[FT]中国「宮廷政治」 習近平氏の忠臣らが権力闘争へ

[FT]中国「宮廷政治」 習近平氏の忠臣らが権力闘争へ
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB2613M0W3A120C2000000/

『2023年1月26日 17:51

中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は3月に開く「両会(2つの会議)」を使って、世界最大級の人口と強大化する軍事力を擁する国家の中枢を担う人事を一気に承認する。両会は中国の国会に相当する全国人民代表大会(全人代)と国政の助言機関である全国政治協商会議(政協)を合わせたものだ。

中国共産党大会の開幕式に到着した習近平氏(2022年10月)=ロイター
任命される人物の大半は、習氏にとって旧知の仲の男性部下や、数十年ともに仕事をしてきた信頼する高官で占められる。そこに毛沢東以来で最も強力な指導者となった習氏に忠誠を示す期待の若手も加わる。

権力固めの総仕上げ

今回の人事の承認は、昨年10月の党大会で異例の3期目(1期の任期は5年)入りを果たした習氏にとって権力固めの総仕上げになる。

さらには習氏の信奉者や忠臣の間に新たな派閥が誕生することが明らかになるものでもある。

中国の趙紫陽元首相の顧問だった呉国光氏は最近、米研究グループ「チャイナ・リーダーシップ・モニター」によって出版された論文で「派閥政治の新時代が幕を開けた」と評した。

「最高指導者としての習氏の地位と権威が中国共産党幹部から挑戦を受けることは考えにくい。だが、習氏の追従者のさまざまなグループの間で派閥競争がすでに始まっている」と呉氏は指摘する。同氏は現在、米スタンフォード大学と米シンクタンク、アジア・ソサエティーに所属している。

習氏によるこれまで10年間のリーダーシップの特徴は、意思決定の中央集権化であり、自分以外の幹部指導者の影響力をそぐことだった。すでに前国家主席の胡錦濤(フー・ジンタオ)氏、元国家主席で昨年11月に死去した江沢民(ジアン・ズォーミン)氏に連なる、かつて権勢を振るっていた人脈を根こそぎにした。

新たな派閥は習氏の後任争いにも

新たな派閥は習氏の鉄壁の権力を脅かすことはないものの、支配力や影響力、さらには党トップとしての習氏の後任の地位をめぐって争うことになる。

不透明で予測不可能な中国の政治を解明するには、習氏周辺の幹部の経歴や人柄、思想傾向、政策の好み、個人的な人脈を知ることが非常に重要だと専門家は指摘する。

「今後数年間、派閥競争は避けられない。内部でのエリートの入れ替えや権力の継承という意味での世代交代は、形成されつつある習氏の下部派閥間の権力闘争も加速させるだろう」と呉氏は論じる。

呉氏は論文の中で4つの重要な派閥として、習氏が福建省、浙江省、上海市、陝西省でそれぞれ共に働いた高官の集団を挙げている。陝西省は習氏の家族にとって縁の深い場所でもある。

呉氏はさらに5つの派閥を挙げる。軍産部門の高官、名門の清華大学の学閥、中国共産党幹部の養成学校である中国共産党中央党校の関係者、習氏の夫人である彭麗媛氏に関係する複数の高官、そして公安関係者だ。

「より大きな構図で見ると、(軍産)派閥の台頭は、習氏による経済や技術開発の新たな戦略を示唆しているようにみえる。国家が技術進歩を促進させる能力を強調し、中国経済での民間部門の比重を減らそうとするものだ」と呉氏は説明する。

中国エリート政治の専門家である米カリフォルニア大学サンディエゴ校のビクター・シー氏は、最も重要な派閥として、習氏が福建省と浙江省の幹部だった時代にそれぞれ形成した集団と、党の強力な腐敗摘発組織に任命された陝西省出身の高官の集団に絞り込んでいる。

習氏が10年以上を過ごした福建省

福建省時代からの習氏の側近には、大方の予想では劉鶴(リュウ・ハァ)副首相に代わって経済政策の責任者に就くとみられる何立峰(ハァ・リーファン)氏や、党のプロパガンダや思想を担う中央政治局常務委員に新しく選ばれた蔡奇(ツァイ・チー)氏、公安相の王小洪氏がいる。いずれも1999〜2002年に福建省の幹部だった際の習氏とつながりがある。

「非常に強力な組み合わせだ。(福建省時代は習氏の)経歴で最も長い期間だという点を忘れてはならない」とシー氏は話す。「習氏は福建省で10年以上を過ごした。この場所は習氏の中に深く刻み込まれており、その逆もまたしかりだ」

習氏が02〜07年に浙江省トップの党委員会書記を務めていた時代とのつながりでは、中央政治局常務委員で次期首相の最有力候補である李強(リー・チャン)氏や、広東省トップの党委員会書記を務める黄坤明氏、新しい国家安全相の陳一新氏がいる。

習近平氏(中央)に続いて歩く李強氏(2022年10月)=ロイター

米ブルッキングス研究所の中国政治専門家の李成氏は「非常に複雑な」中国の新たな政治状況について、専門家らの理解は「端緒についた」ばかりだと指摘する。

つまり指導部の広大な人脈のほか、政策や思想、影響力の違いを新たに分析し直す必要があるという意味だ。

しかし中国人エリートや旧ソ連政治が専門の米アメリカン大学のジョセフ・トリジアン氏は、中国ウオッチャーはこれまでも秘密めいた北京の共産党内部の動きをうまく予測できてこなかったと語る。一方で同氏は、独裁者が同世代の指導者を追放し、より若手の幹部を登用した毛時代との類似点を指摘する。

「『大掃除』で登用される異なるグループの間では確実に競争が起こるだろうが、彼らが主にやってきたのは最高指導者に対する忖度(そんたく)合戦だ」とトリジアン氏は説明する。

派閥は習氏の怒りを買うリスクも

中国共産党の上層部で形成されつつある派閥は、どこも習氏の怒りを買うリスクを負っている。習氏は政治的に対立する相手や、自らの支配にとって脅威とみなした相手を厳しく取り締まってきた。

22年10月に開かれた中国共産党大会の前の数カ月間で、司法省や公安省の元幹部らが、国家主席に背く「政治ギャング」の一味だとして長期の懲役刑を言い渡された。

トリジアン氏は、こうした中国における政治集団について「派閥と呼べるほど結束することはまれだ」と語る。

「他の誰かとあまりに協調して動いているようには見られたくない。そんなことをすれば習氏は即座に警戒すべき兆候と受け止め、粉砕しようとするからだ」

By Edward White

(2023年1月25日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

(c) The Financial Times Limited 2023. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation. 』

中国「序列5位」蔡奇氏に要職集中 習近平氏1強象徴習政権

中国「序列5位」蔡奇氏に要職集中 習近平氏1強象徴
習政権
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM015ZE0R00C23A6000000/

『【北京=田島如生】中国共産党の習近平(シー・ジンピン)指導部で、党序列5位の蔡奇(ツァイ・チー)政治局常務委員の存在感が増している。習総書記の補佐役から国家安全、思想・宣伝の担当まで党の要職が蔡氏に集中する。序列や前例にとらわれない人事は習氏に権力が集中する1強体制を象徴している。

5月30日、北京。習氏が主宰した党中央国家安全委員会の会合に7人いる最高指導部の1人、蔡氏の姿があった。これまでの…

この記事は会員限定です。登録すると続きをお読みいただけます。』

『これまでの2人から3人に増えた副主席ポストに任命され、米中対立を含む中国が直面する安全保障問題などを議論した。

習氏が2014年に新設した同委員会の副主席は国務院(政府)トップの首相と、国会に相当する全国人民代表大会(全人代)トップの全人代常務委員会委員長が務めてきた。習氏は国家安全を重視しており、3人目の副主席に蔡氏をあてた。

蔡氏は党の要職を幅広く担う。たとえば日本の官房長官にあたる中央弁公庁主任だ。今年3月に就くと、習氏の国内外の視察や出張にほぼ全て同行し、身辺警護にも携わる。総書記らの日常業務を差配し、スケジュール管理の権限を握る。

総書記の秘書役ともいえる中央弁公庁主任を最高幹部の常務委員が担うのは異例だ。前任で党序列6位の丁薛祥(ディン・シュエシアン)筆頭副首相が務めたのは昨年10月に最高指導部入りする前だった。習氏は慣例にとらわれず蔡氏を登用した。

蔡氏は中央書記処の筆頭書記として、政治局会議の運営や出席者への連絡・管理など党務全般にも責任を負う。習氏の思想を広めたり権威を高めたりするため、国民への宣伝や教育にあたる。

習氏は自らの名前を冠した「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想」を普及させるチームのトップも蔡氏に任せた。習氏が4月に北京で開いた党の会議で学習徹底を呼びかけた際、この人事が明らかになった。

習近平総書記㊨の地方視察に同行する蔡奇氏㊧(国営中国中央テレビの映像から)

「党の全ての同志が誠実に学び、理解し、実行しなければならない」。蔡氏は会議の終わりに演説し、強調した。「多くの党員や幹部が理解できるよう教育、指導する必要がある」と力説した。

党要職が蔡氏に集中する現状について、ネット上には「担務の多さは序列2位の李強(リー・チャン)首相を上回る」との見方がある。日中外交筋は「忠誠心の高さで習氏の信頼を勝ち得てきた」と話す。

習氏側近の代表的な派閥は福建省、浙江省、上海市で知り合った側近グループの3つだ。「浙江閥」には李氏、「福建閥」には何立峰副首相らがいる。丁氏は上海市党委秘書長として習氏を支えた。

蔡氏は福建省、浙江省の両方で部下として仕えた。習氏が浙江省党委書記のころは台州市などのトップを務めた。習氏が12年に党最高位の総書記になると、14年に中央国家安全委員会弁公室の副主任、17年には北京市党委書記に抜てきされた。

蔡氏は新型コロナウイルス下にあった22年北京冬季五輪の組織委員会の責任者だった。ゼロコロナ政策をとりながら開催したことは習氏の評価につながったとされる。

中国政治に詳しい青山瑠妙・早大教授は「習氏は蔡氏を党組織のパイプ役に起用することで自らの意思を党全体に反映しやすくしようとしている」とみる。「年齢が67歳と習氏(69歳)に近く、後継者になり得ないのも習氏の安心材料になっている」と分析する。

とはいえ、蔡氏が実質的な権力をもっているとの声は多くない。最高指導部は習氏が1強で君臨し、鄧小平氏がかつて敷いた集団指導体制は事実上崩壊した。習氏を除く6人が重要事項の決定に関わる余地は乏しい。

国務院を率いる李氏も例外ではない。中国では国家主席が政治と外交、首相が経済政策という役割分担をしてきた。1990年代後半に首相に就いた朱鎔基氏は当時の江沢民(ジアン・ズォーミン)総書記のもと、国有企業改革で大なたを振るった。

李氏は副首相を経ずに首相に選出されており、金融や財政の経験はそれほど多くない。現指導部は習氏が政治・外交に加え、経済政策も決定権を握るとみられる。

日中外交筋は「現指導部は1強と6人の部下にすぎない。蔡氏は習氏のお気に入りだが、今後も実権をもつことは考えにくい」と指摘する。

【関連記事】

・習氏の訪ロが示す「安全」偏重人事、岸田外交に巨大圧力
・[FT]中国「宮廷政治」 習近平氏の忠臣らが権力闘争へ 』

英で中国警察拠点を閉鎖 違法行為確認されず

英で中国警察拠点を閉鎖 違法行為確認されず
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB071810X00C23A6000000/

『【ロンドン=共同】中国が警察拠点を秘密裏に外国に設置しているとされる問題で、英国のトゥゲンハート安全保障担当閣外相は6日、中国が英国内の拠点を閉鎖したと明らかにした。英警察が調査した結果「これらの拠点で中国政府に代わって違法活動が行われた証拠は確認されていない」と説明した。ロイター通信が報じた。

人権団体が、英国内の3カ所で中国の警察拠点が運営されていると指摘。これを受け英政府は「極めて懸念すべき事態だ」として、容認できないとの立場を示していた。

米司法当局は4月、中国がニューヨークに警察拠点を設置し、これに関与したとして男2人を逮捕。中国は外国における警察拠点の存在を否定し、逮捕に反発していた。』

米長官「犠牲者の勇気忘れず」 天安門事件34年で声明

米長官「犠牲者の勇気忘れず」 天安門事件34年で声明
https://nordot.app/1037873969526555457?ncmp=post_rcmd

『2023/06/04

【ワシントン共同】ブリンケン米国務長官は3日、1989年の天安門事件から4日で34年となるのに合わせて声明を発表した。「犠牲者の勇気が忘れ去られることはない。米国は、世界中の市民の人権と基本的自由を提唱し続ける」とし、民主主義や人権の重要性を強調した。

 ブリンケン氏は事件について「民主化を求め、平和的にデモを行っていた人々を容赦なく弾圧するため、中国政府が戦車を送り込んだ」と批判した。

© 一般社団法人共同通信社 』

中国「秘密警察」世界に100カ所超 言論監視、秋葉原でも

中国「秘密警察」世界に100カ所超 言論監視、秋葉原でも
民間装い立証困難
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN2005M0Q3A520C2000000/

『中国政府が在外の中国人や華僑の活動を監視する秘密警察に各国が警戒を強めている。米ニューヨークでは中国系米国人2人が米連邦捜査局(FBI)に逮捕された。人権団体によれば、中国が海外に展開する警察拠点は少なくとも日本を含む53カ国、102カ所に達している。

「活気に満ちたチャイナタウンの中心にあるオフィスビルに暗い秘密がある。米国市民を監視するため、中国国家警察がここに出入りしていた」。4月17日、…

この記事は会員限定です。登録すると続きをお読みいただけます。』

『4月17日、摘発を発表したニューヨーク東部地区のブリオン・ピース連邦検事は憤りをあらわにした。

ニューヨーク雑居ビルの4階 ノックに返答なし

司法省が捜索した「警察署」は男性専門の治療院や会計事務所などが入る雑居ビルの4階にあった。フロア案内板には福建省の福州市長楽出身者向けの集会所を意味する「美国長楽公会」との文字が書かれている。入り口には鍵がかかり、記者がノックしても返答はなかった。

逮捕状によると、逮捕された2人は中国政府と共謀して拠点を運営。カリフォルニア在住の反体制派の人物への嫌がらせなどの活動に使われた。司法省は同日、自国政府に批判的な中国人を監視するなどした中国公安当局の職員ら約40人も訴追した。

米司法省が捜索した「警察署」が入っていたとされるビル(米ニューヨーク)

中国による国外での警察活動が世界で知られるようになったきっかけは、スペインの人権団体セーフガード・ディフェンダーズが2022年秋に公表した報告書だ。これらの拠点は「海外110番」と呼ばれ、地方警察によって運営されていた。

当初は中国人旅行者や華僑にサービスを提供する場として始まり、次第に当局が目をつけた在外中国人に帰国するよう圧力をかけたり、反体制派を攻撃したりする弾圧の拠点になっていったという。

報告書には福建省の警察当局が公開していた拠点リストが掲載されている。今回摘発されたニューヨークの拠点も含まれ、22年12月に公表された追加報告書によると英国やカナダ、日本や韓国にも広がっている。

日本の拠点には東京・秋葉原の住所が記されていた。建物は以前、民泊施設として運営されていたが、現在は予約を停止している。記者が訪ねてみたところフロントにスタッフの姿はなく、営業していない様子だった。

中国外務省「存在しない」 違法行為立証難しく

米国の非政府組織(NGO)「南モンゴル人権情報センター」によると、5月中旬、モンゴルに滞在していた中国・内モンゴル自治区出身の作家ラムジャブ・ボルジギン氏が中国警察に拘束され、連れ戻された。国外での警察活動の一端とみられる。

ただ、秘密警察の拠点とされる場所は表向きには民営の施設や互助組織となっており、違法行為の立証が難しい。刑事告発に至ったのはニューヨークの事例が世界でも初めてとみられる。

中国外務省の汪文斌副報道局長は5月の記者会見で「中国の海外警察署というものは存在しない」と強調した。こうした拠点については「新型コロナウイルスの感染拡大期に帰国できない中国人の運転免許更新の申請を支援したものだ」と説明。活動の担い手も地域の熱心な華僑であり、警察官ではないと主張した。

日本での拠点として住所が記載されていた施設(東京・秋葉原)

カナダ政府は5月上旬、中国系の国会議員と香港に住む親族を脅迫しようとしていたとの報道を受け、在カナダの中国領事を追放。中国側も在中国のカナダ領事を追放し、報復合戦に発展した。英国でも内相が懸念を表明し、調査を始めたと報じられた。

FBIは今回の摘発で、国境を越えた弾圧が違法行為と知らせるウェブサイトを開設した。追跡や脅迫、暴行、資産凍結などの違法行為に直面した場合はFBIに連絡するよう求めている。

取り締まりの法整備を求める声は強まっている。カナダでは脅迫被害を受けた議員が所属する野党保守党が、米国やオーストラリアと同様に、外国政府から援助を受けて外国の利益のために活動する個人や組織を登録させる、「外国代理人登録法」を整備するようトルドー内閣に求めている。

(ニューヨーク=朝田賢治、北京=田島如生、川上宗馬)

