SNSに投稿されていた、書籍スキャン・ロボットのメーカー宣伝動画。世界中の古い図書館向けのマシーンだ。

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https://st2019.site/?p=21130

 ※ オレが買った、カメラ方式のスキャナも、これの一種…。

 ※ むろん、「見開きページ」の設定、「ページめくり」は、手動だが…。

『SNSに投稿されていた、書籍スキャン・ロボットのメーカー宣伝動画。世界中の古い図書館向けのマシーンだ。

 オーストリーの TREVENTUS Mechatronics GmbH という会社。
 斬新で独特の方式だ。見開きの2ページを、同時にV字状の「くさび」に吸い付けて、光学撮影する。

 この方式だと、書籍にはいっさい、機械的な圧力がかからないので、古い貴重書も傷めない。特に「ノド」の部分を。

 高速モードにすれば、毎時2500ページをスキャンできるという。
 もちろんOCSにも対応し、書籍の内容をテキストファイルとしてデータベースへ蓄積させられる。

 このロボットは、24時間、1週間休みなしに稼動し、黙々と、膨大な書籍をデジタル化してくれる。』

【インド】ダーウィンの進化論を教科書から削除、科学界が激怒

【インド】ダーウィンの進化論を教科書から削除、科学界が激怒
https://www.newshonyaku.com/24155/

『インドのモディ政権は、インドの教育をヒンディー教ナショナリストの政治的な目的から、ダーウィンの進化論を教科書から削除、インドのより古い政治史にも照準をあわせ、イスラム教徒の業績や貢献を否定または無視するよう求めたり、ムガール帝国の箇所を削除するなどヒンズー教徒に都合の悪いことを削除するよう検閲を推進しているという記事です。

モディ政権のこの馬鹿げた動きは、極めて政治的なもので、同国の科学者たちが一斉に抗議を行っているそうです。

こちらは、AncientOrininsの記事からシェアいたします。』

『《引用記事 Ancient Origins https://www.ancient-origins.net/news-evolution-human-origins/darwinian-evolution-india-0018374 》

ヒンドゥー教ナショナリストであるインドのナレンドラ・モディ首相が、公立学校の9年生と10年生の理科の授業で使用される一部の教科書から、チャールズ・ダーウィンと彼の進化論に関する部分を排除した。これは、常に論争を引き起こすことを避けられないヒンドゥー・ナショナリスト政府の決定である。

この驚くべき決定は、インドの2億5600万人の学生に教科書やカリキュラムを選定する政府機関である国立教育研究訓練評議会 National Council of Educational Research and Training (NCERT)によって最近発表された。

2021-22年度には、9年生と10年生の試験から進化論に関する問題が削除されたが、このトピックはまだ教えられていた。しかし今回、これらの学年の生徒が読む科学の教科書から進化論が正式に削除され、禁止トピックのリストに載せられている。

インドの教科書からダーウィン進化論が削除されたことに対する科学者たちの反応

インドの科学者たちは、モディ政権による科学の政治化と考え、すぐに抗議の声を上げた。モディ政権は、主に宗教的な理由から進化論を否定するヒンズー教の民族主義運動と連携している。

「生物学の進化論が削除されたことに、国の科学コミュニティは深く失望しています」と、インドの非営利団体Breakthrough Science Societyは、Science Insiderに引用された声明で述べている。

「この科学の基本的な発見に触れる機会を奪われた場合、学生たちは思考プロセスで大きな障害を抱えることになります。」

Breakthrough Science Societyは、初等中等教育の科目リストに進化論を戻すようNCERTに懇願する公開書簡に、4,000人以上の科学者や研究者から署名を集めた。

一方、進化生物学者のアミタブ・ジョーシ博士は、ジャワハルラル・ネルー先端科学研究センターの代表として、「科学教育に必要不可欠なものを排除することは、幅広い中等教育の概念を侵害するものである」と述べ、科学の教科書から進化論を削除することを非難した。

現時点では、11、12年生で選択科目として生物学を選ぶ学生たちは、進化論について説明された教科書を使用することが可能。しかし、これは科学とは関係のない理由でモディ政権が科学教育に介入したことに対する批判の嵐は収まっていない。

「進化論はおそらく、教養ある国民全員が知っておくべき生物学の最も重要な部分である」とジョーシ博士は述べ、生物学の選択科目を選ばない学生たちがこのトピックについて教わらないことを非難した。「それは直接、私たちが人間としてどのような存在であり、生きている世界の中でどのような位置にいるかを表しています。」

教科書からダーウィンの進化論を削除する決定に対して批判的な別の学者は、ナレンドラ・モディ首相(ナショナリスト政党・バーラティヤ・ジャンタ・パーティーBJP)が2014年に政権を握る前のNCERTのトップであったクリシュナ・クマル博士である。

同博士はAl Jazeeraに「教科書から削除された内容の全体像を誰も知りません」と語っている。「ダーウィンが誰であるかを知らずに10年生を合格する学生を想像できますか?」
ダーウィンの進化論を否定する一方で、民族主義的なヒンドゥー教グループは、動物や人間のさまざまな形態をヒンドゥー教の創造神ヴィシュヌの化身(生きた具現化)と見なす代替進化論を推進している。

この理論では、地球全体に合わせて10のヴィシュヌの化身が存在し、異なる生命形態のグループを表し、それらを総称して、ヒンドゥーの聖書で「ダシャヴァターラ」と呼ばれている。化身は異なる段階で地球に現れ、彼らが創造した生命形態の次のセットは、以前に現れたものよりも複雑であり、伝統的な進化論のステップを再現している。

学校カリキュラムをヒンドゥー原理主義とインド民族主義の論調とより合わせたものにしようとする試みは、科学の教科書の変更にとどまらなかった。NCERTは、さまざまな学年で使用される政治科学や歴史書から、ヒンドゥー原理主義者に不快にさせる箇所を削除するなど、他のタイプの文章にも変更を加えている。

たとえば、2020年にNCERTは、11年生と12年生の政治科学の教科書から、偉大なインドの指導者マハトマ・ガンジーの信念や業績について論じている2つの文を削除した。削除された1つの文章は、「ガンジーが『インドをヒンドゥー教徒だけの国にしようとする試みは、インドを破壊する』と確信していたことを指摘した」というもの、2つ目の削除された文章は、「ヒンドゥー-ムスリムの団結を堅く追求することがヒンドゥー過激派を激怒させ、ガンジーを暗殺しようとする試みが何度か行われた」というもの。

NCERTを運営するヒンドゥー原理主義の教育改革者たちは、インドのより古い政治史にも照準を合わせ、イスラム教徒の業績や貢献を否定または無視するよう求めている。彼らは、インド亜大陸を支配したイスラム教徒の一派であるムガール帝国に捧げられたセクション全体をインドの歴史教科書から削除するよう命じた。

ムガール帝国はその全盛期には、現代のバングラデシュやアフガニスタンを含めてインド南部にまで勢力を拡大した。しかし、現在、学校の子供たちは、この帝国の業績やインドの重要な時期について学ぶ権利を否定されているのだ。

これらの検閲行為は、学者たちから強く非難されてきた。しかし、インド政府が方針を転換することを期待する人は殆どいない。
「(抗議が)何か変化をもたらすでしょうか?」と、全インド人民科学ネットワークの前会長である生物学者のサティアジット・ラス博士は問いかける。
「インド政府のこのような決定の最近の軌跡を考えると、少なくとも短期的にはおそらくそうではないでしょう。長期的な結果に影響を与えるためには、持続的な進歩的努力が必要です。」

同時に、NCERTが教科書の内容をいじくり回している間に、ヒンドゥー教徒のナショナリストたちは、インドのムスリム少数派によって歴史的に抑圧されてきたという架空の物語を含めたカリキュラムの変更を求め始めている(現在、ムスリムはインド人口の14%を占めている)。

また、古代のヒンドゥー科学者たちが、現代の科学がそれらの存在を構想する前に、幹細胞研究を行ったり、宇宙に飛び立てる機械を発明したりしたという話を含めて、科学史を書き直すことも考えている。

科学に対する挑戦が悪い方向に向かう時

ダーウィン進化論、あるいはその他の現在の主流の理論に対する科学的根拠に基づく挑戦は、すべての学術的環境で歓迎されるべきである。宗教的または精神的な要素を含む批判であっても、証拠と科学的推論に基づいている限り、議論に含めるべきである。

しかし、インドの学校で起こっていることは、科学的多様性への尊重に基づくものではないようである。それは、インドのナショナリスト政治の人気のある流行や反応的な宗教的熱狂によって動機づけられている。

「学校のカリキュラムはひどく残酷です。」とクリシュナ・クマール博士は述べ、モディ政権の国立教育研究訓練協議会の最近の行動に対する感想を要約した。
「学生全体が、科学と歴史の重要な概念について、完全に無知であることが判明するのは、非常に残念なことです。」

(海外ニュース翻訳情報局 樺島万里子 文・翻訳)』

中共の武警用に新兵器が登場した

中共の武警用に新兵器が登場した
https://st2019.site/?p=21111

 ※ 「とある科学の超電磁砲」かよ…。

 ※ 「漫画やアニメで取り上げられた話しは、次々と「現実化」していく。」とオレに言ってた職人さんがいたが、ホントだな…。

 ※ 「鉄腕アトム」しかり、「空母いぶき」しかり…。

 ※ アトムなんて、「人工知能(AI)」の先駆けだ…。

『ストラテジーペイジの2023-5-3記事。
   中共の武警用に新兵器が登場した。「CS/LW21」という。隊員が手持ちで使える「レールガン」だという。重さは3kg。

 ほとんど音を立てずに、コイン形の「弾丸」を数百発、電動で連射することができる。威力は、厚さ3ミリの板を貫通するレベル。

 これなら民衆に向けてためらいなく乱射できるので、暴動も鎮圧しやすい。

 この銭形弾丸は、最大で50m飛ぶ。
 もっと殺傷性を高めたくば、円盤状ではない、流線型の弾丸を飛ばすこともできる。その場合、レンジも延びるという。』

データの改竄・操作が続々発覚 世界から疑惑の目を向けられる中国「論文工場」

データの改竄・操作が続々発覚 世界から疑惑の目を向けられる中国「論文工場」、専門家は「今後はChatGPTが不正の担い手になる」と指摘
https://www.dailyshincho.jp/article/2023/04281110/?all=1

『中国人による不正論文の“大量生産”疑惑が科学界を揺るがしている。中国人研究者が発表した論文内に、エビデンスの偽造や捏造の“痕跡”が次々と見つかり、対策を講じる動きが加速。しかし専門家らは、その背景に広がる中国社会の過酷な“チキンレース”の是正が進まないかぎり「問題根絶は不可能」と警鐘を鳴らす。

 ***

【写真を見る】中国で話題の的となっている“エリート報道官”の現在の変わり果てた姿
 本当は実験などしていないのに、あたかも検証してデータが得られたかのように装い、学術誌に論文として投稿する――。こういった手口で偽造や捏造された「中国発」の論文の存在に注目が集まっている。

「今春、英経済紙『フィナンシャル・タイムズ(FT)』などが報じたもので、中国人研究者による不正な論文が大量生産されている疑惑に焦点を当て、偽造された論文を量産する中国の“論文工場”の存在も指摘。いまや科学研究分野において中国の論文発表数はアメリカに次ぐ2位となり、昨年には論文引用数で初めてアメリカを上回った。そのため欧州の科学界を中心に重大な懸念が示されています」(全国紙外信部記者)

 不正の手口として、仮説を証明するエビデンスの画像データをデジタル操作したり、別の実験に使われた画像の色彩や抽出部分を変えて使い回すなどといったケースが報告されているという。

 不正横行の背景として指摘されるのが、中国の行き過ぎた競争社会だ。医師や研究者らは論文を発表することが昇進に繋がるだけでなく、ノルマと化して「質より量」が重視される傾向にあるという。』

『大卒・院卒でも就職困難

「論文工場」とは、論文の代理作成を請け負う専門業者のことで、1本につき数万~数十万円の報酬で代筆を受注しているという。

「米国の調査チームによると、2020年以降、世界で10を超える論文工場と2000本以上の捏造論文が発見されたといい、その中心地が中国とされます。論文工場を利用するのは、論文掲載数が評価に直結する大学の研究者や病院勤務の医師など。特に多忙を極め、論文を書く時間もない臨床医などを筆頭にカネを払って論文作成を外注するケースが後を絶たないと伝えられます」(同)

 前出のFT紙では最も多く不正論文を生み出している大学として吉林大学の名が挙がるが、中国事情に詳しいジャーナリストの中島恵氏がこう話す。

「吉林大学は中国の大学ランキングでも常に上位に入る、中国教育部直属の“国家重点大学”です。研究分野によっても違ってきますが、論文発表のノルマは過酷とも聞き、切羽詰まっている研究者などが多いのは事実でしょう。もともと科挙のお国柄ゆえ、中国では『学歴』が非常に重視され、大卒や院卒などの高学歴化が急速に進んでいます。実際、修士・博士はゴマンといますが、名門とされる北京大学や清華大学などで博士課程を修了しても、研究者としてどこかの大学ですぐに職を得るのは難しく、さらにキャリアに箔を付けるため、欧米の一流大学への海外留学も当たり前になっています」

 それでもポスト募集のタイミングと合わなければ、帰国して就職することは困難という。
「スナイパー」と呼ばれる代筆者

 有名大学を出ても「いい仕事」にありつける確率は低く、運よく大学や病院などの高給職を得ようものなら、そのポストを手放すまいと誰もが必死な状況という。そのため仕事のプレッシャーやライバルとの足の引っ張り合いなどから、心身を病み「うつ」になるエリート中国人も増えているそうだ。

 実は中国国内でも「不正論文」の横行は以前から問題視され、18年には党中央が論文などの代理・代筆投稿を禁ずる方針を発表。中国問題に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聡氏が補足する。

「不正論文が問題化する前には、大学入試における不正が横行し、社会問題化しました。当時、入試の答案などを代筆する者は“スナイパー”と呼ばれ、頭はいいが貧乏な大学生や医者の卵などを業者がリクルートして代筆させていた。しかし習近平政権になってから、入試不正が社会の安寧を脅かしかねないとして、取り締まりを強化。以降、入試現場での不正行為は激減した経緯があります」

 今回の論文問題でも、習政権が同様の強権措置を取る可能性も囁かれているという。

「ただし“上”から力ずくで押さえつけても、中国の熾烈な競争社会という“根っこ”の部分を変えないかぎり、一掃するのは難しいでしょう。不正入試の時には“告発されれば必ず捕まる”という状況をつくりだし、悪徳業者などを駆逐した。しかし今後は摘発を逃れるため、人間の手による代筆から“ChatGPTを駆使した不正へとシフト”するとの観測が早くも流れています」(富坂氏)

