※ なんと、『70.79倍 (2006年)』だ…。
※ それでも、「騒ぎにならない」理由は、『アメリカは、50州から成る連邦制国家である。上院議員は、州を代表するだけでなく、国家的利益を考慮した
役割も果たしている。これは、連邦憲法第2編第2条第2項の条約に対する助言・同意権限、連邦公務員任命に対する助言•同意権限などに根拠がある。
上院議員に対する委任の規定は連邦憲法には存在せず、州民との関係は自由委任と解されている』から…、ということだ。
https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_999651_po_069104.pdf?contentNo=1
※ 例によって、「テキスト変換」したものを、貼っておく…。
『レファレンス平成20年8月号
—資料ー
諸外国の上院の議員定数配分
一憲法の規定を中心として一
政治議会課憲法室三輪和宏
目 次
はじめに
I比較の方法
口 直接選挙を中心とした国々
!アメリカ
2 オーストラリア
3 イタリア
4 スペイン
5 ベルギー
6 スイス
7 ポーランド
8 チェコ
9 メキシコ
m 間接選挙を中心とした国々
! フランス
2 オランダ
3 アイルランド
IV任命制等の国々
!カナダ
2 ドイツ
3 オーストリア
4 ロシア
V諸外国の上院定数配分の特徴
おわりに
国立国会図書館調査及び立法考査局
レファレンス 2008.8
73
はじめに
近年、我が国では、参議院の定数是正の問題
が、国政の大きなイッシューになっている。平
成19 (2007)年11月30日、江田参議院議長の諮
問機関として、参議院改革協議会が設置され、
12月4日の会合で、参議院の定数配分見直しな
ど選挙制度改革を議題とすることで合意したと
伝えられている。同協議会は、平成20 (2008)
年6月9日に、一票の格差是正のために選挙制
度改革を検討する専門委員会を設置することを
決めた。また、別の観点から、参議院の構成を
見直すという考え方も提起されている。すなわ
ち、政党レベルの検討において、道州制を前提
に、参議院は各「道州」同数の代表から構成さ
れるべきとの考え方が示されたことがある⑴。
筆者は、既に、参議院の一票の格差・定数是
正問題について小論②を発表している。本稿で
は、諸外国の上院(国会)⑶について、選挙区定
数・州別任命定数等の議員定数配分を、更に詳
細に比較したい。
I比較の方法
本稿では、諸外国の上院について、選挙区定
数・州別任命定数等の議員定数配分を比較し
た。調査対象とした国々は、OECD諸国30か国
に、G8の1つであるロシアを加えた全31か国
のうち、上院を有する16の諸外国である。ただ
し、貴族院型のイギリス上院は除いた。これら
の諸国を対象にしたのは、世界の先進諸国の制
度を広く比較し、世界の現況を概観するためで
ある。
これらの諸国について、①選挙・任命等の制
度、②代表制の性格(州代表•国民代表等⑷)、
③総定数、④選挙区定数•州別定数等(配分結
果[議席数]だけでなく、その計算法が法定される
場合は計算法も明示)、⑤定数配分規定、⑥定数
配分規定の沿革、⑦定数格差・一票の格差、⑧
格差の特徴の、8つの項目を基本として比較し
た。特に、従来紹介されることがあまりなかっ
た「⑥定数配分規定の沿革」については、詳述
した。また、「⑦定数格差・一票の格差」(いず
れも最大格差)は、参考のために試算した⑸。
なお、小選挙区制を採用することにより、選挙
区定数=1議席と一律の定数配分となってい
て、かつ選挙区画定(区割り)が必要な国の場
合は、定数配分ではなく、選挙区画定法(区割
り法)を取り上げた。この場合は⑤、⑥に代え
て、m)選挙区画定法、(b)選挙区画定規定、©選
挙区画定規定の沿革の3項目を比較した。
π 直接選挙を中心とした国々
1アメリカ
⑴ 選挙制度 単純小選挙区制(一部、小選挙
区2回投票制)
⑵ 代表制の性格 州代表⑥(連邦憲法第1編第
3条第1項、同修正第17条第1、2項)
⑶総定数100人
(2年ごとに3分の1ずつ改選)
⑴「国会議員を大幅減自民推進本部道州制素案に明記へ」『日本経済新聞』2008.5.22, p.2.
⑵ 三輪和宏•河島太朗「参議院の一票の格差・定数是正問題ー我が国・諸外国の現状と論点整理一」『調査と情
報-ISSUE BRIEF一』610号,2008.3.11.
⑶ 本稿での「上院」とは、すべて国会又は連邦議会の上院であり、州・県等の地方議会の上院を含まない。
⑷ 本稿では、上院議員は全国民を代表する等の規定が、憲法等にある場合、「国民代表の上院」とした。上院議
員は地域を代表する等の規定が、憲法等にある場合、「地域代表の上院」とした。
⑸直接選挙の場合は、選挙区ごとの議員1人当たりの人口(一部、有権者数)を比較し、一票の格差を求めた。
間接選挙の場合は、上院議員選挙人(有権者)の属する地域ごとの議員1人当たりの人口を比較し、人口格差を
求めた。併せて、選挙区ごとの議員1人当たりの上院議員選挙人の数を比較し、一票の格差も求めた。任命制等
の場合は、任命等の母体となる地域の人口を議員1人当たりにつき比較し、人口格差を求めた。
74 レファレンス 2008.8
諸外国の上院の議員定数配分
⑷選挙区定数小選挙区:50区
各区2人
(州単位、改選時に1人ずつ選挙、選挙執行時に
上院選挙がある州とない州に分かれる)
⑸定数配分規定
連邦憲法第1編第3条第1項、同修正第17
条第1項
⑹定数配分規定の沿革
各州同数の定数とされたのは、人口の少な
い州の利益に対する配慮を行っての措置で
あった。同様の配慮は、連邦憲法第1編第3
条第1項、修正第17条第1項の「各上院議員
は1票の投票権を有する」、同第5編の「い
かなる州も、その同意なくして、上院におけ
る平等の投票権を奪われてはならない」とい
う規定にも表れている。上院における小州へ
の配慮は、連邦憲法制定過程での妥協に淵源
を求めることができる。すなわち、1787年の
連邦憲法制定会議で、連邦下院は、州の人口
に比例して各州の選出議員数が決められ、連
邦上院は、各州同数の選任議員が認められる
という形の、二院制に基づく妥協が成立し、
人口の多い州と人口の少ない州の間の調整が
図られた⑺。
各州2名とされたのは、①病欠等の理由で
1名が議会を欠席する場合の最低限(1名)
の州代表の確保、②(同じ州の)複数の州代
表者による協力・相談関係の確保、③下院と
比べた場合の、上院の力量・能力の向上(各
州1人ではなく 2人とし議員数を増やすことでカ
量を向上させる)、④上院運営のための適切な
コストの維持(議員数が多過ぎると過剰コスト
を発生させる)、⑤各上院議員による責任ある
審議の実現(非常に多数の議員になると個々の
議員としては無責任になる可能性がある)など
が考慮された結果であった⑻。
当初、上院議員は、各州議会が選任してい
たが、1913年の連邦憲法修正(修正第17条)
により、州民の直接選挙で選出されることに
なった。この修正の目的は、①買収、②政党
ボスによる影響力行使、③州議会が上下二院
であることによる議決の遅延などの諸弊害を
避けることにあった⑼。
⑺一票の格差70.79倍 (2006年)”
⑻格差の特徴
各州同数という定数配分、州間の人口の差
が大きいことの2つの理由で、一票の格差は
極めて大きい。
⑹ アメリカは、50州から成る連邦制国家である。上院議員は、州を代表するだけでなく、国家的利益を考慮した
役割も果たしている。これは、連邦憲法第2編第2条第2項の条約に対する助言・同意権限、連邦公務員任命に
対する助言•同意権限などに根拠がある。
上院議員に対する委任の規定は連邦憲法には存在せず、州民との関係は自由委任と解されている(“Parliamen-
tary Mandate: United States of America”列国議会同盟ホームページlast access 2008.6.30>以下のインターネット情報はこの日付による。また、以下で紹介す
る各国において、上院議員に対する委任の規定については、必ず列国議会同盟ホームページの”Parliamentary
Mandate”の項目を確認の上、論述している)。
⑺妥協は、「大いなる妥協(Great Compromise)」と呼ばれる。妥協に至るまでには、①連邦上院でも人口比例
原則を貫くというジェームズ・マディソン起草のヴァージニア案、②一院制の連邦議会において各州1票の表決
権を認めるウィリアム・パターソン提案のニュー・ジャージー案などが見られた。ヴァージニア案は人口•財政
規模の大きな邦から支持を受け、ニュー・ジャージー案は人口・財政規模の小さな邦から支持を受けた。諸案の
対立を受けて、コネティカット出身のロジャー・シャーマンが、③連邦下院では人口比例、連邦上院では各州2
人代表(州議会選任)という案を提案し、この案を中心に妥協に至っている。このため、「大いなる妥協」は、「コ
ネティカット妥協(Connecticut Compromise)」とも呼ばれる。阿部竹松『アメリカ合衆国憲法(統治機構)』有
信堂高文社,2002, pp.26-29; “Two Senators Per State”ア メ リカ上院ホームページ
⑻ ibid.
⑼ 鈴木康彦『註釈アメリカ合衆国憲法』国際書院,2000, p.27.
⑽ カリフォルニア州の人口36,457,549人+ワイオミング州の人口515,004人。
レファレンス 2008.8
75
2 オーストラリア
⑴選挙制度単記移譲式比例代表制
⑵代表制の性格州(或いは選出連邦直轄地)
の代表(11>(連邦憲法第7条、同第12 2条、1918年
連邦選挙法第40条第1項)
⑶総定数76人
⑷選挙区定数大選挙区:8区
(州・連邦直轄地単位)
① 各州(6州)12人
原則として改選時に6人ずつ選挙
② 連邦直轄地である首都特別地域2人
改選時に全員(2人)選挙
③ 連邦直轄地である北部特別地域2人
改選時に全員(2人)選挙
⑸定数配分規定
① 州:1983年代表法第3条
② 連邦直轄地:
1918年連邦選挙法第40条第1項
③ 連邦憲法第7条第3項により、基本州
(Original States)(12)の定数は同数でなけれ
ばならず、かつ各基本州とも最少でも6議
席が保証される。
⑹定数配分規定の沿革
各州の定数が同数とされるのは連邦憲法第
7条第3項に根拠があるが、この規定は、ア
メリカ連邦上院の各州同定数という制度から
多大の影響を受けて定められた。また、人口
規模•財政状況の点で小さな州であったタス
マニア、クインズランド、西オーストラリ
ァ、南オーストラリアの4州が、ニュー・サ
ウス・ウェールズ、ヴィクトリアの2つの大
きな州に比べて、不利な扱いを受けることが
ないように配慮した規定でもあった(11 12 13>。
⑺一票の格差13.97倍(2007年)14)
⑻格差の特徴
各州同数という定数配分、州間の人口の差
が大きいことの2つの理由で、一票の格差は
極めて大きい。
3 イタリア
⑴選挙制度
拘束名簿式比例代表制(プレミアム付き)、
(一部、拘束名簿式比例代表制[プレミアムな
し]、小選挙区比例代表組合せ型、単純小選挙区
制、非拘束名簿式比例代表制)
⑵代表制の性格国民代表(15)(憲法第67条)
⑶ 総定数322人(2008年7月)
① 直接公選議員:315人
② 特別上院議員:前・元大統領である議員
3人(当然の終身上院議員)、及び国家の名
誉を高めた功績により大統領が任命する議
員4人(大統領任命終身議員)
⑷選挙区定数
①国内選挙区
⑴ 大選挙区(比例区):18区
(総数301人、定数2〜47人、州単位)
(ii)トレンティーノ・アルト・アディジェ
(11) オーストラリアは、連邦憲法第3、6条等により、6州から成る連邦制国家である。また同第122条により、
連邦直轄地の存在が認められている(現在、首都特別地域、北部特別地域と、それ以外に幾つかの島映等があ
る)。実際の政治においては、上院は州権を代表するというよりも、下院と同様に、全国レベルの政党の行動に
支配されることが多い。
上院議員に対する委任の規定は連邦憲法には存在せず、州民等との関係は自由委任と解されている。
(12) 連邦憲法制定時(1900年7月9日)の基本州5州(ニュー・サウス・ウェールズ、ヴィクトリア、南オースト
ラリア、クインズランド、タスマニア)に、その後すぐ、西オーストラリア州が加わり、現在6州が基本州であ
る。
(13) The Joint Standing Committee on Electoral Matters of the Parliament of Australia, “Territory Representa-
tion in the Commonwealth Parliament,” pp.8,10.オーストラリア連邦議会ホームページ
(14) ニュー・サウス・ウェールズ州選挙区の議員1人当たりの人口575,741.67人(6,908,900人「12議席)「タスマニ
ア州選挙区の議員1人当たりの人口41,208.33人(494,500人「12議席)。
76 レファレンス 2008.8
諸外国の上院の議員定数配分
州選挙区15 (16)(小選挙区6区[定数各1人]、
全州単位の比例区1区[定数1人])
価)小選挙区:1区
(定数1人、ヴァッレ・ダオスタ州選挙区)
②在外選挙区:4区
(総数6人。ヨーロッパ選挙区[定数2人]、
北・中央アメリカ選挙区[同1人]、南アメリ
カ選挙区[同2人]、アジア•アフリカ・オセ
アニア・南極大陸選挙区[同1人])
⑸法定の定数配分計算法
①国内選挙区の場合
ヴァッレ・ダオスタ州は1議席、モリー
ゼ州は2議席とされ、他州は最少でも7議
席を保証される。これらの配分議席7以下
の諸州を除き、各州の人口に基づき、ヘ
アー式最大剰余法で議席配分がなされる。
人口は、イタリア国家統計局(ISTAT)の
発表する直近の人口総合調査(Censimento
generale della popolazione)による。現行の
定数配分は、2001年の人口総合調査に基づ
いて、2006年2月11日、2008年2月6日に
大統領令で決定されている(両時期の大統
領令は各々総選挙直前に出されたものである
が、同じ定数配分になっている)。なおイタ
リア国家統計局の人口総合調査は、1951年
以降は10年ごとに行われている。次回の調
査は2011年と想定される。
・ヘアー式最大剰余法:(国内人口総数
[56,995,744人]-配分議席7議席以下の6州
の人口の和[3,987,523人]):(総定数[315人]
ー在外選挙区定数の和[6人]ー配分議席7
議席以下の6州の定数の和[31人])}の商の
整数部分を配分基数(ヘアー式基数、
Quoziente inter oと呼ばれる)とし、各州
(配分議席7議席以下の6州を除く)の人口
をヘアー式基数で割り、商(整数)と余
りを求める。まず、当該商(整数)を、
各州への配分議席とする。各州の配分議
席の合計が、{総定数(315人)ー在外選挙
区定数の和(6人)-配分議席7議席以
下の6州の定数の和 ⑶人)}すなわち278
議席に満たない場合は、余りの大きい順
に1議席ずつ278議席に至るまで、各州
へ議席配分を行う。
②在外選挙区の場合
在外選挙区の総数6議席中4議席は、4
在外選挙区に1議席ずつ配分される。残り
の2議席は、各在外選挙区の居住イタリア
市民数(25歳未満の者も含まれる。現行の定
数配分の元になる同市民数は2008年1月31日付
内務省令で決定されている)に基づき、ヘ
アー式最大剰余法で各在外選挙区に配分さ
れる。
⑹定数配分規定
① 国内選挙区の定数配分計算法:憲法第57
条第3、4項、上院選挙法第1条(国家統
(15) イタリアは、単一国家であり、近年地方分権を進めていることが知られている。州(regione)も存在するが、
憲法第114条第2項により、自治団体の1つとされる。憲法第57条第1項、イタリア上院選挙法第1条第1項に
より、上院は、在外選挙区を除き、州を基礎として選出される。しかし憲法第67条により、上院議員は国民の代
表とされ、州・地域代表ではない。国会議員は委任に拘束されることなくその職務を行なう(憲法第67条)。
なお、2006年憲法改正国民投票(上院に州・地方代表院の性格を付与する改正案であったが否決された)にお
ける改正案では、上院が州・地方代表院の性格を付与されるにもかかわらず、一方で上院議員は国民及び共和国
を代表する(現行憲法第67条の改正案)とされていたため、上院の性格付けに曖昧さが残っていた。本改正案に
おいて、「各州への上院議員定数の配分」は、各州の人口に基づきヘアー式最大剰余法で行われるとされていた。
またヴァッレ・ダオスタ州は1議席、モリーゼ州は2議席とされ、他州は最少でも6議席を保証されるとなって
いた(現行憲法第57条の改正案)。岩波祐子「イタリア2006年憲法改正国民投票一改正案の概要と国民投票まで
の道程」『立法と調査』259号,2006.9, pp.107-114.
