欧州、炭素税導入で先行 ノルウェー3倍、企業は反発も

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR14DPH0U1A110C2000000/

『【ブリュッセル=竹内康雄】欧州で二酸化炭素(CO2)の排出に課す炭素税を拡充する動きが広がっている。ノルウェー政府は炭素税を従来の3倍強に引き上げる計画を公表。温暖化ガス排出の大幅削減には、炭素の価格付け(カーボンプライシング)が欠かせないとの認識から、オランダやドイツなども動き出している。他地域に先駆け、温暖化対策を主導する。

2月半ば、欧州市場で取引される温暖化ガスの排出枠の価格が1トン当たり…

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2月半ば、欧州市場で取引される温暖化ガスの排出枠の価格が1トン当たり40ユーロ(約5200円)を超え、過去最高を記録した。排出枠はCO2を排出できる権利で、足元では約40ユーロを払えばCO2を1トン排出できることを意味する。

欧州連合(EU)では排出量取引制度(ETS)のもとで企業などが排出削減義務を負う。削減を自力で達成できる企業は排出枠として余剰分を市場で売り、自力で達成できない企業は購入して不足分を穴埋めする。価格高騰の背景にはEUなどが2050年に域内の温暖化ガスを実質ゼロにする目標に向け、環境対策を強化していることがある。

排出量取引と並ぶ「カーボンプライシング」の手法の一つが炭素税だ。CO2の排出に税金を課せば、できるだけ負担を減らそうと企業が排出減に取り組む。技術革新が進む期待もある。世界が今世紀半ばでの実質排出ゼロに踏み出す中、カーボンプライシングは実現の有力な手段と位置づけられている。EUでは排出量取引が中心だったが、一段の環境対策を進めるために炭素税を拡充する動きが相次ぐ。

ノルウェー政府は1月、炭素税を引き上げると表明した。石油関連など幅広い大規模事業者に課す税を段階的に引き上げて30年に現行の3倍以上の1トンあたり2000クローネ(約2万5千円)にする。ノルウェーは西欧最大の産油国。国内の排出量でも石油・ガス産業が最も多い。温暖化ガスの排出を30年までに90年比50~55%、50年に90~95%減らす目標を達成するには、炭素税の引き上げが欠かせないと判断した。

オランダでは、21年から製造業など産業部門を対象に1トンあたり30ユーロの炭素税を課す制度が始まった。1年ごとに10ユーロ強引き上げられ、30年には125ユーロになる。アイルランドやルクセンブルク、デンマークなどでも同様の動きがある。

ノルウェーやオランダが課税対象とする分野は、EUのETSの対象でもある。ETSにはEU非加盟のノルウェーやアイスランドなども参加する。ノルウェー、オランダともETSでの負担分を差し引いた上で、企業から炭素税を徴収する。オランダ政府は「ETSだけでは、排出削減目標を達成できない可能性がある」とみて上乗せに踏み切った。30年には排出枠などの炭素価格は100ユーロを超えるとみる欧州の国は多い。

ドイツでは21年からETS対象外の運輸と建物を対象に独自の排出量取引制度を導入した。輸送・暖房用燃料からの排出が対象で約4千の事業者が参加する。1トンの排出価格は当初25ユーロから25年までに55ユーロに上がり、その後は企業間で取引される。

欧州の外でも炭素税を拡充・導入を検討する国は相次いでいる。カナダ政府は30年までに現行の5倍強にする方針を表明。日本でも、炭素税などカーボンプライシングの制度設計の検討が始まっている。

温暖化ガスの大規模な削減は、短期的には企業などに痛みが伴うこともあるため、反発もある。ノルウェーの石油・ガス協会は「コストが増え、ノルウェーの世界での競争力を低下させかねない」と政府の政策を批判。炭素税の引き上げを表明したカナダのトルドー政権も負担増につながるとの批判を受けている。

三菱商事、ベトナムの石炭火力「ビンタン3」から撤退

https://www.nikkei.com/article/DGXZQODZ25D9F0V20C21A2000000/

『三菱商事は25日、ベトナムで計画している石炭火力発電所「ビンタン3」から撤退する方針を固めた。脱炭素を巡り石炭火力への風当たりが強まるなか、今後はより環境負荷の低い液化天然ガス(LNG)火力や太陽光発電など再生エネルギー網の建設などで協力する。三菱商事が計画中の石炭火力発電所で撤退するのは初めてとなる。

ビンタン3はベトナム南部ビントゥアン省に建設。総事業費は20億ドル。発電容量は約2ギガワットで最新鋭の…

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発電容量は約2ギガワットで最新鋭の超々臨界方式を採用。2024年の稼働を予定している。三菱商事と香港の中電控股が共同出資するワン・エナジーが事業主体で49%を出資。ベトナム電力公社も29%出資する。機材の調達や建設、設備の納入は中国企業が受け持つ。

