府同様、福島第1原発から20キロ圏外であればリスクはほとんどないというのがSAGEの判断だった」

1号機の水素爆発が起きた12日夜、日本政府は第1原発から20 キロ圏内に暮らす住民に避難指示を出していた。ウォレン氏が他の大使に先駆けて被災地に入れたのも、SAGEの助言があったればこそだった。

SAGE=緊急時科学助言グループは、緊急時に科学的知見に基づいた助言を得るための英政府の組織で、各省庁の科学顧問や外部の専門家で構成されている。3・11の前は2010年のアイスランドの火山爆発の時に招集されている(新型コロナウイルス問題で日本政府の専門家会議はこのSAGEを下敷きにした。これについては後述する)。』

『仙台には7時間かけて午後3時半に着いた。一行は英大使館が押さえた仙台市内のビジネスホテルに入り、二手に分かれて、1チームは病院と避難所を回って英国人の消息をあたり、大使のチームは宮城県庁で県幹部に面会した。

「お悔やみを伝えると、大変な状況下でも皆、驚くほど親切で、こちらが恐縮するほどだった」「本来、取り乱していてもいい状況なのに、誰もが強靭かつ冷静な態度を保っていた」』

『翌日、米CNNテレビが大部隊でホテルに入り、追い出された大使一行は別のホテルに移り、そこを前線基地とした。ホテル入口の大広間に「英国人支援デスク」と大書し、英国旗ユニオンジャックを立てた。在留届を手掛かりに、被災地の英国人の家や避難所を回っているチームからも英国人の情報が入りはじめた。

大使チームは2日目、3日目と宮城県内の南三陸町、多賀城市、気仙沼市などの避難所に足を伸ばした。連絡が取れなかった英国人にも出会え、食料も手渡した。その間も余震が続き、その度、「避難の必要のあるなし」の連絡が大使館から入った。

「津波の惨状と、避難所の人々の静かで秩序だった態度の対照に私は心揺さぶられた」』

『避難所を回っている最中も、情報発信の観点から英メディアの電話取材に応じた。大使が力を入れて伝えたのは3点。「英国人支援デスク」の電話番号を広く報じてくれるよう頼み、日本政府が最大限の努力をして原発事故を抑え込もうとしていること、また避難所で会った日本人の驚くべき秩序正しさと冷静さに感動していると繰り返し話した。

 大使は3泊し、16日夕、東京に戻った。この後、交代で5チームが仙台に入って、大使館に届け出がありながら、連絡がとれない英国人の家を回った。最終的に英国人170人が支援デスクを訪れ、大使館チャーターのバスで東京に運ばれた。

 日本人の伴侶と家庭を持っていて、

「このまま被災地に居続けたい」
という英国人も少なくなかった。同氏が被災直後の現地を3泊4日にわたって見て回ったことは、英国人の安否情報の早期確認に大いに役立った。また英本国にとっても被災地の様子を詳しく知る手助けになったはずである。最終的にウォレン氏の危惧は杞憂で終わり、英国人には犠牲者はいなかった。』

『ウォレン氏につづいて被災地に入った駐日大使は、3月23日に米国のジョン・ルース大使(当時)夫妻が石巻市に、同26日にフランスのフィリップ・フォール大使(同)が仙台市に入った。しかし被災地に3泊もした大使はいない。 (続く)』

『西川恵
毎日新聞客員編集委員。日本交通文化協会常任理事。1947年長崎県生れ。テヘラン、パリ、ローマの各支局長、外信部長、専門編集委員を経て、2014年から客員編集委員。2009年、フランス国家功労勲章シュヴァリエ受章。著書に『皇室はなぜ世界で尊敬されるのか』(新潮新書)、『エリゼ宮の食卓』(新潮社、サントリー学芸賞)、『ワインと外交』(新潮新書)、『饗宴外交 ワインと料理で世界はまわる』(世界文化社)、『知られざる皇室外交』(角川書店)、『国際政治のゼロ年代』(毎日新聞社)、訳書に『超大国アメリカの文化力』(岩波書店、共訳)などがある。』

コロナ禍の5大システムトラブル、みずほ銀行だけではない「あきれた事情」

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00148/030400162/

 ※ 「木村岳史大先生」のご託宣だ…。

 ※ 非常に、本質的なところを抉って(えぐって)いると思われ、参考になる…。

 ※ ざっと一読しただけだが、「システム・トラブル」と言っているが、実は、問題は「システム」にあるのでは無い…。

 ※ 『そろそろ読者にも「木村が選ぶ5大システムトラブル」に共通する問題の本質が見えてきているのではないかと思う。そう、組織をまたぐ制度やルール、体制の欠如、丸めて言うと「仕組み」の欠如である。では、今回のみずほ銀行の「ATMにカードを吸い込まれた客を長時間放置」事件はどうか。もちろん同じことが言える。他と違い、みずほ銀行だけで「完結」するトラブルだったが、今回のような非常事態の際に誰がどう動くかという、部門をまたぐマニュアルに「バグ」があったのだ。やはり仕組みの不備である。

 冒頭でも書いた通り、休日にシステムトラブルが発生すればATMにカードを吸い込まれた大勢の客を長時間放置してしまうリスクがあると、容易に想定できたはずだ。にもかかわらず、ただちに各支店の担当者らが出向いて対応に当たったり、即座に緊急記者会見を開いたりして、カードなどを取り戻せない客を安心させる措置をとらなかった。その結果、客にとっても、みずほ銀行にとっても、今回のトラブルで考え得る最悪の結果を招いてしまったわけだ。』…。

 ※ ということで、問題の「根源」は、「システム」を包摂する、「仕組み」にある…。

 ※ オレの考えでは、世の中というものの「構造」は、「層構造」になっている…。ちょうど、マトリョーシカ(あるいは、玉ねぎ)みたいに、上部の層は、下部の層を”くるんで”(”包摂”して)いる構造になっている…。

 ※ だから、ここでの問題は、「システム」自体に存在するだけ…、という話しじゃ無い…。

 ※ オレの用語では、システムの「上部の層」、木村さんの用語では「仕組み」に存在している…。

 ※ 前に、「指揮官」というものの「資質」を、「その局面での、プライオリティの判断を、的確に下せる人材。」という観点から、語った…。

 ※ さらに、もう一つある…。それは、「事がらの”全体の層構造”を把握していて、そういう”層構造のプライオリティ”の判断を、的確に下せる人材。」というものだ…。

 ※ 『このように5大システムトラブルの問題の根っこは、システムに潜むプログラムのバグや不具合といった技術面にあるのではない。もちろん、バグや不具合が直接のきっかけとなって重大なトラブルが起こったわけだが、「きっかけ」はあくまでもきっかけにすぎない。そうではなく問題の根っこは、そのシステムを活用するビジネスやサービス全体の仕組みがきちんと設計・実装できていない点にある。

 サービス全体のきちんとした仕組みを検討せず、とりあえずつくってみたりするものだから、役に立たないどころか余計な仕事を増やすだけのシステムが出来上がるし、バグや不具合があっても放置されて重大な結果に立ち至る。そして、システムに障害など非常事態が発生した際に、サービスへの影響を極小化してリカバリーする手順やルールが、組織に「仕組みとして実装」されていないから、被害を無駄に大きくする。』…。

 ※ 『経営者など組織のトップも大いに問題がある。東証やみずほ銀行の記者会見で示されたように、経営者はシステムトラブルに対する自らの責任を自覚するようにはなっている。ただし、それは結果責任の自覚にすぎない。システムも含めたサービス全体の仕組み、ビジネス全体の仕組みや、何かあったときに被害を極小化してリカバリーする仕組みをつくるのはトップの責任だ、と心底理解している人はまだまだ少ない。トップにその自覚がないから「勝手にやっている現場の集合体」となり重大トラブルの火種を宿すのだ。』…。

 ※ しかし、現実の「指揮官」の姿は、こういうものが「現状」だ…。

 ※ 『 2020年度の5大システムトラブルは、そのことを如実に示したと言ってよい。極言暴論の熱心な読者ならよくご存じの通り、最近の極言暴論ではこの問題をいろいろな観点から取り上げてきた。まさに日本企業(そして公的機関)は「勝手にやっている現場の集合体」であり、全社的な仕組みをつくるのが苦手だ。特に複数の企業や公的機関にまたがる仕組みづくりとなると、お手上げ状態である。これはもう「日本の組織文化の病」とでも言うしかない。

関連記事:アマゾンの正論「善意は役に立たない」を理解しない日本企業、DXで赤っ恥は確実だ
関連記事:「ビジネスの仕組み」がないダメ企業ばかりの日本、そりゃ基幹系システムも最悪だな
関連記事:日本企業は「勝手にやっている現場の集合体」、だからDXは絶望的にうまくいかない 』

 ※ ということで、話しは「システム」だけ、「指揮官の資質」だけの問題じゃ、無くなってくる…。

 ※ 「日本型の組織」の特徴…、というものにも波及してくる…。

 ※ どこまで行っても、日本型の組織は、「勝手にやっている現場の集合体」で、「それぞれの階層での最適解」だけを追求するものになっている…、という話しになる…。

 ※ 「全体の層構造」の把握・認識ができていない限り、打つ手や策の立案は、「部分解」を探るものにしかならない…。

 ※ そこへ持って来て、「他人の領域については、口を出さない。」という文化・風土が、「部分解」の横行・暴走に、拍車をかけることになる…。

 『そう言えば最近、意味不明の重大トラブルが多すぎる。2020年度の新型コロナウイルス禍のさなかに発生した5つの重大トラブルをここに並べてみよう。いわば「木村が選ぶ2020年度の5大システムトラブル」である。