“イタチごっこ”は終わらない。

デイリー新潮編集部 』

【インテル・トリニティの生涯】ロバート・ノイス:ノーベル賞を「2度も」獲り損なった男

【インテル・トリニティの生涯】ロバート・ノイス:ノーベル賞を「2度も」獲り損なった男
https://pc.watch.impress.co.jp/docs/column/semicon/1496846.html

『インテルの創業と発展に寄与した三位一体(トリニティ)

 「インテル・トリニティ(Intel Trinity)」とは、インテル(Intel)の共同創業者であるロバート・ノイス(Robert Noyce)氏とゴードン・ムーア(Gordon Moore)氏、それからインテルの社員第1号であるアンドリュー・グローブ(Andrew Grove)氏をまとめた呼称だ。インテルの創業と成長を一体となって支えた3名(三位一体)を意味する。

 この呼称は、シリコンバレーで長年にわたって新聞記者をつとめたマイケル・マローン(Michael Malone)氏の著作「The Intel Trinity: How Robert Noyce, Gordon Moore, and Andy Grove Built the World’s Most Important Company」(Harper Business、2014年7月発行)により、米国では広く知られるようになった。邦訳書籍は「インテル 世界で最も重要な会社の産業史」(文藝春秋、2015年発行)である。邦訳タイトルには「インテル・トリニティ」が入っていない。このためか、日本における「インテル・トリニティ」の知名度はあまり高くない。

 本コラムの【インテル・トリニティの生涯】では、トリニティで最後の1人となったゴードン・ムーア氏が2023年3月24日に逝去した機会を捉え、トリニティの生涯を紹介する。本来であれば誕生年月順から言ってロバート・ノイス氏を始めに紹介すべきなのだが、逝去したばかりで読者の記憶に新しいであろうムーア氏を先に紹介した。

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【福田昭のセミコン業界最前線】【インテル・トリニティの生涯】ゴードン・ムーア:インテルを最も長く愛し続けた男

「インテル・トリニティ」を構成するノイス氏、ムーア氏、グローブ氏の生涯(概略、文中敬称略)。公表資料から筆者がまとめたもの

日本語版がないノイス氏の伝記

 今回はムーア氏とともにインテルを創業したロバート・ノイス氏の経歴を述べる。ノイス氏の伝記として最も優れているとされるのは、シリコンバレーを専門とする歴史学者のレスリー・バーリン(Leslie Berlin)氏が著した「The Man Behind the Microchip: Robert Noyce and the Invention of Silicon Valley」(Oxford University Press、2005年6月10日初版発行)だろう。440ページというかなりの大著である。

 インテルのWebサイトでノイス氏を記念するページを閲覧すると、ノイス氏のバイオグラフィ(伝記)として同書へのリンク(厳密にはバーリン氏のWebサイトへのリンク)が張られている。インテルが公式に認めた伝記本ともいえる存在だ。なお、筆者が調べた限りでは、邦訳本(日本語版書籍)は出版されていない。

ロバート・ノイス氏の伝記へのリンク部分。インテルのWebサイトに置かれたノイス氏を記念するページから抜粋

包括的なキルビーの発明、製造技術に特化したホーニーとノイスの発明

 ロバート・ノイス氏(以降は一部を除いて敬称略)の経歴で日本でも知られているのは、フェアチャイルド半導体の共同創業者、インテルの共同創業者、日米半導体貿易摩擦における対日攻撃の急先鋒、モノリシック集積回路の発明者といったところだろうか。バーリン氏の著作「The Man Behind the Microchip: Robert Noyce and the Invention of Silicon Valley」を閲覧すると上記のほか、いくつかの興味深い事実が浮かび上がる。

 最も興味深かったのは、ノイスがノーベル物理学賞を2回も獲り損なったというエピソードだ。2回の中で1回は、集積回路(IC)の発明である。このことは、半導体の研究開発コミュニティではよく知られている。

 そもそも半導体コミュニティでは「集積回路の発明者」として、テキサス・インスツルメンツ(TI)のジャック・キルビー(Jack Kilby)氏、それからフェアチャイルド半導体のノイスとジーン・ホーニー(Jean Hoerni)氏の3名を挙げることが少なくない。

 キルビーは1958年7月に、半導体基板にトランジスタやダイオード、抵抗素子などをまとめて搭載するという「集積回路の概念」を着想した。ホーニーは1957年12月にシリコン酸化膜でシリコンのトランジスタを保護するプレーナ型プロセスを考案した。ノイスはホーニーの発明を発展させ、シリコンのプレーナ型プロセスを回路素子間の相互接続(導体配線)に拡張した、モノリシック集積回路を1959年1月に発明した。キルビーの特許は1959年2月、ホーニーの特許は1959年5月(2件)、ノイスの特許は1959年7月に出願されている。
キルビーの特許「Miniaturized Electronic Circuits」(特許番号3138743)に描かれた実施例(マルチバイブレータ回路)の図面。図面で配線は空中の金(Au)線となっている(試作したICと類似している)が、考え方としては半導体基板と配線は一体化させる。図面の出所:1986年11月27日付け特許出願公告「特公昭61-55256」の第1図と第2図(いずれも米国特許と同じ図面)

ホーニーの特許「Method of Manufacturing Semiconductor Devices」(特許番号3025589)および「Semiconductor Device」(特許番号3064167)に描かれた図面の例(いずれの特許も同じ図面を使用)。シリコン酸化膜をマスクと保護膜に利用する

ノイスの特許「Semiconductor Device-and-Lead Structure」(特許番号2981877)に描かれた図面の例。上が平面図、下が断面図。左側のpn接合ダイオードと右側のnpnトランジスタを配線(30番および31番のリード(Lead)で結ぶ

 キルビーの発明は最も包括的であり、「半導体集積回路の概念」に関するアイデアだった。請求範囲が広く、米国、日本、欧州を問わずに半導体メーカーにとってはかなり厄介な存在だった。このため手続きに時間がかかったとみられる。3名の中では特許の成立が最も遅く、1964年6月になっている(特許番号は3138743)。

 逆にノイスの特許は最も早く、キルビーの3年ほど前、1961年4月に成立した(特許番号は2981877)。1959年当時はトランジスタ全盛時代であり、集積回路の製品がまだ登場していなかったことが、特許の成立を早めたとみられる。プレーナ型トランジスタとダイオードの製造に関わるホーニーの特許2件はノイスよりも1年ほど遅く、1962年3月(特許番号は3025589)と1962年11月(特許番号は3064167)に成立した。

 ホーニーのプレーナ型プロセスとノイスのモノリシック集積回路プロセスはその後、シリコン集積回路とトランジスタ(バイポーラおよびMOS)、ダイオードの標準的な製造技術となった。特にMOS FETとその集積回路(MOS IC)は、ホーニーとノイスの発明によって実用化の道筋が開けたと言える。半導体産業の発展に与えた影響は、非常に大きい。

ノーベル賞の対象とは見なされなかった「集積回路」の発明

 ただし半導体の研究開発コミュニティでは、集積回路の発明はノーベル賞の対象とはなりにくいとの見方が少なくなかった。集積回路の考案は学問的な業績ではなく、工業的な業績とみなされたからだ。固体物理学における偉大な発見であるトランジスタ(1956年にノーベル物理学賞を受賞)とは、発明の性格が大きく異なる。

 たとえばゴードン・ムーアは1994年に、以下のように述べている。「トランジスタを発明したショックレー博士はノーベル賞を受賞したが、キルビー氏やノイス氏は受賞していない。ホーニー氏にいたってはきちんと評価されたとも言えない。その理由は2つあると思う。トランジスタは基礎的な物理研究と密接に関わっていた。ICはそれよりも技術問題だった。もう1つは少人数を特定して功績を断定することがより難しかった。キルビー氏、ノイス氏、ホーニー氏の3氏というのも1つの可能性なのだろうが、この点について明確な提案は残念ながらなかった」(玉置直司、「インテルとともに―ゴードン・ムーア 私の半導体人生―」、1995年6月発行、p.61)。

遅すぎた「集積回路」のノーベル賞授与決定

 ところが2000年10月10日、スウェーデン王立科学アカデミーは同年のノーベル物理学賞を、キルビーを含めた3名の研究者に授与すると発表した。授与の理由は、現代情報技術(Modern Information Technology)の構築に寄与したこと。2名は化合物半導体のレーザーと高速トランジスタの基本構造「ヘテロ接合」の開発に対してノーベル賞を与えられ、この2名が賞金の半分を折半するとした。賞金の残り半分は「集積回路の発明に関するキルビー氏の寄与」に対してキルビーに授与された。

2000年10月10日にスウェーデン王立科学アカデミーが発表した、2000年のノーベル物理学賞の授与に関するリリース(Webサイトのページを一部抜粋したもの)

 ノイスは、集積回路の発明に対してノーベル賞を授与されなかった。理由は2000年の時点で彼は鬼録に登っていたからだ。ノイスはこの10年前、すなわち1990年に亡くなっていた(ノーベル賞は生者のみに授与される)。ホーニーも1997年に亡くなっており、受賞資格を失っていた。なお同アカデミーが2000年のノーベル物理学賞の対象業績を解説したWebページは、ノイスの業績についてもふれている。

江崎玲於奈氏らよりも早期にトンネルダイオードを着想

 ロバート・ノイスが逃したノーベル賞クラスの発明はもう1つある。それは「負性抵抗ダイオード(トンネルダイオード)」を理論的に着想したことだ。「負性抵抗」とは、電圧を上げると電流が減少する状態を意味する。1950年代は量子効果の1つである「トンネル効果」が半導体素子で生じると固体物理学の世界で予想されてはいたものの、実証には至らなかった時期である。pn接合ダイオードにおけるトンネル効果の発見は、半導体における量子効果の実証を意味した。

 読者の多くがご存知のように、トンネルダイオードを発明したのはソニー(当時は東京通信工業)の江崎玲於奈氏らのグループである。以下の記述はソニーのWebサイトに掲載されたトンネルダイオード(別名:エサキダイオード)の発見にまつわるエピソードを参考にした。

 1957年夏にソニーはゲルマニウム(Ge)の高周波トランジスタを開発する過程で生じたトラブル(ボンディングによるpn接合破壊)に対処するため、不純物濃度を変えたpn接合の特性を調べていた。このときに江崎らのチームは偶然、高濃度にリン(P)をドープしたpn接合の電流電圧特性が異常なふるまいを示すという現象に遭遇した。逆方向バイアスでは電圧の上昇とともに電流が単調に増加する。順方向では電圧の上昇とともに電流がゆるやかに増加し、ある電圧から電流が減少する。さらに電圧を上げると電流は再び増加していく。

 トラブルはトランジスタのリン濃度を調節することで解決された。江崎は高濃度pn接合ダイオードで生じた負性抵抗をトンネル効果だと推測し、1957年10月に日本物理学会年会で発表した。残念ながら、反響はあまりなかったという。

江崎らの研究チームが1957年10月の日本物理学会年会で発表したpn接合ダイオードの負性抵抗に関する講演の予稿。出所:日本物理学会年会講演予稿集

ショックレーに潰されたノイスのトンネルダイオード

 ソニーの江崎らがpn接合ダイオードのトンネル効果を発見していたのとほぼ同時期に、ノイスはpn接合ダイオードの不純物濃度を極端に高めるとトンネル効果が生じることを理論的に発見した。1956年8月14日のことであり、江崎らの発見よりも1年ほど早い。当時、ノイスはショックレー半導体研究所につとめていた。ノイスによる発見の経緯を、前述のレスリー・バーリンとデューク大学名誉教授のクレイグ・ケーシー(H. Craig Casey Jr.)は共同で、「IEEE Spectrum」誌の2005年5月号に寄稿した(「Robert Noyce and the Tunnel Diode」、May 2005、IEEE Spectrum、pp.49-53)。

 ノイスは、通常の数千倍もの高い不純物濃度を有するpn接合ダイオードでは、順方向の電流電圧特性が以下のようになると予想した。

 順方向の印加電圧をゼロから少しずつ上げていくとしよう。印加電圧がわずかなときには、通常のpn接合ダイオードよりもやや高い電流が流れて増加し始める。このとき伝導電子はpn接合間の極めて薄い空乏層を「トンネル効果」によって通り抜ける。

 印加電圧をもう少し上げるとpn接合のエネルギー帯で空乏層が厚くなり、伝導電流(トンネル電流)が減少する。すなわち負性抵抗が生じる。印加電圧をさらに上げると空乏層の傾斜がゆるやかになり、通常のpn接合と同じように電流が増えていく。

ノイスが1956年8月14日にトンネルダイオードのアイデアを著した研究ノート。右上に日付がある。右下に電流電圧特性の予想曲線(順方向にトンネル電流と負性抵抗が生じる)が描かれている。出所:Computer History Museum, Department of Special Collections, Stanford University

 このエキサイティングなアイデアをノイスはまず同僚のムーアに話し、次に上司のショックレー(William Bradford Shockley Jr.)に報告した。若きノイスは、ショックレーがこのアイデアに感激してくれるものと期待した。

 ところがショックレーは、ノイスのアイデアに何の関心も示さず、このアイデアに基づく研究(ダイオードの試作や理論の検証など)への道を閉ざしてしまった。ショックレーは競争心が異常に強く、自分の部下が独自のアイデアで研究を進めることを許さない性格だった。失意に打ちのめされたノイスは、ショックレーの意図に沿った別テーマの研究に取り組んだ。

ショックレーが「エサキダイオード」を称賛した不可解

 失意のノイスをさらに打ちのめす出来事が、1958年1月に起こる。著名な固体物理の論文誌「Physical Review」の1958年1月15日号に、「New Phenomenon in Germanium p-n Junctions」と題する江崎の論文が掲載された。試作したGeダイオードの順方向電流電圧特性で、トンネル効果による負性抵抗を観測したという報告だった。

 ノイスはこのとき、ムーアらとともにショックレー半導体を退社してフェアチャイルド半導体を共同で創業しており、同社で忙しく働いていた。ノイスは江崎論文のコピーをムーアに見せ、ノイスと江崎のトンネルダイオードを比較した。両者の構造と特性は非常によく似ていた。大きく違うのは、ノイスはダイオードを試作しなかったことだ。江崎はダイオードを試作して室温(300K)と低温(200K)で電流電圧特性を測定した。低温ではトンネル効果がより顕著に現れた。

