米軍高官「フィリピン補給支援の用意」 中国の妨害非難
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN2948T0Z20C23A4000000/
『【ワシントン=中村亮】米太平洋艦隊のサミュエル・パパロ司令官は中国が南シナ海でフィリピン船の補給活動を妨害しているとして「明らかに違法だ」と非難した。「主権国家に属する権利の行使でフィリピンを支援する用意がある」と断言し、中国の海洋進出を阻止する姿勢を鮮明にした。
バイデン米大統領は5月1日、ホワイトハウスでフィリピンのマルコス大統領と会談する。フィリピンの大統領がホワイトハウスを訪れるのは11…
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『フィリピンの大統領がホワイトハウスを訪れるのは11年ぶり。南シナ海の実効支配を進め、台湾に威圧行為を続ける中国への対処が最大の焦点になる。
インド太平洋地域で海軍の運用を統括するパパロ氏は28日の日本経済新聞のオンライン取材で、南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島に位置するアユンギン礁周辺での中国船の活動を批判した。「中国がフィリピンの補給活動を頻繁に妨害している」と断じた。
フィリピンは1999年、艦船シエラ・マドレをアユンギン礁に座礁させて軍駐留の拠点とした。中国は南シナ海のほぼ全域を囲む「九段線」の内側に管轄権があると主張し、同礁もその一部だ。フィリピンが船でシエラ・マドレへ補給に行くと中国の妨害にあうケースが相次ぎ、同礁周辺は衝突リスクが最も高まる海域の一つだ。
4月下旬に中国海警局の船舶がアユンギン礁付近で、フィリピン巡視船まで約40メートルに異常接近したとする映像などが報じられた。記者がフィリピン船に同行していたAP通信は「衝突寸前だった」と指摘した。2月にもフィリピン巡視船が中国船からレーザー照射を受ける事件が起きた。
パパロ氏は「排他的経済水域(EEZ)でフィリピンに属する権利を支持する」と強調した。シエラ・マドレへのフィリピンの補給活動に関し、情報共有を通じて支援していると明らかにした。パパロ氏は詳細に触れなかったが、偵察機や人工衛星で集めた中国船の位置や動向を提供している可能性がある。
米国は国連海洋法条約に基づくオランダ・ハーグの仲裁裁判所が2016年に下した南シナ海をめぐる判決を全面的に支持している。アユンギン礁に関し、フィリピンのEEZに含まれると判断していた。
パパロ氏はインド太平洋地域で海軍の運用を統括する=米海軍提供
パパロ氏は米海軍や沿岸警備隊の艦船を使った支援に関し「現時点で実施しておらず、要請もない。しかしその準備はある」と話した。アユンギン礁周辺で船舶の衝突などが起きて中国とフィリピンの紛争に発展すれば米軍が介入する姿勢を示し、中国を抑止する発言だ。
南シナ海で米国とフィリピンの2国間だけでなく、日本やオーストラリアも交えた多国間の安全保障協力に意欲を示した。「我々の船がともに行動すれば巡回活動による抑止力の質が何倍にも増す。それは同盟の結束を示すからだ」と言及した。多国間協力を探り、中国の実効支配強化を止める狙いだ。
バイデン氏と韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は26日の首脳会談で、核兵器を搭載できる米海軍の戦略原子力潜水艦を韓国に送ると決めた。
パパロ氏は韓国寄港の効果に関し「原潜は米国や同盟国の安全保障や自由、幸福を脅かす全ての核保有国を抑止するために海中で活動する」と語った。北朝鮮に加え、中国の抑止にもつながるとの見方を示唆した。
寄港は米国の核戦力を分かりやすく誇示する狙いがある。遠方からの奇襲攻撃を特徴とする原潜が北朝鮮や中国に近い韓国へ寄港する軍事的意義は乏しい。
パパロ氏は原潜運用に関し「沈黙の領域であり続ける」と語った。運用の秘匿性を維持し、韓国への寄港は例外的な措置だとの見方を示した。
米海軍は米国と英国、豪州の安全保障の枠組み「オーカス」に基づき、豪州西部で27年にも最大4隻の攻撃型原潜の巡回配備を始める。
パパロ氏は「西太平洋で潜水艦戦力の即応力が上がる」と断言した。「攻撃を仕掛けたり、米国や同盟国、パートナー国を脅かしたりする全ての者に素早く代償を科せる」と話した。
中国は精度の高い大量のミサイルを保有し、射程も延びている。台湾周辺や南シナ海で有事の際には米軍の水上艦や航空機は中国に近づくほど攻撃を受けるリスクが高まる。敵に見つかりにくい潜水艦の重要性が増している。』