(16) トレンティーノ・アルト・アディジェ州全体には、定数7人が割り当てられ、同時に州内に6区の小選挙区が
設けられる。小選挙区定数の合計が6人で、比例代表選挙定数が1人である。この州の選挙は小選挙区比例代表
組合せ型で行われる。
レファレンス 2008.8
77
計局の公表する人口に依拠する旨を規定、それ
以外は憲法第57条と同趣旨である)
② 在外選挙区選出議員の総数(6人):
憲法第57条第2項
③ 4在外選挙区への定数配分計算法:
憲法で規定されない。在外選挙法(2001
年法律第459号)第6条第1項で、4つの在
外選挙区に分割されること、及びその地理
的範囲・名称が規定される。同条第2項
で、4在外選挙区への定数配分計算法が規
定される。
④ 大統領任命終身議員の上限数(5人):
憲法第59条第2項
⑺定数配分規定の沿革
イタリアで直接公選の上院を初めて設けた
のは、1948年施行の現行憲法である。現行憲
法は、当初、上院の選挙につき、州を基礎と
した選挙であること、及び各州への定数配分
が原則人口比例によること(各州で人口20万
人ごとに1上院議員、ただし20万人未満の端数が
出たときは10万人を超えていれば1上院議員とす
る。各州は最少でも6議席を保証される。ヴァッ
レ・ダオスタ州は1議席)を規定していた(17)0
この規定は、制憲議会(1946〜1948年(18) * 20 21)
における上院の在り方及び定数配分に関する
審議の結果に由来している。制憲議会での審
議は、大きく三段階に分けられる。最初は、
そもそも国会を二院制のままとするか、ー院
制にするかという審議がなされ、二院制の採
用が多数意見となった⑲。次いで、上院の
権限と性格に関する審議がなされた。上院の
権限を下院より弱くするとの考え方、また、
将来的に設置を見込む州議会の代表及び市町
村長・大学・専門職の代表などから成る上院
にするとの案などが示されたが、いずれも採
用されなかった。結局、上下両院の対等とい
うことで落ち付いた例。最後に、上院の定
数配分について審議がなされた。この段階で
は、中央集権主義と地方分権主義の間の対
立、州人口比例による州別定数配分を主張す
るグループと各州同定数を主張するグループ
の間の対立が顕著だった。しかし、妥協が成
立し、上記の当初の規定となった。各州の定
数に上限を設けるとの案もあったが、採用さ
れなかった(21>。
その後、1963年の憲法改正で、上院国内選
挙区につき現行規定のとおりとされ、2001年
の憲法改正で、在外選挙区定数に関する現行
規定が挿入された。
以上のように、国内選挙区の定数配分計算
法は,1948年当初から「人口比例の原則+各
州の最低議席数の保証」という公式で成り
立っていた。また、新たに導入された在外選
挙区の定数配分計算法も、国内選挙区の場合
に類似する公式によることになった。
(17) Raffaele Bifulco et al., ed., Commentario ala Costituzione, vol.2, Torino: Utet giuridica, 2006, pp.1143-1146.
(18) 新憲法採択は1947年12月22日であったが、経過規定により1948年1月31日まで存続した。
⑲ 二院制の採用の事情については、『諸外国の憲法事情1』(調査資料2001-1)国立国会図書館調査及び立法考査局,
2001,p.114参照。
(20) イタリア憲法の概説書によれば、二院制を採用した理由は、①ー院で行われた審議を省察し、審議の問題点を
深め、議論を繰り返すことにより、提案された政策の利益を評価すること及び法律を完全なものにすること、
②社会の各層の政治的意思を十全に到達させることにより完全な代表制を実現すること(とりわけ専門的能力を
持つ者の活用を期待できること)、③政府と議会の対立を緩和し政治機構の中に均衡を生み出すこと、とされて
いる。また、第二次世界大戦直後のイタリアでは、一院制が、過去にイタリアで見られたような政治(governo
convenzionale、ファシスト体制に至る議会制民主主義の崩壊過程を指すと考えられる)への逆戻りを引き起こす
危険性があると懸念されたと言う。制憲議会では、二院制の目的を果たすためには、両院の権限を対等にするこ
とが好ま しいと考えられた。Francesco Teresi, Le istituzioni repubblicane: Manuale di dlntto costtuzionale,
Torino: G. Giappichelli Editore, 2002, pp.216-217.
(21) Bifulco et al., op.clt.77, p.1143.
78 レファレンス 2008.8
諸外国の上院の議員定数配分
⑻一票の格差
① 国内選挙区のみの格差:2.41倍(200?年)”
② 在外選挙区を含めた格差
⑴ 在外選挙区全体との比較における格
差:?.2 倍(200?年)(23)
伍)各在外選挙区との比較における格差:
12.2?倍(200?年)24)
⑼格差の特徴
国内選挙区のみの格差は、比較的小さい。
州人口比例の原則を、いくつかの州の最低議
席数の保証という例外規定で補正する定数配
分法が、効果を現したものである。
しかし、在外選挙区を含めた一票の格差
は、極めて大きい。①憲法第5?条第2項で在
外選挙区全体の上院議員数が6議席と規定さ
れ、在外の居住イタリア市民数に対して、少
なめの定数であること、②少数の定数を更に
4在外選挙区へ配分し直すこと、③基礎配分
とも呼べる「まず4在外選挙区へ1議席ずつ
配分する計算方法」が存在すること、の3つ
の理由によって、居住イタリア市民数に十分
に比例した形で各在外選挙区へ議席を配分す
るに至っていない。
4 スペイン
⑴選挙制度制限連記制
(一部、完全連記制、単純小選挙区制)
⑵代表制の性格地域代表(25)
(憲法第69条第1項)
⑶総定数264人
① 直接公選議員:208人
② 自治州議会議員の中から同議会が指名す
る議員:56人
⑷選挙区定数等
① 直接公選議員
⑴大選挙区:52区
4?大選挙区
(定数4人、[島憫を除く]県単位)
3大選挙区
(定数3人、3つの大島憫単位)
2大選挙区(定数2人、2自治市単位)
伍)小選挙区:7区
(定数1人、8つの小島憫を7区に分割)
② 自治州議会指名議員 1?区
(定数1〜9人、自治州単位(26))
⑸法定の定数配分計算法
(22) ラツィオ州選挙区の議員1人当たりの人口203,455.85人(5,493,308人+27議席)+バジリカータ州選挙区の議員
1人当たりの人口84,476.86人(591,338人+7議席)。
現行の選挙区定数決定時(2006年2月11日)に用いられた2001年時点の人口総合調査によれば、格差は2.36倍(力
ラーブリア州選挙区対バジリカータ州選挙区)であった。
なお、トレンティーノ ・アルト・アディジェ州は、小選挙区比例代表組合せ型という選挙制度のため、小選挙
区部分と比例区部分(全州単位)を分割して計算することが難しかった。よって、同州人口を7議席で除して議
員1人当たりの人口を算出し比較した。
(23) {在外選挙区全体の議員1人当たりの居住イタリア市民数[25歳未満の者も含まれる]608,229.5人(3,649,3??人
- 6議席)+バジリカータ州選挙区の議員1人当たりの人口84,476.86人。
㉔{ヨー ロッパ在外選挙区の議員1人当たりの居住イタリア市民数】25歳未満の者も含まれる]1,036,205人
(2,0?2,410人+2議席。+バジリカータ州選挙区の議員1人当たりの人口84,476.86人(前掲注2)。
(25) スペインは、単一国家である。1?の自治州が存在するが、自治州は連邦制国家における州とは異なり、自治権
を有する団体の1つとされる(憲法第13?条)。しかし、自治州ごとの自治憲章の存在、権限の大きさ(同第
147,148条)を見ると、自治州は、連邦制国家の州に類似する側面も併せ持つと評する者もいる。
なお、国会議員は、命令的委任に拘束されない(憲法第6?条第2項)。
(26) 第9議会期(2008年3月9日の上下院総選挙後の議会期)から、自治州ごとの定数が部分的に増員になり、自
治州議会指名議員総数も56人に増員されることが2008年1月16日に上院で決定された。3月9日の総選挙に合わ
せて、56人の議員が指名された。第8議会期の自治州ごとの定数は1〜8人であり、指名議員総数は51人であっ
た。”nUmero de senadores a designar por las comunidades autonomas EN LA IX LEG-
ISLATURA” スペイン上院ホームページ
レファレンス 2008.8
79
(自治州議会指名議員)
自治州は1名の上院議員、更に住民数が
100万人を超えるごとに追加して1名ずつの
上院議員を指名する(憲法第69条第5項)。こ
のため、指名議員総数、上院議員総定数も変
動する可能性がある。
⑹定数配分規定
① 直接公選議員:
憲法第69条第2、3、4項
② 自治州議会指名議員の州別定数配分計算
法:憲法第69条第5項
⑺定数配分規定の沿革
1931年の第二共和国憲法は、一院制の国会
を規定していた。その後、フランコ独裁体制
の成立により第二共和国憲法は事実上廃止さ
れた。フランコ体制の下では、自由選挙によ
らない一院制の国会が置かれた。1975年のフ
ランコの死後、急速に自由化が進み、1977年
1月には政治改革法(二院制の採用、基本的人
権の尊重等)が公布、それに基づき同年6月
15日には国会(上下院)総選挙が行われた。
翌1978年12月29日には新憲法(現行憲法)が
公布された。
1977年の政治改革法では、上院は、県の代
表として選挙される直接公選議員207人と、
その5分の1未満の国王任命議員(実際には
41名)から構成されると規定された。また、
207人の内訳は、各県4人、各島噸県1人、
セウ夕市•メリリャ市各2人であるとされ
た(27)〇政治改革法の選挙区定数は、現行の
直接公選議員の選挙区定数とほぼ同じであ
り、政治改革法により、現行定数配分規定の
骨格が定められたと言える。
1978年新憲法制定の過程を詳しく見ると、
上院を地域代表とすることでは、各政党の意
見の一致が見られたことが分かる。しかし、
主として県代表と考える民主中道連合
(UCD、政権党)•国民同盟(AP)と、自治州
や民族の代表と考える州権主義者•左翼勢力
の間の対立が見られた。最終的に妥協が成立
し、現行憲法のとおりの規定となった岡。
現行憲法における定数配分規定の目的につ
いては、地域代表制の確保と同時に、農村部
等の地方エリアからの保守勢力の選出•確保
という現実的な目的を指摘する研究者もい
る例。後者の目的は、極めて党派的なもの
であり、通常の立法趣旨とは異なるものであ
る。しかし、上院定数配分の制定過程におい
て、党派的な要因も大きく影響したことを窺
わせる指摘である。
⑻一票の格差•定数格差
① 直接公選議員に関する一票の格差:
144.01倍(200?年)* 28 29 30)
② 自治州議会指名議員に関する人口格差:
3.2倍(2008年)31)
⑼格差の特徴
直接公選部分の一票の格差は、極めて大き
い。各県同数の定数配分、小島噸への1議席
㉗ 碇順治『現代スペインの歴史一激動の世紀から飛躍の世紀へ』彩流社,2005, pp.265-269.
(28) Andrea Bonime-Blanc, Span s transition to democracy: the politics of constitution-making, Boulder: Westview
Press,1987, pp.68-69, 76-77.
(29) Paul Heywood, The government and politics of Spain, Houndmills: Macmillan, 1995, p.171.
(30) マドリッド県選挙区の議員1人当たりの人口1,520,422.25人(6,081,689人+4議席)+エル・イエーロ島選挙区(小
選挙区)の人口10,558人。
なお、⑻①直接公選議員に関する一票の格差、⑻②自治州議会指名議員に関する人口格差を通してみても、や
はり「マドリッド県選挙区の議員1人当たりの人口」と「エル・イエーロ島選挙区の人口」の間の人口格差が最
も開いている。
(31) カスティーリャ・ラ・マンチャ州の議員1人当たりの人口988,652人(1,977,304人+2議席)+ラ・リオ八州(1
議席)の人口308,968人。
第8議会期の自治州別|日定数、200?年の人口を用いると、定数格差は3.34倍である。バレアレス州(1議席)
の人口1,030,650人+ラ・リオ八州(1議席)の人口308,968人。
80 レファレンス 2008.8
諸外国の上院の議員定数配分
配分が原因である。
自治州議会指名部分の人口格差は、ある程
度小さくなっている。これは、①17自治州中
14自治州が人口1,000,000人以上(2007年)で
あり、「住民数^ミ100万人を超えるごとに追加
して1名ずつの上院議員を指名する」との規
定が有効に働いていること、②最少の人口の
自治州でも300,000人を超える人口を有する
ことの、2つの理由で、指名議員に関してー
定の人口比例性が実現しているためである。
現行定数配分に関する評価として、上院
が、単なる政治的代表ではなく、地域代表と
いう性格を持ち、地域の声を議会に届けると
いう役割を担っている点から考えて、定数配
分が人口比例原則に依らず、格差が大きく
なっていることも妥当と考えられるという見
解もスペイン国内では表明されている。ま
た、憲法改正を通じ、地域の声が議会に一層
反映されるようにすべきとの考え方も広く見
られるという岡。実際に現在、上院は地域
代表の議院としての性格を強めており、自治
州相互間、及び自治州と国の関係を国家的見
地から調整するという機能を果たすように
なってきている32 (33) *〇
しかし一方で、スペイン政治の研究者の中
には、ポール•ヘイウッド(PaulM. Hey-
wood) ノッティンガム大学教授のように、
スペイン上院の一票の格差が極めて大きい事
態を、「極端な歪み」として批判的に見る学
者もいる”。上院直接選挙の格差144.01倍
は、憲法の定数配分規定に基づく格差である
ため、違憲判断をもたらす余地がないもの
の、憲法の定数配分規定自体の妥当性につい
ては、論点となるところであろう。
5 ベルギー
⑴選挙制度非拘束名簿式比例代表制
⑵ 代表制の性格 国民代表かつ選出をなした
者の代表(35)(連邦憲法第42条)
⑶総定数71人
① 直接公選議員:40人
② 共同体議会指名議員:21人
③ 上院議員による指名議員:10人
④ 当然の上院議員:
王子2人、王女1人(定数外とされる)
⑷選挙区定数等
⑴直接公選議員
大選挙区:3区
① ワロン地域(フランス語圏)選挙区(36):
定数15人
② フランドル地域(オランダ語圏)選挙
区:定数25人
③ ブリュッセル•アル•ヴィルヴォルド
地域選挙区(37)(フランス語及びオランダ語
圏):定数はない
(32) 『諸外国の憲法事情2』(調査資料2002-2)国立国会図書館調査及び立法考査局,2002, pp.22-23;『ドイツ・スペイ
ン・英国における憲法事情に関する実情調査一概要』参議院憲法調査会事務局,2001,p.78.
