北朝鮮制裁逃れ疑惑の船、日本入港3年で38回 監視に穴

北朝鮮制裁逃れ疑惑の船、日本入港3年で38回 監視に穴
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『国連の北朝鮮制裁に違反した疑いのある船が日本の港を出入りしている。日本経済新聞の調べによると、国連の報告書で密輸などへの関わりを指摘された6隻が過去3年で38回寄港していた。日本は疑わしい船を重点的に検査する体制がなく、独自制裁する米国や韓国との間に温度差がある。物流監視の強化は必須だ。

米国、韓国は船を摘発

日本は2006年以降、外国為替及び外国貿易法(外為法)で北朝鮮との貨物の輸出入を禁じて…

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『日本は2006年以降、外国為替及び外国貿易法(外為法)で北朝鮮との貨物の輸出入を禁じている。16年には特定船舶入港禁止特別措置法の対象を拡大。北朝鮮籍船、16年以降に北朝鮮に寄港した船、国連が制裁する船は入港できない。

だが、特措法が依拠する国連の制裁船リストは18年を最後に更新が止まっている。安全保障理事会・北朝鮮専門家パネルや各国が追加を求めても、中国やロシアが反対するためだ。北朝鮮は第三国を迂回する取引や海上で積み荷を移す「瀬取り」を多用し、船籍や直行航路の規制も効果が限られる。

各国は国連とは別に独自の対策を進める。韓国は北朝鮮との取引を禁止する石炭や鉄鉱石を「集中管理品目」とし、原産地の確認などを強化。米国は検査が甘い国の出港船を入念に調べる。両国は密輸疑いの船を徹底して見張り、実際に船を摘発する。外務省によると、22年4月時点で韓国は9隻、米国は17隻を独自制裁している。

少なくとも6隻の外航貨物船

日経は安保理の報告書で制裁違反の疑いを指摘された110隻の20〜22年の動きを調べた。国連の制裁対象ではないが、有識者や各国が嫌疑をかける船だ。英リフィニティブから得た船舶自動識別システム(AIS)信号が示す航跡や入港記録によると、少なくともこのうち6隻の外航貨物船が計38回日本に寄港していた。

報告書によると、5隻は過去に北朝鮮産石炭の密輸に関わった疑いがあり、1隻は元北朝鮮船籍だ。いずれもAIS信号が頻繁に切れ、航路や寄港地の正確な把握が難しい。ただ、北朝鮮への直近の寄港歴がないことなどから特措法は適用外。海上保安庁は6隻に立ち入り検査をしたが「国連の疑いがあっても特別対応はできない」という。

21年3〜4月に東京港などに寄港したトーゴ籍の「ハイシュン」は、韓国が北朝鮮産石炭の密輸疑いを理由に19年2月に制裁した。東京への入港記録によると、中国から来て廃材を示す「スクラップ」を積み、ベトナムに向かった。日経は香港に拠点を置く運航会社と船主に書面で詳細を問い合わせたが、回答はなかった。

20年8月に鹿児島港に寄港したシエラレオネ籍の「チェンヤン」は日本を出た後、国連が北朝鮮密輸の舞台と指摘する中国の寧波・舟山地域でAIS信号が途絶えた。中国・大連にある管理会社は取材に応じなかった。同船は北朝鮮産石炭の密輸に関わった疑いで韓国が18年に入港を禁じ、米国も警戒を促している。

海保「特別な検査には令状が必要」

外務省などによると、日本は独自で船の入港拒否などの強制措置を取ったことがない。国は「違反船の寄港自体がない」(外務省北東アジア第二課)と主張するが、安全保障が専門の山本武彦・早稲田大学名誉教授は「日本の港湾の監視体制は一層の強化が必要だ」と訴える。

海保によると、違反の疑いがある船への立ち入り検査も書類の確認や聞き取りが中心で「特別な検査をするには令状が必要」という。専門家パネル元委員の古川勝久氏は「せめて航海中の通信歴を開示させて無線のやりとりを分析できるようにすべきだ」と提案する。
北朝鮮は武器開発を加速しており、海上物流の監視は重要性を増している。経済制裁に詳しい浅田正彦・同志社大学教授は「国連追従を基本とする日本の北朝鮮関連船への対応は必ずしも実効的ではない」と指摘する。国連の機能低下が目立つ中では米韓と同様に、北朝鮮の動きを読んで対策する柔軟性も求められる。

(北本匠、野元翔平)

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竹内舞子のアバター
竹内舞子
経済産業研究所 コンサルティングフェロー、CCSIアジア太平洋 CEO
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ひとこと解説 前国連パネル委員として。実は国連制裁では入港した船舶が石炭や石油の密輸など制裁違反に関与したと信じる理由がある場合、船舶の押収、検査、留め置きをしなければならない。本来この義務が法制化され履行されていなければならない。

これだけではなく、瀬取りの禁止など国連が各国に履行を義務付ける多くの措置が、日本では立法措置ではなく業界への「要請」にとどまる。船主協会やJETROなどは専門家パネルが報告した船舶や米韓の独自制裁対象船舶のリストを公表して警戒を呼び掛けている。しかし産業界に努力を要請するだけでなく政府が法的措置を取らなければ実効性には限界がある。早急な対応が必要だ。
2023年4月9日 8:41 』