「世界の未来」を担う可能性を秘めたインドネシア
岡崎研究所
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/29721
『米ワシントン・ポスト紙コラムニストのマックス・ブートが、2月20日付の同紙掲載の論説‘Pay attention to Indonesia. It will help determine the future of Asia.’で、インドネシアがアジアの未来を決めるとして、特に東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国である今年は、東南アジア、更には世界的に主導的地位にあるインドネシアに、米政府のみならず米国民も一層注目すべきだ、と指摘している。要旨は以下の通り。
インドネシアは重要性に見合う注目を米大衆から受けていない。人口は世界第4位。世界第3位の民主主義国で、世界最大のイスラム教徒多数派国家。電気自動車(EV)バッテリーに必要なニッケル生産は世界最大、コバルト生産も世界第2位になり得る。対中エネルギー供給のほとんどが通る戦略的に最重要のマラッカ海峡を擁する。
東ティモールの例外を除けば、インドネシアは独立以降統一されており(パプア独立運動はいまだ暴力的軍事占領と闘っている)、民主主義国にもなった。国際的評価は様々だが、ミャンマーやタイのような軍事政権には陥らず、インドのような大衆迎合扇動主義にもなっていない。
経済的奇跡は起こしていないが、過去10年間、1兆ドル以上の経済の中では、中印以外で最も早く成長しており、1人当たりの国内総生産(GDP)は4332ドルで高中所得国だ。
人口、経済成長などから見ればインドネシアは世界的影響力を持つべきだが、そうなっていない。インドネシアは1950年代には非同盟運動の中心で、過去の植民地化のトラウマから、国民の大多数は大国から距離を取りたいと考えている。
今日インドネシアは他国と同様、米中三角関係の中で生きている。中国は最大の貿易相手だが最大の安全保障上の脅威でもあり、南シナ海では領海を巡り中国と対立している。米国は領土の一体性確保に有益な同盟相手たり得る。結果、外交は二股だ。国軍は米国主導のスーパーガルーダ・シールド共同訓練に参加している。インドネシア人は米国に憧れてはいないが、中国ファンでもない。
バイデン政権はインドネシアの重要性を認識し関係緊密化に努力しており、海洋安全保障、グリーン・エネルギー、サイバー対策など、あらゆる分野で協力を拡大しようとしている。インドネシアは対中同盟に参加するつもりはないが、ミャンマー民主化などの他の優先事項で米国と緊密に協働している。
米国防省高官は、ASEAN議長国である今年は東南アジアのみならず世界的に主導的地位にあるインドネシアに特に関心を払うべきで、米政府だけでなく米国民からも一層注目されるべきだ、と言う。同国は、アジアの将来を決める上で、今後大きな影響力を持つことになるだろう。
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この論説は、米国民にインドネシアの重要性を分かりやすく説くもので、内容的には驚くような点はない。ただ、このような啓蒙記事をワシントン・ポスト紙が掲載すること自体は、重要で良いことである。』
『論説のタイトルには「インドネシアがアジアの未来を決める」とあるが、インドネシアは既に「アジアの未来」に大きな影響を与えており、今後はアジアを越えて「世界の未来」に大きな影響を与えるようになるはずである。
インドネシアは2040年代には日本のGDPを抜き世界第4位になることが確実で、世界的問題につき日米欧と中露が両極の立場を取る中で、その中間に位置するインドネシア、インドの両大国の立ち位置が世界の多数派の趨勢を決めることになる。
論説中、領土の一体性との関係で「パプア独立運動は未だ暴力的軍事占領と闘っている」との記述があるが、これは米国的ステレオタイプな見方である。1960年代初頭のパプアのインドネシア併合は国連主導で行われ、各種国連決議を根拠とし最大の国際的正統性があり、この点、東ティモールとは根本的に異なる。
確かに現在も「独立運動」があり、時に死者を出す衝突があるのは事実だ。しかし、世論調査の結果は、「独立」は新たな最貧困国を作る道だとパプア住民の多数が痛感していることを示している。「独立活動」の実態はインドネシア国内格差是正要求であり、それはそれとして対処を要するが、「独立運動」活動家の中に真剣に独立を考えている向きはほとんどないと言う見方が主流だ。
日本も米国との軍事演習に参加
論説には「米国主導」のスーパーガルーダ・シールド共同訓練に各国と共にインドネシア陸軍が「参加した」とあるが、これは事実誤認である。米国とインドネシアは、スーパーガルーダ・シールドを毎年共同開催しており、これに、地域の各国と地域に利害や関心を持つ国々が参加している、というのが正確である。インドネシアは単なる参加国ではない。
なお、スーパーガルーダ・シールドは、従来は陸軍間での合同訓練であったが、昨年は海空軍を含めた総合訓練として実施された。昨年は日本の陸上自衛隊もスーパーガルーダ・シールドに初めて参加し、インドネシア、米国と空挺団の落下訓練を、第二次世界大戦時に日本がインドネシア侵攻を始めたスマトラ島パレンバンで実施した。これは3国の強い信頼を示すことになると思われる。』