・新型コロナ禍対策の10万円「特別定額給付金」でオンライン申請が大混乱
・「ドコモ口座」を使った不正出金事件がゆうちょ銀行などで相次ぎ判明
・東京証券取引所のシステム障害で株式売買が終日停止
・接触確認アプリ「COCOA」の不具合を4カ月以上も放置
・みずほ銀行のシステム障害でATMにカードを吸い込まれた客を長時間放置

 こう並べてみると、読者の皆さんも改めてそのひどさにあきれるだろう。トラブルを引き起こしたのは官庁や金融機関、通信事業者といった面々で、いずれも他の企業以上にシステムトラブルやセキュリティー関連の事件事故を避けなければいけない立場にある。しかも、単なるシステム面だけの問題ではないので罪深い。あまりに愚か過ぎて、まさに意味不明である。』

 『そう言えばTwitterで、これら5大トラブルを列挙したうえで「日本のIT劣化を実感する1年だな」と締めてツイートしたら、フォロワーの人から「劣化」というのはおかしいと指摘を受けた。劣化というからには「以前は良かった」との前提が必要だが、日本のITは以前からペケだったのでは、との指摘だ。まさにその通りである。日本の政府や企業のIT利活用の駄目さ加減が、ここに来て一気に事件事故として表面化したと言ってよい。

 新型コロナ禍の対策として急きょシステムをつくらなければいけなくなったり、システムの運用面などに新たな制約が生じたりしたのかもしれないが、それはトラブルの言い訳にはならない。むしろ、開発の丸投げや保守運用体制の不備など、これまでいいかげんなことを続けてきたからこそ、新型コロナ禍という危機的状況で一気に惨事を招いたと言える。これら5大トラブルは、まさに新型コロナ禍のさなかにあぶり出された日本の惨状のショーケースなのである。』

『官のお笑いプロジェクト(失礼!)と言ってよい2つの炎上案件から振り返ってみよう。まずは、トラブル判明からあまり時がたっていない「『COCOA』の不具合を4カ月以上も放置」事件だ。新型コロナ感染の拡大防止策として導入したのに、Android版の不具合を4カ月以上にもわたって放置していたというから、これはもうあきれ果てるしかない。しかもその不具合は、陽性登録したアプリ利用者と接触しても検知・通知されないという重大な不具合である。

 原因として、官からITベンダーへ、そして下請けへの丸投げといった保守運用体制の問題などが指摘されている。もちろん、それもあるだろうが、COCOAが「とりあえずつくってみた」アプリにすぎない点も大きい。COCOAが本来の役割を果たすには、利用を促す制度面・体制面の仕組みが不可欠なはずなのにそれがない。陽性者との接触の通知が来ても保健所などですぐに検査できない状況が長く続いたというから、ひどいものだ。その程度の存在にすぎないCOCOAの不具合が放置されても、むべなるかなである。』

『とりあえずつくってみたという点では、「10万円『特別定額給付金』でオンライン申請が大混乱」事件を引き起こしたシステムも似たようなものだ。マイナンバー制度の個人向けサイト「マイナポータル」に専用フォームを設け、マイナンバーカード保有者が給付金をオンラインで申請できるようにしたまではよかったが、実際の業務を担う各自治体のシステムが間に合わない。専用フォームでは申請者の入力ミスをチェックできないという問題もあり、自治体の現場は大混乱に陥るという、トホホな事件だった。

関連記事:コロナ対策で政府のIT活用はコントなのか、透けて見える構造問題
 普通、自治体の担当者らと綿密に打ち合わせて要件を詰めてからシステムを構築し、業務がうまく回るように人的な体制面なども整えるでしょ。それを丸っきりやらずに、システムをとりあえずつくってみて、マイナンバーカードを持つ国民に「さあ使ってください」としたものだからたまらない。国民はオンラインで「電子申請」したはずだが、その裏で自治体の職員が手作業で処理するしかない事態に追い込まれた。まさに「システムの中に人がいた」状態である。』

『官のお笑い炎上案件のほうを先に見たが、企業が引き起こしたトラブルも似たようなものだ。違いと言えば、とてもじゃないが「お笑い」では済まない結果を招いたことぐらいか。中でも最も間抜けなのは「『ドコモ口座』を使った不正出金事件がゆうちょ銀行などで相次ぎ判明」事件である。NTTドコモの電子決済サービスである「ドコモ口座」を使った不正出金事件が相次いで分かり、その多くがゆうちょ銀行の口座からの不正出金だった。

 この事件では、決済サービス事業者側が厳密に本人確認をするか、銀行側がサービス連携の際に、口座や暗証番号などによる認証ではなく2要素認証を導入するかしていれば、被害の大半は防げたはずだ。ところが両者とも自らの対策を怠り、多数の不正利用を許してしまった。「相手のサービスのセキュリティーは万全のはず」との思い込みがあったのかもしれないが、連携するサービス全体でのセキュリティーを考慮しないのは、驚くべき思考停止である。

関連記事:ドコモとゆうちょ銀での不正利用は大事件、セキュリティー無視のお粗末な理由

 何が間抜けかって、人様のお金を扱うサービスを連携して提供するにもかかわらず、各企業の担当者が(時にはオンラインで)集まって、サービス全体の課題や問題点を検討した形跡がないことだ。当然「もしも」は想定されておらず、「もしも」に備える仕組みもルールも何もなかったわけだ。実は、同じことが「東証のシステム障害で株式売買が終日停止」事件にも言えるから、頭が痛いのだ。』

『東証のシステムトラブルでは、システムの再起動が可能であったにもかかわらず、取引開始時間前に受け付けていた注文の取り扱いを巡り「大きな混乱が予想される」として、終日の売買停止を選択せざるを得なかった。その結果、多くの投資家が丸1日、株式を売買する機会を奪われる結果となった。まさに重大なトラブルだが、記者会見で東証の経営陣の受け答えがあまりに「まとも」過ぎたため、私としたことが少し感動してしまうという「不覚」をとった。

関連記事:「富士通に損害賠償請求」発言から15年、東証のシステム障害会見に不覚を取った訳

 しかし、そのお粗末さは先ほどのドコモやゆうちょ銀行らと何ら変わりはない。早い段階でシステムを再起動できる状況にあったにもかかわらず、なぜ終日にわたりシステムを止めざるを得なくなったかというと、証券会社との間で明確なルールや手順を定めていなかったからだ。証券会社など市場参加者との間では、システムを相互に接続して密接に連携しているにもかかわらず、障害発生時における再起動の手順やルールを決めていなかったというから、たまげた話である。』

リモートが揺さぶる長期雇用 消える3つの「無限定」

リモートが揺さぶる長期雇用 消える3つの「無限定」
編集委員 水野裕司
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGH099390Z00C21A2000000/

『長期の雇用保障と引き換えに、転勤命令に従い長時間の残業も受け入れる。そうした日本の正社員の雇用慣行に、新型コロナウイルス禍で広がるリモートワークが風穴を開け始めた。たとえば遠く離れた地域の仕事もネットを介してこなせば、転勤は不要になる。気になるのは会社命令に従う代わりに正社員が享受してきた雇用保障の行方だ。

Nikkei Views
編集委員が日々のニュースを取り上げ、独自の切り口で分析します。
日本の雇用システムは職務を定…

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日本の雇用システムは職務を定めない雇用契約を土台に形づくられている。雇用契約は会社という組織の一員になる資格を得る意味があり、そのため日本型雇用はメンバーシップ(資格)型と呼ばれる。

職務が限定されず、受け持つ仕事の範囲が不明確なことは、さらに2つの正社員の特徴を生んだ。ひとつは仕事量が増えがちで、慢性的な長時間労働に陥りやすいこと。働く時間も限定されないわけだ。

もう一つは配置転換に柔軟に従う必要があり、本意でない転勤命令にも応じなければならないことだ。つまり働く場所も限定されず、どこに赴任することになるか分からない。日本の正社員の雇用はこうした3つの「無限定」の慣行から成ってきた。

リモートワークで急速に崩れるとみられるのがまず、勤務地が会社都合で決まり、本人の自由度が乏しい慣行だ。

富士通は本人が望まない単身赴任を解消する制度を始めた。社員に「遠隔勤務」を認め、親の介護など家族の事情で居住地を変えるのが難しい場合、転居せずに遠方からのリモートワークで業務をこなせるようにした。奈良県や福岡県に住みながら東京の本社の仕事をする社員もいる。地理的な距離を取り払うネットの力のおかげだ。

離れた2つのオフィス空間をつなぎ、双方の社員が協力して仕事を進められるようにして、転勤を不要にするリモート技術も登場した。内装会社のフロンティアコンサルティング(東京・中央)は、東京本社と大阪支店を常時接続し、互いに相手方の等身大の映像を映し出すシステムを導入した。会議や打ち合わせに活用している。

tonariが開発したシステムで大阪支店とやり取りするフロンティアコンサルティングの東京本社(東京都中央区)

ベンチャー企業のtonari(東京・渋谷)が開発したシステムで、画面の中央に高解像度の微少なカメラを埋め込んで自然と目線が合うようにし、相手が隣にいるような感覚で臨場感のあるコミュニケーションがとれる。「分散する事業拠点を、あたかもひとつの空間のように運営できる」とフロンティアコンサルティングの稲田晋司執行役員は話す。技術の進歩が在宅勤務に限らない「リモートワーク」を広げている。

転勤をめぐっては東亜ペイント(現トウペ)訴訟で1986年に最高裁が出した判決が知られる。転勤を拒否して解雇された元社員がその無効と損害賠償を求めた。単身赴任を強いられるこのケースで最高裁は、家庭生活への影響は「通常甘受すべき程度のもの」とみなし、転勤命令が会社の権利乱用には当たらないとした。

