自民党内に早期解散論、2つの思惑 岸田首相が見極めへ

自民党内に早期解散論、2つの思惑 岸田首相が見極めへ
衆参5補欠選挙、自民4勝1敗
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA232W30T20C23A4000000/

『衆参5つの補欠選挙で自民党が「4勝1敗」と勝ち越した。政権の中間評価と位置づけられる選挙で結果を残したものの、勝利した選挙区でも衆院千葉5区や参院大分選挙区は野党候補と僅差だった。自民内には2つの「早期解散論」が浮上する。

補選は首相のウクライナ訪問などで追い風が吹く状況で迎えた。自民内にくすぶってきた1つ目の早期解散論は5月に広島で開く主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)の余勢をかる案だ。6…

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『6月21日までの今国会の会期内で衆院解散に踏み切る段取りを描く。

日本経済新聞の世論調査で内閣支持率は2022年12月の35%から3月には48%に上昇した。「少子化対策を打ち出し支持率の上昇局面で信を問えば一定の議席は確保できる」との読みに基づく。

一方、補選の結果を分析すると自民も万全な備えが整っているとはいえない。

茂木敏充幹事長は23日夜のNHK番組で「統一地方選前半戦は大阪などで苦戦を強いられた。態勢の抜本的な強化、見直しが必要だ」と指摘した。

党本部で衆院解散の判断について記者団に問われ「課題に向き合い結果を出し、国民の期待に応える。そのことをまずやらないといけない」と語った。

その象徴が衆院和歌山1区だ。日本維新の会の吉村洋文大阪府知事が選挙区入りすると形勢は一気に維新に傾いた。岸田文雄首相が2度にわたり選挙区で演説したものの、共同通信の出口調査で無党派層の62%が維新の林佑美氏に流れた。

衆院千葉5区で勝利したのも野党分裂が主因だった。立憲民主や維新、共産、国民民主各党が候補を立て政権批判票が割れた。投票率も過去最低の38.25%で自民に有利とされる状況だったが、およそ5000票差の僅差となった。

ここでも無党派層は立民の新人に32%が向かい、自民の英利アルフィヤ氏は16%にとどまった。与野党一騎打ちの構図となった参院大分では野党各党が共闘し、341票差の激戦となった。

こうした事情で浮上するのがもうひとつの「早期解散論」だ。楽観論ではなく、立民や国民、維新などが共闘態勢を整える前に選挙を実施すべきだとの危機感が後押しする。

統一地方選で勢力を拡大した維新は次期衆院選ですべての小選挙区に候補を立てる構えを示す。野党共闘が成立しなければ、多くの選挙区で維新を含む野党から2人以上の候補が立つ。自民が「漁夫の利」を得る構図で選挙を実施したいとの思惑が先行する。

首相の判断はどうか。24日午前、首相官邸で記者団に解散の判断を問われ「国民の声を聞きながら重要政策ひとつひとつを前進させる。結果を出す、これに尽きる」と述べた。「今、解散総選挙については考えていない」とも言及した。

現状では「早期」と「24年」の選択肢を持ちながら、党内と野党の動向を見極めているとみられる。

首相には24年秋の自民党総裁選という壁がある。解散を総裁選に近づければ衆院選勝利と総裁選の無投票再選を同時に狙うことができ、長期政権への道筋をつけやすくなる。

もっともこのシナリオにもリスクはある。少子化対策による国民負担増や防衛費の増額を賄う増税などが絡む展開となるためだ。党内や有権者の理解を得られなければ支持率が再び下落し、解散そのものが難しくなりかねない。

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竹中治堅
政策研究大学院大学 教授
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分析・考察 自民党候補者が無党派層から大きな支持を得られなかったことが注目されている。共同通信社によれば千葉5区で獲得した割合は16%に留まり、低い。だが、時事通信社によれば21年総選挙時に自民党が無党派層から獲得した支持の割合は23.3%、17年総選挙時でも22.7%に留まる。今回、和歌山1区や山口2区で獲得した支持の割合はあまり変わらず、大分選挙区の34%は上回る。無党派層の支持水準は首相の解散時期の判断を左右するとは余り考えられない。サミットは内閣支持率を押し上げる効果を期待できる。また、自民党は選挙区支部長を着々と決めている一方、野党は分裂状況にある。以上を踏まえ、首相は解散時期を判断するだろう。
2023年4月24日 10:11いいね
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中北浩爾
中央大学法学部 教授
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ひとこと解説 統一地方選、衆参補選が終わり、政局的には衆院解散のタイミングが関心事となります。内閣改造をした上での秋から冬がメインシナリオですが、岸田首相は一昨年の衆院選での電撃戦の成功体験があるので、サミット後解散の可能性が囁かれます。
 この記事にある野党の態勢が整う前に解散したいという思惑については、維新と立憲が本格的な選挙協力に踏み込む可能性は低いため、現実には野党の準備が整わない前の奇襲という性格が濃厚だとみています。
 ただ、そもそも論をいえば、公約など各党が十分に態勢を整えて、有権者の判断を仰ぐのが筋。しかも、サミット後解散だと前回から1年半あまりです。任期4年近く仕事をするのが筋でしょう。

2023年4月24日 10:00 』