米軍の機密漏洩、安全保障にどう影響? ポイントを整理

米軍の機密漏洩、安全保障にどう影響? ポイントを整理
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN11DLS0R10C23A4000000/

『米国防総省の機密資料が流出したことが明らかになった。米紙ニューヨーク・タイムズによると、ハッカーによる攻撃ではなく米当局者が意図的に漏洩させた可能性が高いが、誰がどのような意図で流したかは判明していない。機密漏洩が米国や同盟国の安全保障にどう影響するのか。これまでにわかっているポイントを整理した。

誰が、なぜ漏洩?

タイムズ紙がSNS(交流サイト)上で軍事機密が拡散していると報じたのは4月6日。…

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『オースティン米国防長官が漏洩の事実について最初に説明を受けたのも同日朝だった。
流出したのは100件以上の紙に印刷された機密文書を撮った写真で、SNSのツイッターやディスコード、画像掲示板の4chanなどで閲覧できた。一部の文書に米国のみ閲覧可能との記載があり、米国の政府職員が情報を流したとみられる。

クリス・メアー米国防長官補佐官(広報担当)は10日、漏洩文書に「高度な機密を含んでいる」と認めた。「国家安全保障に深刻なリスクをもたらす」とも語り、司法省が捜査に着手したと明言した。

文書にアクセスできた政府関係者は数百人規模にのぼるもようだ。メアー氏は「情報が誰にどのように渡されているかを正確に把握する措置をとっている」と述べた。

米政府は一部の内容が改ざんされていると主張する。ロシアのウクライナ侵攻によるウクライナ軍死者数の推定値を過大に記している一方、ロシア軍の死者数を少なめに見積もっているという。背景はわかっていない。

国家安全保障に打撃も

米国が懸念するのは情報源の特定につながる恐れがある点だ。文書で言及する機密性が高い海外情報はそれぞれの国でも接触できる人物が限られ、氏名の記載がなくても外国政府が内通者を把握しやすくなる。内通者を失えばパイプの再構築に時間を要し、かかわった人物の身に危険がおよぶ事態も想定される。

流出した機密にはロシアによるウクライナ侵攻に関する内容が目立つ。米国がロシアのどの情報機関に内通者を抱えているか、ロシア側が特定するようなことになれば、米欧などが支援を続けるウクライナの防衛に打撃となりかねない。

米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は「文書が表に出たことが最も大きな懸念だ。公開する必要はなく、保護されるべきものだ」と訴えた。

国防総省やNSC、国務省など関係機関は米国と同盟国の安保に与える影響の分析に乗り出した。米軍の統合参謀本部は漏洩を受け、機密性の高い資料の配布や閲覧できる会議への出席者を制限する規定を設けた。

同盟国の情報も流出

漏洩した機密にはウクライナ侵攻だけでなく、同盟・有志国にかかわる情報も表に出た。米紙ワシントン・ポストはエジプトがロシアに4万発のロケット弾の供与を検討していたと報じた。同国のシシ大統領が2月に「西側諸国との問題を避けるため」内密にするよう指示したとの内容だ。

エジプトはロシアから武器を調達してきた経緯があり「過去の支援への恩返しとして、エジプトができることはそれくらいだ」との高官発言も紹介した。エジプト国営メディアによると、11日に同国高官が供与計画を否定した。

米国の同盟国である韓国の情報も明らかになった。ウクライナに殺傷兵器を提供しないという韓国側の原則を変えるかどうかの議論を米軍が傍受していたもようだ。韓国政府は関連文書の相当数が偽造だと主張。金泰孝(キム・テヒョ)国家安保室第1次長は米韓関係に影響しないと強調した。

イスラエルのネタニヤフ首相が主導する司法制度改革を巡り、同国の情報機関モサドの高官が職員や国民に反政府デモへの参加を促す文書もあった。イスラエル首相府は声明で「何の根拠もない虚偽だ」と記した。

米政府はすでに関係国に機密保護を徹底すると伝えた。「できる限り情報を提供し続ける」(カービー氏)構えだが、国防に直結する機密漏洩は同盟・有志国との信頼関係を揺るがしかねない。

(ワシントン=坂口幸裕)』