雇用保障があるのだから単身赴任は我慢すべきだという考え方だ。この判決は会社の転勤命令は原則拒否できないという暗黙のルールのよりどころとなった。だがリモートワークの普及で転勤自体が不要になっていけば、判決の重要性は薄れる。

正社員の働き方の根っこにある「職務が無限定」の慣行も、リモートワークが見直しを迫る。離れた場所で働く社員を的確に評価するには、受け持ってもらう仕事の内容を明確にし、可視化することが第一歩になるからだ。

経団連が1月に発表した人事・労務分野の調査によると、テレワークが広がるなかでは職務の明確化が求められると考える会員企業が目立った。「従業員個人の職務内容・範囲の明確化」を実施済み、実施予定の企業は合わせて30.3%。検討中とした企業も33.6%あった。

人材の活性化策として、ポジションごとに使命、役割や具体的な仕事内容を明確にする「ジョブ型」人事制度も産業界に広がり始めている。テレワークとの親和性が高いとする経営者が多い。職務を曖昧にし、正社員を便利な労働力と位置づけてきた日本的慣行は確実に崩れる方向にある。

「職務が無限定」の見直しが進めば長時間労働もおのずと是正に向かう。

政府の働き方改革では時間外労働への罰則付き上限規制が設けられた。長時間労働の是正に一定の成果を上げているが、職務が不明確という根っこの原因が除かれる効果は大きい。

「無限定」な働き方が見直されれば、その見返りに正社員が得てきた長期的な雇用保障は緩み始めておかしくない。現に、職務を曖昧にする慣行が崩れていけば様々な変化が起きると指摘されている。

「社員が携わる業務の可視化が進めば、正社員にまかせず外部委託で足りる仕事があることも見えてくる。リモートワークは正社員の人数を絞るきっかけになるのではないか」。経済学者の間にはそんな見方がある。

経団連は2021年春季労使交渉の企業向け指針である「経営労働政策特別委員会報告」で、ジョブ型雇用が企業に浸透すれば転職の橋渡しをする外部(企業外)労働市場の発達が期待できるとした。プロジェクトごとに専門性を備えた人材を期限付きで雇用するなど、人材の流動化が今後の方向性との認識だ。

労働組合の中央組織である連合はジョブ型について、「人工知能(AI)分野など高度専門人材の採用ではあり得る」としながらも、「技能育成を誰が担うのかなど、職場における課題の深掘りも必要」としている。テレワークの急速な広がりを背景に経団連が普及に積極的なジョブ型に対し、警戒感は強い。それだけ長期雇用の慣行への逆風を感じ取っているのではないか。

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ジョブ型を甘くみるな 人事・組織、根本から見直しを

ジョブ型を甘くみるな 人事・組織、根本から見直しを
編集委員 水野裕司
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK184VY0Y1A110C2000000

『経団連は19日に公表した春季労使交渉の企業向け指針で、「ジョブ型」雇用制度の積極的な導入を呼びかけた。職務ごとに最適な人材を充てるこの制度は企業の競争力強化策として関心が高まってきたが、従来の人事や組織を根本から見直す必要があり、安易な導入は禁物だ。どうすればジョブ型雇用をうまく実践できるのだろうか。

Nikkei Views
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ジョブ型制度は社内各ポストの職務内…

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ジョブ型制度は社内各ポストの職務内容を明確にし、その能力を持った人材を起用する。入社年次にとらわれず、有能な社員ほど難易度が高く待遇も良いポストに就くことができる。年功賃金や順送り人事を否定する人事処遇制度だ。

【関連記事】
高度人材は争奪戦 「ジョブ型」が武器に
「ジョブ型=成果主義」 日本に特有の誤解

肝は、社員間の競争を活発にする点にある。専門的な知識や技能が必要で報酬も高い職務に就くには、自らの能力を向上させなければならない。ポスト獲得競争を通じて個々人のレベルを引き上げ、企業の成長力を高めることがジョブ型制度の眼目だ。

高い賃金に見合った成果が出せていない中高年社員の人件費抑制策――ジョブ型雇用をそうとらえるだけでは、本質を見誤る。組織・人事コンサルティング大手マーサージャパンの白井正人取締役は、企業に求められるのは「社員個人の自律的なキャリア形成を促すこと」だと話す。

社員が就きたいポストに立候補できる仕組みがなければ、自らの能力を伸ばそうという意欲も高まりにくい。自分のキャリアを自分で切り開けるようにする手立てのひとつは、ポストの公募制だ。

2020年10月、全管理職約5千人にジョブ型の人事制度を導入した三菱ケミカルは、まず約200のポストの人事を社内公募で決めることにした。今後、公募対象のポストを広げる。3カ月ごとに公募を実施するという。

デジタル化とグローバル化が進み、経営環境の変化は激しさを増している。コロナ禍の収束が見通せず、世界経済の先行きは混沌としてきた。企業は環境変化に合わせて経営戦略や事業モデルを柔軟に変えていく必要がある。管理職も専門性やマネジメント能力を高め続けなければならず、公募制はそれを後押しする。

公募制は会社主導の人事異動の軌道修正を迫る。社員が雇用保障と引き換えに異動や転勤の命令に従ってきた日本型雇用の転機ともいえる。会社と社員の関係にもジョブ型雇用は変化をもたらしそうだ。

他部署の仕事を経験できる「社内副業」も、社員のキャリア形成を支援する仕掛けになる。

ジョブ型人事制度を21年から本格導入するKDDIは、社内公募制に加え就業時間の約2割を目安に所属部署以外の業務ができる社内副業制度を設けた。持ち場以外の仕事を実際に経験することは、キャリア形成上、いい刺激になる。

経団連は新卒入社者もジョブ型制度の対象とするよう求めている。KDDIはまだ少ない例のひとつだ。21年4月に入社する新卒者約270人の約4割は「ジョブ型採用」1期生。データサイエンス、法務、会計など、配属する業務を約束して採用した。

「若い社員ほど新たな挑戦がしやすく、異なる分野へ仕事の幅を広げやすい。ジョブ型は若手を対象にしてこそ意味がある」(白井氏)。日本企業のジョブ型導入は現在、管理職が中心。幅広い年齢層への展開が課題だ。

権限移譲もジョブ型雇用では求められる。ジョブ型が定着した欧米企業では、各部署のリーダーの重要な役割は組織の力を最大化できる「ベストチーム」をつくることだ。トップの方針に沿って組織の目標を立て、その達成に貢献できる人材を集める。人材の採用権限は各組織にある。

ジョブ型制度を管理職から拡大する計画の富士通は、採用権限を順次、各事業部門に移していく考えだ。事業戦略をもとに、新卒・中途とも通年で各部門が採用する。人事部が一括して調達し、社内に割り振ってきた日本企業の採用は、ジョブ型の浸透とともに変わらざるを得ない。

ジョブ型雇用は本来、社外からも多様な経験を持った人材を集め、環境変化への対応力を高めるための制度だ。日立製作所が全社的なジョブ型制度の導入を急ぐのも、デジタル化が急速ななかで企業が成長するには人材の流動性の向上が不可欠と判断したからだ。技術革新やグローバル競争の最前線にいる企業ほど、ジョブ型雇用は適している。

改革が社内で実力主義を徹底するといった狙いからなら、あえて労力のかかるジョブ型を導入しなくても道はある。「目標管理制度をしっかり機能させ、仕事内容と賃金をきっちり連動させれば、課題を解決できる企業が多いのではないか」とリクルートワークス研究所の中村天江主任研究員は指摘する。どんな雇用制度を採るべきかは目的によって異なってくる。何のための雇用制度改革か、明確にすることが先決だ。

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多様な観点からニュースを考える
※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

野崎浩成のアバター
野崎浩成
東洋大学 国際学部教授
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別の視点 現在多くの日本企業が抱える問題の本質は、雇用形態の問題ではなく、人事制度の根幹の問題ではないでしょうか。

昇格はさておき、昇進と人事評価を結びつけることが年次管理であったり、マネジメント能力の欠如する上席者を作ってしまいます。

管理能力と仕事の評価を分けて、前者とポスト、後者と報酬を結び付ければ、よりシンプルにインセンティブ設計ができると思います。
2021年1月20日 14:01いいね
13

鈴木一人のアバター
鈴木一人
東京大学 公共政策大学院 教授
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別の視点 ジョブ型の雇用が定着することになれば、大学などのキャリア前の教育の在り方も変わっていく。学生はより即戦力としての能力をつけられるような学部や大学院に集中し、教養的な学問は敬遠される可能性はある。若手のうちにジョブ型のキャリアを積んでいくとなると、将来管理職の地位に上がっていくにつれ、そうした教養や視野の広さが必要になった時に、そうしたバックグラウンドがないまま狭隘な実学的世界でしかものを見られない人材になってしまう。その意味でも大学教育では視野を広げるような学問をしっかりと教え、新卒学生だけでなく、管理職になっていく人たちのための学問も考えていかなければならないかもしれない。
2021年1月20日 13:54いいね
12