(33) 憲法制度研究会編『各国憲法制度概説(増補改訂版)』政光プリプラン,2002, p.85.
御 Heywood, op.cit.物,pp.170-171.
(35) ベルギーは、連邦制国家であり10の州が定められる(連邦憲法第1、5条)と同時に、3つの言語共同体(フ
ランス語共同体、オランダ語共同体、ドイツ語共同体/同第2条)、3つの地域(ワロン地域、フランドル地域、
ブリュッセル地域/同第3条)、4つの言語地域(フランス語地域、オランダ語地域、ブリュッセル首都2言語
地域、ドイツ語地域/同第4条第1項)も定められる。
上院議員に対する委任についての直接的規定は連邦憲法には存在しない。しかし、連邦憲法第42条(国会の代
表制に関する規定)から、選挙民等との関係は自由委任と解釈されている。
(36) ドイツ語共同体は、地理的にワロン地域(フランス語圏)の中のリエージュ州に含まれており、上院直接選挙
では、ドイツ語共同体住民は、ワロン地域(フランス語圏)選挙区の有権者として投票を行う。
(37) ブリュッセル・アル・ヴィルヴォルド地域選挙区には、独自の政党名簿が存在せず、ワロン地域選挙区又はフ
ランドル地域選挙区の政党名簿(若しくは候補者)に投票する。どちらの選挙区の政党名簿(若しくは候補者)
に投票するかは、個々の有権者が選択する。
レファレンス 2008.8
81
(il)共同体議会指名議員
フランス語共同体議会指名議員:10人
オランダ語共同体議会指名議員:10人
ドイツ語共同体議会指名議員:1人
価)上院議員による指名議員岡
① フランス語圏から選挙又は指名された
上院議員(合計25人)により4人
② オランダ語圏から選挙又は指名された
上院議員(合計35人)により6人
⑸定数配分規定
(i)①直接選挙の選挙区別定数、②共同体議
会別の指名議員定数、③上院議員による指
名議員の言語圏別定数:
いずれも連邦憲法第67条§1第1項
伍)当然の上院議員の資格:同第72条
⑹定数配分規定の沿革
1921年改正のベルギー国憲法では、①各州
の人口に応じて直接選挙で選出される議員
(106人、21選挙区)、②州議会指名議員(50人、
州人口比例原則による)、③上院議員による指
名議員(25人)、④王子、王女(18歳以上)の
4者から上院が構成されることになってい
た(39)(第53, 58条)。その後1993年5月5日
の憲法改正で、連邦制への移行が完了させら
れるとともに、現行の定数配分規定となっ
た。直接公選議員については、引き続き人口
比例原則が維持される一方、共同体議会指名
議員については、フランス語共同体とオラン
ダ語共同体の対等原則が導入された。
⑺一票の格差•定数格差
① 直接公選議員に関する一票の格差:
1.07倍(2007年)38 39 40)
② 共同体議会指名議員に関する人口格差:
9.65倍(2003年)41 42 43)
⑻格差の特徴
ベルギー連邦憲法は、フランス語話者であ
る国民(ワ日ン人)とオランダ語話者である
国民(フラマン人)が存在すること、及びこ
の2種類の言語集団間の政策決定過程におけ
る平等を認めている(42)。直接公選議員に関
する一票の格差が極めて小さいことは、この
2言語集団間の平等原則の1つの現れと考え
ることができる。
ドイツ語話者は、直接選挙ではワ日ン地域
(フランス語圏)選挙区の有権者となるが、ー
方で共同体議会指名議員1名を上院に送るこ
とができるという立場にある。ドイツ語話者
の人口は全体の0.6%に過ぎず、上院議員の
選任で計算上明確な人口比例原則を見出すこ
とは難しい。
なお、定数配分については、人口比例原則
によらず、フランス語系上院議員35人、オラ
ンダ語系上院議員35人とし、言語ごとの完全
な対等を求める改革案も存在している(43)。
(38) フランス語圏の、直接公選の上院議員及び共同体議会指名上院議員により、指名される。オランダ語圏につい
ても同様。
(39) ①〜③の人数、選挙区数は、石井五郎ほか『世界の議会(第3巻 ヨー日ッパ1)』ぎょうせい,1983, pp.155-156
によっており、本書出版時点の数である。
(40) フランドル地域(オランダ語圏)選挙区の議員1人当たりの人口244,697.6人(6,117,440人+ 25議席)+ワ日ン地
域(フランス語圏)選挙区の議員1人当たりの人口229,058.6人(3,435,879人+15議席)。
(41) オランダ語共同体議会指名議員1人当たりの人口690,000人(人口約6,900,000人】2003年]+10議席)+ドイツ語
共同体議会指名議員1人当たりの人口71,500人(人口71,500人[2003年]+1議席)。なお、直接公選議員と共同体
議会指名議員の間の格差を試算すると、フランドル地域(オランダ語圏)選挙区選出議員とドイツ語共同体議会
指名議員の人口格差=3.42倍(2003、2007年。244,697.6人+71,500人)である。ドイツ語共同体住民の代表度•影
響力が大きくなっている。
(42) 連邦憲法第99条第2項で、内閣が同数のフランス語系大臣、オランダ語系大臣で構成されることが規定され
る。同第151条§ 2第2項で、司法高等評議会のフランス語系委員団、オランダ語系委員団が同数と規定され
る。また、仲裁裁判所の(裁判長を除く)判事の構成も、フランス語系、オランダ語系で同数である。
(43) ドイツ語共同体議会指名議員1人の扱いについては不明。『イタリア・ベルギー ・フランスにおける憲法事情
に関する実情調査一概要』参議院憲法調査会事務局.2002, p.224:『諸外国の憲法事情2』前掲注(32), p.83.
82
レファレンス 2008.8
諸外国の上院の議員定数配分
6 スイス
⑴選挙制度
完全連記2回投票制、完全連記相対多数
制、小選挙区2回投票制
(一部、自由名簿式比例代表制、州民総会選出)
⑵代表制の性格州代表(44) 45 46
(連邦憲法第150条第1項)
⑶総定数46人
⑷選挙区定数
① 大選挙区:20区(定数2人、州単位)
② 小選挙区:6区(定数1人、旧半州単位)
⑸定数配分規定連邦憲法第15 0条第2項
⑹定数配分規定の沿革
スイスは、アメリカ連邦憲法に倣って二院
制の連邦議会を設けた。これは、独立性の強
いスイスの州(カントン)と、アメリカの州
権の強さに類似性を見出したためと言われ
る。この結果、各州2名(半州は1名)から
成る連邦上院という構成となり、現在に至っ
ている。スイスは、今までに3つの連邦憲法
を制定しているが、いずれの憲法でも、各州
2名([旧]半州は1名)という構成は変わっ
ていない用。なお、過去においては、州民
による直接選挙ではなく、州議会による選任
により連邦上院議員が選ばれていたケースも
あった。
⑺一票の格差41.96倍(2006年)㈤
⑻格差の特徴
各州同数・各旧半州同数という定数配分、
州•旧半州間の人口の差が大きいことの2つ
の理由で、一票の格差は極めて大きい。
7 ポーランド
⑴選挙制度大選挙区(二人区)単記相対多
数制、制限連記制(三•四人区)
⑵代表制の性格国民代表(47)(憲法第104条)
⑶総定数100人
⑷ 選挙区定数 大選挙区:40区(定数2〜4人)
①2人区:22区、②3人区:16区、
③4人区:2区
⑸ 定数配分法•選挙区画定法
総定数100人が各県に配分された後(県人
口に比例させることを原則として配分される)、
①県の区域と完全に重なる選挙区(4選挙
区(48))と、②県を分割した選挙区(36選挙区)
に分かれる。県の分割は、県内において上院
議員1人当たりの人口を均等にさせるという
原則により行われる。ただし、選挙区定数の
範囲が2〜4人であること、及び上院選挙区
の境界が下院選挙区の境界と交差してはなら
ないことが、法定されている(49)。なお、人
口は、ポーランド中央統計局(Giowny Urz^d
Statystyczny, GUS)発表のものを使用する。
現在の県(wojewodztwo)の数は16であり、
県は自治体としての地位を有する。県内に
は、郡(powiat、総数373)、市町村(gmina、
総数2,489)の2層の自治体が置かれる(50)〇上
院選挙区は、郡、市町村の境界に沿って形成
されており、また郡、市町村が複数の上院選
(44) スイスは、連邦憲法第1条により、26州から成る連邦制国家である。同第161条第1項により、連邦議会議員
(上下院)は指示に縛られることなく投票するとされ、命令的委任は認められていない。
(45) 1848年連邦憲法第69条、1874年憲法第80条、2000年憲法[現行]第15 0条第2項。
(46) チューリッヒ州の議員1人当たりの人口642,026人(1,284,052人+ 2議席)+アッペンツェル・インナーローデン
州(小選挙区)の人口15,300人。
(47) ポーランドは単一国家である(憲法第3条)。同第104条第1項により、国会議員は、選挙人の指示に拘束され
ない(自由委任の原則)。また上院規則第2条により、上院議員は、国家の安寧を考慮し良心に従って行動する
とされている。
(48) 第8選挙区ジェロナ・グラ(Zielona G6ra)、第20選挙区オポレ(Opole)、第23選挙区ビアウィストク
(Biaiystok)、第32選挙区キエルツェ(Kielce)。
(49) 上下院選挙法(2001年4月12日)第191条第2、3項。
レファレンス 2008.8
83
挙区に分割される事例は存在しない。結局、
上院選挙区の境界は、自治体である県、郡、
市町村のいずれの境界とも交差していない。
下院選挙区と違い上院選挙区については、
定数再配分又は選挙区画見直し(特定県又は
特定選挙区の人口が変動した場合、定数配分又は
選挙区画を変更する趣旨)に関する法規定は存
在しない。そのため、定数再配分又は選挙区
画見直しを実施するか否かは、国会の判断に
任されている⑸>。
⑹定数配分規定
① 選挙区別定数:
上下院選挙法(2001年4月12日)別表第2
② 県別定数:同第192条第1項
③ 選挙区画定の原則(52):
同第191条、第192条第2、3項
⑺定数配分規定の沿革
ポーランド国会は、第2次世界大戦後の共
産主義体制下で、一貫して一院制を維持して
きた。上院設置がなされたのは1989年のこと
であった。これは、自主管理労働組合「連帯」
の要求に基づき、政府当局が譲歩し設置され
たものであった。1989年以降、憲法に、上院
選挙の原則として、平等選挙の原則が規定さ
れたことはなかった。一方、下院選挙につい
ては、1992年憲法第3条第1項、現行の1997
年憲法第96条第2項で、平等選挙の原則が規
定された。下院選挙区定数の人口比例原則
は、これらの規定に根拠を持つ。上院選挙区
定数の人口比例原則が憲法上規定されないた
め(50 51 52 53)、1989年上院選挙法では、人口比例に
よる定数配分はなされなかった。すなわち、
県(当時49県)が選挙区とされ、人口の多寡
にかかわらず各選挙区の定数は2名とされた
(例外はワルシャワ県とカトヴィツェ県の各3名)
(同法第3条)。なお、連邦制を採用しない単
一国家のため、県は、「州」のような独立性
の高い区域ではなく、単なる地方行政区域に
過ぎなかった。特に1990年の地方制度改革以
前は、地方「自治」制度も未発達であった。
その後、1999年の地方制度改革で49県が16
県に統合され、県は自治体としての地位を付
与された。また新選挙法として現行の上下院
選挙法(2001年4月12日)が制定された。上
院選挙区は人口比例の原則に基づいて形成さ
れることになった。この人口比例の原則は、
憲法上の要請ではなく立法政策として採用さ
れたものである。
上下院選挙法(2001年4月12日)に関する
国会審議の過程は、長期にわたり、かつ白熱
したものであった。各政党の勢力に大きな影
響を与えるからであった。新上院選挙区につ
いては、地方制度改革で県の数が大幅に減っ
たことにより、各政党の選挙結果にどのよう
な影響が発生するかが、大きな関心を呼ん
だ。結果的に、この上下院選挙法の内容は、
極めて党派色が濃いものになった。与党の連
帯選挙運動(AWS)は、2000年10月の大統領
選挙の敗北•同党への世論の風当たりの強さ
を受けて、それまでの立場を転換し、敵対政
党である民主左翼連合(SLD)が次期総選挙
で第一党になることを防止するという選挙法
策定方針を持つに至った。具体的には、大政
党よりも中小政党に議席配分が有利になるよ
うな戦略に出た。下院の選挙制度について
は、選挙区ごとの定数がなるべく多くなるこ
(50) Janelle Kerlin, “The Political Means and Social Service Ends of Decentralization in Poland, ” 2002, p.25.世界
銀行ホームページ。人
ロ比例原則に基づく上院選挙区は、国民の間
に民主的な選挙区形成として受け入れられて
いるが、今後、上院の在り方も含めて何らか
の変化が生じる可能性も残されている。
⑻ 一票の格差 1.71倍(2007年)岡。
⑼格差の特徴
人口比例原則を基本にした選挙区画定が行
われたため、一票の格差は小さい。
M 制定過程を見ると、上院の定数配分について、種々の案が出ていたことが確認できる。当初、上院は、特別委
員会での審査を経て、選挙区定数については大きな変更を行わない(48選挙区は定数各2人、ワルシャワ選挙区
だけは4人)という案に至っていたが、下院の賛同を得られず、この案は採用されなかった。その後、上院の選
挙区制を小選挙区(定数=1人)を中心にするという案も、与野党双方の一部の上院議員により提案されたが、
これも採用されなかった。上下院の総選挙執行が迫っていたことも背景となり、最終的に現行の定数配分に落ち
付いた。現行の上下院選挙法(2001年4月12日)の制度は、与党に有利であったため、野党に属している大統領
が、憲法第122条に基づく法案拒否権を行使する可能性も取り沙汰されたが、結局、大統領は拒否権を行使しな
力、った。George Sanford, Democratic government in Poland: constitutional politics since 1989, Houndmills: Pal-
grave Macmillan, 2002, pp.175, 188.またポーランド上院事務局への問合せによる(2008.6.20 Biuro Informacji i
Dokumentacj i所属の Danuta Malgorzata Korzeniowska 氏からEメールで回答を得た)。
F. Millard, “Elections in Poland 2001: electoral manipulation and party upheaval,” Communist and Post-Com-
munist Studies, v01.36 no.1, March 2003, pp.69-70; Yonhyok Choe et al., ed., Sweden and Poland from a Europe-
an Perspective: Some Aspects on the Integration Process (Sodertorns hogskola Research Reports 1/2003),
pp.158-163. (www.diva-portal.org/diva/getDocument7urn_nbn_se_sh_diva-40-1__fulltext.pdf>
新選挙法に基づく初めての総選挙であった2001年9月23日上下院総選挙の結果を見ると、恣意的と評される新
制度の下でも、与党は惨敗している。上院選挙の結果は、民主左翼連合75議席(47議席増)に対し、与党の流れ
を汲む「ブロック上院2001」は14議席(50議席減)にとどまった。もし、2001年以前の上院選挙制度(完全連記制)
及び定数配分(47の2人区と、2の3人区)のまま上院選挙が行われたと仮定すると、与党の獲得議席は、更に
少なかった可能性がある。
(56)ポーランド全国選挙局(Krajowe Biuro Wyborcze)への問合せによる(2007.9.13.同局顧問のHenryk Bielski
氏からEメールで回答を得た)。
就 阿部照哉・畑博行編『世界の憲法集(第3版)』有信堂高文社,2005, p.444; “President defends existence of
Polish second chamber, ” BBC Monitoring European (Political),October 20, 2001, p.1; “Poland: Labour Union
wants Senate abolished, ” BBC Monitoring European (Political),April 27, 2002, p.1.(いずれも ProQuest News-
stand Complete databas eより).
