欧州のAT1債市場、大混乱が続く
http://blog.livedoor.jp/goldentail/archives/31124559.html
『 買収されたクレディスイスのAT1債が、無価値になった事は、先日の記事で説明しましたが、もちろん、こんな事が起きて、AT1債市場に影響が無いわけがありません。現在、AT1債市場の平均利回りは、15%台に乗っていて、騒動が起こる前の7%台から2倍に跳ね上がっています。債権というのは、売られると利回りが跳ね上がるので、大量に売りが出ているという事です。
欧州の銀行の資本比率を見ると、自身が発行しているAT1債の比率が高く、主要銀行が軒並み15%~20%を占めています。例を挙げますと以下のようになります。
UBS ・・・・28.3%
Barclays(バークレイ)・・・28.2%
Duetsche Bank(ドイツ銀行)・・・17.7%
HSBC(香港上海銀行)・・・16.6%
BNP Paribas(BNPパリバ)・・・12.7%
ING・・・13.3%
これらの銀行は、AT1債に資本の一部を依存しているという事ですから、満期時期には、完全に止めて他の資金調達方法に変えるのでなければ、借り替えをして、償還時期を新たに延ばさなくてはなりません。その金利が7%から15%に変わるので、資金調達コストが2倍になるという事です。額が巨大ですので、全ての銀行がスンナリと借り替えできないレベルの金利の変動です。
皮肉な事に、クレディスイスを買収したUBSの資本比率は、28.3%もあり、クレディスイスのAT1債を無価値化した事で、次の借り換え時の資金調達コストが、爆上げしてしまった事になります。いくら、広く告知されている合法的な処理と言っても、まず起こらないと思っていた事が起きた衝撃は大きく、当分の間はAT1債に寄り付く機関投資家はいないでしょう。
つまり、「クレディスイス事案の影響は、まだ続くし、終わっていない」という事です。市場において信用不安を起こした事は、投資家心理に長く尾を引きます。大損させられた記憶は、個人投資家だろうと、機関投資家だろうと変わりません。かつ、人の金を預かって運用しているならば、なおさらです。世界中で、顔を青くしながら、説明に苦慮する金融関係者が、後始末に追われているはずです。
そして、以前の記事でクレディスイスは、「資産家向けの資産運用サービス」を得意分野としている、最もスイスらしい銀行であるという話をしました。世界で資産家と言えば、「アラブの富豪」です。実際、クレディスイスに口座を持っているアラブの富豪は多く、その付き合いも数十年に及ぶものです。なので、不祥事で経営が傾いていた去年に、サウジアラビアが資金提供したのも、国策というよりは、もしかしたら自国民の富豪をバックアップする目的もあったのかも知れません。ということは、逃げ遅れたアラブの富豪で、大損した人も多いと思われます。クレディスイスの株もそうですが、中東各国の機関投資家が、クレディスイスのAT1債を大量に買っていた可能性は高いです。(債権は開示義務が無いので、誰がどれだけ買っているか不明)こう考えると、筆頭株主だったサウジアラビアが、追加の支援を断ったのも判る気がします。穴の空いたバケツに水は貯まらないという事です。改善する兆しの無い経営陣を見切ったという事でしょうね。
欧州の銀行は、多民族・他国家が混在しているという事もあって、銀行もお互いの資本が複雑に絡み合っています。なので、一つの市場で信用不安が起きると、連鎖する可能性が高いです。特に、「数字を作る為」にする契約も多いので、表面の数字だけ追いかけても、健全性が判らない事が多いです。しかも、今回のクレディスイスもそうですが、一流と言われる銀行でも、何回注意されてもマネーロンダリングなどの非合法行為に手を出したり、投機的な資金提供をしたりします。成功した時に得られる利益が、地味な日常業務をこなすよりも、飛び抜けて大きいからです。大金を運用しているところが、そういう姿勢だと、コケた時に、今回のようになるわけです。もう、欧州の金融業界は、百鬼夜行のドロドロな世界です。
中東が中東地域で完結する経済圏を持ちたい気持ちというのは、判るような気がします。アメリカは、アメリカで、政策金利の爆上げで、世界経済に大きな圧力をかけてますし、他国にとっては、実に迷惑な話なんです。元はといえば、アメリカの政治家が、武漢肺炎下で生活支援の為にドルをばら撒いたのが遠因になっていますからねぇ。どちらも人為的な原因なんですね。そして、一番に苦しむのは、周辺の発展途上国の貧民です。』