OMC、FRC破綻でも利上げの公算 「最後の1回」か

FOMC、FRC破綻でも利上げの公算 「最後の1回」か
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『米連邦準備理事会(FRB)が物価と金融安定のはざまで難しい決断を迫られている。米地銀ファースト・リパブリック・バンク(FRC)の破綻直後となる2〜3日の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、インフレ抑制を重視し0.25%の追加利上げに動くと市場は見込む。ただ金融不安が信用収縮を招けば「引き締めすぎ」になるリスクも高まった。パウエル議長の今後の政策方針に市場の関心は集中する。

「FRBは政策金利を…

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『「FRBは政策金利を0.25%引き上げたうえで、追加の利上げを一時停止するシグナルを発するとみている」。米債券運用大手ピムコのティファニー・ワイルディング氏は1日のメモでこう予想した。金利先物市場も1日夕時点で9割が0.25%の利上げ実施を見込む一方、6月会合でさらに利上げするとの予想は3割以下にとどまる。2022年3月に始めた継続利上げは「今回で打ち止め」が市場のメインシナリオだ。

これはFOMC参加者の想定とも一致する。現在の政策金利の水準は4.75〜5%。あと1回の利上げで、3月時点で参加者が見込んでいた利上げの到達点の5.1%(中央値)に達する。

3月10日のシリコンバレーバンク(SVB)の破綻後に強まった米国の金融システム不安は、5月1日により資産規模の大きい銀行だったFRCの破綻に発展した。急速な金利上昇で預金が他の高利回り金融商品に流れる一方、債券や貸出債権など保有する資産の価値が損なわれたことがこれらの銀行の経営悪化につながった。

それでも「最後の1回」の利上げが見込まれているのは、金融システムがまだ危機的な状況までには至っていないとの見方が多いからだ。FRCは破綻と同時に米銀最大手JPモルガン・チェースが買収を決め、預金や資産をほぼ丸ごと引き継いだ。1日の米株式相場は銀行破綻のショックで大きく崩れることもなかった。

FRBは金融システム不安への対処と物価の抑制という目的に応じて政策手段を使い分ける考えを重ねて示してきた。金融の安定ではSVB破綻後に新たな緊急融資枠を設け、銀行への「最後の貸し手」機能を強化した。こうした取り組みは銀行の資金繰りを助ける効果を発揮している。

他方でインフレとの戦いはまだ続いている。

FRBが重視する個人消費支出(PCE)物価指数はエネルギーと食品を除いたベースで3月も前年同月比で4.6%上昇した。鈍化ペースは緩やかで物価目標の2%を大幅に上回ったままだ。人手不足が賃金を押し上げる構図も続く。「金融政策はさらに引き締める必要がある」。ウォラー理事が14日の講演でこう話すなど、インフレ抑制のため追加利上げを求める声はFOMC内で多かった。

もっとも、金融不安が危機に発展するのを回避できるかはなお予断を許さない。1日の米市場では地銀のなかで預金の流出が相対的に大きかったパックウェスト・バンコープの株価が前週末比で10%超下げた。弱っている地銀を狙い撃ちするような市場の圧力は続く。

預金流出に身構える銀行が融資を絞り、信用収縮が景気に下押し圧力をかけるという見方もFOMC参加者や市場参加者は広く共有する。これは利上げによって家計や企業の借り入れコストを増やし、需要を冷やすのと同じような物価抑制効果を生む。問題は、そのスピードや影響の深刻さが利上げ以上に読みづらい点だ。FRCの破綻で、FOMC参加者の金融不安や信用収縮の先行きに対する認識がどう変わるかが焦点になる。

市場はFOMC終了後の声明文やパウエル議長の記者会見で、今後の政策金利の軌道がどう示されるかを注視する。

前回会合後に公表した声明文は今後の利上げについて複数回を意味する「継続的な」との表現を削った一方、政策金利はまだ「十分に引き締め的」ではないとの認識を維持した。今回を最後に利上げを止めるなら、この表現に変更が加わる公算が大きい。

将来の利下げ転換時期をめぐっては、FRBと市場の溝は深い。市場では年内に複数回の利下げ実施が織り込まれている一方、パウエル議長は物価の高止まりを懸念して早期の利下げには慎重な姿勢を貫いている。

記者会見では地銀破綻の連鎖を防げなかったFRBの監督責任も問われそうだ。FRBは4月28日、SVB破綻の経緯を検証した報告書を公表した。とりまとめ役のバー金融監督担当副議長は監督の失敗を認めたものの、その背景にはトランプ前政権時代の規制緩和があったと説明。規制再強化の方針を示している。物価と金融の安定をどう両立するのか、難局でのパウエル議長のメッセージに市場は耳を澄ませる。

(ワシントン=高見浩輔、ニューヨーク=斉藤雄太)

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