レファレンス 2008.8
85
8 チェコ
⑴選挙制度小選挙区2回投票制
⑵代表制の性格国民代表58 (59)
(憲法第23条第3項、第26条)
⑶総定数81人
⑷ 選挙区定数 小選挙区:81区(2年ごとに
3分の1の選挙区につき改選、上院選挙執行時に
選挙がある選挙区とない選挙区に分かれる)
⑸選挙区画定法
⑴選挙区画定の原則
選挙区は、①憲法第18条第2項に規定さ
れる、上院選挙における「平等な選挙権」
の原則、②憲法第3条で憲法秩序の一部を
形成するとされる「基本的権利及び自由の
憲章」の第21条第3項に規定される、「平
等な選挙権」の原則に従って形成される。
チェコでは、「平等な選挙権」の原則が、
上院選挙における「選挙区間の人口均等」
を要請すると解釈されている。従って、上
院の選挙区は、行政区画の尊重の原則に
従って形成されるものの、「選挙区間の人
口均等」の要請の方が上位に立つ基準と
なっており、行政区画と一致しない選挙区
も見られる(60)〇
(il)具体的な選挙区画定法
第一に、選挙区画定案の作成と、法律化
の主体は、議会(上院・下院)である。第
二に、上院選挙が執行される年の1月1日
時点の各選挙区の人口が、上院議員1人当
たりの平均人口(全国人口 [同時点のもの] - 81議員、人口基数[population quota])と
比べて、15%以上多くなったり又は少なく
なったりした場合、選挙区画の見直しをし
(58) {第40選挙区(シュチェチン[Szczecin]選挙区)の議員1人当たりの人口517,094人(1,034,188人+ 2議席)} + {第
27選挙区(チェンストホーヴァ[Czestochowa]選挙区)の議員1人当たりの人口301,850人(603,700人+2議席)}。
(59) チェコは連邦制国家ではなく、上院も地域代表として組織されたものではない(Jan Kysela, “Bicameralism in
the Czech Republic: Reasons, Functions, Perspectives” チェ コ上院英語ホームページ)。
憲法第26条により、上下院議員は、その職責を個人として宣誓に従って行使し、その際、いかなる指示にも拘
束されない。同第23条第3項により、上下院議員の宣誓は以下のとおりである。「•••全人民の利益のために自ら
の最高の見識と良識をもって、自己の職務を遂行することを誓う。」
(60) 地方行政区画と選挙区画の関係について
チェコの地方行政区域は、次のとおり。①「首都(プラハ市)と13の県(kraj)J〇自治体。②77の「郡(okres)」。
自治体ではない。プラハ市は市全体が郡の区域。③6,254 (2003年9月)の「市町村(obec)」。基礎的自治体。大
都市の場合、「区(mをstskA 8st)」が基礎的自治体として置かれることがある。④「市町村」、「区」が複数の「小
区(cast obce) Jに分かれる場合がある。小区は自治体ではない。小区の数は数万。⑤首都のプラハ市は、22の「統
合管理区(spravni obvod)」に分かれる。更に57の「区(m&tska CAst)」に分かれる。統合管理区は自治体では
ない。区は基礎的自治体。区は複数の「小区(CAst obce)」に分かれる場合がある。
① の14の自治体区域(県レベルの区域):
ほとんどの上院選挙区(81.5%」が、区域内部に形成されている(区域と完全に一致する事例はない)。15の上
院選挙区(18.5%。は、2つの「①の自治体区域(県レベルの区域)」にまたがっている。
② の郡の区域:38の上院選挙区(46.9%」が、郡の区域と完全に一致して又は郡の区域の内部に、形成されて
いる。43の上院選挙区(53.1%」は、2つ以上の郡にまたがっている。
③ の市町村・区の区域:
上院選挙区が、市町村・区の境界線に沿って形成されている。例外は、首都のプラハ市内の上院選挙区(後述)。
④ の小区の区域:
上院選挙区が、小区の境界線に沿って形成されている。例外は、首都のプラハ市内の上院選挙区(後述)。
首都のプラハ市については、市の区域が10の上院選挙区に分割されており、いわゆる「分区」された事例であ
る。プラハ市では、統合管理区、区、小区が、複数の上院選挙区に分割された事例が見られる。
⑴統合管理区:8つの統合管理区(36.4%。は、複数の選挙区に分割されている。
i 区:例外的に区が分割されるケースも存在する。ただし4つの区(7%」に限られる。
価)小区:例外的に小区が分割されるケースも存在する。ただし2つの小区に限られる。
86 レファレンス 2008.8
諸外国の上院の議員定数配分
なければならない。見直しは、当該年中に
行わなければならない(チェコ国会選挙法
第59条第2項、第9?条)。第三に、第二に述
べたごとく、選挙法の要請に基づき選挙区
画見直しが行われることが基本であるた
め、政治的な介入が難しいと言われる。た
だし、選挙区の詳細な分析からゲリマン
ダーの可能性を指摘する学説もチェコ国内
には存在している(61)〇第四に、各選挙区
の人口は、チェコ統計局(Cesky statisticky
urad [CSU])が監視の義務を負う。同局は、
第二に挙げた条件(15%以上の過多過少)が
確認された場合、チェコ国会に通知する義
務も負う。第五に、選挙区画定の基準は、
第一順位が「人口均等」であり、第二順位
以下で次の諸要素が考慮される。すなわち
「行政区画の尊重」「人口密度の考慮」「現
行の上院選挙区画の尊重」「財政上・行政
管理上の配慮(選挙執行が現実に可能である
こと等)」「交通・通信の便への配慮」である。
⑹選挙区画定規定
① 小選挙区数・人口偏差による区画是正義
務に関する規定:国会選挙法第59条
② 小選挙区の一覧:同法別表第3
⑺選挙区画定規定の沿革
チェコの上院は、東欧民主化とその後の
チェコスロバキア解体を経て、1993年から施
行された現行憲法に、その根拠を持ってい
る。チェコ上院選挙が初めて行われたのは、
1996年のことである。憲法及び国会選挙法の
起草の段階で、上院議員の選任については、
地域代表としないこと、間接選挙や任命制を
採用しないことが共通認識となり、直接選挙
によることとなった。チェコでは、オースト
リア・ハンガリー帝国時代の民族対立の経
験、チェコスロバキアの解体という歴史的経
験が存在し、現在でもボヘミア、モラヴィ
ァ、シレジアという歴史的地域が鼎立するこ
とから(61 62)、地域代表の採用は、地域・民族
間の対立を発生させる可能性があると考えら
れている。間接選挙や任命制も、現代では通
例、地域を基盤とした制度になることが多い
ため、これらの可能性も否定された。
このように地域を基盤とした選任制度に対
する警戒感が存在する一方で、諸政党の持つ
様々な考え方・利害の間の調整が図られ(63>、
最終的に憲法第18条第2項に規定される、上
院選挙における「平等な選挙権」の原則が重
視されるようになった。この結果、現行の国
会選挙法のとおり、上院の選挙区画定法につ
(61) Jana Bittnerova, “PROHLASENI: Prohlasuji, ze jsem diplomovou praci vypracovala samostatne a vyhradne s
pouzitim citovanych pramenu: V Plzni dne 24.5.2005” 西ボヘミア大学ホームページ
(62) Petr Kopecky,Parliaments in the Czech and Slovak republics: party competition and parliamentary
institutionalization, Aldershot: Ashgate, 2001, p.40.
(63) ibid., pp.41-45, 52.またチェコ国会事務局への問合せによる(2008.5.29. 一般調査課長のStepan Pechacek博士か
らEメールで回答を得た)。
現行憲法で上院が設置された理由としては、次のものが挙げられる。①下院の立法の精査・修正。②下院の選
挙結果に大きな変動が発生した場合の政策の継続性を確保(特に、下院選挙で左翼政党が勝利した場合に政策の
継続性が確保したいとの意向が、中道右派政権側にあった)。③経済学者のフリードリッヒ・ハイエク(1899~
1992年)の二院制論の影響(特に市民民主連合[ODA、小規模な保守政党]がハイエクの二院制論から影響を受
けて上院の設置を強く求めた。同連合の主張は、現行憲法制定過程における最初の二院制導入論であった)。
④チェコスロバキア第一共和国時代(1918~1938年)の上院の存在の影響。①〜④のいずれも「地域代表制」を
支持する理由ではなかった。
1992年に現行憲法が制定されてから、上院選挙制度(定数配分•選挙区画定規定を含む)が1995年に国会選挙
法で定められるまでの間、様々な議論がなされた。憲法改正による上院廃止論が一部から出されたり、同一政党
内でも意見が分かれるなど、議論は複雑なものであった。最終的に、憲法第18条第2項に規定される上院選挙に
おける「平等な選挙権」の原則が重視され、厳格な人口均等原則が採用された。
レファレンス 2008.8
8?
いては、人口均等原則が最優先とされた(64) 65 66 *〇
以上のような歴史的沿革を持つ上院選挙区
画であるが、チェコでも一部に、上院を地域
代表とすべきという議論が存在している。上
院改革の議論は、様々な角度からなされてお
り、その一つとして上院地域代表論が挙げら
れている。しかし現状では、この種の見解が
実際に採用される可能性は乏しい岡。
⑻ 一票の格差 1.39 倍(2002、2004、2006年)66>。
⑼格差の特徴
人口偏差による区画是正義務が選挙法に規
定されるため、一票の格差はかなり小さい。
9 メキシコ
⑴選挙制度大選挙区比例代表並立制
⑵代表制の性格
元来は州代表、現在その性格を弱めてい
る(67>(連邦憲法第56条)
⑶総定数128人
⑷選挙区定数
①大選挙区:32区
(定数3人、31州と連邦特別区[首都]の単位)
②比例区:1区(定数32人、全国単位)
⑸定数配分規定連邦憲法第56条
⑹定数配分規定の沿革
メキシコ最初の共和政憲法と呼ばれる1824
年連邦の憲法的法律(Acta Constitutiva de la
Federacion de1824)第12条、またメキシコ最
初の本格的憲法である1824年憲法(Consti-
tucion de1824)第25条は、各州2人から成る
上院を規定した。1824年憲法は、二院制等の
政治制度についてアメリカ合衆国憲法の影響
を多大に受けた。1874年に、一旦廃止されて
いた上院が復活した時にも、各州同数の議員
から成る上院とされた。
現行の1917年連邦憲法第56条も、当初は、
州と連邦特別(直轄)区から2人ずつ上院議
員を選出することとしていた(半数改選のた
め、各選挙区は選挙時に小選挙区となる)。1993
年に総定数が128名に増加し、32大選挙区(州
及び連邦特別区)で4名ずつ選出することに
なった(半数改選は廃止)。以後1996年に比例
(64) 選挙区制において小選挙区(定数=1人)を採用した点については、結局のところ地域代表制と同じことになっ
てしまったと否定的に見る政治家も、存在している。実際、上院議員には市長経験者、地方議員経験者が多くお
り、地方の観点から審議が行われることも多いことが、この見解を実証的に裏付けているとの指摘もある。しか
し通常、チェコで地域代表制という言葉から想起されるエリアは、もっと広いエリア(例えばモラヴィア地域、
シレジア地域等)であり、通説的には、現在の上院選挙制度は、地域代表制によるものではなく、チェコ上院も
地域代表の議院ではないとされている。(Kopecky, op.cit.^, p.40; Kysela, opct(59))
(65) Kysela, op. cit. 9
(66) {第41選挙区(ベネショフ[Benesov]選挙区)の2006年第1回投票における登録有権者数120,255人け|第70選
挙区(オストラヴァ・メスト】Ostrava-mesto]選挙区)の2004年第1回投票における登録有権者数86,528人}。
3分の1ずつ改選されるため、登録有権者数の基準年は複数年にわたる。
銘 メキシコは、連邦憲法第40、43条により、31州及び1連邦特別(直轄)区[首都]から成る連邦制国家である。
メキシコの連邦制の特徴は、州の存在を認めながら、一方で中央集権的な要素が大幅に導入されていることであ
る。
メキシコの上院議員の代表制の性格に関しては、以下の歴史的経緯を確認できる。
1824年連邦の憲法的法律、及び1824年憲法の時代の上院議員は、州代表であった。現行の1917年連邦憲法の制
定当初、上院議員は、州又は連邦特別区の代表(dos miembros por cada Estado y dos por el Distrito Federal)
とされた。また州議会が当選を宣言した。1993年からは、当選の宣言は選挙管理機関が行うことになった。1996
年に現行制度となり、新たに連邦選挙委員会が設けられた。同委員会が当選の宣言を行うことになった。
①州及び連邦特別区「において(en cada Estado y en el Distrito Federal))選出される、又は単一の全国単位
大選挙区「において(en una sola circunscripcion plurinominal nacional))選出される(比例区のこと)と、連
邦憲法で規定される点(第56条)、②当選の宣言に州議会が関与しない点を考える合わせると、現在の上院議員
は、州代表の性格を大幅に弱めている。
上院議員に対する委任の規定は連邦憲法には存在せず、州民等との関係は自由委任と解されている。
88 レファレンス 2008.8
諸外国の上院の議員定数配分
区が設けられるまで、メキシコでは各州・各
連邦特別区同数の議員によって上院を構成し
てきた。このようにメキシコでは、州や連邦
特別区を単位として上院議員を選任するケー
スでは、これらの区域の定数が同数とされる
ことが慣例である。
⑺一票の格差27.35倍(2005年)6紛。
⑻格差の特徴
各州・連邦特別区が同数という定数配分、
州・連邦特別区間の人口の差が大きいことの
2つの理由で、一票の格差は極めて大きい。
m 間接選挙を中心とした国々
1フランス
⑴選挙制度
① 複選制的
② 選挙人団による選挙:
完全連記2回投票制、小選挙区2回投票
制、拘束名簿式比例代表制
⑵代表制の性格
地方公共団体(地域共同体とも訳される)の
代表が保障される。また、国外のフランス人
も代表される68 69 (70)〇 (憲法第24条第3項)
⑶総定数348人
(3年ごとに半数改選、在外選挙区を除き選挙執
行時に上院選挙がある選挙区とない選挙区に分か
れる、2008年7月時点では331人であるが2011年
までに段階的に348人へ増員する)
⑷選挙区定数
① 本土にある選挙区:
96区(総数315人、定数1〜12人、県単位)
② 海外の領土にある選挙区:
11区(総数21人、定数1〜4人、海外県・
海外共同体又は特別共同体の単位)
③ 在外選挙区:1区(総数12人、3年ごとに
