ロシア・ウクライナ戦争におけるロシアの非従来型の作戦の予備的教訓

ロシア・ウクライナ戦争におけるロシアの非従来型の作戦の予備的教訓
https://milterm.com/archives/3164

『ロシアによるウクライナ侵攻から1年が経ち、各研究機関からレポートが出されている。ここで紹介するのは、英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)のレポートである。ロシアの新興開始後から報道されている、いわゆる従来型の戦争ではなく以前から米国で言われているハイブリッドな戦い(hybrid warfare)の内の表に出てこない側面、非従来型戦(unconventional warfare)に、焦点を当てたレポートである。

このレポートでいう非従来型戦(unconventional warfare)とは、「国家の軍事目標に貢献することを狙いとした隠れた秘密の作戦(covert and clandestine operations)、心理作戦(psychological operations)、転覆(subversion)、破壊工作(sabotage)、特殊作戦(special operations)、インテリジェンス、対インテリジェンス活動の実施」としている。長文であるが、一読されたい。(軍治)

ロシア・ウクライナ戦争におけるロシアの非従来型の作戦の予備的教訓‐2022年2月~2023年2月

Preliminary Lessons from Russia’s unconventional operations During the Russo-Ukrainian War, February 2022–February 2023

Jack Watling, Oleksandr V Danylyuk and Nick Reynolds

目 次

はじめに

戦域の設定

ロシアの工作員ネットワーク

ネットワークの強さと弱さを評価する

活性化の計画

ウクライナにおける非従来型の戦争

占領地における対インテリジェンス体制について

不規則

人的インテリジェンスと偵察

結論

ジャック・ワトリング(Jack Watling)はRUSIの陸戦担当上級研究員。英軍と密接に連携し、作戦コンセプト(concepts of operation)の開発、将来の作戦環境の評価、現代紛争の作戦分析などを行う。ジャック博士は、20世紀初頭の内戦に対する英国の政策的対応の変遷を研究した博士号を持つ。ウクライナ、イラク、イエメン、マリ、ルワンダ、その他の地域について幅広く研究している。現在、ワシントンDCのウィルソン・センターでグローバル・フェローを務める。

オレクサンドル・V・ダニリュック(Oleksandr V Danylyuk)は、ウクライナ対外インテリジェンス庁長官特別顧問、ウクライナ国防大臣顧問を歴任。現在、国防改革センターを率い、ハイブリッド脅威の早期発見と対策のためのNATO-ウクライナ政府間プラットフォームのコーディネーターを務める。RUSIのアソシエイト・フェローを務める。

ニック・レイノルズ(Nick Reynolds) RUSIの陸戦研究員。陸上戦力、ウォーゲーム、シミュレーションを研究テーマとする。RUSI入社以前は、Constellis社に勤務。キングス・カレッジ・ロンドンで戦争学の学士号と紛争・安全保障・開発の修士号を取得。

はじめに:Introduction

2022年2月24日にロシアがウクライナに全面侵攻したことは、ヨーロッパ大陸で烈度の高い国家対国家の従来型の戦い(conventional warfare)が復活したことに各国が反発し、世界中に衝撃を与えた。しかし、この紛争における非従来型の側面(unconventional aspects)にはあまり注意が払われてこなかったが、ロシアの行動と手法を理解する上でこれらは不可欠である。

侵攻そのものは、ロシアがウクライナに対して行った長い非従来型戦役(unconventional campaign)の意図された集大成と見なすことができる。戦時中の非従来型作戦(unconventional operations)は、従来型の戦力(conventional forces)が戦場で目標を達成できない中で、ロシアの歴代勝利論にとって重要な意味を持つことが多い。ロシアの戦争の方法(way of war)を理解し、自国の防衛のための教訓を得ようとする者にとって、この紛争の非従来型の側面(unconventional side)を研究することは重要である[1]。

本報告書では、非従来型戦(unconventional warfare)とは、国家の軍事目標に貢献することを狙いとした隠れた秘密の作戦(covert and clandestine operations)、心理作戦(psychological operations)、転覆(subversion)、破壊工作(sabotage)、特殊作戦(special operations)、インテリジェンス、対インテリジェンス活動の実施と定義している。これらの活動を記述することは、ロシアの非従来型戦(unconventional warfare)が、他の伝統とは異なる正確な用語を使用する明確な方法論の伝統に適合しているという事実によって複雑である[2]。

例えば、米国では「非従来型戦(unconventional warfare)」は、国家を転覆させるために非国家主体を支援することに大きな比重が置かれている[3]。後述するように、ウクライナの国家を転覆させ、それによって抵抗運動(resistance)を崩壊させようとするロシアの試みは、明らかにこの作戦コンセプト(concept of operations)に当てはまるが、採用された手段の組み合わせは、普通は非従来型戦(unconventional warfare)と見なされるものとは異なる重みを持つ。

この特別報告書の一貫した課題は、活動に関するロシア語の用語が、他の伝統では非常に限定的な類似性を持つことが多いということである。全体として、NATOの専門家の聴衆を狙いとしていることから、この報告書ではイギリスの用語を使用している。特定のロシアのコンセプトを使用する必要がある場合は、その旨を説明する。

本報告書は2部構成となっている。第一部は、ウクライナにおける非従来型作戦(unconventional operations)に関するロシアの準備と意図に及んでいる。ウクライナで非従来型戦(unconventional warfare)を行うためのロシアの工作員ネットワーク(agent network)が長年にわたって構築されたことを説明し、このネットワークがウクライナの占領と併合を可能にするためにどのように使用される予定であったかを概説している。

第2部では、占領地での対インテリジェンス体制や闘いの間の特殊部隊(special forces)や非正規部隊の採用など、実際の戦争の展開に照らして、ロシアがどのように非従来型作戦(unconventional operations)を用いたかを論じる。

本報告書は、2014年から21年にかけてのロシアの作戦を詳細に探るのではなく、2022年の侵攻を支援するための非従来型作戦(unconventional operations)の構築と実行に焦点を当てたものである。その狙いは、ロシアの形態と方法を詳述し、それらを混乱させることを可能にし、指標、警告、対策を議論するための非分類の基礎を提供することである。
本報告書の証拠は、ウクライナのインテリジェンス機関、治安機関、法執行機関を通じて、紛争前と紛争中の両方で行われた広範なインタビューから得られたものである。また、本報告書は、ウクライナの戦場で捕獲された、あるいはロシアの特殊機関(special services)や彼らと交流のある組織や団体から入手した大量の資料にも基づいている。

この証拠は、2021年7月から2023年2月の間に観察されたロシアの活動を扱っている。証拠の多くが繊細であるため、この報告書は、特定の詳細を説明することが可能な事件から、ロシアの形態と方法における一般的なパターンを外挿することが多い。

このような推定を行う場合、著者はウクライナの機関間で報告された内容が一貫していること、利用可能な証拠書類があることを確認し、多くの場合、特定した形式や方法に精通しているウクライナ以外の機関に結論を確認した。

ロシアの特殊機関(special services)のような組織を対象とした収集は、これらの組織が活動に関する情報を確保するために取組みしているため、本質的に断片的である。さらに、収集された証拠やその入手方法をめぐるセンシティビティによって、これらのテーマに関する記述はさらに複雑になり、しばしば開示することができない。

例えば、積極的な対策に資金を提供するためのフロント組織の財務記録は、ある団体がロシアの特殊機関(special services)から資金提供を受けているという主張の反論できない証拠を提供するかもしれない。しかし、そのような文書を入手したと宣言すると、資金調達の取り決めに変更が生じ、将来の収集ができなくなる可能性が高く、そのような文書の入手方法についてロシアの特殊機関(special services)による調査が行われることは避けられず、情報源がリスクにさらされる可能性がある。

さらに方法論上の課題として、紛争から引き出される教訓を具体的に示すことが挙げられる。例えば、ロシアの作戦で特定の脆弱性が強調され、友軍のアプローチを変える必要があるとされた場合、友軍が同様の形式を採用したり、同様の方法を使用したりすることを意味し、潜在的に隊員を危険にさらすことになる。

このような危険を回避するために、本報告書では、特定の活動を詳細に記述するのではなく、一般的なパターンと事件に限定して記述している。具体的なロシアの活動が記述されている場合は、そのような活動がどのように特定されたかをロシア側が知っていると判断されるためである。

また、報告書は、ロシアの非従来型戦(unconventional warfare)の実施の活動と脆弱性に分析を集中し、ロシアの成功や失敗が友軍の軍種の形態や方法の変更を必要とする可能性については記述していない。

したがって、本報告書は必ずしも不正確であり、包括的とは言い難い部分がある。しかし、ウクライナに対するロシアの非従来型戦争(unconventional war)の範囲と規模を概説することで、ロシアの非従来型作戦(unconventional operations)のターゲッティングとなる国家が、政策立案者を教育し、ロシアの手法に対する社会の回復力を強化し、ロシアの活動を妨害し、敵対行為の際にロシアの特殊機関(special services)の機会を奪うための準備をする上で役立つ資料となることが期待される。

また、ロシアの非従来型作戦(unconventional operations)を理解することで、ウクライナへの本格的な侵攻におけるロシアの意思決定や従来型軍隊(conventional military)の武力行使の特異な側面を説明できるようになることが期待される。

戦域の設定:Setting the Theater

ウクライナの占領と併合に関するロシアの計画は、キーウに対する長期にわたる非従来型戦(unconventional warfare)を通じてロシアが確立したと考えた前提条件を理解することなしに理解することはできない。この戦略は、何十年もかけて構築された工作員の組織化を前提としたものであったが、モスクワの資産の大半が採用された政策とは根本的に異なる政策に適用されていた。

後述するように、ロシアが意図した敗北メカニズム(defeat mechanism)はウクライナ国内の不安定化と無秩序化であり、政府および軍の指揮命令系統を無力化し、政府機関に対する国民の信頼を損ない、国家の安定を低下させて国際パートナーからウクライナへの援助を最小化することであると考えられた。このような状況下で、ロシア軍は持続的、組織的な抵抗運動(resistance)に遭遇することはほとんどないと予想していた。

適切な兵站の欠如、燃料や弾薬の不足、空襲からの防御さえ不十分なロシアの長い輸送隊の脆弱性など、ロシアが本格的な長期戦闘作戦の必要性を真剣に考慮することなく、軍事的示威(military demonstration)として侵攻を実行したことを示すものである。

大部分は、少数の計画者グループが、2014年のクリミア作戦の成功を繰り返そうと考えたもので、この作戦も軍事的には意味がなく、ウクライナからの軍事的抵抗運動(resistance)がないことを前提に計画された[4]。

2014年2月、ロシアの特殊部隊(special forces)をクリミアに運ぶMi-24戦闘ヘリコプター11機とIL-76軍用輸送機8機がウクライナ領空を侵犯したが、当時のウクライナ軍参謀本部指導部が命令を拒否したためにウクライナ防空が撃墜できなかったことが、こうした無視行為の鮮やかな例である[5]。2022年2月にロシアがキーウ近郊の飛行場にロシア空挺部隊(VDV)を着陸させようとしたのも、同じ論理に完全に当てはまる。

そこで本章では、この工作員ネットワーク(agent network)の構造と、ロシアが本格的な侵攻の際にどのように利用するつもりであったかを取り上げる。ロシアがなぜこのような方法で成功すると考えたのかを理解することは、今後このような行動を抑止するために不可欠である。

