米債務の政治対立、対中抑止に影 大統領が豪州訪問中止

米債務の政治対立、対中抑止に影 大統領が豪州訪問中止
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『【ワシントン=坂口幸裕】米連邦政府の債務上限引き上げを巡る与野党対立がバイデン大統領の首脳外交に波及した。主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)後に計画していたパプアニューギニア、オーストラリア訪問を中止した。中国としのぎを削るインド太平洋への関与を強める狙いだった訪問の延期は対中抑止に影を落とす。

バイデン氏は19〜21日に広島で開くG7広島サミット後にパプアと豪州を訪れる予定だった。米ホワイ…

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『米ホワイトハウスのジャンピエール大統領報道官は16日の声明で「G7サミット終了後の21日に米国に戻り、デフォルト(債務不履行)回避のために議会が行動を起こすよう議会指導者と会談する」と記した。

米財務省が資金繰りで行き詰まる可能性がある6月1日の「Xデー」が2週間ほどに迫る。デフォルトが現実になれば、金融市場の混乱を招くおそれが高まる。「米国経済は常に最優先事項」(米政府高官)との判断から、G7首脳らが集まる日本以外の2カ国に行くのを断念せざるを得なくなった。

米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は16日の記者会見で「ロシアや中国のような国は米国がデフォルトに陥るのを望んでおり、そうなれば米国が安定した信頼できるパートナーではないと指弾する」と話した。

2022年11月の中間選挙で連邦議会の上下両院の多数派が異なる「ねじれ議会」になったのに伴い、懸念された政策停滞が現実になってきた。米国が最重要課題に位置づけるインド太平洋地域での対中国抑止に向けた同盟・有志国との協力にも影響するおそれがある。

アメリカン・エンタープライズ研究所のザック・クーパー上級研究員は「米国内の政治問題がアジアへの関与を阻害しかねないと再確認させた」と指摘。訪問中止で「アジアにおける米国、バイデン政権の信用を傷つける」との見方を示す。

南太平洋は米中対立の最前線になっている。米大統領として初めて立ち寄る予定だったパプアで太平洋島しょ国への関与を打ち出し、同政府と防衛協力協定を締結する調整に入っていた。

パプア政府が許可する施設やエリアの使用を米軍に認める案も協議してきた。台湾周辺や南シナ海での中国との有事に備え、米国やオーストラリアの海上交通路(シーレーン)という地政学上の要衝である南太平洋の国との協力拡大に布石を打つ戦略だった。

中国は地域で活動範囲を広げ、グアムなどに基地を構える米軍に対抗しようともくろむ。22年4月に中国がソロモン諸島と安保協定を結び、米国の危機感は一気に高まった。焦る米国は23年初めにソロモンで大使館を30年ぶりに開設。5月にはトンガに設け、バヌアツやキリバスへの設置も決めた。

豪州では24日にシドニーで日米豪にインドを加えた4カ国の枠組み「Quad(クアッド)」の首脳会合を開く予定だった。米国はクアッドを中国に対抗する足場と位置づけ、国家安全保障戦略で「侵略抑止だけでなく国際秩序を強化する基盤だ」と定めた。

バイデン氏は16日、アルバニージー豪首相と協議して訪問を延期すると伝え、米国に国賓で招待する意向を示した。

バイデン氏の訪問中止をうけ、アルバニージー氏は17日、シドニーでのクアッド開催を中止すると発表した。「バイデン大統領はこんなことが起きなければと願ったはずだ」と理解を示しつつ「(中止は)明らかに米国民の利益にならない行動だが、米国は世界最大の経済大国として重要な役割を担っている」と述べた。

アルバニージー氏は労働党政権誕生から1年の節目に地元シドニーのオペラハウスでクアッドを初めて主催する予定だった。今後、19~21日に予定されている広島の主要7カ国首脳会議(G7サミット)で日米豪印の首脳が話し合う機会を設けることで調整していると明らかにした。

ホワイトハウスは「クアッドのようなパートナーシップの推進は引き続き重要な優先事項だ」と訴えたが、米国内の政治対立が中国に付け入る隙を与えかねない。』