「エスカドローネ」は、製造技術を有するウクライナ人たちの民間有志グループである。

「エスカドローネ」は、製造技術を有するウクライナ人たちの民間有志グループである。

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 ※ 『David Hambling 記者による2023-5-5記事「The Key Is Pilots, Not Drones: Ukraine’s Escadrone On The Skill Of Flying FPV Kamikazes」。

   「エスカドローネ」は、製造技術を有するウクライナ人たちの民間有志グループである。
 今まで、なんとかDJIの「Mavic」と同格のFPV特攻自爆ドローンを国産しようとしていた。このたび、それに成功しただけでなく、なんと月産1000機を量産する製造ラインの操業を、すでに開始したという。

 カミカゼの嵐が、まちがいなく吹くだろう。

 エスカドローネのスポークスマン氏は、匿名で語った。「FPVカミカゼは、なんといっても操縦者の腕が恃みです。機体がなんでも解決するわけじゃないことをご理解いただきたい」。

 製造しているドローンの名称は「ペガサス」。クォッドコプターの骨組みだけだが、それが、大きなRPGの弾頭を横向きに吊架して飛ぶのだ。

 操縦者はゴーグルを装着。ここに、ドローンのビデオカメラからの映像が届く。主観視点(ファースト・パーソン・ヴュー)で操縦するからFPVという。

 ペガサスの機体はFPVレーシング競技機に準拠している。Mavicよりも小型なのにMavicよりも馬力があり、それで高速が出せるのだ。

 機体は前線にて、操縦者が箱から出して組み立てる。最後に対戦車弾頭を装着し、飛ばす。
 その準備は、開梱から5分で完了する。

 攻撃目標は、あらかじめ味方の斥候が探知していて、それが指示される。

 目標へのアプローチは、低空を飛ぶ。それで、敵から目視されることは、まずなくなる。ただし独特のノイズから、敵兵の耳には、ドローンの肉薄が察知されるであろう。

 戦地では、飛行時間は、3分から5分のことが多い。スポークスマン氏によると、アプローチにかかった最長の時間記録は13分だったそうである。

 偵察用の固定翼ドローンは、高いところを飛ぶしかないので、よく発見されて撃墜されてしまう。

 BMPに特攻するときは、まず一周してから背後へ回り、砲塔の基部めがけて突っ込む。

 命中したかどうかの戦果確認は、上空からすべてを見渡している味方の偵察無人機によるしかない。そのモニターは、特攻機操縦者の比較的に近いところにあるので、偵察機オペレーターが喚声を上げることにより、特攻機オペレーターは自機の成功を知ることになるのだ。

 もし、攻撃がうまく行かなかったら? 第二、第三、第四……の自爆ドローンを次々に繰り出すまでだ。「ペガサス」は大量生産品なので、そこが心強い。

 ウクライナ語で騎兵の小部隊のことを「エスカドロン」という。ここに「e」を追加し、《ドローンの騎兵隊》という含意の新語を造った。それが「エスカドローネ」。

 この集団は2022-5に、趣味でドローンを飛ばしていた民間人によって結成された。
 そして今日まで、さまざまな攻撃型マルチコプターを試作しては戦場でのテストを重ねてきたが、ようやくこの頃、ベストの形態を把握した。それが「ペガサス」だ。

 彼らが早々と理解していたこと。戦術ドローンは、実戦では「使い捨て」に近い用法とならざるを得ない。したがって、安く大量に生産できなくてはいけない。
 満を持した「ペガサス」のプロジェクトには、ウクライナ軍特殊部隊の某将軍が、全面協力してくれた。

 宇軍の特殊部隊のうち「アルファ」と呼ばれる部隊は、がんらい対テロ任務が想定されていたのだったが、今次戦争では、最前線に出ずっぱりだ。彼らが攻撃型の改造ドローンを緒戦からテストしてくれている。

 米軍が供与してくれたロイタリングミュニションの「スイッチブレード300」は、6万ドルもする。それに比べて「ペガサス」は、基本モデルが341ドル。搭載重量を増した強化モデルでも462ドルにコストが抑えられている。趣味用に市販されているFPVレーサーの部品をたくさん流用しているからだ。

