中東外交で中国台頭 米国、陰る影響力に不満と焦り
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN06ENV0W3A400C2000000/
『【ワシントン=坂口幸裕】「米国抜き」で進んだサウジアラビアとイランの関係正常化は中東での米国の影響力低下という現実を突きつけた。国際社会で台頭する中国が主導した合意に米国は不満と焦りを募らせるが、対米不信を強める中東との関係立て直しは容易でない。
サウジとイランの両外相は6日、和解を主導した中国の首都・北京で会談した。2016年に断交していた両国は経済関係の強化や両国民へのビザ発給促進に向けた調…
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『2016年に断交していた両国は経済関係の強化や両国民へのビザ発給促進に向けた調整を進めるとした共同声明を発表した。
米国務省のパテル副報道官は6日の記者会見で「この対話がイランによる危険な兵器の拡散を含む地域の不安定化を抑える行動につながるなら歓迎する」と述べた。
米国の本音は複雑だ。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによると、米中央情報局(CIA)のバーンズ長官が今週に訪れたサウジの実力者ムハンマド皇太子と会談した際、イランとの合意で米国が事実上排除されたことに不満を示した。
米国は2日にサウジなど一部産油国が決めた自主的な追加減産にも反発。インフレ圧力になる減産をめぐってはかねてサウジとの火種になってきた経緯がある。
相互不信の根幹は米サウジの首脳間にある。バイデン米大統領が就任した直後の2021年2月、18年にトルコで起きたサウジの著名ジャーナリスト殺害事件に皇太子が関与したと米政府として結論づけたのがきっかけだった。
関係悪化に歯止めをかけるため、バイデン氏は22年7月にサウジを訪れて皇太子と会った。同年11月に控えていた米中間選挙を前にインフレ抑制につなげる原油増産を自ら働きかける意図があったが、不発に終わった。
バイデン氏は「失望している」とサウジを糾弾。米連邦議会はサウジとの関係を見直すよう圧力を強め、政府も武器売却の縮小などが選択肢になると踏み込んだ。中間選挙後に軌道修正したとはいえ、関係改善のきっかけをつかめていない。
その空白を埋めたのが中国だった。米国が敵対するイランだけでなく、安全保障・経済などの面で重視してきたサウジと協力を深めようと中国は狙う。
米メディアによると、サウジが米国に防衛支援の強化や原子力発電所建設の後押しを求めている。中国との関係をテコに、米国から譲歩を引き出そうとする戦略が浮かび上がる。
もっとも米国にとって中東の価値は低下した。シェール革命で世界有数のエネルギー産出国になった米国にとって、かつて原油を依存していたサウジの優先度は下がった。化石燃料に頼らない社会をめざして脱炭素を進めるバイデン政権の政策とも相反した。
バイデン政権はアラブ諸国とイスラエルを結びつけ、イラン包囲網を築く構想を描いてきた。中国への対応に重点を移す布石とする思惑だった米国の戦略が転換を迫られる可能性がある。バイデン氏はイスラエルのネタニヤフ首相とのすきま風もささやかれる。
中東問題に詳しい米ヘリテージ財団のジェームズ・フィリップス客員研究員は中東への関与を縮小する米国の現状を踏まえ「サウジは中国とロシアから支援を受けるイランによる攻撃に対する安全保障上の保険を求めた」と分析。「米国はイランの脅威を抑止するために中東政策を再検討すべきだ」と唱える。
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青山瑠妙
早稲田大学大学院アジア太平洋研究科 教授
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ひとこと解説 習近平国家主席が2016年にサウジアラビアを訪問した際、サウジアラビアが軍用機で習近平の専用機を護衛したとのニュースが当時の中国で大々的に報道されていた。両国の関係はまさにその頃から急接近し始めた。中国の外交はグローバルな視点で動くが、重要地域(インド太平洋地域)に照準を合わせて集中的に資源を投入するのがアメリカ流の戦略展開。こうした戦術の違いから、2016年の中国とサウジアラビアの接近を軽く受け止め、今回の中国の仲介外交に驚くといった結果になったのではないか。アメリカの戦略展開のあり方が変わらない限り(おそらく変わらないだろうが)、今後もこのようなサプライズはあるだろう。
2023年4月7日 8:43いいね
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小山堅
日本エネルギー経済研究所 専務理事 首席研究員
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ひとこと解説 国際エネルギー安全保障を守る重要な要素の一つが米国とサウジアラビアの「特別な関係」であった。石油がエネルギーの中心で、世界経済を左右する重要な戦略物資であり続けてきた中、石油市場・原油価格の安定のため、サウジアラビアが保有する巨大な石油余剰生産能力の管理を通じ市場安定化を図る一方、そのサウジアラビアを米国が守る、という関係が連綿と機能してきたのである。もちろん今でも、米国・サウジ共にその相互関係の重要性はよく理解している。しかし両国関係は徐々に変化し、とりわけ最近はギクシャクした面が大きく浮かび上がっている。両国関係の立て直し・再構築は今後のエネルギー地政学を左右する最重要問題の一つである。
2023年4月7日 8:34いいね
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柯 隆
東京財団政策研究所 主席研究員
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ひとこと解説 米国一強の時代は終わった。米国に代わる新たな覇権国家はまだ現れていない。国際政治に空白・隙間が生じている。そして、今までの米国の中東政策に問題があったのも事実であろう。ある意味では、今の世界は乱世であり、リーダーが不在でルールも機能しなくなった。再び安定を目指すならば、集団指導体制しかない。G7の役割が問われている
2023年4月7日 7:44いいね
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