半数改選のため改選時の定数は6人)(71)
⑸定数配分規定
憲法第25条第1項は、国会の各議院の構成
員の定数を組織法律(Loi organique)で定め
ると規定している。具体的には、総定数の増
加・減少を伴う場合は、必ず組織法律で規定
される。一方、県別の定数配分は、総定数に
関係のない「配分」に関する事項とされ、通
常法律(Loi ordinaire)で規定される。
現行のフランス選挙法は、以下の定数規
定・定数配分規定を有している。
① 本土選挙区・海外県選挙区の合計議席数
(68) メヒコ州人口14,007,495人+バハ•カリフォルニア・スル州人口512,170人。なお、比例区(全国単位)におけ
る議員1人当たりの人口は、3,226,980.88人(103,263,388人+32議席)である。この数値は、両州の議員1人当た
りの人口の中間に位置する。
(69) 間接選挙の基本的枠組み
上院選挙区のエリアから選挙された下院議員•地方議員(又は、その代表)が、各上院選挙区で選挙人団を形
成する。上院選挙区を単位として、この選挙人団が選挙を行い上院議員が選出される。約150,000人の選挙人団の
約95%は、市町村議会議員又はその代表である。例外として、在外選挙区では、在外フランス人議会の中の公選
議員が選挙人団を形成する。
(70) フランスには、州(region)と呼ばれる地方行政区画が存在するが、州は地方公共団体の1つであり、フラン
スは単一国家である。「地方公共団体」(憲法第24条第3項)には、海外県・海外共同体・特別共同体も含まれる(憲
法第72条、第72条の3)。
「地方公共団体の代表の保障」との規定は、個々の地方公共団体が直接にその代表を上院に送ることを意味す
るわけではない。上院が、地方公共団体を総体として代表することを意味すると一般に解されている(山崎栄一
「フランスにおける地方分権の動向⑹」『地方自治』661号,2002.12, p.74.)。本規定は、上院議員選挙の選挙人団(有
権者)が、本質的に審議機関(地方議会)から構成されなければならないことを導くとされており(只野雅人「不
可分の共和国とフランス元老院ー『地域代表』の観念をめぐって」『法律時報』73巻2号,2001.2, p.89.)、現在、県・
海外県・海外共同体・特別共同体の市町村議会議員等が、同様に選挙人団(上院議員選挙人)を形成している。
憲法第27条第1項は、国会議員に対する命令的委任を無効とし、同条第2項は国会議員の表決権は一身専属的
としている。このことから、フランスの国会議員は、自由委任の原則の下にあることが分かる。
(71) 「⑷選挙区定数」において、総数及び定数として掲げられる数は、2011年の増員終了後の数字である。
レファレンス 2008.8
89
(326議席、選挙法典LO•第274条)【定数規定】
② サン・ピエール•エ・ミクロン選挙区(定
数)(同LO•第334-2条)
【定数増を発生させた規定】
③ マイヨット選挙区(定数)(同LO•第334-
14-1条)【定数増を発生させた規定】
④ ニュー・カレドニア選挙区、フランス領
ポリネシア選挙区、ワリス・エ・フツナ諸
島選挙区(各定数)(同LO•第438-1条)
【定数増を発生させた規定】
⑤ サン・バルテルミー選挙区(定数)(同
LO•第500条)【定数増を発生させた規定】
⑥ サン・マルタン選挙区(定数)(同LO・第
527条)【定数増を発生させた規定】
⑦ 在外選挙区全体(国外在住フランス人の上
院代表に関する1983年6月17日の組織法律第
83-499号第1条)【定数増を発生させた規定】
本土各選挙区•海外県各選挙区の定数は、
通常法律で規定される(選挙法典L第279条に
付される別表第6。本別表は、2003年7月30日法
律第2003-697号で挿入)。
⑹定数配分規定の沿革
フランス上院の選挙区別定数配分に関して
は、1948年以来慣例となっている計算法が存
在する。この計算法は、憲法又は法律に直接
的に規定されたものではないが、新規定数配
分やその後の定数是正で、慣例として使用さ
れている。すなわち、①県相当の地方公共団
体エリアごとに、人口150,000人(或いは
154,000人(72))までについて、まず1議席を配
分する、②それを超える人口を持つエリアに
は、150,001人〜400,000人までにつき1議席
追加、400,001人〜650,000人までにつき更に
1議席追加というように、(150,000人を超えた
ら次の)250,000人までごとに1議席ずつ追加
していく方式が、慣例である。実際に、2003
年の定数是正、その前(1976年)の定数是正
でも、この計算法が用いられている(72 73>。
2003年の定数是正では、直近の1999年国勢
調査人口を基本として、この計算法に従って
定数配分を行っている。ただし、クルーズ県
とパリ県は近年人口が減り続けている県で、
慣例になっている計算法に従えば、各々1議
席、9議席になるはずである^ミ、2議席、12
議席と以前と同じ定数が維持されている。
2003年の定数是正では、定数が減った県相当
の地方公共団体エリアは1つも存在せず、増
員のみが行われている。
第五共和制成立以降、上院総定数は、フラ
ンスから独立した国が現れて減員になった
ケースを除き、ほぼ一貫して増えてきてい
る。定数是正は、1976年、2003年の2回行わ
れているが、いずれも「総定数増・減員選挙区
なし」で対応している。(2008年7月21日に可決
の憲法改正で上院総定数上限が348人になった)
⑺一票の格差•定数格差
①選挙人団(上院議員選挙人)に関するー
票の格差(在外選挙区を含む)
35.27倍 (1998、2001、2004年。2003年定数
是正前[総定数321人])74>。
30.93倍 (1998、2001、2004年。2003年定数
是正後[総定数348人])75>。
(72) 1948年の議席配分では154,000人が使われた。
(73) 2000年の定数是正案(廃案になった)でも、この慣例が用いられている。
(74) オワーズ県の上院議員1人当たりの上院議員選挙人740.67人(2,222人[2001年選挙時の上院議員選挙人実数]+
定数3議席)+ワリス・エ・フツナ海外共同体の上院議員1人当たりの上院議員選挙人数21人(21人[1998年選
挙時の上院議員選挙人実数]+定数1議席)。
(75) ドルドーニュ県の上院議員1人当たりの上院議員選挙人649.5人(1,299人[1998年選挙時の上院議員選挙人実数]
+定数2議席)+ワリス・エ・フツナ海外共同体の上院議員1人当たりの上院議員選挙人数21人(21人[1998年
選挙時の上院議員選挙人実数]+定数1議席)。
2008年に初めて上院議員選挙が行われる新設のサン・バルテルミー選挙区(定数1人)、サン・マルタン選挙
区(定数1人)は、比較の対象から外した。
90 レファレンス 2008.8
諸外国の上院の議員定数配分
② 選挙区となる区域(県•海外県•海外共同
体・特別共同体•在外選挙区)の人口格差
52.38倍(主に2006年。2003年定数是正前[総
定数321人])(76 77 78 79>。
39.29倍(主に2006年。2003年定数是正後[総
定数348人])”。
⑻格差の特徴
慣例となっている定数配分計算法に従え
ば、人口の極めて少ない海外共同体(COM)
にも1議席が配分されるため、格差は極めて
大きい。
・フランス上院の人口格差に関する憲法論議
フランスでは、次のような憲法論議がな
されている。
憲法第24条第3項の上院における「地方
公共団体の代表の保障」の原則は、しばし
ば憲法上の争点として取り上げられてき
た物。それは、「地方公共団体の代表の保
障」と、選挙における人口比例原則をいか
に調和させるかが、容易ではないことを背
景にしている。1789年フランス人権宣言第
6条及び憲法第3条第3項は、選挙権の平
等を保障し、上院議員選挙でも人口比例の
原則が適用されるべきことを要請してい
る、と解釈されている。上院が「地方公共
団体の代表」でありながら、同時に人口比
例に基づく上院選挙を実現するには、どう
すれば良いのかが、第五共和制憲法制定以
来のテーマになっている。
また、憲法第1条では、単ーで不可分な
共和国(une republique indivisible)として
フランスが位置付けられている。「不可分」
という言葉は、憲法の平等原則と呼応し
て、フランス国民の間の差異化を否定し、
主権者として均一な国民の存在しか認めな
いもの、と解釈されている㈣。そのた
め、やはり選挙での人口比例原則が求めら
れることになる。この点からも、「地方公
共団体の代表の保障」原則と人口比例原則
の間の調整が、問題になっている。
一方、現実政治の側面からの批判も見ら
れる。現行の上院選挙制度(定数配分を含
む)が、農村部に基盤を有する保守・中道
勢力に有利に働いており、左翼勢力から
は、上院が「民主主義諸国の間では異例」
「保守的上院の残寸宰」(『ル・モンド』紙にお
けるジョスパン首相の発言(80))との手厳しい
批判も提起されている。これに対し、小規
模市町村を優遇する制度を、一種のア
ファーマティブ・アクション(積極的差別
是正措置)として理解することもできると
いう立場も存在している。
実際に、2003年の定数是正を例にして、
上院の「地方公共団体の代表」の性格が、
定数配分でどのように具体化されたか、見
てみたい。
在外フランス人も含めたフランスの総人
口は、約65,000,000人である。その中で、
上院定数配分上、県に相当する人口最少の
(76) エロー県の上院議員1人当たりの人口330,832.33人(992,497人+ 3議席)+サン・ピエール・エ・ミクロン海外
共同体の上院議員1人当たりの人口 6,316人(6,316人+1議席)。
サン・バルテルミー選挙区、サン・マルタン選挙区は、比較の対象から外した。
(77) エロー県の上院議員1人当たりの人口248,124.25人(992,497人+4議席)+サン・ピエール・エ・ミクロン海外
共同体の上院議員1人当たりの人口 6,316人(6,316人+1議席)。
サン・バルテルミー選挙区、サン・マルタン選挙区も、比較の対象とした。これに合わせて、海外県グアドルー
プの人口から、サン・バルテルミー及びサン・マルタンの人口を除いて計算。
(78) 大山礼子『フランスの政治制度』東信堂,2006, pp.19, 24, 82-83,154,162-165;大山礼子「元老院議員選挙におけ
る選挙権の平等」『フランスの憲法判例』信山社,2002, pp.272-277;只野 前掲注(70), pp.88-91.
(79) 山崎榮一『フランスの憲法改正と地方分権ージロンダンの復権』日本評論社,2006, p.59.
M “Lionel Jospin donne la priorite a ses choix economiques et sociaux, ” Le Monde, 21 avril 1998 (Factiva.com
databas eより).
レファレンス 2008.8
91
地方公共団体は、サン・ピエール・エ・ミ
クロン海外共同体(6,316人、2004年)であ
る⑶)。仮に、県相当のすべての地方公共
団体エリアで最低1人の上院議員の選出を
認め、同時に人口比例に基づく定数配分を
徹底すれば、上院の総定数は、10,000人以
上になる(65,000,000人+6,316人/議席)。こ
れでは、議院の適正規模を超えてしまう。
県相当の地方公共団体エリアへの最低1議
席配分制を認め、上院総定数を350人程度
とすれば、3 0倍台という人口格差は、格差
がかなり縮められた結果と判断することも
可能である。実際に憲法院は、2003年の定
数是正につき、無視できない不均衡を残す
ものの、それでもなお不均衡の縮小は目に
見える著しい結果が出ていると判断し、違
憲ではない旨の裁決を行った岡。
注意を要するのは、別の裁決において憲
法院が、人口変動が生じているにもかかわ
らず長期にわたって定数是正をしないこと
に対しては、問題視していることである。
すなわち、1789年フランス人権宣言第6条
及び憲法第3、24条後>を併せて考えるな
らば、立法者は、地方公共団体の人口増減
を考慮して各県への定数配分を見直すべき
であると判示している陽。この裁決は、
1976年から四半世紀にわたり上院の定数是
正が行われなかったことを受けている。
2 オランダ
⑴選挙制度
① 複選制衝:
② 選挙人団による選挙:
非拘束名簿式比例代表制
⑵代表制の性格国民代表岡(憲法第50条)
⑶総定数75人
(4)選挙区(候補者名簿提出単位)の定数
大選挙区:12区
(選挙区ごとの定数は定められていない、州単位)
⑸ 選挙区・「投票価値」に関する規定
① 選挙区(候補者名簿提出単位)の区域に関
する規定:1989年選挙法R1条等
② 「投票価値」に関する規定:同法U2条
回2003年の定数是正では、海外の領土である海外県・海外共同体・特別共同体のいずれについても、同じ基準を
用いて定数配分計算がなされている。このことは、2003年3月28日の憲法改正で、「フランス人民の中に海外住
民が存在することを承認する」(第72条の3第1項)との規定が挿入されたことから考えると、妥当なことと考
えられる。
(82) 2003年 7 月 24 日憲法院裁決(Decision n° 2003-475 DC du 24 juillet 2003, Decision n° 2003-476 DC du 24 juillet
2003)〇
(83) 1789年フランス人権宣言第6条及び憲法第3条第3項は、選挙権の平等を保障し、人口比例の原則が選挙で適
用されるべきことを要請している、と解釈されている。
組 2000年 7 月 6 日憲法院裁決(Decision n° 2000-431 DC du 6 juillet 2000) 〇
(85) 間接選挙の基本的枠組み
全国総数564人(2007年)の州議会議員(全12州)が、選挙人団を形成する。各州内で行われる選挙人団の投
票結果が全国レベルで合算・集計され、(全国レベルで)政党への議席配分がなされる。その後、各政党の獲得
議席は、選挙区ごとの政党名簿に対して振り分けられ、当選者が決定される。議席配分方法、当選人決定方法
は、下院議員選挙とほぼ同じである(三輪和宏「諸外国の下院の選挙制度(資料)」『レファレンス』671号,2006.12,
pp.75-76参照)。ただし、1989年選挙法U2条に基づき、全国集計の際に、選挙人団が投じた各票には、州ごとに
決められる「投票価値(Stemwaarde)」が乗じられる。「投票価値」は、選挙人団の投じる1票の価値を、州人
口に比例させるように調整することを目的とした係数である。
「投票価値」は、”選挙年の1月1日付け人口 [州単位])+(州議会議員数X100)!の商を四捨五入して整数とし
た値である。
(86) オランダは分権的統一国家とされ、単一国家である。12の州が存在するものの、我が国の都道府県に相当する
ものと言われる。憲法第67条第3項により、国会議員は、表決において委任又は指示に拘束されないと規定され
る。このため、オランダの国会議員は、自由委任の原則の下にあることが分かる。