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三菱商事、ベトナム石炭火力巡り市場と政府の板挟み

融資団には中国工商銀行など中国勢が名を連ねるが、英スタンダードチャータードや同HSBCが地球環境問題の高まりを受けて撤退を表明している。

三菱商事はベトナムでは同じ石炭火力の「ブンアン2」の建設も計画している。ただ後続のビンタン3はブンアン2と異なり、日越両国の国家プロジェクトではなく、当初計画していた着工時期も延びているため、撤退することを決めた。

三菱商事は、ブンアン2を最後に石炭火力は新規に取り組まないと表明している。ビンタン3は見送り、LNG火力や再生エネルギーなど多様な電源を提供していく考えだ。

この記事の英文をNikkei Asiaで読む https://asia.nikkei.com/Business/Energy/Mitsubishi-pulls-out-of-Vietnam-coal-plant-amid-climate-concerns?n_cid=DSBNNAR

Nikkei Asia
カーボンゼロ

多様な観点からニュースを考える
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小平龍四郎のアバター
小平龍四郎
日本経済新聞社 編集委員
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分析・考察 三菱商事の悩みが行間ににじむ記事です。ベトナム事業が象徴する世界の石炭火力発電事業は、投資家や環境団体などから強い批判を受けています。「ビンタン3」もそうですが、本丸は「ブンアン2」。こちらは国家プロジェクトなので撤退が難しいというのが公式の説明ですが、日本政府は「2050年の温暖化ガス排出ネットゼロ」の目標を掲げてもいます。ベトナムという新興国がまだまだ大量の電力を必要としているという現実もあります。批判覚悟で突き進むしかないのでしょうか。環境団体が株主となって、株主総会に何か提案を出すかどうかも気になるところです。
2021年2月26日 8:39いいね
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国内最大級の水素製造プラント 伊藤忠、仏大手と提携

国内最大級の水素製造プラント 伊藤忠、仏大手と提携
【イブニングスクープ】
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODZ186ZE0Y1A210C2000000/

『産業ガス世界大手の仏エア・リキードと伊藤忠商事は2020年代半ばに、世界最大級の液化水素製造プラントを中部地方に設置する。液化天然ガス(LNG)から製造する方式を採るとみられ、現状よりも価格を抑えながら燃料電池車(FCV)など向けに供給する。世界が水素活用の取り組みを加速する中、普及のカギを握る水素生産の体制作りが国内で本格化してきた。

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政府は50年に温暖化ガス排出を実質ゼロにする戦略の中で、水素…

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政府は50年に温暖化ガス排出を実質ゼロにする戦略の中で、水素を有力な脱炭素エネルギーと位置づけている。同戦略では30年に年間最大300万トンの水素供給を掲げており、実現に向けた供給整備が課題になっている。現状、日本で供給される水素の大半は産業用途の圧縮水素だが、大量輸送が可能なことなどからエネルギー利用は液化水素が今後の本命技術で、エア・リキードと伊藤忠の連合も液化に対応する。

このほど日本での水素供給網の構築を巡る戦略的協業の覚書を結んだ。新プラントが生産する1日あたりの液化水素はFCV4万2000台分をフル充填できる約30トンを想定。現在、国内での液化水素は岩谷産業を中心に1日約44トン程度が生産されており、これに匹敵する規模となる。

投資額はエア・リキードが米ネバダ州で約200億円を投じて建設している世界最大級の液化水素プラントと同等規模になる見通しだ。水素の製造方法はLNGを水素と二酸化炭素(CO2)に分解する方式を軸に検討する。製造段階で発生するCO2は回収し、飲料品向けの発泡剤やドライアイスなど工業用途で外部に販売する。

セ氏0度、1気圧、湿度0%の基準状態での体積をノルマル立方メートルと呼ぶが、1ノルマル立方メートルの水素単価が足元で100円程度なのに対し、政府は30年に3分の1以下となる30円の水準とすることをめざしている。

大規模設備で水素普及の壁となっているコストを削減する。現在、LNGからつくる液化水素はCO2の回収費用も含めて1キログラムあたり1100円前後の最終価格で企業間取引がされている。水素を用いた発電コストを電力換算(1キロワット時)すると約52円と一般電力の約2倍する。エア・リキードなどは1000円以下での提供を目指す。

水素の供給先は国内にある自動車向けの水素ステーションを見込む。20年12月時点で国内の水素ステーションは137カ所あるが、政府は30年に900カ所に引き上げる方針だ。現在FCVの国内保有台数は4000台程度だが、伊藤忠ではトラックなど商用車を含めたFCV市場が膨らむと想定し水素供給のビジネスを強化する。

火力発電や製鉄業界に対しても水素の利用を促していく。石油化学業界など工業向けとあわせエア・リキードと連携して販路を開拓する。

水素普及で先行する欧州連合(EU)は20年7月に「水素戦略」を公表した。EUはCO2を発生させないように再生可能エネルギーを使って水を電気分解し水素を得る「グリーン水素」に注力している。30年にグリーン水素だけで1000万トンの導入を目指す。1キログラムあたり300~700円で製造できるとされる。

日本でも福島県に再生エネを活用して水素を製造する世界最大級の設備があるが、再生エネのコストが高い日本で欧州並みを実現するには時間がかかる。当面は化石燃料由来の製造法で水素普及を急ぐ。