ロシアの工作員ネットワーク:Russia’s agent network

侵攻の計画と実行に深く関わったロシア連邦保安庁(FSB)は、2021年7月にウクライナを占領する計画を作成するよう命じられたようだ[6]。そのためにロシア連邦保安庁(FSB)の第5局は作戦情報部の第9課を取り込んで局長にし、イゴール・チュマコフ(Igor Chumakov)少将に報告する参謀を約二十人から二百人以上に増やした[7]。

第9総局は、ウクライナの議会を狙いとしたテーマ別のセクションと、重要な国家インフラを対象としたセクションとともに、州を狙いとしたセクションに構成されている。作戦情報部の役割は、主に計画策定、ターゲッティング、インテリジェンス管理であり、工作員に対するハンドラー(handlers)への優先順位の割り当てである。工作員は必ずしもロシア連邦保安庁(FSB)第5局によって直接扱われるわけではない。

したがって、占領計画の場合、第9総局のタスクは工作員ネットワーク(agent network)の構築と運営ではなく、ロシアの特殊機関(special services)がウクライナ全土で達成したアクセスについて詳細な図を描き、侵攻とその後の占領でこれらの既存の工作員をどのように使用するかを計画することであった。

その上で、工作員のハンドラー(handlers)に、工作員に何を依頼すればよいかを指示する必要があった。そこで、2021年の秋から、ウクライナのロシア人工作員は、トルコ、キプロス、エジプトなどのリゾート地に急遽休暇を取り、そこで偶然にもハンドラー(handlers)に会うことになった[8]。

ロシアの特殊機関(special services)は、可能な限り、ロシアからの工作員の派遣を最小限に抑え、代わりに、独自のネットワークを運営する上級工作員を現地で採用する方法をとっている。

このような顧客ネットワークを構築する上級工作員(agent-gruppovod)を使う方法は、ソ連の機密マニュアルやソ連国家保安委員会(KGB)(海外インテリジェンス機関)第一総局の指示で強く推奨されており[9]、ロシア対外情報庁(SVR)、ロシア連邦保安庁(FSB)第五局、ロシア連邦軍参謀本部情報総局(以下、GRU)の実践として残されてきた。

これらの人物が対象国の政治的、経済的、官僚的な上級者であれば、ロシアの工作員としてではなく、個人的な顧客として人々を勧誘し、その結果、知らず知らずのうちにロシアの利益を増進させることができる。

これは偽旗(false flag)の一種で、工作員が自国の役人に代わってタスクを受けたと思い込むが、そのタスクは最終的にモスクワで立案されたものである、というものである。ウクライナの場合、数人の高官や政治家がこの役割を担っており、後に詳述するが、ロシアの特殊機関(special services)とのつながりは数十年に及ぶ。

内部不安定化は、ウクライナのインテリジェンス機関、法執行機関、他の国家当局、政党、公共団体、犯罪組織内を含む、ウクライナにおけるロシアの特殊機関(special services)の工作員によって試みられた。

今日、ウクライナのインテリジェンス機関や外国のパートナーは、この工作員ネットワーク(agent network)の一部を摘発した。これにより、ロシアの指導者が設定した主なタスクを分析し、その主な形態や方法を理解することができる。同時に、すべてのロシアの工作員とその活動が暴露されたわけではなく、ウクライナと他の国の両方でロシアの工作員のかなりの部分が活発に活動を続けている。

アンドリー・デルカッハ(Andriy Derkach)はウクライナ議会の人民副議長で、ロシア側と協力し、ロシアの利益に沿った政策を進めてきた長い歴史がある。1993年にモスクワのロシア連邦防諜庁(FSK)(現ロシア連邦保安庁(FSB))アカデミーを卒業した後、ウクライナに帰国した[10]。父親はソ連国家保安委員会(KGB)の幹部で、長年ウクライナのウクライナ保安局(SBU)のトップでもあった[11]。

デルカッハ(Derkach)は数年間、ウクライナの国営原子力企業であるエネルゴアトム(Energoatom)を率いていたが[12]、その間にロスアトム(Rosatom)といくつかの契約を結び、ロシアの原子力産業への依存を作り上げた[13]。これはスパイ行為とは言えないが、ウクライナ保安局(SBU)は当時の彼の活動に深く関心を持ち、ウクライナの国家安全保障を脅かす可能性について当時のヴィクトル・ユシチェンコ(Viktor Yushchenko)大統領に報告した。

当時のロスアトム(Rosatom)のトップはセルゲイ・キリエンコ(Sergei Kirienko)で、現在はロシア連邦大統領府の第一副長官として、ウクライナ占領地におけるロシアの政府横断的な取り組みの調整に深く関与している人物だ[14]。

ウクライナのインテリジェンス機関では、ロシアとロスアトム(Rosatom)の利益のためにウクライナの原子力産業に影響を与えることが、2022年以前のデルカッハ(Derkach)の親ロシア活動の主な方向であったと考えられている。これは、デルカッハ(Derkach)が、原子力産業とロスアトム(Rosatom)を主要な責務とするロシアのロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)に扱われていると非難される理由を説明することになる。ウクライナの原子力インフラは、ロシアの侵攻計画や紛争に関する公的なナラティブに重要な役割を果たした。

クレムリン(Kremlin)は侵略の正当化の一つとして、ウクライナが独自の核兵器製造を計画しているという脅威を公にし[15]、それゆえロシアの「特別軍事作戦(special military operation)」のタスクの一つはウクライナの非核化であり、すべての原子力発電所(NPP)と一部の核研究センターを押収する意図が含まれていた。この作戦に備えるため、ロシアの特殊機関(special services)は、核施設の物理的セキュリティを担当する部隊を含む核施設の従業員を採用した[16]。

デルカッハ(Derkach)がロシアの工作員であることが初めて明らかになったのは、ウクライナと米国の関係を損ねることを狙いとした隠れた影響力の戦役(campaigns of covert influence)に参加したときである。こうして2019年から20年にかけて、デルカッハ(Derkach)は、ペトロ・ポロシェンコ(Petro Poroshenko)大統領とジョー・バイデン(Joe Biden)米副大統領(当時)、ウラジミール・プーチン(Vladimir Putin)露大統領との会話を録音した音声記録とともに、ウクライナ内政への米国の組織的干渉の存在を示唆し、米国の高官によるウクライナでの汚職行為を暗示するいくつかの文書(おそらく偽造)を公表した[17]。

2020年から21年にかけて、米国財務省はロシアの対外影響ネットワークに参加し[18]、偽情報戦役(disinformation campaign)を組織し、米国の選挙に干渉したとして、アンドリー・デルカッハ(Andriy Derkach)に対して制裁を課した。米国政府によると、当時、デルカッハ(Derkach)は10年以上ロシアの工作員として活動していた[19]。

デルカッハ(Derkach)のほか、ウクライナ国会議員オレクサンドル・ドゥビンスキー(Oleksandr Dubinsky)、オレクサンドル・オニシチェンコ(Oleksandr Onishchenko)、検事コスチャンティン・クリク(Kostyantyn Kulik)、元検事総長補佐アンドリー・テリジェンコ(Andrii Telizhenko)、その他ウクライナ市民3名に制裁が課された。このグループは、米国政府にも影響を与えようとした[20]。

この目的のために使われた影響力のツールの1つが、ウクライナ議会内の「反腐敗グループ(anti-corruption group)」で、ウクライナへの国際援助配分における腐敗の事実を調査することになっていた。反腐敗調査の最終到達目標は、ウクライナへの国際援助を停止するか、少なくとも削減することだったと考えられている[21]。

ウクライナが外国のパートナー、とりわけ米国からの軍事技術援助に決定的に依存していることから、ウクライナとパートナー国、とりわけ米国との関係を悪化させるロシアの特殊影響工作は、ロシアの特殊機関(special services)の恒常的な優先事項となっている。

2022年6月、ウクライナ保安局(SBU)はデルカッハ(Derkach)のネットワークを公開し、さまざまな文書を押収し、その割り当てられたタスクの概要を明らかにした。デルカッハ(Derkach)は2016年にロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)の管理下に入り、同サービスの第一副長であるウラジーミル・アレクセーエフ(Vladimir Alekseev)将軍とイーゴリ・コスティウコフ(Igor Kostyukov)提督が担当していたようである[22]。

デルカッハ(Derkach)は、ロシア軍の到着時に経路探索と支援を行い、多くの町の支配を維持するための民間警備会社のネットワークの設立をタスクとされていたとされる[23]。この目的のために、彼はロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)から毎月300万〜400万米ドルの分割払いを受けていたとされている[24]。

捜査の秘密を守る必要があるため、ウクライナの対インテリジェンス機関は、デルカッハ(Derkach)が他にどのような機能を有していたかについての追加情報を公表していない。同時に、ロシアの最も重要な工作員の一部がデルカッハ(Derkach)と密接な関係にあったことは明らかであり、彼はロシアの工作員ネットワーク(agent network)、特にウクライナの特殊機関(special services)や議会における最も高い地位にあるウクライナ人の採用に直接関与している可能性がある。

例えば、2022年6月に対インテリジェンス機関によって拘束されたウクライナ保安局(SBU)のオレグ・クリニッチ(Oleg Kulinich)少将も、過去にエネルゴアトム(Energoatom)でアンドリー・デルカッハ(Andriy Derkach)の副官として働き、彼の家族とも親交がある。

ウクライナ保安庁長官室に勤務していたクリニッチ(Kulinich)は、国家機密を構成するデータをロシアの特殊機関(special services)に転送し、ウクライナの国家上級指導部に影響力を行使し、特殊機関(special services)の他の職員を勧誘したほか、特にクリミア半島からの本土侵攻準備についてウクライナのインテリジェンス収集で得られる情報を抑制してウクライナ南部の攻略を援助したとして告発された[25]。

クリニッチ(Kulinich)グループの主なタスクは、国家安全保障システムの弱体化であり、特に、ロシアの工作員を効果的に検知する対インテリジェンス能力、内外の脅威の実態についてウクライナの軍事・政治指導部のトップに誤解を与えること、ウクライナ南部の防衛システム、軍事物体の位置、ウクライナ特殊機関(special services)の職員とその家族の個人情報、占領地とロシア領で活動したウクライナ特殊機関(special services)の潜入工作員と資産に関する情報の収集と伝達をロシア特殊機関(special services)に行うことがあげられた。

クリニッチ(Kulinich)は、そのタスクの一環として、ロシアに代わって、ウクライナ保安局(SBU)システムやウクライナの他の国家当局における人事・経営判断の採用を形成するために影響力を行使したとされている。特に、彼の影響力のおかげで、同じく反逆罪で告発されているアンドリー・ナウモフ(Andrii Naumov)准将が[26]、ウクライナ保安局(SBU)の内部保安本局(ウクライナ保安局(SBU)の全職員を監督し、捜査の一環としてウクライナ保安局(SBU)職員に対する監視、盗聴、その他の特別措置を実行できる)の局長に任命された。

とりわけ、ウクライナの法執行機関は、ナウモフ(Naumov)将軍が、チョルノブイリ原子力発電所のセキュリティ・システムに関する秘密情報を、ナウモフ(Naumov)が長い間管理職に就いていたロシアの特殊機関(special services)に渡したと非難していることは注目に値する[27]。この情報は、ロシア軍がチョルノブイリ原子力発電所を奪取した際、また、チョルノブイリ原発事故の警戒区域を利用してキーウへの攻撃を開始した際に使用された。