石塚由紀夫のアバター
石塚由紀夫
日本経済新聞社 編集委員
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ひとこと解説 ジョブ型雇用は企業の競争力を削ぐ――本場欧米では、こんな見方も広がっています。
生産性向上には新技術導入や業務プロセス合理化などが必須です。ただジョブ型雇用だと、こうした生産性向上策は自分の仕事の削減・消滅につながるため、当事者は技術革新に消極的な行動を取りがちだという指摘です。
日本型のメンバーシップ型雇用であれば、目先の仕事がなくなっても社内でジョブチェンジできます。そのため雇用者も経営効率化を最優先し、最善の生産性向上策を導入できました。
いずれにせよジョブ型雇用の課題は出口戦略。辞めてもらうか、ほかのジョブに就け替えるか。今、安易にジョブ型雇用を導入しても将来に禍根を残します。
2021年1月20日 12:39いいね
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山本康正のアバター
山本康正
DNX Ventures インダストリーパートナー
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別の視点 サッカーなどのスポーツの強豪で、年次でチームメンバーを決めることはあるでしょうか。まずないと思います。攻めのプロは攻めのプロ、守りは守りのプロがいると思います。これまでの考え方はゴールキーパーをさせて、フォワードをさせてと主要なポジションを経験させてから社長というキャリアパスだったと思いますが、今の時代は違うと思います。更に言うと、データの活用によってビジネスモデル自体が変動しているため、サッカーから突然ラグビーにスポーツのルールが突然変わっている様な状態です。チームメンバーを社内補充だけではまず負ける可能性が高いです。同窓会組織の活用など、あの手この手で外の知見も取り込まなければなりません。
2021年1月20日 11:38 (2021年1月20日 11:40更新)
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テレワークで勤務多様に 富士通は遠隔地の居住解禁

https://www.nikkei.com/article/DGXZQODZ241XG0U0A221C2000000

『新型コロナウイルス感染拡大で、テレワークを前提とした多様な働き方が広がっている。富士通は配属地以外での遠隔勤務を認め、単身赴任の解消につなげる。ソフトウエアのテストを手掛けるSHIFTは在宅専門のエンジニア採用を始めた。休暇先で業務を行うワーケーション制度を導入する企業も増えている。テレワーク助成なども広がり、暮らし方や場所の制限を受けない全員参加型の働き方が可能になってきた。

内閣府が2020年12月…

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内閣府が2020年12月に全国約1万人を対象に実施した調査では国内のテレワーク実施率は21.5%と19年12月調査(10.3%)の2倍。東京23区内の実施率も同2.4倍の42.8%と、テレワーク普及が進む。

【関連記事】
通信費、半額非課税に 社員のテレワーク補助で政府指針
「だから私はテレワークしない」 普及を阻む3大理由

富士通はこのほど、遠隔勤務を認めた。親の介護や配偶者の事情で遠隔地に移住せざるを得ず退社するケースがあった。人材を引き留めるためにも部署やポストも変わらず、テレワークで仕事を継続できるようにした。東京都内の本社に所属しながら奈良県や福岡県から働く社員もいる。

約4千人いる単身赴任者も本人が希望すれば家族がいる場所に戻り、遠隔勤務に切り替えられるようにもする。富士通はオフィス出社は最大25%に抑えている。国内グループ会社を含めたオフィス面積を約3年で半減する作業も進めている。

日本でも共働きの一般化で配偶者の転勤に伴う帯同は難しくなっている。夫婦がそれぞれのキャリアを継続するため片方が単身赴任を選ぶケースは多い。

水処理大手のメタウォーターも20年夏、テレワークを活用することで単身赴任を解除する仕組みを導入。すでに約10人が単身赴任を外れ、帰任した。カルビーも所属部門が認めた場合の単身赴任の解消を決めた。

テレワークは欧米に比べて遅れていた「ワーケーション」の普及も後押ししそうだ。日本航空(JAL)は20年4~12月に延べ688人が利用した。働く動機を高める効果を期待して、顧客情報管理の米セールスフォース・ドットコムの日本法人は和歌山県白浜町にある施設でワーケーションを認めている。

テレワークは企業の拠点が少ない地方に住む人々の働く機会の拡大にもつながる。SHIFTは居住地を問わないテレワーク専門職の採用を始めている。SHIFTがオフィスを持たない広島県で業務に従事している社員がいるという。

テレワークで副業の機会を得る人も多い。地方企業に対してネット経由で副業人材を仲介するJOINS(東京・千代田)では、20年12月末時点で専用サイトに登録する副業希望者は約5千人となり、同1月比で4倍に増えた。中小企業のホームページ制作を支援するITエンジニアなどの登録が増えており、「在宅勤務の浸透で、本業との両立が可能になったことが大きい」(同社)。

クリックするとビジュアルデータへ https://vdata.nikkei.com/newsgraphics/coronavirus-workstyle/

少子高齢化の加速で国内の労働力人口は減少が続く。パーソル総合研究所(東京・千代田)と中央大学は、30年時点で労働需要が労働供給を644万人上回ると予測する。場所を選ばないテレワークが普及すれば、女性や高齢者などの労働参加も高め、中長期的な日本の労働力不足を緩和する効果も期待できる。

通信費、半額非課税に 社員のテレワーク補助で政府指針

https://www.nikkei.com/article/DGXZQODF145610U1A110C2000000

『新型コロナウイルスの感染拡大を機に企業が在宅勤務といった新しい働き方に対応したルールの整備を進めている。キリンホールディングスなどは従業員に手当を支給し在宅勤務への移行を促す。政府もこうした働き方の定着をにらみ税制面の対応を急ぐ。通信費の半額はテレワークに使用したとして所得税の課税対象にしないなど課税基準を明確にする。

新型コロナの感染拡大で2020年春に在宅勤務が広がり始めて以降、企業では在宅にともなう社員の負担を軽…

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・新型コロナの感染拡大で2020年春に在宅勤務が広がり始めて以降、企業では在宅にともなう社員の負担を軽減する動きが広がっている。社員向けのルールの変更で目立つのは手当の見直しだ。

・キリンホールディングスは工場勤務以外で週3日以上、在宅で勤務する社員約4000人を対象に月3000円の手当の支給を始めた。事後精算で定期代を支払う仕組みをやめ、出社時などの交通費を実費精算する形に変えた。同様の制度は富士通やソフトバンクなども導入している。

・中小企業でも動きが出ている。プログラミング教育のキラメックス(東京・渋谷)はパソコンを在宅勤務で利用する場合の通信費を会社で負担する。

・従来にない手当の支給では企業にとって税務処理が複雑になりかねない問題がある。特にテレワークの補助に関する税制は、どこまでが課税対象になるかが曖昧だった。財務省と国税庁は在宅勤務の普及の流れを維持するため対応が必要と判断。15日に国税庁が新たな指針を公表する。

・企業が従業員向けにスマートフォンやWi-Fiなどの通信費を補助する場合、実際に使う分の実費相当以外は給与とみなされ、所得税の課税対象になる。明細がある通話料と異なり、通信費は家庭用と仕事用の区別が難しい。企業からは源泉徴収の事務負担が増える懸念があり、目安を示してほしいとの要望が多かった。

・国税庁の指針では、在宅勤務をした日数分の通信費のうち、2分の1は仕事で使ったものと認める。残りは私用などとみなす。月30日のうち半分の15日を在宅で勤務すれば、通信費全体の4分の1が非課税となる。電気料金も目安を示し、業務で使った自宅の部屋の床面積などで水準が決まる仕組みにする。

・今年1月分の税額の計算から適用できる見通しで、企業の担当者は交通費などの補助と同様に税務処理を進めやすくなる。国が明確な目安を示すことで、より多くの企業が補助の導入に動く効果も期待できる。

・政府はこれまで11都府県に緊急事態宣言を発令した。感染防止で人の接触を減らすには夜の飲食の制限とともに会社員の出勤を減らすことがカギを握る。政府は出勤者数の7割削減を目標として在宅勤務を広げるよう企業に求めている。

【関連記事】

自宅をオフィスにして籠城 在宅勤務の費用は誰が?
在宅ワークの費用、だれが負担する? 就業規則で明確に
新型肺炎

「だから私はテレワークしない」 普及を阻む3大理由

「だから私はテレワークしない」 普及を阻む3大理由
テレワーク成功の勘所(24)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFK141JS0U0A211C2000000

『2020年は「テレワーク元年」ともいえる年だった。新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐ目的で多くの企業が在宅勤務の活用に乗り出した。一方でいまだテレワークを拒む人もいる。その理由を独自調査で探ってみると、在宅勤務の普及を阻む要素がみえてきた。

【前回記事】

テレワーク効率低い40~50代 若手は冷ややかな目
調査は日経BP総合研究所イノベーションICTラボが日経BPのデジタルメディアの読者・会員を対象にウェブサイトを通じて20年10月に実施した。「直近1カ月において、あなたはテレワークを利用して職場(派遣・常駐先を含む)以外でどの程度働きましたか」と聞き、テレワークをしていないと答えた人にその理由を尋ねた(複数回答可)。

IT整備はそれなりに進んだが、制度の整備が遅れている

「直近1カ月において、あなたはテレワークを利用して職場(派遣・常駐先を含む)以外でどの程度働きましたか」との質問に「利用していないが、今後利用する予定」もしくは「テレワーク可能な仕事であるが、テレワークを利用していないし、今後も利用する予定はない」と答えた人の回答を集計した(出所:日経BP総合研究所イノベーションICTラボ)
利用しない理由の首位は「勤務先(または派遣・常駐先)がテレワーク制度を導入していないから」で37.3%の人が挙げた。ノートパソコンやウェブ会議ツールなどIT(情報技術)インフラの導入に比べて、制度面での対応が後手に回る企業が少なくないようだ。

自由意見には次のような声があった。「会社として形だけのテレワークに終始しているように思う。会社の就業規則や業務のシステム化などに課題がある」(製造、係長・主任クラス)

2位は「出社することでON/OFFを区分し、心身を仕事モードに切り替えたいから」で32.2%だった。3位は「同僚(上司や部下を含む)や取引先、顧客と直接対話したいから」で25.4%の人が選んだ。