エア・リキードは水素製造では独リンデなどと並ぶ世界大手。20年12月期の連結純利益は3100億円、売上高は2兆6000億円だった。水素ステーションでも世界に存在する約500カ所のうち約120カ所を設置している。日本国内でも13カ所を運営し、22年中に4カ所を新設する。

カーボンゼロ
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Nikkei Asia

水素争奪戦に備えを 脱炭素が迫る資源安保

水素争奪戦に備えを 脱炭素が迫る資源安保
編集委員 松尾博文
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGH16AJ20W1A210C2000000/

『自動車の大衆化に道を開いた「T型フォード」が米国で発売されたのは1908年。同じ年、ペルシャ湾の奥深く、現在のイラン南西部のマスジェデ・スレイマンで中東最初の油田がみつかった。

第1次世界大戦に向かう情勢緊迫の折、石炭から石油へ艦艇の燃料転換を急ぐ英国政府はアングロペルシャ石油(後のBP)を買収してこの油田を管理下に置いた。

以来、英国から米国へ主役は代わっても、石油を握る国が覇権と繁栄を手に入れ…

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以来、英国から米国へ主役は代わっても、石油を握る国が覇権と繁栄を手に入れた。供給地としての中東は20世紀を通してエネルギー地政学の中心にあった。

日本も例外ではない。田中角栄元首相の懐刀として列島改造論を支えた元通商産業(現経済産業)次官の小長啓一氏は「中東産の安い原油にいち早くアクセスし、臨海部の製油所や石油化学コンプレックス(コンビナート)に運び込む体制を政官民一体で整えたことが工業化の原動力になった」と指摘する。

カーボンゼロはこの前提を覆す。石油・天然ガス部門を手放し、風力発電へ事業の軸足を移したデンマークの政府系エネルギー会社オーステッドの時価総額は、日量260万バレルの石油・天然ガス生産量を持つBPに迫る。

保有する地下資源の多寡はもはや力の源泉ではない。左右するのは脱炭素の技術を支配する力だ。勝敗は気候変動問題の行方にとどまらない。企業の競争力、ひいては国力を左右する。技術革新をいち早くなし遂げた者が飛躍を手にし、遅れれば存亡の機を迎える。

担い手は違う世界から現れる。電気自動車(EV)を手掛ける米テスラの時価総額はトヨタ自動車や米ゼネラル・モーターズ(GM)、独フォルクスワーゲン(VW)など、世界の主要自動車メーカーを合わせた規模を上回る。

T型フォードは市中から馬車を駆逐した。テスラのEV「モデル3」がガソリン車を駆逐する現代のT型フォードとなるのかどうか、結論を出すのは早いかもしれない。しかしイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は二酸化炭素(CO2)の回収技術を競う競技会に賞金1億ドル(約105億円)を提供すると表明した。車載電池からCO2回収まで脱炭素技術を根っこから押さえにかかる。

米アップルがEV生産を探り、中国インターネット検索最大手の百度(バイドゥ)も自動車大手と提携しEVの製造販売に乗り出す。異業種が脱炭素で結びつき、社会・産業構造を変える。

日本にためらう余裕などない。ただし変革の土台はカーボンゼロのエネルギー供給と利用が前提だ。経済産業省は50年の電源構成に占める太陽光や風力など再生可能エネルギーの比率を50~60%とする参考数値を審議会で示した。

なぜ50~60%なのか。議論の余地はあるだろう。しかし再生エネで電力をすべて賄えないならば、選択肢は原子力を使うか、水素やアンモニアなど燃焼させてもCO2を出さない脱炭素燃料を使うか、化石燃料を使いながら排出するCO2を集めて処理するかだ。

仮に電力をすべてカーボンゼロにできても、電力では代替が難しいエネルギー用途がある。たとえば製鉄だ。生産の主流である高炉法では鉄鉱石の還元に石炭(コークス)を使うために大量のCO2が出る。スクラップを原料に使う電炉に変えても、鉄鋼需要の純増分は鉄鉱石に頼らざるを得ない。

石炭の代わりに水素を還元に使う技術が脱炭素の切り札とされる。日本鉄鋼連盟によれば足元の年間8千万トン前後の銑鉄生産には水素700万トン(約800億立方メートル)が要る。現在の水素価格は1立方メートルあたり100円程度。政府の水素戦略は長期で20円に引き下げる目標を掲げる。石炭から置き換えるには8円を切る必要があり「大量の水素を安価に安定的に確保する体制」(日本鉄鋼連盟の小野透特別顧問)が欠かせない。

脱炭素に寄与する水素のつくり方は2つある。再生エネを使って水を電気分解して取り出すのが一つ。石油や石炭など化石燃料から水素を取り出し、残るCO2を回収して地中に戻したり、工業原料に再利用したりするCCUS(CO2の回収・利用・貯留)技術と組み合わせるのがもう一つだ。

