米国で蔡英文は米下院議長と何を話したか
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/30047
『2023年4月7日付の台湾英字紙タイペイ・タイムズの社説が、蔡英文総統とマッカーシー米下院議長との会談について、政治的、象徴的な意味は極めて大きかったと評価し、同時に台湾人に自由と民主主義を守る不断の努力を呼び掛けている。
(Taiwan Presidential Office/AP/アフロ)
4月5日、蔡英文総統とケヴィン・マッカーシー米下院議長および超党派の米議員団は、米カリフォルニア州ロサンゼルス近郊のロナルド・レーガン大統領図書館で会談した。台湾の総統と米下院議長が米国で会談するのは初めてである。
蔡は「われわれは、民主主義が脅かされている世界に生きていることを再認識した。自由の道標を輝かせ続けることの緊急性は決して過小評価し得ない」と述べた。マッカーシーは「台湾と米国の人民との間の友情は、自由世界にとり根本的に重要で、経済的自由、平和、地域の安定にとっても非常に重要なことだ」と述べた。
蔡は「徳は孤ならず」との論語の一節を引用し、「台湾は、われわれの生き方を守るための努力において、米国が側にいてくれることに感謝している」と述べた。成果こそ少なかったが、会談は非常に象徴的で、米台関係における政治的突破口となった。
マッカーシーとの会談は、台湾の総統が米国内で受けた最高レベルの歓待だ。会談と事後のオンライン声明でマッカーシーは一貫して蔡を「台湾の総統(President of Taiwan)」と呼び、米国の台湾を支援する強固な姿勢を再確認させた。
レーガン大統領図書館という会談場所も重要だった。レーガンは、冷戦期間中に共産主義を押し戻し、1982年に米台関係の基礎を敷く「六つの保障」を提案した象徴的な人物だ。マッカーシーと超党派の米議員団は、レーガンの精神を利用して、権威主義的な中国に対抗して米国が台湾と共に断固とした姿勢をとることを国際社会に示した。
レーガンは「自由は各世代が絶えず戦い守り続けなければならない」と述べた。台湾人は自由と民主主義が天から降ってきたものではないことを忘れてはならない。自由と民主主義は継続的に守るべきものであり、台湾には同盟が必要だ。米国ほど重要な支援者は他にない。
- * * 上記の通り、タイペイ・タイムズは、今回の蔡英文・マッカーシー会談を高く評価している。 蔡英文総統と米下院議長マッカーシーの会談は、蔡英文の中米訪問の途次に、米国ロサンゼルスに立ち寄り実現した。これまでに、米国内において台湾総統が受けた最高レベルの公的歓待であったと言える。 マッカーシーは蔡のことを台湾総統(President of Taiwan)と呼び、米国の台湾支持が確固としたものであることを強調した。実質的な点では、蔡とマッカーシーは台湾に米国の武器をより迅速に調達・供与する法案などを議論したようである。 蔡とマッカーシーの会談は極めて象徴的であり、米台関係における「一つの政治的突破口」を開くものとなったというタイペイ・タイムズの社説は、おそらく言い過ぎではないであろう。』
『蔡・マッカーシー会談に引き続き、米下院外交委員長マコーネル率いる米超党派議員団が台湾を訪問し、台湾軍への訓練に協力することや迅速な武器提供の意向を示した。同氏は「下院外交委員長として、自分は対外軍事物資売却に署名しており、台湾への武器売却を確約する」と述べた。
台湾のメディアや人々の間では、最近の一時期に、いわゆる「疑米論」が盛んに論議された。それは、いざという時、米国は果たして台湾を支援してくれるのかという議論である。米国は、いざとなったら台湾を見捨てるのではないかという米国への疑問を持つ考え方である。マッカーシー、マコーネルたちの武器提供を含む台湾支援の明確な意思表示は、この「疑米論」を強く否定するものとなっただろう。
野党・国民党には「微笑み外交」を展開する中国
台湾では来年1月の総統選挙に向け、民進党、国民党など与野党の駆け引きが活発化してきた。馬英九・前国民党総統の中国訪問は、蔡英文総統の米国訪問とほぼ同じ時期に行われたが、両人の外遊は両党の違いを鮮明にした。馬英九は中国共産党員らと融和ムードを演出し、「一つの中国」原則を認め、中国との対話を回復することが台湾への利益になると主張した。これは、自由と民主の価値観を共有する国々との連携を深め、中国との統一を拒絶して現状維持路線をとる蔡英文民進党政権と対照的である。
中国は台湾に対し硬軟両様の構えであり、民進党に対しては軍事力をもって威圧しつつ、他方、国民党に対しては微笑み外交を用いることで台湾人を引き付けようとしている。中国の台湾懐柔の情報戦・心理戦は今後ますます激しさを増すものと思われる。
中国軍は、蔡・マッカーシー会談への「対抗措置」として、台湾を取り囲む軍事演習をおこなった。中国の戦闘機71機が台湾海峡の「中間線」を越え、台湾周辺海域には艦船9隻が確認されたという。また、中国の新しい空母「山東」が、初めて西太平洋での訓練に参加した。このような「軍事演習」は、昨年夏のペロシ下院議長の台湾訪問の際に、中国軍が行った「軍事演習」、特にミサイル弾道弾発射訓練を想起させる。その時、5発のミサイル弾道弾が日本の排他的経済水域(EEZ)に落下した。
今年に入ってからも、尖閣諸島周辺での中国公船による領海侵犯の最長記録の更新や、南西諸島での中国軍艦等の不穏な動きもあり、「台湾有事は日本有事」の緊張感は増している。』