トルコリラに「二重相場」 選挙後に急落予想も
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR02BA70S3A500C2000000/
『トルコの街中にある両替店でリラ安が進んでいる。当局がリラ安を防ぐために規制や介入を強める銀行間のレートより対ドルで5%安く、一種の「二重相場」になりつつある。当局のリラ防衛は14日の選挙をにらんだものとみられるが、選挙後は急落を免れないとの見方も広がっている。
4月下旬、イスタンブール旧市街の観光名所でもあるグランドバザールでは、1ドル=20リラ台(中値)でリラの売買が行われていた。19リラ台の銀行間レートより5%程度のリラ安だった。あるベテラン両替商は「ドルの需要がそれだけ高まっているということだ」と語った。
土産物を求める観光客であふれるグランドバザールは伝統的な外貨や貴金属の取引市場で、かつては価格形成の中心地だった。今も携帯電話を手にした仲買人らが立って大口取引を行う一角があり、全国の街中の両替店はグランドバザールの大手の価格を参考にしている。
進むリラ安、為替損で企業に打撃
なぜ銀行レートとの間で差が広がっているのか。ある民間大手銀の支店長は「中銀や財務省から毎週のように指示が来る」と事情を明かす。銀行はリラ相場安定のため、預金の60%以上をリラにする目標が課せられ、顧客のドル買いを延期させるよう求められることもあるという。
ロイター通信は銀行業界の話として、中銀の外貨準備高が4月中下旬の1週間で50億ドル(約6800億円)減少したと報じた。国営銀行を通じ、間接的なリラの買い支えを行ったためとみられる。
リラは年初から4%安と軟調ながら、1年間で数十%下落することも珍しくなかった近年の値動きと比べれば安定しているようにみえる。ただ、当局の影響力が及ばない街中の両替店ではリラ安が進行しているもようだ。
外貨取引を抑制するため、銀行間レートでは売値と買値のスプレッドも拡大している。両替店では差が1%台にとどまるのに対し、7%を超える銀行もある。大手銀の支店長によると、スプレッド拡大も当局の指示だという。
輸出企業からは悲鳴の声がもれる。日本企業との合弁の素材メーカー担当者は「もともと数%しかない利益が吹き飛ぶ」と話す。リラ安定策の一環で、輸出企業は稼いだ外貨の40%を中銀に売却する義務がある。原材料の調達に必要なドルを買い戻す際の為替損が大きくなるという。
当局がリラ防衛にやっきになるのは、14日に行われる大統領選・議会選のためだ。足元で50%を超える高インフレでエルドアン大統領への批判は強まっている。世論調査では野党候補と接戦で、再選は予断を許さない。選挙前、さらなる物価上昇につながる為替下落は避けたい思惑がある。
エルドアン政権のリラ防衛策に限界も、選挙後に急落の恐れ
ただ、こうしたリラ防衛策は長続きしないとの見方が強い。米シティバンク、JPモルガンなどの海外金融機関は、選挙後は結果にかかわらずリラが1ドル=20リラ台半ば〜30リラまで下落するとの見通しを示している。足元の相場からの下落率は20%を超える計算だ。
最大の焦点は2021年末に導入した、「為替保護預金(KKM)」だ。リラ定期預金が満期になった時に外貨換算で価値が減少していた場合、中銀や政府が差額をリラで補塡する。直近の残高は2兆リラ(約14兆円)に上り、リラ相場を支えてきた。
野党は金融・財政政策を「正統派」に戻すべきだと主張しており、政権交代すればKKMは早期に終了する公算が大きい。財政負担が重いため、エルドアン氏が続投する場合でもいずれ縮小・終了は避けられないとの見方が多い。
(イスタンブール=木寺もも子)』