福島県浪江町に世界最大級の能力を持つ電気分解装置がある。ここで東京ドーム5つ分の敷地の施設を使ってできる水素は定格運転で年間約900トンだ。鉄鋼業界が必要とする量やコストは現実と「桁が違う」(製鉄会社幹部)。

またCO2の地中埋設の技術が確立できても、日本周辺に埋めることができる適地がどの程度あるのかとなると話は別だ。これを見極める必要がある。

化学やセメントの生産も高温の熱を使う。発電や燃料電池自動車も水素をあてにする。国内で需要を満たす水素が入手できず、CO2を埋める場所もないなら、海外に求めるしかない。

安定した風が吹き、日射量が豊かで広大な土地がある国、またはCO2を埋める地下構造がある国が候補となる。すなわち脱炭素時代の資源国が出現する。中東やオーストラリアで広大な土地をいかした水素生産やCO2を埋め戻す場所の獲得競争が始まっている。

脱炭素の前途に控えるのは水素の争奪戦だ。日本も資源国との関係や輸送路の安全、貿易ルールの整備など安定確保のための資源戦略が欠かせない。脱炭素時代にエネルギー安全保障の重要性は軽減されるどころか増すのである。

ニュースを深く読み解く「Deep Insight」まとめへDeep Insight

松尾博文(まつお・ひろふみ)1989年日本経済新聞社入社。エネルギーや商社、機械・プラントなどの業界や経済産業省、外務省などを取材。イラン、エジプト、アラブ首長国連邦(UAE)の3カ国に駐在した。現在は編集委員兼論説委員。エネルギー問題、インフラ輸出、中東・アフリカ情勢などを担当。

中国NIO、次世代電池で波紋 「22年の実用化」宣言で

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM1434W0U1A210C2000000/

『中国の新興電気自動車(EV)メーカー、上海蔚来汽車(NIO)が1度の充電で1000㌔㍍超を走行できる次世代電池を世界に先駆けて2022年に実用化すると発表し、波紋を広げている。EVブームの中での期待感から株価は急上昇し、時価総額は日産自動車やホンダを上回る9兆円規模になった。半面、赤字が続き収益力などに不安を抱えるNIOの発表内容を疑問視する向きもある。

「22年第4四半期に『固体電池』を実用化する。航続距離は1…

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航続距離は1000㌔㍍を突破し、安全で効率も良い」。1月上旬、NIOが開いた年次発表会で李斌・最高経営責任者(CEO)は表明した。開発した電池を今後発売する新車種「ET7」に搭載する方針。現行の主力車種の電池も新型に交換すれば、航続距離を600㌔㍍前後から900㌔㍍前後に伸ばせるという。

固体電池はいまの主流のリチウムイオン電池と異なり、内部の電解液を固体にして出力を上げるのが特徴だ。エネルギー密度は現状の3倍程度に高まる。

株式市場では次世代の車載電池の本命である「全固体電池」だと受け止められ、米ニューヨーク市場でNIOの株価は上場来高値をつけた。

NIOの次世代電池が実現すれば各車種の性能は大幅に高まるが、「固体電池」が何を指すのかが議論を呼んでいる。NIOは技術の詳細を語らず、ET7の発売時期や価格は未公表。NIOに電池を供給してきた中国の車載電池最大手、寧徳時代新能源科技(CATL)も沈黙を保つ。

「もしある人が、彼の車は1000㌔㍍走れて、すぐ充電でき、安全でコストも低いなどと言ったら、信じてはいけない。現時点では不可能だからだ」。NIOの発表から1週間後、中国のEVに関するフォーラムで、業界の重鎮である中国科学院の欧陽明高・院士は語った。名指ししてはいないが、NIOが念頭にあったとみられる。

NIOの言う固体電池は「(全固体電池よりも初歩的な)『半固体電池』とみられる」(中国の興業証券)との指摘がある一方で、「電池開発に取り組む方向性は正しい」(中国の証券会社)との意見が出ている。

議論を巻き起こしているNIOは14年に設立し、18年9月にはニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場した。中国でEV需要が増えたこともあり、20年の販売台数は19年比2倍強の約4万4千台となった。

直近の20年7~9月期決算は売上高が前年同期比2.5倍の45億2600万元(約740億円)と過去最高を記録した一方、最終損益は10億4700万元の赤字だった。黒字化には年間18万台の新車を売る必要があるとみる専門家もいる。

NIOの財務をみると、19年末には債務超過の状態だった。その後、NIOの株価は米テスラ株の高騰につられる形で20年夏から上昇。この環境を生かして公募増資による大型の資金調達を相次いで実行し、20年9月末には債務超過を解消した。新型電池を実用化するという宣言も、投資家の関心を呼び込む構図になっている。

株価が高騰したテスラや、企業買収を目的とした上場会社「SPAC」を活用して上場し、その後株価が乱高下した米ニコラなど、EVに対する過熱感が指摘される中での次世代電池「実用化宣言」。中国政府の側面支援などの出方を含め、NIOを巡る動向への関心は続きそうだ。

