トルコ大統領選挙、接戦に 選管は当日に結果公表できず
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR140XY0U3A510C2000000/
『【イスタンブール=木寺もも子】トルコで14日、大統領選と議会選(一院制、定数600)の投票が実施され、15日も開票作業が続いている。20年にわたって政権を率いるエルドアン大統領(69)の信任投票の位置づけで、混戦となっているもようだ。決選投票に持ち越される可能性もある。
選管当局は原則として14日中に大統領選の結果を公表することになっているが、開票作業が押している。政権の影響下にあるアナトリア通信によれば、開票率90%時点でエルドアン氏優勢と報じている一方、最大野党の共和人民党(CHP)はクルチダルオール党首(74)が優勢だと主張している。
CHPは、クルチダルオール氏がリードする投票所で与党側の選挙監視担当者が結果を受け入れず、開票が遅れているとも主張している。
いずれの主張でも、開票の途中段階では当選に必要な過半数票を獲得した候補者はいない。28日にエルドアン、クルチダルオール両氏による決選投票に進む可能性が浮上してきた。
僅差の戦いで、与野党は投票締め切り後も緊張を緩めない。クルチダルオール氏はツイッターで「最後まで投票箱から離れるな」と党の選挙監視ボランティアらに呼びかけた。過去の選挙では一部で不正の報告もある。エルドアン氏も自身の支持者に同様の訴えを行った。
エルドアン氏は首相や大統領として2003年以降、20年に渡り国政を率いてきた。トルコを20カ国・地域(G20)の一角を占める主要な新興国に引き上げ、近年はドローンなどの軍需産業や外交でも存在感を発揮し、その実績を訴えている。昨年2月に始まったウクライナ危機では、ロシアのプーチン大統領と対話し、ウクライナの穀物輸出も仲介した。
14日、アンカラで投票するクルチダルオール氏=ロイター
エルドアン氏はかつて政治で疎外されがちだった保守的なイスラム教徒や地方の中低所得層の支持も集める。公共の場で女性がスカーフをかぶれるようにしたほか、20年にはイスタンブールにある世界遺産の大聖堂アヤソフィアをモスクにした。
一方で、足元で40%を超えるインフレや、5万人以上が犠牲となった2月の地震への対応、批判的な人物を拘束したり公職から追放したりする強権的な統治手法には批判も強まっている。
14日、イスタンブール市内で投票する人たち
クルチダルオール氏は「ワンマン体制に終止符を打つ」として、民主主義の強化を訴える。強大な大統領権限を制限し、中銀の独立性を回復して経済の正常化に取り組むほか、外交では西側陣営との関係改善に意欲を示す。
有権者の反応は二分する。イスタンブール市内で朝一番に投票所に並んだアズミさん(70)は6野党が推す対抗馬のクルチダルオール氏(74)に投票した。「インフレが激しすぎて月7500リラ(約5万2000円)の年金ではやりくりができない」として、政権交代による改革に期待した。
一方、観光業のアタイさん(55)はエルドアン氏を選んだ。「道路、空港、病院などのインフラを整えテロ対策を強化してくれた。安定した政策のためにはエルドアン氏が必要だ」と話した。
大統領選と議会選の投票用紙(14日、アンカラ)=ロイター
14日には比例代表制による議会選も行われ、エルドアン氏の与党連合が過半数を維持するかも焦点になる。
【関連記事】
・エルドアン政権に審判 トルコ大統領選、14日投票
・大接戦のトルコ大統領選 在外票の争奪戦が過熱
ニュースレター登録
多様な観点からニュースを考える
※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。
池内恵のアバター
池内恵
東京大学先端科学技術研究センター 教授
コメントメニュー
ひとこと解説
選挙戦のテーマが「エルドアンV.S.反エルドアン」に収斂されていき、長らく万年野党だったクルチダルオール候補が急速にエルドアンに変わる選択肢として台頭した。トルコの民主主義の深まりを感じる。クルチダルオールは良くも悪くも「エルドアンの対極」の人物・政治的立場であり、指導力やカリスマに欠ける弱い指導者と思われてきた。そうであるが故に長らく不遇だったが、ここで「反エルドアン」が野党の共通のスローガン・結集軸となると、最適の候補となった。民主主義における指導者の選択の妙と言えるだろう。
2023年5月14日 23:08』