阿古智子東大教授「事情聴取や拘束、明確な主権侵害」

東大の阿古智子教授

中国政府は警察拠点と認めていないが、海外で暮らす中国人に対して事情聴取や拘束など実質的な警察活動を海外で実施している。外国政府との間で犯罪人引き渡し条約や捜査協力などの協定を結ぶことはあるかもしれないが、あくまで活動するのは自国の警察組織。明確な主権侵害だ。

中国は在外国民の運転免許更新など行政サービスを提供している拠点と主張しているが、そもそも届け出をしていない時点で国際法に違反している。

主な役割は中国政府にとって脅威となり得る海外在住の中国人の活動を調べたり、警告を発したり、帰国を促したりすることとみられる。以前から国内で言論統制の動きがある中国では在外国民を監視する動き自体はあったが、最近になって動きが強くなっていると感じる。

新疆(しんきょう)ウイグル自治区の人権問題や米中対立で国際社会からの視線が厳しくなり、外国での批判的な活動に敏感になっている。3期目に入った習近平(シー・ジンピン)国家主席が、国内の不満が高まっているかもしれないとの警戒感を強めているとみられる。

ゼロコロナ政策や金融・不動産など経済政策もうまくいっていない。小さな不安要素も取り除きたいという中国政府の思惑が働いている。

最近の報道であった中国・内モンゴル自治区出身の著名作家、ラムジャブ・ボルジギン氏の拘束もその一環だ。現時点でそうした動きはないが、独立運動の機運を高めるかもしれないという不安が働いたためとみられる。

(聞き手は千住貞保)

【関連記事】

・FBI、中国の「警察署」運営で2人逮捕 ニューヨークで
・民主主義に忍び入る脅威 中朝「工作疑惑」に揺れる韓国
・[FT]米当局、中国の工作員5人を起訴 在外活動家を妨害 
ニュースレター登録

多様な観点からニュースを考える
※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

柯 隆のアバター
柯 隆
東京財団政策研究所 主席研究員
コメントメニュー

ひとこと解説 こういうのは今始まったことではない。岸田首相がバイデン大統領を接待した料亭八芳園に蘭の間があり、日本に亡命してきた孫文を接待する際、清朝の秘密警察の追跡から逃れるための孫文の抜け穴がある。こういうことを実行する考え方は、海外ではあるが、外国人を捉えるのではなく、自国の反政府分子を捉えるから、内政であるということである。むろん、今は100年前と違う。こういうことが明るみに出ると、中国にとって大きなマイナスになる
2023年6月6日 6:53』

習近平政権の歴史政策

JIA
公益財団法人日本国際問題研究所
The Japan Institute of International Affairs
注記:本論考は日本国際問題研究所領土・歴史センター歴史系検討会(国際政治史検討会/東アジア史検討会)
委員の見解であり、日本国際問題研究所の見解を代表するものではありません。

習近平政権の歴史政策
https://www.jiia.or.jp/JIC/pdf/2-1.pdf

馬工程と四史
川島真
(東京大学)

2021年7月1日、中国共産党成立百周年を記念して習近平総書記が演説を行った1。この演説は習近平政
権が進めてきた「四史」の歴史政策の一つの結果であった。四史とは、中国共産党史、新中国史、改革開放
史、社会主義発展史を指している。

習近平政権は、これらの歴史を国家史よりもむしろ強調し、共産党こそ
が中国を統治でき、社会主義こそが中国統治にふさわしい理念であることを歴史的に正当化しようとし、教
育現場にもこの四史を位置付けようとしている。

また、この四史には清朝や中華民国、また国民党の事績な
どは多く示されず、自ずから抗日戦争などにおいても共産党が主導者として描かれている。

これは台湾に対
する統一戦線において国民党が主たる協力相手ではなくなったこととも呼応している。

また、このような歴史政策を進めた一つの主体についても考察を加える。

このような政策は一面で習近平
個人の資質に由来する2。習近平は福建省、浙江省、上海市などのトップを務めたが、その時代から歴史へ
の関心を示し、少なくとも浙江省の時代には党史政策を進めるようになっている。他面で、胡錦濤期から中
国共産党宣伝部内部でも、党史が国家史に対して劣勢となってきていることは意識されており、党史の称揚
がすでに課題として認識されていた。それは、馬工程などとして具体化されていた。

この馬工程は、習近平
の時代になって、四史政策を進める一つの主体となった。本稿では、この馬工程についても考察を加える。

本稿では、習近平政権が進めている歴史政策について、特に四史をめぐる政策、およびその意図について
考察し、7月1日の中国共産党百周年演説の意義を再考するものである3。

このことは、今後の中国の採用
する日本への歴史政策にも影響することになろう。

1.四史の集大成としての習近平百周年演説

2021年7月1日、中国共産党の習近平総書記は中国共産党百周年演説を行った。習近平は国家目標とし
て「二つの百年」を標榜していたが、その一つがこの中国共産党の百周年であった。ここでは、「全面小康
社会」の実現が目標とされていた。実際、習近平はこの目標が達成されたことを演説内でも強調している。
この目標は、昨今進められている共同富裕政策の前提となっており、中国の国家目標としては重要なもので
あった。内外のメディアでは、人事関連、また政治的に敏感な内容が避けられたとしてこの演説を重要視し
ない風潮があったが、筆者はある点においてこの演説が習近平政権にとって重要なものであったと理解して
いる。
その重要な点は、この演説の大部分が歴史の叙述に割かれていることに現れている。つまり、この演説こ
そが中国共産党の、また習近平政権の新たな歴史政策を示すものであり、その演説に新たな歴史観が示され
ている、ということである。その新たな歴史観は、習近平政権が唱えてきた「四史」とされるものであり、
それは中国共産党史、新中国史、改革開放史、社会主義発展史を指す。このうち最も重要な位置付けを与え
られているのは中国共産党史であり、それは1921年に始まる。新中国史は1949年に始まる中華人民共和国
の歴史のことであり、改革開放史は1978年の第十一期三中全会に始まる。そして、社会主義発展史は、卜
マスモア(Thomas More:1478 -1535)の『ユートピア(Utopia))の刊行年である1516年に始まるとさ
1
日本国際問題研究所/歴史系検討会論文集

習近平政権の歴史政策
れている4。これら四史は、それぞれが過去のものというよりも、過去から現在、そして未来へと続くもの
として想定されている。例えば改革開放も、習近平政権下で継続されている、という理解の下に歴史が描か
れているのである。

この四史をめぐる政策を推進した背景には、習近平の進めた「党の領導の強化」という政策があろう。


限を国家から中国共産党に集め、あらゆる分野、領域で党の指導性を徹底、強化するというのがその政策だ。

この政策と四史との関わりは、二点ある。

第一に、歴史叙述において、とりわけ、特に近現代史において、
国家史よりも共産党史を主軸として歴史叙述を再構成することになる。これは後述するように、大学の歴史
教育などにも影響している。

第二に、これら四史により、共産党しか中国を統治できないこと、社会主義が
中国に最もふさわしい統治理念であることを説明するということにある。つまり、この四史自体が習近平政
権の進める「党の領導」強化の正当性を与えるものになっているということだ。

それでは、具体的にどのような内容であったのか。

第一に、冒頭で五千年以上にわたるとされる中華民族
の過去に言及し、その後1840年のアヘン戦争に言及する。それにより、中国が半封建半植民地社会に陥っ
たとする。

これは伝統的革命史観を継承したものだと言える。

その後、太平天国運動、戊戌変法、義和団運動、
辛亥革命などが挙げられ、「各種の救国方案が順番に提起されたがいずれも失敗に終わった」などとされる。

そのために、「中国は国家の滅亡を救う運動を牽引する新しい思想や、革命の力量を凝集していく新たな組
織が、とりわけ必要とされ」、その必要性もあって1921年に中国共産党が登場したということになっている。

だが、この中国共産党の成立は、マルクス・レーニン主義との関係性、すなわちマルクス・レーニン主義と
「中国人民と中華民族の偉大なる覚醒」との結合によって導かれたのであり、「中国共産党が生まれたことは
天地開闘とも言える事態」などとその意義が強調されている。

ここでは、かつての共産党の歴史叙述で現代
史の起点とされた五四運動への言及はない。

また、辛亥革命前後の清王朝や中華民国による改革などには言
及が見られない。あくまでも中国共産党が歴史の主体とされている。

第二に、1921年の中国共産党の成立以後は、共産党が新民主主義革命を成し遂げ相次ぐ戦争を行ってい
く過程として描かれている。

それは、北伐戦争、土地革命戦争、抗日戦争、解放戦争などが相次いだとされ、
抗日戦争はその一部だとされている。

この一連の戦争の過程で、中国共産党が人民を率い、帝国主義、封建
主義、官僚資本主義を打破し、中国の半封建半植民地状態を終わらせるという大きな成果をあげたと言う。

その結果、数千年続いた封建制度が崩れ、また帝国主義にも勝利したのであり、それこそ中華民族の有史以
来最も広範で重大な社会変革だとし、それを成し遂げたのが中国共産党だと強調している。

また、ここで中
国共産党が勝利して中華人民共和国が成立したことの意義も強調している。

特に、中国共産党の勝利が、貧
しく立ち遅れ、人口が極めて多い東方の大国が社会主義社会へと飛躍していく大きな一歩であること、また
中華民族が偉大なる復興を遂げる上での根本的な政治的前提、基礎となったと、その意義を強調している。

これらの歴史叙述は、社会主義でなければ中国を救うことはできず、また社会主義でなければ中国を発展さ
せられず、そして中国共産党でなければ中国を導くことはできない、という論理がそこには見られる。

これ
ら一連の「戦争」の過程における国民党との協力には言及されず、外国との不平等条約や中国における条約
特権の撤廃についても共産党の功績だとされている。

第三に、改革開放の部分は重要である。改革開放については、「我々は新中国成立以来、党の歴史におい
て最も深遠な意義のある偉大なる転換を行」ったと位置付けられる。そして、それは「豊かさ」の実現とい
うよりも、「党が社会主義の初級段階にあるという基本路線を確立し、改革開放を強い意志の下に推進」し
たとするのである。

政策内容としては、「高度で集中的な計画経済体制から、活力に満ちた社会主義市場経
済体制へと、また閉鎖的、半閉鎖的な状態から全方位的で開放的な状態へという歴史的な転換を遂げ」たと
いうように、あくまでも社会主義の枠の中での改革であることが強調される。

無論、GDPが世界第二位になっ
たとか、中国社会を「総体的な小康」へと導いたことも成果としてあげられているが、それはあくまでも結
2
日本国際問題研究所/歴史系検討会論文集
習近平政権の歴史政策
果としてに過ぎない。

なお、習近平の四史における改革開放は、鄭小平時代という過去の一時期を意味する
ものではなく、習近平時代にも継続しているものとして描かれている。

習近平時代におけるそれは、五位一
体、四つの全面などを踏まえた上で5、「高質量の発展を推進し、科学技術の自立自強を推進」する時代だと
されている。

第四に、習近平自身の事績に関する部分である。ここでは、五位一体、四つの全面のほか、習近平が掲げ
た一連のスローガンが掲げられる。そこには、「四つの意識」、「四つの自信」、「二つの維護」などが含まれ
ていた。

これらは習近平が総書記として掲げてきた政策のエッセンスであり、「党の領導」を推進し、また
習近平が「党の核心」として位置付けられていることを強調するものであった6。

このように、中国共産党百周年演説の前段は、時系列に沿って、四史の内容を踏まえて中国共産党を中心
とする歴史が述べられていた。この部分はまさに四史政策の集大成とも言える部分であった。

この内容は、
例えば2021年10月9日の習近平による辛亥革命百十周年演説においても、また2021年11月12日の習近
平による歴史決議においても踏襲、補完されることになったのであった。

2.百周年演説と現在・将来の政策について

中国共産党百周年演説の前段は、時系列に沿って、四史の内容を踏まえて中国共産党を中心とする歴史が
述べられていた。

その後段には、この中国共産党百周年演説には、これから中国共産党が進めていくべき政
策についても述べられていた。それはこの百周年演説の主題でもあり、同時に四史を推進する歴史政策の持
つ意義でもある。

まず述べるべきは、中国共産党と国家、そして社会、あるいは中華民族全体が一致して、「偉大なる復興の夢」
を求めていこうとする姿勢である。

それは、「この百年来、我々がえてきた一切の成就は、中国共産党の人々、
中国人民、中華民族が団結して奮闘した結果である」というように歴史の叙述にも表れていた。

また、中国
共産党こそが中国を統治できるという点である。

これは、「中国事情をよく処理するに際しては中国共産党
が鍵となる。中華民族の近代以来180年以上の歴史、中国共産党成立以来の百年の歴史、中華人民共和国成
立以来の70年以上の歴史において、中国共産党がなければ新中国はなく、中華民族の偉大なる復興もなかっ
た」などとする部分にそれが表れている。

そして、中国共産党の領導、そして中国の特色ある社会主義こそ
が中国統治に適しており、その中国共産党の核心が習近平だとされる。

では、その中国共産党は何を代表する政党なのか。「中国共産党は、最も広大な人民の根本利益を始終代
表し、人民と喜怒哀楽を共にし、また生死を共にする存在だ」という。

これは中国共産党と人民とが一致し
ていることを強調するものだ。

そして、「中国共産党には全く自らの特殊な利益はなく、あらゆる利益団体
や権力団体、また特権階級の利益を代表するものではない」ともいう。

中国共産党が特権階級層となってい
るとの批判に対抗するように、「中国共産党と中国人民とを分割しようとする、また対立させようとするあ
らゆる企図は、全て決してその企みを達成できないだろう」とも述べられている。

これは中国共産党が人民
の代表としての性格を維持することをいかに重視しているかをうかがわせる点であり、またこの共産党百周
年を記念した習近平の言葉が、中国共産党が人民と一致していることを主張することを一つの目標としてい
ることを示していよう。

現在、および今後の政策の具体的な内容について述べた部分では、経済よりも政治、外交、軍事、そして香港・
マカオ、台湾問題などに記述が割かれている。

政治についてはすでに述べたが、外交についてはどのように
述べられたのだろうか。簡単に述べれば、これまでの基本方針を繰り返し述べているが、やはりそれでも述
べられていないことがある、ということだ。

例えば、「人類運命共同体の構築の推進を不断に進めなければ
ならない」であるとか、「和平、発展、協力、ウインウィンといった旗を掲げ、独立自主の外交政策を遂行
3
日本国際問題研究所/歴史系検討会論文集
習近平政権の歴史政策
し、和平発展の道を堅持し、新型国際関係の建設を遂行し、人類運命共同体の構築を推し進め、『一帯一路』
にて質の高い発展を共にうちたて、そうすることで中国の新たな発展を世界の新たなチャンスとして提供し
ていく」といったことが述べられている。

これらは習近平政権の対外政策の基本線である。

外交について極めて興味深いのは、従来、習近平政権が唱えていた新型大国関係については述べられてい
ない点だ7。

習近平政権は、バイデン政権に対して、オバマ政権期には存在していたと中国が認識している
新型大国関係の復活を求めた。

バイデン政権はそれに対して限定的にしか対応していないが、中国としては
もはや新型大国関係を特に大きく掲げようとはしていないようだ。

このほか外交の面では、国際社会から中国への批判への対応と思われる箇所が多々見られる。

「中華民族
の血液には他人を侵略したり、王や覇を唱えたりするような遺伝子はない」とか、「中国人民は他国の人民
を欺いたり、圧迫したり、奴隷にしたことはない。過去も、現在も、そしてこれからも」といったことだ。

これは、アメリカを念頭に「覇権主義や強権政治に反対」などとする部分にも見られる。
興味深いのは、「我々
は一切の有益で建設的で善意のある批評を受け入れる」としながらも、「教師節のような上から目線の説教
は決して受け入れない」とする点だ。これもアメリカや先進国を念頭に置いたものだと思われる。

次に香港、台湾問題について見ておこう。

まず、香港についてだが、中国は目下、国家全体を「偉大なる復興」
という一つの方向に向けるべく、一国二制度や自治区制度を変革して中国全体を一元化させようとしている。

つまり省市のある地域と特別行政区、民族自治区との段差、相違を埋めたり、小さくしたりする政策が推進
されていると言っていい。

だが、中国としては、一国二制度は堅持しているつもりでいる。このような姿勢は、
この百周年演説にも如実に現れ、「中央は香港、膜門特別行政区に対する全面的な管(理統)治権を実質化し、
また特別行政区の国家安全を維護する法律制度や執行メカニズムを実質化」するなどとしている。

中央政府
による「強権的」な政策は、「国家の安全」の名の下に正当化されているのである。

これは、新疆ウィグル
自治区においても同様だ。

台湾については、コロナ禍において中国人民解放軍の活動が活発になり、「台湾有事」の可能性が議論さ
れている。

だが、言葉の面での動向は異なる。

2019年1月に習近平が台湾統一に際しての武力行使の可能
性を示唆し、それまで落ち込んでいた蔡英文の支持率が上昇に転じて以降、習近平は言葉のトーンを穏当に
している。

