ソフトバンクG、長引くテック不況 金利上昇が追い打ち
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB10ABE0Q3A510C2000000/

『【この記事のポイント】
・SBGの2023年3月期連結決算は厳しい内容の公算
・投資先である世界の新興企業の業績や株価低迷が重荷
・アーム上場が望み。資金調達多様化につながる可能性
ソフトバンクグループ(SBG)が11日、2023年3月期の連結決算(国際会計基準)を発表する。業績は人工知能(AI)関連の企業に投資するビジョン・ファンド事業の苦戦が続き、前の期に続いて厳しい内容だった公算が大きい。世界のス…
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『世界のスタートアップ業界はハイテク株安などが響き長期低迷しており、世界有数の投資家であるSBGも苦境が続く。決算のポイントを解説する。
孫正義会長兼社長は欠席
11日の決算記者会見は前回に続いて孫正義会長兼社長は欠席する。「金庫番」である後藤芳光最高財務責任者(CFO)が中心となり、業績や今後の経営方針を説明する。
22年4〜12月期の連結最終損益は9125億円の赤字だった。証券アナリストの業績予想の平均であるQUICKコンセンサス(5月8日時点、12社)はSBGの前期の連結最終損益を800億円程度の赤字と見込んでいる。1兆7080億円の赤字だった前の期に続き、2期連続で最終赤字とみている。国内最大の4兆9879億円の純利益を計上していた21年3月期からの落差が大きい。
業績が悪化しているのは、投資先である世界の新興企業の業績や株価が低迷しているためだ。SBGは傘下の「ビジョン・ファンド」や「ラテンアメリカ・ファンド」を通じ、世界の有力スタートアップに投資してきた。22年12月末時点での投資先数は約440銘柄にのぼる。
SBGは会計ルールに基づいて投資先企業の価値を四半期ごとに評価し直し、含み損益の増減を損益計算書に反映している。上場済みの銘柄であれば株価をもとに算定し、未上場企業であれば類似の上場企業の株価や足元の業績などを参考に評価損益をはじき出す。
アリババ株で5兆円の利益発生でも赤字予想
22年以降、急激なインフレや金利上昇の影響で世界の新興企業の業績や株価は低迷しており、SBGの業績の重荷となっている。ビジョン・ファンド事業は22年10〜12月期まで4四半期連続の赤字で、この間に計上した赤字額は合わせて約6兆2000億円にのぼった。23年1〜3月期も同事業は赤字だったとみられる。
前期にはデリバティブ(金融派生商品)取引に差し出していた中国・アリババ集団株を前倒し決済して手放すことで、総額5兆円規模で会計上の一時的な利益が発生した。この利益を加味したうえで市場が赤字を予想しているところにSBGの苦境ぶりがあらわれている。
業績悪化を受けて、SBGは財務の守りを固めている。ビジョン・ファンドを通じた新規投資はほぼ停止しており、22年10〜12月期の新規投資額は3億ドル(約400億円)と、前年同期から97%減らした。23年に入っても停止状態を続けているもようだ。
保有資産の売却や資金化も急いでおり、22年4〜12月期にはアリババ株を活用したデリバティブ取引で244億ドルを調達した。英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)によると、SBGは23年に入って残るアリババ株の大部分も取引に差し出し、約72億ドルを調達した。22年12月末時点で3兆円超にのぼる手元資金は、足元でさらに増えている可能性がある。
アーム上場に望み
SBGが守勢を続けるのは金利上昇が業績と資金調達の両面で重荷となっているからだ。金利上昇に伴うハイテク株安の影響で業績面はすでに苦戦が鮮明だが、足元では借り換え時の利払い負担の増加も表面化している。4月に発行した国内個人向けハイブリッド債2220億円の利率は年4.75%。前回発行した21年6月の年利より2ポイント上昇した。
成長戦略が行き詰まるなかで望みをつなぐのが、英半導体設計大手アームの新規株式公開(IPO)だ。4月末には米国市場へ上場を申請した。上場すればアリババ株に代わる主要資産となり、資金調達手段の多様化にもつながる。
多額の手元資金とアーム上場の前進により、かねて浮上しているMBO(経営陣が参加する買収)観測は現実味が増す。もっとも、実際にMBOに踏み切れば22年12月末で6兆円弱にのぼる社債の投資家が取り残されるなど、懸念材料は多い。
市場からは「社債が残る状況での株式の非公開化はクレジット評価上ネガティブとなるので、手段にかかわらず断固反対」(大和証券の大橋俊安チーフクレジットアナリスト)といった声もあがる。
SBGの経営はハイテク株の動向に左右されやすいだけに、市況が回復すれば反転攻勢の芽もみえてくる。世界最大級のベンチャーキャピタルであるSBGの戦略は今後のスタートアップ市場全体を占うことになりそうだ。
(和田大蔵)
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