「見える化」に期待 東北大新施設ナノテラス

「見える化」に期待 東北大新施設ナノテラス
https://www.yomiuri.co.jp/local/miyagi/news/20221027-OYTNT50141/

『仙台市青葉区の東北大青葉山新キャンパスに現れた直径170メートルの巨大な円盤。2024年の運用開始に向けて建設中の次世代放射光施設「ナノテラス」は100万分の1ミリ単位で観察できる装置だ。「可視化」「見える化」によって製造業、医療、環境、農業、漁業……と幅広い分野での活用が期待されている。記者の最大の関心事は「食」。ナノテラスを使うと、食品はおいしくなるの?(長沼美帆)

 「ナノテラスは、分野を問わずナノ(1ナノ・メートルは100万分の1ミリ)の世界を見える化する施設。今まで全く見えなかった物質が見えるので、性能の向上につなげることができる」。25日、東北大の大野英男学長は市内で開かれた報道向けの説明会で語った。

 仙台市は、国内の既存の放射光施設を企業に利用してもらい、ナノテラスの活用につなげる事業を行っている。家電・生活用品大手のアイリスオーヤマ(仙台市)は、兵庫県にある放射光施設「スプリング8」を使い、最新の炊飯器と従来型で炊いた米のデンプンを測定して比較。最新型の方がより均一に炊きあがることが示された。

 同社は5000万円を出資してナノテラスを10年間利用できる「コアリションメンバー」に加入。ナノテラスでさらに、炊飯器で炊いた米やパックご飯のデンプンを測定して高機能炊飯器の開発などにつなげようとしている。同社は「おいしさを可視化し、新技術の開発や製品の拡充が期待できる」としている。

 海藻の加工食品を製造する理研食品(多賀城市)は、乾燥ワカメを水で戻した時の変化をスプリング8で観察した。より生の状態に近づける品質の改善や、新たな製造方法を模索したいと、ナノテラスの活用を検討している。同社の担当者は「乾燥ワカメを使った冷製スープなど新製品の開発につながれば、市場が活性化する」と期待する。

 兵庫県の手延 素麺 協同組合は、麺をゆでる時のデンプンの変化や分布を機械製造の麺と比較。手延べの方が均一にデンプンが 糊 状に変化し、コシに違いが生じた。のどごしやコシのあるおいしい素麺の開発だけでなく、製造技術を見直して生産性の向上も期待できるという。

 他にも、かつお節や枝豆、冷凍マグロ、うどん、かまぼこなど、様々な食品の研究開発にナノテラスが生かされる可能性がある。

 ナノテラスの運営主体「光科学イノベーションセンター」の高田昌樹理事長は「可視化された状態でデータが得られることで、ものづくりと科学の距離が一気に縮まり、産業界から多くの参画があると期待している」と述べた。

 ■ナノテラス

 放射光は、光速に近い速度で進む電子の方向を、電磁石の力で曲げる時に発生する特殊な光(電磁波)のこと。ナノテラスでは全長110メートルの加速器で電子を加速させ、全長349メートルの蓄積リングで電磁石によって進行方向を曲げる。

 放射光はビームラインと呼ばれる管を伝って試料に当たり、その反応を見ることで物質の構造を詳しく観察できる。ナノテラスで使う「軟X線」という波長の放射光は、兵庫県の放射光施設「スプリング8」で使う放射光の100倍の明るさを出すことが可能で、電子の動きを観察して物質の機能も調べられる。』