4月比で増えた「心身を切り替えたい」
ここで日経BP総研が書籍「テレワーク大全」の発行に向けて4月に実施したテレワークの調査結果と比べてみたい。緊急事態宣言直後に実施した4月調査でも同じ設問を聞いているので、回答別の割合をグラフにまとめた。

テレワークしない理由についての回答で、4月調査と比べて最も増えたのは「出社することでON/OFFを区分し、心身を仕事モードに切り替えたいから」だった。同回答を選んだ人の割合は23.5ポイントも増加した。2位は「同僚(上司や部下を含む)や取引先、顧客と直接対話したいから」(17.5ポイント増)だった。

4月に緊急事態宣言が出されてから半年以上、テレワークを継続してみた本音として、気持ちの切り替えや同僚とのコミュニケーションに課題を感じる人はいるだろう。

自由意見でも「テレワークは移動時間が減るなど効率的な面があるが、仕事とそれ以外の時間の切り替えが難しく、微妙なコミュニケーションが取りづらいために仲間意識が育ちにくい」(IT・通信、専門職)、「テレワーク勤務によるコミュニケーションの希薄化が懸念される」(コンサルティング・調査、課長クラス)などの書き込みがあった。

4月比で選んだ人の割合が増えた回答の3位は「テレワークに適した環境が自宅にないから」で11.7ポイント増だった。4位の「テレワークを利用すると生産性が下がる・下がりそうだから」(10.9ポイント増)までが、4月比で10ポイント以上増えた。

テレワークをしてみたけれど成果が上がらなかったのでオフィスに回帰する、という人も少なからずいるだろう。直近1カ月はテレワークを利用していないと回答した、建設業の役員は「コロナ影響の低下がうかがえるので」と自由意見を述べた。

IT環境は半年で改善
この半年強で改善が進んだ要素もある。4月調査に比べて「利用しない理由」に選んだ人の割合が下がった要素の首位は「勤務先(または派遣・常駐先)がテレワークに必要なITシステム・インフラを整えていないから」だった。23.8ポイントも減った。

2位は「職場(または派遣・常駐先)で扱う帳票や文書の電子化が進んでいないから」(4月比12.4ポイント減)、3位は「情報セキュリティーの確保に不安があるから」(同4.9ポイント減)だった。日本企業におけるIT面でのテレワーク対応はそれなりに進んだようだ。

一方で専用機器などを使う仕事などは、テレワークを活用するのは難しい。「CAD(コンピューターによる設計)システムなどの導入が難しい」(コンサルティング、部長クラス)というコメントは、その通りだろう。

「テレワークに適さない業務を担当している」と答えた人に具体的な業務を回答してもらった。列挙してみると次の通りである。

建設などの現場作業、現場監督/管理、営業、システムなどの運用、現場検査/検査関連、発送業務、病院勤務、経営企画、人事総務、人工衛星の運用業務、自営業、農業――。

20年の時点では「確かにテレワークは難しそうだ」と感じる仕事が並んでいる。だが今後デジタル技術の進化により、これらの業務をこなす人でも遠隔勤務がしやすくなる時代が到来する可能性は十分にある。

「100年後には『昔は電車に乗って、オフィスという共有スペースに人が集まって仕事をしていたんですよ』と言っている気がします」(IT・通信、派遣・契約社員)。調査にはこんな自由意見も寄せられた。

新型コロナの問題も残念ながら収束にはもう少し時間がかかりそうだ。21年もテレワークを活用するシーンは少なくないだろう。この状況を好機ととらえ、新しい働き方を追究し、確立できる企業だけがニューノーマル(新常態)の時代を勝ち抜ける。

(日経BP総合研究所イノベーションICTラボ上席研究員 大和田尚孝)

【テレワーク成功の勘所 記事一覧】
・ハンコは命より大切か テレワークで「長期戦」に備え https://www.nikkei.com/article/DGXMZO59521250V20C20A5000000/?n_cid=DSREA001
・生産性「下がった」6割超 間違いだらけのウェブ会議 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO59586800W0A520C2000000/?n_cid=DSREA001
・テレワーク成功に導く就業規則見直し 3つのポイント https://www.nikkei.com/article/DGXMZO59811700R00C20A6000000/?n_cid=DSREA001
・経営者がテレワーク阻害 「日立ショック」で変わるか https://www.nikkei.com/article/DGXMZO59980920U0A600C2000000/?n_cid=DSREA001
・派遣社員にも臨時手当 IT企業が異色のテレワーク https://www.nikkei.com/article/DGXMZO60243070R10C20A6000000/?n_cid=DSREA001
・「在宅勤務率」の落とし穴 社員に不便を強いるだけ? https://www.nikkei.com/article/DGXMZO60484140Y0A610C2000000/?n_cid=DSREA001
・テレワークで銀行システム統合 「3密」開発変わるか https://www.nikkei.com/article/DGXMZO60680570T20C20A6000000/?n_cid=DSREA001
・コロナ死ゼロ「ベトナムの奇跡」支えたデジタル活用 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61118730T00C20A7000000/?n_cid=DSREA001
・富士通が目指すDX伝道師 テレワーク起点に全社改革 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61282670Y0A700C2000000/?n_cid=DSREA001
・テレワーク「新・三種の神器」を生かす https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61442910T10C20A7000000/?n_cid=DSREA001
・ウェブ会議の表示が遅れる 犯人は誰だ https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61845310S0A720C2000000/?n_cid=DSREA001
・ウェブ会議「私だけ遅い」 社内の怪奇現象の正体 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62034030Z20C20A7000000/?n_cid=DSREA001
・テレワークを阻む自宅ネット回線 いま見直すポイント https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62364920W0A800C2000000/?n_cid=DSREA001
・効率悪い日本のテレワーク IT投資とリテラシー不足 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62966690U0A820C2000000/?n_cid=DSREA001
・隠れ残業でテレワーク疲れ 公私切り替えに悩む社員 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO63304830R00C20A9000000/?n_cid=DSREA001
・テレワーク移住定着するか 脱サラせずに地方へ https://www.nikkei.com/article/DGXMZO63844900V10C20A9000000/?n_cid=DSREA001
・テレワーク難民の自治体職員 80万人救う異例の計画 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO64142990T20C20A9000000/?n_cid=DSREA001
・テレワークの情報漏洩対策 知らないと「大事故」に https://www.nikkei.com/article/DGXMZO64142990T20C20A9000000/?n_cid=DSREA001
・「抜擢」は時代遅れ 三菱ケミカルが挑むジョブ型改革 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO65260610R21C20A0000000/?n_cid=DSREA001
・ソフトバンクG急回復 孫氏、Zoom越しの目利き力 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO66043310Q0A111C2000000/?n_cid=DSREA001
・日立がペーパーレス大作戦 年5億枚削減、ハンコ全廃 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO66258000W0A111C2000000/?n_cid=DSREA001
・テレワーク新たな課題は「同僚との対話」 半年で悪化 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO66613030V21C20A1000000/?n_cid=DSREA001
・テレワーク効率低い40~50代 若手は冷ややかな目』 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFK022H20S0A201C2000000?n_cid=DSREA001

能力主義の負の側面、チームの士気を下げる「優秀だがいやなやつ」

能力主義の負の側面、チームの士気を下げる「優秀だがいやなやつ」
クライブ・トンプソン テクノロジーライター
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01472/111800003/

 ※ こういう話しは、よくよく噛みしめておいた方がいい…。

 ※ 人は、決して、一人で何でもできるわけじゃないんだ…。

『「社会を作り変えたいなら、コードを書くのが一番だ」――。ソフトウエアが世の中を大きく変えている今、それを作り上げるコーダーの存在感は高まる一方だ。優秀なコーダーをひき付けられるかが、企業の競争優位性を大きく左右するまでになっている。本特集では5回にわたって、そんなコーダーたちの実像に迫る。

 プログラミングは意志の力のみが物を言う才能の世界で、桁違いの能力差が存在するとコーダーは考えがちだが、そうなるのは、ある意味、当たり前である。

 なにせ、毎日、実感することばかりなのだ。コンピューターに怒ってもしかたないし、どやしつけたらテストの結果がまっとうになるなんてこともない。プログラマーのメレディス・L・パターソンが2014年に書いたエッセイから一節を紹介しよう。

 「ルートシェル相手に口論しても意味がない。相手によってコードが対応を変えることなどありえない。コードが自分の価値を決めるのであって、逆はありえないのだ」

 ふつうの人はできる振りをしたり言い逃れをしたり、言いくるめようとしたりするが、プログラマーは走るコードに敬意を払う。それ以上でもそれ以下でもない。フェイスブックを上場したとき、マーク・ザッカーバーグが書いたオープンレターの一節を紹介しよう。

 「ハッカーというのは、新しいアイデアがうまくいきそうかとかどう作るのが一番いいかとかを何日も議論するより、とりあえず作ってみて、どのあたりがうまくいくのかを確かめてみる人種です。だから、フェイスブックでは『論よりコード』とよく言うのです……また、とてもオープンで能力主義というのも、ハッカーの文化です。一番大事なのはアイデアやその実現であり、それを推進しているのがだれであるとか、その人が部下をたくさん抱えているとかは関係ないと考えるのです」

 プログラミングには、もうひとついい点があるとコーダーは言う。独学で、高学歴の人間と肩を並べられる工学分野はこれだけだ、と。ミドルスクール時代に独学でプログラミングを学び、大学院で情報科学の博士号を得たあと、会社をいくつも創業したコーダー、ジョアンナ・ブルーワーもそう考えるひとりだ。

 「科学・技術・工学・数学、いわゆるSTEMの世界で、博士号を持っているような人が完全に自学自習の人と肩を並べる分野は、コンピューターサイエンスしかないでしょう。すばらしい特徴です」