それは2021年になっても変わらない。中国共産党百周年演説においても、統一に向けての一つ
の中国原則や92年コンセンサスなど一連の政策基礎について確認している。

92年コンセンサスに一つの中
国原則が含まれているはずであるが、昨今ではこの両者を並列する傾向が強い。

また、和平統一プロセス
を進める上で、「両岸の同胞を含むあらゆる中華の子女が、ともに和して助けあい、団結して前に向か」い、
台湾独立の野望を打ち破り、民族復興の美しい未来をともに創出する、ともしている。

これらは目新しい言
葉ではないが、改めて中華民族の偉大なる復興の夢、すなわち2049年にはアメリカに追いつき、台湾をも
解放するという時には、台湾人を含む中華民族がそれをともに実現し、ともに祝うことが想定されていると
いうことである。

だからこそ、中国としては台湾の人々へのハイブリッドな浸透政策を進め、台湾社会の側から中国との統一を望むように促すという政策が言葉の上では述べられることになろう。
台湾社会の対中感
情から見れば、このような浸透工作は容易ではない。

だが、長期的に見れば、こうした工作が一定の成果を
あげる可能性もあるし、逆にこの政策に効果が見られなければ、中国がより強硬な台湾政策を採用する可能
性もあろう8。

以上のように、中国共産党百周年演説には歴史を述べた部分と、習近平政権の現在の政策、またこれから
の政策目標などを述べた部分がある。

後者については、政策を正当化し、これからの政策の意義について説
明する格好となっている。これらが習近平の言葉で語られ、記録された以上、党の大きな方針として位置づ
けられていくことになろうし、逆に修正、変更されれば、習近平政権にとってはダメージになっていく可能
性もある。

4
日本国際問題研究所/歴史系検討会論文集
習近平政権の歴史政策

3.「四史」政策の形成と軌跡一馬工程の役割とその周辺ー

以上、中国共産党百周年演説の内容について検討したが、特に歴史部分について、それが習近平政権の進
めてきた四史政策の集大成であったということはすでに指摘した。

ここでは、その四史の政策がどのように
展開されてきたのかということについて考察してみたい。

まず触れておくべきことは、習近平がその経歴において特に歴史に関心を示してきた政治家だということ
だ。

ここではその経緯を一瞥しておきたい9。

習近平は、1988年に福建省寧徳地区の党委員会の書記となっ
たが、ここで天安門事件を耳にし、思想政策として実施したのが、この地区での革命記念館の開設、また党
史・地方史研究の推進であった。

1990年、習近平は福州市党委員会の書記となり、6年間在任するが、この
期間に習近平の歴史政策は積極化した。革命歴史記念館を建設し、また林則徐や厳復に関心を示し、さらに
船政学堂を称賛したりもしたが、この時点では党史ではなく、まだ国家史に関心の重点があった。

1990年
代後半、習近平は福建省党委員会の副書記、省長へと出世するが、この時期にも習近平は海のシルクロード
や鄭和、鄭成功など、国家史に関心を見せている。

だが、2002年4月に福建省龍岩市(上杭県:当時)の
古田会議記念館を訪れていることは注目に値する。

ここは、1929年に開催された古田会議(中国共産党紅
軍第四軍第九次代表大会)の場所であった。

この会議は、陳毅が主宰し、毛沢東が政治報告を行ったことで
知られ、中国共産党史上、重要な場所である。

習近平の党史との関わりは、福建省時代にすでに見られ始め
ていた。

その後、習近平は浙江省、上海市で要職を歴任するが、浙江省では浙江省嘉興県(当時)の南湖を訪れている。

1921年の中国共産党第一回党大会において、その南湖の湖上の紅船で党の成立を宣言したとされる。

習近
平は復元された紅船を見学し、「紅船」精神の発揚を求めたという10。

上海に赴任した習近平は、1921年の
中国共産党第一回党大会および翌年に実施された第二回党大会跡、保存建築物兼歴史記念館などを訪れてい
る。これは、党史重視の姿勢を示すものと言えるだろう。

2007年秋、習近平は25年ぶりに中央政界に戻っ
たが、その後も共産党史への関心を継続的に示していた。

2010年の全国党史工作会議では、「実事求是を堅
持することはすなわち党の歴史を研究し、宣伝することだ」などと党史工作担当者に伝えている11〇

2012年に中国共産党総書記となってからも、習近平は引き続き党史を重視した。2014年には古田で全軍
政治工作会議を開催し、また2017年秋には政治局常務委員を連れて、上海の第一回党大会記念館、浙江省
の南湖革命記念館を訪問した。そこでは共産党の初心に立ち戻ることなどを提起した12。
この「初心」は歴
史をめぐる様々な発言で利用されることになる。

習近平の党史重視の姿勢は、単に政治的なパフォーマンスだけでなく、宣伝や教育の場において制度とし
て導入されていくことになった。そこでは中国共産党宣伝部理論局が一定の役割を果たしたことが想定され
る。

2016年12月7日、全国高校(大学、高校)政治思想工作会議が開催されたが13、そこでは社会主義核
心価値観を高等教育において教育内容として位置付けることが提起された。それは愛国主義を核心とする民
族精神と、改革刷新を核心とする時代精神、そして社会主義核心価値観を用いて党史教育を導き、教育道徳
建設を導き、また中華の優秀な伝統文化と革命文化、社会主義先進文化教育を強化する、ということを目指
したものだった。

そこで、「党史、国史、改革開放史、社会主義発展史教育を強化し、国家意識、法治意識、
社会責任意識、および民族団結進歩教育、国家安全教育、科学精神教育を強化する」ことが企図された。


こではすでに明確に四史の原型が現れているのである。

だが、四史の中心には「党史」があることには留意
を要する。歴史叙述としては、とりわけ中国近現代史について党史を中心に描くということであり、また中
華人民共和国史を党史のリズムで描きなおし、そして改革開放史のナラティブを鄭小平の手から習近平へと
移し、さらに社会主義の発展と党史をからめ、中国型の社会主義の形成史を描こうとするものであった14。

2019年11月3日には、上海を訪問した習近平が再び第一回党大会記念館を訪れ、「上海はこれらの豊富
5
日本国際問題研究所/歴史系検討会論文集
習近平政権の歴史政策
な“紅色資源”を主題とする教育を生きた教材とし、多くの党員、幹部たちを導いて、党史、新中国史、改
革開放史を深く学ばせ、供産党の)初心を後世に伝え、使命を担っていくべきだ」と述べた。

四史は、党
内教育の教材としても重視されるようになっていった。

2020年になると、教育部が「四史」を大学の必修政治科目の教材に組み込むための「専門(専題)会議」
を開催し、その教材が人民出版社から出版され、2021年春から全面的に使用されることになった15。

この
教材は、欧陽㈱ 李捷、曹普、顧海良らが作成することになっていた。彼らは、マルクス主義教育の徹底を
その任務とする「馬工程」のメンバーである16。

この馬工程は略称で、正式には「マルクス主義理論研究と
建設工程(馬克思主義理論研究和建設工程)」という17。

これは胡錦濤時代の2004年に発足したもので、マ
ルクス主義のイデオロギーに関する理論面での刷新を担うプロジェクトとして、多くの高等教育における教
材を作成してきた18。

そうした意味では、マルクス主義教育の普及、徹底は習近平政権になって始められた
というわけでもない。

胡錦濤政権の下では格差問題などが重視され、改革開放政策が推進されつつも、再び
社会主義の「保守」的な傾向が復活する状況もあった。それがこの馬工程を生み出したとも言えるが、習近
平もまた2005年という比較的早い時期に革命や社会主義、すなわち「保守」的な傾向を強調した政治家であっ
たとも言える。

中国共産党百周年の記念行事が2021年7月1日に迫る中、「四史」政策は具体的な社会運動として強く推
進されることになった。

2021年5月末、中共中央弁公庁「党史、新中国史、改革開放史、社会主義発展史
の宣伝教育を全社会において展開することに関する通知(関於在全社会開展党史、新中国史、改革開放史、
社会主義発展史宣伝教育的通知)」が発せられた19。

ここでは、「党史の知識を普及させ、党史学習を推進す
ることによって、群衆の中に深く入り、基層に深く入り、また人心に深く入ることで、広汎な人民群衆が中
国共産党の国家と民族に対する偉大なる貢献を、深く認識するのを引導し、また中国共産党が始終人民の初
心に沿う姿勢を変えないという宗旨を深く感じるように引導する」などとされた。

また、「広範な人民群衆、
特に青少年」を対象とする宣伝工作が進められることになった。

具体的には、読書活動、巡回宣伝活動、体
験学習、紅色旅行などといった様な活動案が提示されている。そこには革命先烈やその家族を顕彰したり、
国防教育活動を実施したりすること、さらには民衆同士で歌を歌うこと、なども含まれている。

すなわち、中国では2021年6月の間、四史の学習会が各地、各レベルで進み、2021年7月1日の習近平
の中国共産党百周年演説を聞くための「予習」が進められていたのである。

興味深いのは、この活動は7月
1日を過ぎても継続されたことである。例えば、大学でも「馬工程」が具体化する過程で、「青年」による
馬工程、すなわち「青馬工程」などが推進されている。

これは四史学習を大学の中で徹底していくプロジェ
クトである。四史政策は、次第に末端にまで、少なくとも制度的には浸透しつつあるのである。

おわりに

本稿は、習近平政権が進めている歴史政策について、特に四史をめぐる政策、およびその意図について考
察し、7月1日の中国共産党百周年演説の意義を再考しようとした。

繰り返しもあるが、この課題に対する
本稿の検討を経た、暫定的な結論は以下の通りである。

第一に、2021年7月1日の中国共産党百周年を記念する習近平の演説は、四史の集大成とでも言えるも
のであった。歴史叙述を通じて、中国共産党が中国を統治し、また社会主義が統治理念として相応しいこと
を強調するとともに、習近平がその中国共産党の核心であることを主張していた。四史の叙述は、中国にお
ける新たな「正史」を創出する試みでもあり、習近平演説はその披露の場ともなった。

第二に、この演説は歴史部分だけでなく、現在の習近平政権の政策、これから中国共産党の政策について
も述べている部分があった。現政権の政策を肯定し、正当性を付与することを目指したためであろうが、逆
6
日本国際問題研究所/歴史系検討会論文集
習近平政権の歴史政策
にこれらは今後の政府の政策を規定してしまう面もある。特に、この演説からも、党と国家、そして中華民
族などの「夢」を一元化しようとする方向性が顕著にみられる。これは中国共産党が、国家、社会、そして
個人をもいわば同じ価値観の下に「領導」していこうとする姿勢とも符合している。

また、台湾人や海外の
華人を含む中華民族をもその「夢」を共有する主体としていることも重要だ。「偉大なる中華民族の復興」
が実現し、台湾が統一される時、台湾の人々もそれを祝うことが中国のプロジェクトの前提となっている。
こうした政策の実現可能性は未知数だが、こうした言葉は習近平政権の今後の政策を一定程度規定していく
ことになろう。

第三に、この四史に代表される党史を中心とした歴史政策は、胡錦濤政権期に習近平が地方の領袖であっ
た時代やその後中央に戻ってからその基礎が形成されたが、習近平政権第一期のうちの2016年にはすでに
その原型が形成されていた。他方で、胡錦濤政権以来の馬工程に代表される中国共産党理論局系のプロジェ
クトもまた、党史の教材作成や教育への浸透工作を推進していた。四史はその馬工程プロジェクトの一環に
位置付けられ、大学教材などが作成された。2021年5月、7月1日の中国共産党百周年に向け、四史の宣
伝工作が一層強化され、教育機関始め社会で様々な運動が展開されたが、7月以降も、馬工程の四史浸透エ
作は継続し、大学などでも「青年」による馬工程として「青馬工程」が推進されることになった。

最後に、このような歴史政策が中国の対日政策に与える影響について述べておきたい。

第一に、他の国際
関係史もそうであろうが、日中関係史も党史との関連で描かれることになる。

それだけに習近平の来日時に
はそうした中国共産党との関連を意識したりする場所に訪問することを求められることになろう。

第二に、
歴史認識問題という面から見ても、中国共産党との関わりが問題視されることになろう。八路軍や新四軍と
日本との戦闘、解放区への日本軍の攻撃など、そういったことが重視され、また文中で紹介した中国共産党
の対日宣戦のように、共産党が中華民国という国家とは別に行っていた対日政策が重視された叙述が今後な
されていくことも考慮しておいていいだろう。

日中それぞれの描く日中戦争史が今後大きく異なるものに
なっていくことになる可能性を視野に入れた対策が求められよう。

1 “Xi Jinping’s Important Celebrating Speech at the 100 years anniversary of CCP(在慶祝中国共産党成立100 周年大会上
的講話)”,CCP website, July 1 2021. http://cpc.people.com.cn/n1/2021/0708Zc437911-32152777.html

2習近平の地方時代の歴史政策については、鈴木隆「習近平とはどのようなリーダーか?地方指導者時代の著作にみる政
治認識、リーダーシップ、政治家像」(経団連21世紀政策研究所『中国の政策動向とその持続可能性一中国をめぐる3つの
視点-』[経団連21世紀政策研究所研究プロジェクト報告書:研究主幹 川島真]、経団連21世紀政策研究所、2020年所収)
に基づく。

3中国共産党百周年における習近平の演説が四史をめぐる政策の総括であったことについては、以下で既に述べた。本
稿は以下の諸稿を大幅に加筆修正したものである。川島真「中国共産党100年と習近平政権の課題」(2021年8月13日
NIPP0N.C0M、HTTPS://WWW.NIPP0N.C0M/JA/IN-DEPTH/D00745/)、川島真「夢はひとつか 中国共産党の百周年
習近平演説を読む」(『UP』587号、2021年9月、21-27頁)、川島真「中国共産党百周年•習近平演説をどう読むかー「(新)
四史」と台湾ー」(『交流』966号、2021年9月、1-7頁)など。

4中共中央宣伝部理論局編『世界社会主義五百年「党員幹部読本)』「学習出版社、党建出版社、2014年)。

5五位一体は、「経済建設、政治建設、文化建設、社会建設、生態文明建設」の総合的な政策を推進し、調整を行うことを指す。
習近平政権は、それを行いながら四つの全面、すなわち、社会主義現代化国家の全面的な建設、全面的な改革の深化、全面的
な法に基づく治国、全面的な厳格な党の統治、という戦略政策を推進するとしている。

6 「四つの意識」は、「政治意識、対局意識、核心意識、他者に倣う意識」、「四つの自信」は、「中国的特色のある社会主義の
路程に対する自信、理論に対する自信、制度に対する自信、文化に対する自信」、そして「二つの維護」は「習近平の党中央
の核心、全党の核心的地位の維護、党中央の権威と集中的で、統一的な領導の維護」を指す。

7新型大国関係は、大国間で諸問題について利害を調整し、お互いの核心的利益は尊重し合うという考え方。現在では、主
に中露関係について用いられている。

8なお、周辺国にとっては、中国が本当に平和裡に台湾を統一した場合に、それを容認するのか、あるいはそれを阻止する
ように働きかけるのかということは考えねばならないだろう。目下のところ、日本にせよ、アメリカにせよ、中国が平和裡に
台湾を統一した場合にはそれを容認しなければならないことになっている。

7
日本国際問題研究所/歴史系検討会論文集
習近平政権の歴史政策

9習近平の福建省時代の歴史政策については、鈴木隆前掲「習近平とはどのようなリーダーか?地方指導者時代の著作に
みる政治認識、リーダーシップ、政治家像」参照。

10習近平「弘揚”紅船精神”走在時代前列」(『光明日報』2005年6月21日)。

11「習近平:堅持実事求是研究和宣伝中共歴史」(中国新聞網、2010年7月21日、http://www.chinanews.com.cn/gn/2010/
07-21/2417251.shtml

12 「習近平在^仰中共一大会:tt時強調銘記党的奮闘歴歴程時刻不忘初心担当党的崇高使命矢志永遠奮闘」(新華網、2017年10 月 31日、http://www.xinhuanet.com//politics/2017-10/31/c_1121886319.htm)

13この会議の内容は、中共中央党史和文献研究院編、習近平著『論堅持党対一切工作的領導』(中央文献出版社、2019年)
にも採録されており、重要政策と位置付けられている。

14四史の出現は、中国近現代史のナラティブに大きな調整を迫るものであった。例えば、抗日戦争においても、従来の八年
抗戦ではなく、1931年から1945年までを戦争期間とする十四年説が習近平政権により採用された。そして、中央党校(国家
行政学院)党史教研部教授で博士指導教員でもある盧毅の講演「為什磨説中国共産党在抗戦中発揮了中流砥柱作用」(中国共
産党ウェブサイト、2020 年9月3日、http://dangshi.people.com.cn/n1/2020/0903/c85037-31848367.html)にあるように、満
洲事変後の国民党の政策を対日妥協だと批判し、「中国共産党こそが最初に日本に宣戦したのだ。中国共産党は、日本に対し
て宣戦しただけでなく、積極的にそれを実践に移し、東北抗日聯軍を領導して抗戦を領導した」とするような歴史観が現れた。
このような国民党への批判は、台湾への統一戦線工作における国民党の地位低下とも軌を一にしていたと考えられる。なお、
この中国共産党対日宣戦は、1932年初頭に日本が錦州を占領したことに反発して同年4月になされたとされるものである(『紅
色中華』1932年4月21日)。