クリニッチ(Kulinich)は自分の影響力を利用して、ナウモフ(Naumov)をウクライナ保安局(SBU)の第一副長官に任命することを確実にしようとした。その動機のひとつは、ウクライナ保安局(SBU)の対インテリジェンス部門を掌握するためだった。ナウモフ(Naumov)はロシア侵攻の数時間前にウクライナを離れ、2022年6月にセルビアで多額の現金の無申告輸入のため国境を越えた際に拘束された[28]。

調査によると、クリニッチ(Kulinich)は、尊厳革命後にウクライナを脱出し、モスクワに永住している元ウクライナ国家安全保障・防衛会議長官、元ウクライナ副首相ウォロディミル・シブコビッチ(Volodymyr Sivkovich)(元ソ連国家保安委員会(KGB)職員で米国の制裁下にある[29])と接触していたとのことである。

クリニッチ(Kulinich)少将がシブコビッチ(Sivkovich)を通じてロシア連邦保安庁(FSB)から受けたとされるその他のタスクの中には、ウクライナの政治指導層に対して影響力を行使し、侵攻直前にNATO加盟路線を放棄して中立的立場を採用する必要性を説得することがあった[30]。

ロシアの特殊機関(special services)の計画に従ったNATOへの加盟拒否は、ロシアに対する他のウクライナの譲歩とともに、ヤヌコビッチ(Yanukovych)大統領がウクライナのEUへの統合(integrate)を拒否した2014年の「尊厳の革命(Revolution of Dignity)」と同様の反政府デモのきっかけとなるはずだった。大規模な抗議活動は、ウクライナを内部的に不安定化させ、国家と軍の管理システムを麻痺させ、ロシアの軍事侵攻の条件を提供するロシアの特殊機関(special services)のタスクを単純化することを意図していた。

暴力的な抗議活動の条件を整えるというタスクは、2022年1月、内務省が、直接行動を担当するウクライナ保安局(SBU)のアルファ部隊のメンバーだったウクライナ国家警察のユリイ・ゴルバン(Yuriy Goluban)大佐を逮捕したことで露呈した[31]。2014年にウクライナ保安局(SBU)アルファ部隊のドネツク支部に所属していたゴルバン(Goluban)は、ドネツク人民共和国の大隊「ボストーク(Vostok)」の指揮官の一員として、親ロシア派民兵に加わっていた[32]。

しかし、彼はこれらの活動をうまく隠し、その後ウクライナに戻り、国家警察に入った。侵攻に先立ち、ウクライナの法執行機関は、キーウと他の3つの州で、極右のシンボルが蔓延し、抗議者たちがロシアの脅威に立ち向かえない政府を非難する抗議活動を組織するために資金を受け取ったと非難している。

その意図は、警察との暴力的な対立を引き起こすために、支払われた犯罪者や挑発工作員をこれらの抗議活動に潜入させることだった。当初のアイデアは、抗議行動を「極右クーデター」の試みと見せかけ、侵略の正当化材料にすることだった。また、ウクライナの抵抗運動(resistance)に内部不安を植え付けることも意図されていた。

同時に、ロシアは、公然と親ロシアの旗の下で、街頭暴力と内部不安定化の条件を整えていた。これは、極端なものを中央に対抗させ、分極化を促進し、支配力を高めるという彼らの好む手法に一致する[33]。この活動は、OPZZH党のリーダーであるヴィクトル・メドヴェチュク(Viktor Medvechuk)と、ヴィクトル・チョルヌイ(Viktor Chornyi)、イリヤ・キバ(Ilya Kiva)といった国会議員を中心としたグループによって組織されたとされている[34]。

2019年に親ロシア派に加わる前、キバ(Kiva)は攻撃的なロシア恐怖症で知られる過激なウクライナ民族主義者を装っていた。「尊厳の革命(Revolution of Dignity)」の直後、キバ(Kiva)は準軍事組織「右派セクター(Right Sector)」の指導部に加わり、その後すぐにウクライナ国家警察に入り、麻薬密売対策部の責任者、内務省の労働組合の責任者となった[35]。

2020年、メドベチュク(Medvedchuk)のグループの一員として、武術クラブの代表者、犯罪者(麻薬の売人を含む)、特殊警察部隊の元職員(尊厳革命時の犯罪で解雇された者を含む)を中心に構成された組織「生命のための愛国者(Patriots for Life)」を創設し、その代表となった。組織の基盤は、ソ連の特殊機関の武術であるウクライナ戦闘サンボ連盟の代表者で、その名誉会長はヴィクトル・メドヴェチュク(Viktor Medvedchuk)自身であった。

同組織のタスクは、集団イベント時に挑発行為を行うとともに、親ウクライナ組織の代表者との暴力的な対立を誘発するなど、ウクライナの社会政治状況を過激化することであったと考えられている。2022年のロシア侵攻後、同組織のメンバーは不法滞在に移行し、ロシア侵攻を支援するロシアの特殊機関(special services)のためにさまざまなタスクを遂行した。

同様のモデルは2014年の侵略の前にもロシア側に利用され、同じくスポーツ選手、犯罪者、法執行官の混合で構成されたオプロット(Oplot)という組織が、最初はヤヌコビッチ(Yanukovych)体制の反対者に対する暴力に使われ、後にドネツクにおけるロシアの代理軍結成の基礎となった。メドベチュク(Medvedchuk)のグループは、デルカッハ(Derkach)と同様、警備会社や探偵社も支配していた。国会議員のヴィクトル・チョルニ(Viktor Chornyi)がグループ内のこの方面の責任者だった[36]。

ナウモフ(Naumov)がセルビア国境を越えて逮捕されたとき、有名な密輸業者と一緒に旅行していたことは、ウクライナにおけるロシアの工作員ネットワーク(agent network)における、より広い現象を物語っている。ウクライナ政府の上級工作員の下には、大規模な支援組織があった。この組織は、偵察から現金や機材の基本的な移動、あるいは隠れ家の設置に至るまで、さまざまな機能に利用されてきた。

その中には、ロシアに忠誠を誓うウクライナ人も含まれている場合がある。しかし、多くの場合、その人物は組織的な犯罪ネットワークから引き抜かれた有償の工作員である。本格的な侵攻の数年前から、ウクライナ国境警備隊は、ウクライナのすべての国境でロシア人将校と密輸業者ネットワークとの間に密接な関係があることを指摘していた。しかし、多くの場合、支援組織はこのような秘密活動を行う必要はなかった。

例えば、現金の移動は、侵攻前のロシアの同盟国の外交袋を通じて、あるいは単にウクライナにあるロシアの工作員が所有する多数の会社を通じて容易に行われ、その従業員の一部は作戦に資金を吸い上げるためのルートを設定することができたのである。ロシアの侵攻計画にとって支援組織はそれほど重要ではなかったが、ウクライナ領内で現在進行中のロシアの活動にとって重要な存在であり、存続していることに注目する必要がある。

侵略を支援するイデオロギーに熱心な工作員の組織として、ロシア正教会(Russian Orthodox Church)がある。ロシアの情報作戦を支援する取組みだけでなく、その司祭はロシアの特殊機関(special services)に広く採用され[37]、運営されており、その修道院や教会は機材や人員の隠れ家として利用されていた[38]。

宗教を隠れ蓑にすることは、ロシアの特殊機関(special services)が広く確立した手法であるだけでなく、国家が宗教団体をターゲッティングにするという政治的な敏感さゆえに、独自の保護メカニズムを生み出している[39]。このため、侵攻後もウクライナ国家がロシアの支援組織のこうした部分の活動を制約する動きに出るには、ある程度の時間が必要だった[40]。

これらの様々な取組みの筋は、2014年にロシアに逃亡したウクライナの国家安全保障・防衛評議会の元副代表、ヴォロディミル・シブコビッチ(Volodymyr Sivkovich)によって調整されていた[41]。2022年1月20日、アントニー・ブリンケン(Antony Blinken)米国務長官は、ウクライナの上級工作員を扱うロシア連邦保安庁(FSB)の計画の中心人物であるとシブコビッチ(Sivkovich)を特に指摘した[42]。シブコビッチ(Sivkovich)は、ロシア連邦保安庁(FSB)第9局でイーゴリ・チュマコフ(Igor Chumakov)に直接報告するこれらのウクライナ高官のハンドラー(handler)として機能したようだ。
ネットワークの強さと弱さを評価する:Assessing the Strengths and Weaknesses of the Network

このように、ロシアの取組みはほんの一部に過ぎないが、ロシアが計画した不安定化をもたらすことができなかったことは注目に値する。国家権力に強力な工作員が存在し、内部不安定化に関与しうる構造が準備されているにもかかわらず、ロシアはウクライナの内部政治危機を煽ることに成功していない。

まず、本格的な抗議行動を起こすための主な前提条件を達成することができなかった。圧力と影響力にもかかわらず、ヴォロディミル・ゼレンスキー(Volodymyr Zelenskyy)大統領は、ウクライナのNATO加盟を断念し、大多数のウクライナ人にとって受け入れがたいロシアへの他の譲歩をすることに同意しなかった。

第二に、インテリジェンス共有の一環として、欧米のインテリジェンス機関はロシアの軍事侵攻準備に関する情報だけでなく、ウクライナ内部を不安定にするロシアの意図や、それに直接参加する人物に関する情報をウクライナに伝達した。こうした意図に関する情報の公開も、ロシアの取組みを無力化するための重要な要素であった[43]。

しかし、ロシアのインテリジェンス当局の高官が、必要な条件を満たしていないとして、侵攻を2022年夏まで延期するよう勧告したにもかかわらず、モスクワは侵攻を続行した。ロシアがウクライナの政治を理解していると確信したのは、モスクワに駐在する元ウクライナ高官の中に、クレムリンに侵攻を指示する明確な動機のある人物が多数いたためだろう。

ウクライナ保安局(SBU)の保有する情報によると、ヤヌコビッチ(Yanukovych)政権の以下の代表者もロシアの特殊機関(special services)と定期的に協力している:パブロ・レベデフ(Pavlo Lebedev)元国防大臣、オレクサンドル・ヤキメンコ(Oleksandr Yakymenko)元ウクライナ保安局(SBU)長官、ヴィタリー・ザハルチェンコ(Vitaly Zakharchenko)元内務大臣、アンドリー・クリュエフ(Andriy Klyuev)元大統領府長官[44]。

ウクライナ政府で働く数年間、そのような人物は、あらゆる国家機関に自分の工作員を潜入させ、自分の関心のある情報を何でも引き出せる機会が実質的に無制限にあった。それにもかかわらず、モスクワが必要な前提条件なしに進めたことは、2つのことを示唆している。第1に、ロシアの工作員がウクライナ国家に対する影響力を誇張していたこと、第2に、ロシアの特殊機関(special services)は、その実行可能性を評価するのではなく、時間軸に沿った占領を促進するよう命じられていたことである。

つまり、前段階が成功していないにもかかわらず、次の段階に進むということは、ロシアの特殊機関(special services)から行政府への誠実な助言よりも、上からの命令主導のプロセスや命令に従うという組織文化があることを物語っているのであろう。

このように、侵攻前の最後の瞬間まで、ロシアの工作員は内部不安定化の組織化を準備しており、そのためにウクライナに作った組織は、長期にわたる本格的な軍事衝突の条件下では、例えば、深部で活動できる破壊工作集団(sabotage groups)としては、実質的に準備されておらず、使用に適さない。