 江崎は、続く1958年6月にベルギーのブリュッセルで開かれた国際固体物理学会(International Conference on Solid State Physics)で、高濃度に不純物をドープしたGeトンネルダイオードを発表することにした。ここで不可解なことが起こった。学会の冒頭に実施されたキーノートアドレスで、すでに固体物理学の権威となっていたショックレーが「東京から来た江崎がトンネルダイオードを発表する」と述べ、江崎の研究成果を高く評価したのだ。これには発表者の江崎本人が非常に驚いた。ショックレーが事前にアピールしたこともあり、江崎の発表には多くの聴衆が集まった。

 ノイスのトンネルダイオード「ノイスダイオード」をショックレーはすでに知っていた。「エサキダイオード」がノイスダイオードと本質的に同じものであることも理解していたはずだ。ショックレーは「ノイスダイオード」を無視し、「エサキダイオード」を称賛したのはなぜなのだろうか。

 先に紹介した「Robert Noyce and the Tunnel Diode」は、いくつかの可能性を挙げている。まず、ショックレーは意見や方針などを頻繁に変える傾向があったこと。ショックレーの部下の1人は、彼は会社をいつも「揺さぶっていた」とコメントした。別の部下は、ショックレーはトンネルダイオードに対する考えを変えたのではないかと述べた。また、1957年8月にショックレーを裏切った8名(ノイスを含めたフェアチャイルド半導体の共同創業者)に対する恨みが1958年6月の時点では癒えてなかったからだとする意見もある。いずれにせよ、今となっては本当の理由は分からない。

 ベルギーでの発表から15年後の1973年10月23日、スウェーデン王立アカデミーは1973年のノーベル物理学賞を「固体中のトンネル効果の発見」に関する業績で江崎玲於奈を含む3名に授与すると発表した。

1973年10月23日にスウェーデン王立科学アカデミーが発表した、2000年のノーベル物理学賞の授与に関するリリース(Webサイトのページを一部抜粋したもの)

米国半導体産業の復活に力を尽くす途上で急逝

 トンネルダイオードにノーベル物理学賞が授与されたとき、ノイスとムーアが共同で1968年7月に創業したインテルは、創立6年目に入っていた。インテルの1978年版年次報告書によると、1973年の売上高は6,620万ドル、従業員数は約2,500名(1973年末時点)、続く1974年の売上高は1億3,450万ドル、従業員数は約3,100名(1974年末時点)である。急激な成長ぶりがうかがえる。ノイスに過去を振り返っているヒマはなかっただろう。

ロバート・ノイスと2つのノーベル物理学賞。赤い文字はトンネルダイオード、青い文字は集積回路に関連する出来事

ロバート・ノイスの年譜

 ノイスの活動は1970年代半ば以降、ベンチャー企業の育成や米国半導体産業の保護・強化へと軸足を移していく。1975年にインテルの社長を辞して取締役会会長となり、1979年には取締役会副会長へとステップダウンする。この間、日本半導体メーカーのキャッチアップと対米販売攻勢に注意を払うようになる。そして業界団体である「米国半導体工業会(SIA)」の設立(1977年に発足)を主導する。

 1980年代には日米半導体貿易摩擦が起こり、米国半導体産業における製造技術の強化を真剣に考えるようになる。1988年には、半導体製造の要素技術開発を目的とする官民合同企業セマテック(SEMATECH)のCEOとなり、現役の経営者に復帰する。そして初めて、米国南部のテキサス州オースチンへと自宅を移す。セマテックの本社がオースチンにあったからだ。それまでノイスはシリコンバレーで暮らしていた。

 ノイスはヘビースモーカーだったが、健康診断では何の異常もなかった。しごく健康であり、1990年6月3日には注文していた自家用飛行機を受け取る予定だった。しかし朝に自宅のプールで泳いだあと、体調不良を訴え、病院に搬送されるも不帰の人となってしまう。死因は心不全だった。半導体関係者はノイスの急逝に驚き、悲しみ、落胆した。

 そして「インテル・トリニティ」のシリーズでは最後に、アンドリュー・グローブ氏の生涯について紹介する予定だ。ご期待されたし。 』

「見える化」に期待 東北大新施設ナノテラス

「見える化」に期待 東北大新施設ナノテラス
https://www.yomiuri.co.jp/local/miyagi/news/20221027-OYTNT50141/

『仙台市青葉区の東北大青葉山新キャンパスに現れた直径170メートルの巨大な円盤。2024年の運用開始に向けて建設中の次世代放射光施設「ナノテラス」は100万分の1ミリ単位で観察できる装置だ。「可視化」「見える化」によって製造業、医療、環境、農業、漁業……と幅広い分野での活用が期待されている。記者の最大の関心事は「食」。ナノテラスを使うと、食品はおいしくなるの?(長沼美帆)

 「ナノテラスは、分野を問わずナノ(1ナノ・メートルは100万分の1ミリ)の世界を見える化する施設。今まで全く見えなかった物質が見えるので、性能の向上につなげることができる」。25日、東北大の大野英男学長は市内で開かれた報道向けの説明会で語った。

 仙台市は、国内の既存の放射光施設を企業に利用してもらい、ナノテラスの活用につなげる事業を行っている。家電・生活用品大手のアイリスオーヤマ(仙台市)は、兵庫県にある放射光施設「スプリング8」を使い、最新の炊飯器と従来型で炊いた米のデンプンを測定して比較。最新型の方がより均一に炊きあがることが示された。

 同社は5000万円を出資してナノテラスを10年間利用できる「コアリションメンバー」に加入。ナノテラスでさらに、炊飯器で炊いた米やパックご飯のデンプンを測定して高機能炊飯器の開発などにつなげようとしている。同社は「おいしさを可視化し、新技術の開発や製品の拡充が期待できる」としている。

 海藻の加工食品を製造する理研食品(多賀城市)は、乾燥ワカメを水で戻した時の変化をスプリング8で観察した。より生の状態に近づける品質の改善や、新たな製造方法を模索したいと、ナノテラスの活用を検討している。同社の担当者は「乾燥ワカメを使った冷製スープなど新製品の開発につながれば、市場が活性化する」と期待する。

 兵庫県の手延 素麺 協同組合は、麺をゆでる時のデンプンの変化や分布を機械製造の麺と比較。手延べの方が均一にデンプンが 糊 状に変化し、コシに違いが生じた。のどごしやコシのあるおいしい素麺の開発だけでなく、製造技術を見直して生産性の向上も期待できるという。

 他にも、かつお節や枝豆、冷凍マグロ、うどん、かまぼこなど、様々な食品の研究開発にナノテラスが生かされる可能性がある。

 ナノテラスの運営主体「光科学イノベーションセンター」の高田昌樹理事長は「可視化された状態でデータが得られることで、ものづくりと科学の距離が一気に縮まり、産業界から多くの参画があると期待している」と述べた。

 ■ナノテラス

 放射光は、光速に近い速度で進む電子の方向を、電磁石の力で曲げる時に発生する特殊な光(電磁波)のこと。ナノテラスでは全長110メートルの加速器で電子を加速させ、全長349メートルの蓄積リングで電磁石によって進行方向を曲げる。

 放射光はビームラインと呼ばれる管を伝って試料に当たり、その反応を見ることで物質の構造を詳しく観察できる。ナノテラスで使う「軟X線」という波長の放射光は、兵庫県の放射光施設「スプリング8」で使う放射光の100倍の明るさを出すことが可能で、電子の動きを観察して物質の機能も調べられる。』

太陽光の10億倍の明るさを持つ”放射光”

太陽光の10億倍の明るさを持つ”放射光”
https://twitter.com/hitsuji_bright/status/1643105934967988225?cxt=HHwWgoDT4Y2Jvs0tAAAA

『午後1:19 · 2023年4月4日 23.3万件の表示

仙台で新たな放射光実験施設”ナノテラス”が完成し、一般公開されている。
強い光により物質のナノ(1mの10億分の1)の世界を可視化する。医療、エネルギー、環境、創薬など様々な分野で活用が期待され、10年で1兆9000億円以上の経済効果を生む夢の施設だ。』

「はやぶさ2」回収の試料から黒い固体有機物。母天体での水質変成史が明らかに

「はやぶさ2」回収の試料から黒い固体有機物。母天体での水質変成史が明らかに
https://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/1480871.html

 ※ 「固体有機物」などと言うものが、あるんだな…。

 ※ いよいよ、「生命の起源」は、「宇宙」からもたらされた…、と言うことのようだ…。

『国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)のほか広島大学、横浜国立大学、高エネルギー加速器研究機構(KEK)、九州大学、北海道大学、東北大学、京都大学、東京大学の研究グループは、小惑星探査機「はやぶさ2」が回収した「リュウグウ」の試料分析成果に関する新たな成果を発表した。

 今回発表したのは、6つのサブチームからなる「はやぶさ2初期分析チーム」のうち2つで、可溶性有機物分析チームと固体有機物分析チーム。リュウグウ試料中の可溶性有機分子に関するものと、黒い固体有機物に関する研究成果が新たに発表された。

 可溶性有機分子からは2万種の化合物が見つかり、リュウグウ表面でも低分子が塩(えん)として存在することが分かった。またアミノ酸も23種類見つかったが、そのうち6種類は左手型と右手型が等量見つかり、非生物的な合成プロセスによると推定された。

 一方、有機物は主に黒くて石炭のような固体有機物が占めていた。地球が誕生したばかりのころには大量の小惑星や彗星が衝突していた。リュウグウのような小天体に含まれる有機物も「生命の材料」としてもたらされたと考えられている。

 従来は具体的な生命の材料として、隕石に微量に含まれるアミノ酸、糖、核酸塩基などの生体関連分子が注目されてきた。だが今回の分析結果から、生命を構成する成分とは無関係に思えるような有機物が初期地球に大量にもたらされ、その後、地球上で熱水などと反応し、さらなる化学進化を経て、生命材料として利用できる分子に変化していくことによって、ハビタブル天体の形成に寄与した可能性があることが示唆された。炭素質小惑星の固体有機物はさまざまな分子を生み出すリザーバーとしての役割を担っていた可能性があるという。
固体有機物分析チームによる分析作業。KEKフォトンファクトリーのX線顕微鏡やSPring-8で分析が行なわれた

 論文はどちらも、米国の科学雑誌「Science」に掲載された。

炭素質小惑星リュウグウの試料中の可溶性有機分子
原題:Soluble organic molecules in samples of the carbonaceous asteroid (162173) Ryugu

小惑星リュウグウ試料中の黒い固体有機物
原題:Macromolecular organic matter in samples of the asteroid (162173) Ryugu

 記者説明会では、それぞれの論文について解説が行なわれた。

「リュウグウ」可溶性有機化合物を日米欧各国の研究チームが分析
九州大学大学院理学研究院 地球惑星科学科 有機宇宙地球化学研究室教授 奈良岡浩氏

 まず、可溶性有機物に関する論文については、九州大学大学院理学研究院 地球惑星科学科 有機宇宙地球化学研究室教授の奈良岡浩氏が解説した。

 炭素質隕石に含まれる多くの有機分子は原始地球上に運ばれて、生命誕生にいたる化学進化の材料物質となったという仮説がある。しかし、炭素質隕石の故郷と考えられる炭素質小惑星に、実際にどのような有機分子が存在するかは分かっていなかった。

 研究グループは、小惑星探査機「はやぶさ2」が第1回目のタッチダウンで採取した小惑星リュウグウのサンプルを水や有機溶媒で抽出。可溶性有機化合物を日米欧各国の研究チームで分析した。

 すると、炭素(C)、水素(H)、窒素(N)、酸素(O)、硫黄(S)の元素組成からなるアルコール可溶性の有機化合物分子が約2万種見つかった。具体的な有機化合物としてはアミノ酸やアミン、カルボン酸、炭化水素、含窒素環状化合物などが含まれていた。これは隕石に比べるとかなり多い。アミノ酸には右手構造(D-体)と左手構造(L-体)の光学異性体があるが、6種類は1:1の等量のラセミ体であり、非生物的に合成されたものと解釈された。

リュウグウの表面サンプルから見つかった有機分子の概念図

 今回調べられた試料は、「はやぶさ2」第1回タッチダウンの「A0106」と呼ばれるサンプル。1個1個が1mm以下の粒からなる集合体(Aggregate)で、中には30nm以下の粒子もある。全体の重さは35mg。それに対して高分解能質量分析、クロマトグラフィー分析法を使って日本、米国、ドイツの大学・研究機関で解析した。

 元素分析をしてみると、CHONSの存在量は重量にして約20wt%くらい入っており、安定同位体比を計測すると、地球上のものとは違い、重い同位体に富んでいて、最も始原的な隕石グループと言われる「CIコンドライト」に属する「Ivuna(イヴナ)タイプ」の炭素質隕石に似ていた(リュウグウは炭素質隕石、特にイヴナ型炭素質隕石から主に構成されていることが分かっている)。

 精密質量測定をすることで、分子構造は分からないが、CHNOSがどのくらい入っているかを決めることはできる。2万種の化合物の中ではCHOS、CHNO、CHNOSなどが比較的多く、奈良岡氏によれば「特にSが入っている化合物が多かった。地球上ではこんなに硫黄化合物が出てくることはない」とのこと。

 試料の炭素、水素、窒素量の分析結果を見ると、それぞれの点が、ある規則を持って並んでいるのが分かる。それは成因的に関連があることを示す。

リュウグウ試料の炭素、水素、窒素量
アルコール抽出物から検出された2万種類の化学組成
リュウグウ母天体で水の影響があったことが明らかに
クロマトグラフィーによるアミノ酸の分離結果。上段がリュウグウ試料、中段が有機物のない蛇紋岩、下段がstandard

 今回の分析結果は、色々な有機分子がリュウグウの表面に存在していたことを示している。クロマトグラフィーを使うことで、地球生命が用いるタンパク性アミノ酸のほか、非タンパク性アミノ酸も見つかった。そして右手構造と左手構造を持つアミノ酸は1:1の等量が存在した。地球生物のタンパク質合成には左手型(L-体)しか用いられないので、右手構造と左手構造が1:1ということは、このアミノ酸は生命にかかわらず宇宙で合成されたものであることを示している。

 炭化水素としてはアルキルベンゼンや多環芳香族炭化水素であるナフタレン、フェナントレン、ピレン、フルオランテンなどが見出された。これらの存在パターンは地球上の熱水原油のパターンと似ており、リュウグウが太陽系形成初期の微惑星の一部だった時代の母天体上で、水の影響を受けていたと考えられる。

