「調停者」を装いながらロシアの侵略を放置する習近平
岡崎研究所
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/29841
『3月23日付の英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)は、「危険な友情」と題し、習近平のロシア訪問を総括し、ウクライナ戦争に関して、中国は確固としてロシアの陣営にある印象を強めたが、これは中国にとって危険な路線であると論じている。
習近平のモスクワ訪問は「友好の旅」だと中国は呼んだ。習近平が彼の「親愛なる友」であるプーチンとの2日間の会談は内密に行われた。その中で、習がプーチンに彼のウクライナ戦争を終わらせるよう圧力をかけた形跡はほとんどなかった。中国は確固としてロシアの陣営にあるとの印象が強まった。
3月21日の中露共同声明は、ロシアがウクライナから撤退しウクライナの国境を尊重することを要求せず、北京の「ポジション・ペーパー」にある停戦の呼びかけを繰り返すことさえしなかった。共同声明は、国連憲章の「目的と原則」は遵守されねばならないと述べるが、「いかなる国の領土保全または政治的独立に対する武力の行使」も慎むべきとの条項のロシアによる違反を非難することをしなかった。
戦術的には、ウクライナへの西側からの増大する武器供与により、プーチンが戦争に勝てる見込みはほとんどない。よって、北京には敗者の側に立つか、泥沼の闘争においてロシアと大義を同じくして組むかの可能性しか残されていない。
外交的には、中国は不誠実のように見える。ロシアとの共同声明は全ての諸国に対して「平和、開発、公正、正義、民主主義、自由」の価値を前進させるよう呼び掛けている。この種の唱道は無神経に聞こえる。
経済的には、中国が、ロシアが西側の顧客に売ることができなくなった石油とガスの主要な買い手となり、両国は更に密接な関係にある。
中国がロシアに殺傷兵器を提供するかは不明確なままである。そのような行動は北大西洋条約機構(NATO)側に深い敵意を生じさせるものであることを中国は理解しているに違いない。しかし、中国は半導体のような軍民両用の物資をロシアに供給している。
習とプーチンが昨年宣言した「限界のない」連携は常に不均衡であった。ウクライナ戦争によってロシアはより中国に依存することとなった。
北京にとってより賢明な進路は、ロシアの侵略から公に距離を置き、ウクライナで勝つことはできないことをプーチンに理解させることである。習の現在の路線は西側との緊張に油を注ぎ、最大の貿易相手とのデカップリングを加速させるだけである。
- * * 習近平は何を目的にロシアに赴いたのか。習近平とプーチンの二つの共同声明(戦略的関係と経済関係に関するもの)が公表されたが、これらの退屈な共同声明を交渉するためにロシアを訪問したとは考えられない。しかし、習近平がプーチンに何を内密に語ったのか、特に、ウクライナ戦争について何を語ったのかを知る術はない。 そういう事情はあるが、ウクライナの戦争について、従来の中国の立場から一歩踏み込む(例えば、殺傷兵器の供与)ことは控えたように見える。』
『推測の域を出ないが、習近平は西側に対する共通の憤りを軸とするロシアとの連携の確認・強化を今回訪問の一義的目的に据えたのだろう。プーチンを政治的・経済的に支えることを明確にすることで、プーチンを満足させたように思われる。
3月22日、習近平のロシア訪問の意義を外相の秦剛がメディアに説明しているが、彼は「今日の世界の主たる矛盾はいくつかの諸国が言い募っている『民主主義と権威主義』の対決にあるのではなく、むしろ発展と発展の封じ込めの闘争にある」として、それ故にこそ中国とロシアが戦略的調整を強化することに価値がある、と述べている。
この発言が「米国に率いられる西側諸国はわれわれを全面的に封じ込め、抑圧し、そのことが我々の発展に前例のない厳しい試練をもたらした」との3月6日の習近平の全国政治協商会議における発言の延長線上にあることに疑いはない。
偽りの調停者、中国
ウクライナ戦争については、共同声明の該当部分の英訳が中国外交部のウェブサイトに掲載されているが、それは、国連憲章の順守を言いながら、ロシアの侵略を放置して中国がロシアの陣営にあることを印象付ける一方、中国が偽りの調停者であることを示すものである。
戦況が膠着したまま推移すれば、中国は現在の立場を維持し得ると思われ、中国はそれが中国の利益にかなう選択だと考えるであろうが、ロシアが屈辱的敗北でなくとも劣勢に立つ場面を想定し得る状況に変化すれば、中国は改めて決断を迫られるであろう。』