「厄介な国」と米大統領候補 消えぬ「トランプ」の残像
風見鶏
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『岸田文雄首相は4月下旬、来日した米南部フロリダ州のロン・デサンティス知事と面会した。「近隣には厄介な国が多いと聞いています」。デサンティス氏はこう語りかけた。
政府高官によると、同氏は首相をはじめ林芳正外相や自民党の茂木敏充幹事長との会談でいずれも相手方を質問攻めにした。中心となったのは中国や北朝鮮、ロシアといった日本が直面する安全保障上の課題だ。
ウクライナ戦争で揺らぐ国際秩序を維持するため米…
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『ウクライナ戦争で揺らぐ国際秩序を維持するため米国の指導力がなぜ重要か。東シナ海などでの中国の振る舞いがどれだけ地域を不安定にしているか――。日本側はこうした点を説いた。デサンティス氏が自らの意見を表明する場面はほとんどなかった。
日本の首相が通常、米国の州知事に単独で会うことはない。政府は今回、首相との面会や外相と夕食会の機会がある「外務省賓客」として招待した。厚遇はデサンティス氏が2024年大統領選でトランプ前大統領とトップを争う共和党の有力候補と目されているからにほかならない。
デサンティス氏は3月、米国のウクライナ支援に懐疑的な見方を示し、物議を醸した。米国の海外への関与に消極的な発言をしたこともある。いずれも国際協調を軽んじるトランプ氏の「米国第一」に相通じる。
米ジョンズ・ホプキンス大のハル・ブランズ教授はデサンティス氏を「保守層が期待する政策スタンスをくみ取ることにたけている」と分析する。米ピュー・リサーチ・センターによると、米国のウクライナ支援が「過大だ」とみる共和党支持層はこの1年で30ポイント超増えて40%にのぼった。
以前のデサンティス氏はウクライナ支援に積極的な姿勢を示していた。「ウクライナにもっと武器を提供すれば、プーチン大統領を抑止する強いシグナルを送ることができる」。ロシアがウクライナのクリミア半島を併合した14年以降、複数の米メディアのインタビューでこう主張している。保守層の歓心を買うため、一時的にせよ今は従来の立場を翻したようにみえる。
米海軍では特殊部隊の法律顧問としてイラク駐留経験があり、6年務めた下院議員時代は外交委員会に所属した。ビジネスマンから転身し、4年の大統領しか政治経験のないトランプ氏より外交・安保の土地勘があるとの見方もできる。
デサンティス氏の真意はどこにあるのか。先のブランズ教授は「現段階で彼の外交・安保観が固まっているわけではない」とみる。だからこそ日本側は「あるべき米大統領像」をできるだけ早く伝える必要があると判断し、訪日を熱心に働きかけた。
トランプ氏が16年大統領選で勝利した直後、正式就任前にもかかわらず当時の安倍晋三首相は世界のどの指導者よりも早くニューヨークに会いに行った。
「安全保障で(中略)米国が国際社会のリーダーの立場を下りたら、世界は紛争だらけになる。『国際社会の安全は米国の存在で保たれている』と繰り返し言った」。安倍氏は回顧録で、トランプ氏との関係構築に腐心した内幕を明かしている。
トランプ政権下の米国が日本を含む同盟国にとって中国や北朝鮮とは別の意味で「厄介な国」だった面は否めない。トランプ、デサンティス両氏の人気は内向き志向を強める米世論の一端を映す。
44歳のデサンティス氏は仮に24年の大統領候補をトランプ氏に譲ったとしても、28年以降も有力候補になり得る。内向きの米国への備えは十分か。日本や欧州はたえず自省を迫られる。(編集委員 永沢毅)
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