 また、「A0080」という1mmくらいのリュウグウ試料の表面をメタノールスプレーを使ってその場分析すると、窒素を含む環状化合物など異なる有機分子が異なる空間分布で存在していることが分かった。これは、リュウグウの母天体上で水が動き、水と鉱物とが相互作用する中で有機化合物が分離した可能性が高いと考えられる。
エレクトロスプレーイオン化質量分析で得られたCHN化合物の異なる空間分布

 これまで、小惑星の表面は紫外線や宇宙線など高エネルギー粒子が当たっているため、低分子化合物は破壊されているのではないかとも考えられていた。だが実際には低分子の有機物が存在していた。これは表面にあった無機金属と塩を作ることで守られていると考えられる。たとえば酢酸は地球表面では飛びやすいが、塩になると揮発しにくい。真空下でも塩になって守られているらしい。

 発見されたアミノ酸がラセミ体だった今回の結果は「宇宙由来のアミノ酸が生命の材料になった」とするアイデア、いわゆるパンスペルミア説を支持しない。しかしながら小惑星からはさまざまな過程で物質が宇宙空間に放出される。表面に存在する有機分子が、地球など他の天体にそのまま運ばれる可能性は十分にあるという。「今後ももっと宇宙を探索すべきだ」と奈良岡氏は語った。

有機物の主要な割合を黒い固体有機物が占める

広島大学先進理工系科学研究科 教授 薮田ひかる氏

 続く2本目は、広島大学先進理工系科学研究科 教授の薮田ひかる氏が解説した。薮田氏ら固体有機物分析チームは、小惑星リュウグウ試料中の固体有機物の化学組成、同位体組成、形態を分析した。

 薮田氏らはリュウグウ試料(200~900μmサイズの微粒子37個)に対し2種類の分析を行なった。1つ目は微粒子に化学的処理を施さない非破壊分析。その結果、主要な割合を黒色の固体有機物が占めていることが分かった。

 もう1つは試料を強い酸で処理し、残渣を分析する破壊分析だ。塩酸とフッ酸の混合溶液で1カ月間、繰り返し処理をすることで、大部分の無機物を溶かしてしまう。最終的に残った、強酸でも溶けない酸不溶性残渣を分析した。その分析結果と非破壊分析の結果はほぼ同じだったという。つまり、リュウグウ試料の有機物の主要な割合を黒い固体有機物が占めていたことになる。

酸処理の様子。何度も酸を使って無機物を溶かす。テフロン製バイアル1本のなかに約10mg
フッ酸と塩酸で無機物、層状ケイ酸塩などを溶かし、純度の高い固体有機物を生成。残った不溶性炭素質残渣を調べた

 では固体有機物を構成している化学物質は、どんなものだったのか。芳香族炭素、脂肪族炭素、ケトン基、カルボキシル基が無秩序に結合した芳香族性の高分子構造からなっていた。リュウグウ試料中の固体有機物の化学・同位体組成は、最も始源的なイブナ型炭素質隕石(CIコンドライト)や始原的なミゲイ型炭素質隕石(CMコンドライト)のものに似ていた。

 一方で、リュウグウ試料の有機物は高温で加熱されていなかったことも分かった。これは、有機物が高温で加熱されて炭化すると生じる、グラファイトのような秩序だった構造が見られなかったため。リュウグウ試料の有機物は、母天体内部や天体衝突によって200℃を超える高温には加熱されなかったことを意味するという。

 今回の小惑星リュウグウの試料の有機物は化学的、同位体的に、始原的な炭素質コンドライト隕石と似ていた。炭素質小惑星の有機物と直接的な関係が、初めて証明された。
リュウグウ母天体との水、鉱物、有機物の相互作用の証拠

 さらに、リュウグウ試料(微粒子12個)の超薄切片(厚さ約100nm)を作製し、より空間分解能の高い放射光軟X線顕微鏡、透過型電子顕微鏡、AFM赤外顕微鏡による測定も行なった。すると、ナノメートルサイズの球状有機物(ナノグロビュール)や、薄く広がった不定形の有機物(diffuse carbon)が、層状ケイ酸塩や炭酸塩などの鉱物と混じり合って存在していた。

 これらはリュウグウの母天体で、液体の水、前駆的な有機物、鉱物との化学反応(水質変成)で起こった証拠だと見られるという。

 ナノグロビュール有機物は、芳香属炭素やカルボニル炭素に富み、薄く広がった有機物には始原的な炭素質隕石に含まれる酸不溶性有機物に似ているが、モレキュラーカーボネート(結晶性の炭酸塩鉱物ではない、分子状の炭酸塩前駆物質、または炭酸エステルと推測される分子)を含むことが分かった。リュウグウ試料の方が炭素質隕石よりも化学的、形態的に多様性があった。これはリュウグウ母天体で液体の水と有機物との反応がさまざまな条件で進行したことを示している。

 薮田氏は電子顕微鏡で撮影された具体的な有機物の姿を示しながら解説した。ナノグロビュールには穴が空いているもの、空いていないもの、ソリッドのナノグロビュールが層状ケイ酸塩と共存したものなどがあったという。中には、組織が繊維状の層状ケイ酸塩のマトリックスの中に混ざるように有機物が分布、つまり内部に取り込まれているものもあったり、大きめのカルサイトの中に形の定まらない有機物が包有されている状態も観察されるなど、「多様な形態の有機物が多様な化学組成で見出された」と語った。

透過電子顕微鏡観察で見たリュウグウ試料。ナノサイズの有機物が鉱物と入り混じっている
星間分子雲などの低温環境から水質変成を経て生じたリュウグウの有機物

 続いて、固体有機物の同位体分析を行なった。微粒子試料、不溶性残渣のいずれからも重水素と窒素15が非常に高い領域とそうではない領域があった。重水素と窒素15に富む同位体組成は地球上の有機物には見られない、マイナス200℃以下の低温環境のみで生じることから、少なくとも一部は宇宙の極低温環境で生じたことが示された。「宇宙の極低温環境」とは、具体的には星間分子雲や原始惑星系円盤外側のことだ。

 リュウグウはC型小惑星だ。ほかの太陽系小天体の有機物と比較したところ、リュウグウ試料を酸処理して得られた不溶性有機物は、水素同位体についても窒素同位体にしても、水質変成を経験した隕石と似ていて、逆に水質変成を経験していない隕石などとは似ていなかった。こういうことから、リュウグウの同位体組成も母天体で水との反応を受けて変成した結果であると解釈できる。

 つまり、原始惑星系円盤の初期段階の始原小天体で生じた共通の前駆物質が、C型小惑星やD型小惑星で起こったような水との不均一な化学反応をリュウグウ母天体で経験し、さらに化学的、同位体的に変化した結果、リュウグウの有機物を生じたと考えられる。
不溶性残渣の水素同位体と窒素同位体の比較。リュウグウ試料は水質変成を受けたものと似ていた

リュウグウの進化にともなう固体有機物の形成と進化
リュウグウの進化に伴う固体有機物の形成と進化

 リュウグウの進化に伴う固体有機物の形成と進化をまとめると、まず星間分子雲や原始惑星系円盤の外側で、それぞれの環境で前駆物質として有機物が形成される。そこでは重水素や窒素15が濃集あるいは枯渇した有機物が生じ、球状のナノグロビュールができたり窒素15に富む有機物が低温環境で作られる。

 それらが母天体に取り込まれたあと、液体の水と反応して化学的に変化し、二次鉱物ができたりナノグロビュール中の芳香属炭素などの比が増え、同位体組成が変化する。その後、微惑星同士の衝突によってリュウグウ母天体が壊れたのだと考えられる。

 太陽系科学の意義の1つは、生命起源の探索だ。C型小惑星リュウグウ、タギッシュレイク隕石のようなD型小惑星、「スターダスト計画」や惑星間塵、南極隕石などのかたちで入手できている彗星の有機物には、それぞれ共通点と相違点があった。これは原始惑星系円盤で生じた共通の前駆物質が、それぞれの微惑星に取り込まれたあと、化学反応して多様化していったのではないかと考えられる。

 初期太陽系においては、隕石や彗星が惑星に衝突した際に、アミノ酸や塩基など生命の材料がもたらされたと考える説が主流になっている。今回の成果は、炭素質が主要な割合を占めるC型小惑星の黒い固体有機物のような、一見生命に関係ないように見える有機物も、アミノ酸などと一緒に初期地球に大量にもたらされて化学環境に影響を与え、「ハビタブル(生命が生存可能)な天体の形成に寄与したと考えられるものだ」という。

 なお「はやぶさ2」のサンプルは貴重なので、サンプルの解析については、前述の可溶性有機物分析チームと共有しながら行なったとのこと。メンバーは40名以上。日本国内では各大学のほか、KEKのフォトンファクトリーのX線顕微鏡、「Spring-8」や分子科学研究所でも分析を行なった。

地球や生命の起源につながる重要な知見
東京大学大学院理学系研究科 宇宙惑星科学講座 地球惑星システム科学講座 教授 橘省吾氏

 今回の論文が掲載された「Science」は既報の3本の論文を含めて、「はやぶさ2」成果の特集号となっている。各分析チームが研究してきた太陽系の起源や生命の起源に繋がる「はやぶさ2」の成果については、今後、サンプルサイエンスの全体像をまとめて紹介する報告会を開く予定もあるとのことだ。地球や生命につながる重要な知見を今後も与えてくれるだろう。

橘 省吾教授講演「リュウグウからの玉手箱の中身は?~これからの分析への展望~」2021/2/23 東京大学理学部臨時公開講演会 』

電子の「真の姿」捉える 波動関数を可視化、早稲田大学

電子の「真の姿」捉える 波動関数を可視化、早稲田大学
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC27CF70X21C22A2000000/

 ※ 今日は、こんな所で…。

『早稲田大学とカナダ国立研究機構の研究チームは、理論でしか示せなかった電子の「真の姿」に迫る新たな観測手法を開発した。アト(100京分の1)秒の精度で制御したレーザー光をネオン原子に照射し、電子の波としての情報を記述する数式を視覚的に捉えられるようにした。原子間の結合を担う電子の姿を詳しく測定できれば、新材料の開発や化学反応の解明に役立つ。

電子の波としての情報を詳細に可視化した=早稲田大学の新倉弘倫教授提供

電子の波としての情報は「波動関数」という数式で表現される。波の強さを示す振幅や、波の山や谷のどこに位置するかを示す位相などの情報を含む。電子は原子間の結合を担っており、位相が同じ場合は波が強め合って原子が結合し、位相が異なる場合は弱め合って結合しない。1981年にノーベル化学賞を受賞した福井謙一博士の「フロンティア軌道理論」で提唱されたが、通常の測定方法では電子の波としての情報のうち位相は失われてしまう問題があった。

研究チームは50アト秒以下という超高精度で制御したレーザー光を重ね合わせて、電子の波としての性質を保ったまま測定する独自技術を開発してきた。その手法を応用し、2種類のレーザー光を使って、ネオン原子全体に広がる電子の波動関数の振幅や位相の分布を可視化することに成功した。従来の手法は3種類のレーザー光を照射するもので、複雑な解析が必要なうえ電子を測定できる範囲も限られていた。

アト秒の精度でレーザーを制御する=新倉教授提供

気体のネオン原子だけではなく、複数の原子から成る分子や固体材料への応用を目指す。早稲田大学の新倉弘倫教授は「波動関数の可視化は分子を設計する手がかりになる」と期待する。実験で測定した波動関数と化学反応のシミュレーションのずれを検証すること
で、分子の性質を見積もる精度の向上につながるとみている。』

波動関数(読み)はどうかんすう(英語表記)wave function
https://kotobank.jp/word/%E6%B3%A2%E5%8B%95%E9%96%A2%E6%95%B0-115386

『量子力学において、原子・分子および原子核・素粒子の状態を表すのに用いられる座標の関数のこと。状態関数ということもある。

座標の関数のかわりに運動量その他の量(力学変数)の関数を用いることもある。

座標の関数を運動量の関数に変換することができるので、どの力学変数を用いても波動関数の表す状態の物理的内容が変わることはない。

 原子や素粒子などの量子力学における運動状態を量子的状態という。

量子力学では物理量は演算子で表現されており、物理量がある値をとる状態の波動関数はこの物理量の演算子の固有関数で与えられる。

たとえばx方向の運動量の演算子は-iħ∂/∂x(ħはプランク定数hの2π分の1)であるので、固有値p’の波動関数∅(x)は固有値方程式-iħ∂∅(x)/∂x=p’∅(x)を満たし、波動関数は∅(x)=c exp(ip’x/ħ)で与えられる。ただし、expα=eαを表す。cはそれぞれの場合の物理的条件に応じて決まる定数である。

波動関数の時間的変化は系のエネルギーの演算子Hを用いiħ∂/∂t=Hで与えられる。

これをシュレーディンガーの波動方程式とよんでいる。この系が固有値Eのエネルギーの固有状態であればH=Eであって、この場合の波動関数の時間変化は=∅exp(iEt/ħ)となる。ここで∅は時間によらないH∅=E∅を満たす波動関数である。この方程式もシュレーディンガー方程式という。

[田中 一]
[参照項目] | シュレーディンガーの波動方程式 | プランク定数 | 量子力学

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例 』

波動関数
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B3%A2%E5%8B%95%E9%96%A2%E6%95%B0

『波動関数(はどうかんすう、英: wave function)は、量子力学において純粋状態を表す複素数値関数。量子論における状態については量子状態を参照。 』

『解釈問題

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この節には複数の問題があります。改善やノートページでの議論にご協力ください。

出典がまったく示されていないか不十分です。内容に関する文献や情報源が必要です。(2021年9月)
正確性に疑問が呈されています。(2021年9月)

詳細は「観測問題」を参照

ボルンの規則に従って、波動関数の絶対値の2乗は、その波動関数の基底となる固有状態を見出す確率ないし確率密度関数と対応付けられることが知られている。 他方、量子力学の枠組みにおいて、系の状態は波動関数によって指定される。これは古典力学において適当な物理量の値の組で系の状態を指定できたことと対照的である。 古典力学に基づくなら、物理量の値は測定せずとも定まっていると考えることができたが、量子力学に基づくなら、物理量の値そのものを決定することはできず、その確率分布しか知ることができない。 系が確率的に振る舞うことに対して、古典的な確率現象のように何らかの粗視化や系に対する知識の不足によって生じていると考えるのではなく、本質的に確率的な振る舞いをしていると考えるならば、前述の古典力学的な描像で系の状態を考えることは困難となる。

