AIは21世紀の「電気」 3000万人使うNotion、共生促す

AIは21世紀の「電気」 3000万人使うNotion、共生促す
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN31DDD0R30C23A3000000/

『高い言語能力を持つ人工知能(AI)を取り入れたサービスの普及が広がっている。「ChatGPT(チャットGPT)」が火付け役となり、3月には米グーグルなども業務ソフトへの活用を表明した。AIをめぐっては慎重論も出ているが、世界で3000万人以上が使う多機能メモアプリ「Notion(ノーション)」のアイバン・ザオ最高経営責任者(CEO)は「電気と同じ(現代社会に)欠かせない存在だ」と強調し、適切なア…

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『ザオ氏が日本経済新聞の取材に応じた。ノーションは業務支援の分野で注目を集めており、日本のユーザー数は米国に次ぐ。仕事で使う主要アプリとしては最も早い2022年11月に、チャットGPTと同様の「生成AI」と呼ばれる機能を導入した。利用者はアプリ上でAIに指示を出すことで、執筆のアイデアや編集の補助を得られる。

生成AIをめぐるプレーヤーには米オープンAIやグーグルといった「大規模言語モデル(LLM)」と呼ぶ基盤技術を手がける企業のほか、ノーションのように基盤技術を生かしてアプリを作る企業がある。3月には著名研究者ら1900人が基盤技術について「半年間の開発中断」を求めるなど、急な開発競争に警鐘を鳴らす動きが浮上した。

ザオ氏は基盤技術について「将来的に一定の規制が生じる」との見方を示しつつ、21世紀のネット社会における「電気のようなものだ」とも指摘した。電気の価値は「電球や掃除機、テレビを通じて実感できるようになった」とし、AIでも電球などにあたる「価値を引き出すアプリが必要になる」(ザオ氏)。

ノーションは人の仕事の流れを止めないよう、工夫を凝らす

とりわけ仕事で使う場合には、マウスの発明が仕事の効率を引き上げたように「人との適切な接点があってこそ、AIで人間の知性を拡張できる」とみる。ノーションでは作業の途中にスペースキーを押すだけでAIを呼び出せるように設計し、「仕事の流れを止めないことを重視した」(ザオ氏)。

数百万人の利用者から反応を聞くなかで「(AIを使いこなすうえでの)ギャップを埋める必要がある」ことにも気づいた。例えば「AIに仕事をさせるための指示文(プロンプト)を作るのを難しいと考える人もいる」(ザオ氏)。そこで「文章を改善して」「トーンを変えて」といった頻繁に使う指示文をあらかじめ20ほど用意した。ユーザー同士が便利な指示文を共有できるような仕掛けづくりも進める。

アプリの開発は人の働き方に直接的な影響を及ぼす。米ゴールドマンサックスは3月、生成AIの進化によって主要国3億人の雇用に自動化の影響が及ぶ一方、生産性の向上や新たな仕事が生まれることでGDP(国内総生産)を7%押し上げる効果があるとの予測を示した。「スマートフォンと同等かそれ以上の変化が起こる」とザオ氏は期待する。

AIをめぐっては著名研究者のヨシュア・ベンジオ氏ら1900人超が3月に高度な基盤モデルの開発を一時休止するよう公開書簡で呼びかけた。高度なAIが誤情報の拡散や過度な自動化をもたらすと懸念し、政府の介入も必要としていると指摘した。

一方で、AI研究の大家であるヤン・ルカン氏はツイッターで、18世紀に印刷物を禁止して衰退したオスマン帝国の例を挙げ「(公開書簡が述べる)前提に同意しない」と異論を展開。専門家の間でもAI開発を巡って意見が交錯している。

AI警戒論はおもに生成AIの基盤技術に対するものだが、ザオ氏はアプリについては従来と同様に顧客データの保護が健全な発展のカギになるとの見方を示した。「データは顧客だけのもので、誰かと共有したり、AIの学習に使ったりしない」と強調。ほかのスタートアップ企業でも同様の基準を設ける例が増えていると指摘した。

(シリコンバレー=佐藤浩実)

Notion(ノーション) メモやタスク管理、データベースといった多用途に使える業務アプリ。本社はサンフランシスコで、2015年にザオCEOが京都に滞在していた時に開発が始まった。スタートアップ企業に人気が高く、トヨタ自動車や三菱重工業なども利用している。企業評価額は100億ドル(1兆3300億円)。

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