アフリカへの関与を強めるロシア 得をするのはどっち?

アフリカへの関与を強めるロシア 得をするのはどっち?
https://forbesjapan.com/articles/detail/61748

『2023.03.21

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を巡り、アフリカは外交上極めて危険な綱渡りを強いられている。ケニアの国連大使は、ウクライナの苦境を植民地支配後のアフリカの苦難になぞらえて感情を表現した。それはまさに的を射ていた。アフリカの人々の多くは民主的な規範を受け入れており、ウクライナに対する共感が広がっているとの調査結果もある。

だが、残念ながら、広範な共感が国の政策に反映されるには至っていない。アフリカ諸国は食料安全保障への懸念からロシア産の食料に依存しており、ウクライナ侵攻からは距離を置かざるを得ないのが現状だ。こうした食料依存に加え、ロシアは資源外交や軍事展開の方針を変えることで、アフリカにおける外交戦略を強化しつつある。

他方で、ロシアへの食料依存とは裏腹に、アフリカは西側諸国による対ロシア制裁からかなりの恩恵を受けている。ロシアが欧州市場から締め出されていることで、アフリカ諸国にとっては競争相手が減り、自国産の商品価値が高まることになるからだ。エネルギー資源を必要としている欧州を救うことができるのはアフリカであることは明らかで、こうした背景では、アフリカ側にとっては有利で安定した取引の契約を結ぶことができる。これはアフリカの経済発展に不可欠な要素でもある。

一方、ロシアはこうした状況をもたらす市場原理に対し、経済的に対抗することも、変化を起こすこともできないのは見てのとおりだ。アフリカの外国直接投資(FDI)でロシアが占める割合はわずか1%に過ぎず、ロシアのウクライナ侵攻は欧州とアフリカの経済的な連携を強めただけだ。

ロシアが損をする代わりにアフリカが得をした例は枚挙にいとまがない。アフリカ第6位の天然ガス埋蔵量を持つタンザニアは、英シェルやイタリア炭化水素公社(ENI)をはじめとする欧州のエネルギー企業と再交渉し、海洋液化天然ガス(LNG)プロジェクトを今年中に復活させることで最大300億ドル(約4兆円)の外資を呼び込むことに成功した。

セネガルは今年後半、天然ガスの大規模生産を開始し、今後整備される予定の液化施設やモロッコにつながるパイプラインを利用して欧州に供給することを見込んでいる。

ナイジェリアは昨年上半期時点ですでに欧州のLNG需要の14%を満たしていたが、今後さらなる供給拡大を計画している。

ナミビアは欧州のエネルギー不足に乗じてグリーン水素の輸出基地を建設し、欧州のエネルギー市場に参入。これらはいずれも、ロシアが自ら欧州のエネルギー市場から孤立する道を選ばなければ、実現しなかっただろう。』

『アフリカでは全体的にロシアの資本投資の割合は低いものの、ロシアは最大限の政治的利益を得るためにまとまったかたちで影響力を行使できる一部の地域や分野に投資を集中させている。ロシアからの輸入品の大半は、インフラ建設機器や軍需品など戦略的に重要な分野に集中しており、アフリカ諸国の軍隊や支配層はロシア側の意向を酌んだ上で行動することを余儀なくされている。

また地理的にも、ロシアの資本投資は戦略的に重要な一部の市場に集中している。例えば、ロシアは「アフリカのシンガポール」と呼ばれるルワンダの驚異的な躍進に着目し、同国のインフラ整備や原子力部門にまで投資の手を伸ばしている。これにより、アフリカの他の国々もルワンダに倣い、ウラン生産やロシア国営原子力企業ロスアトム製の原子炉購入などでロシアと提携することが期待されているのだ。

紅海の入口という極めて重要な位置にあるジブチでは、ロシアが以前から海軍基地の設置に関心を示しており、同国での影響力の強化を図っている。まさに19世紀の「グレートゲーム」(訳注:19世紀に中央アジアの覇権を巡って繰り広げられた英露の抗争)を彷彿とさせる地政学的な争奪戦において、ロシアは米中をはじめとするジブチに軍事基地を持つ他の8カ国と肩を並べようとしているのだ。

ロシアはまた、自国のロスネフチやガスプロムといったエネルギー企業による投資を利用して、アルジェリアやモザンビーク、カメルーン、ガボンの欧州への石油・天然ガス輸出を妨害しようとした。

筆者が拙著『ロシア帝国主義 発展と危機』(仮訳)で概説したように、過去数世紀にわたるロシアの周辺地域への拡張主義的な侵攻の原点は、同国の不変かつ執拗なまでの帝国主義的な意図に根ざしている。

しかし、ロシアが自国の力量を超えてアフリカへの関与を強めても、アフリカの大部分はロシア政府から遠い存在であることに変わりはない。なぜならロシアには、欧米や中国のようにアフリカの国家政策に決定的な影響を与えられるだけの経済力がないからだ。』

『 とはいえ、ロシアによるアフリカとの関係維持の努力の一部は成功している。例えば、サハラ砂漠南縁のサヘル地域の支配層がイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」の関連組織に対抗するための資源や力を確保しようと奔走する中、同地域へのロシアの関与は、マリにおけるフランスの影響力をしのぐほどになっている。ロシアはアフリカでの計画を遂行するために、ワグネル・グループを含む自国の民間軍事会社の利用を進めている。
ワグネルは自国のウラジーミル・プーチン大統領との直接のつながりを持ち、大きな影響力でマリの政策を揺さぶっている。オランダ・ハーグに本部を置く国際刑事裁判所への提訴が望まれるワグネルが犯した犯罪の中には、同社がマリ産の鉱物、特に現代の環境技術に欠かせないレアアースを独占したことなどがある。中央アフリカ共和国でも、ロシアの傭兵がレアアースの鉱区を採掘していた。同国ではロシアの傭兵が大統領のパレードも先導するなど、国家の実権を握っていることを示した。

戦略的に重要な紅海地域では「アフリカの北朝鮮」と呼ばれるエリトリアが支配を維持するために、ロシアの国内治安機関に依存している。その対価として、エリトリアは天然資源や鉱物の利権のほか、国連での投票でロシアに便宜を与えている。隣国スーダンでは、ロシアが紅海に自国の海軍基地を建設することを視野に、スーダンに対する武器輸出を停止するなど多大な政治的圧力をかけている。

このように、ロシアはアフリカ全土で、西側諸国との新たな政治経済関係の構築を阻止するための破壊勢力の一翼を担う一方、中国に対しては交渉上の立場を築いている。そうすることで、アフリカの開発の遅れを助長しているのだ。こうした策略は弱さの表れであり、あからさまな搾取だと認識しなければならない。

このような破壊的な取り組みを行い、長期的な関係を壊し、アフリカ大陸を飢餓に陥れると脅すことは、ロシアが弱く、反欧米イデオロギーに根ざしているためだ。これは、他の方法では影響力を行使することができないために、欧米や国際社会全体の民主主義秩序を弱めようとする絶望的な勢力の行動だ。アフリカの人々が自らの大陸の未来を考えるのであれば、ロシアの行動の危険性を認識しなければならない。アフリカにおけるロシアの影響力に対抗する最善の方法は、アフリカの人的資本に投資しながら、同地域と欧米の安全保障や資源、貿易による結びつきの発展を促すことだ。そうしなければ、アフリカと西側諸国は、ロシアによる組織的な地政学的不安定化作戦に真っ向から対抗することなどできないだろう。

(forbes.com 原文)

翻訳・編集=安藤清香

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