トヨタなど、全固体電池の開発急ぐ
電池はEVの将来性能を決めるだけに自動車大手が技術開発を急ぐ。全固体電池の実用化を目指すトヨタ自動車の技術幹部は「2020年代前半には700㌔㍍や1000㌔㍍走れる製品を出していかないといけない」と話す。

ほかのトヨタ関係者は「現時点で少量生産はできているが、安定した量を大量生産するのはまだ難しい」と指摘する。

独フォルクスワーゲンは25年にも全固体電池の生産ラインを設置する計画。韓国の現代自動車も全固体電池の研究開発を進める。自社が主導する形で25年に搭載車を試作し、27年に量産準備を始める計画という。

外資系証券のアナリストは全固体電池について「20年代前半から投入が始まるが、普及し出すのは30年ぐらい」とみる。コスト面でリチウムイオン電池の優位が続くため、全固体電池の採用は高級車種から進む見通しだ。(広州=川上尚志、名古屋=湯沢維久、東京=押切智義)

水素供給網の整備加速 ENEOSは給油所で来春販売

https://www.nikkei.com/article/DGXZQODZ02D4H0S1A200C2000000/

『脱炭素の切り札とされる燃料電池車のインフラ整備が規制緩和で進み始めた。石油元売り最大手のENEOSホールディングス(HD)はこれまで難しかった市街地の給油所で燃料電池車(FCV)向け水素充塡サービスを展開する。国内水素販売トップの岩谷産業は簡易型水素ステーションの建設を推進。欧州や中国が水素への取り組みを強化する中、日本は規制の見直しをテコに水素インフラ整備を急ぐ。

日本は2017年に世界で初めて…

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日本は2017年に世界で初めて国の政策として水素基本戦略を策定。規制改革案に水素ステーション関連の規制見直しが盛り込まれた。ガス保安や立地安全を巡る規定が厳しく、水素ステーション設置はコストや技術面で難易度が高かった。

ここにきて規制見直しが進み、民間企業の水素ステーション設置に広がりが出てきた。

ENEOSHDによると給油所内に水素充塡設備を設置するのは国内初。22年春から神奈川県と愛知県の給油所2カ所から始める。ENEOSブランドの給油所は全国1万3000カ所あり、水素充塡は新ビジネスとしても期待がかかる。

給油所での併売が可能になったのは、20年1月に経済産業省がガスなどの安全対策などを規制する高圧ガス保安法の法解釈を明確にしたことがある。水素充塡に必要な圧縮機などの関連機器は安全のため他の設備と距離を取り鉄筋コンクリートで仕切る必要があったが、簡便にできるようになった。その結果、市街地の給油所でも水素充塡機の設置が可能になった。

一連の規制緩和では高圧ガス保安規制の省令も改正し、水素ステーションの無人営業を可能にした。機器の材料、立地や運営面などこれまで見直された規制は数十項目に及ぶ。政府は21年度予算案には110億円を計上し、資金面でも民間の取り組みを支援する。

岩谷産業は全国で水素ステーション整備を進めている。経産省の見解で、水素を保管するトレーラーの温度を冷やす散水装置の設置を不要化した。コストを抑えられる簡易型の水素ステーションを現在、6カ所建設中だ。

「燃料電池実用化推進協議会」(FCCJ)によれば、水素スタンドの建設費は当初約5億円だったが、一段の規制改革などで2億円まで減らせると試算している。

【関連記事】水素、脱炭素の主軸に 大量導入がコスト削減のカギ
札幌市が水素先進都市へ始動、FCVなど需要調査


自治体レベルでも脱炭素の取り組みが広がり、東京都中心に全国で100台の燃料電池バス普及を見込む。ただ、各地で水素供給のインフラ不足が課題で、30年までに3000台のFCV導入を掲げる札幌市には、水素ステーションは移動式の1台しかない。

政府は30年にFCV80万台、水素ステーションも900カ所に増やす目標を掲げる。約3万店あるガソリンステーションの約3%で、水素供給の整備は緒に就いたばかりだ。

海外も水素への傾斜を強めている。調査会社マークラインズによると、20年のFCV(乗用車と小型商用車)販売台数は韓国が5350台と日本の約7倍。欧州連合(EU)が20年7月に水素戦略を発表し、トラックやバスなど商用車で水素利用を重点展開する。中国も燃料電池バスを先行して普及を進めている。水素燃料の活用で国家間の競争も始まっている。

FCV、コストなお課題 日本での普及EVに後れ
燃料電池車(FCV)は日本勢が世界をリードする技術だが、日本での普及は電気自動車(EV)に比べても遅れている。EVより航続距離が長いなどのメリットはあるが、コストの高さやインフラ整備が課題となっている。