また、測定に伴って被測定系へ及ぼされる影響についても古典力学と量子力学で異なる点がある。 古典論では被測定系の状態を変化させずに物理量を測定できると考えることができたが、量子論においては、例えばある物理量を正確に測定した場合、測定系にとっての被測定系の状態は、測定に伴って測定値に対応する固有状態に変化していると考えなければならない。 前述の通り、波動関数は測定値の確率分布に関連しているため、確率分布が測定に伴って変化するならば、測定に伴って波動関数もまた変化しなければならない。 特に、物理量を正確に測定した場合、波動関数は対応する固有状態へ「収縮」する。

もし波動関数が(例えば電磁場のような)物理的実体を伴うものだと考えると、この「波動関数の収縮」の解釈には困難が伴うことが知られている。例えばEPRパラドックスとして指摘されたように、(量子力学の理論上)測定に伴って光速を超えて(従って相対性理論に整合しない)「収縮」が生じているように見える系について、そのような「収縮」が起こり得ないことを説明する必要が生じる[要校閲] 。

もう一つの波動関数の重要な性質として、波動関数の重ね合わせとそれに伴う干渉がある。例えば二重スリット実験では、単スリット実験から得られる波動関数の重ね合わせによって、二重スリット系の波動関数が得られる。二重スリット系の粒子の存在確率分布は、単スリットの波動関数同士の干渉により、単スリット系での分布の重ね合わせとは異なることが知られている。この干渉は、スリットを通過する粒子の運動を(純粋に)古典力学的に解釈する限り説明できない。

確率的な振る舞いと重ね合わせに関連して、量子系と古典系[要校閲] が相互作用する系では「シュレーディンガーの猫」のような微妙な状態が存在し得る。通常、「猫」のような巨視的な対象は古典力学に従った振る舞いをすると考えられるが、測定器系を通じて崩壊性原子のような系と相関している場合、量子力学に従うならば、「猫の生死」のような巨視的な事象まで被測定系の振る舞いに依存してしまうことが示唆される。特に測定前の状態においては、猫系もまた量子力学的な重ね合わせ状態として記述されなければならない。 波動関数の「実在」を認めるなら、猫の重ね合わせ状態もまた何らかの形で「実在」すると考えなければならない。

「シュレーディンガーの猫」の思考実験から発展して、「ウィグナーの友人」のような系を考えることができる。「ウィグナーの友人」系では何らかの量子系に対して測定を行う系1(「友人」)と、系1に対して測定を行う系2(「ウィグナー」)が登場する。系1にとって測定結果を得た時点で対象の量子系の波動関数は「収縮」したように見えるが、系2にとっては系1の測定結果を(系1を通じて)観測するまで、量子系の波動関数は「収縮」していないように見える。このように「収縮」がいつどのように生じたかは、観測者の立場に依存しているように見える。[1]

以上のような波動関数によって示唆される「現象」に対して、その解釈を巡って様々な提案がなされている。よく知られている例として、コペンハーゲン解釈、多世界解釈、ボーム解釈などが挙げられる。これらの解釈は波動関数がシュレーディンガー方程式に従って時間発展することは認めるが、観測に伴う干渉の消失(デコヒーレンス)や「波動関数の収縮」のメカニズムや波動関数が測定値の確率分布に対応する理由に対する説明が異なっており、そのため理論の適用範囲や検証可能性がしばしば議論の対象となっている。

典型的なコペンハーゲン解釈においては、波動関数は客観的な実体あるものではなく、観測者の主観によって定まるとされる。従ってコペンハーゲン解釈の下では、「波動関数の収縮」は非物理的な現象であり、相対論を破るものとは考えない。

多世界解釈では、「波動関数の収縮」は生じず、量子系はあくまでシュレーディンガー方程式に従って連続的に(ユニタリ)時間発展をすると考える[2]。多世界解釈において「波動関数の収縮」に相当する過程は、観測者が辿り得た歴史の(互いに干渉することのない)分岐として表現される。 』

アルツハイマー病の新薬「レカネマブ」米FDAが承認

アルツハイマー病の新薬「レカネマブ」米FDAが承認
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230107/k10013943571000.html

『日本とアメリカの製薬会社が共同で開発したアルツハイマー病の新薬についてFDA=アメリカ食品医薬品局は6日、患者の脳内にたまっている異常なタンパク質を減らす効果を示したとして、治療薬として承認したと発表しました。

FDAが6日、アルツハイマー病の新しい治療薬として承認したのは、日本の製薬大手「エーザイ」とアメリカの「バイオジェン」が共同で開発を進めてきた新薬「レカネマブ」です。

アルツハイマー病になった患者の脳では「アミロイドβ」と呼ばれる異常なたんぱく質がたまっていて、これによって神経細胞が壊れると考えられています。

FDAは、研究グループが行ったおよそ850人を対象にした中間段階の治験でこの薬を投与された患者の脳から「アミロイドβ」を減らす効果が示されたと評価しています。

承認された治療薬はアミロイドβがたまる前に取り除くことで神経細胞が壊れるのを防ぎ、病気の進行そのものを抑える効果が期待されています。

「アミロイドβ」に作用するアルツハイマー病の治療薬がアメリカで承認されるのは今回が2例目で、FDAは「アルツハイマー病との戦いにおける重要な進歩だ」としています。

今回の承認は深刻な病気の患者に対し、より早く治療を提供する「迅速承認」という仕組みで行われ、開発したエーザイは、最終段階の治験のデータをもとに、すみやかに完全な承認を申請することにしています。

「レカネマブ」とは

「レカネマブ」は、製薬大手の「エーザイ」がアメリカの製薬会社「バイオジェン」と共同でアルツハイマー病の治療薬として開発を進めてきました。

アルツハイマー病の治療薬は、これまで神経細胞に作用するなどして症状が悪化するのを遅らせるものはありましたが、病気の進行そのものを抑える薬は国内で承認されているものはありません。

アルツハイマー病になった患者の脳では「アミロイドβ」と呼ばれる異常なたんぱく質がたまっていて、これによって神経細胞が壊れると考えられています。

「レカネマブ」は「アミロイドβ」が固まる前の段階で人工的に作った抗体を結合させて取り除こうというもので、神経細胞が壊れるのを防ぎ、病気の進行そのものを抑える効果が期待されています。

ただ、壊れてしまった神経細胞を再生させることはできないため、発症する前の「軽度認知障害」の段階や、発症後、早期に投与することが重要だとされています。

エーザイ「速やかなフル承認申請の達成に向け全力」

今回の承認を受け、エーザイは「アルツハイマー病の当事者と家族が抱える憂慮の解消を目指す継続的な取り組みの成果だ。アルツハイマー病は患者の医学的な問題や家族の介護負担だけでなく、生産性の低下、社会的コストや不安の増大など社会全体に影響を及ぼす問題で、必要とする人々へ薬のアクセスが可能となるよう最善を尽くすとともに、速やかなフル承認申請の達成に向けて全力で取り組む」とコメントしています。

患者・家族の支援団体 “効果を期待”

アメリカでアルツハイマー病の患者やその家族の支援を行っている「アルツハイマー協会」のヘザー・スナイダー博士は、エーザイなどの研究グループが去年11月、この薬に症状の進行を遅らせる有効性が確認されたとする論文を発表したことを踏まえて、「公開された論文からわかることはレカネマブによって、この病気の初期の患者が、より長く日常生活を過ごす、つまり、より長い時間、配偶者や子ども、それに孫を家族だと認識して、結婚式に出席したり、休暇を過ごしたりできるようになると期待できることだ」と評価しました。

そのうえで、「アルツハイマー病とともに生きる人たちにとって、現在、治療法は限られている。今回、承認された薬を病気の初期段階で使えば、患者の生活の質、全体を向上させることができると信じている」と期待感を示しました。』

図録▽認知症の国際比較

図録▽認知症の国際比較
https://honkawa2.sakura.ne.jp/2136.html

 ※ 今日は、こんな所で…。

『“dementia”に対応する言葉としてそれまで「痴呆」とよばれていた症状が厚生労働省によって「認知症」という用語に名称変更されたのは2004年であった。その後、高齢化が進むにつれて「認知症」は誰もが罹りうる身近な病状として認識されるようになっている。
 人口当たりの認知症患者数について、OECD諸国とその他主要国の2017年の実績と20年後の2037年の予測値を図に示した。


 人口1000人当たりの認知症患者数はOECD平均で14.7人であり、日本はOECD諸国で最多の23.3人である。日本の場合人口100人に2人以上は認知症患者がいるのである。さらに、2037年にはOECD平均で17.3人、日本は38.4人に増えると予測されている。

 こうした数字だけを見るだけでも大変厳しい状況にあることが理解される。

   高齢者ほど認知症を発症する割合は高くなるので、国ごとの人口当たりの認知症患者の多い少ないは、高齢化の進展度と相関している。ページ末に掲げた相関図ではこの点を示した。日本など高齢化の進んだ国で認知症患者が多く、途上国のインドなど高齢化がまだ進んでいない国では認知症患者が相対的に少ないことは一目瞭然であろう。

   また、この相関図からは、日本は、イタリア、ドイツ、フランスといった西欧の主要国と比較して高齢化の割にはやや認知症患者が少ないことも読み取れよう。

   各国の認知症の患者数とともに死亡率のデータも掲げた。ここで死亡率は年齢調整後の値なので高齢化のバイアスが除かれた死亡率を見ることができる。認知症は、死因としてのダメージもさることながら、家族を含めた生活困難のダメージが大きいので、日本では寿命・健康ロスの大きさが3番目に深刻な病気なのである(図録<A href="2050.html">2050</A>参照)。従って死亡率だけで各国の認知症の深刻さを判断することはできないが、認知症に伴う課題の一端をうかがうことはできよう。

 少し年次が古いが「現代の殺人者」(A modern killer)と題された認知症の深刻さを指摘するOECDオブザーバーの記事(第297号、2013年第4四半期)を以下に訳出する。状況はあまり変わっていないと思われる。

 認知症は治療法が得られない破滅的な病気である。ケアはお金的にも、感情的にも負担が大きい。高齢化が進んでいる社会では医療システムへの負担も大きくなる。症状は脳にダメージを与え、人間の身体機能や認知能力を衰えさせる。

   アルツハイマー病インターナショナルによると、4秒ごとに誰かがどこかで認知症を発症する。世界的な予測によると3千6百万人もの人が認知症を患い、その40%は高所得国に暮らす。OECD諸国全体では60歳以上の5.5%が認知症を発症している。認知症とアルツハイマー病による死亡率はフィンランド、米国、アイスランド、オランダで最も高い<FONT size="2">(注)</FONT>。90歳以上の約半分が認知症を抱えている。

  <ADDRESS>

(注)2013年当時のデータ。現在では図の通り、フィンランド、英国、アイスランド、オランダ、米国の順。認知症死亡率に関しては日本はかなり低位にあることも図からうかがわれる。

   心臓病やガンといった死をもたらす主要疾患による死亡率や障害率の削減についてはOECD諸国で進歩が見れられる一方で、認知症についてはそれが当てはまらない。

   OECDでは主に次の3点の対策を図っている。すなわち、①必要な治療と診断を提供するための官民連携の手法開発、②病気の予防や対処法のイノベーションを加速するために生命科学や情報技術からの助言をひきだす仕方の検討、③罹患した患者やその家族による介護やケアを改善するための手法開発である。
  <div align="center"><img src="images/2136a.gif"></div>

   患者数データの対象国を図の順に掲げると、メキシコ、トルコ、スロバキア、韓国、ポーランド、チェコ、イスラエル、ハンガリー、アイルランド、米国、チリ、スロベニア、アイスランド、カナダ、ルクセンブルク、ニュージーランド、オーストラリア、ラトビア、リトアニア、エストニア、ノルウェー、オランダ、デンマーク、英国、スイス、ベルギー、オーストリア、スウェーデン、フィンランド、スペイン、ギリシャ、フランス、ポルトガル、ドイツ、イタリア、日本、南アフリカ、インドネシア、インド、中国、ブラジル、ロシアである。

  (2022年3月10日収録)

社会実情データ図録 Honkawa Data Tribune
https://honkawa2.sakura.ne.jp/index.html

「認知症が減少」のなぜ みえてきた教育水準との関係

「認知症が減少」のなぜ みえてきた教育水準との関係
科学の絶景
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC05BG00V01C22A2000000/

『高い教育水準が認知症を抑える――。データから明るみに出たのは、20代までの学習期間や生涯を通して学ぶ意欲の大切さだ。

「日本人は認知症にならずに長生きする」。2022年春、意外なニュースが世界に流れた。認知症はどの国にとっても懸案だ。既に世界で5000万人を超える人が患い、50年には1億5000万人以上になるとされる。日本でも12年の462万人から40年には900万人を上回るとの見方がもっぱらだった。

ニュースの震源地となった東京大学や米スタンフォード大学がまとめたのは「日本は16年の510万人から43年には465万人に減る」(東大の橋本英樹教授)という推計だった。

分析は「年を重ねるとどんな病気や機能低下が生じるか」をコンピューターで探った。16年から時を進めると、60歳以上が暮らす架空の日本で認知症の人は25年に503万人、34年に490万人と減っていった。

従来予測に反する「減少」との推計は健康状態や教育歴といった個性を反映したのが影響した。ここからみえてきたのは高い教育水準が認知症を抑える期待だ。

朗報にはヒントがあった。推計からは、65歳時点で期待する残りの人生のうち、認知症を伴う期間がどれだけを占めるかもわかる。43年には大学卒業以上の男性の場合は1.4%にとどまり、高校卒は7.7%、高卒未満は25.6%だった。女性は大卒以上が15.4%、高卒が14.8%、高卒未満が24.6%。学びの機会が増えると、認知症と向き合う期間が短くなった。

治療にてこずる今は「教育問題を口にするのは社会的な影響が大きく、声を上げにくい」と漏らす専門家もいる。しかし、そうも言っていられない。学習の重要性を裏づける証拠が増えてきたからだ。

「米国の65歳以上の認知症有病率は2000年の12.2%から16年に8.5%になった」。米ランド研究所のピーター・フドミエット氏らは11月に最新の研究成果を発表した。

人口の増加と高齢化で認知症の人は身近になるが、人々が認知症になりやすくなるわけではない。真の有病率は先進国ではむしろ下がってきたとみる。

米国で減った正確な理由はわからないが「高血圧などの改善もあるが、男女とも大卒者が増えており、教育水準の向上が重要な役割を果たしたようだ」(同氏)。男性では非ヒスパニック系の白人と黒人の有病率の差も縮まった。