92
レファレンス 2008.8
諸外国の上院の議員定数配分
⑹選挙区規定等の沿革(87) *
1815年に上院が創設されて以来、オランダ
では、上院議員は国王による終身議員の任命
という形で選任されていた(1815年憲法第80
条)。この時期の上院は、貴族・名士の代表
機関であった。
その後1848年に、国王ではなく、州議会に
よる選任という形に制度が変更された。この
当時は、州別定数が定まっていた(各州:1
〜7議席)。例えば人口の少ないドレンテ州
は1議席、人口の多い南ホラント州は7議席
であった(1848年憲法第78条)。州別定数配分
においては、一定の州人口比例原則が保たれ
ていた。
1923年には、すべての州を4つのグループ
(1グループは1〜4州から形成された)に分
け、グループを単位として州議会議員が間接
選挙を行うという制度が採られた。グループ
ごとの定数は、当初は12〜13議席であり、
1956年以降は17〜21議席であった。この新制
度の下では、上院議員選挙人(州議会議員)
が投じる1票の価値を、州人口に比例させる
ため、各票に乗じる調整係数として「投票価
値(Stemwaarde)」の制度が採用された。そ
の後1987年以降は、グループごとの定数は廃
止された。すなわち、グループや州ごとの定
数を定めないで、全国集計を行い各政党の獲
得議席数を決定する制度が採用された(ただ
し候補者名簿提出単位は州ごとである)。また
「投票価値」の制度は、引き続き用いられる
ことになった。
なお、1923年以降に見られる、グループ別
定数配分(或いは、グループや州ごとの定数が
存在しないこと)、「投票価値」の制度につい
ては、憲法で定められておらず、法律以下の
レベルで定められている岡。
オランダの上院議員は、1848年以降、州議
会による選任、州議会議員による間接選挙と
いう形態で選ばれてきた。しかし、各州同数
の議員から成る上院という構成は一貫して採
用されなかった。むしろ、1848年当時から、
一定の州人口比例原則が採用されてきた。こ
の1つの理由は、上院議員における代表制の
性格に求めることができよう。上院議員は、
上院創設当時から一貫して、全オランダ国民
を代表する性格を与えられてきた(89)〇州代
表としての明確な役割を期待されない上院議
員について、小州への配慮等の理由で、各州
同数の定数配分とする積極的根拠•意義は存
在していないと考えられる。
もう1つの理由は、オランダの社会・政
治・選挙の在り方に求めることができよう。
オランダの社会は、19世紀の末ごろから近年
まで柱状社会(verzuiling)と呼ばれる在り方
を特徴にしてきた。柱状社会とは、カトリッ
ク、プロテスタント、自由主義派、社会民主
主義派という、主として4つのグループ(柱
[zuil])が社会の基盤をなしている状態を指
す言葉である。オランダでは、これらの柱グ
ループが、平等と寛容の原則の下で、多様性
を認めつつ協議し合意形成をしていく政治シ
ステムが長らく取られてきた。
選挙制度の面でも、国民間の平等が重視さ
れてきた。下院と地方議会では1917年から、
上院では1922年から比例代表制が導入されて
いる。現在でも、国政選挙から地方議会選挙
まで、すべて比例代表制である(憲法第53条
第1項、第129条第2項)。現在の比例代表制の
仕組みを見ると、投票は全域(全国、全州等)
で集計され、全域レベルで政党への議席配分
87)“Eerste Kamerverkiezingen” “Geschiedenis Eerste Kamer” オラ ンダ上院ホーム ペーン
随1917年憲法第82条、1953年憲法第85条、1983年憲法及び現行憲法第53. 55条。(法律への委任規定等)
89)1815年憲法第77条、1840年憲法第79条、1948年憲法第74条、1917年憲法第78条、1983年憲法及び現行憲法第50条。
レファレンス 2008.8
93
がなされている。この全域集計の存在の故
に、オランダの選挙制度の特徴の1つは、
「地域代表の欠如(absence of geographical
representation)」であると言われる。上院選
挙の実態を見ても、主要な政党においては、
州別候補者名簿を全国レベルで調製し、それ
を同政党の州議会議員(上院議員選挙人)に
提供している。投票の段階でも、個々の州議
会議員の判断は差し挟まれずに、政党の指示
に従って投票がなされることが多い(90)〇こ
のような社会•政治•選挙の在り方の下では、
人口格差が大きくなり不平等を生む定数配分
は、排除されることになろう。
⑺一票の格差•人口格差
① 上院議員選挙人(州議会議員)に関する
一票の格差
6.54倍(200?年)90 91>。
② 選挙区(州)人口に関する格差
1.01倍(200?年)92>。
⑻格差の特徴
上院選挙での1票には「投票価値(Stem-
waarde)」が乗じられるため、上院議員選挙
人(州議会議員)の一票の格差は大きいが、
選挙区(州)人口に関する格差は、ほぼ消滅
している。この手法は、間接選挙を採用しな
がら、同時に人口格差をなくすことに成功し
ており注目される。「投票価値」を用いた計
算方法を取ることは、憲法では規定されてお
らず、憲法第59条により選挙法に委任されて
いる。
3 アイルランド
⑴選挙・任命の制度
① 複選制、直接選挙、任命制の混合型(93>
② (複選制における)選挙人団による選挙・
直接選挙の選挙制度:
単記移譲式比例代表制
⑵代表制の性格
職能代表制を中心とした混合型(大学選挙
区代表・任命議員との混合)(94>(憲法第18条)
⑶総定数60人
⑷選挙区定数等
⑴職業別候補者名簿選挙区(複選制):
1区(総数43人)
・名簿(95>ごとの定数は次のとおりである
(各々、全国単位)
① 文化・教育分野の名簿からの選出議
員:5人
② 農林水産分野の名簿からの選出議員:
11人
③ 労働分野の名簿からの選出議員:11人
④ 産業・商業分野の名簿からの選出議
(90) Rudy B. Andeweg and Galen A. Irwin, Governance and politics of the Netherlands, 2nd ed., Houndmills: Pal-
grave Macmillan, 2005, pp.81, 132.
(91) 南ホラント州の州議会議員の1票に乗ぜられる投票価値(628, 200?年上院選挙時の数値)+フレヴォラント州
の州議会議員の1票に乗ぜられる投票価値(96、2007年上院選挙時の数値)。
(92) ゼーラント州の人口1人当たりの上院選挙における代表度•影響度(ゼーラント州の州議会議員数[39人]x
同州議会議員の1票に乗じられる投票価値[98] +同州の200?年1月1日人口 [380,548人])+フロ ーニンゲン州
の人口1人当たりの上院選挙における代表度•影響度(フローニンゲン州の州議会議員数[43人]x同州議会議
員の1票に乗じられる投票価値[133]+同州の200?年1月1日人口 [573,923人])。
(93) 選挙・任命制度の概要
①複選制(間接選挙)では、下院議員、前上院議員、県会議員、市会議員が投票権を持つ。当該投票者が、5
つの職業別候補者名簿ごとに1票ずつを投じる(1人合計5票)。②直接選挙では、アイルランド国立大学、又
はダブリン大学の学位(学士を含む)を持つ者(18歳以上)が有権者になる。両大学選挙区ごとに、有権者が1
票を投じる。③任命制では、首相の任命による。
(94) 弥久保宏「アイルランド共和国の選挙制度⑵ 上院の権限と選挙制度」『選挙』52巻9号,1999.9, p.22.
アイルランドは、単一国家である。また、上院議員に対する委任の規定は憲法には存在していない。実態的に
は、下院と同様に上院も、政党の規律が強く、全国レベルの政党活動の一環の中で上院が運営されている。
94 レファレンス 2008.8
諸外国の上院の議員定数配分
員:9人
⑤ 公務・福祉分野の名簿からの選出議
員:7人
伍)大学選挙区(直接選挙):
2区(総数6人、両選挙区とも定数3人、
大学単位[アイルランド国立大学とダブリン大
学])
価)任命議員(95 96 * 98 99>:11人
⑸定数配分規定
① 5つの職業別候補者名簿からの選出議員
の総数:憲法第18条第4項第1号価)
② 各職業別候補者名簿からの選出議員数の
範囲(5〜11人):憲法第18条第7項第2号
③ 各職業別候補者名簿からの選出議員数:
1947年上院議員選挙法(職業別候補者名簿
選出議員)第52条
④ 各職業別候補者名簿の中の2つの副名簿
ごとの最少選出議員数:③に同じ
⑤ 各大学選挙区からの選出議員数:
憲法第18条第4項第1号⑴伍
⑥ 任命議員の数:憲法第18条第1項
⑹定数配分規定の沿革(97)
アイルランドの上院の起源は、1922年自由
国憲法に遡る。この時、上院議員は全国1区
の比例代表制によって、国民の直接選挙で選
出された例。当然ながら、定数配分の必要
もなかった。その後、直接選挙を廃し、下院
議員による選出という間接的選出方法への変
更が行われた後、1936年には上院がいったん
廃止された。翌1937年にはエール憲法が制定
され、上院が復活した。この時の定数配分
が、現行の定数配分に引き継がれている。
⑺一票の格差•人口格差
⑴職業別候補者名簿選挙(複選制)におけ
る格差
修)職業別候補者名簿選挙の選挙人(下院
議員、前上院議員、県議会議員、市議会議
員)に関する一票の格差
なし(1倍)(99)
(b)選挙人が選出された又は母体とする行
政区域(県・市等)に関する人口格差
職業別候補者名簿選挙の選挙人が選出
された又は母体とする行政区域の間に人
口格差があるか否かは、不詳である。す
なわち、①前上院議員には任命議員が存
在する、②下院議員選挙区については、
県境と一致せず交差するケース、地方議
会選挙区の境界と一致せず交差するケー
スが見られる等の理由から、人口格差を
計算することが難しい。
伍大学選挙区(直接選挙)の一票の格差
2.62倍(2006年)100>
(95) 職業別候補者名簿は、①〜⑤の5つの分野ごとに作成される。候補者登載に当たっては、各名簿とも2通りの
推薦がなされて候補者が決定される。1つは、職業団体による推薦であり、これにより推薦団体候補者名簿が作
成される。職業団体は、各職業分野の利益を代表する団体であり、選挙管理官の下に各分野に複数の団体が登録
される。もう1つは、国会議員(下院議員及び前上院議員)による推薦であり、これにより国会候補者名簿が作
成される。推薦団体候補者名簿と国会候補者名簿は、副名簿と呼ばれ、両名簿を合わせたものが各分野の職業別
候補者名簿になる。各副名簿には、当該副名簿から選挙される最少議員数が定められている(1947年上院議員選
挙法[職業別候補者名簿選出議員]第52条)。
(96) アイルランド憲法では、指名(nominate)という単語が使われており、正確には、首相が指名し大統領が上院
を召集するという手順になる。
怖弥久保前掲注(94), pp.22-24.
(98) 1922年自由国憲法第32条。具体的には単記移譲式比例代表制。ただし、初回の上院議員の選任だけは、別の暫
定的方法(下院による選出+首相の任命)で行われた。
(99) 職業別候補者名簿に関する選挙人は、全員が5つの職業別候補者名簿ごとに1票(合計5票、いずれも単記移
譲式による優先順位を記入する)を投じることができるため、同選挙人が投じる票の価値に格差は存在しない。
W {アイルランド国立大学選出議員1人当たりの有権者数34,000人(102,000人[2006年有権者数]+同選挙区定数
3議席)。+ ■!ダブリン大学選出議員1人当たりの有権者数13,000人(39,000人[2006年有権者数]+同選挙区定数3
議席)}。
レファレンス 2008.8
95
価)職業別候補者名簿選挙(全体)と大学選
挙区選挙を比較した人口•有権者数格差
7.58倍(2006年)(101>
⑻格差の特徴
⑴ 職業別候補者名簿選挙について
全国1区という名簿の性質上、上院議員
選挙人の一票の格差は存在しない。
職業別候補者名簿を通じて各職業分野が
十分に代表されているか否かについて、課
題が残されている可能性がある。例えば、
農林水産分野の名簿からの選出議員は11人
で、職業別候補者名簿選出議員43人の中で
25.58%を占める。しかし、国勢調査人口
(2006年)では農林水産業従事者は4.25%、
食品製造業従事者は1.25%であり、合算し
ても5.5%に過ぎない。農林水産分野は過剰
に代表されている可能性がある。
また、選挙管理官の下に登録される職業
団体の数が限定的である。2007年時点で、
文化・教育分野34団体、農林水産分野11団
体、労働分野2団体、産業・商業分野43団
体、公務・福祉分野14団体である。職業団
体が登録されていない職業が存在する可能
性もある101 (102)〇公平性を保ちつつ職業ごと
に代表を選出するという点では、改善の余
地があるかもしれない。
伍)大学選挙区について
大学選挙区は定数に比べて有権者数が極
めて少ないため、職業別候補者名簿選挙と
の間で大きな格差を生じている。大学選挙
区は、過剰に代表されている可能性があ
る。また2つの大学選挙区間でも、同定数
という定数配分の結果、小さな格差を生じ
ている。
大学選挙区の有権者資格は、2つの大学
選挙区間、及び職業別候補者名簿選挙の選
挙人の資格との間で、重複取得が可能であ
る(1937年上院議員選挙法[大学選挙区議員]
第7条)。アイルランド国立大学及びダブ
リン大学の2つの学位を持てば、原則とし
て両大学選挙区で各1票(合計2票)を行
使できる。職業別候補者名簿選挙の選挙人
カミ、アイルランド国立大学又はダブリン大
学の学位取得者であれば、職業別候補者名
簿選挙及び大学選挙区選挙で合計2票を行
使できるのが原則である。大学選挙区は、
複数票行使の問題を内在させている(103>。
IV任命制等の国々
1カナダ
⑴任命方法
州・準州ごとに、連邦首相の助言に基づ
き、総督が任命
⑵代表制の性格
① 州・準州代表(104)
(1867年憲法第22条、第23条第3、5、6項)
② 区域①ivision)代表(同第22条)
⑶総定数105人
⑷州・準州別定数
① オンタリオ州、ケベック州:各24人
② ノヴァ・スコシア州、ニュー•ブランズ
ウィック州:各10人
③ マニトバ州、ブリティッシュ•コロンビ
ア州、サスカチュワン州、アルバータ州、
ニューファンドランド・ラブラドール州:
(101) 1職業別候補者名簿選出議員1人当たりの人口98,601.12人(4,239,848人[2006年アイルランド人口] +同名簿選
出議員総定数43議席))+ {ダブリン大学選出議員1人当たりの有権者数13,000人(前掲注剛)。。
(102) Arthur W. Bromage and Mary C. Bromage, “Foreign Government and Politics: The Vocational Senate in Ire-
land, “American Political Science Review, vol.34 no. 3, June 1940, pp.525-526.
