民主主義サミット共同宣言、署名は6割のみ 足並み乱れ
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN30DND0Q3A330C2000000/
『【ワシントン=坂口幸裕】米国など5カ国がオンライン形式で共催した第2回「民主主義サミット」が30日、2日間の日程を終えて閉幕した。共同宣言に署名したのは、招待した120カ国・地域の6割にとどまった。権威主義と位置づける中国、ロシアに対峙するため民主主義勢力の結束を狙ったが、足並みの乱れを露呈した。
「民主主義国家はかつてないほど結束してロシアの残忍な戦いを非難し、民主主義を守ろうとするウクライナ…
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『「民主主義国家はかつてないほど結束してロシアの残忍な戦いを非難し、民主主義を守ろうとするウクライナを支援している」。民主主義サミットの提唱者であるバイデン米大統領は29日の演説で訴えた。
バイデン氏の言葉とは裏腹に、米国務省が公表した「民主主義サミット宣言」に署名したのは73カ国・地域だった。米政府高官は「失望はしていない。宣言の作成に関与しなかった約半数の招待国の賛同を得られるようにしたい」と強調したが、人権や法の支配など基本的価値を重視する米国主導の枠組みの限界を映す。
米国、韓国、オランダ、コスタリカとともに共催国に名を連ねたザンビアは宣言の一部の支持を留保した。インドも共同宣言に署名しつつ、ロシアによるウクライナ侵攻が及ぼす悪影響に懸念を示した段落に賛同しなかった。
インドは歴史的にロシアと軍事・経済で深く結びついてきた。プーチン大統領らに逮捕状を出した国際刑事裁判所(ICC)が「果たす重要な役割を認識する」と記した部分も受け入れなかった。モディ首相は演説で「インドはまさに民主主義の母だ」などと訴えたものの、米欧首脳が批判したロシアには触れなかった。
米政府発表などによると、ブラジルやインドネシア、南アフリカ、ナイジェリアなどは署名しなかった。こうしたグローバルサウスと呼ばれる新興・途上国はロシアのウクライナ侵攻で米欧日の経済制裁に加わらないなど、米主導の枠組みから距離を置いている。
初回会合と同様に、米国が安全保障協力などで重視するタイやサウジアラビア、トルコなどは招かなかった。敵と味方を区別すると受け止められかねない手法に再び反発が出る懸念もある。
民主主義国そのものの影響力が弱まっている現実がある。スウェーデンの調査機関V-Demは22年までに世界人口の72%の57億人が権威主義国家で生活していると分析。経済面でも中国を筆頭に権威主義国家が影響力を増しており、貿易に占める民主主義国間の比率は1998年の74%から22年には47%に低下した。
中ロは隙を突く。サミット開催は米国の存在感の低下が浮き彫りになったタイミングと重なった。中国が中東の大国であるイランとサウジの電撃的な和解を仲介し、米国は関与できなかった。
米欧は対ロシア制裁の効力を高めるため、取引の経由地となる第三国の抜け穴をふさぎたい考えだ。米国が名指ししたトルコやウズベキスタンは招待しておらず、実効性のある対ロ包囲網を築けるか見通せない。
力による現状変更を志向するロシアのウクライナ侵攻を受け、民主主義国家が重視する価値観は試練にある。米国主導で築いた国際秩序を維持するには理念だけでなく、存在感を高めるグローバルサウスを引きつける具体策が欠かせない。 』