15 「教育部啓動編写“四史”大学生読本」(『人民日報』2020年10月13日)

16 「教育部啓動編写“四史”大学生読本」(中国教育新聞網、2020年10月20日、https://baijiahao.baidu.com/s?id=16810647
07020058765&wfr=spider&for=pc) 〇

17馬工程成立の経緯などについては、「馬克思主義理論研究和建設工程簡介」(中国文明網、2009年8月6日、http://www.
wenming.cn/ll_pd/mgczt/jj/201108/t20110808_275560.shtml)参照。

18この馬工程が製作してきた教科書のリストは、教育部のウェブサイトに公開されている。「已出版教育部馬工程重点教材目
録」(教育部ウェブサイト、2021年10 月 20 日、http://www.moe.gov.cn/jyb_xxgk/xxgk/neirong/fenlei/kcjc/kcjc_gl/jcgl_
mgcj/202007/t20200723_474492.html)。

19 「中^印発«関於在全社会開展党史、新中国史、改革開放史、社会主義発展史宣伝教育的通知»(中華人民共和国中央人民
政府ウェブサイト、2021年5月 25 日 http://www.gov.cn/xinwen/2021-05/25/content_5612097.htm) 〇
8
日本国際問題研究所/歴史系検討会論文集

中国から外資・富裕層撤退の動き:背景に対米対立と台湾侵攻リスク

中国から外資・富裕層撤退の動き:背景に対米対立と台湾侵攻リスク
https://www.nippon.com/ja/in-depth/d00909/

『 「世界の工場」と言われてきた中国から外資が撤退したり、富裕層を中心に海外へ逃避したりする動きが目立つようになってきた。中国経済分析の第一人者、柯隆氏(東京財団政策研究所主席研究員)がその背景を解説する。

改革・開放から30年で日本を抜く

40余年前、中国の最高実力者・鄧小平はそれまでの毛沢東時代の鎖国政策に終止符を打ち、「改革・開放」へかじを切った。そのとき、中国に訪れた外国人の目に映った中国は満身創痍(そうい)の大国だった。鄧小平は共産党指導部の中では珍しいリアリストで、外国企業の直接投資を誘致し、中国経済の諸外国へのキャッチアップに注力した。

それから約30年たって、中国経済は飛躍的に成長し、2010年にドル建て名目国内総生産(GDP)が日本を追い抜いた。それ以降、多くの中国人は海外旅行に出かけるようになった。海外を旅する中国人は一様に驚いた。先進国の空港も道路も中国のインフラ施設と比べ物にならないほど老朽化している。中国人は初めて自分の国を誇りに思うようになった。

中国人はダーウィン主義をとりわけ信奉する傾向が強い。中国の歴史教育の基本的な文脈は弱い国が強い国に侵略されるという考えである。先進国が100年かけて実現した経済成長を中国人はわずか30年で実現したと豪語している。中国人としての誇りはさらに高まっていった。

米と衝突した「華夷秩序」

一つ不思議なことがある。いくら経済が成長しても、中国政府は自分の国が途上国であると主張するのを忘れない。2022年、中国の一人当たりGDPは1万2814ドルだった。国際政治学者は、中国政府が世界貿易機関(WTO)の枠組みで国際貿易において優遇措置を享受したいからであると指摘する。途上国ではなくなったのに、途上国と主張して優遇措置を享受したいとすれば、それはずるいやり方と思われる。

実は、中国政府が途上国であると主張するもう一つの狙いは、アフリカなど途上国との関係を強固にするためではないかと見られている。国連外交において、中国にとってアフリカは最大の「票田」である。中国政府は自国が途上国であると主張することで、アフリカ諸国と仲間である姿勢を示している。

事実として、習近平政権になってから、中国政府はアフリカ諸国に対して3年おきに600億ドル(約8兆3000億円)ずつ援助している。コロナ禍が広がってから、中国経済も減速するようになったが、それでも300億ドルの援助を約束している。それ以外にも中国の大学はアフリカから大勢の留学生を受け入れ、毎年、多額の奨学金を支給している。中国はアフリカとの協力関係を中国外交の柱と位置付けている。

国際政治において中国の拡張路線に対する批判が強まっているが、中国と途上国の協力関係は間違いなく強化されている。アフリカ諸国に限らず、途上国との関係をさらに強固にするための戦略は「一帯一路」イニシアティブである。これは途上国のインフラ整備を支援するための枠組みであるが、それによって中国外交の影響力もさらに強化される。換言すれば、これは習政権が目指す、中国を世界の中心とする新しい「華夷秩序」(かいちつじょ)ともいえよう。

ただし、習近平国家主席は途上国の首脳が「朝貢」として北京を訪れることに陶酔する一方で、米国と対立するリスクの管理に失敗した。習政権の誤算は自らの勢力圏を拡大させようとして、既存の覇権国家である米国とぶつかってしまったことにある。中国政府は途上国との付き合い方を心得ているようだが、米国との付き合い方を十分に心得ていない。
2018年、トランプ政権は突如として米中の貿易不均衡を問題視して中国に対して制裁を科した。同時に、カナダの空港でトランジットするファーウェイの最高財務責任者(CFO)、孟晩舟が米司法当局の要請でカナダ警察に拘束された。これが米中対立の引き金となった。習主席は中国がやられたら必ずやり返すと態度を硬化させたからである。

サプライチェーン見直し

外国人が中国をみる目が決定的に変わったのは2020年から3年間も続いたコロナ禍である。外国人からみると、中国政府はどんなに途上国と主張しても、確かに先進国に大きく近づいている。しかし、制度上の不透明性は大きなリスクになっている。まず、新型コロナウイルスの感染状況は正確に発表されていなかった。中国政府が進めるゼロコロナ政策はウイルスの感染を止めようとしたが、同時にライフラインも止められ、ウイルス以上に大きな被害をもたらした。

そして、中国政府は台湾の独立を絶対に認めない態度で、台湾を統一するために、武力行使を辞さないと習主席は繰り返して強調している。これは中国に進出している外国企業にとって深刻なリスクになっている。さらに22年12月、中国政府はゼロコロナ政策を事実上撤廃したが、景気を回復させる有効策は今のところ講じられていない。

なによりも米中対立が激化する中、外国企業は中国を離れるべきかどうかについて途方に暮れている。経済学者の多くは米中の「デカップリング」(対立・分断)はあり得ないと指摘しているが、実情をみれば、米中は半導体産業やハイテク技術のイノベーションについて完全に分断されている。

現在、米国の大学は中国人研究者をビジターとして受け入れる際、徹底的に身辺調査を行わなければならなくなった。このことについて、ワシントンのシンクタンクの研究者は「米中のデカップリングはdeChinafication(脱中国)ではないか」と解釈している。要するに、米中が完全に分断するのは考えにくいが、安全保障に関わる技術や米国の技術覇権を脅かす領域については、中国が完全に排除されている。その一つの事例は中国企業が最先端のパワー半導体チップを調達できなくなっただけでなく、半導体製造装置も入手できなくなったことだ。

結局のところ、多国籍企業を中心に中国に集約されているグロバールサプライチェーンの見直しを迫られている。In China for China(中国で行う地産地消)のビジネスについては、中国に残すが、輸出するための製造拠点は急ピッチでインドやベトナムなどへ分散されている。

台湾侵攻のリスク管理

専門家の間で中国が台湾に侵攻する可能性ついて意見が分かれているが、リスク管理の観点からは中国の台湾侵攻に備えなければならない。外国企業の一部はすでに中国にある生産拠点の分散に着手している。アップルからiPhoneの委託生産を受注しているフォックスコン(中国語名:富士康)はすでに河南省にある工場の半分以上をインドに移転しているといわれている。日本企業の中にも中国工場を閉鎖した事例もみられている。

影響はそれだけではない。中国人も海外への移住を急いでいる。大都市の富裕層の間ではマンションなどの不動産を手放す人が増えている。これらの富裕層は中国を離れ、米国、カナダ、豪州などへ移住している。実は、海外へ移住しようとしているのはなにも富裕層だけではない。最近、米国とメキシコの国境で6000人以上の中国人密入国者が米国境警備隊によって摘発されたといわれている。中国から来たこれらの密入国者は決して富裕層ではない。

米メディアが米国移住を希望する中国人にインタビューすると、彼らは開口一番に「ゼロコロナ政策に失望した」という。世界第2位の経済を誇る国の国民が大挙して海外へ移住しようとしていることは前代未聞のことである。ここで中国人のアイデンティティを議論するつもりはないが、愛国主義を口にする国民はよほどのことがなければ、国を捨てることはしないはずである。論語には、「危邦不入、乱邦不居」という教えがある。日本語に訳せば、「危ない国には入らず、住まない」という意味である。中国は人民にとって安心して住める国になるには、鄧小平路線に戻るのが前提である。

バナー写真:フォックスコンの工場移転で閑散とした中国河南省鄭州市の街並み(Featurechina/共同通信イメージズ)

この記事につけられたキーワード

半導体 サプライチェーン 米中対立 台湾有事 デカップリング

柯 隆KE Long経歴・執筆一覧を見る

東京財団政策研究所・主席研究員。1963年中国南京市生まれ、86年南京金陵科技大学日本語学科卒業、88年来日。 92年愛知大学法経学部卒業 。94年名古屋大学大学院経済学修士 。長銀総合研究所国際調査部研究員、富士通総研経済研究所主任研究員を経て現職。財務省外国為替審議会委員(2000~09年)、財務政策総合研究所中国研究会委員(2001~02年)。主著に『暴走する中国経済 』(ビジネス社、2014年)、『中国が普通の大国になる日』(日本実業出版社、2012年)など。』

習近平氏と徳川家康の分かれ道 力に頼る政治の限界

習近平氏と徳川家康の分かれ道 力に頼る政治の限界
風見鶏
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD080TG0Y3A500C2000000/

『4月末に訪れた静岡県の浜松市は、大勢の観光客でにぎわっていた。お目当てはもちろん、大河ドラマで脚光を浴びる徳川家康が築いた浜松城である。

家康は29歳からの17年間をここですごし、天下人への足がかりをつかんだ。浜松城は江戸時代になってからも歴代の城主が相次いで幕府の要職に就き、いつしか「出世城」の異名を持つようになったという。

城内のあちこちで外国人の姿を見かけた。「入場券はどこで買えますか?」。1958年に再建された天守閣を支える石垣の前では、中国人の女性が係員に英語でたずねていた。

家康が中国で最も有名な日本人のひとりであると聞けば、驚く人もいるかもしれない。

2007年に出た山岡荘八の小説「徳川家康」の中国語版が、累計で200万部を超すベストセラーになり、人気に火をつけた。

小国のあるじにすぎなかった家康が戦乱の世を生き抜き、ついには天下を取る。何度もくじけながら耐え忍ぶその生きざまは、立身出世の物語を好む中国人の心を捉えて放さない。

中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席も「徳川家康」を読んだだろうか。ふたりはどこか似たところがあるような気がする。

まず、生い立ちだ。家康は岡崎城主の嫡男として生まれた。習氏は元副首相の習仲勲氏を父に持つ。ともに名門の出で、農村からはい上がった豊臣秀吉や毛沢東とは明らかにちがう。

若いころ苦労したのも同じだ。家康は6歳で人質に出され、異郷の地で育った。習氏は文化大革命のさなか、15歳で黄土高原の谷あいにある小さな村に送り込まれ、およそ7年間を洞穴式の住居ですごした。

権力を握ったあとのふるまいも似る。家康は1614〜15年の大坂の陣で豊臣家を滅ぼした。

たとえ天下を取っても、自らの支配を脅かすおそれがある勢力は徹底的にたたく。そうした姿勢は2022年の中国共産党大会で、当時の李克強(リー・クォーチャン)首相や胡春華(フー・チュンホア)副首相らを指導部から締め出した習氏にも通じる。

徳川の世が永遠に続くようにするにはどうすればいいか。家康はそこに知略のかぎりを尽くした。

中国共産党の指導を貫徹するには何が必要か。習氏はそれに心血を注ぐ。

ふたりの人物像は、やはり多くの点で重なるのではないか。日本総合研究所の呉軍華・上席理事に意見を求めると「家康と習氏には決定的な違いがある」との答えが返ってきた。

「家康が基礎を築いた徳川家の統治は、独立した藩を幕府が束ねる封建制(幕藩体制)のうえに成り立っていた。一方、習氏はあらゆる権限を自らに集めようとしている」

家臣の進言をよく聞き、細事にはこだわらなかった家康。党の指導を絶対と考え、社会の隅々にまで自身の意向を行き渡らせようとする習氏。呉氏の目には、ふたりが異なるタイプの指導者に映る。

国際日本文化研究センターの磯田道史教授は著書で家康を「織田信長のように『力の原理主義者』にはならなかった」と評す。

引き締めすぎず、緩めすぎず。力に頼るばかりでなかった家康流の統治がしみ渡っていたからこそ、江戸幕府は265年の長きにわたって続いたのだろう。

そういえば、岸田文雄首相も「徳川家康」の愛読者だと聞く。

岸田氏と習氏のどちらが家康により近いか。その答えは日本と中国だけでなく、混迷する世界の行方をも占うカギになる。

(編集委員 高橋哲史)』

【中国ウオッチ】元閣僚級らがまたも急死 習政権3期目も反腐敗厳しく

【中国ウオッチ】元閣僚級らがまたも急死 習政権3期目も反腐敗厳しく
https://www.jiji.com/jc/v8?id=2023-04-28-chinawatch

『2023年04月28日13時00分

中国で元閣僚級高官と次官級の現職幹部が同じ日に急死した。いずれも「不幸な他界」とされているが、実際には汚職捜査の対象になったことを苦にして自殺したとみられる。習近平国家主席(共産党総書記)が続投を目指していた昨年春から夏にかけて高官の自殺が相次いだが、習政権が3期目に入ってからも「反腐敗闘争」を口実とする党内の粛清は続いているようだ。(時事通信解説委員 西村哲也)

後任の李強首相と明暗

 上海市に隣接し、南京市を省都とする江蘇省は、域内総生産(GDP)が広東省に次ぐ全国2位で、これまで多くの中央指導者を輩出してきた。そのトップである省党委員会書記(閣僚級)を2010~16年に務めた羅志軍氏が4月1日、病気のため「不幸にも他界した」という訃報が翌2日に伝えられた。

 また、西南地方に位置する重慶市両江新区党工作委の張鴻星書記(次官級)も1日、「不幸にも他界した」ことが2日公表された。

 訃報に「死去」でなく、「不幸な他界」を使うのは自殺で、反腐敗を主導する党規律検査委の標的になったことを察知して自ら命を絶ったケースが多い。

 羅氏は江蘇省党委書記として李強氏(現首相)の前任者だったが、それ以上出世できずに第一線を退いて最後は自殺。李氏は習主席の側近として政権ナンバー2に昇進と極端に明暗が分かれた。

 羅氏は、胡錦濤前国家主席や李克強前首相、李源潮元国家副主席と同じく共産主義青年団(共青団)の元幹部。江蘇省党委書記だった李源潮氏の部下として重用されたが、習政権になると、共青団派は徐々に衰え、羅氏は同省を離れた後、全国人民代表大会(全人代=国会)や人民政治協商会議(政協)の名誉職を歴任した。李源潮氏は失脚説が何度も流れ、17年に早期引退。19年には羅氏の元秘書が服毒自殺していた。

 羅氏については、反腐敗闘争で打倒された江沢民元国家主席派の大幹部、周永康氏(元党中央政法委書記)や薄熙来氏(元重慶市党委書記)の権力奪取計画に関わっていたとのうわさもあった。共青団派にせよ、周元書記らのグループにせよ、習氏の政敵であることに変わりはない。

 一方、習氏がかつて勤務した浙江省の人脈に連なる李強氏は、江蘇省から上海市党委書記(党政治局員)に転じて、中央指導部入り。同市で習路線のゼロコロナ政策を断行した「功績」により、昨秋の第20回党大会と今春の全人代で党政治局常務委員・首相に大抜てきされた。

執念深く非主流派排除

 重慶市の張氏は、昨年まで副省長(副知事に相当)などの要職を歴任した江西省での反腐敗に引っかかったようだ。張氏は江西省時代に撫州市党委書記を務めたが、その前任だった肖毅氏は21年、反腐敗で失脚。一部の中国メディアから、元江西省党委書記、政協副主席で江派の有力幹部だった蘇栄氏(14年失脚)との関係を指摘された。同省では近年、その他にも多くの高官が同様に粛清されている。

 蘇氏の問題から芋づる式に肖氏、張氏らを摘発したとすると、9年にわたって江西省の江派人脈を調べていることになる。

 改革・開放の最先進地区として知られる深圳市(広東省)でも、4月7日に元局長級幹部が「転落死」した。地元メディアによると、死亡したのは同市政府の副秘書長だった盛斌氏。20日になって、ようやく訃報が伝えられた。盛氏は14年に早期引退していた。

 盛氏の上司だった陳応春氏(元深圳市副市長)も16年に転落死している。陳氏は、江元主席の腹心で同市トップ(市党委書記)だった黄麗満氏に近かった。黄氏も一時、失脚説が流れたが、江氏がかばったのか、結局、無傷だった。

