世界の高齢化が促す低金利(The Economist)

世界の高齢化が促す低金利(The Economist)
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『それは世界の人口動態にとって大きな出来事だった。2021年11月24日、インド政府は1人の女性が生涯に産む子供の数を示す同国の合計特殊出生率が2.0に低下したと発表した。現在の人口規模を維持するのに必要とされる人口置換水準を下回り、多数の富裕国と同じ領域に入った。

ロンドンからスコットランドを初めて訪れた孫との出会いを喜ぶ祖父母。世界的に少子高齢化が加速している=ロイター

実際のところ、現在すべてのBRIC諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国)で出生率が人口置換水準を下回っており、ロシアと中国では人口が減少に転じたとみられる。先進国がかつてたどった人口動態変化の道を新興国が後追いすること自体は驚くべきことではない。しかし、その変化のペースは加速しており、世界経済に深刻な影響を与える可能性がある。

多産多死から少産少死へ

社会科学者が「人口転換」と呼ぶ現象(多産多死から多産少死、少産少死に移行するプロセス)は長年にわたり、経済の近代化と切り離せない変化とみられてきた。産業革命以前の社会では普通出生率と一般死亡率(人口1000人当たりの出生数と死亡者数の比率)がともに非常に高く、人口増加率は不安定な状態にあって、増加のペースは概して緩慢だった。

だが18世紀には欧州北西部の一部で死亡率が下がり始めた。この変化はその後に続く劇的な人口動態の変化の第1段階となった。死亡率の低下によって人口は急増し、英国では人口が1760年から1830年の間に約2倍に膨らんだ。

だが、18世紀後期には出生率も低下し始めた。20世紀に入る頃には富裕国の出生率と死亡率はともに低水準で安定するようになった。移民がいない場合、人口増加率はおおむね低水準にとどまり、場合によってはマイナスに転じることもあった。

人口転換は様々な要素が絡み合う複雑な社会現象だ。死亡率が低下する理由は比較的説明しやすく、栄養状態や医療、公衆衛生の向上がその原因と考えられる。出生率の低下には、経済的な動機が関連している。例えば、身に付けた技能に対する収入が高くなれば、各家庭は子供の数を減らし、ひとりひとりの子供の教育により多くの投資をするようになる傾向がみられる。

その他に、文化的な要因も見逃すことはできない。米タフツ大学のエンリコ・スポラオーレ教授と米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のロメイン・ワチアーグ教授は近年の論文で、出生率の「新常態」が18世紀後半から19世紀前半のフランスで、最初に誕生したと指摘している。

その少子化の流れは、世俗主義や啓蒙思想を背景とする世界観の変化や家族計画に関する情報の普及に根ざしていると論文は分析している。その後、出生率の低下は欧州全域に拡大したが、特にフランスと言語的・文化的に結びつきが強い場所では、より早い段階で転換が始まり、しかもより速いペースで変化が進んだという。

米クレアモント・マッケナ大学のマシュー・デルベンサル准教授、米ペンシルベニア大学のヘスス・フェルナンデスビラベルデ教授、スペイン・バルセロナ自治大学のネジヘ・グネル教授は別の最近の論文で、現代の人口転換が先の論文が指摘している過去の変化に相当程度類似したパターンをたどっていると指摘している。

この論文では、186カ国のデータを分析した結果、11カ国を除くすべての国で死亡率が産業革命前より大幅に低く、安定した水準に移行する転換が起きていたことが判明したとしている。そのうち約70カ国は1960年から90年の間に出生率の低下が始まった。出生率の転換が始まっていないのはチャドの1カ国だけだった。なお、80カ国においては、死亡率と出生率の双方が新常態とされる低水準に移行するプロセスが既に完了しているという。

速まる人口転換

特に注目すべきなのは、各国が人口転換を遂げるペースが加速しているという重要な指摘だ。英国の転換は1790年代から1950年代にかけて約160年の間で緩やかに進展したが、チリでは1920年代から70年代の約50年のより短い期間で転換を完了した。20世紀終盤に変化が始まった国々にいたっては、20~30年で転換のプロセスを終えている。

この加速は、同論文の著者らが「人口動態伝染」と呼ぶ現象を反映しているとみられる。出生率の低下が進んだ場所に地理的・文化的に近い場所では人口転換が早期かつ急速に起きるということだ。この近接性に基づく波及効果は、人口転換が従来よりも低い所得水準で始まるという近年の傾向にもつながっているとみられている。

過去200年間に出生率転換が始まった国のその時点での1人当たり平均国内総生産(GDP、購買力平価ベース、2011年物価換算)は約2700ドル(約30万円)だった。だが、1990年代以降の数字を見ると、転換が始まる時点の水準は約1500ドルに低下している。

人口転換の加速が進むと、全世界で出生率と人口増加率が着実に低下する。実際に、1980年代半ばには世界の合計特殊出生率は3.5だったが2019年には2.4まで下がった。しかも、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)下で富裕国の出生数が減少したとみられており、少なくとも一時的には世界全体の出生率は人口置換水準の近くまで低下した可能性がある。

ただし、出生率が人口置換水準まで下がったとしても、多数の人々が出産育児年齢に達したり近づいたりするため、世界の人口はその後もしばらくは増加を続けるとみられている。

例えばインドの人口は、最新の予測に基づけば今世紀半ばごろに約16億人に達すると見込まれている。だが、これは従来の予測に比べるとピーク時の人口が約1億人少なく、天井を打つ時期も10年程度早まっている。

国連は、現段階では2100年までに世界の人口が110億人に達すると予想している。しかし、世界全体で出生率が急速に低下する傾向があることから、インドの場合と同様に、いずれ予測の下方修正を余儀なくされる可能性がある。

経済に複雑な影響

世界的に人口転換が進展すると、派生的な問題が起きる可能性がある。例えば、米スタンフォード大学のエイドリアン・オークラート准教授とフレデリック・マルテネ氏、米ミネソタ大学のハンネス・マルムバーグ准教授、米ノースウエスタン大学のマシュー・ログンリー准教授による最近の論文は、人口動態の変化が長期的なマクロ経済に複雑な影響を及ぼしかねないと指摘している。

この論文は、高齢化が進むと貯蓄が増大し、インフレ率と金利の低下につながると分析している。世界の人口に占める50歳を上回る人々の割合が現状予測の通りに、直近の25%から2100年に40%に上昇した場合、低金利が定着して、資産の収益率が低下し、世界的な不均衡が一段と拡大する可能性があると指摘している。

その一方で、人口転換は様々な形の経済的なメリットをもたらす可能性もある。二酸化炭素の排出量削減は世界にのしかかる大きな課題だが、人口増加率が低下すれば、実現を後押しする要因になり得る。教育水準が高まったり、女性の労働参加が拡大したりする結果、少ない労働人口で生産性が高まる可能性も期待できる。

そのとき、従来は脅威と受け止められてきた移民の到来は、家族にとっての新生児の誕生と同じように特別な意味合いを持つようになるかもしれない。

(c) 2021 The Economist Newspaper Limited. December 11, 2021 All rights reserved.

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