アルゼンチン、ドル流出抑制へ人民元決済 通貨安加速で
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN040310U3A500C2000000/
『【サンパウロ=宮本英威】南米アルゼンチンで通貨ペソの下落に歯止めがかからない。世界的なドル高と干ばつでインフレが加速し、通貨安が一段と進んだ。中央銀行は政策金利を91%まで引き上げたが効果は乏しい。政府はドルの流出を抑えようと、中国からの輸入に対して人民元決済を導入した。ドル高対策の人民元決済はマレーシアも導入拡大を検討している。
アルゼンチン政府は4月26日、中国からの輸入品の決済をドルから人…
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『アルゼンチン政府は4月26日、中国からの輸入品の決済をドルから人民元に切り替えると発表した。4月は10億4000万ドル(約1400億円)相当を、5月以降は7億9000万ドルを人民元で支払うという。中国はアルゼンチンにとって最大の輸入相手で、全体の2割強(2022年に約175億ドル)を占める。
通貨ペソの公式レートは1ドル=220ペソ程度と、年初から2割以上、ペソ安・ドル高が進んだ。実態はより深刻だ。外国人向けのレストランや土産物店で用いられている非公式の相場は460ペソ程度で、価格差(スプレッド)は240ペソ程度と、1年前の80ペソ程度から広がっている。
マサ経済相は「我が国が用いることができるあらゆる手段を使う」と述べ、通貨防衛に必死だ。5日時点で外貨準備高は340億ドルと、16年10月以来の低水準にある。人民元決済でドルの流出を抑え「外貨準備の増強につながる」(マサ氏)ことを期待する。
ドル高対策の人民元決済導入は他の新興国にも広がりそうだ。ブルームバーグ通信によると、マレーシアが中国との貿易の決済への導入について検討を始めた。アンワル首相は「我々がドルに依存し続けなければならない理由はない」と話す。
アルゼンチンの通貨安はもともとの財政の脆弱さに、主要産業である農業が干ばつで打撃を受けたことと、米連邦準備理事会(FRB)による利上げでドル高が進んだことが原因だ。
アルゼンチンは農業依存型の経済構造や歴代政権の放漫財政がたたり、財政破綻とデフォルト(債務不履行)を繰り返してきた。直近では22年に国際通貨基金(IMF)と債務再編で合意したが、財政赤字の規模や外貨準備の積み上げで約束した目標の達成に赤信号がともる。
今年に入って深刻化した干ばつについて、フェルナンデス大統領は「過去1世紀で最も深刻」と訴える。主力の大豆、トウモロコシ、小麦などの生産量が今年度は1年前に比べて3〜4割減る見通しだ。3月の消費者物価指数は前年同月比104.3%上昇と、過去30年で最も高い水準で推移している。
ペソの対ドル相場はFRBが利上げを開始した22年3月以降下げ足を速めており、「強いドル」の痛みが直撃している。
急激なドル金利の上昇は、預貸の逆ざやや保有する債券価格の下落に直面した米地方銀行の経営不安に発展し、預金流出で複数の地方銀行が破綻した。欧州ではクレディ・スイス・グループが救済買収された。
市場は「弱点探し」に動いており、マクロ経済が脆弱なアルゼンチンも標的になりやすい。中央銀行は4月20日、同27日に、政策金利をそれぞれ3%、10%引き上げた。1週間で2度、計13%の大幅利上げに動いて政策金利は91%まで上昇したが、通貨安の歯止めには大きな効果を発揮していない。
格付け会社フィッチ・レーティングスは3月下旬、アルゼンチンの外貨建て格付けを「CCCマイナス」から「C」に引き下げた。同国政府が公的機関に対して、保有する一部のドル建て国債の売却または交換を義務付けたことを受けた。
今後は、債務再編を巡る条件の修正に向けてIMFとの再交渉が必要になるとの見方が強まっている。今年10月に大統領選と議会選が迫り、与党が人気取りのばらまき策に出る可能性など、政治の混乱も懸念される。再びデフォルトという事態になれば世界経済の混乱要因になりかねない。
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鈴木一人
東京大学 公共政策大学院 教授
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分析・考察 非常に興味深い状況。一方でドルの流出を止めることが目的でドルを使わず貯めるという選択をし、他方で中国との取引の決済には人民元を使う、という二つの点で興味深い。一つは、利上げによってドルが強くなっただけに、ドルを温存しようとする、すなわちドルへの依存を十分に認識しているという点。もう一つは、中国との決済には人民元が使えるほど人民元の準備高があること。これをもってドルの覇権が中国に移るということでは全くないが、ドルの強さと人民元の流通量を見るうえでは興味深い。また、グローバルサウスの雄であるアルゼンチンも金融の世界では、今までと変わらないという点も。
2023年5月8日 22:17いいね
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柯 隆
東京財団政策研究所 主席研究員
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分析・考察 中南米諸国はドル化の恩恵を受けてきた半面、常にドルの流出に悩まされてきた。だからこそアルゼンチンのように中国との貿易で人民元決済を導入しようと考える。ただし、それは人民元がドル覇権に対する挑戦にはならない。中南米以外の国でも、マレーシア、サウジなども中国との貿易で人民元決済の導入を検討している。なぜそれはドル覇権に対する挑戦にならないのか。マレーシアとアルゼンチンの貿易で人民元決済を導入していないからである。これは外国人が我々中国人と中国語で会話する人が増えても、中国語の国際化を意味しない。なぜならば、外国人同士の会話は英語の割合が圧倒的に高いからだ。
2023年5月8日 6:52 』