FCVは水素と空気中の酸素を反応させて電気を発生させる。走行時に排出するのは水だけで「究極のエコカー」とされる。技術で先頭を走るのがトヨタ自動車で、2014年に世界で初めて量産型となる「ミライ」を投入。20年12月には6年ぶりの全面改良となる新型を発売した。
新型ミライの航続距離は約850キロメートルと、200~400キロメートルが多いEVを大きく上回る。EVのフル充電までの時間が1時間ほどかかるのに対して、FCVに必要な水素の充塡にかかる時間は大幅に短いのも特徴だ。
それでも19年度末までの日本での保有台数は約4000台と、EVの約12万4000台と差が開いている。大きな要因がコストだ。代表的なEVである日産自動車の「リーフ」は電池容量が大きいタイプの最低価格が441万円。ミライは710万円からと高い。
新型ミライは基幹部品のひとつである水素タンクの原価を従来車種と比べ約7割下げるなどコスト削減の技術開発も進めたが、本格的な普及へさらなる上積みが必要だ。
インフラ整備もなお課題だ。EVの充電ステーションが日本全国で約2万カ所に増えたのに比べ、水素ステーションは約140カ所にとどまる。
解決策として進めるのが水素活用の裾野を広げる取り組みだ。例えば新型ミライの燃料電池システムは乗用車だけでなく、商用車や産業車両、船舶、鉄道などさまざまな用途向けの外販を念頭に開発している。水素需要が増えれば充塡インフラ整備などに弾みがつく。
バスやトラックなど商用車で普及を促す動きもある。基本的に同じルートを走るため、水素ステーションが少なくても運行しやすいからだ。
海外勢も商用車を中心にFCVを強化する。欧州では商用車大手の独ダイムラーとボルボ(スウェーデン)が発電装置の開発を統合し効率化。25年以降に航続距離1千キロメートルを超えるFCVトラックを量産する計画だ。中国政府も商用車中心にFCV供給網を築く方針で、35年までに100万台前後の保有台数をめざす。
FCVとEVとの関係についてトヨタは「インフラ整備状況や充塡時間、航続距離など得意分野が異なっており、互いに共存していく」(幹部)とみる。豊田章男社長も20年11月の決算記者会見で「世界各地でエネルギー事情が異なるため、いろいろな電動化のメニューを持っていることが強みになる」と指摘。引き続きFCVやEVに加えてハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)などの開発と販売を続ける考えだ。
この記事の英文をNikkei Asiaで読む
Nikkei Asia https://asia.nikkei.com/Business/Energy/Japan-s-hydrogen-fueling-network-expands-to-gas-stations?n_cid=DSBNNAR

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中空麻奈
BNPパリバ証券 グローバルマーケット統括本部 副会長
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今後の展望 「2050年カーボンニュートラル」が宣言されて以降、日本では2035年を目処に電動車100%を目指すことになっている。しかし、どういう自動車のポートフォリオを提供すれば、これからの勝ち組となるのか、よくわからない。そもそも漠とした疑問が山積みだ。水素ステーションなどインフラ設置が遅れてボトルネックにならないよう、併せて提供されなければならないが、今のスピード感で間に合うのか。水素の製造過程で出る二酸化炭素の排出をどう捉えるのか。ハイブリッド車の扱いの違いが将来的に日本自動車に悪影響とならないか。軽自動車の基準をどうするか。全体を踏まえた鳥瞰図と具体的なロードマップが必要である。
2021年2月17日 9:33いいね
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竹内純子
国際環境経済研究所 理事・主席研究員
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ひとこと解説 結局水素をどこでどうやって大量に作り持ってくるかなのです。究極的には再生可能エネルギーの電気で水を電気分解するのが望ましいわけですが、特に再エネが高い日本ではあまりに高コストなので、今は海外で天然ガス等から水素を作り日本に輸送+CO2はその国の地中に埋める方法がメインで考えられています。化石燃料資源国への依存はいまと変わるものではありませんが、脱炭素化のための投資。一昨日参加した石油天然ガス小委資料がよくまとまっていました。https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shigen_nenryo/sekiyu_gas/pdf/013_03_00.pdf
2021年2月17日 9:25 (2021年2月17日 9:26更新)
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山崎俊彦
東京大学 大学院情報理工学系研究科 准教授
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ひとこと解説 セルフガソリンスタンドであっても、給油開始は監視カメラで安全を確認した人の手によって許可が出されているのをご存知でしょうか。AIなどによる支援が人手不足の鍵になると考えています。

FCVやEVもステーションの数や充電にかかる時間など課題が山積です。次のイノベーションやブレイクスルーが何なのか、目が離せません。
2021年2月17日 8:10 (2021年2月17日 8:15更新)
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志田富雄
日本経済新聞社 編集委員
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ひとこと解説 今では当たり前になっているセルフ式のスタンドも、かつては規制に阻まれていました。危険物の特性を知らないドライバーが自身でガソリンなどを給油することは危険だとされていたからです。今でも無人の給油所は認められていません。水素となるとさらに規制は厳しくなります。安全性を確保しながら、さまざまな規制を緩和していかなければインフラ整備は進みません。
2021年2月17日 7:12いいね
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貯蔵・輸送・ハンドリング技術 |イワタニと水素技術

