[FT]台湾防衛が必須の理由 覇権国の交代を許す事態に

[FT]台湾防衛が必須の理由 覇権国の交代を許す事態に
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『米国は台湾を防衛すべきか。これは抽象的な議論ではない。中国は(台湾の蔡英文=ツァイ・インウェン=総統が4月上旬に米国でマッカーシー下院議長らと会ったことへの不満を表明すべく)、8〜10日に軍事演習を実施し、台湾空爆のシミュレーションに加え、海軍は台湾を包囲する行動に出た。

中国が台湾への軍事的圧力を高めているのを受け、バイデン米大統領は中国が台湾を攻撃したら台湾を守ると繰り返し4回約束している

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『米国ではこうしたバイデン氏の約束を狂気の沙汰だと懸念する向きもある。米シンクタンク、ケイトー研究所のシニアフェロー、ダグ・バンドウ氏は「米国の政策立案者の多くは、台湾を守るために国家的自殺ともいえるリスクを冒そうとしている」と批判する。

世界各地での戦争に疲れている米国が、中国から約160キロメートル離れた人口2400万人の島を守るために、なぜ核兵器を持つ大国、中国と戦う用意があるなどと脅す必要があるのか。

「自分たちと関係のない危険」としたマクロン仏大統領

台湾を防衛する必要があるのかという懐疑論は、欧州の一部ではもっと顕著だ。4月5〜7日に訪中したマクロン仏大統領は帰途の機中で、フランスが台湾防衛のために行動に出ることはないとの考えを示した。同氏は台湾問題について米メディアのポリティコに対し、欧州にとっての「大きな危険」は「自分たちと関係のない危機に巻き込まれること」だと語った。

実際、欧州の軍隊が台湾を巡る紛争に直接巻き込まれると考える人はほとんどいない。しかし、マクロン氏を含む欧州の政治家の台湾への姿勢は重要な意味を持つ。

それは中国が台湾を攻撃した場合、いかなる経済的、外交的コストが生じるかを把握しようとする中国の計算に影響を与えるからだ。

欧米の指導者にとって、台湾がどうなろうと気にする必要が全くなければ事態は簡単だ。だが現実には中国が武力で台湾を併合すれば、フランスのパリから米イリノイ州ピオリアのような地方にまで、世界的に重大な影響がすぐ広がることになる。

台湾支援が必要な3つの根拠

台湾を支援しなければならない根拠は主に3つある。第1は世界の政治的自由の未来にかかわる。第2は世界のパワーバランスがどうなるのか。第3は世界経済への影響だ。この3つの要因を統合すると、何が何でも台湾が中国の手に落ちる事態を許してはならないということになる。

中国共産党は、一党独裁が中国にとって完璧な制度だと主張する。そして米国のリベラルで民主的な価値観は、西側諸国ですらうまく機能していないし、中国のような共同体的な文化を持つ社会には悲惨な事態を招くから広めようとするのをやめるべきだと強く主張する。

だが台湾は、社会は活気にあふれ繁栄している。これは民主主義が中国的な文化にも根付く可能性があることを立証している。台湾という存在自体が、中国が将来、どう運営されたらいいかという現実的な選択肢の一つを示す格好となっている。

中国はすでに香港市民が求めた民主化を徹底して弾圧した。習近平(シー・ジンピン)国家主席が台湾でも同じ行動に出るのを許せば、中国語圏は中国共産党による独裁が浸透することになる。

中国は21世紀の新たな超大国として浮上しつつあるだけに、そうした事態は世界の政治に暗い影を落とすことになる。米国が民主化を推進しようとすることに批判的な人々は、中国の独裁政治には、それ以上に否定的かもしれない。

中国がいつか政治的自由を受け入れるようになるという可能性は、現時点では極めて低い。だがインド太平洋地域には日本、韓国、オーストラリアなど繁栄している民主主義国がいくつもある。それらの国はいずれも、自国の安全保障を米国にある程度依存している。
もし中国が侵攻、あるいは強硬手段で台湾の自治を押しつぶし、民意に反して政治的統合を進めれば、インド太平洋地域における米国のパワーは深刻な打撃を被ることになる。

中国がインド太平洋で覇権握れば世界の覇権国に

この地域に新たな覇権国が誕生する可能性が高まれば、各国はその新たな状況に対応することになる。恐らく多くの国は外交政策や国内政策を見直すことで中国とうまくやっていこうとするだろう。近隣諸国はすぐ強権的な言動をとる新たな覇権国を怒らせまいと、言論や行動の自由を早々に制限するようになるだろう。

インド太平洋地域が世界人口と世界の国内総生産(GDP)の約3分の2を占めることを踏まえれば、中国が同地域の覇権を握った場合、その影響は世界的に広がることになる。中国がこの地域を支配すれば、それは中国が米国に取って代わって世界の覇権国となる可能性が高いことを意味する。

そうした世界的パワーバランスの変化による影響を欧州が受けずに済むなどと考えるのは愚かだ。しかも欧州は今、中国の同盟国で独裁主義を貫くロシアと対峙するのに、米国にかつてないほど依存している。

一般市民にとって「覇権」という抽象的な概念は、あまり関係ないとみる人もいるかもしれない。しかし、台湾経済が半導体を中心に発展を遂げたことは、台湾が中国の支配下におかれた場合、世界中の人々の生活水準にすぐにも重大な影響を及ぼしかねないことを意味する。

台湾の半導体支配されれは世界経済のアキレスけんを握られる

台湾は世界の半導体の60%超を、先端半導体については約90%を生産している。携帯電話から自動車、産業機械に至るまで現代の生活を支える機器を動かしているのは台湾製の半導体だ。だが中国が侵攻すれば、それらを生産する半導体工場は破壊されるかもしれない。
たとえ台湾の半導体工場が破壊を免れたとしても中国政府の支配下に落ちれば、その経済的影響は甚大だ。中国が世界最先端の半導体を支配することになれば、世界経済のアキレス腱(けん)を握ることになる。

米国がすでに認識しているように、台湾の半導体産業を自国で同じように発展させることは考えるよりもはるかに難しい。

こうした要因はすべてが経済的、戦略的、政治的に米国とその同盟各国にとって台湾を防衛すべき正当な根拠となる。

まともな神経の持ち主なら、米国と中国の戦争を望む者などいない。だが、過去と同様、平和を維持するために戦争に備えておくことが必要な時もある。今がそういう時であると理解しておくべきだろう。

By Gideon Rachman

(2023年4月10日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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ギデオン・ラックマン

Gideon Rachman 英国生まれ。英BBCや英エコノミストなどを経て2006年FTに入社。同年、現在の外交関係の論評責任者に。2016年政治分野のジャーナリストとして英オーウェル賞を受賞。著書に「Easternization」(2016年)などがある。

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