 一方、能力主義の根底には自画自賛の側面も否定できないと言うコーダーも少なくない。

 新入社員のころや高校などでは人付き合いのうまさで序列が決まりがちだが、そんな時代に、引っ込み思案で決まりの悪い思いばかりをしてきたら、プログラミングは客観的な世界であるとの考えに惹かれるのも無理はないだろう。

 たとえば、ハイ・パフォーマンス・コンピューティングの博士号を持ち、スタンフォード大学で教壇に立っているシンシア・リーは、1990年代から2000年代、コーダーとしてスタートアップで働いていたが、周囲には、若いころ、仲間はずれにされているとかわかってもらえないとか思っていた人がたくさんいて、みな、ここは、そういう口先人間がちやほやされるとは限らない世界だと大喜びしていたという。

「我々がいた技術世界では、切れ者っぽい印象の人やスーツ姿の人には疑いの目が向けられがちでした。いわば敵側ですからね。1980年代の青春映画を観ればわかりますが、当時の高校で人気だったタイプです。対して、我々は、オタクの楽園を作っていたのですから」』

『クオーラとピンタレストで怒濤の成果を挙げたことで知られるトレイシー・チョウも、同じように考えているという。ピンタレストの共同創業者、ベン・シルバーマンが究極のロックスターだと語ったプログラマーである。

 「ソフトウエアの成功者は、ほかの分野で成功してきた人とタイプが違うと思います。また、ここでは、自分の力で成功したと思えないと、成功した実感が得られないのではないでしょうか」

 プログラミングというものは、門外漢にとってはまずまちがいなくわかりづらいし、同じ仕事をしている人にとってもわかりやすいとは限らない。だから、適当なことを言っても通りやすいのだとトレイシーは言う。

 「コードはほとんどの人にとってわかりにくかったり隠れたところで動いていたりするのも一因でしょう。表に出ていても、たいがい、なにがどうなっているのかわかりませんし。ですから、『能力次第の世界、わかる人にはわかる世界なんだよ』と言っておけばなんとなくそんなものかと思ってもらえたりするのです」

 だれでも中を見たりいじったりできるようにコードをオンラインで公開するオープンソースソフトウエアの世界は、特に能力主義の色彩が濃いとされている。自分の貢献を成果として受け入れてもらえるよう競うことになるからだ(お金はもらわないことが多い)。

 実例として、オープンソース関連で一番有名な成功物語となったオペレーティングシステム、GNU/Linux(たいていは、単に「Linux」と呼ばれる)について見てみよう。コンピューターを動かす基本のオペレーティングシステムである点はウィンドウズやMacOSと同じだが、無償で使えること、2500万行ほどもあるコードをだれでも自由にダウンロードして中を見られることなどは大きく違う。

 Linuxの起源は1991年。フィンランドの大学生リーナス・トーバルズが、あくまで趣味として、オペレーティングシステムのカーネルを自作してみようと思ったのだ。オンラインで公開したとき本人も書いているように、大がかりなプロの作品にするつもりなどなかった。だから、シンプルなカーネルができたとき、ほかのハッカーが見られるようにソースコードを公開した。

 そして、雪だるま式の拡張が始まった。世界各地のプログラマーから機能追加の提案コードやバグの修正提案などが届くようになったのだ。よさげな提案は採用。こうして、何百人、何千人もの貢献により、Linuxは、機能がどんどん強化されていった。

 スタイルの異なるコーダーがよってたかっていじってもコードがぐちゃぐちゃにならないようにするため、トーバルズは、「ギット」なるものを開発する(いま、幅広いコーダーに活用されているソフトウエアだ)。ギットを使うと、だれかの貢献を組み込むことも簡単にできるし、その結果、動作がおかしくなったりしたら、元に戻すことも簡単にできる。

 一部ファンが主張していることなのだが、いまのオープンソースは、メリットの市場競争といった感じになっている。多くのコーダーがよいと認め、これなら我々のプロジェクトに組み込んでもいいんじゃないかとなるのはだれのアイデアなのか、それを競っているわけだ。オープンソースとはメリットの純度を高める蒸留だと言ってもいいだろう。

 Linuxにおいて、トーバルズは、役に立つしよくできていると思った貢献のみをLinuxのコードベースに取り込む「善意の独裁者」の役割を果たしている。貢献の敷居はきわめて低い。

 Linuxのソースコードをダウンロードし、そこに手を加えて(ギットを使って変更すれば、木構造で改変場所がわかる)、こういう改変をしてみたんだけどどうだろうとコア・コントリビューターに送るだけでいい。優れた改変だと判断されれば採用され、世界中で使われるようになるわけだ。実際にはもう少しややこしかったりするが、基本的にはそんな感じである。』

『2016年、ポートランドにトーバルズを訪ねたとき、次のように言われた。

 「手元に自分の木があって、好きなようにできるわけです。クレイジーなことを試し、それがうまくいって、かつ、それが実はクレイジーでもなんでもないんだとわかれば、見てくれよとその木を公開すればいいのです。それがすごくいいものだったら、いろんな人が採用してくれます」

 私が会いに行ったころのトーバルズは、もう、自分でコードを書くことがほとんどない状態になっていた。ケーブルやいろいろな道具(スキューバダイビングが趣味で、ダイビング用のソフトウエアも作っている)が転がる自宅の小さなオフィスに座り、毎日、送られてくるコードのチェックをする、いわば、大賢者としてソフトウエアを判断するのが仕事になっていたのだ。

 ちなみに、彼のところまで到達するには、まず、メンテナーと呼ばれる人々による審査を通らなければならない。メンテナーとは中核となる貢献者のことで、自発的にLinuxのコードをたくさん書いたり他人のコードを評価したりして、やる気があるとトーバルズや他のメンテナーに認められた人々だ。ここに入れれば、かなりの実力者ということになる。

 Linuxはコンピューティング分野で広く使われており、インテル、レッドハット、サムスンなどのテック企業には、Linuxへの貢献を業務の一環とする社員やそれが専門の社員までいるようになっている。だから、Linux貢献者の中核と認められるのは、履歴書の売りにもなるほどのことだ。

 有名オープンソースプロジェクトに対する貢献はキャリアアップにつながることが多い。だから、たくさんのコーダーが貢献しようとする。週末の趣味として作ったプロジェクトをオープンソースとしてギットハブなどのサイトに公開するコーダーが多いのも同じ理由だ。自分の仕事を見てもらえるのもうれしいし、自分用に作ったツールをほかの人が使ってくれるのもうれしい。

 さらに、ほかの人々のコードを見て、どう作っているのかを知るのは勉強になる。生態系の一員としてそういう義務があると感じるコーダーも少なくない。自分のコードをオープンソースとして公開したり、ほかの人々のプロジェクトに貢献したりという形で、受けた恩を返しているというのだ。

 取材したコーダーは、全員が、仕事でオープンソースのコードを大量に活用していると言っても過言ではないし、高額の仕事にオープンソースのコードが使われているのも当たり前のことと言える。

 つまりオープンソースとは、いかに心を揺さぶるかのアダム・スミス的競争とカール・マルクスが喜びそうな共産主義的気風とが混然一体となってモチベーションを生み出しているわけだ。そして、それを支えているのが、コードはうそをつかない、つまり、コードが優れていれば、仲間にはわかるし、そういうコードは受け入れられるという理想である。

 「口からでまかせには、みな、眉をひそめるものなのです」とトーバルズは言う。』

『たしかによさげである。だが、スーパーヒーロー級の人材を中心とした世界は、実際のところ、ぐちゃぐちゃになりがちだし、生産性も思ったほど上がらなかったりする。ソフトウエアアーキテクト、ジョナサン・ソローザノ=ハミルトンの体験談を紹介しよう。

 話の主人公は、彼と同じ会社で働いていた自称ロックスタープログラマーである。ソローザノ=ハミルトンのブログでは、リックという名で呼ばれている。リックは「困ったら彼に聞け。そうすれば、ホワイトボードに解決策をさっと書いてくれる」と社内でうわさされるほど優秀で、ヘッドアーキテクトとしてプロジェクトの設計に携わりつつ、エースプログラマーとしてコードを書きまくっていた。彼のおかげで苦境を脱したことも数え切れないくらいあった。

 そんなことをくり返した結果、彼は、自分なしにはなにごともうまくいかない、自分のスキルがすべてを左右すると思うようになったらしい。自分はコーディングのスーパースターである、10倍優秀な人材で凡人とは格が違う、と。そして、あれもこれも背負いこんでいく。

 だが、リックが頑張っても、プロジェクトは遅れていく。ある程度以上大きなプロジェクトは、いかに優秀でもひとりでどうにかできるはずがないのだ。丸1年遅れた時点で、もう2年はかかるほどの遅れだ。リックはヒーローになろうと必死に働いた。上司も、彼の好きにさせていたようだ。当時の状況をソローザノ=ハミルトンは次のように書いている。

「リックはコードを書きまくっていました。毎日12時間、休みなく仕事をしていたのです。この状況を打開できるのはリックしかいないと、みんな、思っていました。息をひそめ、ずたぼろのプロジェクトをなんとかまとめる魔法のような解決策をリックが思いついてくれるのをじっと待っていたのです」

 だが、リックは、過労でいらつき、内にこもるようになっていく。

 このあたりで、事態を打開できないかとソローザノ=ハミルトンに声がかかった。まずはリックに会って話を聞いたが、「あんたなんかに、オレの作ったものが理解できるはずがない。オレはアルバート・アインシュタインで、あんたらみんなはサルで、泥をこねるしか能がないんだから」と取り付く島もない。

