有事の食料確保、法整備へ

有事の食料確保、法整備へ
輸入停止や凶作 増産や売り渡し、首相指示可能に
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO70648280Z20C23A4MM8000/

『政府は紛争による輸入停止や凶作で食料供給が滞る事態に備えた対応策を整える。農家や事業者に穀物の緊急増産を求めたり、国が売り渡しを命じたりするための新法を検討する。日本は食料自給率が低く、輸入に頼る。供給網の混乱や台湾有事などに備え、食料安全保障の向上に取り組む。

ドイツや英国など海外では食料安保のリスクに対応する法整備が進む。日本は農林水産省が2012年に策定した「緊急事態食料安保指針」で食料危…

この記事は会員限定です。登録すると続きをお読みいただけます。』

『日本は農林水産省が2012年に策定した「緊急事態食料安保指針」で食料危機時の政府の対応策を記している。法的拘束力がなく、実効性を確保できていなかった。

農水省が28日に開いた「食料・農業・農村基本法」の見直しを議論する検証部会で、食料安保の強化へ「政府全体で意思決定する体制を検討する」方向性を示した。

基本法の改正案を24年の通常国会にも提出する。関係省庁で構成し、首相が司令塔の「対策本部」を設けられるようにする。増産指示などの具体的な取り組みの裏付けとする新法については有識者検討会を夏ごろに設置する。海外事例も参考に具体的な制度を詰める。
例えば世界で同時に凶作となり、食料や肥料が日本に入りづらくなる場合などを念頭に置く。緊急増産や、食品製造業などからの売り渡しを指示できるようにする。

花きを生産する農家らにカロリーが高いイモや穀物などへの生産転換を働きかけることも想定する。物流事業者に対する輸送先の変更や保管命令なども視野に入れる。指示により農家らの収益が下がることも考えられ、財政支援の仕組みを設ける方向で調整する。

食品価格が暴騰した場合に一定の価格統制などをはかる案も出ている。スーパーで食料が極端に品薄になるような場合に買い占めを防ぐ方策も考える。

新法検討の背景には食料安保のリスクの高まりがある。ロシアのウクライナ侵攻で小麦や肥料の価格が高騰した。両国をあわせると世界の小麦輸出の3割を占める。

地政学リスクもある。台湾海峡は食料を積んだ日本向けの船舶が多く通過する。中国が台湾を侵攻する台湾有事で海峡が閉鎖されれば大きな影響を受けかねない。気候変動が進み、世界で凶作や水害も多発している。

日本の食料自給率は38%(カロリーベース)で主要7カ国(G7)で最も低い。食品の輸入金額は米国や中国など上位4カ国・地域で5割を占める。特に小麦や大豆、飼料穀物などの輸入が多く、特定国に依存する。

調達先の多様化や、有事の代替先確保も重要になる。自給率の引き上げも欠かせない。増産に対応できるように農業事業者の競争力を高め、使える農地を減らさない取り組みも必要になる。』