実は「学習の大切さは半ば常識だ」と打ち明けるこの分野の専門家は多い。論文には何年も前から、思春期を含む年代の学習期間の短さが高血圧や鬱などと共に危険因子にあがる。

認知症の多くはゴミとなるたんぱく質が脳の神経を傷めるのが原因とされる。「脳の細胞が成熟する時期の教育は脳をタフにする」「キャンパスで培った人脈を通じた生活体験や仕事、健康意識の高まりが奏功」。因果関係の評価は様々だが、真実味はある。学びの価値を誰もが自覚する時に来ている。

進路は選択の自由がもたらすが、一人ひとりが社会を支える役目を考えれば、学習期間の物足りなさを個人の問題と片づけるわけにはいかない。社会全体での備えが欠かせない。進学の機会を手にできない人もいる。国内外を問わず教育格差は不平等がまかり通る社会から生まれる。社会を作りかえていくのも認知症対策だとの認識が世界では広がりつつある。

もっとも「(教育歴が全てという)運命論ではない」(橋本教授)。これからの選択で未来は創っていける。認知症の発症リスクはいくつもあり「他を減らせば補って余りある」と量子科学技術研究開発機構量子医科学研究所の樋口真人部長は話す。

その考えを福岡県久山町で65歳以上の住民約800人を24年にわたって見守った九州大学の研究が後押しする。二宮利治教授らは認知症を予測する手がかりを見つけ、10年後の発症確率を探るチェック表を作った。教育歴が9年以下で不利になるが、糖尿病の予防などで巻き返せる。教育歴が長くても、喫煙習慣や高血圧で暗転してしまうのも貴重な教訓だ。
英国で1000人超の60年以上に及ぶ変化を追った研究陣が導いた発見は「懸念は生涯を通じて打ち消せる」。幼少期の認知能力が低いと高齢期の認知能力が下がるとの疑いが強まる中で「私たちの研究では、この関係は信じられているほど決定論的ではない可能性がある。中年期の教育や働き方、余暇活動などで悪影響を相殺しているようだ」(英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの担当者)。

最新の研究は、認知症を防ぐには健康管理だけでは足りないと物語っている。数々の壁が進路を阻む社会や教育水準の低い国ではリスクが大きく、それを被る人々は見過ごされがちだ。社会の構造問題にもメスを入れる覚悟が必要になる。

(サイエンスエディター 加藤宏志)

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マスク氏率いる米新興、ヒトの脳に小型デバイス計画

マスク氏率いる米新興、ヒトの脳に小型デバイス計画
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN0128V0R01C22A2000000/

『2022年12月1日 17:30

【ラスベガス=白石武志】起業家のイーロン・マスク氏が率いる米新興のニューラリンクは11月30日、脳とコンピューターをつないで情報をやりとりする小型デバイスを半年以内にヒトに移植する臨床試験(治験)を始める計画を明らかにした。脳卒中の後遺症で体が不自由になった患者らが、装置を介してコミュニケーションすることなどを目指している。

ニューラリンクが開発中の技術は「ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)」と呼ばれる。専用ロボットでヒトの頭蓋骨の一部を切り取って硬貨ほどの大きさのデバイスを埋め込み、脳の信号を読み取って外部と無線通信することを目指している。

サルを使った実験では脳に埋め込んだデバイスを介して簡単なテレビゲームを操作することなどに成功したとしている。その後にサルが死んだことが判明して動物愛護団体などから批判を浴びた。ヒトへの治験開始に向けた米食品医薬品局(FDA)との協議は順調に進んでいると説明している。

ニューラリンクでは脳のほかにも、脊髄などに埋め込むデバイスの開発を進めていることも明らかにした。30日にオンラインで開いた技術説明会に登壇したマスク氏は「脊髄を損傷した患者が全身の機能を回復することも可能だと確信している」と述べた。

BMIは大学などを中心に長年研究が続けられてきた分野だが、マスク氏が2016年にニューラリンクを設立して本格参入したことで後を追う企業が相次いでいる。ベンチャーキャピタル(VC)などからの投資も拡大し、実用化に向けた開発が加速している。

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ニューズレター
多様な観点からニュースを考える

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最相葉月
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別の視点

脊髄損傷からパーキンソン病、認知症、自閉症、精神疾患まで、彼らがターゲットとする病はとても幅広いです。ロボット手術で開頭してデバイスを埋め込むわけですから様々なリスクが想定されますが、早晩、被験者は現れるでしょう。医療は、同じ病や障害に苦しむ人のためには自らを差し出すこともいとわないという患者たちの勇気と自己犠牲の精神によって進歩してきました。このデバイスを埋め込んだ人が会社で働いたり、パラリンピックで活躍したりする日もくるでしょう。
2022年12月1日 20:59

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竹内薫
サイエンスライター
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分析・考察

「脊髄を損傷した患者が全身の機能を回復することも可能だと確信している」。これが実現できれば、まさに夢の技術といえるでしょう。ブレイン・マシン・インターフェースは、われわれホモ・サピエンスの「生き物としてのデジタル化」において、きわめて大きな役割を担うと考えています。マスク氏は常に話題を集めるとともに、その分野に大きな投資を呼び込むことができるので、研究開発が一気に進む可能性があります。
2022年12月1日 19:24

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岡島礼奈
ALE 代表取締役CEO
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別の視点

ちょうどこの中継を見ていたのだけれど、イーロン・マスクが、
”Prototype is easy, production is hard.”といっていたのがとても印象的であった。
月に行くというアイディアは簡単なんだけど、実際に月に行くのは難しい、とも続けていた。テスラ・SpaceXを手掛けるイーロンの言葉が身に染みた会見であった。

ちなみにこのデバイスはロボット手術により自動で埋め込まれるらしい。そしてそれにかかる時間がたったの15分とのこと。まだこれに手を出す勇気は出ない、、
2022年12月2日 23:59

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蛯原健
リブライトパートナーズ 代表パートナー
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分析・考察

BMI、ブレインマシンインターフェイスは日本も含めて永らく研究が進んでおり特に医療向け用途のそれが顕著であるが、その殆どはいわゆる非侵襲タイプ、つまり頭皮などに何らかのデバイスを接触させて脳内の電極を読み取り出力デバイスに活かすものである。本件はいわゆる侵襲タイプ、つまり脳みそ直付けで接触するものでありそのタイプにおいては世界最先端を走っており人体での本格的治験は世界初だろう。但しサルにおける実験も一定の成果を見たものの結果としては成功したとは言い難く、仮に人体実験に進んだとて実用化までには今後年、十年単位のロングランゲームとなるだろう。
2022年12月1日 18:57』

温暖化より怖い寒冷化

温暖化より怖い寒冷化 低下続く太陽活動と異常気象の気になる関係 長辻象平
https://www.sankei.com/article/20190522-MJ5Y5A6TG5PV5MB6JCOU2ZATA4/

 ※ 今日は、こんな所で…。

『2019/5/22 08:45

近年、地球規模で続発する異常気象が気にかかる。

 温暖化防止を目指すパリ協定開始が迫る中、今冬の米国は大寒波に見舞われた。昨冬の北陸地方の豪雪では福井県内で大量の車が立ち往生している。

 昨夏は国内で40度超の猛暑が続くなどして熱中症での搬送が過去最多を記録。大型台風も相次ぎ、西日本豪雨では多くの命が奪われた。炎暑は海外でも発生し、カナダやインド、ギリシャなどを熱波が襲った。

 そのギリシャには今年1月、氷点下23度の寒波が押し寄せ、アテネに雪が積もった。
 地球の寒暑が、両極端に向けて暴走している印象だ。

 ◆増加続く二酸化炭素

 異常気象の背景には、二酸化炭素に代表される温室効果ガスの増加があるとするのが、科学界の大勢だ。国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」がこの立場だ。
 大気中の二酸化炭素は20世紀を通じて増え続け、1960年ごろに315ppmだった濃度が今では400ppmを超えている。

 二酸化炭素には毛布のように地球を保温する力がある。

 世界の平均気温は100年間で0・7度ほど高くなっており、二酸化炭素などの増加が原因と説明されている。

 ◆200年ぶりの低下

 その一方で、太陽の活動は、この30年ほど低下中。1800年ごろ以来の異変だ。

 と言っても、太陽から地球に届く光のエネルギー量は、この間も安定していて変わっていない。変化が確認されているのは太陽表面の黒点数だ。

 中心部で核融合反応が進む太陽は、磁場の星。その磁力線が太陽表面を貫いている場所が黒点なのだ。だから、黒点数は太陽の活動度の「表示目盛り」となる。多いほど活発だ。』

『黒点数には、約11年周期(サイクル)で増減を繰り返すという性質があるのだが、問題はその様子をグラフに描いたときの各サイクルの頂点が次第に低くなってきていることだ。

 1980年ごろにピークを迎えたサイクル21に比べてサイクル22のピークは低かった。そうした低下がサイクル23、24と連続して起きている。

 現在は、サイクル24の終盤期。2020年ごろから始まる次のサイクル25の規模が気がかりだ。

 ◆次周期も低調の予測

 「私たちの研究チームの解析からは、サイクル25での太陽活動は、サイクル24と同程度か、さらに弱くなる可能性が高いという結果が得られています」

 名古屋大学宇宙地球環境研究所の今田晋亮講師が教えてくれた。2025年ごろにピークを迎えるサイクル25でも黒点数の回復は望めないのだ。

 今田さんらは、太陽表面での磁場の輸送をコンピューターシミュレーションすることなどで次周期の太陽活動度の早期予測を可能にしている。

 4月には米海洋大気局(NOAA)などの太陽研究グループも同様の予測を表明した。

 ◆70年代には寒冷化論

 ピーク黒点数の減少で気になるのは、1645年からの70年間と19世紀初頭など、過去の太陽活動不活発期の気候は、いずれも寒冷であったことだ。

 団塊の世代以上の人なら覚えているはずだが、1960~70年代にも豪雨や気温低下などの異常気象が続き、世界中で地球寒冷化が心配されていた。

 1970年ごろにピークを迎えたサイクル20の黒点数は、サイクル19から一気に半減していたのだ。だが、サイクル21で黒点数は復活。それとともに80年代後半には気候に対する危惧も地球温暖化へと一変した。』

『◆多様な視点が必要だ

 太陽活動の低下による寒冷化と二酸化炭素による温暖化。両者のせめぎ合いが当今の気候のような気がしてならない。

 IPCCなどは地球に注ぐ太陽の光エネルギーが一定なことを理由に、気候変動に及ぼす太陽の影響を軽視しているが、それでよいのか大いに疑問だ。

 黒点の観測が始まった17世紀以降の歴史記録は、地球の寒冷期と黒点減少期の見事な一致を示しているではないか。

 平安時代は温暖だったが、そのころ二酸化炭素を排出する産業が活発だったのか。

 気温が上昇した20世紀は大気中の二酸化炭素濃度が増加した時代だったが、全般的に太陽活動が活発な時期でもあった。

 今のように太陽磁場が弱まると地球に注ぐ宇宙線が増加し、その作用で雲が増えて気温が下がったり、豪雨を促進したりするという研究報告もある。

 二酸化炭素のみしか見ない気候変動対策では、天に唾する結果にもなりかねないと思うのだが…。気候変動は温暖化よりも寒冷化の方がはるかに怖い。』

人は一日に体内からどれくらい水分を失う? 初の正確な計算式

人は一日に体内からどれくらい水分を失う? 初の正確な計算式
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221125/k10013902711000.html

 ※ 今日は、こんな所で…。

『人は一日に体内からどれくらいの水分を失うのか、正確に予測できる計算式を日本の研究者らが初めて導き出しました。

(計算式は記事の最後に詳しく掲載しています)

成人は一日で体内の水分のおよそ10%を失いますが、式を使うと年齢や体重、気候など条件ごとに失う量を算出でき、災害時に地域で必要な飲料水の量を割り出すことなどにも使えるとしています。

計算式は、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所の山田陽介室長らがアメリカやイギリス、オランダなどの研究者と共同で、科学雑誌「サイエンス」に発表しました。
グループでは、水分中にわずかに含まれる質量が大きい水の動きを解析する手法で、欧米やアジアなど23か国のおよそ5600人について、体内での水の出はいりの量を割り出しました。

その結果、一日に失われる水の量は成人では

▽男性で20歳から35歳だと平均4.2リットル、
▽女性では30歳から60歳で3.3リットルだったほか、

高齢だと少なく、気候や地域の標高などによっても変動したということです。

これをもとにグループは体重や年齢、地域の平均気温や標高などを入力すれば、それぞれの人で体内から一日、どのくらいの量の水が失われるか予測できる計算式を初めて導き出しました。

これまで失われる水の量を正確に把握するのは難しかったということですが、式を使うと
▽大規模な災害時に地域ごとに最低限必要な水の量や
▽気候変動で起きる水不足の程度などを割り出すことができるとしています。

山田室長は「一日に失う水の量が健康に関連していることもわかってきている。式を使うことで、病気の予防などにもつながることが期待できる」と話しています。

これがその計算式

研究グループが導き出した、体内から一日に失われる水の量(水の代謝回転)を予測できる計算式は以下のとおりです。

体内から一日に失われる水の量(ml/日)=[1076×身体活動レベル(※1)]+[14.34×体重(kg)]+[374.9×性別(※2)]+[5.823×1日の平均湿度(%)]+[1070×アスリートか否か(※3)]+[104.6×人間開発指数(※4)]+[0.4726×標高(m)]-[0.3529×年齢(歳)の2乗]+[24.78×年齢(歳)]+[1.865×平均気温(℃)の2乗]-[19.66×平均気温(℃)]-713.1

(※1 身体活動レベル)
座る生活が中心の場合は「1.5」、平均的な場合は「1.75」、高い場合は「2.0」
(※2 性別)
女性の場合は「0」、男性の場合は「1」
(※3 アスリートか否か)

アスリートでない場合は「0」、アスリートの場合は「1」
(※4 人間開発指数(HDI)
国の豊かさをはかる社会経済指標の1つ)先進国の場合は「0」、中間的な国の場合は「1」、発展途上国の場合は「2」 』

Theranos

Theranos
https://ja.wikipedia.org/wiki/Theranos

『セラノス(英: Theranos)は、血液検査を手がけていたアメリカ合衆国カリフォルニア州の企業。2018年9月に解散を決定した[3]。 』

『概要

スタンフォード大学の化学工学科の2年生だったエリザベス・ホームズは、2003年に大学を中退、「少量の血液で200種類以上の血液検査を迅速かつ安価に出来る」というふれ込みで、医療ベンチャー企業『Theranos』を創業した[4]。