 なお、盛氏が転落死したマンションは、日本企業駐在員など外国人居住者が多い深圳市南山区に位置する。1戸当たりの価格は日本円で3億~6億円である。

 これらの事例から、権力独占を追求する習派がいかに執念深く非主流派を排除しているのかが分かる。習氏は総書記・国家主席として異例の3期目入りを果たしたが、4期目もしくは終身制を実現するため、反腐敗闘争による党内の粛清を継続していくとみられる。
(2023年4月28日掲載)』

習近平政権の「思想学習」

現代中国96号
特集
建党-00年と「社会
毒」中国のゆくえ
習近平政権の「思想学習」
——社会の領域を中心に
中央大学及川淳子
https://www.google.com/url?sa=t&rct=j&q=&esrc=s&source=web&cd=&ved=2ahUKEwiFsJ_40t_-AhXAglYBHfX6A00QFnoECAQQAQ&url=https%3A%2F%2Fspc.jst.go.jp%2Fcad%2Fliteratures%2Fdownload%2F12926&usg=AOvVaw0xgz8CEjAISc_PqayW65Wk 

 ※ .pdf→.txt変換した。

中国共産党の建党100年を迎えた中国は、今
後いかなる変貌を遂げていくのだろうか。

「社
会主義」を掲げる中国のゆくえを展望するため
には多様な専門領域からの考察が必要不可欠で
あり、党の思想宣伝工作に対する研究は現代中
国研究における古くて新しい課題といえよう。

党100年の歴史は、思想宣伝工作のあゆみでも
ある。政治権力の闘争は言わばイデオロギーを
めぐる対立と闘争でもあり、中華人民共和国の
建国から現在にいたるまで数多の政治運動は思
想宣伝工作と表裏一体である。

習近平政権は思想統制の強化や政治指導者に
対する個人崇拝など毛沢東時代との近似性が指
摘されているが、その実態はいかなるものだろ
うか。

「習近平新時代中国特色社会主義思想」
を掲げる現政権の思想宣伝工作に対する考察を
通して、「社会主義現代化強国」の建設を目指
す党と社会の関係性について、その特性や構造
的な変容を読み解くことは可能だろうか。

小論は以上の問題意識に基づき、習近平政権
の思想宣伝工作の現状について、その諸様相を
社会の領域から考察するものである⑴。

ここ
では、党内における思想教育とは視点を変えて、
党内外の社会全般に対する思想宣伝工作を「思
想学習」と定義して議論したい。

筆者が社会の
領域に着目するのは、近年の思想宣伝工作が社
会全般に向けて強力に推進されている傾向を重
視する所以による⑵。

2021年9月からは学校
教育における思想学習が強化され、新たなガイ
ドラインの制定や教科書の使用が日本のメディ
アでも取り上げられた⑶。

そこで、小論では
社会の領域、特に学校教育の現場における動向
に着目し、広範な社会の領域において展開され
ている思想学習の被覆性や浸透性の強化を「社
会実装」という視点で議論し、習近平政権下で
推進されている思想宣伝工作の意義およびその
機能的役割について検討する。

「社会主義」中
国のゆくえを展望する際の留意点として、習近
平政権の思想学習が中国社会全般に及ぼす中長
期的な影響についても指摘したい。

!習近平政権の思想宣伝工作

1.「習近平思想」の概要

2017年に開催された中国共産党第19回代表
大会において、中国共産党が長期にわたり堅持
しなければならない指導思想として「習近平新
時代中国特色社会主義思想」(以下、「習近平思想」
と略記)が「中国共産党党規約」に明記された⑷。

2018年の第13期全国人民代表大会では「中華
人民共和国憲法」にも記載され、「党と国家の
重要思想」として定義された。

習近平総書記の
報告や講話などを時系列で編纂した『談治国理
政』によれば、「習近平思想」とは「新時代の
中国共産党の思想の旗印であり、国家の政治生
33
活と社会生活の根本的な指針であり、現代中国
のマルクス主義、21世紀のマルクス主義であ
り、中華民族の偉大なる復興を実現させるため
の行動指針を提供する」と記されている⑸。

政治指導者の名前を付した指導思想の提起
は、「毛沢東思想」以来の重大な変化である。

また、「現代中国のマルクス主義、21世紀のマ
ルクス主義」という位置づけは、圧倒的な権威
性を象徴するものといえよう。

習近平総書記は、
自らの名前を刻んだ「習近平思想」を「21世
紀のマルクス主義」と規定するにあたり、いか
なる認識を有していたのか。

この点については、
習近平総書記が2018年にマルクス生誕200周
年記念大会で発表した談話を参照したい⑹。

「現代中国のマルクス主義、ニ^一世紀のマル
クス主義の新たな境地を絶えず切り開こう」と
題した講話で、習近平総書記は「マルクスの世
界観全体は教義ではなく方法である。

それが提
示したのは既成の教条ではなく、さらなる研究
への出発点とその研究に用いる方法である」と
いうエンゲルスの言葉を引用した上で、

「現代
中国の偉大なる社会変革は、中国の歴史・文化
の単純な延長でもなく、マルクス主義の原典の
著者が構想した枠に単純に当てはめることでも
なく、他国の社会主義をめぐる実践の重版でも
なく、海外の近代化の発展の模倣でもない」、
「理論の生命力は絶えざる革新にあり、マルク
ス主義の絶え間ない発展を推進することは中国
共産党員の神聖なる職責である。

我々はマルク
ス主義を用いて時代を観察し、時代を読み解き、
時代を先導することを堅持し、現代中国の生き
生きとした豊富な実践によってマルクス主義の
発展を推進する」と強調した。

このように、「習
近平思想」は「21世紀のマルクス主義」とし
ての権威性が確立されたのである。

「習近平新時代中国特色社会主義思想」を換
言すれば、その特性から「新時代思想」あるい
は「強国思想」と概括できる。

建国以来の毛沢
東時代を経て、登&小平、江沢民、胡錦濤が率い
た改革開放政策の時期とは明確に画期されたの
が「習近平の新時代」である。

第19回党大会
で三時間余りに及んだ習近平総書記の重要講話
では、「長期にわたる努力を経て、中国の特色
ある社会主義は新時代に入った」、

「近代以来、
長期にわたり苦難を味わった中華民族が立ち上
がり、豊かになり、強くなることで偉大な飛躍
を成し遂げ、中華民族の偉大な復興への実現に
向けて明るい前途を迎えたことを意味する」と
強調した⑺。

習近平総書記が自らの名を冠し
た「習近平思想」は、新たな時代に強い中国を
目指すための「党と国家の重要思想」として規
定されたのである。

2.思想宣伝工作の方針

習近平政権は、いかなる方針に基づいて思想
宣伝工作を展開しているのだろうか。

ここでは、
全国宣伝思想工作会議に注目したい。

政権発足
後の2013年に開催された全国宣伝思想工作会
議において、習近平総書記は重要講話を発表し
て以下のように述べた(8>。

思想宣伝工作を強化するには、必ず全党
を挙げて着手しなければならない。

各級の
党委員会は政治責任と指導責任を果たすべ
く、思想宣伝分野の重要な問題に対する分
析、研究、判断と重大な戦略的任務への包
括的指導を強化し、絶えず思想宣伝工作の
指導の能力とレベルを高めなければならな
い。

包括的宣伝という工作理念を打ち立て、
各戦線の各部門が共に取り組むように働き
かけ、思想宣伝工作と各分野の行政管理、
業種管理、社会管理をさらに緊密に結びっ
34
現代中国96号
けなければならない。

「包括的指導」と「包括的宣伝」の原文は、
それぞれ「統警指導」と「大宣伝」である。

「統
警」は「統合的な」という意味もあるが、ここ
では外文出版社の公式訳から「包括的」という
訳語を引用した。

2013年の重要講話から読み
取ることができるのは、党内にとどまらず社会
全般に対して思想宣伝工作を「包括的に」徹底
するという方針である。

第19回党大会後、2018年に開催された全国
宣伝思想工作会議では、「新たな情勢下におけ
る思想宣伝工作の使命と任務を自ら進んで担お
う」と題した重要講話が発表された(9>。

習近
平総書記は「中国の特色ある社会主義は新時代
に入り、思想を統一し、力を凝集させることを
思想宣伝工作の中心部分としなければならな
い」と強調した。

2013年の方針で「包括的指導」
と「包括的宣伝」が提起された点と比較すれば、
2018年の方針は「戦略的な任務」の実践が具
体化されたことが特徴だ。

重要講話では以下の
ように言及されている(10)〇

強い結束力と牽引力を備えた社会主義イ
デオロギーの構築は、全党とりわけ思想宣
伝戦線が必ずや担わなければならない戦略
的な任務である。

マルクス主義の宣伝教育
工作をしっかりと行い、とりわけ習近平新
時代中国特色社会主義思想の学習、理解、
実践に力を入れなければならない。

ここでは思想宣伝工作という「戦略的な任務」
の実践について、「学習、理解、実践」の各段
階で強調されている。

さらに注目すべきは、「思
想宣伝工作は人を対象とする仕事であり、民族
復興という大任を担う時代の新人育成を重要な
職責としなければならない」、「青少年の価値観
の形成と確立のカギとなる時期をしっかりとつ
かみ、青少年が人生の最初のボタンをきちんと
かけるように導く必要がある」という記述であ
る(11>。

全国宣伝思想工作会議の重要講話を参照する
と、習近平政権の思想宣伝工作は、包括的かつ
戦略的な方針に基づいて推進されている点が明
瞭だ。

近年、社会全般に対する思想宣伝工作が
強化されている実態について、「習近平新時代
中国特色社会主義思想」という新たな思想を掲
げるだけでなく、その実践が極めて戦略的に展
開されている点を指摘したい。

π習近平思想の「社会実装」

1.「社会実装」の視点による議論の試み

習近平政権が包括的かつ戦略的に思想宣伝工
作を推進する中で、近年は特に党の内外を越え
た広範な社会の領域で思想学習が強化されてい
る。

社会の広範囲における思想学習の被覆性や
浸透性の強化について考察することが本節の課
題であり、社会の実像を構造的に理解し、その
特徴を解明するには多種多様な観点からの分析
が必要だと考える。

そこで、議論の試みとして
援用するのが「社会実装」の視点だ。

「社会実装(Social implementation) J は、最新科
学技術のイノベーションを社会で実用する際の
実証過程や社会的課題の解決を目指すための変
革について用いられることが多い用語である(12))

日本では、平成28年(2016年)に内閣府が公
表した「第5期科学技術基本計画(平成28〜平
成32年度)」において、科学技術イノベーショ
ン推進の必要性を強調した際に「社会実装」と
いう用語が多用されている(13)。国立研究開発
35

法人科学技術振興機構(JST)の社会技術研究
開発センター (RISTEX)では、企業の研究開
発で成果を確認するために行われる「現場実験」
を例にして、社会のための研究開発を実証する
過程を「社会実装」と定義している(14)〇

また、
テクノロジーによる社会変革に関する研究と実
践に取り組む東京大学産学協創推進本部の馬田
隆明の著作によれば、「テクノロジーそのもの
のイノベーションだけでなく、組織や法制度、
慣習といった社会的な仕組みにもイノベーショ
ンが必要」であるとして、「社会的な仕組みの
イノベーションとしての法整備や教育システ
ム」についての指摘がある。

「テクノロジーの
社会実装とは、テクノロジーの力によって社会
を変えようとする営みであると同時に、社会の
仕組みを変えることによってテクノロジーが活
用される社会を作り出す営み」でもあるという
指摘は極めて示唆に富むものだ(15)。

「社会実装」の類語としては、「社会実験」が
挙げられるだろう。

筆者の理解では、期間や地
域などの範囲を限定化して新たな技術や制度を
試行した上で、その有効性を検証して評価する
ことが「社会実験」であるのに対し、「社会実装」
は研究開発によって得られた新たな技術やシス
テムが機能するように社会に組み込んで実用化
や普及を図るという相違がある。

「組み込む」
と言えば、イメージとしては「インストール
(install)Jに近いところもあるが、ここで「社
会実装」を暫定的に定義すれば、何らかの社会
的課題の解決を目的とした研究成果や知的財産
の具現化や実用化、あるいは一般化といえるだ
ろう。

最新の科学技術やイノベーションに限ら
ず、例えばある思想を「社会実装」すると考え
た場合、思想を専門性の高い学術的領域に留め
るのではなく、社会の広範囲に普及させて社会
的な課題解決のために思想を実践するという意
味合いになる。

最新の科学技術やイノベーションなどと親和
性の高い「社会実装」を思想の領域に援用し、
さらには習近平政権の思想学習について検討す
ることの有効性については限界や批判もあるだ
ろう。

しかしながら、「社会実装」によって広
く社会全般に対して一般化されるという点につ
いて検討すれば、社会に対する被覆性や浸透性
という観点から、思想学習の目的やその機能的
役割について構造的にとらえることができるの
ではないだろうか。

2.「社会実装」としての思想学習

それでは、習近平政権が社会の領域における
思想学習を強化している現状を「習近平思想の
社会実装」と仮定した場合、その目的や方策と
はいかなるものだろうか。

まず、目的について筆者が想起するのは、「主
要な社会矛盾」の解決である。

習近平総書記は、
第19回党大会の重要講話で「中国の特色ある
社会主義が新時代に入り、我が国の主要な社会
矛盾は、人民の日ごとに増大する素晴らしい生
活への需要と不均衡で不十分な発展との間の矛
盾へと変化している」、「主要な社会矛盾の変化
は全体の局面に関わる歴史的な変化である」
と強調した(16)。

「主要な社会矛盾の変化」に
ついては、党の重要文献においても大きく取り
上げられており、習近平政権の重要な政策課題
として位置づけられている(17)。

新時代の主要
な社会矛盾を解決するのは習近平総書記率いる
中国共産党であり、社会矛盾の解決において重
要な成果が示されれば、それはすなわち中国共
産党による統治の正統性が確保され、現体制を
維持し、さらには党の求心力強化に繋がるだろ
う。それこそが習近平政権の最重要課題であり、
最終的な目的だといえよう。

広範な社会に対す
36
現代中国96号
る習近平思想の学習という「社会実装」は、強
力な実行力によって推進され、党の権威性を高
めるために社会に対する党の影響力を拡大し、
強化しているものと考えられる。

筆者が本稿で「社会実装」の観点から思想学
習について考察するのは、党と社会の関係性を
明らかにするためでもある。

習近平政権の発足
後、党は言論や思想に対する統制を強化し、AI
やビッグデータなどの最新科学技術を用いた社
会管理によって中国共産党が社会を一元的に管
理するという社会体制が確立され、「デジタル・
レーニン主義」、「ビッグデータ独裁」と言わ
れるように、さらに厳格化の傾向にある(18>。

一方、党と社会の関係性という構造に着目する
と、一定の変化が生じていると見ることもでき
る。

すなわち、党が社会を一元的に管理してい
ると同時に、中国共産党による統治の正統性を
確保し証明するという現政権の政治目的が、実
際のところ社会との関係性において追求され、
その為に規制や統制がさらに強化されていると
いう構造である。

ここで、前述した馬田隆明の指摘について再
考してみよう。

「テクノロジーの社会実装とは、
テクノロジーの力によって社会を変えようとす
る営みであると同時に、社会の仕組みを変える
ことによってテクノロジーが活用される社会を
作り出す営み」でもあるという指摘の部分だ。

逆説的に考えれば、新たなテクノロジーが活用
できない社会は、社会の側に変革が迫られると
同時に、テクノロジー自体の真価が問われ、イ
ノベーションを迫られ、場合によっては淘汰さ
れる可能性もあるだろう。

このように「社会実
装」の視点を援用して考察すると、習近平思想
の学習という「社会実装」の推進は、党が社会
を変革するだけでなく、党自体もまた変革を迫
られるという双方向性を有し、今後はその傾向
が次第に表出され、顕著になる可能性もあるの
ではないだろうか「。

習近平思想の社会実装」は、
社会に対する党の影響力を拡大させ、その被覆
性や浸透性を強化しているが、同時に、社会の
側は常に受け身の状態にあるばかりではなく、
党は社会の側からその真価が問われるという可
能性についても指摘しておきたい。

習近平政権
の徹底した思想統制は強権的な統治の象徴だ
が、視点を変えれば、思想学習が徹底されれば
徹底されるほど、党と社会の関係性に構造的な
変化が生じる可能性もあるといえよう。

m社会に対する「思想学習」の現状

1.「人民」に対する思想学習

前項では、習近平政権による思想学習強化の
現状を「習近平思想の社会実装」と仮定し、そ
の目的や今後の可能性について議論した。

ここ
では、習近平政権が広範な社会において推進し
ている思想学習の具体的な方針や方策について
検討する。

前述した全国宣伝思想工作会議の方針に基づ
き、近年は思想学習に関する重要文献が相次い
で発表されている(19)〇

中央宣伝部や中共中央
党校が発行した重要文献を概観して想起される
のは、重要文献の発行後に各級の党組織におい
て党員の思想学習が徹底的に実施されるという
キャンペーンの展開だ。

