トルコ決選投票、エルドアン氏有利か 極右票の行方カギ
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『【イスタンブール=木寺もも子】14日投開票のトルコ大統領選で、現職エルドアン大統領の票は過半数に及ばなかったものの、優勢を維持した。野党は大都市部で票を伸ばしたが、期待ほどの「反エルドアン票」は集められなかった。28日の決選投票はエルドアン氏有利との見方があり、野党は逆転に向けて新たな戦略を打ち出せるかが問われる。5%を獲得した極右候補の票の行方がカギを握る。
「14日に達成した成功をさらに大き…
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『「14日に達成した成功をさらに大きな勝利にする時だ」。16日、ツイッターに投稿したエルドアン氏は28日の決選投票に自信を示した。結果が確定する前の15日未明も、首都アンカラの与党本部前に集まった群衆に合わせて歌い出すほど上機嫌だった。
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14日の投票前に行われた世論調査はエルドアン氏の劣勢を示すものが大半で、一部では決選投票を待たずに野党候補クルチダルオール氏が勝利するとの観測もあった。だが、フタを開ければ得票率はエルドアン氏の49.5%に対し、クルチダルオール氏は44.9%で及ばなかった。
政治リスク調査会社ユーラシア・グループのエムレ・ペケル欧州部長は「世論調査には都市部の声が過大に反映され、民族主義者や宗教右派の声が拾いきれなかった可能性がある」と指摘する。同社は決選投票でエルドアン氏が当選する確率が8割とみる。
実際、前回の2018年選挙でエルドアン氏が50%以上を獲得した最大都市イスタンブールやアンカラでは今回、クルチダルオール氏が首位を取った。一方、保守的な中部の多くの県ではエルドアン氏が得票率を落としつつも首位を維持した。2月に起きた地震の被災地でも同様の傾向がみられた。
政教分離の世俗主義を掲げるクルチダルオール氏の野党に対し、エルドアン氏はイスラム教の価値観を重視する。かつて公共の場で禁止されていたスカーフの着用を認めたのもエルドアン氏で、保守的なイスラム教徒の支持は根強い。
「娘はかつらで大学に通い、私は卒業式にも行けなかった。経済がどうだろうとエルドアン氏に付いていく」。髪をさらさないため、スカーフをかぶってエルドアン氏の選挙集会に参加した50代の女性は取材にこう語った。
一方、予想を上回る5%超の票を集めたのが3位のオアン氏だった。民族主義、反難民の極右だが、世俗主義を支持する点でエルドアン氏と相いれない。エルドアン氏、クルチダルオール氏のいずれも支持したくない人の受け皿になったもようだ。
クルチダルオール氏の逆転勝利には、オアン氏に投票した層の取り込みが欠かせない。オアン氏は決選投票での態度をこれから決めるとしているが、クルチダルオール氏については、少数民族のクルド系政党との協力関係を問題視する。オアン氏はロイター通信の取材にクルド系政党への譲歩を一切しないことが支持の条件になるとの考えを示した。
全国で約1割の支持率を持つクルド系政党は今回、6党による野党連合には加わらないものの、クルチダルオール氏の支持を表明した。ただ、民族主義者を中心にクルド系政党に対する拒否感は強く、野党連合にとって協力はもろ刃の剣でもあった。
エルドアン氏はこのクルド系政党と非合法組織のクルド労働者党(PKK)を同一視する。選挙戦ではエルドアン氏陣営がPKKのテロリストがクルチダルオール氏を支持するとされる真偽不明の映像を使ってまで民族主義的な感情に訴えた。
左派から右派までが並ぶ野党6党は「反エルドアン」で結集し、クルチダルオール氏を統一候補にしたが、それでも及ばなかった。同氏は16日、エルドアン氏が過半数に達しなかったことを念頭に「変革を望む人のほうがそうでない人より多いことが明らかになった。しかし我々はもっと頑張らなければいけないことも明らかになった」とツイートした。
シンクタンクSETAのクルチ・カナト氏は15日、「野党は決選投票に向けて新たな戦略が必要になる」と指摘した。
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上野泰也
みずほ証券 チーフマーケットエコノミスト
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ひとこと解説 現職エルドアン候補が決選投票で勝利する可能性が高いと金融市場はみている。記事にもある通り、野党のクルチダルオール候補が逆転勝利するには、初回の投票で第3位になったオアン候補の票が決選投票で大挙して流れてくることが必要。だが、そのハードルはかなり高い。オアン氏が16日に朝日新聞の取材に応じた内容が報じられている。それによると、「我々は『キングメーカー』だ」と述べたオアン氏は、数日以内に支持候補を決めると表明。「野党側と協力関係にある少数民族のクルド系政党の扱いなどが、判断の条件になると明らかにした」という。仮にクルチダルオール候補がオアン氏の要求に応じてクルド系政党と手を切ると、支持票が減る。
2023年5月17日 8:06 』