さらに、ロシアの軍事侵略と民間人に対する犯罪は、一般のウクライナ人だけでなく、親ロシア派組織の代表者の間でもロシアに対する態度を変化させた。「生命のための愛国者(Patriots for Life)」という組織の場合でさえ、一部のメンバーはロシアの侵略を公に非難している[45]。

2014年にも同様のプロセスが行われた、軍事衝突の開始後、ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)(主にドミトリー・サブリン(Dmitriy Sablin)の組織「闘う同胞団(Boevoe bratstvo)」に沿ったもの)やロシア連邦保安庁(FSB)(ソ連国家保安委員会(KGB)の特殊部隊(special forces)の組織やアフガニスタン帰還兵の組織など)がウクライナに作った退役軍人の組織は、ほとんどがウクライナに忠実で、軍隊にも加わっていた。

ロシア側は、ウクライナ国家の各機関に上級レベルで浸透した人物を採用した。これらの浸透者は、必ずしもロシアの利益のために働いていることを知ることなく、自分の指示に従う多数の部下を動員することができた[46]。

ネットワークは、相互にリンクした歴史を持ち、相互に支援し合う高官を核としたものであった。しかし、このような成功にもかかわらず、ロシア連邦保安庁(FSB)の計画は失敗に終わり、その理由を理解することが重要である。多くの人は、ウクライナ国家が内部から分裂すると予想していた。しかし、そうはならず、多くのネットワークが破壊され、主要メンバーが拘束された。

採用されたロシアの形態と方法について少し観察すると、彼らのアプローチの長所と脆弱性が明らかになる。このような上級工作員でさえ、ごく少数の計画担当者しか知らない全体的な侵攻計画について、比較的よく知らなかったと思われる。彼らは依頼されたことから全体的な推進力を推測していたかもしれないが、読み込まれていたわけではなさそうだ。

これらの主要な工作員が支配するほとんどの個人は、それよりもはるかに少ない知識しか持っていなかっただろう。侵攻前、ロシア軍はウクライナに広範かつ強固なネットワークを維持していたと言えるかもしれない。ロシアの特殊機関(special services)のために支援的なタスクをする多くの人は、ウクライナの役人の指示に従っていると考えていただろう。ロシアの工作員に代わって違法行為を行う者は、しばしば金銭的な誘因の下でそれを行っていた。

しかし、国家警察の職員が他の省庁のウクライナ人職員に情報を提供して報酬を得るというリスクは(仮に)ごくわずかで、金銭的な報酬は歓迎される可能性がある。ロシア側の問題は、第一に、本格的な侵攻によって、無自覚な工作員や偽旗(false flags)のもとに集められた工作員が、ロシアの支配下で活動することの害を判断する文脈が根本的に変化したことである。

例えば、同じ警察官でも、提供を求められた情報がロシアの戦車をウクライナの都市に誘導するために使われる可能性があることを理解すれば、ロシアとの関わりを持ちたくないと思うかもしれないし、いくらかのお金という報酬よりも、発見されるリスクの方が大きいと考えるかもしれない。

ロシアとウクライナの国境をまたぐ運び屋をすることに、以前は何の問題もないと思っていた犯罪者が、空襲を受けるなら自分の家族を守らなければならないと思うかもしれない。そのため、侵攻初期には、多くのネットワークが信頼できなくなった。

ロシア軍が当面の目標を確保していれば、ネットワークの信頼性の低さはそれほど問題にはならなかっただろう。ロシア軍がウクライナの都市を支配し、ロシアの主要な工作員がネットワークに関する明確な指示を受けたシナリオでは、リスクとリターンの計算から、かなりのレベルの協力が達成されたと思われる。

それどころか、ロシア軍が目標を果たせなかったため、多くのネットワークが凍結され、後で起動するようになったか、ネットワークのメンバーがロシアと協力するインセンティブを失い、ハンドラー(handlers)と連絡を絶ったため、解散した。

多くの工作員がその場に留まり、偵察は可能であったが、混乱させることはほとんどできなかった。ロシア連邦保安庁(FSB)の計画のほとんどは、地形を物理的にコントロールすることを前提としており、ロシア連邦保安庁(FSB)が地上に物理的な存在感を示さないシナリオの中で、以前に採用した無意識の工作員に対する指揮・統制が欠如していたのである。

しかし、ロシアの計画が破綻したとはいえ、完全に欠陥があったわけではない。ロシアが地盤を固めた地域では、支配力を発揮するのに十分な数の協力者を作り上げ、強固な対インテリジェンス機構(counterintelligence apparatus)を運営できることを証明したのである。

活性化の計画:The Plan of Activation

ロシアが工作員ネットワーク(agent network)をどのように利用したかを説明する前に、それがウクライナ占領をどのように支援するためのものであったかを理解することが重要である。これは、実際の展開とは異なるとはいえ、モスクワが意図したウクライナ国家の敗北メカニズム(defeat mechanism)を理解しない限り、ロシアの侵攻計画は意味をなさないからである。したがって、ロシア軍が経験した困難は、ロシアの計画者が何を期待していたかを理解することなしには理解できない。

2022年2月24日、ロシア軍が国境を越えたとき、東部軍管区の部隊は、チョルノブイリ原子力発電所の警備を担当するウクライナ国家警備隊の分遣隊と対峙した。工場警備の責任者であるヴァレンティン・ヴィッター(Valentin Vitter)に連絡を取り、指示を仰ぐと、降伏するよう進言された。ロシア軍との戦力差から自分たちの命を守るため、そして発電所への被害を防ぐためであった[47]。

工場は闘わずして2時間以内に接収された[48]。これは孤立した事件ではなく、戦争の最初の数日間、ウクライナ南部全域で繰り返された。同様のプロセスは、ウクライナ政府全体でも同時に試みられたが、効果は薄かった。

侵攻が始まった当初、ロシアの高官はウクライナ側に電話をかけ、流血を避けるために消極的な態度をとるよう促した。例えば、ロシア大統領府の副参謀長で、ウクライナでの工作員ネットワーク(agent network)の構築に深く関わった越境協力委員会の責任者であるドミトリー・コザク(Dmitry Kozak)は、ウクライナ大統領府に電話をかけ、降伏を促した[49]。

2022年2月25日、プーチン(Putin)はウクライナ軍に対し、ロシアの侵攻に抵抗せず、反乱を起こし、ロシアとの戦争終結を交渉するよう公然と訴えた[50]。2月26日、ベラルーシ国防相はウクライナ側のオレクシィ・レズニコフ(Oleksiy Reznikov)に電話をかけ、セルゲイ・ショイグ(Sergei Shoigu)からウクライナの降伏を受け入れるというロシアの申し出を伝えた[51]。

2月22日、ベラルーシ国防相は、ロシアの意図についてウクライナ政府を欺く幅広い試みに関与し、ベラルーシ領土からの侵攻を許さないとレズニコフ(Reznikov)に自ら確約していたのである[52]。

侵攻から3日間、ウクライナの将校は全員、テキスト・メッセージや電話を受け取ったが、その多くは個人的に知っているロシア側の相手からで、流血を防ぐために活動しないよう促された。一方、ウクライナの大佐クラスの将校は、ほとんど全員が、不活動または降伏を促すテキスト・メッセージを受け取ったが、これらは既知の連絡先から発信されたものではない。

この働きかけに関する報道では、このロシアの活動がウクライナ国家の上層部の降伏をもたらすものであったとする見方がしばしばなされている。これは、敗北メカニズム(defeat mechanism)を誤解している。ウクライナの全面降伏は望ましいが、ロシアがウクライナの占領を想定した実際のプロセスは、ウクライナの中央組織の麻痺と、孤立したウクライナ人部隊の局所的な降伏が前提であった。

ロシア側は、自軍のトップダウン型の指揮文化を誤ってウクライナに投影してしまったようである。ロシア側の工作員であった中堅幹部たちの多くは、侵攻初期にメッセージに反応しなくなるか、あるいは持ち場を離れてしまい、中央政府から戦術部隊までの指揮系統が断たれてしまった。

ウクライナのゼレンスキー(Zelenskyy)大統領に向けたキーウからの退去勧告や、官僚機構から出たさまざまな提案は、中央に意思決定の麻痺を押し付けることが大きな狙いだった。一方、ロシアの工作員は、現地の指揮官や役人に抵抗しないよう説得しようとした。彼らはロシア側を代表して発言しているように見せかけるのではなく、現地での戦力格差やウクライナ人の命を守りたいという気持ちを理由にした。

その狙いは、ロシア軍が重要な戦略拠点を占領するのに十分な時間、抵抗の決断を遅らせることである。このような枠組みでの抵抗運動(resistance)は散発的で孤立したものとなる。この文脈では、ロシア軍の侵攻計画のモデルは、ウクライナ南部で観察することができ、そこではより大きな成功を収めた。

さらに、ロシアの工作員のタスクは、妨害によってウクライナ部隊を孤立させ、後輩の麻痺と降伏を促すことだったので、彼らの多くは、占領に参加するために積極的に活動するのではなく、政府から仕事を取り下げていた。占領が達成される前に何らかのクーデターや直接行動を起こすのではなく、領土が占領された時点で浮上するという意図だった。

実際、ロシアの取り組みのほとんどが、抵抗運動(resistance)の固定化と分断を狙いとしていたことは、戦争開始当初の情報攻撃とサイバー攻撃の利用にも表れている。重要な国家インフラを狙ったり、ウクライナのシステムに直接ダメージを与えようとしたのではなく(後に試みられた)、最初のサイバー攻撃は、ウクライナ国家が依存している通信システムを主な狙いとしたものだった[53]。

ウクライナ国家特殊通信情報保護局による準備のため、全体としては失敗に終わった。しかし、成功した例としては、侵攻初日に通信を妨害したViasat社への攻撃があり、これらの活動の主な対象として注目されている[54]。

ロシア側は情報戦の面でも部分的に成功し、ウクライナ国家が後方地域の安全を確保するために武装した動員された市民を対象に、誤解を招くような狙いのナラティブを発表してウクライナ社会を孤立させた。これらのナラティブは、破壊工作集団(sabotage groups)や潜入者の存在を強調したものだった。例えば、ロシア側はウクライナのソーシャル・メディア上で、建物に施された不審なマークを報告するよう市民に呼びかけるメッセージを開始した。

その結果、ウクライナの法執行機関の能力を圧倒する偽陽性の大群が発生した。これは、戦前から続く、ロシアの特殊機関(special services)がウクライナの法執行機関に対して継続的に偽の爆破予告を行うという戦術を反映したものであった[55]。妄想症(paranoia)を増幅させたもう一つの結果は、領土防衛分遣隊に恐怖心を植え付け、友軍による発砲を促し、少なくとも検問所でのウクライナ軍や当局者の動きを鈍らせたことである。

最後に重要なのは、ロシアの侵攻計画において、妨害、孤立、交渉による降伏が理論上達成できなかったのは、ウクライナの防空システムであったということである。ウクライナへの空からの補給や援軍の投射の重要性を考えると、これを抑制する必要があった。さらに、防空施設や産業への攻撃は、受動性を促すための衝撃と畏怖の価値を持つものであった[56]。

したがって、ロシアの戦役(campaign)であからさまに計画された従来型軍隊(conventional military)の構成要素は、ロシア航空宇宙軍(VKS)によるウクライナの防空、および巡航ミサイルや弾道ミサイルを用いた大規模なミサイル攻撃戦役(massive missile strike campaign)による制圧と破壊であった。古いウクライナの防空システムの機動性が低い南部では、これはほぼ成功した。