 コードを確認すると、これが、スタイルが独特な上、コメントなどがなく、本人以外に手を入れられそうにないものだった。だから、関係者全員が一緒に作る形で一から製品を作り直すことにした。リックはそれも拒絶。休まず仕事を続けるし、ほかの人が書き換えたところを元に戻したり、周りをさげすむようなことを言ったりした。事態は悪化の一途である。

 結局、彼は首にするしかなかった。すると事態は好転した。残った社員が協力し、シンプルな製品を開発。最終的には、サイズも複雑さも20%以上削減することができた。つまり、発注元にとって読みやすいし理解しやすく、また、保守もしやすくなったということだ。スーパーヒーローなんていらなかったわけだ。しかも、開発期間はわずかに6カ月強である。

「リックほどのプログラマーはいませんでした。なんでも自分で作ろうとする鬼才はいなかったのです。その結果、生産性はかつてないほど高くなりました」

 ソローザノ=ハミルトンは、こう結んでいる。

 これは、能力主義の悪い面がもろに出た例だと言える。優秀だがいやなやつ、つまり、自分はかけがえのない人材だと思い込んだプログラマーが生まれてしまうことがあるのだ。そういう人が威張りちらすと、ほかの優秀な人が逃げてしまうし、残念なことに、いまいち使い物にならない製品ができてしまったりする。すべてがその人の頭の中にしまわれているからだ。

 そもそも、社内を混乱させる性格では、たとえ優秀であってもどうにもならないというのが正直なところだろう。』

『優秀だがクズとしか言いようのない人と仕事をして大変だった話は、ほかにもたくさんのコーダーが語ってくれた。

 Yコンビネーターに採用されたとある企業が雇ったロシアのコーダーもそういう人物だった。いい仕事をするのだが、どんな具合だとあいさつされるたび、「こんなところは大嫌いだ」と返すのだ。理由は「ほかの連中の仕事がひどすぎるから」だそうだ。とにかくお山の大将でねと上司はため息交じりだった。

 アプリの作成によく活用されるコードライブラリー、リアクトに詳しいツイッターのプログラマー、ボニー・アイゼンマンは、ロックスターコーダーという神話があるから話がおかしくなるのだと言う。

 優秀だがいやなやつが必ず役に立つとも限らない。たしかに、難問を解決してくれて短期的に助かるかもしれないが、全体の士気にやっかいな後遺症が残る。いやなやつの相手はしたくないと、ほかの優秀な人材が逃げてしまうのだ。IBMのベテランコーダー、グラディ・ブーチも、すごく優秀なのに周囲と協力できず、日の目を見る製品が作れないプログラマーを何人も見てきたそうだ。

 リックのような人材が本当に10倍優秀で、10倍のソフトウエアを書けるのだとしても、つまり、ふつうの10倍のスピードで書けるのだとしても、そこから生まれるのは「技術的負債」であることが多い。急ぎすぎてあちらもこちらもめちゃくちゃになったものしか生まれないのだ。

 手の早いコーダーは、たいてい、手っ取り早いやり方ばかりを採用するし、そのコードはつぎはぎだらけで、その後、だれかがじっくりこつこつクリーンアップしてやらなければならない。ディベロッパーの友人、マックス・ホイットニーの言葉を紹介しよう。

 「10倍優秀なエンジニアというのは、実は、生産性が10倍の人ではないのです。本当のところ、そう言われる人は、同僚の仕事を10倍に増やしているんです。これ、実は、ネットで読んだ話なんですけどね。ともかく、氷山の水面から出ている部分みたいなものなんです。光り輝いてきれいなんですが、その裏には技術的負債が山のように積み上がっているわけです」

 アンドリーセンも語っていたが、コーダーがスタートアップを立ち上げたがるのは、そうすればどんどん前に進めるからだ。だがその場合も、ある程度のユーザーを捕まえられるくらいには機能するがコードベースはぐちゃぐちゃで、根気よくクリーンアップして混乱を収めてくれるプログラマーが必要になったりする。

 トレイシー・チョウは、ピンタレストで、バックエンドの大幅な改修を担当した。そのためにコードベースの検証を進めていたとき、検索が必ず2回行われるという変な動作に気づいた。なにかがおかしい。

 調べてみると、検索を実行するコードがなぜか2回、コピーペーストされていた。ピンタレストの立ち上げ期に、だれかが拙速な仕事をしたわけだ。その1行を削除するだけで、検索の効率は倍増した。このように、10倍優秀というのは、コードを書くことより、むしろ、他人の失敗を修正することに発揮される能力だったりする。』

頭の良さで人をぶん殴っていた、ある同僚の話
https://blog.tinect.jp/?p=68019

 ※ こっちも、同根の話しだ…。

日本企業は「勝手にやっている現場の集合体」、だからDXは絶望的にうまくいかない

日本企業は「勝手にやっている現場の集合体」、だからDXは絶望的にうまくいかない
木村 岳史 日経クロステック/日経コンピュータ
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00148/111300146/

 ※ 「勝手にやっている現場の集合体」…。「日本的組織の組織論」としても、秀逸だ…。

 ※ 絶対、一読しといた方が、いい…。

 ※ 「現場が、気分良く、回っている」こと、それは重要だ…。

 ※ しかし、そのことが必ずしも、「集合体、全体としての好結果・高成績」に結びつかないことが、大問題だ…。

 ※ 「現場が、気分良く、回り」つつ、「全体としての好結果」へと結びつける…。

 ※ そこいら辺の「舵取り」こそ、司令塔に求められる「手腕」なんだろう…。

 ※ 有料会員限定記事なんで、著作権的にはアレだ…。

 ※ しかし、是非とも「拡散」したい内容なんで、全文を引用する…。

 ※ 問題がある場合は、Word Press.comの方に連絡してください。

『もはや日本企業というか、日本人の文化的、性格的な欠陥かもしれないな。これを是正できなければ、日本は世界で進むデジタル革命の波に乗り遅れ、あと10年、20年もたてば本当に後進国に転落してしまうかもしれない。別に何も特別な話ではない。たとえ日本を代表するような大企業の中であろうと、平気で部署単位の「ムラ社会」を作ろうとする、日本人の「小さくまとまろうとする」メンタリティーの話である。

 そう言えば「日本企業とは勝手にやっている現場の集合体である」と喝破した人がいた。まさに言い得て妙である。とにかく日本人は「勝手にやっている現場」を作り出すのが大好きだ。そして日本企業の経営者は、「勝手にやっている」ことをもって「我が社の現場力の発露」などと持ち上げて、お墨付きを与えてしまう。その結果、日本企業はあちらでもこちらでも、勝手にやっている現場だらけになる。まさに「ガバナンスって、どこの国の話?」である。

 私はこの「極言暴論」などで「日本企業の統治形態は事業部門連邦制だ」と述べてきた。何せ経営者であっても、他の役員のシマである事業部門には手を突っ込めないからだ。下手にそんなことをすれば、他の役員にクーデターを起こされて解任の憂き目に遭う。ただこの認識は少し修正が必要だな。修正ポイントは次の通りだ。「勝手にやっている現場の集合体が事業部門であり、勝手にやっている事業部門の集合体が日本企業」である。

関連記事:「CIOなんて貧乏くじだよ」、大企業の役員が真顔で語った不都合な真実
( https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00148/042400056/ )

 小さくまとまろうとするメンタリティーを持つ日本のサラリーマンたちが、勝手にやっている現場を生み出す。この弊害はすさまじい。最も分かりやすい例は、あの愚にもつかないカイゼン活動だ。「これこそ日本企業の現場力の証し」などと一時は称賛されたようだが、何のことはない。各現場が互いに争って「勝手に」カイゼン活動を繰り広げる。結果は部分最適の山。全体最適の観点がないから、全社で見ると生産性は上がらず、基幹系システムもどうでもよい改修ばかりで老朽化が進む。

 そう言えば、米国人の技術者が不思議がっていた。「ITを使っても使わなくてもいいが、自らの業務改善で大きな成果が出たら、それを経営にアピールして全社展開を図るのが普通のはず。なぜならヒーローになれるし、サラリーも上がる。なぜ日本人はそれをやらないんだ」。随分前の話なので当時の私にはうまく説明できなかったが、今は理由を説明するのは簡単だ。勝手にやっている現場に手を突っ込むようなまねをしたら……。

 ちなみに、数年前から次々と明らかになった日本企業の不正の多くも、勝手にやっている現場の仕業だ。経営から高いコスト削減目標などを課された現場は、目標をクリアするために検査データの改ざんに手を染める。そんなニュースを何度目にしたことか。不正を働いた現場からすると「そもそも長年のカイゼン活動の結果、極めて高い品質の製品を作れているのだから、データを多少ごまかしても許容される」といった認識だったのだろう。ある意味、不正もカイゼン活動の一環と言える。勝手にやっている現場の面目躍如である。』

『デジタル推進組織も「勝手にやっている現場」に転落
 小さくまとまり勝手にやっている現場の弊害について、ITやデジタル分野に限って探してみても次から次へと出てくる。例えばIT部門はなぜ事業部門などからまともに相手にされず、低く見られているのか。もちろん、経営から重要視されていないとか、技術系の部門であるにもかかわらず素人集団化しているなど、他の要因もある。ただし実は、IT部門自身がITで部門間の横串を通す役割を放棄して、自分たちだけで勝手にやりたいとのマインドに浸っていることも大きい。

 日本では圧倒的多数派である「能力のないIT部門」は日々粛々とシステムを運用していたいのだ。基幹系システムなどは性質上、さすがに利用する事業部門などの意向を無視して勝手にやるわけにはいかないが、事業部門のご用を聞いてシステムを改修したら、後は勝手にシステムを管理していたい。だから、自ら経営や事業部門に改革や改善などを提案するようなことは一切しない。IT部門が重要な経営機能であるとの意識は希薄で、システムを管理する現場の一部署として勝手にやっていたいのだ。