党員の思想学習ではス
マートフォンのアプリなども活用されており、
党員生活の変化も興味深い話題であるが、それ
らについてはいずれ稿を改めて論じたい。

ここ
では社会全般に対する思想学習に焦点を絞り、
その方針および方策について検討しよう。

2021年7月、中国共産党100周年を盛大に
祝う記念式典が開催された数日後、党中央と国
37
務院は「新時代における思想宣伝工作の強化と
改善に関する意見」(以下、「意見」と略記)を
公表した(20)〇

「思想宣伝工作の強化と改善」
とは、つまり具体的な方針と方策について言及
したものである。

「意見」では、思想宣伝工作
について「党を治め、国を治めるための重要な
方法とし、思想政治教育を深く掘り下げて展開
し、基層レベルにおける思想政治工作の質と水
準を引き上げ、新時代における思想政治工作の
正しさと革新的な発展を推進」するという方針
が強調され、以下のように記述されている(21)〇

人民を中心とする旨を堅持し、党の大衆
路線を実践し、人民のより良い生活に対す
る憧れを奮闘目標とし、大衆を組織し、大
衆を宣伝し、大衆を教育し、大衆に奉仕し、
自信を強め、民心を集め、人々の心を温め、
団結を築くことを堅持する。

「意見」の中で筆者が注目したのは、思想宣
伝工作が党と国を治めるための「重要な方法」
として規定されていることである。

つまり、思
想学習は「党を治め、国を治める」ことに加え
て社会を統治して管理するための「重要な方法」
でもあるということだ。

もうひとつ指摘してお
くべきは、「人民」という用語である。

思想宣
伝工作は「党員」のみならず「人民を中心とす
る」ものでなければならず、「人民のより良い
生活に対する憧れを奮闘目標」とすることが明
記されている。

「人民のより良い生活に対する憧れ」を党の
奮闘目標として掲げたのは、習近平総書記の就
任演説に遡る。

2012年開催の第18回党大会第
1期全体会議終了後、就任したばかりの習近平
総書記が内外記者会見で特に強調したものだっ
た(22>。

以下、当時の講話から「人民」につい
て言及した箇所を一部抜粋してみよう。

「人民
の幸せな生活への憧れこそ我々の奮闘目標であ
る」、「この大きな責任は、党に対する責任であ
る。わが党は誠心誠意人民に奉仕する政党であ
る」、「人民は歴史の創設者であり、大衆は真の
英雄である。人民大衆は我々の力の源である」、
「我々は必ず人民と心を一つにし、人民と苦楽
を共にし、人民と団結奮闘し、日々怠りなく勤
勉に働くことで、歴史と人民に対して合格点の
答案を示さなければならない」。

これらの発言
から、習近平政権が「人民」との関係性を極め
て重視していることが確認できる。

「国民」、「公民」、「市民」、「大衆」、「老百姓
(庶民)」とは異なり、「人民」は政治的な概念
だが、習近平政権は「人民」という存在をどの
ように認識しているのだろうか。

「人民」と言
えば、想起されるのはかって毛沢東が論じた「人
民内部の矛盾」である(23」。

毛沢東が指摘した
ように「人民内部の矛盾」は依然として存在し、
矛盾は拡大しているとも考えられるが、それ以
上に注視すべきは、「人民内部の矛盾」よりも「人
民と党の間の矛盾」ではないだろうか。

習近平
政権は、その点を熟知して警戒感を強めている
からこそ、「人民のより良い生活に対する憧れ
を奮闘目標」とする一方で、広範な社会におい
て「人民」を対象とした思想学習を徹底してい
ると考えられる。

2.学校教育における思想学習

習近平政権の思想学習が社会の領域で徹底さ
れる重要な契機となったのは、建党100周年を
迎えた2021年であり、同年9月の新学期にあ
わせた一連の改革である。

学校教育における新
たな方針として、国家教材委員会が「習近平新
時代中国特色社会主義思想をカリキュラムと教
材に組み込むガイドライン(以下、「ガイドライ
38
現代中国96号
ン」と略記)」を発表した(24)〇

ここでは「ガイ
ドライン」の記述を確認しながら、学校教育に
おける思想学習の動向について検討したい。

まず、「ガイドライン」が重要な意義として
強調しているのは、「習近平新時代中国特色社
会主義思想は、新時代における中国共産党の思
想の旗印であり、国家の政治生活と社会生活の
根本指針であり、現代のマルクス主義、21世
紀のマルクス主義である」という点だ。

これは
前述したように、党規約や憲法に明記された文
言と完全に一致するものだ。

それをふまえて強
調されているのが、以下の記述である。

習近平新時代中国特色社会主義思想を指
導思想として一貫して堅持し、教育教学力
リキュラムのすべての過程と段階において
貫徹させなければならない。

習近平新時代
中国特色社会主義思想を全てのカリキュラ
ムと教材において全面的に実行し、広範な
青少年がマルクス主義の信念を打ち立て、
中国の特色ある社会主義の道に対する自
信、理論の自信、制度の自信、文化の自信
を揺るぎないものとし、党の話を聞き、党
と共に歩むという志を立て、正しい世界観、
人生観、価値観を形成することに重大な意
義がある。

「国家の政治生活と社会生活の根本指針」と
して習近平思想が規定されたことにより、学校
教育の現場では思想学習を徹底して「党の話を
聞き、党と共に歩むという志を立て、正しい世
界観、人生観、価値観を形成する」ことが重要
な教育目標となった。

また、「ガイドライン」
では「習近平新時代中国特色社会主義思想を教
材に組み込み、教室へと前進させ、学生の頭に
浸透させ、系統的かつ全面的で生き生きとした
具体的なものにする」という記述もある(25」。

以前、学校教育の現場では主に「道徳」や「政
治」などの個別の科目で思想教育が行われてい
たが、前述した「意見」に続いて「ガイドライ
ン」が発表されたことにより、小学校から大学
院までのあらゆるカリキュラムと科目において
習近平思想の学習が重視されることになった。

3.教科書に見る「習近平思想」

学校教育における思想学習は、2021年9月
の新学期から新たな展開を迎えた。

その象徴と
して挙げられるのは、「習近平新時代中国特色
社会主義思想学生読本(以下、「学生読本」と略
記)」である。

小学校低学年用、高学年用、中
学校、高校用の合計4冊の教科書が発行され、
週1コマの授業が必修科目となった(26」。

これまで検討してきた思想宣伝工作の方針や
「ガイドライン」は、実際のところ教科書の中
でどのように具体化されているのだろうか。

4
冊の教科書はいずれもカラー刷りでイラストや
写真が多用されている。その中でも小学校用の
教科書は子どもたちのイラストや親しみやすい
デザインが特徴的だ。また、低学年の教科書で
はアクティブ・ラーニングの要素を取り入れて
いる点も興味深い。

ここでは、具体的に以下のニ点について教科
書の記述を確認しよう。

まず、2018年の全国
宣伝思想工作会議で習近平総書記が述べた「青
少年の価値観の形成と確立のカギとなる時期を
しっかりとっかみ、青少年が人生の最初のボタ
ンをきちんとかけるように導く必要がある」と
いう一文についてである。

小学校低学年用の教
科書では、第6講「新時代のよい少年になろう」
の単元で、次のようなイラストと記述がある(写
真2参照)。

教科書では「人生の第一ボタンをきちんとか
39
写真1「習近平新時代中国特色社会主義思想学生
読本小学低年級」表紙
人民出版社・人民教育出版社、2021年
写真2 「習近平新時代中国特色社会主義思想学生
読本小学低年級

人民出版社•人民教育出版社、2021年、47頁
ける」と題して、以下の説明がある(27)〇

「習
近平おじいさんは言いました。価値観を作り上
げるのは服のボタンをかけるのと同じです。も
しも初めのボタンをかけ違えたら、残りのボタ
ンも全部かけ違えてしまいます。人生のボタン
は初めからきちんとかけなければいけません」。

教室にいる子どもたちの様子を描いたイラスト
の吹き出しには、「もし初めのボタンをかけ違
えたら、服が歪んでしまって、カッコ悪いよね」、
「僕たちは人生の第一ボタンをどうやってかけ
るのか今から理解しなければいけません」とい
うコメントがある。

青少年に対する思想宣伝エ
作を「人生の最初のボタンをきちんとかける」
と例えた習近平総書記の言葉は、小学校低学年
の子どもたちにも分かりやすい事例として教科
書で大きく取り上げられた。

次に参照するのは、習近平総書記が第19回
党大会の重要講話で述べた「主要な社会矛盾」
についてである。

中学校の教科書では、「我が国
の社会の主要な矛盾の変化」について次の記述
が見られる(写真4参照)。

1981年の第11期
六中全会当時の「人民の日ごとに増大する物質
文化の需要と立ち後れた社会生産との間の矛
盾」という指摘から、2017年第19回党大会で
提起された「人民の日ごとに増大する素晴らし
い生活への需要と不均衡で不十分な発展との間
の矛盾」が併記され、「主要な社会矛盾」が変
化している点が図表で強調されている(28。。

高校教科書では、「主要な社会矛盾」に関す
るイラストや図表は見られないが、第19回党
大会の習近平講話の文言を引用して以下のよう
に記述されている(写真6参照)(29。。

中国の特色ある社会主義が新時代に入
り、我が国の主要な社会矛盾は人民の日ご
とに増大する素晴らしい生活への需要と不
均衡で不十分な発展との間の矛盾へと変化
しており、これは中国の特色ある社会主義
の新時代における重要な特徴である。

新時
代の我が国の主要な社会矛盾の変化は、全
体の局面に関わる歴史的な変化であり、我
が国の社会のニーズと社会生産の新たな特
40
現代中国96号
写真3 「習近平新時代中国特色社会主義思想学生
読本初中」表紙
人民出版社・人民教育出版社、2021年
写真4 「習近平新時代中国特色社会主義思想学生
読本 初中」
写真5 「習近平新時代中国特色社会主義思想学生
読本高中」表紙
人民出版社・人民教育出版社、2021年
人民出版社・人民教育出版社、2021年、17頁
写真6 「習近平新時代中国特色社会主義思想学生
読本高中」
徴を本質的に反映している

以上、学校教育における思想学習の新たな展
開について「ガイドライン」や実際の教科書に
注目したが、新カリキュラムの運用について
は、今後、教育現場についての考察やさらなる
分析が必要だ。

学校教育の現場で習近平思想の
人民出版社・人民教育出版社、2021年、5頁
学習が週1コマの必修科目になったため、他の
科目の学習や入試制度にいかなる影響が生じて
いるかという点も興味深い。

また、子どもたち
の学習負担と家庭の経済負担を軽減させるため
に宿題や塾を減らし、ひいては少子化問題の改
善も期待されているいわゆる「双減政策」との
関連など、学校教育における思想学習との関わ
41
りで議論すべき課題は多岐に及ぶといえよう。

2021年から新教科書で習近平思想を学ぶ学
生たちは、建国100周年を迎える2049年には
中国社会を担う年齢層となる。

習近平政権の思
想学習が中国社会に及ぼす中長期的な影響につ
いても、今後見極めていく必要があるだろう。

結びにかえて

小論は、習近平政権の思想宣伝工作の現状に
ついて社会の領域から考察した。

学校教育のガ
イドラインや新教科書が象徴するように、近年
の思想宣伝工作は社会全般に向けて強力に推進
されている。

広範な社会の領域で深化している
思想学習について、その被覆性や浸透性の強化
を「社会実装」という視点で議論するという試
みが果たして論理性や説得力をもつものであっ
たか否か、これについては読者からのご叱正を
乞うところである。

筆者が小論で指摘したのは、党と社会、党と
人民の関係性という構造的な問題の所在とその
変容についてである。

社会主義現代化強国を目
指す中国共産党政権のもと、党と社会、党と個
人は、いかなる関係を構築していくのだろうか。

思想学習の徹底は、強権的な政治手法によると
ころが大きく、社会に対する党の影響力拡大と
いう側面に目を奪われがちだが、社会の側は常
に受け身の状態にあるばかりでなく、党と社会
の関係性には常に構造的な変化が生じる可能性
も内包されている。

小論では「人民」という用語で議論したが、
もとより「人民」は個別具体的な「人」である。

中国の社会で逞しく、しなやかに、したたかに
生きる人々が、果たして思想学習を受容してい
くのか、あるいは面従腹背でやり過ごしていく
のか、中国社会の実相は極めて興味深い。

その
意味でも、中国社会の構造変容について考察す
る際に、社会を構成する人々の思想や行動につ
いて理解を深め、同時代を生きる隣人として中
国社会の諸様相に関心を寄せる視点を持ち続け
たいと考える。

注)

(1) 本稿は、2021年10月23日開催の日本現代中国学
会第71回全国学術大会共通論題「建党100年と「社
会主義」中国のゆくえ」における報告をもとに執筆
したものである。全国学術大会の開催校である西南
学院大学、全国理事会、西日本部会、共通論題のコ
メンテーター各位にあらためて感謝を申し上げたい。
また、投稿に際しては『現代中国』編集委員会、学
会事務局の各位より格別のご高配をいただいた。付
して感謝いたします。

(2) 思想宣伝工作に対する論考として、以下を参照さ
れたい。拙稿「『習近平時代』の思想宣伝工作——学
校教育と家庭教育における最新動向」(連載“習近平
の中国”:ヤヌス像のアナトミー 4)『東亜』一般財
団法人霞山会、2022年1月号。

(3) 例えば、以下など。「中国全教育課程で『習近平思
想』指導」『東京新聞』2021年8月26日。「小学校教
科書に登場する「習おじいさん」中国で進むある「変
革」」朝日新聞デジタル版、2021年10月4日。

(4) 外文出版社の刊行物や国営新華通訊社などの公式
日本語訳では、「習近平の新時代の中国の特色ある社
会主義思想」と記述されるが、小論では中国語の原
文「習近平新時代中国特色社会主義思想」のまま表
記し、本文中では「習近平思想」と略記する。

(5) 習近平『談治国理政第三巻』外文出版社、2020年、
巻頭「出版説明」より。なお、『談治国理政』の引用
箇所の日本語訳は筆者によるが、訳語については日
本語版『国政運営を語る』を適宜参照した。

(6) 「不断開辟当代馬克思主義、二十一世紀馬克思主義
新境界」(2018年5月4日)『談治国理政第三巻』外
文出版社、2020年、74-76頁。

(7) 「決勝全面建成小康社会、奪取新時代中国特色社会
主義偉大勝利」(2017年10月18日)前掲、『談治国
理政第三巻』外文出版社、2020年、8頁。

(8) 「把宣伝思想工作做得更好」(2013年8月19日)習
近平『論党的宣伝思想工作』中央文献出版社、2020年、
14-18頁。引用箇所は、18頁。なお、会議の名称は「全
国宣伝思想工作会議」のままとしたが、引用箇所で
は「宣伝思想工作」ではなく「思想宣伝工作」と訳
出した。

42
現代中国96号
(9) 「自覚承担起新形勢下宣伝思想工作的使命任務」
(2018年8月21日)前掲『論党的宣伝思想工作』337
-342 頁。

(10) 同上、340頁。

(11) 同上。

(12) 中国語では> Social implementationの訳語として「社
会実施」の使用例が見られる。例えば以下など。趙
紅梅「経済法的私人実施與社会実施(〇n Private and
Social Implementation in Economic Law)」『中国法学』
中国政法大学民商経済法学院、2014年第1期、177-
195 頁。

(13) JST-RISTEX [研究開発成果実装支援プログラム]
『社会実装の手引き——研究開発成果を社会に届ける
仕掛け』工作舎、2019年、8頁。「第5期科学技術基
本計画(平成28〜平成32年度)」(平成28年1月22
日閣議決定)は、以下を参照。

内閣府、(https://www8.cao.go.jp/cstp/kihonkeikaku/index5.
html>(2021年8月31日閲覧)。

14」同上『社会実装の手引き——研究開発成果を社会
に届ける仕掛け』8-9頁。

(15) 馬田隆明『未来を実装するテクノロジーで社会を
変革する4つの原則』英治出版、2021年、68-69頁。

(16) 前掲「決勝全面建成小康社会、奪取新時代中国特
色社会主義偉大勝利」(2017年10月18日)『談治国理
政第三巻』9頁。

(17) 例えば、以下など。中共中央宣伝部『習近平新時
代中国特色社会主義思想三十講』学習出版社、2018
年、65-73頁「第六講」。

(18) この点については、以下を参照されたい。拙稿「中
国『デジタル•レーニン主義』の思想的背景」『国際
問題』公益財団法人日本国際問題研究所、No.705、
2022年2月。

(19) 主要な文献として、以下などを参照されたい。中
共中央宣伝部『習近平新時代中国特色社会主義思想
学習綱要』学習出版社•人民出版社、2019年。中共
中央党校(国家行政学院)『習近平新時代中国特色社
会主義思想基本問題』人民出版社・中共中央党校出
版社、2020年。中共中央宣伝部『習近平新時代中国
特色社会主義思想学習問答』学習出版社、2021年など。

(20) 中共中央、国務院印発「関於新時代加強和改進思
想政治工作的意見」2021年7月12日、<http://www.
gov.cn/zhengce/2021-07/12/content_5624392.htm) (2021
年8月31日閲覧)。