他の場所では、ロシア軍は数時間にわたって防空網の抑制と移動を達成し、いくつかの方向では約24時間持続した。しかし、一般に、ロシア航空宇宙軍(VKS)にはこの任務に適した訓練や装備がなかったため、この取組みは失敗に終わり、ウクライナの防空網はその後の2日間で回復した。

しかし、ロシアの地上部隊は72時間以内に主要目標のほとんどを占領する予定であったことから、地上部隊がウクライナ軍を迂回したり、戦い抜いたりすることに全く失敗していなければ、この問題はそれほど大きくならなかっただろう。

戦前の軍事的評価において、NATO 諸国とウクライナ軍の双方で、闘いの軌跡(trajectory of the fighting)が不正確であった最大の原因の一つは、ロシア軍が意図的な軍事攻勢をかけるという仮定に起因している。例えば、鉄道や兵站のインフラが狙われると想定されていた。その代わり、ウクライナの部隊を固定・孤立させることが狙いだったため、最初の3日間、部隊を破壊する試みはほとんどなかった。

部隊運用の論理はすべてロシアの非従来型作戦(unconventional operations)の成功を前提にしていたが、すでに述べたように、ウクライナの政治的不安定化という成功の前提条件がまだ達成されていなかったのである。なぜロシア指導部は、必要な前提条件を確立することなく侵攻を開始することにしたのか、という疑問が残る。これは、プーチン(Putin)個人の戦略的判断ミスであると理解することができる。

ロシアの計画の大部分は、侵攻後の対応に重点が置かれていた。占領地での対インテリジェンス体制の詳細については、占領した地域で運用が確認できたため、次節で取り上げる。しかし、占領計画の中で実現しなかった要素がある。キーウの占領である。これは、当初の侵攻計画で予定されていた特殊部隊(special forces)の使用も含まれている。

すでに述べたように、ロシア軍は72時間以内にキーウを占領するつもりであった[57]。その意図は、初期部隊が市内に入る主要ルートを確保し、その後、空挺部隊がホストメル飛行場に飛来し、市内の主要ゾーンを確保するために移動することであった。

各都市の区域内では、これらの部隊が住民の移動を制御するための紐帯を提供することになる[58]。その後、従来型のロシア部隊(conventional Russian forces)は都市を遮蔽・隔離し、地方を支配し、ウクライナの従来型の分離派(Ukrainian conventional detachments)の再侵入を阻止することに移行する。

これらの部隊の背後には、ロシアの特殊部隊(special forces)(SSO)と、ロスグバルディア(Rosgvardia)、特にチェチェンのロスグバルディア(Rosgvardia)(カディロフツィ(Kadyrovtsy))を含む弾圧作戦を意図する部隊が控えていた[59]。

紛争初期に行われた軍事拠点への侵入や破壊工作(sabotage)が比較的小規模であったのは、これらの部隊が占領地での重要な役割を担っていたためであり、過去の紛争で広く行われてきたロシアのドクトリンの標準的な要素として予想されたものであった。

その代わり、スペツナズの多くは大隊戦術グループ(battalion tactical groups)の前方で従来型の偵察の役割(conventional reconnaissance roles)に就き、特殊部隊(special forces)は主に後方に掃討することを意図していた。ロシア側は、数時間で成功すると確信していたので、支援組織は、特殊部隊がキーウで活動することになっている重要な場所の周りにアパートを借りていた[60]。

キーウに到着後、計画には相互に関連する3つの作戦方向が含まれていた。第1は、ロシアの特殊部隊(special forces)(SSO)がキーウの行政府と議会の指導者を捕らえる際に、現地の工作員を利用することである。これらには、見せしめ裁判が行われる可能性があった。これとは別に、カディロフツィ(Kadyrovtsy)は、愛国的抵抗運動(resistance)の組織者と思われるウクライナ人や2014年の「尊厳の革命」に関連する人々の狩猟に従事することになっていた。

これは、2000年のグロズヌイ(Grozny)陥落後のチェチェン反乱軍との紛争に匹敵する汚い戦争(dirty war)になることが予想された。第三は、住民の平和化である。これは、市民インフラの自然な隘路による出入りを制御することで、コミュニティを孤立させることに依存する。

これらの隔離された地域で、ロスグバルディア(Rosgvardia)は抗議活動や市民的抵抗運動(resistance)を管理することになった。必ずしも抗議活動を暴力的に弾圧する必要はないが、そのような抗議活動の主催者を特定し、その後、カディロフツィー(Kadyrovtsy)のターゲッティングとすることができる。

、ロシアの特殊部隊(special forces)(SSO)とロシア空挺部隊(VDV)部隊のさらなるタスクは、ウクライナの中央銀行、水道・公共事業、議会の掌握であった。その意図は、ヴィクトル・メドヴェチュク(Viktor Medvedchuk)をはじめとするウクライナ議会内のロシア寄り派閥のメンバーが平和のための運動を確立し、人命救助とウクライナ救済のための降伏を促す決議を行い、その後、国民議会を通じて、地方議会と地方行政を通じた統治を行うことにある。

問題があると思われる地域から電力、公共事業、金融を撤退させることで、不安定な状態が続く地域をさらに孤立させようとするのである。このような状況の中で、平和を最も強く訴え、全国の自治体で立候補するのは、工作員ネットワーク(agent network)の一員である官僚たちである。

この計画の問題点は、ロシア対外情報庁(SVR)のレシェトニコフ(Reshetnikov)中将が、「誤算は、軍事的なものだけでなく、ほとんどが政治的なものだった。おそらく、不当な希望があったのだろう。私たちはキーウやハリコフに入り、ウクライナ国家の合理的な代表者を政権に就かせるつもりだった。しかし、起こったことは起こった」[61]。次の章は、ロシア軍が占領に成功した地域で何が起こったかに関わる。
ウクライナにおける非従来型の戦争:The Unconventional War in Ukraine

ロシアの準備、ウクライナにおける能力の範囲、およびコンセプト化されたそれらを運用する方法について考察した後、これらの計画が実際にどのように展開されたかを概説し、大規模な従来型の紛争(large-scale conventional conflict)の文脈で活動する際のロシアの特殊機関(special services)の形態と方法について何を学ぶことができるかを明らかにすることが可能になる。

これは、占領地における対インテリジェンス体制の機能、戦闘における特殊作戦部隊と非正規部隊の使用、戦闘に関連するインテリジェンスの収集、分析、発信の3つの部分から検討する必要がある。本章では、これらのトピックをそれぞれ順番に掘り下げていくことにする。
占領地における対インテリジェンス体制について:The counterintelligence Regime on the Occupied Territories

ロシア軍は占領した地域で占領計画を実行したため、実際の機能や効果の詳細を調査することができた。占領の対象となった州ごとに、ロシア連邦保安庁(FSB)は占領体制とその対インテリジェンス機構(counterintelligence apparatus)を調整するタスクを担う臨時作戦グループ(TOG)を結成した[62]。

各臨時作戦グループ(TOG)は、ロシア連邦保安庁(FSB)第5局作戦情報部第9局所属の将校が指揮を執った。この職員は通常、管理することになる州をターゲッティングにするタスクを負ったセクションから引き抜かれていた。ウクライナでは、これらの個人は通常一般的な偽名で活動していた[63]。

通常、第五連絡部からは二人の副官が、その下に対インテリジェンス、軍事対インテリジェンス、インフラ保護を担当するロシア連邦保安庁(FSB)の機関など、他のロシア連邦保安庁(FSB)の機関からの代表者が配置されることになる[64]。

また、支援参謀も置かれることになる。各臨時作戦グループ(TOG)には、警戒・治安維持のためのロスグバルディア分遣隊、急襲を行うためのアルファ分遣隊やその他の特殊部隊(special forces)、高価値目標の排除を行うためのチェチェンのロスグバルディア分遣隊を含む部隊が配置された。これは、第二次チェチェン戦争以降、採用され、改良されてきたモデルであった[65]。

占領行政を確立するためのアプローチは、体系的であった。まず第一に、ロシア軍はあらゆる形態の記録の押収をタスクとされた。これには、公衆衛生、教育、住宅、税金、警察、選挙、地方政府の記録も含まれていた。チョルノブイリ(Chornobyl)原子力発電所とザポリージャ(Zaporizhzhia)原子力発電所を押収した際に最初に行われたのは、これらの発電所からすべてのハードディスクを押収することであった[66]。また、電力会社、保険会社、NGOの個人記録も含まれていた[67]。

このデータをもとに、誰がどこに住んでいるはずなのか、誰と関係があるのか、ウクライナ国家とのつながりはあるのか、といった地図を作る。人口は5つのコア・カテゴリーに分けられた:

1. ウクライナ・ナショナリズムの指導者とみなされ、優先順位の高いターゲットリストで物理的に清算するよう指定された者、または見せしめの裁判を可能にするために捕獲するよう指定された者。

2. ウクライナの法執行機関、地方政府、軍隊に関係する者、積極的に協力していない役人に関係する者など、抵抗運動(resistance)の行為を支援する意図があると疑われ、勧誘や抑圧が必要な者たちである。

3. 無気力と判断された者。

4. ロシア軍に積極的に協力する者。

5. 重要な国家インフラを運営するために必要であり、管理する必要があった個人を指す[68]。

臨時作戦グループ(TOG)は各町で、ロシア軍から駐留軍司令官を任命し、駐留軍の分遣隊を配属させることになる。これらの部隊は、建物(通常は警察署か消防署)を占拠し、拘留(detention)、処理、尋問(interrogation)、拷問(torture)のための施設を設置する[69]。

これらの施設のレイアウトが全国で一貫しており、専用の感電死装置を含む拷問室(torture chambers)で使用された設備が複数のオブラートに包まれて同じだったことは、これが即興のサディズムではなく、組織的な計画であることを示している。

占領地では、対インテリジェンス機構(counterintelligence apparatus)のさまざまな部署が与えられたタスクを遂行し始めることになる。公共事業、学校、工場の経営者などの市民指導者は、臨時作戦グループ(TOG)の代表者に呼び出され、臨時作戦グループ(TOG)に報告しながら職務を遂行し続けることに協力するか、教育機関の場合はカリキュラムの変更を強制するか、あるいは辞任しなければならないことを告げられる[70]。

特に教師の場合、学校長が解任された場合、協力する覚悟があれば、他の職員にその職が与えられることが多かった[71]。協力者が見つからなかったり、協力者の忠誠心が疑われたりした場合、これらの職員の後任には、公共事業の場合、インフラ保護を担当する機関のロシア連邦保安庁職員が就くのが普通であった[72]。

また、占領行政の一環として、対象となるコミュニティの情報隔離が行われた。これは3つの方法で行われた。まず、ロシア軍は占領地の人々がウクライナのテレビとラジオにアクセスするための周波数を妨害することができる[73]。

第二に、通信インフラをウクライナのインフラから切り離し[74]、ロシアのインフラに再接続することで、通信やインターネットのトラフィックを監視することが可能になった。第三に、携帯電話の盗聴とメタデータ解析が行われ、地域住民の通信を監視し、占領地からウクライナの他の地域に通話やメッセージを送ろうとする者を優先的に監視した[75]。

同時に、駐屯地では戸別掃討作戦を遂行するタスクが実施された。これは、軍部隊が家屋を調査し、押収した記録に各住所の住人が正確に記録されているかどうかを確認するものである。また、ウクライナ国家との関係を示す記章や勲章、制服の有無、写真や所持品から住民同士の関係を確認することも行われた[76]。