(103。大学選挙区については、現在2大学に限られていることを改め、国内の全大学に有権者の範囲を拡大し、選挙
区は全国1区の大学選挙区に統合するとの改革案もある。この案に従えば、現在の2大学選挙区間の一票の格差
の問題は解消することになる。
96 レファレンス 2008.8
諸外国の上院の議員定数配分
各6人
④ プリンス•エドワード•アイランド州:
4人
⑤ ユーコン準州、北西準州、ヌナヴット準
州:各1人
⑸定数配分規定
1867年憲法第22条第1項、1999年憲法(ヌ
ナヴット)第43条第3項
⑹定数配分規定の沿革
イギリス国会による英領北アメリカ法
(1867年憲法)の制定により、カナダは、自治
領カナダ(Dominion of Canada)という名称
で、連邦をスタートさせた。同法は、二院制
から成る連邦議会を設置し、下院では人口比
例の代表制、上院では地域代表制を採用し
た。上院は、固有の歴史と独自性を持つ各地
域の利益の保護という観点から地域代表制を
採用した。上院の代表制が、この形に落ち付
いたのは、連邦形成以前に存在していた各植
民地の間で妥協が成立したからであっ
た(105)〇妥協の背景として、アメリカ流の「各
州同数の上院議員」という制度は、連邦政府
を犠牲にし、州政府に過大な権限を与えると
いう考え方があったとされている(106)〇
当初の定数配分を見ると、①オンタリオ州
となったカナダ西部、②ケベック州となった
カナダ東部、③ノヴァ・スコシア州及び
ニュー•ブランズウィック州となった大西洋
沿岸地域(大西洋岸諸州)の3つの区域①ivi-
sion)は、各24議席の同数であった。大西洋
沿岸地域の内訳を見てもノヴァ•スコシア
州、ニュー・ブランズウィック州が各12議席
の同数であった。この定数配分は、各州同数
ではなく、「各区域(Division)Jで同数とい
う原則に基づいていることが分かる。この
時、総定数は72人であった。現在の州・準州
別定数配分は、英領北アメリカ法(1867年憲
法)制定当初の考え方を引き継いでいる。
また、現在の定数配分を説明する別の考え
方として、「人口比例原則を連邦制という観
点から補正した」というものが挙げられるこ
とがある。すなわち、カナダでは州ごとの人
口の多寡に差が大きく、例えばオンタリオ州
やケベック州は、各々、全人口の3分の1
(104)1867年憲法第3条により、カナダは連邦制国家である。現在、10州、3準州から構成される。上院議員は、代
表すべき州・準州が決められており、その住民でなければならない。しかし、上院議員は、州・準州の単なる代
理人・代弁機関ではないと解されている(『コスタリカ・カナダにおける憲法事情及び国連に関する実情調査ー
概要』参議院憲法調査会事務局,2004, pp.92-93.)。上院議員に対する委任の規定は連邦憲法には存在せず、州民等
との関係は自由委任と解されている。
上院の役割としては、州利益の保護、下院の錯誤の修正、過激な政策の抑制等が挙げられる(馬場伸也ほか『世
界の議会(第11巻 カナダ・中米)』ぎょうせい,1983,p.67.)。
連邦憲法第22条第1項によれば、①オンタリオ州、②ケベック州、③大西洋岸諸州(ノヴァ・スコシア州、
ニュー ・ブランズウィック州)、プリンス・エドワード・アイランド州、④西部4州(マニトバ州、ブリティッシュ・
コロンビア州、サスカチュワン州、アルバータ州)という4区域(Division)が規定されており、各区域の上院
議員数はいずれも24人で、4区域が平等に代表されると規定されている。上院議員は州・準州の代表であり、こ
れらの4区域に属する上院議員の場合は同時に、区域の代表でもある。
(105。妥協の中心勢力は、既に植民地連合(連合カナダ)を形成していたカナダ西部・カナダ東部、これとは別の植
民地連合(大西洋沿岸植民地連合)を形成する可能性もあった大西洋沿岸の数植民地であった。このうち、連合
カナダは、既に連合カナダ植民地議会を持っていたが、カナダ西部とカナダ東部が65人ずつ「同数の」代表を直
接選挙で出していた。人口は、カナダ東部の方が多かったが、東西の「同数原則」を採用していた。
結局、プリンス・エドワード・アイランド、ニューファンドランドという大西洋沿岸の2つの島映植民地は、
当初は連邦への参加を行わなかった。このため、連合カナダ、ノヴァ・スコシア、ニュー・ブランズウィックの
3植民地の妥協により、連邦が創設された。上院議員の定数配分は、カナダ西部・カナダ東部•大西洋沿岸地域
(大西洋沿岸植民地連合の構想の影響を受けた、地域区分の考え方であった)が「同数」とされた。
大原祐子『カナダ現代史』(世界現代史31)山川出版社,1981, pp.42, 53, 56-59, 61-63, 70-71, 77-78,177.
(106。ジョン・セイウェル(吉田健正訳)『カナダの政治と憲法(改訂版)』三省堂,1994,p.25.
レファレンス 2008.8
97
強、4分の1弱を占めている。完全な人口比
例で州・準州別定数配分を行うと、オンタリ
才州やケベック州の発言権が強くなり過ぎ、
連邦制維持にとって大きな障害になる。連邦
制を保障する観点から、小さな州•準州にも
発言権を確保した結果、現在の定数配分が導
き出された、と説明される(107>。
⑺定数格差23.58倍 (200?年)10紛
⑻格差の特徴
区域(Division)間の同定数配分、人口比
例原則の大幅な補正、州・準州間の人口の差
が大きいことの3つの理由で、定数格差は極
めて大きい。
2 ドイツ
⑴任命方法
州政府による任命
(州首相、州閣僚等が当てられる)
⑵代表制の性格州代表107 108 (109)(連邦憲法第51条)
⑶総定数69人
⑷州別定数
3〜6人。各州(16州)は、議決で3〜6
票を行使するが、票数と同数までの議員を任
命できる。各州は、最少で3票を保証され、
人口200万人以上の州は4票を、600万人以上
の州は5票を、?00万人以上の州は6票を行
使できる。
⑸ 定数配分規定 連邦憲法第51条第2、3項
(州別定数配分法)
⑹定数配分規定の沿革
18?1年のビスマルク憲法(ドイツ帝国憲法)
は、二院制の連邦議会を設置し、第一院に連
邦参議院を位置付けた。連邦参議院は、邦を
代表する議員から構成された。邦ごとの議員
数は、邦の人口や面積に比例させず、プロイ
セン、南ドイツ3邦、その他の小邦という3
区分を設け、その配分を行った。その結果、
総定数58議席は、プロイセン17議席、その他
の邦1〜6議席という形で配分された(第6
条第1項)。また、連邦参議院議長は帝国宰
相が兼ね、通例、帝国宰相はプロイセン首相
が兼ねた。このように、連邦参議院では、プ
ロイセン優位が明確であった(110)〇
続く1919年のワイマール憲法は、共和国の
立法•行政において、州の意思を反映させる
州代表機関として、共和国参議院を設置し
た。共和国参議院は、共和国議会に対する第
二院と位置付けることができる(111)〇共和国
参議院では、18の州の代表者が議員となり、
州ごとの議員数は、州人口に比例して決定さ
れた。ただし、最少でも各州1人が保証さ
れ、最多でも総議員数の5分の2未満とされ
た(第61条)。結果として、人口の多いプロ
イセン州の代表が、総議員数のほぼ5分の2
近くを占めることになった。共和国参議院
は、国民の平等(人口比例原則)と人口の多
い州(プロイセン)の覇権の阻止の2つの目
的の均衡の上に構成された(112)0
(107) 『コスタリカ・カナダにおける憲法事情及び国連に関する実情調査一概要』前掲注(104), p.92.
(108) ブリティッシュ・コロンビア州の議員1人当たりの人口?33,821.83人(4,402,931人+ 6議席)+ヌナヴット準州
の議員1人当たりの人口 31,12?人(31,127人+1議席)。
(109) 連邦憲法前文及び第20条第1項により、16州から成る連邦制国家である。各州の上院議員は、議決の際に州ご
とに一体となった表決を行う(同第51条第3項)。実際の表決では、州ごとに代表となる上院議員1名が、当該
州に割当てられた全票数を一括して行使する。実際に、上院議員は州政府の指示を受ける。連邦憲法第51条によ
り、上院議員は命令的委任を受けると解釈されている。
(110) 名雪健二『ドイツ憲法入門』八千代出版,2008, pp.1?-21.
(111) 第二院(上院)と位置付けず、共和国議会から独立した別の機関とする見解もある。
(112) Ch・グズイ(原田武夫訳)『ヴァイマール憲法一全体像と現実』風行社,2002, pp.191-192.(原書名:Christoph
Gusy, Die Weimarer Reichsverfassung.199?.)
実際にはプロイセン州の人口は、非常に多かったため、もし州人口比例による議席配分が貫徹されていれば、
プロイセン州の議員数は、約3分の2になったと推定される(名雪 前掲注(110。,p.30.)。
98 レファレンス 2008.8
諸外国の上院の議員定数配分
第二次世界大戦後の1949年には、ドイツ連
邦共和国基本法(現行憲法)が制定され、連
邦参議院については、ほぼ現行と同じ州別定
数配分法が採用された。完全な州人口比例に
よる定数配分法を採用しなかった1つの理由
は、1つ又は2つの州が人口の多さだけで、
上院で3分の2以上の多数(113)を占めること
のないように配慮したためである(114)0ビス
マルク憲法、ワイマール憲法時代に見られ
た、特定邦・州(すなわちプロイセン)の優位
と類似する事態は避けられることになっ
た(115)0その後、1990年に若干の改正が行わ
れ、現行の州別定数配分法に至っている。な
お、現行の州別定数配分法は、各州同数の上
院議員を任命する方式と、各州の人口に比例
した上院議員を任命する方式の中間を取って
いるという形で説明される場合がある(116)〇
⑺定数格差13.62倍(2005年)(117)
⑻格差の特徴
①州別定数の上限(6人)と下限(3人)
を厳しく設定し、かつ②州人口に十分に比例
させる計算方法で定数配分をしていないた
め、更に③州間の人口の差が大きいため、定
数格差は極めて大きい。
3 オーストリア
⑴選任方法
州議会により比例代表の原則に従って選任
される(118)0ただし、上院議員は州議会議員
である必要はない。
⑵代表制の性格州代表(119)(連邦憲法第34条)
⑶総定数62人(120)
⑷州別定数3〜12人
各州(9州)は、州公民数(121)に比例する形
で定数を割り当てられる。最多の公民数の州
(現在、下オーストリア州)には12議席が割り
当てられ、これに(州公民数数と議席数が)比
例する形で、他州の議席数が決められる。比
例計算で、割当議席数に端数が出た場合は、
四捨五入して整数にする。最少の州でも3議
席は保証される。公民数は、10年ごとの国勢
調査の結果による 値近は2001年5月15日調査)。
⑸定数配分規定
連邦憲法第34条第2項
(州別定数配分計算法)
⑹定数配分規定の沿革
オーストリアの現行連邦憲法の起源は、
1920年の連邦憲法にある。1920年連邦憲法
は、二院制から成る連邦議会を設置し、上院
については、その州別定数配分法を、現行連
邦憲法とほぼ同様に規定していた。最多の公
(113) 例えば、連邦憲法改正の際に、上院側で必要とされる同意の数が「3分の2以上」となっている。(連邦憲法
第?9条第2項)
(114) 『ドイツ・スペイン・英国における憲法事情に関する実情調査一概要』前掲注(32), pp.46-48.
(115) 名雪前掲注(110), p.79.
(116) 『ドイツ・スペイン・英国における憲法事情に関する実情調査一概要』前掲注3), pp.46-48.
(117) ノルトライン・ヴェストファーレン州の議員1人当たりの人口3,009,666.67人(18,058,000人+ 6議席)+ブレー
メン州の議員1人当たりの人口221,000人(663,000人+3議席)。
(118) 各州議会の独自の手続きに従って、州ごとに連邦上院議員が連邦上院へ送られるという形を取る。選任方法
は、州憲法等に規定されるが、全州で共通する事項については、連邦憲法第34、35条に規定される。例えば
ウィーン州(市でもある)では、州憲法第13?条等に連邦上院議員の選任方法が規定される。
(119) 連邦憲法第2条により9州から成る連邦制国家である。ただし、同第56条により、連邦議会議員は、いかなる
委任にも拘束されない(自由委任の原則)と規定されるため、上院議員は州の単なる代理人•代弁機関ではない。
(120) 総定数は固定されているものではなく、10年ごとの州別定数の再配分の結果、増減する可能性がある。
(121) 公民数(BHrgerzahl):公民(BHrger)とは、全住民を指すのではなく、公民権(選挙権等)を有する住民に
限定する概念である。
レファレンス 2008.8
99
民数の州が12議席、最少の州でも3議席が保
証される点も、同じであった。1920年連邦憲
法は、社会民主党の中央集権主義(連邦制自
体の否定的)に、キリスト教社会党の州権主
義が統合される形で妥協が成立し、中央集権
優位の下に制定された経緯を持ってい
る(122)。上院において人口比例原則に基づく
州別定数配分法が採用されたのも、この経緯
を背景としていると考えられる。
その後、1934年の連邦憲法(職能主義・全
体主義に基づく憲法)は、上院議員の構成に
関し異なる規定を設けた。しかし第2次世界
大戦後には、1920年連邦憲法が再び採用され
ることになった。このため、上院の州別定数
配分法も復活することになり、現在に引き継
がれている。
現在の上院における表決の傾向を見ると、
上院議員は州単位でまとまった表決の行動を
取るよりも、政党単位でまとまった表決の行
動を取ることの方が多い(123)。このことは、
上院議員が州代表と規定されるものの、実際
には政党の影響力が強いことを表している。
アメリカ上院のような各州同定数とする制度
は、州の単位を基盤にした政治という在り方
を強調する。一方、公民数に比例した州別定
数配分という制度は、州を単位とする政治と
いう側面を弱めるため、政党を軸にした政治
システムにとって、より適合的であると考え
られる。現在の定数配分法は、政党政治とい
う実際の政治システムの面からも、意義を持
つものと言えよう。
なお、オーストリアでも、各州同数の定数
配分とすべきとの主張は存在している。官
僚、キリスト教社会党、大ドイツ党等から成
る第3次ショーバー内閣が、1929年10月に提
出した憲法改正案では、各州2名から成る連
邦上院という項目が含まれていた(ただし、
この部分の改正は成立しなかった)。また、現
在オーストリアで人口が2番目に少ない州で
あるフォアアールベルク州のホームページに
は、各州同数の上院定数配分を求める主張が
紹介されている(122 123 124>。
⑺定数格差1.63倍(2008年。125>
⑻格差の特徴
連邦憲法に規定される州別定数配分計算法
は、人口比例原則を基本としつつ、州別定数
に最少ライン(3議席)を保証している。連
邦制の枠組みの中で人口に関する平等原則を
大きく採用する考え方に立つものである。こ
のため、定数格差は小さい。
4 ロシア
⑴選任方法
連邦構成主体ごとに、①代表(立法)機関
が選任する議員1名、及び②執行(行政)機
関の長が指名し、代表(立法)機関が承認す
る議員(1名)(合計2名)が就任する(126>。
⑵代表制の性格連邦構成主体の代表(127>
(連邦憲法第95条第2項)
⑶総定数166人喚>
⑷連邦構成主体別定数各2人
⑸ 定数配分規定 連邦憲法第95条第2項
⑹定数配分規定の沿革
ソビエト連邦時代の最後の連邦憲法である
(122) 細井保『オーストリア政治危機の構造ー第一共和国国民議会の経験と理論』法政大学出版局,2001,pp.47-49.
(123) 『オーストリアの地方自治』自治体国際化協会,2005, p.47.