 ※しかも「スイッチブレード300」には、対AFVの破壊力がゼロ。「ペガサス」は、対戦車兵器として定評があるRPGの弾頭を抱えて飛ぶのだから、威力において霄壤の差がある。そのかわり「ペガサス」は航続距離が短いから、操縦者も特殊部隊式に敵部隊の数マイル近くまで「潜入・挺進」するスキルが求められるわけだ。

 今後の量産体制次第では、コストはいちだんと下がるであろう。

 エスカドローネは、2022-9に露軍の戦車を初めて破壊したという。場所は「Davydiv Brid」の近く。

 それ以後、モーター部、アンテナ部、飛行制御用の回路など、各部を改善し続けた。しかし「ペガサス」の基本デザインは一貫している。

 スポークスマン氏は、重ねて強調する。「Mavic」なら、ドローン経験ゼロの一般人が、箱から出してすぐに飛ばすことができる。しかしFPVドローンは、そのようにはいかない。殊に、敵のAFVの弱点部に適確に命中させられるようになるまでには、相当の練習が必要なのだ。ゆえに、「ペガサス」の攻撃の成否は、ひとえに、操縦者のスキルにかかってくるのである。

 その練習時間は、1ヵ月を見込まなくてはいけないという。なにしろ、動いている敵戦車に、こっちも高速で飛行する特攻機をぶつけなくてはならないのだから。

 「スイッチブレード」などの本格的なロイタリングミュニションが高額なのは、遠くに見える、動く目標に、モニター越しにロックオンの命令を送信すれば、そのあとはドローンが全自動で自爆特攻してくれる、「かんたんコマンド」の機能がついているからなのである。

 おそらく今から何年かすれば、AIチップが安価に製造されるようになり、FPVドローンの最終攻撃手順を「半自動化」できるだろう。しかし、現段階では、操縦者が練習を重ねて熟達する意外に、道は無い。

 SNSに投稿されている、宇軍の特攻機が命中するFPV動画は、すべて、「エスカドローネ」の隊員が操縦したものだ。大きなRPG弾頭を抱えての飛行であることを思えば、並みの技倆ではありえないことは、伝わるであろう。

 「ペガサス」の基本型は、重さ1kgの弾頭(RPGの推進薬部分を切除したもの)を運搬する。これでBMPまで屠れる。
 もし、目標が戦車だと判明しているときは、重さ2kgの「PTAB-2.5」という対戦車爆弾を装着する。これは第二次大戦の末期に「イリューシン2」からばら撒かせようとして開発された小型の成形炸薬爆弾で、戦車の天板に対しては今日でも有効。

 「テレグラム」に投稿されている、特攻ドローンの動画に、もし「GOIDA」「ZELYA」「PEGAS」「BAVOVNA」「VPN DRON」「UJEE」「GG 00」という「ウォーターマーク」が重ねられていたら、それは、当該器材のために出資した、エスカドローネ個人の符牒を示すものだ。

 ウクライナには、エスカドローネの他に「Vyriy Drone」という非営利集団もあり、こちらは「Molfar」という特攻ドローンを量産し運用している。エスカドローネはこの集団にもノウハウを提供している。

 ※検索によって偶然に知ったこと。フランスのグルノープルの近くには同名異社の「EscaDrone」社が2013年からある。ドローンの会社ながら、ウクライナとはまったく無関係らしい。

 ※思うに台湾はこのウクライナのエスカドローネ集団の「海外工場」を誘致するべきではないか? 台湾東部の山の中のトンネル工場で、とりあえず月産1万機、2年後には月産10万機以上こしらえるのは簡単だろう。それを空輸でポーランドやルーマニアまで届けるのも、わけもなくできる。その設備と在庫は、近い将来に台湾有事が生じたときには、そのまま台湾防衛の役に立つ。航続距離が短いということは、中共軍が同じモノを量産しても侵攻の役に立たず、防御側だけがその機能をフルに活用できることを意味する。』