占領行政や守備隊は、戦前にロシアの特殊機関(special services)の工作員として採用された地方法執行機関や公務員のメンバーによってその活動を支援された。戦前の評価では、これらの人物が実質的に地方政府を掌握し、その後ロシア軍に引き渡すと予想されていたことも重要である。

実際には、採用された工作員の数ははるかに少なく、ほとんどの町でそのような効果をもたらすには、これらの工作員はあまりにも若すぎたのである。例えば、ハリコフ州の占領地で確認された800人のロシア人工作員のうち、大半は森林委員会などの部署を含む地方政府の下級職員であった[77]。協力した地元の法執行官は100人に満たなかった[78]。

ロシア側は、これらの人々が単に州の運営を続けることを期待していたわけではない。その代わり、彼らはいくつかの重要な機能を果たすことができる情報提供者と支援者のネットワークを提供した。まず、彼らはロシア側に文書の保管場所を知らせ、コミュニティとその周辺に関する重要な現地知識を提供することができた。

第二に、直接の協力者ではなく、その場に留まっている役人の行動を報告することで、ウクライナ国家や抵抗運動(resistance)ネットワークと積極的に協力している可能性のある役人と比較して、無関心な役人を占領当局に旗振りすることができた。

例えば、臨時作戦グループ(TOG)が提供する新しいモジュールを教えると言った教頭は、それに従わなければ、学校内でリクルートされた工作員によって報告されることになる。実際には、クリミアやルハンスク、ドネツクの旧占領地域と同様に、協力者は比較的小さなグループであったが、実現可能な役割を担っていた。

重要なのは、ロシア連邦保安庁(FSB)が計画の一環として、国民の大多数、あるいはかなりの部分が歓迎することを期待したり要求したりはしなかったということである。チェチェンでの経験に基づき、対インテリジェンス体制を有効に機能させるためには、積極的であれ強制的であれ、国民の8%が協力する必要があるというのが、計画の前提であった。

ウクライナのインテリジェンス機関は、ロシア側が支配権を確立した地域の評価に基づき、ロシア連邦保安庁(FSB)が現地支援に求めた要件はおおむね正しかったと結論づけた。

人口のごく一部を支配することは、暴力によって主張することができた。暴力がどのように使われたかを理解することは重要で、それはターゲットによって適用が異なるからである。まず、ウクライナの民族主義者として特定された優先順位の高いターゲットリストの人々に対しては、チェチェンの部隊とロシア連邦保安庁(FSB)が先頭に立って、彼らを殺すか捕らえることを意図した。

ロシア軍はキーウ、オデサ、ハリコフ中心部、その他の大都市を制圧しなかったため、このリストにある個人のほとんどはロシアの手が届かず、戦争中もそうであったため、これらの活動の重要性は低下している。積極的な協力者でない上級職や重要な国家インフラの責任者については、ロシアは彼らに対する影響力を構築するために取組みした。ほとんどの場合、これはまず直接的な威嚇によって達成された。

例えば、市長は、しばしば尋問のために連行され、殴打を受けたが[79]、釈放された。さらに、このカテゴリーに属する人の多くは、家族の一員が拘束され、拷問(torture)を受けることになった[80]。ロシアの指示に従わない場合、家族の他のメンバーも拘束されたり、拘束された家族がさらに拷問(torture)を受ける可能性があることは、通常、テコ入れの対象となった人物に明らかにされていた[81]。

これは、占領地に家族を持つウクライナ支配地域内のウクライナ人職員をターゲッティングにすることによっても行われた。一般に、拷問(torture)の目的は影響力を高めることであり、臨時作戦グループ(TOG)からターゲットに送られた通信や、被害者が拷問中や拷問(torture)後に尋問を受けることなく、単に拷問(torture)を受けた後に解放されたことからも明らかである[82]。

抵抗運動(resistance)に関与した、あるいは関与する可能性があると疑われた人々については、プロセスはより長引き、結果はより多様であった。ウクライナ国家とつながりのある人たちは拘束され、ろ過のプロセスを経た[83]。これは通常、尋問(interrogation)から始まる。

最初の尋問(interrogation)で暴力が振るわれることもあり、その後、占領行政に対する共謀が判明した場合には、さらにエスカレートする恐れがある場合が大半だった。最初の尋問(interrogation)の質問は、定型的で基本的なものであったようだ。しかし、ロシア連邦保安庁(FSB)は背景を把握することで、ネットワーク分析のための基礎固めを行った。

懸念される個人については、尋問(interrogation)プロセスがしばしば2回目にエスカレートし、時には拷問(torture)の下で実施された。ここでは、尋問官は拘留施設(detention facilities)に設置された感電装置を使用し、質問は基本的な公式から個人のより詳細な検査に移行する。この後、釈放される者もいれば、別の場所、あるいはロシア国内の施設に移され、さらに尋問(interrogation)を受ける者もいる。

この離散の論理の一部は、離散した後に容疑者が釈放された場合、友人や家族から引き離されてしまうというものだった。したがって、彼らが戻ってきたとき、ウクライナの抵抗運動(resistance)・ネットワークにとって、彼らが二重の意味で情報提供をしているのかどうかは不明であった[84]。

釈放の条件として、ロシア連邦保安庁(FSB)への定期的な報告書の提出を求められることもあった。さらに、帰国後、必ずと言っていいほど親しい友人と連絡を取り、援助を求めようとするので、彼らの支援ネットワークや人脈を調べることができる。

濾過のプロセスは、1994年のロシア内務省の指令247の下で行われた活動に酷似していた。この指令は、第一次チェチェン戦争中に出された法的拘束力のない行政命令で、軍に濾過ポイントを設置することを許可した[85]。最初のろ過を通過した人々は、文書化され、彼らのコミュニティに戻される[86]。

疑わしいと判断された者は拘留され、さらなる尋問のために濾過収容所に入れられ、その過程で家族や支援ネットワークから引き離される可能性がある。ウクライナのこの抑圧システムを支えていたのはデータである[87]。駐屯地レベルでは、尋問(interrogation)の記録やデータのほとんどは、個別のデータベースに保管されているか、紙かノートパソコンに保存されていた。

一体化されたデータセットではなかった。しかし、時間の経過とともに、個人に関するケースファイルが拡大し、尋問(interrogation)のために人々が移動するにつれて、これらのファイルはより複雑になっていった。被拘禁者は、3回目の尋問(interrogation)で、尋問が、第1ラウンドの定型的な質問から、第2ラウンドのケース固有の質問、そして第3ラウンドの他の「ケースファイル」と相互参照する質問へと変化したことが明らかであったと述べている。

この相互参照は、対インテリジェンス・インデックス・システムが住民のネットワーク・マップを構築するために使用され、尋問(interrogation)の一貫性をチェックすることができることを示している。これらのデータセットが州レベルの臨時作戦グループ(TOG)に届くまでに、データが「スペクトラム(Spectrum)」に取り込まれた形跡がある。

スペクトラム(Spectrum)は、ロシア連邦保安庁がロシア領内の警備・対インテリジェンス活動を行うためのデジタルアーキテクチャである。スペクトラム(Spectrum)は、税金や裁判記録、警察や国境警備隊の報告書など、ロシアの他の政府機関からデータを取り込むだけでなく、フライトや船舶のマニフェストを採取するために設計された「Magistral」やSORM(捜査活動のためのシステム)など、他のロシア連邦保安庁(FSB)システムからもデータを取り込むことができる[88]。

その他の情報源としては、携帯電話の追跡、課金、ソーシャル・メディアの監視に使用される「PSKOV」、ソーシャル・メディア、携帯電話データ、財務を含む全ソース・データベースであり、政府、市販、盗品の様々なデータの流れを融合させる「Sherlock」などがある[89]。スペクトラム(Spectrum)は、基本的に、商業的に派生したさまざまなシステムでホストされている複数のデータベースにアクセスするためのポータルとして機能するアプリである[90]。

また、スペクトラム(Spectrum)を使用することで、ロシア占領地やロシア領内を移動する際に、適切な権限を持つすべてのロシア連邦保安庁(FSB)職員が、これらの尋問(interrogation)報告書やケースファイルを利用することができるようになった。このように、容疑者が拘束された場合、そのケースファイルは拘束した警官が物理的に持ち運ぶ必要があったが、記録のデジタル化により、ある個人が再び注目されるようになった場合、ケースファイルは常にロシア連邦保安庁(FSB)職員が利用できるようになった。

脅迫と弾圧の戦役(campaign of intimidation and suppression)のもう一つの側面は、集団的懲罰であった。ロシア軍に占領された多くの町で、地元市民がロシア軍を撮影してソーシャル・メディアにアップロードしたり、ロシア軍の動きに関する詳細を友人や家族、ウクライナ国家に伝えたりした。これをウクライナ軍が収集し、大砲の照準に利用した。

これに対し、ロシア軍は全住民を対象に掃討作戦を展開し、携帯電話を調べて、ウクライナ軍と情報を共有しているかどうかを確認した[91]。もしそうであれば、これらの人々は拘束され、尋問され(interrogated)、しばしば拷問され(torture)、多くの場合、処刑された。

また、これをタスクとするロシア部隊は、しばしば怖がりで、特に徹底したチェックを行わず、証拠を発見するよりも疑いで拘束することを好んだということも重要な点である。そのため、多くの無実の市民が拘束され、拷問を受け、殺害された[92]。

ロシア軍の蛮行は、ウクライナ軍の砲撃が続いている地域に限ったことではなかった。空爆が行われていない地域でも、抵抗行為をすると、一見すると無差別な人々が大勢で尋問(interrogation)のために連行されることがしばしばあった。このため、多くの住民が必要なもの以外は外出を控えるようになった地域もある。

このパターンが多くの町で繰り返されたことを考えると、抵抗行為が集団罰をもたらすのであれば、抵抗しようとする者は自分へのリスクだけでなく、家族、友人、コミュニティへのリスクも考慮しなければならないという残酷な論理に、組織的に従っていると思われる。地域のビジネス、社会空間、コミュニティの崩壊は、二次的な影響ももたらす。

弾圧によって普通の生活が破壊された町では、ロシア占領軍が商店、食糧配給、サービスを管理するようになった。こうしたものへのアクセスをコントロールすることで、反対派を抑圧するだけでなく、協力を促すための別の強制力を生み出すことができた。コミュニティを分断することで、私利私欲の計算が可能になり、地域住民に支配の永続のために交流し、依存し、その意思に反して可能にすることを強いることができた。

占領地のデータをロシアの国内弾圧を支えるシステムに一体化し、人々をロシア自体に移住させる、これらのプロセスは、最終的に占領地を併合するというロシアの意図に合致している。併合のプロセスは、クリミアに適用されたものと同じであった。

第一に、住民の一定割合が地方行政の運営に協力するよう勧誘または強制されることである。第二に、ロシア軍による軍事的脅威から、また厳しい抑圧手段による抵抗活動から、その地域を保護することである。

第三に、この安全保障によって、ロシア連邦保安庁(FSB)やロシアの国家機構のより広い要素が、法執行を含めて領土に移動することが可能になることである。第四に、地方行政の協力者は、ロシアの地方や分散した地域の役職に任命され、領土を直接管理するロシア人と入れ替わるだろう。最後に、領土を併合する。

