米FRC破綻、預金流出が当局想定上回る 預金保険に不安

米FRC破綻、預金流出が当局想定上回る 預金保険に不安
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN013C80R00C23A5000000/

『【この記事のポイント】
・大手行の300億ドル支援不発、預金流出止まらず
・「預金全額保護」も特例措置の持続性を不安視
・2カ月で3行破綻、金融当局の監督不備問われる

【ニューヨーク=斉藤雄太】米地銀ファースト・リパブリック・バンク(FRC)が1日に経営破綻した。シリコンバレーバンク(SVB)破綻後に米金融当局は預金の全額保護を打ち出したが、顧客から預金保険制度の限界を見抜かれて預金の流出を止めきれなか…

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『経営に不安を抱える地銀から大手行などへの資金流出圧力は根強く、銀行不安を鎮静化できずにいる。

3月のSVB破綻後、預金保険の対象外となる大口預金比率の高さや金利上昇で含み損を抱えた資産の大きさへの警戒感から、FRCは急速な預金の流出と株価急落に見舞われた。SVBより資産規模の大きいFRCも立て続けに破綻すれば、米国の金融システム不安は一段と制御が難しくなりかねない状況だった。

そうした危機意識からJPモルガン・チェースやバンク・オブ・アメリカなど米大手11行が講じたのが計300億ドル(約4兆円)の預金をFRCに預ける措置だ。民間主導の救済を望んでいた当局の意向を踏まえ、JPモルガンのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)らが中心になって3月16日にまとめ上げた。

預金は当初、4カ月間は置く計画だった。その間にFRCが財務の立て直しなど抜本的な再建策に取り組む段取りを描いていた。だが、4月24日夕発表のFRCの2023年1〜3月期決算で預金の急減ぶりや高金利の公的機関からの借入金急増が明らかになると、市場の不安が再燃。もともと落ち込んでいた株価は決算後さらに8割近く下がり、破綻への道を突き進んでいった。

当局や支援した大手行にとって誤算だったのが預金の流出だろう。FRCからは1〜3月だけで4割超の預金が抜け落ちた。大手行からの300億ドルの預金がなければ、落ち込みはもっと大きかった。

預金急減の大きな要因は、破綻時に1口座あたり25万ドルまで保護する米銀の預金保護システムの対象を超える大口預金が多かったからだ。

FRCの預金保険対象外の預金比率は22年末で7割近かった。米当局はSVBと同時期に破綻したシグネチャー・バンクの顧客に対して預金を全額保護する特例措置を取った。他の銀行でも顧客が慌てて預金を引き出さないように落ち着かせるための措置だったが、FRCでは預金流出が膨らんだ。

背景には預金保険基金が潤沢とは言えない現状がある。米連邦預金保険公社(FDIC)はSVBとシグネチャー銀の2行の処理に伴い、預金保険基金に計225億ドルの負担が発生すると見積もる。最終的にJPモルガンが買い手になったFRCの破綻処理では130億ドルの負担を見込む。

22年末時点の同基金の残高は1282億ドルだった。基金の減少を穴埋めするため、FDICは加盟する銀行の払う保険料について、大手行を中心に引き上げる構えだ。それでも銀行破綻が止まらなければ、預金保険基金も底をつきかねず、「全額保護」がいつまでも適用されるとは限らない。

米銀全体の預金は18兆ドル規模で、25万ドルまでの保護対象の預金だけで約10兆ドルある。基金の残高は保護対象の預金の1.3%弱にすぎない。「銀行の破綻が続けば預金保護の資金を基金でまかなえなくなる。FRCでも預金保険の先行きを不安視する預金者もいたとみられる」と野村総合研究所の木内登英氏はみる。

JPモルガンの3月末時点の預金残高が22年末から2%増えたのも中堅・中小行の預金保護への不安が一因とみられる。

イエレン米財務長官は3月21日、預金の全額保護をSVB以外にも適用する可能性があると表明した。対象は「より小さな金融機関」と限定。FRCはSVBより規模は大きい。預金流出を抑えると同時に、預金保護が「見えない政府保証」になるモラルハザードも避ける狙いだが、救済基準のブレとみなされ、預金流出を招いた面もある。

米連邦準備理事会(FRB)は4月28日に公表したSVB破綻の経緯を検証した報告書で、同行の抱える企業統治(ガバナンス)や流動性、金利リスクへの評価や警鐘が不十分だったと認めた。FRCでも預金流出や金利上昇による資産の劣化が致命傷になり、当局が脆弱性を事前にどれだけ把握し改善を求めていたかが論点になる。

1日の米株式市場ではJPモルガンの株価が一時、前週末比で4%上昇した。終値は2%高だった。同社はFRC買収が業績押し上げにつながると説明、損失リスクを抑えた契約になったことから買いを集めた。ただ地銀株の動向を映す上場投資信託(ETF)「SPDR S&P地銀株ETF」は3%近く下げた。金融不安が収束するかは不透明だ。

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野崎浩成
東洋大学 国際学部教授
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ひとこと解説 記事中で指摘されていた「(モラルハザードを防ぐため)イエレン財務長官が預金全額保護対象はSVB以下の規模」とした点が、急激な預金流出の主因だと思います。日本のケースでは、1995年から10年もの歳月をかけて預金全額保護の政策を段階的に解除(いわゆる「ペイオフ凍結解除」)していきました。アメリカにおいては、市場原理を歪める政府介入を必要最小限に留めて(預金者、銀行双方の)モラルハザードを排除する発想が根底にあるため、SVB破綻で英断と思われた預金全額保護の効果を希薄化してしまいました。預金者の心理を見誤った感があります。
2023年5月2日 7:03いいね
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木村恭子
日本経済新聞社 編集委員
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ひとこと解説 FRCは米カリフォルニア州サンフランシスコが本拠地の商業銀行・信託会社で、富裕層向けのサービスを提供しています。資産規模は2022年末時点で全米14位(23年4月13日時点の総資産は2291億ドル=約31兆5000億円)。対して、買収した側のJPモルガン・チェースは、機関投資家向け事業を「J.P.モルガン」ブランドで、中小企業、個人向け事業を「チェース」ブランドで展開し、総資産は3兆ドル超と400兆円を超し、全米1位、世界でもトップ5に入っています。
SF在住の友人は「ひと安心」と話しますが、米金融大手モルガン・スタンレーが大規模な人員削減を検討しているとのニュースもあり先行きは不透明です。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN020BA0S3A500C2000000/ 』