立法情報【中国】反スパイ法の制定

立法情報【中国】反スパイ法の制定
主任調査員 海外立法情報調査室 岡村志嘉子
https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_8896333_po_02620109.pdf?contentNo=1

 ※ 例によって、テキスト変換した。

『・より強固な国家安全体制の構築を目指す習近平政権の下、スパイ行為の取締り強化を目的と
して、国家安全法をその題名を含めて改正した反スパイ法が2014年11月1日に施行された。

1経緯

2013年11月12日、中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議(三中全会)にお
いて、国家安全体制と国家安全戦略を強化し国家の安全を確保するために国家安全委
員会を創設する方針が決定され、習近平総書記が中央国家安全委員会主席に就任した。

2014年4月15日に招集された同委員会の第1回会議では、近年の国内の社会情勢及び
国際情勢の変化を踏まえ、「政治の安全、国土の安全、軍事の安全、経済の安全、文化
の安全、社会の安全、科学技術の安全、情報の安全、生態系の安全、資源の安全、核
の安全を一体化した国家安全体系を構築する」とする新たな理念が提示された。

このような新たな方針の下に、より強固な国家安全体制を構築するための法整備の
一環として、国家安全法(注1)の改正が行われることになった。

1993年2月22日に
制定された同法は、国家の安全を守り、中華人民共和国の政権と社会主義制度を擁護
し、改革開放と社会主義現代化建設の順調な進展を保障することをその立法目的とし、
全34か条から成る。

2014年8月、第12期全国人民代表大会常務委員会(以下「全人
代常務委」)第10回会議に提出された同法改正案は、法律の題名を「反スパイ法」と
改め、現行規定の内容を基礎としつつ、スパイ取締りという立法目的を明確に打ち出
した。

法執行上の実効性を高めるため、規定内容がより具体化されたほか、刑法、刑
事訴訟法、行政強制法、行政処罰法等の関係規定との整合性も図られた。改正案は審
議後、意見公募を経て、当初の法案にはなかったスパイ行為についての5項目の具体
的な定義規定が加えられ、2014年11月1日、全人代常務委第11回会議で再度審議さ
れた後、可決、成立した。

成立した反スパイ法(注2)は全40か条から成り、2014年11月1日公布、同日施
行された。

2反スパイ法の構成と主な内容

(1) 構成

第1章:総則(第1条〜第7条)、第2章:スパイ取締り活動における国家安全機関
の職権(第8条〜第18条)、第3章:国民及び組織の義務及び権利(第19条〜第26
条)、第4章:法的責任(第27条〜第37条)、第5章:附則(第38条〜第40条)。

(2) 立法目的と適用範囲

スパイ行為の防備、制止及び取締りにより、国家の安全を守ることを目的とする(第
外国の立法(2015.1)

国立国会図書館調査及び立法考査局
立法情報
1条)。中国大陸外の機関、組織及び個人(以下「機関等」)が行い(他人を指図若しく
は資金援助して行うものを含む)、又は中国大陸内外の機関等が結託して行う中華人民
共和国の安全に危害を及ぼすスパイ行為は、いずれも法律に基づいてその責任を追及
する(第6条)。

(3) スパイ行為の定義

①スパイ組織及びその代理人が行い、又は中国大陸内外の機関等が結託して行う中
華人民共和国の安全に危害を及ぼす活動、②スパイ組織への参加又はスパイ組織及び
その代理人の任務引受け、③スパイ組織及びその代理人以外の中国大陸外の機関等が
行い、又は当該機関等と中国大陸内の機関等が結託して行う国家秘密若しくは情報を
窃取、偵察、買収若しくは不法に提供する活動、又は公務従事者に国家を裏切るよう
扇動、誘惑、買収する活動、④敵に対する攻撃目標の指示、⑤その他のスパイ活動、
の5項目をスパイ行為として定義する(第38条)(注3)。

(4) スパイ取締り活動の基本方針と実施主体

スパイ取締り活動は、中央政府による統一的な指導を堅持し、公開活動と秘密活動
の連携、専門要員の活動と大衆路線の連携、積極的な防御、法に基づく取締りを原則
とする(第2条)。国家安全機関がスパイ取締り活動を主管し、公安その他の関係機関
及び軍の関係部門は、法に基づいて適切な業務分担と相互協力を行う(第3条)。

(5) スパイ取締り活動に対する国民の権利及び義務

中華人民共和国の国民は、国家の安全、栄誉及び利益を守る義務を有し、それらに
危害を及ぼす行為をしてはならない(第4条)。スパイ取締り活動は、法に基づいて行
い、人権を尊重及び保障し、国民及び組織の合法的な権利利益を保障しなければなら
ない(第5条)。国民及び組織はスパイ取締り活動に便宜提供又はその他の協力を行わ
なければならず、スパイ取締り活動への協力により本人又は親族の身に危険が生じた
場合、国家安全機関に保護を求めることができる(第20条)。

⑹スパイ取締り活動における守秘義務

国家安全機関及びその職員が法に基づいてスパイ取締り活動を行う過程で取得した
組織及び個人の情報や資料は、スパイ取締り活動にのみ用いることができ、国家秘密、
営業秘密及び個人のプライバシーに属するものについては、その秘密を守らなければ
ならない(第1?条)。

注(インターネット情報は2014年12月11日現在である。)

(1) 「中^人民共和国国家安全法」国^院法制ふ公室
(2) 「中^人民共和国反]、司^法」同上
(3) 第5項目については、定義が曖昧なため拡大解釈される可能性があるとの指摘がある。「反間諜法通
過 専家指除異己」『明報』2014.11.2. ; 「中国、『反スパイ法』を施行」『日本経済新聞』2014.11.2.
外国の立法(2015.1)

国立国会図書館調査及び立法考査局 』