AIが人間の司令官の「決心を補助する」とは、具体的にはいったいどんな感じなのか?

AIが人間の司令官の「決心を補助する」とは、具体的にはいったいどんな感じなのか?

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『Benjamin Jensen and Dan Tadross 記者による2023-4-12記事「How Large-Language Models Can Revolutionize Military Planning」。

   AIが人間の司令官の「決心を補助する」とは、具体的にはいったいどんな感じなのか?

 一例を想像しよう。

 司令官は、当面している敵地上部隊を、カンネーのような両翼二重包囲を仕掛けることで、殲滅してやりたいと思っている。

 データは、偵察衛星や偵察航空機や電波傍受から得られる。それをデジタルマップ上に可視化すると、これまでの敵軍の動きが時系列的に細密に動画化される。

 だがそれは司令官と幕僚に対するいわば余計なサービスにすぎず、AIは黙って淡々と本業の仕事にかかっている。すなわち、この土地でこのパターンの動きを見せている敵軍を両翼二重包囲するには、我が軍は時々刻々、どのように動かなければならないかを、全範囲にわたって詳細に、計算してくれているのだ。

 我が軍のデータのうちで肝要なのは、「燃料補給」である。燃料補給の目処が立たないのに理想的なマヌーバを提案されても、前線のリアル部隊にはどうしようもない。AIは、今、間に合う燃料兵站の条件で、現実的に可能な包囲機動の作戦計画を立ててくれる。それがMapに示される。

 もし、こちらの準備できる燃料があまりに少なければ、こちらの一部の部隊を後退(偽退却)させることで敵軍を我が陣中に深く誘い入れ、それによって「カンネー」型の決戦を再現できる可能性があるから、AIはそれを映示して「提案」することになるだろう。
 偽退却機動は、人間の司令官にとっては、リスキーな決心になる。もしAIの予想が外れ、あるいは一部現地将兵の戦意が崩壊するなどすれば、予期に反して我が軍は大敗を喫するかもしれぬ。その場合、人間の司令官は戦史に末永く汚名をさらし、幕僚のキャリアはおしまいとなり、なにより国家には大打撃だ。しかしAIには恥の観念は無いし、切腹しろと迫ってくる世論の圧力もない。気楽なものである。

 人間の司令部は、それでも敢てカンネー型の勝利を追求するのかどうかまで含めた、高度判断を下さなければいけない。

 司令官は、おのれ個人の名声と国家の興廃をもろともに賭けた決断を、数分のうちにしなくてはならん。

 ……ざっと、こんな感じだろうか。

 AIの得意技は、人間の司令部がある判断で迷っているところに、最新の偵察データがとびこんできたときに、瞬時に、それを加味した「再計算」を、トータルでやりなおしてくれることである。人間の幕僚には、とてもそんなスピード仕事はできないので、古くなった当初案にこだわることになりがちだ。

 いまやAIは、医師国家試験にも合格できるし、弁護士資格試験もパスしてしまう(米国の話)。

 わずか数ヵ月のうちに、とてつもなく進化しているのである。

 ラダイティズム(そんなもの無い方がいいと叫ぶ運動)の入る余地はない。これは使いこなすしかないのだ。』