プーチンはほくそ笑んでいる…欧米の金融不安が続けば、ウクライナ問題にも大きな影響が

プーチンはほくそ笑んでいる…欧米の金融不安が続けば、ウクライナ問題にも大きな影響が
https://www.dailyshincho.jp/article/2023/03240602/?all=1

『欧米の金融市場は3月に入り、大きく動揺している。

 米国で3月10日、米西海岸が地盤のシリコンバレーバンク(SVB)が破綻して以降、銀行への不安が急速に広まっている。12日に米東部ニューヨーク州のシグネチャー・バンクが破綻し、16日には米カリフォルニア州のファースト・リパブリック・バンクに対して米大手銀行が救済策(約4兆円規模の預金を拠出)を発表する事態となっている。

【写真12枚】「美しすぎる」と話題 露出度の高い衣装をまとったロシアの女スパイ【プーチンも絶賛】

 震源地となったSVBの2022年末時点の総資産は約28兆円。リーマンショック時に破綻したワシントン・ミューチュアルに次ぐ、米銀では過去2番目の規模だった。

 規模以上に驚かされたのはSVB破綻の原因だった。「1日に1兆円以上の預金が流出する」という前代未聞の事態が起きたことに関係者はショックを受けている。

 イエレン米財務長官は16日、米連邦議会上院の財政委員会でSVBの破綻について「しっかり管理していてもソーシャルメディアなどをきっかけに預金が一気に流出すれば銀行は破綻の危機にさらされる可能性がある」と発言したように、ネット上の「取り付け騒ぎ」は新しい現象であり、従来の規制で危機を回避するのは難しい。

 イエレン氏はさらに「SVBは特に預金保険の対象外となる大口顧客が多かったために、対応が難しかった」と述べている。

欧州にも飛び火

 3月18日付ウォール・ストリート・ジャーナルは「SVBと同様のリスクにさらされる可能性がある銀行は186も存在する」と報じている。

 そのせいだろうか、米国の金融市場で資金繰りを「最後の貸し手」である中央銀行に頼っている構図が鮮明になっている。米連邦準備理事会(FRB)は16日「銀行による借り入れは15日時点で約20兆円に急増した」と発表した。この数字はリーマンショック時を抜いて過去最高となっている。

 米金融当局はさらに米銀全体が保有する預金(約18兆ドル)を保護するための特例措置を検討し始めている(3月21日付ブルームバーグ)。

 米銀の破綻劇は欧州にも飛び火している。

 スイスの金融大手UBSは19日、経営不安が強まっていたクレディ・スイスを約4200億円で買収すると発表した。

 大手金融2社の統合を後押ししたスイス国立銀行(中央銀行)は両行に14兆円超の規模の流動性支援を行うことを明らかにしている。スイス政府もUBSに対し、買収に伴い今後発生しうる損失に関して1兆2000億円規模の保証を与えている。

 UBSによるクレディ・スイスの救済は、リーマンショック後の規制強化で安全とみられてきた大手銀行さえもリスクが潜んでいることを浮き彫りにしたが、さらに厄介な問題が浮上している。』

『「AT1債の価値はゼロになる」

 銀行の自己資本の充実に大きく寄与してきたAT1債と呼ばれる特別な債券に厳しい目が注がれるようになってしまったからだ。

 AT1債は銀行の財務が悪化した際に保有者が損失を引き受ける債券だ。自己資本として算入できるため、多くの銀行が発行し、高い利回りが得られることから投資家がこぞって購入してきた。米金融大手ラザードによれば、2020年9月末時点で約100の銀行が発行し、全体の8割を欧州勢が占める。発行残高は約30兆円と推計されている。

 だが、クレディ・スイスは19日「自社の約2兆2000億円分のAT1債の価値はゼロになる」と発表した。今回の契約に「国からの支援があった場合、AT1債は元本割れになる」という趣旨の条項が入っていたことが災いした(3月21日付日本経済新聞)。

 魅力的だと思われてきたAT1債が無価値になったことで市場に衝撃が走った。

 クレディ・スイスを買収したのにもかかわらず、UBSの株価は急落した。欧州銀行の中で自己資本に占めるAT1債の比率が最も高い(28%相当)ことが嫌気された形だ(3月22日付ブルームバーグ)。

 UBSの経営破綻のリスク度を示すCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)も上昇しているが、それを上回るペースで高騰しているのがドイツ銀行のCDSだ(3月21日付ZeroHedge)。欧州有数の規模を誇るドイツ銀行にもクレディ・スイスと同様、経営不安の影が見え隠れしており、今後の動向に要注意だ。

「制裁のおかげでロシアの金融システムは健全」

 預金、資本という資金調達の面で問題が生じていることに加え、銀行の運用先についても懸念の声が上がっている

 インフレ抑制のために世界の主要な中央銀行が急速な利上げを行った影響で、昨年の世界の不動産投資額は前年比19%減となり(3月15日付日本経済新聞)、多くの国々で不動産市場が揺らぎ始めている。欧米の銀行による商業用不動産融資の焦げ付きリスクが既に顕在化している(3月22日付日本経済新聞)。

 格付けの低い企業への融資(レバレジッド・ローン)なども今後問題になる可能性が高く、銀行不安を払拭する取り組みは前途遼遠と言わざるを得ない。

 欧米の金融市場が動揺を見せる中、ロシアのプーチン大統領は「西側諸国の制裁のおかげでロシアの金融システムは健全だ」とうそぶいた(3月17日付ZeroHedge)。

 金融不安により自国の経済が深刻な状態になれば、欧米諸国で広がる「ウクライナ支援疲れ」の動きがさらに加速することは間違いない。

 このように、欧米の銀行不安は、ウクライナ戦争を始め今後の国際情勢に大きな影響を及ぼすことになるのではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部 』