国際紛争処理法(新井京)

国際紛争処理法(新井京)
https://opencourse.doshisha.ac.jp/attach/page/OPENCOURSE-PAGE-JA-85/4187/file/08137386000-05.pdf

5.武力紛争法
5.1 武力紛争法の概念
5.1.1 用語法・分類

・戦時国際法、武力紛争法、国際人道法
武力紛争法
(戦時国際法・戦争法)

中立法規:
交戦国と中立国の関係を規律

交戦法規:
交戦国相互間の関係を規律
ジュネーヴ法:戦争犠牲者の保護
(狭義の国際人道法)
ハーグ法:戦闘の方法手段の規制

5.1.2 武力紛争法の妥当基盤

・戦争の合法性/「交戦国の対等」を前提にした「戦時法」
→戦争違法化
の影響

Q. 戦時法は不要か?
→「人道的」観点から今日も妥当性を持つ

Q. 侵略国には差別的に適用されるか?
→「人道性」を重視すれば、適用において「武力行使自体の合
法違法」は考慮する必要はない。

ジュネーヴ条約第一追加議定書(1977)前文 「武力紛争の性質若しくは原因又は紛争当事者が掲げ若しくは紛争当
事者に帰せられる理由に基づく不利な差別をすることなく、・・・すべて
の場合において完全に適用されなければならない」

5.2 武力紛争法の適用
5.2.1 適用の敷居

伝統的考え方:「法律上の戦争」「戦争状態」の存在が必要
その効果→「平時法」と「戦時法」の切り替え

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今日:事実としての「武力紛争」の存在があれば十分
その効果→「武力紛争法」が適用される、が、平時の国際法が当然不適用となる
わけではない。

※ 人権、環境関連の国際法も適用され続ける
「核兵器の使用又は威嚇の合法性」意見(ICJ、1996) (核兵器の使用は「生命権の侵害」であるとの主張について)「(生命権に関する)自由権規約

は・・・戦争時にも停止されない
。・・・原則として、恣意的に生命を剥奪されない権利は敵対行
為においても適用される。しかし、何が生命の恣意的剥奪に該当するかは、適用可能な特別法、
すなわち・・・武力紛争に適用される法によって決定される。」

「パレスチナの壁」意見(ICJ、2004) 5.2.2 内戦への適用
伝統的考え方:内戦=国内問題=国内法による規律(反逆罪などの適用)
但し→反徒を「交戦団体承認」する場合(国家間紛争に準ずる扱いとなる)は別

内戦にも人道的規制が必要ではないか?
障害:国家主権=反徒の地位を強化するのではないかという恐れ

1949 年ジュネーヴ諸条約:共通3条=最低限度の人道規則
第三条〔国際的性質を有しない紛争〕

締約国の一の領域内に生ずる国際的性質を有しない武力紛争の場合には、各紛争当事者は、少くとも次
の規定を適用しなければならない。

(1) 敵対行為に直接に参加しない者(武器を放棄した軍隊の構成員及び病気、負傷、抑留その他の事
由により戦闘外に置かれた者を含む。)は、すべての場合において、人種、色、宗教若しくは信条、性別、
門地若しくは貧富又はその他類似の基準による不利な差別をしないで人道的に待遇しなければならない。
このため、次の行為は、前記の者については、いかなる場合にも、また、いかなる場所でも禁止する。
(a) 生命及び身体に対する暴行、特に、あらゆる種類の殺人、傷害、虐待及び拷問
(b) 人質
(c) 個人の尊厳に対する侵害、特に、侮辱的で体面を汚す待遇
(d) 正規に構成された裁判所で文明国民が不可欠と認めるすべての裁判上の保障を与えるものの裁判
によらない判決の言渡及び刑の執行

(2) 傷者及び病者(第二条約…傷者、病者及び難船者。)は、収容して看護しなければならない。
② 赤十字国際委員会のような公平な人道的機関は、その役務を紛争当事者に提供することができる。
③ 紛争当事者は、また、特別の協定によって、この条約の他の規定の全部又は一部を実施することに努
めなければならない。
④ 前記の規定の適用は、紛争当事者の法的地位に影響を及ぼすものではない。

1977 年第 2 追加議定書:より広い人道的規則
但し、大幅に制限された規則≠国際紛争に適用される人道法の全面的転用
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5.3 武力紛争法の基本原則
一般的構造
人道的考慮 v 軍事的必要

【必要な妥協】:軍事的に実行可能な人道的規則の成立
5.3.1 戦闘手段の規制

基本原則
①無限定な武器使用の禁止
②不必要な苦痛の禁止
③大規模な環境損害の禁止
④「無差別兵器」の禁止

ハーグ陸戦規則
第二二条[害敵手段の制限] 交戦者ハ、害敵手段ノ選択ニ付、無制限ノ権利ヲ有スルモノニ非ス。
第二三条[禁止事項] 特別ノ条約ヲ以テ定メタル禁止ノ外、特ニ禁止スルモノ左ノ如シ。
ホ 不必要ノ苦痛ヲ与フヘキ兵器、投射物其ノ他ノ物質ヲ使用スルコト

