米財務長官、中国に経済協議で秋波 「両国の利益に」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN20CTH0Q3A420C2000000/
『【ワシントン=高見浩輔】イエレン米財務長官は20日、米ワシントンでの講演で、中国に対して「健全な経済競争は長期にわたって両国に利益をもたらす」と協議に応じるよう呼びかけた。訪中への意向を改めて表明したうえで、保護主義的な経済慣行の是正や途上国の債務問題の分野で協力するよう求めた。
関係改善の障壁となっている課題解決を中国に求める姿勢は従来と変わらないが、米国の姿勢を整理した今回の講演は訪中への地…
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『米国の姿勢を整理した今回の講演は訪中への地ならしとの見方がある。イエレン氏は「経済問題に関して重要かつ実質的な対話を希望している」と話した。
講演では中国への対応を3つに整理した。最優先は米国や同盟国などの国家安全保障と人権問題に関わる分野で「たとえ経済的な利益とのトレードオフ(相反)を迫られても妥協することはない」と一線を引いた。人権を巡っては新疆ウイグル自治区や香港、チベットで虐待があると懸念を示した。
2つ目は公正な条件での経済競争だ。中国政府が海外との競争で優位に立つため、大規模に自国企業を支援していると批判した。特に最新技術に関わる産業では「知的財産の窃盗やその他の不正な手段によるものも(中国の戦略に)含まれている」と明言した。両国の経済成長と技術革新を促進するうえで改善が必要だと訴えた。
最後に気候変動対応や途上国の債務問題といったグローバルな課題への協力を求めた。中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席がバイデン米大統領と2022年11月にインドネシアのバリ島で会談した際に合意した内容で「世界に対する共同の義務として約束を果たすよう求める」と強調した。
「近年、米中の対立は避けられないという見方が高まった背景には『米国が衰退する』という懸念があった」と指摘。新型コロナウイルス禍からの経済回復を例示して「数十年前からある米国衰退論は常に間違えてきた」とも話した。「米中はともに生き、世界の繁栄を分かち合う方法を見つけることができる。見つける必要がある」と訴えた。
イエレン氏はかねて中国との対話には前向きで、米中首脳会談があった22年11月のバリ島では中国人民銀行(中央銀行)の易綱総裁と会って意見交換をした。23年1月にはアフリカ訪問の途中に立ち寄ったスイスで劉鶴(リュウ・ハァ)副首相とも会談している。
イエレン氏はロシアのウクライナ侵攻後に、同じ価値観どうしの国での供給網を強める「フレンドショアリング」を提唱しており、国際通貨基金(IMF)などは世界経済の分断につながると懸念を示している。
11日の記者会見でこの点について聞かれたイエレン氏は「一部の品目で中国に対する過剰な依存を懸念している」だけだと主張。「フレンドショアリングが巨大な分断を引き起こし、貿易のメリットを失わせるという議論は成り立たない」と述べ、あくまで自由な競争環境を望んでいることを強調していた。
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上野泰也
みずほ証券 チーフマーケットエコノミスト
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ひとこと解説 英経済紙フィナンシャルタイムズは1面で、このイエレン演説をとりあげていた。「米国の中国とのデカップリングは双方にとり破滅的(disastrous)とイエレンが警告」という見出しが付けられていた。米中は世界第1・第2位の経済大国であり、両国の企業にとって大きなマーケットである。経済が完全に分断されることによるデメリットは大きい。だが、イエレン長官が述べた通り、国家安全保障と人権問題で米国は妥協するつもりがない。以前よりも力をつけた中国がアジア太平洋を中心に米国への強い対抗意識を持っていることは歴然としている。また、バイデン政権は基本的人権を重視する性格が濃い。米中が妥協できる余地は、やはり狭い。
2023年4月21日 8:00いいね
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柯 隆のアバター
柯 隆
東京財団政策研究所 主席研究員
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分析・考察 米中は経済的に利益相反の部分がある一方、共通の利益もある。したがって、完全にディカップリングすることができない。問題は価値観をめぐる対立で相互不信がすでに修復できないレベルまで達してしまった。学者出身のハト派イエレンは北京に秋波を送っても、成果をあげられない。企業は利益を追求し合理性で動く主体である。多国籍企業の動向をみても、中国離れが加速しているようにみえる。それでも北京はgoing on my wayを改める気配がない。
2023年4月21日 7:41 』