 意外に思う読者もいるかもしれないが、IT部門は昔から「勝手にやっている現場」の最たるものだった。昔は経営者がITを分からないことをよいことに、大企業のIT部門なら巨額のIT予算を勝手に差配していた。事業部門などの要望をそれなりに聞き入れさえすれば、「あいつらは何をやっているのか」と思われようと、どこからも文句は出なかった。今や多くの企業でIT部門は落ちぶれ、IT予算も少なくなったが、勝手にやっている現場の伝統は今も生きている。

 当然、そんなIT部門はDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進に全く役に立たない。仕方がないので日本企業の多くは、IT部門とは別にデジタル推進組織を立ち上げている。このデジタル推進組織が司令塔となって、デジタル技術を用いた全社的なビジネス構造の変革であるDXに取り組もうというわけだ。役員についてもCIO(最高情報責任者)の他にCDO(最高デジタル責任者)を置くことが、特に大企業で一大ブームとなった。

 ところが、である。DXの司令塔として役割はすぐに形骸化する。デジタル推進組織も「小さくまとまりたい」という日本人のメンタリティーに引きずられてか、「勝手にやっている現場」と化す。何を勝手にやっているかというと、AI(人工知能)やIoT(インターネット・オブ・シングズ)などを活用したPoC(概念実証)である。かくしてデジタル推進組織は、ビジネスとして成功する当てのないPoCを延々と繰り返す部署となる。CIOがIT部門のボスにすぎないのと同様、CDOもデジタル推進組織の親玉にすぎなくなる。

 「これじゃいかん」ということで、最近はデジタル推進組織とIT部門を統合するなど、組織的な見直しに着手した企業が出てきているが、組織をどんなにいじくろうと結果は同じだ。新たにDXを勝手にやっている現場が生まれるだけだ。つまり、組織間で横串が通らないのだ。当然、先ほど紹介した米国人の技術者のような、ヒーローになりたい人材も日本企業では現れない。

 ちなみに、勝手にやっている現場の集合体という日本企業の特徴は、大企業など既存の企業だけのものではないからな。新興のネット企業でも事情は全く同じ。様々なデジタルサービスを提供している各事業部門がそれぞれ勝手にやっているケースは多い。ITインフラも違えば、使っている開発ツールも全く違ったりする。とにかく日本人はどんな企業、どんな組織にいても、他と隔絶されたムラ社会を作りたがるのだ。

関連記事:ネット企業の劣悪なIT活用に見る日本企業の根深い病理』

『「勝手にやっている現場」はフラクタル構造
 さらに、この「勝手にやっている現場」というのは、部分と全体が相似して入れ子細工のように繰り返される「フラクタル構造」となる。どのような意味かと言えば、冒頭で書いた通り「勝手にやっている現場の集合体が事業部門であり、勝手にやっている事業部門の集合体が日本企業だ」ということだ。この表現をもう少し拡張すれば次のように言える。「勝手にやっている現場の集合体が事業部門であり、勝手にやっている事業部門の集合体が企業であり、勝手にやっている企業の集合体がグループ経営の日本企業だ」。

 だからガバナンスがとにかく効かない。例えば日本企業がDXを推進するために、米国のIT企業を買収するケースが増えてきているが、買収が完了してもその経営に口を出すことはほとんどない。買収された企業からすると、買収前と後で拍子抜けするほど何も変わらない。米国企業が日本企業を買収すれば、経営を抜本的に変え、マーケティングなどビジネスのやり方を変え、基幹システムもERP(統合基幹業務システム)に強制的に変更させたりするケースが多いのと、まさに好対照だ。

 皮肉を交えて書くが、日本企業の経営者は自社を「勝手にやっている現場のフラクタル構造」として運営しているために、買収した外国企業の経営陣にもきっと忖度(そんたく)して、勝手にやらせているのであろう。日本企業の経営者はこうしたやり方を「連邦経営」などと称する。言葉の響きだけは良いが、噴飯ものである。まさに冒頭で示した「事業部門連邦制」と意味合いは同じで、勝手にやっている現場の集合体としての日本企業の在り方を正当化しているだけである。

 勝手にやっている現場の集合体の日本企業が他社と協業しようとすると、空恐ろしい事態となる。今、何らかのデジタルサービスを立ち上げようとするなら、他社との協業が当たり前だ。既存の大企業が「オープンイノベーション」などと称して、スタートアップなどと協業するパターンが多いが、これは本当に恐ろしいことだと思わないか。何せ自社内だけでの取り組みでも、各現場や各部門が勝手にやってしまう日本企業だ。まして「赤の他人」との協業なら、ますます勝手にやってしまう可能性が強い。

 「何を訳の分からないことを書いているのか」と不審に思う読者も大勢いるかと思うが、既にその恐ろしさが現実化した事件があるぞ。NTTドコモの電子決済サービスであるドコモ口座や、ゆうちょ銀行の口座などを使った不正出金事件だ。連携するサービス全体でのセキュリティーを各企業が考慮していなかったため発生した事件である。

 決済サービス事業者側が厳密に本人確認をするか、銀行側がサービス連携の際に、口座や暗証番号などによる認証ではなく2要素認証を導入するかをしていれば、被害の大半は防げたはずだ。ところが両者とも自らの対策を怠り、多数の不正利用を許してしまった。「相手のサービスのセキュリティーは万全のはず」との思い込みがあったのかもしれないが、連携するサービス全体でのセキュリティーを考慮しないのは、驚くべき思考停止と言うほかない。

 そうした思考停止を招くのは、協業して1つのサービスを提供しているにもかかわらず、それぞれが「相手は相手、自分は自分」として自らの守備範囲でしか物事を考えていないからである。つまり、それぞれが勝手にやっているわけだ。セキュリティーに最もシビアでなければいけない企業がこのざまなのだから、似たような事件や事故はこれからも頻発すると考えたほうがよい。』

『コンサルタントも中間管理職にへつらう
 ここまで読んできた読者は十分に認識したと思うが、「勝手にやっている現場の集合体」としての日本企業、さらにそれを生み出す「小さくまとまろうとする」とする日本人のメンタリティーを何とかしないと、まともなDXなど到底できない。ひとえに経営者が蛮勇を奮って、組織面や企業文化、従業員のメンタリティーなどをDXの一環として変革していくしかないが、極めて心もとない状況である。

 何せ下手に他人のシマに手を出したら、経営者といえども解任の憂き目に遭いかねない。この件をもう少し深掘りすると、「余計なこと」をする経営者を追い出そうとするのは、自分のシマを荒らされることに危機感を持つ役員だけではない。現場が勝手にやっている以上、実質的に会社を動かしているのは、課長などの現場の管理職である。多数の現場の管理職が強く反発すれば、経営者の地位は風前のともしびとなる。実際、改革派と目された経営者のクビが飛ぶのは、このパターンが多い。

 しかも、日本企業の経営者の多くはサラリーマンとして頂点を極めた人たち、つまり勝手にやっている現場の出身者だ。だから経営者は、自分を育ててくれた現場に対して一種の「信仰」とでも言うべき感覚を持っている。「我が社の強みは現場力」などと口走るのは、まさに信仰心の発露である。もちろん実際に現場には多くのノウハウや知見が蓄積されているケースもあるだろうが、勝手にやっている以上、それは部分最適にすぎず、経営者が妄想しているような「我が社の強み」にはなり得ない。

 さらに厄介なのが、勝手にやっている現場の集合体が日本企業である以上、日本企業の経営は必然的に現場丸投げになることだ。つまり、サラリーマン経営者は過去にどんなに優秀だったとしても、経営者としては2流、3流でしかない。自身の経営方針にのっとり現場を厳格に統制するという発想がないから、いくら欧米企業を猿まねしてCxO制度を導入しても、横串機能を発揮できないCIOやCDOなどを量産して終わりだ。本来最も強力な統制手段となるはずの基幹系システムも、ただのポンコツとなる。

 経営者の中には「このままではまずい」という自覚がある人もいて、DXの推進に合わせてコンサルタントを雇うケースも多い。だが、コンサルタントが役に立つのは雇い主の経営者が強力な権力を持つ場合に限られる。勝手にやっている現場の集合体の日本企業では、経営者の権力は哀れなほど弱く、事業部門長や部長、さらに現場の課長や係長の意向は最大限尊重しなればならない。当然コンサルタントも商売だから、こうした管理職層にへつらうことになる。

 例えば「御社の中間管理職の皆さんはとても優秀ですね」「やはり日本企業の強みは現場力ですから、大切にしないといけません」などと言って、勝手にやっている現場の集合体を前提にDXのシナリオを描いたりする。つまり「抜本的な変革を伴わないビジネスのデジタル化」をクライアント企業のDXのターゲットとするわけだ。もちろん、これがDXと呼べる代物でないことは誰の目にも明らかだが、こんなDXもどきが日本のあちこちで進行中だ。

 うーん、やはり日本企業の構造問題をテーマにすると、「では、どうするのか」という答えがなくて困るな。極言暴論で何度か書いた月並みな結論で言うと、サラリーマン経営者を排除し、いわゆるプロの経営者、特に著名な外国人経営者を後釜に据えることだろうが、勝手にやっている現場の集合体である日本企業の経営者が、後継者についてそんな決断を下すのは並大抵のことではない。後は新型コロナウイルス禍が日本企業をどこまで変えるかに期待するしかないか。でもそれは、「悪魔頼み」ということだが。』