アルメニア政府、アゼルバイジャンとの和平条約に関する詳細を発表

アルメニア政府、アゼルバイジャンとの和平条約に関する詳細を発表
https://grandfleet.info/european-region/armenian-government-releases-details-on-peace-treaty-with-azerbaijan/#comment_headline

『アルメニア政府はアゼルバイジャンとの和平条約に関する交渉経過を17日に発表、ナゴルノ・カラバフ地域をアゼル領と認めることで「領土問題」から「アルメニア系住民の人権問題」に変更し、和平条約から切り離される見込みだ。

参考:ՀՀ կառավարությունը Ադրբեջանի հետ բանակցությունների վերաբերյալ մանրամասներ է ներկայացրել
アルメニア・クロスロード・プロジェクトの枠組み内でザンゲズール回廊の実現を目指すのかもしれない

これまでの流れを簡単に説明すると2020年のナゴルノ・カラバフ紛争後、アゼルバイジャンとアルメニアはEUの仲介で「和平交渉に向けた準備」の開始に合意、この枠組みに「領土の相互承認=ナゴルノ・カラバフがアゼル領の一部であることを承認するという意味」が含まれていることが発覚した。

出典:@301_AD 昨年8月に発生した首相退陣を求め数千規模の抗議集会

さらにアルメニアのミルゾヤン外相も「ナゴルノ・カラバフ問題は領土問題ではなく当該地域に住むアルメニア系住民の権利問題だ」と主張したため国民が激怒、昨年8月にパシニャン首相の退陣を求め数千規模の抗議集会に発展したが、同年9月に「私のことを裏切り者だと国民は罵るかもしれない内容の文書に署名することを考えている。恐らく国民は私を権力の座から引きずり降ろそうとするかもしれないが、29,800km²の国土でアルメニア国民が永続的な平和と安全を享受できなら自分がどうなろうと知ったことではない」と発言。

ハチャトゥリアン大統領も「アゼルバイジャンの一部であると認める可能性の文書は我々にとって受け入れがたいものである」と言及、29,800km²という数字は国際的に認知されたアルメニア領に等しく、アゼルバイジャンの一部であると部分はアルツァフ共和国(ナゴルノ・カラバフ地域)を指しているには誰の目にも明らかで、アゼルバイジャンとの和平交渉を進めようとするパシニャン政権への反発は相当激しい。

出典:The Prime Minister of the Republic of Armenia

しかし同年10月、アゼルバイジャンのアリエフ大統領、アルメニアのパシニャン首相、フランスのマクロン大統領、欧州理事会のミシェル議長による4者会談が行われ、アルメニアはアゼルバイジャンが提案した5原則(領土の相互承認、互いの領土に対する領有権の破棄、武力・威嚇の不使用、国境策定、国境解放)を受け入れ、両国は和平条約に関する実務協議を開始することで合意した。

アルメニア政府が17日に発表した内容によると両国は2023年4月までに計3回の実務協議を行い、アルツァフ共和国とアゼルバイジャンの間で「アルメニア系住民の安全と権利に対処するメカニズム」が形成されるなら「アゼルバイジャンとの和平条約とナゴルノ・カラバフ問題を切り離すことも論理的に可能だ」と主張しており、さらに「29,800km²の国土に対する安全保障の形成が必要」とも述べているので「ナゴルノ・カラバフ地域」は条約で相互承認するアルメニア領に含まれていない。

出典:Google Map 管理人作成(クリックで拡大可能)

懸案のザンゲズール回廊については触れられていないものの「アルメニアは経済・交通・通信の遮断解除に関心があり、アルメニア・クロスロード・プロジェクトの枠組み内でアルメニアの国内法に基づき遮断解除を実施する用意がある」と言及している。

このプロジェクトは「アルメニア領を南北に貫通する交通(ジョージア~アルメニア~イラン)の解放」を意味していたが、昨年2月にパシニャン首相は「アルメニアを起点として東西南北に伸びる交通の解放」と再定義、将来的にアルメニア領を東西に貫通する交通(アゼルバイジャン~アルメニア~ナヒチェヴァン自治共和国(アゼルの飛び地)~トルコ)を解放すると言及しており、アルメニア・クロスロード・プロジェクトの枠組み内でザンゲズール回廊の実現を目指すのかもしれない。

出典:Google Map 管理人作成(クリックで拡大可能)

因みにアゼルバイジャンのアリエフ大統領は最近「アルメニアがザンゲズール回廊上に検問を設置することを容認する(代わりにアルメニアとナゴルノ・カラバフ地域を結ぶ回廊=新ラチン回廊にも検問を設置する)」という現実的な妥協案を提示している。

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※アイキャッチ画像の出典:The Prime Minister of the Republic of Armenia
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投稿者: 航空万能論GF管理人 欧州関連 コメント: 12 』


gepard
2023年 4月 18日

返信 引用 

平和への取り組みを評価したいが当事者同士の和解は非常に難しいためミンスク合意のように崩れることを懸念している。

本来の調停役のロシアは軍事的プレゼンスが低下し、欧米はロシア産ガスの禁輸でエネルギーをアゼルバイジャンに依存する。ロシアも欧米もウクライナ戦争で疲弊するなかで紛争が勃発すれば、サウジとイランの和解を演出して見せた中国に仲介者の役が再び回ってくる可能性がある。これは望ましくない展開だがあり得そうな未来だ。
7

    ため息
    2023年 4月 18日
    返信 引用 

中国が仲裁に乗り出すのはありえそうですね。
ロシア・トルコ・イランと共同でということに
なりそうですが。

アルメニアにとっては「屈辱的な平和」です。
ですが残酷な言い方になりますが、アルメニアを
支援するメリットが他国にないので、ミンスク
合意よりは「安定化する」のではないでしょうか。

イランはアゼルバイジャンとトルコの影響力増大
に神経を尖らせていますが、中国が仲裁に入れば
妥協するでしょう。トルコとイランも最近緊張
緩和が進んでいるので、最近の中東情勢の急速な
変化の一環なのかもしれません。
4 』