2014年6月に約3億5千万ドル(約380億円)を調達したことでTheranosの時価総額は約800億ドル(約9000億円)になったとされ、株式の過半を所有するホームズは「自力でビリオネアになった最年少の女性」として話題になった[5]。オラクルのラリー・エリソンも投資しており、社外取締役にはジョージ・シュルツ元国務長官を始め、ウィリアム・ペリー元国防長官、ヘンリー・キッシンジャー元国務長官等、錚々たる面々が揃っていた[5]。Appleの影響を多分に受けた同社は徹底した秘密主義で、全ての決済権はホームズが握っていた[6]。

事業内容は、被験者の指先から採取した少量の血液を診断センターに輸送し、「エジソン」という自社開発の診断器を使って迅速に検査結果を出すというもので、1滴の血液で30種類の検査項目を実施できるという。大手ドラッグストア・チェーンであるウォルグリーンの、全米数十カ所の店舗に血液採取センターを設置していた[5]。

しかし、2015年にウォール・ストリート・ジャーナルが、Theranosによる血液検査の信憑性に疑問を投げかける記事を掲載してから、投資家の評価は下がり[5]、さらにTheranosの年商が1億ドル(約110億円)に達していないことが、フォーブスの調査で明らかになった[7]。

2016年夏に、医療保険当局によって臨床検査の免許を取り消され、2016年10月5日、3カ所の検査施設を閉鎖すると共に、従業員のおよそ40%に当たる340人を解雇すると発表した[8]。

2017年、2年間にわたる臨床検査ラボの運営停止を受け入れて、連邦機関のメディケア&メディケイド・サービスセンター(CMS)と和解。今後は自社で検査ラボを運営するのではなく、小型検査機器「ミニラボ」を医師や病院に売るとしている[9]。

2018年4月、従業員125人の内、新たに100人を解雇[1]。

2018年6月、連邦検察は、創業者で最高経営責任者だったエリザベス・ホームズと、元ナンバー2でホームズと恋人関係にあった最高執行責任者のサニー・バルワニを、詐欺罪で起訴[10]。

2018年9月、株主に対して会社の解散をメールで通知。残った資金は同日から数ヵ月以内に債権者に対して返済される予定[3]。

2022年1月3日、カリフォルニア州サンノゼの裁判所の陪席は、エリザベス・ホームズに対し、投資家に対する詐欺罪と通信詐欺罪3件の計4件について有罪評決を出した[11]。
主な株主

2018年5月に開示された資料によると、Theranosが集めた投資総額は6億8630万ドル。この投資で100万ドル以上を失った人物は、最低でも10名に上るとしている[12]。

名称 出資額 出資時期

ウォルトン家 1億5000万ドル 2014年
ルパート・マードック 1億2500万ドル 不明
ベッツィ・デヴォス 1億ドル 2013年 – 2015年
コックス家 1億ドル 不明
カルロス・スリム 3000万ドル 不明
オッペンハイマー家 2000万ドル 不明
ライリー・ベクトル 600万ドル 不明

関連項目

Quest Diagnostics
LabCorp
i-Stat 』

電磁パルスによる被害の仕組み・原理と対策

電磁パルスとは?HEMPなど電磁パルスによる被害の仕組み・原理と対策
https://www.rd.ntt/se/media/article/0036.html

 ※ 今日は、こんなところで…。

『電磁パルス(EMP)とは、電子機器を損傷・破壊する、強力なパルス状の電磁波です。大規模な太陽フレアにより発生するほか、電磁パルス爆弾や、上空30km~400kmの高高度での核爆発による発生が現実的な脅威となっています。この記事では、電磁パルスによる被害の仕組みや原理、技術的な対策などを解説します。

目次

電磁パルスとは
EMPの種類と特性
EMPの影響
EMPへの技術面での対策
まとめ

電磁パルス(EMP)とは、強力なパルス状の電磁波であり、電子機器を損傷・破壊し、電子機器を使用した通信・電力などの重要インフラを使用不能にする可能性があるものです。
大規模な太陽フレアにより発生するほか、昨今の国際情勢の悪化により、電磁パルス爆弾や、上空30km~400kmの高高度での核爆発による発生が現実的な脅威となっており、対策が求められています。
この記事では、電磁パルスによる被害の仕組みや原理、想定される被害、技術的な対策について詳しく解説していきます。

  1. 電磁パルスとは

電磁パルス(EMP: ElectroMagnetic Pulse)とは、強力なパルス状の電磁波です。大規模な太陽フレアに伴って発生するほか、上空30km~400kmの高高度での核爆発や高強度電磁界(HPEM: High-Power Electro-Magnetics)発生器などにより人為的に発生させることも可能です。いずれも人体に直接の影響はないものの、電子機器を損傷・破壊し、電子機器を使用した通信や電力、ガス、上下水道、交通などのインフラに障害を生じさせます。
1859年には大規模な太陽フレアの発生により、カナダのケベック州全体で9時間もの停電が起きました。また、昨今の国際情勢の悪化に伴い、HPEM発生器や「高高度核爆発電磁パルス」(HEMP: High altitude ElectroMagnetic Pulse)による攻撃が現実的な脅威となっており、対策が求められています。

現状ではほとんどの電子機器が、太陽フレアによる磁気嵐被害やHPEM発生器、HEMPによる攻撃を想定せずに作製されています。そのため、仮にこれらの被害や攻撃を受けた場合は壊滅的な打撃を受け、復旧までに数か月~数年かかるともいわれています。

  1. EMPの種類と特性

次に、EMPの種類と特性を、太陽フレア、HEMP、HPEMのそれぞれについて見ていきましょう。

2-1. 太陽フレア

太陽フレアとは太陽表面の大爆発で、大きな黒点の周りで発生します。黒点の磁場が変化する際、そのエネルギーがまわりのガスに伝わって起こると考えられており、電波やX線、および電子や陽子などの電荷を帯びた素粒子が飛び出してきます。
太陽フレアによって引き起こされる電磁パルスはkHz以下の低周波数帯のもので、短いときは数分間、長いものでは数時間にわたって続きます。この電磁パルスによって地球の磁場の振動や動揺が引き起こされ、高圧送電線などの非常に長い伝導体に大電流が発生します。

2-2. HEMP

HEMPは以下のように、初期HEMP(E1)、中間期HEMP(E2)、終期HEMP(E3)の3種類の電磁パルスを発生します。

  1. E1

E1はHEMPの最初に発生する強力なパルス状の電磁波です。核爆発によって放出されたガンマ線が大気中の分子(窒素や酸素など)に衝突すると、そのエネルギーにより分子中の電子がはじき出されます。はじき出された無数の電子により、数ナノ秒で数万ボルト毎メートルに達する強力なEMPが発生し、地上に到達します。
周波数はMHz以上の高周波数帯となり、爆発地点から見通せる範囲の電気器具や電子機器、あるいはそれらを使用したシステムに電磁波として直接侵入するほか、電話線や電線経由でも侵入します。

  1. E2

E2は核爆発のガンマ線によって発生します。E1の次に地上に到達し、kHz~MHzの中周波数帯の電磁パルスが数ミリ秒間(1,000分の数秒)継続します。電話線や電線経由で電子機器に入り込み、E1が破壊した箇所を中心にさらなる損傷や破壊を引き起こします。

  1. E3

E3は核爆発で発生する火球によって引き起こされます。太陽フレアと同程度の低周波数帯(kHz以下)の電磁パルスで、やはり高圧送電線などに大電流を発生させます。

2-3. HPEM

HPEM発生器はバッテリーの電力や化学反応、爆発などにより、高周波数帯(MHz以上)のEMPを発生します。HEMPのように数千kmの範囲ではなく、数十m~数百mの近距離での電子機器の破壊や機能停止を目的とした装置です。

  1. EMPの影響

EMPは実際にどのような影響をおよぼすのでしょうか? EMPにより機器が破壊されるメカニズム、および発生する社会的被害を見てみましょう。

3-1. EMPにより機器が破壊されるメカニズム

高周波数帯、中周波数帯、低周波数帯のEMPが機器を破壊するメカニズムはそれぞれ次のとおりです。

  1. 高周波数帯のもの

高周波数帯のEMPは、数十センチ程度の短いケーブルにも侵入し、高電圧を発生させることが特徴です。発生した高電圧は電子デバイスや部品などを耐性許容限度以上の電圧がかかる「過電圧状態」にし、絶縁破壊・短絡させて故障させます。

  1. 中周波数帯のもの

中周波数帯のEMPは、電線や電話線など数十メートル以上のケーブルに侵入して高電圧を発生します。それにより、これらケーブルに接続された電子機器を過電圧状態にし、絶縁破壊・短絡させて故障させます。
E2の場合にはE1に続いて地上に到達するため、E1で破壊されなかった電子機器も破壊されることになり、電子機器を使用したインフラなどのシステムはさらなる回復不能状態に陥ります。

  1. 低周波数帯のもの

低周波数帯のEMPは、長大な送電線など数十メートル以上のケーブルに高電圧や大電流を発生させます。電流の大きさは送電線の長さに比例するため、非常に長い送電線では1,000アンペア以上にもなるといわれます。

この大電圧や大電流は変電設備などの故障を引き起こすため、広域での停電が発生する可能性があります。

3-2. EMPにより発生する社会的被害

HEMP、HPEM発生器および太陽フレアにより発生する被害はそれぞれ以下のとおりです。

  1. HEMPによる被害

HEMPによる被害は、以下のように甚大なものが想定されています。

(1)被害の範囲

HEMPの被害を受ける地表の範囲は、下表のように、爆発の高度が高くなるほど広くなります。

爆発高度 被害範囲(半径)

30km 602km
100km 1,100km
200km 1,556km
300km 1,905km
400km 2,200km

(参考:CISTEC Journal 『高高度電磁パルス(HEMP)攻撃の脅威 ―喫緊の課題として対応が必要―』HEMPによる被害状況より作成。HEMPの爆発高度と被害を受ける地表の範囲)

上の表によれば、北端から南端までの直線距離が約1,200kmとなる日本の本州は、爆心高度100kmで被害範囲としてほぼ覆われてしまうことがわかります。

(2)想定される被害状況

米国の国土安全保障調査会が描き、米国議会EMP議員団(Congressional EMP Caucus)が認定したシナリオによれば、10ktの核爆弾がニューヨーク真北上空135kmで爆発した際に発生するHEMPの被害状況は、下表のとおりとされています。

項目 被害規模
死傷者 数百万人(復旧長期化の結果として)

インフラ被害 米国東部の全域
停電地帯からの
避難民数 数百万人
汚染状況 米国東部全体、おそらく64平方km以上にわたって数州に散在する原子炉、工場、製油所、パイプライン、燃料貯蓄所、その他工業施設の、火災や爆発などによる放射能と化学物質の脅威

経済的な影響 数兆米ドル
復旧予定期間 数年

※ HEMPは人体には直接の影響を与えないとされます。死傷者数や経済的影響は、復旧長期化の影響(食糧不足や病気、インフラ再建のための費用など)によるものです。
(図表出典:CISTEC Journal『高高度電磁パルス(HEMP)攻撃の脅威 ―喫緊の課題として対応が必要― HEMPによる被害状況』)

(3)想定される事態

HEMPによる攻撃を受けた場合、次のような事態が発生するといわれています。
まず、発電所や送電システムなどの電力供給インフラが損傷・破壊されます。使用されている電子機器の電子素子や部品、あるいは変圧器などは、高電圧がかかることで物理的に壊れます。

また、情報・通信システム、鉄道・航空・船舶・バスなどの運輸・輸送システム、金融・銀行システム、医療システム、上下水道システム、建造物・施設の維持管理システム(電気、上下水道、エレベーターなど)など、電力を使用するその他のインフラも損傷・破壊されます。

すなわち、以下のシステムも使用不能になると予想されているのです。

政府・各省庁・自治体などの管理業務用システム
企業の各種業務処理用システム
自衛隊の指揮・統制・運用システム
警察などの犯罪捜査システム
出入国管理システム

国や自治体、企業など、すべての活動が麻痺し、大混乱に陥る可能性があるというわけです。

さらには、原子力発電所が送電線からの外部電源を利用し、内部の非常用電源や発電機などを利用できない場合には、福島原発事故のような事態に陥る可能性があるといわれています。

  1. HPEM発生器による被害

これまで、高出力な電磁パルスを発生する種々の試験装置が開発されてきました。また、試験装置に限らず、レーダなども高出力な電磁パルスを発生させることがあります。
レーダによる被害の事例として、サンディエゴ水道事業で使用されている自動制御システムが、船舶レーダの影響で誤作動し、断水故障が発生したことがあります。

  1. 太陽フレアによる被害

記録に残るなかで最大の太陽フレアは1859年に発生したものだといわれています。その際には欧米で、電信機などの火花放電による火災が多発しました。
当時と比べてさらに大幅に電気に頼っている現在で同じ規模の太陽フレアが発生すると、1兆~2兆ドルの損害が発生し、復旧に4~10年ほどかかるとの試算もあります。

また、前述した1989年に発生した太陽フレアでは、カナダ・ケベック州で発生した9時間にもおよぶ大停電の影響を600万人が被りました。経済的損失は100億円超と見られています。

2003年の10月~11月にかけても太陽フレアによる大規模な磁気嵐が発生し、日本の科学衛星を含む宇宙機の約59%が影響を受け、約24%のミッションが安全策を取ったこともあります。

  1. EMPへの技術面での対策

EMPへの対策は、技術的な取組みが進んでいます。ここでは、そのなかから通信装置のHEMP対策、および太陽フレアやHEMPの影響を考慮した次世代エネルギー供給技術を見てみましょう。

4-1. 通信装置のHEMP対策

HEMPに対する技術的な取組みは、1990年代から国際電気標準会議(IEC)や国際電気通信連合(ITU)などの国際機関や組織が中心となって進められており、IEC、ITUのそれぞれが電子機器や通信装置のHEMP対策に関する標準・規格をまとめています。

2009年には、通信センタやデータセンタの機器をHEMPから防護する指針として、ITU-T勧告K.78「HEMPに対する通信装置の耐力要件」が制定されました。この規格では、高度数十kmで核爆発が起きた場合を想定し、通信装置に対するHEMPの7種類の侵入形態ごとに、通信装置に要求される耐力が規定されています。

ただし、装置に要求される耐力は、装置が実際に設置される環境(建物の構造や雷害対策の有無など)によっても変わってきます。そのため、標準工法や過去の電磁波測定結果などを参考に、装置設置環境の耐力評価が行われています。

また、装置の耐力を測定するにあたっては、HEMPを模した電磁パルスの装置への印加が必要です。強力な模擬電磁パルスをどのように発生させるか、あるいはどのように装置に印加するかが研究課題となっています。