 ※ それで、にわかに(実は、本当はにわかにでもない…。前々から、持ちあがっていた話しだ…)、スポットライトが当たっているのが、「水素社会」というものだ…。

 ※ それで、注目されているのが、「イワタニ産業」という会社だ…。

 ※ 個人向けには、「カセット・ボンベ」が有名だ…。鍋とか、鉄板焼きとか家庭でやる時に、使うやつな…。まあ、アウトドアで使ってもいい…。

 ※ しかし、この会社は、むしろ、法人向け・企業向けの大規模な「水素運搬技術」で有名な会社なんだよ…。知らん人も、多いだろうけど…。

 ※ 会社のHPからキャプチャしたものが、参考になるんで、貼っておく…

燃料電池が自動車からオフィスまで、2020年代には普及価格へ
https://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1408/07/news019.html

貯蔵・輸送・ハンドリング技術 |イワタニと水素技術 | Iwatani-水素とイワタニ
http://www.iwatani.co.jp/jpn/h2/tech/technique.html

日本が抱えているエネルギー問題

2020-11-18

2020—日本が抱えているエネルギー問題(前編)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/energyissue2020_1.html

※ まあ、課題山積、難問山積みなわけだ…。

※ そこへ持って来て、「カーボン・ニュートラル」「脱炭素」宣言なわけだ…。

※ どうするんだろな…。

脱炭素 「国境調整」で欧米中駆け引き 日本も対応急務

脱炭素 「国境調整」で欧米中駆け引き 日本も対応急務
編集委員 西村博之
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK056SZ0V00C21A2000000/

 ※ ウンザリな話しだ…。

 ※ 手を変え品を変え、繰り返し繰り返し、「自国第一主義」「新重商主義」を「美しい”大義”」「美しい”言説”」でくるんだ波が、襲ってくる…。

 ※ 世界経済、世界政治の「極」が、「大西洋の両岸」にあるんだから、しょうがない…。

 ※ 日本が「手を組むべき」近場のお相手は、あまりに「性情」「ものの考え方」「社会体制」の異なる国々と来ているんで、是非もない…。

 ※ まあ、地政学的な宿命だ…。

『脱炭素を前面に掲げる米バイデン政権の誕生を受け、温暖化対策が不十分な国からの輸入品に事実上の関税を課す「国境炭素調整」をめぐる駆け引きが活発になってきた。導入を予定する欧州は米国に同調を呼びかけ、その動向に中国も神経をとがらせる。貿易の波乱要因になりうるだけに日本も目が離せない。

Nikkei Views
編集委員が日々のニュースを取り上げ、独自の切り口で分析します。
1月21日、欧州委員会のティメルマンス上級副委員長は待ち…

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1月21日、欧州委員会のティメルマンス上級副委員長は待ちわびたように就任直後のケリー米大統領特使に電話をかけた。気候変動対策を担う両者は国境炭素調整措置(CBAM)をめぐり意見交換した。2023年に制度を導入する欧州連合(EU)は20年12月の報告書で「欧米共同で世界のひな型を作る」ことを提言しており、同様の呼びかけをしたとみられる。

欧州委員会のティメルマンス上級副委員長

米ピーターソン国際経済研究所のアダム・ポーゼン所長は「CBAMは今後の国際協調を左右する政治・経済両面で極めて重要な問題だ」と話す。米欧が連携できるかは日本も含め世界に影響を及ぼすとも指摘する。

CBAMは「国境炭素税」とも呼ばれ、要諦は環境対策にコストをかけた域内製品と、そうでない輸入品との価格差をなくす点にある。規制が緩い国からの輸入品に対しては生産時に出した二酸化炭素(CO2)量に応じて関税や排出枠の購入義務を課す。これにより域内企業の競争力を保ち、同時に規制が不十分な国に対策を促す。

EUは産業ごとに排出量の上限を定め過不足を取引する排出枠取引制度があり、これを実質的に世界に広げる動きだ。域内企業がもつ環境技術やノウハウを経済成長につなげる狙いもある。

バイデン大統領は選挙時に温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」の合意を満たせない国からの製品に「炭素調整料」を課すと公約しており、EUは共同歩調をとれると踏んでいる。米商工会議所もバイデン政権誕生の前日に「市場原理に基づく温暖化ガスの削減を支持する」と表明、連邦レベルの炭素税やCBAMに前向きな姿勢を示した。

温暖化ガスの排出量が世界最大の中国はCBAMが「保護主義を招く」とけん制してきた。だが国内では1月から排出量の4割を占める火力発電業界を対象に排出枠取引が始まった。こうした国内制度が定着すればEU同様、国境での炭素調整は進めやすくなる。

 最大の温暖化ガス排出国の中国も対応に乗り出した(江蘇省にある石炭火力発電所、CFOTO=共同)

危機感を抱くのが日本だ。「米国や中国に出遅れれば日本がルール作りで不利になる」と経済産業研究所(RIETI)の渡辺哲也副所長は話す。そこで同研究所は昨年末、CBAMの研究会を設けた。政府は脱炭素に向け国内での炭素税や排出枠取引制度の検討に着手したが、並行して国境での炭素調整をめぐる日本の戦略をさぐる。

制度導入にあたっては課題も多い。第一に貿易への影響。世界貿易機関(WTO)は「公徳」や「天然資源の保護」が目的の貿易制限を認めるが、CBAMがこれに当たるかは明確でない。