21」同上。

(22) 「人民対美好生活的向往就是我イ門奮闘的目標」(2012
年11月15日)『談治国理政』外文出版社、2014年、
3-5頁。「人民」に関する引用箇所はこれによる。

(23) 毛沢東『人民内部の矛盾を正しく処理する問題に
ついて』外文出版社、1968年。

(24) 「国家教材委員会関於印発『習近平新時代中国特
色社会主義思想進課程教材指南』的通知」中華人民
共和国教育部、2021年7月21日、
(2021年8月31日閲覧)。以下、「ガイドライン」の
引用はこれによる。

(25) 同上。「教材に組み込み、教室へと前進させ、学
生の頭に浸透させ」の原文は、「進教材、進課堂、進
頭脳」。

(26) 「学生読本」の編集、審査、発行については、前
掲の拙稿「『習近平時代』の思想宣伝工作——学校教
育と家庭教育における最新動向」を参照されたい。
27。「習近平新時代中国特色社会主義思想 学生読本 小
学低年級」人民出版社•人民教育出版社、2021年、
47頁。

(28) 「習近平新時代中国特色社会主義思想学生読本初
中」人民出版社•人民教育出版社、2021年、17頁。

(29) 「習近平新時代中国特色社会主義思想学生読本高
中」人民出版社•人民教育出版社、2021年、5頁。
参考資料(分野別・発行年順)
〔習近平著作(中国語版)〕
目近平«淡治国理政»外文出版社、2014年
目近平«淡治国理政第二卷»外文出版社、2017年
目近平«淡治国理政第三卷»外文出版社、2020年
目近平«^党的宣借思想工作»中央文献出版社、
2020 年
目近平«^中国共尹党折史»中央文献出版社、2021

〔習近平著作(日本語版))
習近平『国政運営を語る』外文出版社、2014年
習近平『国政運営を語る第二巻』外文出版社、2018

習近平『国政運営を語る 第三巻』外文出版社、2021

党主要文献〕

中共中央宣借部«目近平新吋代中国特色社会主又思
想三十供»学目出版社、2018年
全国干部培^教材編串指身委貝会組象編写«全国干
部学目培^教材新吋代新思想新征程»人民出版社・
党建^物出版社、2019年
中共中央宣借部«目近平新吋代中国特色社会主又思
想学目察要»学目出版社•人民出版社、2019年
中共中央党校(国家行政学院)«目近平新吋代中国特
色社会主又思想基本|、可題»人民出版社•中共中央
党校出版社、2020年
中共中央党史和文献研究院編«目近平新吋代中国特
色社会主又思想学目名イ第一^〜第五^»中央文
献出版社、2020年
43
中共中央宣借部«目近平新吋代中国特色社会主又思
想学目|、可答»学目出版社、2021年
〔学校教科書〕
教育部組象編写«目近平新吋代中国特色社会主又思
想学生^本小学低年纖»人民出版社、人民教育出
版社、2021年
教育部組象編写«目近平新吋代中国特色社会主又思
想学生^本小学高年纖»人民出版社、人民教育出
版社、2021年
教育部組象編写«目近平新吋代中国特色社会主又思
想学生^本初中»人民出版社、人民教育出版社、
2021年
教育部組象編写«目近平新吋代中国特色社会主又思
想学生^本高中»人民出版社、人民教育出版社、
2021年
〔インターネット資料〕
中共中央国多院印失«夫于新吋代加強和改迸思想政
治工作的意見»、2021年7月12日、(2021年
8月31日閲覧)
国家教材委貝会夫于印失«目近平新吋代中国特色社
会主又思想迸^程教材指南»的通知、2021年7月
21日、<http://www.moe.gov.cn/srcsite/A26/s8001/202107/
t20210723_546307.html)(2021年 8 月 31日閲覧)
〔日本語文献〕
加藤隆則『習近平の政治思想「紅」と「黄」の正統』
勉誠出版、2015年
柴田哲雄『習近平の政治思想形成』渓流社、2016年
石川禎浩『中国共産党、その百年』筑摩書房、2021

高橋伸夫『中国共産党の歴史』慶應義塾大学出版会、
2021年
JST-RISTEX [研究開発成果実装支援プログラム]『社
会実装の手引き——研究開発成果を社会に届ける
仕掛け』工作舎、2019年
馬田隆明『未来を実装するテクノロジーで社会を変
革する4つの原則』英治出版、2021年
〔拙稿〕
「『習近平時代』の思想宣伝工作——学校教育と家庭
教育における最新動向」(連載“習近平の中国”:ヤ
ヌス像のアナトミー 4)『東亜』一般財団法人霞山会、
2022年1月号
「中国『デジタル•レーニン主義』の思想的背景」『国
際問題』公益財団法人日本国際問題研究所、
No.705、2022 年 2 月 44

中共の武警用に新兵器が登場した

中共の武警用に新兵器が登場した
https://st2019.site/?p=21111

 ※ 「とある科学の超電磁砲」かよ…。

 ※ 「漫画やアニメで取り上げられた話しは、次々と「現実化」していく。」とオレに言ってた職人さんがいたが、ホントだな…。

 ※ 「鉄腕アトム」しかり、「空母いぶき」しかり…。

 ※ アトムなんて、「人工知能(AI)」の先駆けだ…。

『ストラテジーペイジの2023-5-3記事。
   中共の武警用に新兵器が登場した。「CS/LW21」という。隊員が手持ちで使える「レールガン」だという。重さは3kg。

 ほとんど音を立てずに、コイン形の「弾丸」を数百発、電動で連射することができる。威力は、厚さ3ミリの板を貫通するレベル。

 これなら民衆に向けてためらいなく乱射できるので、暴動も鎮圧しやすい。

 この銭形弾丸は、最大で50m飛ぶ。
 もっと殺傷性を高めたくば、円盤状ではない、流線型の弾丸を飛ばすこともできる。その場合、レンジも延びるという。』

英紙『ガーディアン』によると中共はこの月曜日にあたらしい法令を成立させた。

英紙『ガーディアン』によると中共はこの月曜日にあたらしい法令を成立させた。
https://st2019.site/?p=21111

『Ines Kagubare 記者による2023-5-2記事「China updates military conscription rules with eye on space, cyberwarfare」。

    英紙『ガーディアン』によると中共はこの月曜日にあたらしい法令を成立させた。
 げんざいは市井人であるところの予備役兵を、一朝にして急速動員するのが目的だ。

 殊に、サイバー系や宇宙系の技能を有している「元兵隊」は、まっさきに赤紙招集される。』

中国の貴州省、財政破綻の第一号になるか?

中国の貴州省、財政破綻の第一号になるか?
http://blog.livedoor.jp/goldentail/archives/31400456.html

『中国の貴州省は、少数民族が多い、人口4000万人の省です。もともと、貧しい内陸部の省で、習近平氏の政策で、「最後に貧困を脱した」と公式発表されている場所です。それから、2年で、どうやら省の財政が破綻しそうなようです。中国の貴州省政府発展研究センターは2023年4月12日、中国のソーシャルメディアに、貴州省が深刻な地方債務問題を抱え、自力で回収することができず、中央政府に助けを求めているという内容の文章を掲載しました。

これは、直訴に近い、極めて異例の事で、当然ながら、こういう嘆願は、正規のルートで、周りに悟られないように中央政府に伝えられるのが筋です。しかし、既に中央政府は、「地方政府を救済しない。自力で何とかしろ」というお達しを出しているので、衆目の目に晒す事で、無理矢理にでも中央政府から、なにがしかの解答を得ようとしたものと思われます。この投稿は、3日間にわたって、中国のインターネットで拡散され、今は検閲で削除されています。

まぁ、そもそも、習近平が「貧困を脱した」とした事自体が、予定調和の作文なので、実態をまったく反映していないわけです。その上、政策として観光などの目玉の産業を作る為に、歳入に見合わない、無茶な借金をして箱物を作ったあげく、武漢肺炎で人の移動が制限され、殆どがプロジェクトごと駄目になっています。既に返すあての無い借金で、貴州省はクビが回らない状態と思われます。

今、貴州省などで、ある歌が流行っています。題名は、「理想を持たない人は悲しまない」です。若者を中心に、人の輪ができると、合唱が始まる、日本で言うと、ある時期の「反戦フォーク」みたいな感じで路上パーフォマンスで歌われる歌です。歌詞を書きます。

敬うべき神殿は無知な者の心の中にしか存在しない。

自分の居場所は豚小屋

この夜は眠れない

私は敗北と孤独の中で死にたくない

ずっと地下で暮らしたくない

物質的ペテンが溢れている

私達は急ぎ足で行き来する蟻だ

文化の無い者は悲しまない

彼は悲しまない

この歌が生まれる背景には、博士号を持つ青年が、工場でネジを締める仕事に就くにも苦労するのに、学校を卒業したばかりの共産党幹部の娘が、既に9桁の貯金を持っていて、それをSNSで自慢している現実があります。親・金・人脈がモノを言う社会であり、それが共産主義を主張する滑稽さが、若者には例えようもない無力感を感じているのです。

まぁ、実際には、面子にかけて、貴州省を破綻させないでしょうが、それが状況が改善される形で行われるとは限りません。破綻させないだけで、塗炭の苦しみを味わう事になる可能性の方が高いです。そもそも、中央政府にも、余計な金は無いのです。』

データの改竄・操作が続々発覚 世界から疑惑の目を向けられる中国「論文工場」

データの改竄・操作が続々発覚 世界から疑惑の目を向けられる中国「論文工場」、専門家は「今後はChatGPTが不正の担い手になる」と指摘
https://www.dailyshincho.jp/article/2023/04281110/?all=1

『中国人による不正論文の“大量生産”疑惑が科学界を揺るがしている。中国人研究者が発表した論文内に、エビデンスの偽造や捏造の“痕跡”が次々と見つかり、対策を講じる動きが加速。しかし専門家らは、その背景に広がる中国社会の過酷な“チキンレース”の是正が進まないかぎり「問題根絶は不可能」と警鐘を鳴らす。

 ***

【写真を見る】中国で話題の的となっている“エリート報道官”の現在の変わり果てた姿
 本当は実験などしていないのに、あたかも検証してデータが得られたかのように装い、学術誌に論文として投稿する――。こういった手口で偽造や捏造された「中国発」の論文の存在に注目が集まっている。

「今春、英経済紙『フィナンシャル・タイムズ(FT)』などが報じたもので、中国人研究者による不正な論文が大量生産されている疑惑に焦点を当て、偽造された論文を量産する中国の“論文工場”の存在も指摘。いまや科学研究分野において中国の論文発表数はアメリカに次ぐ2位となり、昨年には論文引用数で初めてアメリカを上回った。そのため欧州の科学界を中心に重大な懸念が示されています」(全国紙外信部記者)

 不正の手口として、仮説を証明するエビデンスの画像データをデジタル操作したり、別の実験に使われた画像の色彩や抽出部分を変えて使い回すなどといったケースが報告されているという。

 不正横行の背景として指摘されるのが、中国の行き過ぎた競争社会だ。医師や研究者らは論文を発表することが昇進に繋がるだけでなく、ノルマと化して「質より量」が重視される傾向にあるという。』

『大卒・院卒でも就職困難

「論文工場」とは、論文の代理作成を請け負う専門業者のことで、1本につき数万~数十万円の報酬で代筆を受注しているという。

「米国の調査チームによると、2020年以降、世界で10を超える論文工場と2000本以上の捏造論文が発見されたといい、その中心地が中国とされます。論文工場を利用するのは、論文掲載数が評価に直結する大学の研究者や病院勤務の医師など。特に多忙を極め、論文を書く時間もない臨床医などを筆頭にカネを払って論文作成を外注するケースが後を絶たないと伝えられます」(同)

 前出のFT紙では最も多く不正論文を生み出している大学として吉林大学の名が挙がるが、中国事情に詳しいジャーナリストの中島恵氏がこう話す。

「吉林大学は中国の大学ランキングでも常に上位に入る、中国教育部直属の“国家重点大学”です。研究分野によっても違ってきますが、論文発表のノルマは過酷とも聞き、切羽詰まっている研究者などが多いのは事実でしょう。もともと科挙のお国柄ゆえ、中国では『学歴』が非常に重視され、大卒や院卒などの高学歴化が急速に進んでいます。実際、修士・博士はゴマンといますが、名門とされる北京大学や清華大学などで博士課程を修了しても、研究者としてどこかの大学ですぐに職を得るのは難しく、さらにキャリアに箔を付けるため、欧米の一流大学への海外留学も当たり前になっています」

 それでもポスト募集のタイミングと合わなければ、帰国して就職することは困難という。
「スナイパー」と呼ばれる代筆者

 有名大学を出ても「いい仕事」にありつける確率は低く、運よく大学や病院などの高給職を得ようものなら、そのポストを手放すまいと誰もが必死な状況という。そのため仕事のプレッシャーやライバルとの足の引っ張り合いなどから、心身を病み「うつ」になるエリート中国人も増えているそうだ。

 実は中国国内でも「不正論文」の横行は以前から問題視され、18年には党中央が論文などの代理・代筆投稿を禁ずる方針を発表。中国問題に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聡氏が補足する。

「不正論文が問題化する前には、大学入試における不正が横行し、社会問題化しました。当時、入試の答案などを代筆する者は“スナイパー”と呼ばれ、頭はいいが貧乏な大学生や医者の卵などを業者がリクルートして代筆させていた。しかし習近平政権になってから、入試不正が社会の安寧を脅かしかねないとして、取り締まりを強化。以降、入試現場での不正行為は激減した経緯があります」

 今回の論文問題でも、習政権が同様の強権措置を取る可能性も囁かれているという。

「ただし“上”から力ずくで押さえつけても、中国の熾烈な競争社会という“根っこ”の部分を変えないかぎり、一掃するのは難しいでしょう。不正入試の時には“告発されれば必ず捕まる”という状況をつくりだし、悪徳業者などを駆逐した。しかし今後は摘発を逃れるため、人間の手による代筆から“ChatGPTを駆使した不正へとシフト”するとの観測が早くも流れています」(富坂氏)

“イタチごっこ”は終わらない。

デイリー新潮編集部 』

中国当局者、大卒者の就職厳しいと指摘 今年過去最高の1158万人

中国当局者、大卒者の就職厳しいと指摘 今年過去最高の1158万人
https://jp.reuters.com/article/china-economy-employment-idJPKBN2WO088

『[北京 27日 ロイター] – 中国人事社会保障省の兪家棟次官は27日、雇用情勢は依然厳しく、特に大卒者の就職が難しくなっていると指摘した。

中国国務院(内閣)は26日、大卒者や失業中の若者を雇用する企業への補助金などの雇用促進策を発表した。

兪氏は会見で「雇用は安定しているが圧力を受けている。大卒者への圧力はなお非常に強い」と述べた。

政府は今年の雇用創出目標の達成に努めるとする一方で、世界経済の先行きに不透明感があると指摘した。

政府は、2023年に都市部で約1200万人の雇用創出を目標としている。

3月の調査に基づく失業率は5.3%だったが、16─24歳では19.6%と過去最高近くだった。

今年は過去最高の1158万人の大卒者が就職市場になだれ込む見込み。国内各地の寺院には週末になると長蛇の列ができ、若者が就職祈願をする姿が多く見られるようになった。』

『43: ウィズコロナの名無しさん 2023/04/28(金) 01:04:06.92 ID:17i6DzN50.net

中国の大学の定員は1998年に約108万人であった

1999年は約150万人、2000年には約221万人、2002年には約268万人と急増していき
2019年には610万人を突破して増え続ける

大学・大学院の在学生は3000万人以上となっている

そして2021年の大卒・院卒は909万人

2022年の大卒者、大学院卒者は1076万人

2023年は1158万人

2024年は····

2022年の時点ですでに文系学生の就職率はなんと12.4%と極めて低水準で
理系でも理学系が29.5%、エンジニア系が17.3%で

2023年にはこの数値がさらに低くなるとみられ、さらに年々悪化するのが確実という

地獄の就職難である。こんなにたくさんの四大卒はいらないのでござる

62: ウィズコロナの名無しさん 2023/04/28(金) 02:32:14.49 ID:17i6DzN50.net

就職できなかった大卒者は15年前の時点でも
2007年に100万人、2008年に150万人、2009年に80万人以上

蟻族と呼ばれて問題になっていたが、その後状況はますます悪化

いまや約1200万人が大学・大学院を卒業するのに就職率29%ではな

就職がヤバいので院に行ったり留学したりして時間稼ぎしても
2021年卒業 909万人→2023年卒業 1158万人と年々競争が激しくなる

望まない仕事をしてるとか、非正規に甘んじているというレベルをこえて
そもそも仕事がない 』

中国「反スパイ法」改正 対象範囲拡大 取締り強化に懸念

中国「反スパイ法」改正 対象範囲拡大 取締り強化に懸念
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230426/k10014050321000.html

『中国で、スパイ行為を取り締まる「反スパイ法」が改正され、国家の安全と利益に関わる情報を盗み取る行為が、新たにスパイ行為の定義に加わるなど対象範囲が拡大されました。中国では日本人がスパイ行為に関わったなどとして拘束されるケースが相次ぎ、取締りのさらなる強化が懸念されています。