第一追加議定書

第三五条 基本原則
1 いかなる武力紛争においても、紛争当事者が戦闘の方法及び手段を選ぶ権利は、無制限ではない。
2 過度の傷害又は無用の苦痛を与える兵器、投射物及び物質並びに戦闘の方法を用いることは、禁止す
る。
3 自然環境に対して広範、長期的かつ深刻な損害を与えることを目的とする又は与えることが予測され
る戦闘の方法及び手段を用いることは、禁止する。
第五一条4項「無差別な攻撃は、禁止する。無差別な攻撃とは、次の攻撃であって、それぞれの場合にお
いて、軍事目標と文民又は民用物とを区別しないでこれらに打撃を与える性質を有するものをいう。
(a)特定の軍事目標のみを対象としない攻撃 (b)特定の軍事目標のみを対象とすることのできない戦闘の方法及び手段を用いる攻撃
(c)この議定書で定める限度を超える影響を及ぼす戦闘の方法及び手段を用いる攻撃 「核兵器の使用又は威嚇の合法性」意見(ICJ、1996) 核兵器の使用・威嚇は「一般的に武力紛争法の規則に合致しない」

5.3.2 戦闘方法の規制

①軍事目標主義
第一追加議定書 52 条 2 項「攻撃は、厳格に軍事目標に対するものに限定する。軍事目標は、物について
は、その性質、位置、用途又は使用が軍事活動に効果的に資する物であってその全面的又は部分的な
破壊、奪取又は無効化がその時点における状況において明確な軍事的利益をもたらすもの
に限る。」
→東京大空襲のような「目標区域爆撃」「絨毯爆撃」(総力戦概念に基づく)は禁止され

②背信的戦闘方法の禁止
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5.3.3 武力紛争犠牲者の保護
―「傷病者」「捕虜」「文民」の尊重、非人道的行為の禁止

5.4 履行確保

5.4.1 当事国による措置

・戦時復仇
伝統的には:戦時法規履行確保の主要な方法
→人道的に望ましいか?→部分的(全面的ではない)禁止
禁止の例:文民捕虜などへの復仇、保護されるべき文化財などへの復仇

・国内裁判
自国軍人に対する裁判:(旧日本軍では)軍法会議
それ以外の者(例えば敵兵)に対する裁判:軍律裁判

5.4.2 第三者による措置

・利益保護国制度
・国際事実調査委員会(第一追加議定書 90 条に基づく)
・国際的裁判所

5.4.3 国際刑事裁判所の創設

1998 年 ローマにおける外交会議で「国際刑事裁判所規程」採択
→2002 年 発効 →2003 年発足 (ハーグにて)
→日本も 2007 年 4 月国会承認→秋に批准へ

  • 実績:コンゴ民主共和国、ウガンダ、中央アフリカ、スーダン(ダルフール)
    →最初の事件が予審段階

対象犯罪
・ 侵略犯罪(ペンディング)
・ 集団殺害犯罪
・ 人道に対する犯罪
・ 戦争犯罪(内戦への適用拡大)
管轄権行使の条件(裁判の条件)
・ 安保理による付託→無条件
・ 締約国による付託・検察官の発意→条件
Ü 犯罪実行地国又は
犯人国籍国が規程当事国であること
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補完性の原則
– 国内での訴追がまず重要
「国際的な犯罪について責任を有する者に対して刑事裁判権を行使することがすべての国
家の責務である」
– ICC と国内裁判所の関係
「国際刑事裁判所が国家の刑事裁判権を補完するものである」
– ICC が国内裁判所を越えるのは?
国内の裁判所が「捜査又は訴追を真に行う意思又は能力がない場合」

残された問題点

○アメリカの不参加問題
–政治的訴追の恐れ –管轄権問題 非当事国国民でも「当事国領域内」で罪を犯せば裁判される
→在外米兵の訴追可能性→平和活動を阻害??
→補完性の原則を考えれば杞憂では?

○「侵略犯罪」 訴追は実現するか?
-安保理はどこまで裁判に関われるか?
安保理:平和維持に関する主要な責任(国連憲章24条)

● 安保理だけが「侵略国」を決定できる?
=常任理事国は訴追されない(「拒否権」があるから)

-侵略とは何か ?
→2009年以降の再検討会議まで先送り

○補完性原則が機能するか?
「妥協」の産物(主権重視派 v. 国際関与派)
国内裁判重視:「不処罰」を増やさないか?
例:「東チモール」「ダルフール」