米国・イスラエル首脳、異例の応酬 司法制度改革巡り

米国・イスラエル首脳、異例の応酬 司法制度改革巡り
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB29BJS0Z20C23A3000000/

 ※ 「法の支配」を旗印にして、「権威主義反対」をお題目にする米国の外交方針からは、「相容れない」話しだろう…。

『【ワシントン=中村亮】イスラエルの司法制度改革に関し、同国のネタニヤフ首相とバイデン米大統領が異例の応酬を繰り広げた。イランやパレスチナ政策をめぐる溝が対立の根底にある。中東で勢いを増すイランに隙をつくりかねない。

バイデン氏は28日、ホワイトハウスで記者団に司法制度改革に関し「撤回を望んでいる」と語った。同日に南部ノースカロライナ州でもネタニヤフ氏をホワイトハウスに招待するかと質問されると「近い将来はない」と述べて距離を置いた。

ネタニヤフ氏は反発した。ツイッターに「バイデン氏を40年以上知っているし、イスラエルへの長年の関与に感謝する」と書き込んだうえで「イスラエルは親友を含む外国の圧力ではなく、国民の意思に基づいて決断をする主権国家だ」と断言。バイデン氏の撤回要請を一蹴した。

ネタニヤフ氏が目指す司法制度改革は、一院制の国会が最高裁の判断を覆せるようにし、裁判官の任命で政府の関与を拡大する内容だ。三権分立が揺らぐとして、イスラエルで大規模な抗議デモが起きてネタニヤフ氏は手続きを先送りしたが、撤回はしていない。

米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は29日の記者会見で「我々はイスラエル指導者に妥協案を見つけるよう促してきた」と指摘。「撤回を求めるバイデン氏のコメントは(権力の)抑制と均衡を維持する妥協策を見つけることと完全に整合的だ」と話し、バイデン氏の発言を軌道修正しなかった。

バイデン氏とネタニヤフ氏はもともと中東政策で隔たりが大きかった。ネタニヤフ政権のもとでイスラエル軍はパレスチナ武装勢力への急襲作戦を重ね、暴力の連鎖に拍車がかかった。占領するヨルダン川西岸では国際法違反のユダヤ人入植地の建設を推進した。

ブリンケン米国務長官は3月上旬、イスラエル高官と会談して同国やヨルダン川西岸で続く暴力に重ねて懸念を伝えていた。

イランをめぐっては、バイデン政権が発足当初からイラン核合意への復帰を目指した。欧州諸国を介してイランと間接協議を進めて一時は復帰間近とみられていた。ネタニヤフ氏は以前からイラン核合意に反対の立場をとっていた。

ネタニヤフ氏は核合意が原因で民主党のオバマ政権とも不仲になった過去がある。2015年の米議会演説は共和党の招待で実現した。ホワイトハウスに相談せずに演説を決めたためオバマ政権は強く反発した。当時、副大統領で上院議長を兼ねたバイデン氏は外国訪問を理由に演説を欠席した。

米国とイランの対立は中東で影響力を強めるイランを勢いづけるリスクがある。米国防総省は3月下旬、イランとつながる組織が無人機を使って米軍のシリア駐留拠点を攻撃し、7人が死傷したと明らかにした。米軍が報復措置を講じると、さらにロケット弾攻撃を受けたという。

イランは武装勢力を通じ、米軍に打撃を与えて中東から撤収させる狙いがあるとみられる。米軍はシリアで過激派組織「イスラム国」(IS)の掃討作戦を実施しているが、シリアにおけるイランの増長を阻止する役割も担っているとの見方が多い。シリアでイランが勢力を増すとイスラエルの安全保障にもマイナスになる。

オースティン米国防長官は28日の上院軍事委員会の公聴会で、21年1月のバイデン政権発足以降にシリアやイラクの駐留米軍は83回の攻撃を受け、米軍が反撃したのは4回だと証言していた。』