(124) “Osterreichs Landerkammer: der Bundesrat”フォアアールベルク州ホームページ
(125) ウィーン州の議員1人当たりの人口152,533.36人(1,677,867人+11議席)+ブルゲンラント州の議員1人当たり
の人口93,730人(281,190人+ 3議席)。
(126) 連邦憲法第95条第2項。連邦議会上院構成手続法第1~6条。なお、2000年7月に同構成手続法が改正されて
おり、改正より前は、同構成手続法第1条(改正前の条文)により、連邦構成主体ごとに、①代表(立法)機関
の長(1名)、及び②執行(行政)機関の長(1名)(合計2名)が就任するとされていた。
100 レファレンス 2008.8
諸外国の上院の議員定数配分
197?年連邦憲法(ブレジネフ憲法)を見ると、
連邦上院(連邦最高ソビエトの民族会議127 128 (129))の
構成は、共和国各32人、自治共和国各11人、
自治州各5人、自治管区各1人となっており
(第110条)、民族の規模•人口を配慮しつつ
定数配分がなされていた(130)〇 一方、ロシア
について見ると、ロシア•ソ連邦社会主義共
和国憲法(1978年4月12日)は、一院制のロ
シア共和国最高ソビエト(131>を設置していた
(第104条)。
現行憲法における連邦上院(連邦会議)の
定数配分規定は、1990年6月のロシア主権宣
言以降進められてきた新憲法制定論議を背景
とし、最終的に「連邦構成主体ごとに2人」
に落ち付いたものであった。新憲法制定論議
は、連邦大統領、連邦議会、地方権力の3者
の均衡を保つという方向性では一致していた
が、具体的な規定については合意がなかなか
得られなかった。
ロシア共和国最高ソビエトに置かれた憲法
委員会の第3次草案(1992年3月24日)では、
二院制(衆議院と連邦院)のロシア連邦最高
会議を設け、連邦院は、構成共和国、地方、
州、自治州から2人ずつ、自治管区から1人
ずつの議員が直接選挙で選出されるとなって
いた(第8?条第3項、第94条第1項)。この第
3次草案は、新憲法として採択されることが
期待されて取りまとめられたものであった
が、諸政治勢力間の対立が厳しく、新憲法と
しての採択は不可能な情勢であった。
1992年3月31日に締結されたロシア連邦条
約は、連邦の主体を、構成共和国、地方、
州、連邦直轄市、自治州、自治管区とし、こ
れらの主体間に権限の大小を認めた。しか
し、一方でこれらの主体が連邦において平等
に代表されることを明確化したと一般に解釈
されている。この条約の影響で、連邦上院の
定数配分については、以後、各連邦主体とも
2人とする提案が増えた(132) *〇
1992年4月21日、ロシア・ソ連邦社会主義
共和国憲法の改正が行われた。改正後の憲法
の名称はロシア連邦憲法になった。改正時点
の規定を見ると、二院制(共和国会議と民族
会議)のロシア連邦最高会議(133>が設置され、
民族会議の構成は、①構成共和国各3人、②
自治州各1人、③自治区各1人、④地方、
(127) 連邦憲法第1、65条により、(2008年7月時点で)83の連邦構成主体(CySteKT ¢eaepamm )から構成される
連邦制国家である。連邦構成主体には、州(46)、共和国(21)、地方⑼、市⑵、自治州⑴、自治管区⑷が存在する。近
年、自治管区は他の連邦構成主体に統合されるケースが多く、自治管区の数は減り続けている。
上院議員に対する委任の規定は連邦憲法には存在しない。しかし、上院議員については、上院議長の提案に基
づき、各連邦構成主体が任期満了前に職務を停止させることに同意した場合、上院が解任手続きを取ることがで
きる(連邦議会上院構成手続法第9条、上院議員及び下院議員の地位に関する連邦法第4条第2項)。このため、
上院議員の地位は、選任母体である連邦構成主体から影響を受ける。従って、実態面では命令的委任を受ける側
面も存在すると言える。
(128) 連邦構成主体の統合が進み当初の89から減少してきているため、上院議員の数について暫定措置が取られてい
る。そのため、2008年5月時点で、16?人(欠員を除く)の上院議員が存在しており、この数は(連邦構成主体
数X2)より多い。今後も統合が進む可能性があるが、将来的には(連邦構成主体数X2)の議員数になる。
(129。まず連邦人民代議員が選挙され、連邦人民代議員大会が開催されることになっていた。次いで、同大会によつ
て連邦人民代議員の中から連邦最高ソビエトの議員が選出された(ソ連邦憲法第111条第2項)。連邦最高ソビエ
卜は、連邦議会に当たる機関で、連邦会議と民族会議の二院制であった。
(130。定数配分は、後に共和国各11人、自治共和国各4人、自治州各2人、自治管区各1人と改正された(第111条
第4項。。
(131。国民の直接選挙で選出された(憲法第94, 105条)。
(132。 Thomas F. Remington, The Russian Parliament: institutional evolution in a transitional regime 1989-1999,
New Haven: Yale University Press, 2001, pp.158, 161-162.
(133。まず連邦人民代議員が選挙され、連邦人民代議員大会が開催されることになっていた。次いで、同大会によつ
て連邦人民代議員の中から連邦最高会議の議員が選出された(連邦憲法第10?条第2項)。
レファレンス 2008.8 101
州、モスクワ市、サンクト•ペテルブルグ市
から合計で63人、となっていた(第107条第4
項)。民族の規模・人口に、若干の配慮をし
つつ定数配分がなされていた。このロシア連
邦憲法は、社会主義体制の残淳を抱えた憲法
であり、新憲法と呼ぶことが困難な性格を有
していた。民族会議の構成も、社会主義体制
下で行われていた定数配分の影響が見られ
る。連邦の各主体から同数の連邦上院議員が
選任される形態に一歩近付いた段階と言えよ
う。
その後、エリツィン大統領(1991-1999年
在任)主導の下で取りまとめられた新憲法統
一草案(1993年7月16日公表)では、二院制(国
家会議と連邦会議)の連邦議会(パルラーメント)
を設け、連邦会議では各連邦主体2人の議員
が選挙で選ばれるとしていた。
1993年10月11日のロシア連邦大統領令に基
づき、1993年12月12日に直接公選で選出され
たロシア連邦の上院(第1期ロシア連邦会議)
では、89の連邦構成単位ごとに選挙区を構成
し、1選挙区から2人の議員が選挙された。
この選挙と同時に行われた国民投票により、
1993年ロシア連邦憲法(現行憲法)が採択さ
れた。国民投票にかけられた案(同年11月10
日公表、12月12日採択)では、連邦会議の議員
は選挙で選出される旨の規定がなくなり、各
連邦構成主体の立法機関と行政機関から各々
1人ずつの代表が選任されることになった。
この規定の目的は、エリツィン大統領の意図
では、各連邦構成主体の指導者との協力の中
で国政運営を行うということであったと考え
られている。これ以降、「各連邦構成主体か
ら2人の上院議員」という定数配分が、憲法
上定着した(134) 135〇
⑺定数格差248.87倍(2007年)135)
⑻格差の特徴
各連邦構成主体同数という定数配分、連邦
構成主体間の人口の差が大きいことの2つの
理由で、定数格差は極めて大きい。
V諸外国の上院定数配分の特徴
諸外国の上院の定数配分の状況を通覧する
と、次に挙げる幾つかの特徴を見出すことがで
きた。
第一に、上院議員の定数配分規定は、憲法に
置かれていることが多い。上院の構成原理が憲
法に記され、同時に、選挙区等の選挙・任命等
の単位、及び定数配分(方法)が、憲法に記さ
れるケースが多いということである。調査をし
た16か国中、12か国は定数配分規定の全部又は
一部が、憲法に存在している。実に75%に上
る。このため、多くの場合、上院の定数配分の
問題は、憲法上の規定の問題に収斂する。憲法
に定数配分規定が置かれる国では、憲法の定数
配分規定そのものが、定数格差・一票の格差の
数値を導き出す結果となっており、仮に大きな
格差を生じていても、そのことだけで違憲判断
が下る余地はない。
第二に、選任の地理的単位、すなわち選挙区
や任命等の母体となる地域は、州又は県がその
まま用いられるケースが多い。選任の地理的単
位を新たに形成する事例は、極めて少ない。選
任の地理的単位の全部又は大部分が、州又は県
である事例は、アメリカ、オーストラリア、イ
タリア、スペイン、スイス、メキシコ、フラン
ス、オランダ、カナダ、ドイツ、オーストリ
ア、ロシアの12か国である。調査をした16か国
中、実に75%に上る。ベルギーでは、地域(re-
gions) ^ 言語共同体(communautes linguistiques)
という憲法に規定される別種の行政単位が用い
(134) 竹森正孝『ドキュメントロシアの「憲法革命」を追うーロシア連邦の憲法資料と解説』日ソ図書館,1992,
pp.8,20-26,62,106,145-146;野村進「ロシア保革両派の権力闘争と新憲法3草案」『海外事情』41巻10号,1993.10,
pp.106,109,112,114-116,120-121;同「二兎を追う新ロシア連邦憲法」『海外事情』42巻4号,1994.4, pp.103-104.
(135) モスクワ市人口10,442,663人+ネネツ自治管区人口41,960人。
102 レファレンス 2008.8
諸外国の上院の議員定数配分
られている。地域と言語共同体は、州より広い
区域である。州、県、ベルギーの地域・言語共
同体は、いずれも基礎的自治体よりも上位にあ
り、かつ比較的広域の行政区域である。このよ
うな地理的単位を基礎に、大部分の上院議員は
選任されている。
州・県等以外に、選挙の地理的単位を新たに
形成する事例は、ポーランド、チェコである。
ポーランド、チェコでは、選挙区画定作業を経
て、上院選挙区が形成された。いわゆる区割り
作業が行われたケースである。
第三に、定数配分には、上院の構成原理、ま
たそれを誕生させた歴史的経緯が大きな影響を
与えている。
例えば、連邦草創期に、人口の小さな州に対
する配慮が行われた結果、「各州同定数から成
る州代表としての上院議員」という規定が憲法
に置かれたという事例が、その代表であろう。
アメリカ、オーストラリアが、この事例に当た
る。類似の事例として、カナダでは連邦創設に
当たって、各植民地間の妥協が成立し、オンタ
リオ州となったカナダ西部、ケベック州となっ
たカナダ東部、ノヴァ・スコシア州及び
ニュー・ブランズウィック州となった大西洋沿
岸地域の3つの区域(Division)の上院議員定
数を同数とする規定が憲法に置かれた。
これに対し、イタリアでは、現行憲法制定過
程において、上院定数配分の基礎が定められた
が、これは政治的な妥協によるものであった。
すなわち、中央集権主義と地方分権主義の間の
対立、州人口比例による州別定数配分を主張す
るグループと各州同定数を主張するグループの
間の対立が顕著であったが、妥協の結果、州人
口比例を基本とするが、州の最低配分議席数を
定めるという形に落ち付いた。
同様に、オーストリアでは、現行憲法の制定
時に、中央集権主義と州権主義の間の対立と統
合が見られた。この結果、州を選任の単位とし
つつも、ほぼ州人口比例によって上院議員定数
を配分するという憲法規定が設けられた。
また同様に、ドイツでも、現行憲法制定に当
たり、上院議員定数配分で州人口比例原則を採
用しつつも、それに一定の限界を課すことにし
た。これは、州人口の多寡に大きな差があり、
1つ又は2つの州が人口の多さだけで上院で3
分の2以上の多数を占めることのないように配
慮したものであった。
一方、フランスでは、憲法上、上院における
「地方公共団体の代表の保障」が要請されてお
り、同時に、選挙権の平等も要請されている。
この両者の調和を図ることが、第五共和制憲法
制定以来のテーマになっている。現行の上院議
員定数配分規定は、この調和を図りつつ決定さ
れたものである。
近年になり選挙制度を新たに定めた東欧諸国
に目を転じると、チェコは、上院選挙区画定に
おける人口均等原則が顕著な国である。これに
は歴史的経験が大きく影響している。過去の民
族対立などの経験から、チェコでは、地域代表
の採用は、地域・民族間の対立を発生させる可
能性があると考えられており、地域代表として
の上院議員という考え方は否定されている。ー
方で、諸政党の持つ様々な考え方・利害の間の
調整が図られた結果、憲法第18条第2項に規定
される上院選挙における「平等な選挙権」の原
則が重視されることとなり、小選挙区画定にお
ける最優位の原則は人口均等原則になった。
同じく近年に制度を定めたポーランドは、選
挙を目前に控えて極めて党派色の濃い定数配分
がなされた結果、格差が小さくなるという逆説
的な歴史上の経緯を持っている。
第四に、参考のために算出した定数格差・ー
票の格差を通覧すると、ばらつきが大きい。直
接選挙の場合で、1.07〜144.01倍の開きがある。
間接選挙、任命制等まで含めると、1〜248.87
倍と、更に拡大する。このことは、上院の議員
定数配分の原理が、多様であることを示してい
る。下院では、議員定数配分の原理は、人口比
例原則によるか、或いはそれに地理的制約など
が加わるということが一般的である。しかし、
レファレンス 2008.8 1〇3
上院では、人口比例原則を第一の原理にしてい
ない場合も多い。
第五に、幾つかの事例を除き、国民代表と位
置付けられている上院では相対的に定数格差・
一票の格差が小さく、州等の地域代表の上院で
は相対的に格差が大きなことは、大まかな傾向
と言えよう。国民代表の概念は、古くは制限選
挙の時代から唱えられていたものであり、直接
的に小さな格差と結び付く概念とは言えない。
しかし、現代の民主国家においては、「法の下
の平等」規定等の形で憲法上の平等原則が確立
し、同時に身分や納税額などで選挙権に区別を
付けない平等選挙の原則も確立していることが
通例である。従って、地域代表を採用し国民の
間に地域的区分を設けるという考え方が採用さ
れるのでなければ、上院議員の選任においても
各国民は可能な限り平等な扱いを受けることが
通例となることは当然であろう。この平等な扱
いの典型例が、定数配分•選挙区画定における
人口比例(均等)原則である。このような理由
で、国民代表が採用される場合、相対的に格差
が小さくなっていると考えられる。
国民代表が採用され、相対的に格差が小さい
事例は、イタリア(国内選挙区)、ポーランド、
チェコ、オランダ(人口格差)である。一方、
国民代表が採用され、相対的に格差が大きな事
例は、イタリア(在外選挙区も含めて全選挙区を
比較したケース)、オランダ(上院議員選挙人のー
票の格差)である。
これに対し、州等の地域代表が採用された場
合は、大まかに3種類の定数配分•選挙区画定
の原則が考えられる(136)〇すなわち、①地域人
口比例による方法、②各地域同定数とする方
法、③①と②の中間を取る方法、である。地
域代表採用国の中では多くの事例となっている
②、③については、相対的に格差が大きくなっ
ている(137)〇
おわりに
最後に、我が国の参議院の定数是正問題に参
考になると思われる若干の点を示して、筆を置
きたい。
まず、我が国の参議院は、選挙における定数
配分規定が憲法に存在せず、本稿で比較した16
か国の諸外国に当てはめるならば、少数派に分
類されよう。すなわち、定数配分規定が選挙法
にあるポーランド、チェコ、フランスと、同種
のグループに入ることになろう。一方、比例代
表選挙を除き、選挙区の区域が都道府県となっ
ており、この面では16か国の諸外国に類似して
いる。
また、16か国の上院の中には、人口比例(又
は人口均等)を重視した定数配分(又は選挙区画
定)が行われている事例も、幾つか存在してい
る。具体的には、イタリア(国内選挙区)、ベル
ギー(直接公選部分)、ポーランド、チェコ、オ
ランダ、オーストリアである。これらの諸国を
参考例として学ぶことは、有益なことであろ
う。
我が国において、定数是正問題は喫緊の課題
である。本稿の比較分析が一助になることを期
待したい。
(みわかずひろ)
(136) 『ドイツ・スペイン・英国における憲法事情に関する実情調査一概要』前掲注(32), pp.46-48.
(137) ①の事例は、オーストリアである。ただし、州ごとに最少でも3議席は保証されるという例外規定がある。3
議席の州は全9州のうち2州(ブルゲンラント州、フォアアールベルク州)である。例外は存在するものの、実
際の定数(人口)格差は1.63倍であり、人口比例原則によっている部分が大きい。②の事例は、アメリカ、オー
ストラリア(連邦直轄地選挙区を除く)、スペイン(県単位の選挙区部分)、スイス(I日半州を除く)、メキシコ(3
人区部分)、ロシアである。③の事例は、スペイン(自治州議会指名部分)、フランス、カナダ、ドイツである。
104 レファレンス 2008.8』