銀行というブランドが、欲の為に崩壊しつつある
http://blog.livedoor.jp/goldentail/archives/31160957.html
『銀行の事業モデルというのは、安い金利で預金を誘致し、これを再び再投資して、その利ザヤで利益を出すというのが基本です。その為、昔は身内から銀行員に就職できた人が出ると、親戚一同で祝ったりしました。その人の一生が担保されたようなものだからです。職業としての社会的な立場も、「お堅い職業」のナンバー・ワンであり、実直・堅実を絵に書いたようなイメージを持たれていました。実際、本来の商業銀行業というのは、安全第一の実に手堅い金融業であり、それゆえ産業の米として、多くの産業を資金面で支えてきたのです。しかし、そのイメージが、欧米の相次ぐ銀行破綻で崩れています。
まず、問題なのは、広く一般市民から預金を集めている銀行が、投資銀行業務も欧米では行う事ができる点です。もともと、規制緩和される前は、事業が破綻すると一般市民にも多大な影響が出る商業銀行業務と、市場に資金を投資して利益出す代わりにリスクが高い投資銀行業務は、同じ法人で運用できませんでした。しかし、金融規制緩和の流れで、欧州でもアメリカでも、同じ法人が兼務できるようになりました。これにより、市民から集めた預金が、リスキーな投資の資金になる事が可能になりました。日本は規制緩和されたとはいえ、一応、商業銀行と投資銀行は分かれています。本来、市民から集めた預金を、リスキーな投資へ回す事がおかしいのです。
しかし、世の中がバブル経済になると、「稼ぐ事が正義」という価値観に変わりました。短期間に、どれだけの利益を出せるかが、評価の基準になり、どんどんリスクをとって、大きく利益を出す代わりに、何か経済に異変が生じると、どんな大銀行でも瞬間に破綻するような構造になっています。今回のクレディスイスの例が、その最たるものです。
第二の破綻が噂されているドイツ銀行にしても、実はバブル経済が始まる前は、ドイツらしい堅実な業務しかしていなかった商業銀行業務が主体の銀行でした。ここも歴史ある銀行ですから、何代にも渡ってメインバンクにしている取引先も多く、財務体質も超優良だったのです。しかし、周りの銀行が、貯め込んだ資金を積極投資運用をして、巨額の利益を出しているのを見て、ある時点から、リスキーな投資にのめり込むようなります。始まった時点では、今までの堅実経営が積み立てた巨額の資金があり、その当時の欧州の銀行の中で、最も投資に回せる資金に余裕があったのです。こういう、リスキーな投資は、始めてしまうと、タガが外れてしまいます。儲かる時には、退屈な商業銀行の通常業務など、馬鹿らしくなるくらい利益が出るからです。と同時に、損失も被るリスクを負う事になります。本当は、市民から預金を集めている商業銀行が、やってはいけない事です。
そして、投資にのめり込んだ結果、リーマンショックで、膿が一気に噴出します。被った巨額の損失を補填する為、マネーロンダリングなどの違法行為にも手を出し、多額の罰金を金融当局から課せられた上に、金融機関としての顧客からの信用も失いました。結局、組織が追い詰められると、銀行だろうと何だろうと、倫理観が低下するのです。こうなると、起こるのが預金の流出です。
今回のアメリカのシリコンバレー銀行のように、預金者の資金を危険に晒すような破綻の仕方をすると、銀行が安全な資産の預け入れ先だと信じていた信頼が、大きく揺らぎます。今回の破綻劇を受けて、地方銀行から預金が、資産がより大きく安定しているメガバンクへ流出している他、銀行預金からMMF(マネー・マーケット・ファンド)へ大量に移動しています。銀行金利は高いとは言えないですが、安全と信じられていたから、皆が預金していたのです。その信頼が揺らぐと、銀行に預金しておく理由が無くなります。今、アメリカの政策金利が引き上げられているので、短期国債などの比較的自由に預金の引き出しが可能で、かつ金利が銀行より高い金融商品に資金が移動しています。その額が、月間で37兆3805億円に達しました。また、金の先物取引も活発です。金は代表的な安全資産ですが、1オンス当たり2000ドルを超えて、久しぶりに高値を更新しました。
こうした預金の流出は、中小の資産が脆弱な銀行にとって、経営を大きく圧迫します。このブログでも何度か言っていますが、最終的に「共同幻想」である通貨というものは、「信用」で価値が成立しているのです。どんな金融機関でも、信用を失うと、一時期、どんなにブイブイ言わせて暴利を貪っていようとも、最終的には破綻する事になります。そして、商業銀行業務の基盤が崩れるという事は、地方の産業を育てる揺りかごが、無くなるかも知れないという事です。引いては、国家単位の景気後退の引き金になりうるという事です。
この根本的な原因は、資本主義のシステムにあり、「儲けられる時に、リスクを取って利益を取らないのは、バカ。儲けられる奴が偉い」みたいな価値観です。社会の役割を担う一員として、産業を振興し、共に発展するみたいな価値観が、以前の金融機関にはあり、それが「お堅い」職業と言われる所以だったのですが、今、そんな事を言ったら「無能」扱いです。堅実をバカにし始めた時点から、こうした銀行の職業倫理の崩壊は、決まっていたのかも知れません。』