このプロセスは、ロシア軍の進歩が不十分であったため、完全には実施されなかったが、マリウポリやウクライナの間接火力が届かない他の町では、実施され始めていた。この先、チェチェンのように抵抗や散発的な反乱は続くかもしれないが、ロシアの支配を脅かすものではないと判断されたのである。
不規則:The Irregulars

侵攻前、ロシアの特殊部隊(special forces)は戦略的偵察と特殊偵察の実施に使用されると予想されていた。しかし、占領軍を支援するため、ほとんどの部隊は撤退してしまった。

ターゲット地域の大半の占領が失敗したとき、これらの部隊は従来の役割を果たす立場になく、侵攻計画で指定された役割を果たすこともできなかった。従って、これらの部隊の実際の使用については、考慮する必要がある。

ウクライナへの本格的な侵攻に先立ち、ロシア軍編成におけるスペツナズ部隊の数は急速に拡大していた[93]。多くの軍事アナリストは、これによってロシア軍の旅団がより強力な偵察能力と直接行動能力を持つようになると予想していた。第二次チェチェン戦争やシリアでは、ロシア軍は前進を監視する偵察部隊として、またその他の特殊部隊(special forces)の役割として、スペツナズを広範囲に使用していた[94]。

これは、侵攻時にいくつかの編成で行われた。例えば、スペツナズは従来型の部隊(conventional forces)よりかなり早くハリコフに突入した[95]。スペツナズ部隊の拡大は、ロシア軍全体の有能な契約歩兵の不足を招き、有能な歩兵の多くがスペツナズや空挺部隊に押されたためである。

ウクライナ侵攻の際、クレムリンは大隊戦術群の徴兵数を制限したが、侵攻軍の規模が大きいため、それらの部隊をフル稼働させるために部隊全体から人員を集中させることはできなかった。

その結果、多くのバトルグループは大幅に戦力不足に陥った[96]。ロシアの装甲兵員輸送車には、3人程度の歩兵しか乗っていないこともあった。地上部隊の目的が、ウクライナ人に衝撃と畏怖を与えて屈服させ、弾圧機構がウクライナの都市に入り込んで支配を確立することであれば、これは問題ではなかったかもしれない。

しかし、ロシア軍が激しい闘い(heavy fighting)に突入すると、歩兵の不足が深刻な問題となった。有効な戦列歩兵部隊(line infantry units)の不足により、スペツナズ部隊は主に軽歩兵として配備され、その結果、これらの部隊の死傷者数も多くなった[97]。そのため、特殊部隊(special forces)の任務に就けるスペツナズ部隊の数は大幅に減少した。

この慣行から離れるどころか、戦争中の傾向として、正規のタスクが非正規部隊に引き継がれるようになった。ロシアの最初の侵攻計画では、占領地での対インテリジェンス体制を確立するためにロシア連邦保安庁(FSB)を支援するチェチェン人部隊の派遣が想定されていた[98]。激しい闘い(heavy fighting)が始まると、これらの部隊はマリウポルをはじめとする重要な軸に突撃部隊として投入された。

特にロシアの攻撃部隊の死傷者を減らすために、ドンバスとルハンスクの占領地の住民から大隊を動員し、主に第8諸兵科連合軍(Combined arms Army)の一部を指揮することに力を入れた。

特に、ドンバスでウクライナの塹壕に集団歩兵突撃を行い、後方から進入してくるより高性能なロシアの突撃部隊のためにウクライナの射撃基地を固定・特定するために使われた場合、これらの部隊の死傷者は多すぎた。

もう一つの勢力は、ワグネル(Wagner)である。ワグネル(Wagner)グループは、初期の侵攻計画では周辺的な役割を担い、ロシアが国際的に広く支持されていることを示唆する情報戦役(information campaign)の一環として、シリアやアフリカのロシアのパートナーにボランティアを組織させることが主な役割だった[99]。

侵攻が迅速であることが前提であったため、ワグネル(Wagner)は当初アフリカで保持していたさまざまな任務から撤退することはなく、戦争初期にはマリでのタスクなど[100]、その一部を拡大することさえあった。

開戦直後の挫折によるロシアの従来型の部隊(conventional forces)の混乱で、軍事専門家や突撃兵が不足することはすぐにわかった。

当初、ワグネル(Wagner)は、より広範囲に展開していた人員をウクライナに移動させ、それ以降、ワグネル(Wagner)は、ロシアの刑務所を含む大規模な採用活動に乗り出した[101]。また、ワグネル(Wagner)は、パイロットなどロシアの熟練した人材を再び任務に就かせるために、しばしば高額な給与を提示してきた。

ロシア軍におけるワグネル(Wagner)をはじめとするいくつかの民間非正規軍の隆盛は、これらの組織のほとんどがロシアの特殊機関(special services)の一部として生まれたものであるため、精査が必要である。ワグネル(Wagner)グループは、2014年にドンバスでロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)が支援した非正規部隊の大隊から生まれた。

アフリカやシリアでの活動では、ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)の将校は日常的にワグネル(Wagner)部隊に潜り込み、彼らを隠れ蓑にしたり、ロシアの従来型の能力(conventional capabilities)と連携してワグネル(Wagner)部隊を使えるようにしたりしていた。エフゲニー・プリゴジン(Yevgeny Prigozhyn)の政治的な存在感を考えると、ワグネル(Wagner)がロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)に完全に従属したままであるというのは不正確であろう。

実際、ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)はプーチン(Putin)に政治的な提言をする際、自らの公式な指揮系統ではなく、プリゴジーンを通して行うことが多かった。むしろ、ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)とワグネル(Wagner)は強く結びついていると言った方が正しいだろう。ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)の指揮系統を超えたとはいえ、ワグネル(Wagner)への武器や軍備の供給は、ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)の第78特殊偵察センターと第22特殊部隊旅団(Special forces Brigade)を通じてロシア連邦国防省の機構によって行われるものである。

ワグネル(Wagner)の傍らには、UAVのような特定の機能を中心に構築された組織がある。その好例がPWC Redutで、ワグネル(Wagner)の元職員を中心に、偵察、インテリジェンス、破壊工作(sabotage)任務を中心に組織され、ワグネル(Wagner)のインテリジェンス作戦を担当していたロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)将校が指揮をとっている。ロシア政府機関や関連団体がスポンサーとなる民間軍事会社の数は、今後ますます増加することが予想される。

ロシア軍にとって、特殊部隊(special forces)に対応した非正規部隊の重要性は、ロシアの産業界の状況によって悪化している。例えば、Orlan-10 UAVは、ロシア陸軍のISR用装備の中で最も効果的なものの1つであることが証明されている。従来型の部隊(conventional force)が開発したものだが、このメーカーはロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)からかなりの割合の資金を受け取っている[102]。

さらに重要なことは、メーカーが必要とする輸出管理されたマイクロエレクトロニクスを、ロシアの特殊機関(special services)が設立・運営するフロント企業を通じて不正に調達しなければならないことだ。もう一つの例は、イランからの徘徊型弾薬(loitering munitions)の調達である[103]。

イランとの戦略的関係の構築は、当初、ロシアの特殊機関(special services)がイスラム革命防衛隊に働きかけ、維持することで可能となった[104]。

ロシアの防衛産業がこうした構造にますます依存していることを考えると、ロシア軍で誰が装備を手に入れるかも、非正規組織とのつながりによって部分的に決定されることになる。このような資源配分によって、誰が戦場や問題点を把握する能力を持つかが決まってくる。やがて、ロシアの従来型の部隊(conventional force)が再び支配力を取り戻すかもしれない。

国家総動員は、非正規部隊への依存度を低下させるかもしれない。しかし、軍事的な特殊性については、これらの部隊が利用できる外貨と装備により、ロシアの戦争取組みに対する重要性が高いままであることが予想される。

ロシアの従来型のスペツナズ(conventional Spetsnaz)が突撃部隊として使用されることが多くなった一方で、特殊機関(special services)が直接管理するスペツナズの実践は、ロシアが過去10年間に開発しようとした西側の特殊部隊(special forces)モデルから離れ、よりソ連的なアプローチに戻っていると言ってよい。このため、スペツナズは人的インテリジェンスとより密接に連携した形で使用されるようになった。
人的インテリジェンスと偵察:Human intelligence and Reconnaissance

ロシア軍が対象地域を占領できなかったことで、多くの工作員がその場に取り残された。同様に、ウクライナの場合、領土を占領されたことで、ウクライナ人の多くがロシアの支配地域に取り残されることになった。そのため、抵抗運動(resistance)活動を行う機会が残されていた。

占領地での対インテリジェンス体制と比較して、ウクライナ国内からの脅威に対抗するためのメカニズムは異なるが、これらのロシアとウクライナのネットワークに対する圧力は、タスクの優先順位と適応を同じようにすることにつながっている。

ウクライナの人口のうち、侵略者に抵抗する準備ができている人の割合は、昔も今も高い。しかし、抵抗の意志は前提条件ではあるが、抵抗を効果的にするためには、それだけでは十分ではない。例えば、侵略の初期には、占領されたいくつかの町や都市で組織的な平和的デモが行われたことがある[105]。

これらは何の効果もなく、主催者はその後、弾圧の対象となった。落書きなど、抵抗運動の存続を示すことには価値があるが、敵に大きな心理的効果をもたらすというよりは、運動そのものを持続させることにしかならない[106]。

破壊工作(sabotage)や同様の直接行動を組織することは可能だが、複数の地域で連携し、大規模に実施しない限り、ほとんど効果がないことも事実である。そのような作戦は、関係するネットワークの捕捉や破壊につながりがちである。

したがって、直接行動は、以下の2つの目的-領域内の対インテリジェンス体制の不安定化、領域内に進入する従来型の部隊(conventional force)に先行してロシア軍部隊を同期的に混乱させること-のために控えめに使用される[107]。

実際、ほとんどの場合、直接行動は実際にウクライナの特殊機関(special services)の特殊部隊(special forces)によって行われており、彼らは抵抗運動(resistance)運動によって地域を通過し活動する能力を支援されているのである。これらの隊員は、行動を起こした後に撤退することができるため、その場にあるネットワークの解明に対するリスクは少ない。

抵抗運動(resistance)の動きが持つ、より有用で持続的な価値は、偵察とインテリジェンス収集にある。適切な技術を使って実施すれば、対インテリジェンス体制によってネットワークが日常的に解明されるような事態を招くことなく、これを実行することができる。紛争の初期には、人間の報告によって、ロシア軍部隊を砲撃で狙い撃ちすることができた[108]。

ウクライナの国際的なパートナーからの軍事技術支援によって供給される長距離精密射撃を使って、ロシアの指揮・統制や物流インフラを正確に狙うには、抵抗運動(resistance)によって維持される粘り強い人的インテリジェンス・ネットワークが不可欠であることが長期にわたって判明している。

抵抗運動(resistance)の運営方法の詳細は、明らかに作戦上の機密事項であるため、ここでは詳述しない。しかし、このようなネットワークを運営するためのスキルは、主に人的インテリジェンス操作と秘密通信のスキルであり、この活動に最も適した人材は、主に軍からではなく、特殊機関(special services)から引き抜かれていることを強調する必要がある。

ロシア軍は、ウクライナ国内の工作員ネットワーク(agent network)においても、同様のタスクの優先順位付けを行っている。直接行動することはあっても、これらの要員による主要な脅威にはなっていない。むしろ、このネットワークの価値は、ウクライナ軍と重要な国家インフラの両方をターゲッティングとした支援にあり、エネルギーインフラの戦闘被害評価の実施もその一つである。