中国の全人代=全国人民代表大会の常務委員会で26日、スパイ行為を取り締まる「反スパイ法」の改正案が可決・成立し、7月1日に施行されることになりました。

中国メディアによりますと、この中でスパイ行為の定義について、「国家の安全と利益に関わる文書やデータ、それに資料や物品」を盗み取る行為が新たに取締りの対象になるなど範囲が拡大されました。

また、国家機関や重要な情報インフラへのサイバー攻撃なども、新たにスパイ行為の定義に加えられ、サイバー対策を強化するねらいもあるとみられます。

中国の反スパイ法は、スパイ行為の定義があいまいだとして、国際社会では、法律が恣意的(しいてき)に運用されるおそれがあると指摘されてきました。

9年前に施行されたあと、これまでに少なくとも17人の日本人がスパイ行為に関わったなどとして当局に拘束されていて、今回の法律の改正をきっかけとした取締りのさらなる強化が懸念されています。

松野官房長官 “中国側に説明求め 在留邦人には注意喚起”

中国で「反スパイ法」が改正され、取締りの対象範囲が拡大されたことについて、松野官房長官は、中国側に詳しい説明や法執行・司法プロセスの透明性確保を求めるとともに、在留邦人に対しては注意喚起を行う考えを示しました。

中国でスパイ行為を取り締まる「反スパイ法」が改正され、中国メディアによりますと、スパイ行為の定義について「国家の安全と利益に関わる文書やデータ、それに資料や物品」を盗み取る行為が新たに取締りの対象になるなど、範囲が拡大されました。

これについて松野官房長官は、記者会見で「これまでも中国側に詳細な説明を求めるとともに、法執行や司法プロセスの透明性を求めてきている。同時に在留邦人への注意喚起を行っており、今後も、そうした取り組みを続けていく」と述べました。』

誰も幸せにならない、中国のデフレ

誰も幸せにならない、中国のデフレ
http://blog.livedoor.jp/goldentail/

『中国では天候不順による不作が伝えられ、色々なものが物不足でインフレしていそうですが、実はデフレの真っ最中です。その原因は、収入の減少。最近、中国の工場が募集した工員の時給は、120円程度です。武漢肺炎前の1/6程度まで給料が減っているので、買いたくても食料が買えません。その為、保存の効かない野菜や食料品を中心に、売るために値下げが起きてます。つまり、デフレ・スパイラルというやつです。

投資対象であり、中国のGDPの源泉である不動産価格も、とうとう役所が「参考価格」と称する公示価格を、不動産開発業者の希望販売価格と別に表示するようになり、その価格が大体、半額程度なのだそうです。役所は土地を貸し出した時に、販売予定価格で計算した税金を徴収しているので、不動産の高騰を抑える為に、無理矢理統制価格を付け始めたのです。この価格で買う義務はありませんが、銀行で不動産ローンを組む時に、貸出の基準になるのが、この「参考価格」になります。つまり、頭金を今までの何倍か積まないと、そもそもローンが組めません。これによって、不動産投機を抑制しようというのが、役所の狙いです。

再稼働を始めた、各種工場も、状況は同じで、仕事が減っているので、利益がでなくても、経費分を稼ぐ為に安い価格で仕事を請けます。これが、日常化すると、工員の賃金も、雇用を維持する為に、下げざるを得ません。他所の工場も、こっちの都合に関係なく値下げして、仕事を請けるからです。つまり、今、中国は、物凄く悪性のデフレに見舞われています。それと、同時に、何かしらの利権を持っていて、そもそも金持ちの階級は、武漢肺炎対策が終息したので、今までのストレスを発散するよに、高価な買い物に走っています。それを、SNSで見せびらかすので、度々炎上します。調子に乗ったバカ息子やバカ娘が、親が不正行為をして稼いでいる事を、自慢げにSNSで暴露してしまい、官憲に捕まって、人生が終了してしまうケースも出ています。

つまり、モノの値段が下がっているのに、それ以上に生活の基盤が壊れているので、安いものしか売れず、利益を度外視して、売るために値下げをせざるを得なくなっています。これは、誰も幸せになれないデフレです。気に入らなければ、工場を辞めても、すぐに次の就職先が見つかった、10年くらい前とは、社会の状況が一変しています。日雇いの仕事を求めて、都会に出てきた人達は、そのままホームレスに。そもそも、宿泊費なんて持っていないからです。昔は、それでも、直ぐに手配師から仕事を貰えて、寮に住み込みで働けました。今は、手配師がいません。

中国全体で、宅配などフリーターとして働く人数は8000万人とも言われ、不安定な非正規の仕事で、日々の生活費を稼いでいます。女性ならば、お客さんと一緒にカラオケ・ボックスで歌を歌う、ホステスのような仕事に「大卒以上」の学歴を募集しています。宅配も、おしなべて学歴は、高いです。学歴が高ければ、人生の競争で有利に立てると考えた親が、無理を重ねて、子供を大学へ入れたからです。それでも、卒業即失業者になる大学生が多いので、文化大革命の時のように、若者を農村に送り込んで、農業をやらせる政策を進めています。昔と違うのは、強制ではなく、一応、選択肢として勧めている点です。

また、中国の銀行が、預金者の金を勝手に使ったり、行員が使い込んで無くなっても、責任を取らなかったり、それを裁判所が認めたりした為、国内の金融において、信用不安が起きています。買ったはずの不動産が、途中で工事が放棄されたり、新築のマンションの床が、叩いたら割れたり、社会のあらゆる場面で、信用が崩れています。よって、投資して産業を起こすようなリスクを冒す人も減っていて、社会の活力も失われています。そして、度重なる傲慢な発言や、国際協定を自分の都合で守らない態度から、海外からの信用も失っています。金をばら撒けば、馳せ参じる国はありますが、そりゃ、金の力で集めた家来であって、友好国じゃありません。

まぁ、それでも鼻息だけは荒いのが、思想が優先する共産国の特徴です。「~でなければ、ならない」で、政治を行うので、報告書は捏造した数字だらけになって、まったく信用ができなくなります。捏造がバレれば、処罰されますが、悪い数字を正直に書いても処罰されので、どっちでも同じだからです。それなら、嘘を突き通して、出世できるなら、した方が良い。ある程度の地位までいけば、何をしても文句を言われなくなるので、バレる心配すらする必要が無くなります。

例のフランス駐在の中国大使みたいに、マクロン大統領がちょっと甘い態度を見せると、すぐに調子に乗って大言壮語するのが、チンピラ気質の中国外交です。本国の連中も大差無いので、甘い顔は禁物です。その代わり、基本的に芯が無いので、相手が手強いと感じると、絶対に手を出してきません。中国の強さというのは、相手との相対的な位置で決まるので、発展途上国には、やたら傲慢で、武力で叶わない国には、実にへりくだった態度を取ります。まぁ、それが大陸風という奴なのでしょう。それで、自分が偉いと思えるから始末に悪いのです。』

どこで何に使ったか一目瞭然…中国の地方政府、5月から「デジタル人民元」導入

どこで何に使ったか一目瞭然…中国の地方政府、5月から「デジタル人民元」導入
https://www.epochtimes.jp/2023/04/147377.html

『中国の一部地方政府で5月から職員給与支払いに、中国人民銀行が数年前より進めてきたデジタル法定通貨「デジタル人民元(e-CNY、数字人民币)」が使用される。これにより個人の監視はますます進むと専門家らは警鐘を鳴らす。

江蘇省常熟市政府は今月20日来月からの公務員や国営企業職員への給与を全額「デジタル人民元」で支払うと公表。地方政府としての使用は初めてとなる。』

(※ 無料は、ここまで。)

デジタル人民元による給与の支給 その使用感は?

デジタル人民元による給与の支給 その使用感は?
http://j.people.com.cn/n3/2023/0425/c94476-20011098.html

『人民網日本語版 2023年04月25日16:06

「江蘇省常熟市は現役の公務員を対象に、給与を全額デジタル人民元で支給する」というニュースが、広く議論を引き起こした。「デジタル人民元の形で給与をもらうのはどんな感じだろう」と、多くのネットユーザーは興味津々だ。

デジタル人民元で給与を支給するとは、雇用機関が従業員の給与をデジタル人民元の形で従業員個人の仮想通貨ウォレットに送金することを指す。実際、昨年から複数の都市でこうした試みが行われている。江蘇省太倉市は昨年からデジタル人民元で給与を支給しており、蘇州市の複数の管轄エリアもデジタル人民元で給与を支給している。

デジタル人民元の給与を受け取るのは、これまでと何が違う?

湖南省出身の亦菲さんは、「自分の勤め先がデジタル人民元での給与を支給するようになってすでに1年がたつ。デジタル人民元でもらっても難しい操作はなく、デジタル人民元アプリをダウンロードするだけでいい」と話した。

蘇州市のある事業機関の取材対象者は、「デジタル人民元で給与をもらった後、デジタル人民元を手数料なしで銀行口座に移し替えることができる。これまでと同じように、デジタル人民元で直接消費することもできれば、支付宝(アリペイ)や微信(WeChat)でデジタル人民元を使うこともできる」と話した。

多くの人の目には、応用シーンが絶えず広がるにつれ、デジタル人民元で支給された給与の使用感はより便利でスピーディなものになったと映っている。

たとえば同省揚州市では、市民がデジタル人民元ウォレットで子どもの学校の給食費を直接払うことができるようになった。蘇州市でもガス・水道・電気料金の一部がデジタル人民元で払えるようになった。複数の大型の公共駐車場ではデジタル人民元による決済が実現した。蘇州久光百貨など複数の大型商業施設ではデジタル人民元決済業務が行われている。

また、各地がデジタル人民元の応用推進に力を入れるにつれ、デジタル人民元の使用シーンがますます増えている。

北京市出身の雨朝さん(仮名)は、「以前に銀行で個人のデジタル人民元ウォレットを開設した時に銀行から20元の紅包(ラッキーマネー)をプレゼントされた」と述べた。多くの都市が「仮想通貨のラッキーマネー」を打ち出し、複数の消費シーンで使えるようになった。また、デジタル人民元を使って商業施設で買い物をすると、お得なキャンペーンが行われていることも多い。(編集KS)

「人民網日本語版」2023年4月25日

最新ニュース

デジタル人民元アプリの「オフライン・電源オフ決済」は安全か?
「デジタル人民元のラッキーマネー」が複数窓口で送金・受取が可能に
デジタル人民元ハードウォレットのセルフカード発行機が初登場
デジタル人民元のオフライン・電源オフ決済がリリース
「デジタル人民元で消費」が春節の新たなトレンドに
デジタル人民元による地下鉄乗車を体験 広州 』

中国・政治ビジネスの内幕本著者に聞く「コネがすべて」

中国・政治ビジネスの内幕本著者に聞く「コネがすべて」
編集委員 飯野克彦
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB0730A0X00C23A4000000/

『中国の女性実業家・段偉紅氏は2000年代、株式投資や不動産開発などで富を築いた。成功の最大の原動力は温家宝首相(当時)の夫人・張培莉氏との緊密な関係で、温首相が引退してしばらくすると段氏は当局に拘束された。そういった中国のビジネス模様を生々しく描いた書籍が、段氏の前夫でビジネスパートナーだったデズモンド・シャム(沈棟)氏による「レッド・ルーレット」(邦訳は22年に草思社から)である。来日したシャ…

この記事は会員限定です。登録すると続きをお読みいただけます。』

『来日したシャム氏に、中国の政治とビジネスの関係などを聞いた。

――英語版が出て1年半、「レッド・ルーレット」(以下RR)の販売実績は。

「英語版で6万部ほどと聞いている」

「レッド・ルーレット」著者のデズモンド・シャム氏

――RRには共産党政権の本質に迫るような表現がいくつも出てきます。「中国共産党にはマフィアに似たところがあり、独自のオメルタ(沈黙のおきて)を持っている」「紅い貴族は懲役刑ですみ、平民は頭を打ち抜かれる」「党の主な目的は、革命家たちの息子や娘の利益に奉仕することだ」などです。状況は将来も変わりませんか。

「共産党が政権にある限り変わらない。彼らのDNAだ」

――胡耀邦や趙紫陽のように、開明的で人間性のある指導者も共産党にはいました。今の習近平氏が退けば変わる可能性があるのでは。

「胡と趙は失脚した。彼らがトップだったのはごく短い時間だった。共産党では習氏のような指導者が標準で、胡や趙は例外だ。すでに習氏は胡と趙を合計したより長くトップの座にある。しかもなお、終わりは見えない」

――重慶市のトップだった薄熙来氏の摘発は習氏が言い出した、とあなたは書いています。こうした情報は広く共有されていたのでしょうか。

「そうだ。中国では政治がすべてで、ビジネスに関する会話も政治の話が中心だ。ビジネス会話という表現は適切でない。政治について話すことこそビジネスだ」

――RRには「2005年、党は元国家指導者の家族それぞれに1200万ドルを支給した」とありますが、元国家指導者とは。

「引退した党政治局員のことだ。現金や銀行への振り込みといった形式での支給を意味しているわけでは必ずしもなくて、ボディーガードやドライバーの雇用、医療や介護など様々な面で中国政府が1年間に負担する経費の総額だ。20年近くたった今ではもちろん、一段と膨らんでいるだろう」

――習氏が登場して腐敗は抑え込まれたのでは。

「そうではない。習氏が反腐敗運動を始めた後でも、指導者の親族たちのスキャンダルはいくつも表面化してきた。そして彼らは罰則を受けていない」

――中国大陸の人間関係はベタベタしている、とあなたは書いていますが、段氏がトラブルに陥った後の人々は冷淡です。

「中国はルールベースの社会ではなく、グワンシ(関係=コネ)がすべてを決める。そしてグワンシには機能主義的なところがある」

――段氏の近況は。

「割合に自由なようだ。国内は移動できるらしい。監視され海外には出られないし、資産はほとんど没収されたようだが」

――没収は強制でしたか。

「拘束された状態で、資産を国に渡すという書類を目の前に置かれたとき、それに署名する以外の選択肢はないだろう」

――中国当局が世界各地で展開しているとされる海外警察の存在を感じることは。

「私にとって安全という面で問題なのは確かだ。今回の来日では経由地として香港とドバイを避けた。現在リッチな中国人たちがたくさん日本に滞在しているのは安全だからだ」
――不動産大手のSOHO中国のビジネスモデル、つまり公開入札を通じて不動産を手に入れるビジネスモデルをあなたは評価しています。そういった透明性の高い方向、ルールベースの方向へ中国経済は向かわないのでしょうか。

「中国経済があれほど巨大になった一因は市場に基づく経済運営があったことだ。しかし、経済においても社会においても究極の決定をする力は政治力だ。共産党が支配する限り、ルールベースの社会にはならない。彼らは権力分立に反対し、自由民主主義の価値に反対し、西側の価値に反対し、司法の独立に反対している。司法の独立に反対していて、どうしてルールベースの社会になるのか」

――中国軍が27年にも台湾に侵攻するとの見方があります。

「27年は人民解放軍創設100周年に当たる。一方で習氏は(中国の数え方=数え年で)74歳になる。いまや彼にとって最大の関心事はレガシー(遺産)だ。彼が年をとればとるほど危険は高まる」

――ロシアのプーチン大統領が経済面でレガシーを手にできないのに対し、習氏は「世界一の経済大国」のトップを望める立場にある。習氏には待つという選択もあるのでは。

「中国経済が米国経済をしのぐとは思えない」

Desmond Shum中国名は沈棟(シェン・トン)。1968年上海生まれ。78年に母親に連れられ香港移住。米ウィスコンシン大学卒。北京で知り合った山東省出身の女性実業家・段偉紅氏と2004年に結婚。ビジネス面でもパートナーとなり、中国平安保険への投資や北京空港の保税区の開発事業などで成功した。08年には人民政治協商会議(政協)北京市委員会委員という公職に就いた。15年に段氏と離婚し英国移住。段氏は17年に当局に拘束された。
将来の変化の可能性に布石を

「中国の体制は(中略)もっと透明でオープンなものになると、大多数の人は本当に信じていた」。「レッド・ルーレット」のなかでシャム氏はこう書いている。シャム氏自身、いずれ民主的な政治改革が進むとの希望を抱いた時期があったのである。

それが幻滅に転じたのは、2008年のリーマン・ショックの前後から共産党政権が民間企業への締め付けを急速に強めたからだという。いまやシャム氏は共産党政権に対する断固とした批判者であり、習近平氏が退場した後も政治改革は期待できないと考えていることが、インタビューではひしひしと伝わってきた。

中国共産党政権に対する見方は海外でも急速に厳しくなってきたので、珍しくもない印象を受けるかもしれない。ただ、シャム氏の場合は、共産党政権下で半ばインサイダーとして成功した人物ならではの凄みがある。「ビジネス会話という表現は適切でない。政治について話すことこそビジネスだ」といった指摘からは、一党独裁体制の下でのビジネスの実態が鮮やかに伝わってくる。そうした知見・経験を総括した結果として、共産党政権に絶望した印象なのである。

では、今後、どう中国と向き合っていけばいいのか。シャム氏のようにポスト習近平の時代にも変化は望めないと決めつけるのは、早計だろう。将来の変化の可能性を見込んだ布石も求められる。

[日経ヴェリタス2023年4月16日号]』