4-2. 次世代エネルギー供給技術

太陽フレアによる宇宙線やHEMPによる電磁パルスの影響により想定される、電子機器や電力供給機器の破損や停止、誤作動などのリスクに備えるため、さまざまな事象の影響があっても電力供給が途絶えない、次世代エネルギー供給システムの研究が進んでいます。

次世代エネルギー供給システムでは、直流380Vの高電圧直流給電システムが導入された地域の拠点となり得るビルと、周辺地域の複数の発電装置や、定置・車載の蓄電池、および電力の需要家とを直流の電力網で結びます。直流給電システムは交流給電システムと比較して、直流で動作するITC機器などに変換なしで電力を供給でき、またバックアップ用の蓄電池も直流のメイン配線に直結するため、変換ロスの少ない高効率なシステムといえます。

太陽フレアやHEMPの影響を受けた際には、交流給電システムの場合には、交流システムに必要な同期制御を行うソフトウェアがエラーを起こし、同期が外れて電力供給が途絶えるリスクがあります。それに対して直流システムでは、同期制御の必要がないこと、および直流メイン配線に蓄電池が直結していることにより、電力供給の途絶リスクが低減します。

この、直流システムであることが、次世代エネルギー供給技術が太陽フレアやHEMPなどに強い理由といえます。

直流電力網は、災害時に電力会社からの電力供給が途絶えても、周辺地域の再生可能エネルギーや蓄電池を組み合わせることにより、電力の融通が可能です。また、通常時に周辺地域の再生可能エネルギーが余剰となれば、拠点ビルの蓄電池に効率よく蓄えることも可能となります。

  1. まとめ 電磁パルス(EMP)は電子機器を損傷・破壊し、電子機器を使用した通信や電力、ガス、上下水道、交通などのインフラに障害を生じさせる。 EMPは太陽フレアや高強度電磁界(HPEM)発生器、高高度核爆発などにより発生する。
    EMPには高周波数帯(MHz以上)、中周波数帯(kHz~MHz)、低周波数帯(kHz以下)と大きく3種類ある。 高周波数帯のEMPは数十センチ程度の短いケーブルから、中周波数帯のEMPは電線や電話線などから侵入し、電子機器を過電圧状態にして故障させる。 低周波数帯のEMPは送電線に大電流を発生させ、変電設備を故障させることにより広域での停電を引き起こす可能性がある。 EMPの発生により大きな社会的被害が発生する可能性がある。 通信装置のHEMP対策や次世代エネルギー供給システムなど、大規模なEMPに対する技術的な対策も進められている。

参考文献

CISTEC Journal『高高度電磁パルス(HEMP)攻撃の脅威 ―喫緊の課題として対応が必要―』鬼塚隆志 著
NTT技術ジャーナル『環境負荷ゼロの実現に向けた、エネルギー流通基盤技術』
国立研究開発法人 科学技術振興機構 研究開発戦略センター『電磁パルスに対するレジリエンスの向上のための研究開発の必要性』
富永哲欣『高硬度電磁パルスと高出力電磁界』電学誌、138巻10号、2018年

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宇宙線・電磁パルス対策・評価技術』

ネアンデルタールが歴史から消えた原因は?

北の国から猫と二人で想う事 livedoor版:ネアンデルタールが歴史から消えた原因は?
https://nappi11.livedoor.blog/archives/5385015.html

『約4万年前まで存在していた旧人類、ネアンデルタール人が絶滅した理由は諸説あるが、新たな研究によると、現生人類であるホモ・サピエンスと争いを繰り返していたわけではなく、性交するようになったことで滅んだ可能性があるという。

アフリカを除き、現代人のゲノム:独: Genom、英: genome, ジーノーム(DNA:デオキシリボ核酸 の文字列に残された遺伝情報、遺伝子記録 Genetic Records すべてを意味する)の約2%は実はネアンデルタール人のものだ。

それと対照的に、ネアンデルタール人の体でホモ・サピエンス現生人類の遺伝子は見つかっていない。

『PalaeoAnthropology』(2022年10月27日付)に掲載された研究論文によると、ネアンデルタール人は我々の祖先と性交することで、ただでさえ少なかった人口が減り、ついには絶滅してしまった可能性があるそうだ。  

ロンドン自然史博物館人類進化研究センターのクリス・ストリンガー教授は、「ホモ・サピエンスとネアンデルタール人の交流については、ここ数年でより複雑な状況が明らかになっています」と語り、ネアンデルタール人neanderthalensisがホモ・サピエンスHomo sapiensと定期的に性交していたなら、それによって人口が侵食され、絶滅にいたったのではと考えているという。

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6500万年前(白亜紀)、霊長類(サル目)が誕生し、およそ200万年前に人属(原人・ホモ・エレクトス:Homo erectus)が現れた。

その後、我々現生人類の先祖であるホモ・サピエンスはアフリカで進化し、 ネアンデルタール人とホモ・サピエンスは、約60万年前に共通の祖先から分岐して、それぞれ別の地域で進化してきたとされている。

ネアンデルタール人の化石はヨーロッパとアジアで発見され、遠くは南シベリアでも見つかっている。

彼らは少なくとも40万年そうした地域で過ごし、現在よりもずっと涼しい気候に適応してきたと考えられている。

人類の起源は、大きく二つの流れを辿(たど)り、アフリカ南部で生き残ったネアンデルタールと現生人類ホモサピエンスが出会って混雑、拡散し、その人種が現生人類の先祖とされるとの説が有力だ。

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ホモ・サピエンスが、かつてアフリカに存在した古いヒト科の祖先の直接の子孫なのか、それともアフリカ大陸で暮らしていた異なる集団が交雑して生まれた結果なのかどうか、今のところ不明だが、遺伝子のデータによるならば、約25万年前にホモ・サピエンスがアフリカから進出し始めたときに、ネアンデルタール人と初めて出会ったらしいことがわかっている。

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異なる両者の出会いが、やがて肉体関係を持つようになるまでの経緯は謎だが、それでもホモ・サピエンスがネアンデルタール人と子供を作ったことは、ネアルンデルタール人のゲノムが初めて解読されたときから知られている。

だが、両者が急接近したのは、最初の出会いからいきなりだったわけではない。むしろ約6万年前、私たちの祖先がより大規模な移住をするようになってからのことだ。

ネアンデルタール人の遺伝子を受け継いだ現生人類:ホモサピエンスであっても、ネアンデルタール人のミトコンドリアDNA(母からしか受け継がれない)は持っていない。

このことは、ネアンデルタール人の男性とホモ・サピエンスの女性とでしか子供を作れなかったということかもしれない。

だが両種が交わった結果生まれた男子は、女子よりも繁殖力が弱かったことをうかがわせる証拠もあるため、本当のところははっきりしない。

show-photo

ストリンガー教授(Chris Stringer:Centre for Human Evolution Research)らは、ネアンデルタール人はホモ・サピエンスと子供を作るようになったことで徐々に人口を減らし、くわえて環境が要因ですでに人口が少なく分散していたことも相まって、やがて衰退していったのではと推測している。

ただし現時点では、はっきりと結論を出せるだけの証拠はない。まだ、たくさんある仮説のなかの1つにすぎないのだ。

参照記事 参照記事 参照記事 過去ブログ:2022年10月ポーランドで中期更新世期の石器発見 2022年10月ノーベル生理学・医学賞のスバンテ・ペーボ博士と日本人 参考:アフリカを出た人類、どう全世界に広がったのか ホモ・サピエンスの旅路が見えてきた』

量子コンピューターに革新 ノーベル賞技術の先駆者挑む

量子コンピューターに革新 ノーベル賞技術の先駆者挑む
編集委員 吉川和輝
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD316GJ0R31C22A0000000/

『今年のノーベル物理学賞は欧米の量子情報科学の研究者3人に授与される。その1人、アントン・ツァイリンガー博士(オーストリア)の業績は、光の粒(光子)の状態を離れた場所に移す「量子テレポーテーション」の実験に成功したことだ。この分野で世界的な成果をあげてきたのが古沢明東京大学教授。今、量子テレポーテーションを駆使した独自方式の光量子コンピューターの開発にまい進し、他の量子マシンの斜め上を行く「スーパー量子コンピューター」を目指す。

量子テレポーテーションの研究でノーベル物理学賞を受賞するアントン・ツァイリンガー氏(10月、ウィーン)=ロイター

「テレポーテーション」というとSFに登場する「瞬間移動」を連想する。電子や光子といったミクロなものを扱う量子力学の世界では「量子もつれ」という状態にある2つの粒子は、観測するまで状態が定まっていないが、一方を観測すると同時にもう一方の状態が確定する。離れた場所にある光子が量子もつれを起こしていることを示し、量子力学の正しさを実証したのが1997年のツァイリンガー氏の実験だった。

完全な量子テレポーテーションに成功

ツァイリンガー氏の実験が、転送後の測定操作が必要な「条件付き」の量子テレポーテーションだったのに対し、古沢氏は米国留学中の98年に「条件なし」の量子テレポーテーションに世界で初めて成功。2013年には量子コンピューターで扱う情報の基本単位である「量子ビット」を完全な形でテレポーテーションした。

古沢氏が量子ビットの完全な量子テレポーテーションを達成した2013年当時の東京大学の実験装置。こうした複雑な装置を大幅にコンパクト化する技術にメドをつけている=東京大学提供

ツァイリンガー氏の成果が今の量子暗号技術などにつながっているのに対し、古沢氏による完全な形での量子テレポーテーションは量子コンピューターの基本技術になっているとされる。ツァイリンガー氏の受賞で、古沢氏はノーベル賞を惜しくも逃したという見方も出たが、古沢氏は10月末開いた記者会見でこれを否定してみせた。
ノーベル賞で関心高く

今回の授賞は「条件付きの量子テレポーテーションに限定されたものだった」(古沢氏)というのが理由だ。授賞理由も古沢氏らの研究には言及しておらず、ノーベル委員会は古沢氏の研究を「別個の業績」とみなしている可能性がある。古沢氏は「これまでノーベル賞を意識したことはなかったが、むしろ(次の)受賞が近づいてきたようだ」と述べた。
ノーベル物理学賞を(スクリーン左から)アラン・アスペ、ジョン・クラウザー、アントン・ツァイリンガーの3氏に授与すると発表した記者会見=10月4日、ストックホルム=スウェーデン通信提供・AP

古沢氏は自らが切り開いた量子テレポーテーションを駆使して新方式の光量子コンピューターをつくろうとしている。2021年からは理化学研究所・量子コンピュータ研究センターの副センター長を兼任。中村泰信センター長が取り組む超電導型・量子コンピューターなどと並んで研究開発を進める。実機完成の目標は2030年だ。

量子コンピューターの開発は、量子ビット実装の違いによって米IBMなども採用する「超電導」、欧米のスタートアップが主導する「イオントラップ」、大森賢治・分子科学研究所教授らが手掛ける「冷却原子」など複数の技術候補がひしめいている。

古沢氏の光量子コンピューターがこれらと異なるのは、超電導回路などを用いる「静止した」量子ビットではなく、飛んでくる光パルスを測定し、その結果に基づいて量子もつれ状態にある次の光パルスに操作を加える「測定誘起型」と呼ばれる技術を使っていることだ。

ゲームチェンジ狙う

この方式だと量子ビットを常温で、しかも桁違いの規模で扱える。10月の記者会見で古沢氏は「量子ビットを100億近くの規模で使える技術を手にした」と説明した。今回NTTと共同で「量子光」と呼ばれる微細で特殊な光の波形を自在に作り出せる光源技術を開発。これを使うことで扱える量子ビットの数を増やせるという。

他方式での量子ビットの数は、超電導型で100を超えた程度。この規模では計算の誤り(エラー)が避けられないため、各方式とも今後より多くの量子ビットを実装することで誤り訂正ができるようにしようとしている。
理化学研究所(埼玉県和光市)に新設された研究室で実験装置を説明する古沢明氏

そのため超電導型の実用機で100万量子ビット程度必要とされる。急には実現できないため当面は「NISQ(ノイズのある中規模の量子コンピューター)」と呼ばれる誤り耐性のない量子コンピューターを、通常のコンピューターとハイブリッドで使う時代が続くとされる。これに対して古沢氏は「誤り耐性を持つマシンを最初から目指す」とし、この世界でのゲームチェンジを構想する。

古沢氏は記者会見で、光量子コンピューターでもあらゆるタイプの演算を実行できるメドがたっていることも明らかにし、実機開発への道具立てが整いつつあることを印象付けた。

古沢氏らの光量子コンピューターは、コンピューターの開発史上ユニークな位置を占める可能性がある。今のコンピューターや他の量子コンピューターと異なり、コンピューターチップや量子ビットの集積化を進める必要がないためだ。

「光コンピューター」実現へ膨らむ期待

情報処理を電気信号ではなく光によって行う「光コンピューター」が実現するとの期待も膨らむ。光コンピューターはチップの動作周波数を上げられるなどの期待から1980年代に盛んに研究されたがいまだに実用化していない。古沢氏によると「光を使うアナログコンピューターでは、実用的な誤り訂正の方法がなかったため開発が行き詰まった」という。それが量子技術を使って実現するシナリオが見えてきた。

古沢氏が描く万能型の超高速コンピューターの構想は「良いことずくめ」に聞こえなくもない。当面の課題である誤り訂正の実証など開発実績を積み上げていくことで、「ノーベル賞が近付いた」という自身の言葉は現実味を帯びてくる。

Nikkei Views
編集委員が日々のニュースを取り上げ、独自の切り口で分析します。

クリックすると「Nikkei Views」一覧へ

https://www.nikkei.com/opinion/nikkei-views/?n_cid=DSREA_nikkeiviews 』

Cordless Tesla (I Drive 1800 miles without charging)

Cordless Tesla (I Drive 1800 miles without charging)
https://www.youtube.com/watch?v=hHhf223jGIE

『I built the first ever Cordless Tesla and did a 1600 Mile Road Trip without ever charging the car.
It just made perfect sense to me to adapt a power plant generator to my modified Model S Tesla and do a road trip.』

【EV】米国YouTuber、「テスラ」にガソリンで動く発電機を搭載 航続距離を大幅に伸ばすことに成功 | 保守速報
view-source:https://hosyusokuhou.jp/archives/48935718.html

 ※ それをスマートに実現したのが、いわゆる一つの「ハイブリッド車」なんでは…。
 ※ トヨタのプリウスとか、日産のノートとか、「仕組み」がよく理解されてはいないんだな…。