既存の工作員機構(agent apparatus)は、このような活動を行うための強力な基盤を提供し、多くの場合、ターゲット情報は、ロシアに送られる前に、商業用暗号化メッセンジャーによって、ヨーロッパまたは他の場所にいるロシアのハンドラー(handlers)に渡すことができる[109]。とはいえ、このような活動を維持するためには、人的インテリジェンス、秘密通信、技術に重点を置く必要がある。

この優先順位を反映し、ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)内でも再編が行われた。近年、特に破壊工作(sabotage)と暗殺を担当する29155部隊の職員が何度か摘発されたため[110]、この部隊は明らかに秘密空間から移された。

同時に、アンドレイ・アヴェリアノフ(Andrei Averianov)(以前は29155を指揮していた)が昇進し、彼の指揮下に以前のセンターと同様のタスクを持つ3つの部隊が割り当てられた。アヴェリアノフ(Averianov)と彼の新しい部隊は、人的インテリジェンスを担当するロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)第5部の構造の一部である。多くの点で、これはより西側のスタイルの特殊部隊(special forces)の能力を作り出そうとした数年後の復権であることに注目する必要がある。

現存するロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)のマニュアルによれば、特殊作戦(special operations)は違法なインテリジェンス資産によって遂行されるのが最善であり、特殊作戦(special operations)の実践者は、その逆ではなく、直接行動を組織する能力もある人的インテリジェンス将校であることが第一義である[111]。歴史的にスペツナズと軍事インテリジェンスの関係は非常に緊密であり、ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)の職員の相当数はスペツナズでキャリアをスタートさせた。

人的インテリジェンスの役割は、ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)に直接従属する部隊にとって特に重要である。したがって、暴露され、もはや潜入捜査に使えない29155部隊の一部の将校は、現在、ウクライナ領内の工作員ネットワーク(agent network)の遠隔募集と管理に関与している。

全体として、ロシアはターゲットやロケーションに関する情報を得ることにそれほど苦労していないと言えるかもしれない。その収集能力は相当なものである。しかし、この情報を収集し、分析し、発信することは、別の問題である。ウクライナのインテリジェンス機関では、ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)がウクライナ全土の偵察を調整するためのターゲティング・センターを設立していると理解されている。

人間の工作員からの報告は、分析のためにこのセンターに送られる。ここでアナリストは、ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)の地理空間インテリジェンスおよびその他の収集方法と照らし合わせながら、検出された情報の概要を毎日作成する。

これらのダイジェストは、関連する軍管区の司令部に送られ、その後、諸兵科連合軍(combined arms army)の火力統制本部に送られ、ターゲッティングが戦術的なものであれば砲兵戦術群に、意図的な長距離攻撃の場合はセヴァストポリ(Sevastopol)のロシア航空宇宙軍(VKS)、ロシア黒海艦隊司令部かイスカンドルの大隊に送られる[112]。

証拠によると、ターゲティング・センターによる検出の取り込みと分析は、24時間周期で行われていたようだ。そして、関連する部隊に提供されるターゲット・パックは、優先順位を決定するための限られた文脈情報とともに送られ、ターゲットの特性や価値を反映した順序ではなく、ターゲット・パックを受け取った順序でターゲットが攻撃されることがしばしばあった。

このような指示の配布と、攻撃を担当する部隊の一連のタスクにおけるターゲッティングの位置づけに、少なくとも24時間かかることがよくあった。特に、ロシア海軍の部隊がある位置まで移動してカリブ・ミサイル(Kalibr missiles)を発射する必要がある場合は、もっと長くかかることもあった。

さらに、攻撃されたターゲットの中には何年も前の軍事施設もあり、ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)が最新の情報を持っていない場合でもターゲットを生成しようとする動きがあることが示唆される。その結果、ロシア側には、情報収集と攻撃能力との間に待ち時間が発生するという持続的な問題が生じている。

ロシアのターゲッティング・サイクルに欠点があるにもかかわらず、一貫してターゲッティングを発見し、それを攻撃する手段を持っているということは、こうした人的偵察ネットワークをいかに識別し、解体するかが、紛争発生時のNATOの従来型の部隊(conventional forces)の後方地域安全保障にとって重要な問題である。
結論:Conclusion

ロシアのウクライナに対する非従来型の戦争(unconventional war)の形態と方法を研究する上で、ロシアの特殊機関(special services)の強みとシステム的な弱点、そして将来的にどの程度主要な脅威であり続けるかを検討することは価値がある。

まずロシアの強みだが、侵攻前にロシアの特殊機関(special services)がウクライナに大規模な工作員ネットワーク(agent network)を構築し、侵攻後もその支援組織の多くが存続し、ロシア軍に安定した人的インテリジェンスを提供していることは明らかである。

紛争前のウクライナでは、国内の脅威が政治的な余地を大きく狭め、それが住民の戦争への準備に不利な条件をもたらしていた。長年にわたり、多くの国家では、自国の領土におけるロシアの活動に対する徴収を支持するバイアスがあった。

ウクライナの証拠は、ロシアの転覆(subversion)がウクライナに存在したような相互支援構造を構築する前に、積極的に抵抗し破壊する必要があることを強く示唆している。ロシアの傾向として、勧誘のターゲットを堕落させ、偽旗(false flag)の下で勧誘することは、大規模なネットワークを迅速に構築する有効な手段であるようだが、個々の工作員の信頼性は、イデオロギー的な理由で勧誘された者よりもはるかに低いのは間違いない。

また、独自のネットワークを運営する少数のエリート工作員に依存する傾向があるため、これらの人物に対抗することは、ロシアの能力に不釣り合いな影響を与えることになる。

実際、本報告書に記載された脅威、すなわち、高官のリクルートと支援組織の構築は、ウクライナに限った問題ではないことを認識することが重要である。紛争中、ドイツ情報局の上級信号インテリジェンス分析官[113]とドイツ情報局の上級対インテリジェンス官[114]がロシアの工作員であることが発覚した。

同じ方法が、ある程度の効果をもって、広く使われている。そして、この活動への対抗に失敗した場合の結果は重大である。2022年4月、この報告書の著者は、「不安定化と戦線の拡大により、欧米にかかる経済的・政治的コストを守り(長引かせ)、拡大する」ために、モルドバを不安定化する能力について、ロシアの特殊機関(special services)で広範な議論が行われていることに注目した[115]。

現在、モルドバを不安定化させる試みがなされているようだ[116]。ロシアが自国にこのような能力を構築するのを阻止し、それが達成された場合には、これらのネットワークを積極的に閉鎖するために、各国が積極的であることが重要である。

ロシアの非従来型戦(unconventional warfare)能力のもう一つの強みは、占領地での弾圧のための体系的な方法論である。粗暴で暴力的であり、対象地域の経済や生活の質にひどい影響を与えるが、抵抗運動(resistance)の活動を管理可能なレベルまで抑制し、支配を維持する効果的な方法であるように思われる。

チェチェンからの証拠は、抵抗運動(resistance)が完全に鎮圧されるには一世代かかるかもしれないことを示唆しているが、それは抵抗運動(resistance)の活動がロシアの立場を脅かすことを意味しない。また、この対インテリジェンス機構(counterintelligence apparatus)の有効な手段として証明されたデジタル化されたツールは、他の独裁国家にも輸出可能であり、ロシアが影響力を維持したい国家のエリートに対して提供する特徴である可能性があることも重要な点である。

NATO軍にとって、対インテリジェンス体制の強さは、抵抗運動(resistance)・ネットワークが活動している地域がすぐに解放されそうでない限り、提携する抵抗運動(resistance)活動は直接行動ではなく、偵察に調整する必要があることを強く示唆している。

このようなネットワークに関わる者は、ネットワークが生き残るためには、人間の工作員の取り扱いや秘密通信のスキルを優先させる必要がある。もう一つの重要な教訓は、紛争前に構築された抵抗運動(resistance)・ネットワークは、国家の官僚機構から見えないようにしなければならず、そうでなければ、国家の記録を捕捉することによって暴露されるリスクがあるということである。

しかし、非従来型戦(unconventional warfare)に対するロシアのアプローチには、明らかにかなりの欠陥があることも事実である。根本的なレベルで、ロシアの特殊機関(special services)は自己認識、あるいは少なくとも自分たちの取り組みについて正確に報告する誠実さに欠けている。ウクライナの場合、成功のための前提条件がまだ達成されていないのに、非従来型の手法(unconventional methods)に決定的に依存する計画が試みられた。これは、ロシアの機関におけるより広い文化的な問題を明らかにするものである。

計画の実行可能性を独自に評価することなく、結果をもたらすよう指示されることは、役員が著しい楽観主義バイアスを持つことを奨励される報告文化を生み出す。さらに、自分の成功を過剰に報告し、弱点を上司に隠すという制度的な問題もあるようだ。

これは、本格的な侵攻の際にロシアを積極的に支援するロシアの工作員ネットワーク(agent network)の割合が、過度に楽観的に評価されていることからも明らかである。このようなロシア側の自覚の欠如が失態を招くという事実は、確かに対策担当者が利用することはできるが、ロシア側が成功の可能性を非現実的に見積もっているために抑止が難しいという状況を招き、安心とは程遠い。

ロシアの非従来型戦(unconventional warfare)へのアプローチにおけるもう一つの大きな弱点は、それが定型的であることである。圧力がかかると、革新するよりも、ソ連時代に試行錯誤した形式や手法に回帰するのが常であった。さらに、こうした活動の規模が大きいため、いったん特定の形態や方法が露見すると、それが広く複製される傾向があり、関連性のないさまざまな活動を迅速に発見することができる。

ロシアのシステムは、各作戦をオーダーメイドで扱うことを推奨していないようだ。このことは、ロシアの作戦が疑心暗鬼のターゲッティングに対して迅速に拡大できることを意味するが、作戦が互いに暴露し合うリスクがあるため、警戒すべきターゲッティングに対する真の脆弱性も存在する。

このように既成の形態や手法に回帰する傾向があるにもかかわらず、ロシアの特殊機関(special services)にはかなりのダイナミズムと起業家精神がある。ワグネル(Wagner)や、接触している間のロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)の秘密能力の再編で示されたように、特殊機関(special services)は機会を捉えるのが早く、そのための政策や許可もある。

これは、イアン・カーショウ(Ian Kershaw)がヒトラー国家のアニメーションを「総統のために働く(working towards the Fuhrer)」と表現した言葉で最もよく表現されている、彼らの雇用の背後にある政治的ダイナミズムによって悪化している[117]。特殊機関(special services)は、プーチン(Putin)の意図に沿った作戦を展開するよう奨励され、どちらがプーチン(Putin)の意思に最も近く、より成功するかによって、資源と注意が注がれる。

このような内部競争によって、プーチン(Putin)は特務機関の長官や幹部が真の安全を感じることなく、報酬や罰を与えることができる。このような力学が、特殊機関(special services)を非常に活動的で、リスクを喜んで引き受ける存在にしている。また、分析を歪め、報道における見通しの誇張と、敵の取組みの規模に応じた失敗を想定する破局主義を助長している。

また、内部での責任転嫁を助長し、正確な事後検証を制限することになる。つまり、ロシアン・サービスはウクライナで失敗したとはいえ、今後もロシア国家の強制的な活動の中心であることは間違いなく、それに対抗することが重要であることに変わりはない。

ノート (※ 省略する) 』