第二に対象の業種。当初は鉄鋼、セメントなどエネルギー集約型の業種が挙がるが、将来は電気自動車(EV)の覇権を競うEUが、電源の脱炭素化が遅れる中国製の輸入を阻むとの見方もある。輸入品が生産時に出す温暖化ガスをどう測るかの基準も含め、業界の激しい攻防が予想される。

企業が生産コストの引き下げを狙って規制の緩い国に工場を移す「炭素漏洩(カーボンリーケージ)」への対策も焦点だ。規制が緩い国からの輸入に関税を課すと同時に、そうした国への輸出には逆に関税を「還付」し、より効果的に工場の域外シフトを防ぐ案もある。

早稲田大の有村俊秀教授らの研究では対象業種や課税基準、還付の有無で各国・産業への影響や脱炭素の効果は顕著に変わる。「悪魔は細部に宿る」と言われるゆえんで、利害調整は容易でない。ともすれば欧米中が三つどもえ、あるいは2対1の構図で争う「炭素貿易戦争(カーボン・トレード・ウォー)」を招くと警告する専門家もいる。

脱炭素への起爆剤にも毒薬にもなる国境炭素調整。対立の芽を摘み、国際協調の好機とするには日本を含む各国・地域の緊密な対話が必要だ。

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中林美恵子
早稲田大学 社会科学部教授
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今後の展望 1月28日の記事にもコメントしたが、バイデン政権は産業構造の転換をも視野に入れている。このままいけば、日本はかつてのように欧米(または中国も含めた)ルール作りに従うパターンになる。結局、右往左往ばかりさせられる。この突破口は、1月のコメントで指摘したように、環境技術と通商を、安全保障へとリンクさせて議論する日本の交渉力と発想力だ。今は残念だが日本は「その場に居ること」から目指さねばならない。久々の大変革時となる覚悟をもって、ルール作りへの参画に期待したい。
2021年2月12日 13:59いいね
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鈴木一人
東京大学 公共政策大学院 教授
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ひとこと解説 EUの炭素税の仕組みは、かつて保護主義的と言われた農業政策の国境課徴金のやり方と全く同じ。その点ではEUはすでに自分たちが持っていた政策ツールを活かして、それを世界のスタンダードにしていこうとする姿勢がみられる。EUは先にアイディアを出し、規範形成を誘導することで自分たちに有利になるようなルールを作ることに長けている。これは遠藤乾さんと共編した『EUの規制力』で論じたが、その時と何も変わっていない。
2021年2月12日 12:50いいね
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小平龍四郎
日本経済新聞社 編集委員
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別の視点 このような記事を読むたびに痛感するのは、キャッチアップはするけどルールメーキングには加わらない(加われない)日本の実情です。「国境炭素税」のほか「環境タクソノミー」や脱炭素に関する「情報開示」など、広義の環境外交は全て米欧中の覇権争いの構図です。外堀を埋められた後になって「それは困る」と少しだけ押し戻す、という日本のいつものパターンが繰り返されるのでしょうか。
2021年2月12日 11:47 (2021年2月12日 13:30更新)
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米ITC、韓国SK系に輸入禁止命令 車載電池巡る秘密侵害

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM110MU0R10C21A2000000/

『【ソウル=細川幸太郎】韓国の車載電池大手LG化学が同業のSKイノベーションを営業秘密の侵害で訴えていた係争で、米国際貿易委員会(ITC)は10日、SK側に米国への輸入禁止命令を下した。SKが米ジョージア州に持つ車載電池工場で部品調達ができず生産停止を迫られる。同命令の猶予期間中にLG化学との和解を探ることになる。

LG化学は2019年4月に、SK側がLG化学の営業や技術の担当者76人を引き抜いて車載電池の技術や顧客を奪ったことが営業秘密の侵害にあたるとして提訴していた。

ITCは10日の判決でLGの主張を認め、SK側に対象製品の米国への輸入を10年間禁止する排除命令を出した。ただSK顧客の米フォード・モーターへの供給については4年間、独フォルクスワーゲン(VW)へは2年間は供給を続けられるとした。ITCは事実上の猶予期間を設定しLG側との和解を促した格好だ。

ITC判決を受けて、SKイノベーションは「猶予期間をもらえたことで、同期間中に解決策を検討する」とした。LG化学は「30年間かけて築いた知的財産権を保護してもらえた。(SK側に)訴訟終結を強く促していく」とした。

LG化学はSK側に2000億円規模の賠償金を要求しており、SK側は「金額が法外」として拒否していた経緯がある。ITCという第三者判断を踏まえて両社は和解の金額について交渉を始める。両社の和解が成立すればITC命令は解除され、SKは輸入・生産活動を始められる。

LG化学は車載電池分野で中国の寧徳時代新能源科技(CATL)に次ぐ世界2位。SKイノベーションは6位につける。両社とも電気自動車(EV)普及を背景に世界で生産能力拡張に動いている。SKは米ジョージア州での工場拡張を進めて、VWやフォードに車載電池を供給する計画だった。

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