春攻勢の準備を急ぐ米国、ウクライナに時間を無駄する余裕はない

春攻勢の準備を急ぐ米国、ウクライナに時間を無駄する余裕はない
https://grandfleet.info/us-related/u-s-rushes-to-prepare-for-spring-offensive-ukraine-cant-afford-to-waste-time/

『米軍は晩春までに始まると予想されるウクライナ軍の春攻勢に向け「急ピッチで装備の移送とウクライナ人の訓練を進めている」と報じられており、米国防長官も「ウクライナに時間を無駄にしているような余裕はない」と危機感は募らせている。

参考:‘Ukraine doesn’t have any time to waste’: U.S. races to prepare Kyiv for spring offensive

ウクライナは最終的な決断を下していないものの春攻勢には2つの選択肢があり、アゾフ海沿いの移動ルート遮断を選択する可能性が高い

米POLITICOは15日「ウクライナは米国が戦略的に重要ではないと判断しているバフムートに兵士と弾薬をつぎ込んだ結果、前線の兵士達は榴弾砲や迫撃砲の弾薬不足を痛感している。米政府関係者は1年に渡る戦いでウクライナ軍は経験豊富な兵士を含む10万人以上が死亡したと推定しており、その大半はバフムートの戦いで発生したものだ」と指摘、米政府関係者はウクライナ軍の弾薬や経験豊富な兵士が減少していることを懸念しているらしい。

出典:Головнокомандувач ЗС України

米国のオースティン国防長官も「ウクライナに時間を無駄にしているような余裕はない」と危機感は募らせており、春攻勢に向けた準備が遅れれば遅れるほどバフムートで兵士と弾薬が消耗されるため「とにかく我々は約束したことを迅速かつ完璧に実行しなければならない。新たな装備を移送して訓練を提供し、スペアパーツやメンテナンスサポートも出来だけ早く届けることが重要だ」と15日のラムシュタイン会議で訴えている。

いつ春攻勢の準備が整うのかは不明だが、どこで春攻勢が始まるのかについて米軍関係者は「まだウクライナは最終的な決断を下していないものの基本的に2つの選択肢があり、ヘルソンから南下してクリミアに入るか、北側から東に移動して南下しロシアの陸橋を断ち切るかだ。ウクライナ軍には守りを固められたドニエプル川を渡河するだけの能力も戦力もないため、前者の選択肢は現実的ではなく後者を選択する可能性が高い」と言及。

出典:管理人作成

つまりザポリージャからドネツク方向に移動、最も守りが手薄な地点を突破して南下、アゾフ海沿いの移動ルート=陸橋を断ち切ってヘルソン州とザポリージャ州の敵を「ロシア本土と陸続きドネツク州と切り離す」という意味で、この選択肢で行くならクリミア大橋の破壊も必須で例の武器が必要になるだろう。

ウクライナ防衛産業協会のイワン・ヴィンニク会長は3月「Vilkha-Mが実戦に投入されている」と明かし注目を集めており、旧ソ連製の多連装ロケットシステム「BM-30」で使用するロケット弾「Vilkha(ヴィルカ/弾頭重量250kg/最大射程70km)」はGPS以外の誘導方式(詳細不明)を採用しているため妨害下でも安定した命中精度を誇り、弾頭重量を減らして射程を130kmまで延長した「Vilkha-M(弾頭重量170kg)」が2022年5月に実戦投入されたらしい。

出典:armyinform.com.ua/CC BY 4.0

Vilkha-Mは約100発ほど生産されているらしいのだが、射程を150kmまで延長した改良型の開発作業も進行中で「アゾフ海方面の反攻作戦に間に合えば良いのだが、、、」と付け加えていた。

射程が200kmほどあれば射点の自由度も広がるのだが、Vilkha-Mの改良型(射程150km)でも下記の地点ならクリミア大橋に届くので、もし「Vilkha-Mの改良型」でクリミア大橋を破壊するつもりならメリトポリもしくはベルジャンシクへの到達が春攻勢の目標になる。
出典:GoogleMap

ただ衛星画像やSNS上にアップされた画像を見る限り、ロシア軍がヘルソン州とザポリージャ州に準備している塹壕、障害物、防御陣地の数と長さは尋常ではなく、道路が交差するポイントにも塹壕と障害物がもれなく用意されているため「ハルキウ州の反撃速度」を再現するのは難しいだろう。

下記のGoogleMap(Brady Africkという方が作成したもの)は衛星画像で確認された塹壕、障害物、防御陣地が落とし込まれたもので、表示に時間がかかるかもしれないが興味がある方は見てみて欲しい。

因みに地図上の赤い点は当該地域を映した衛星写真へのリンクで、塹壕、障害物、防御陣地の数を意味しているものではなく、赤い点と赤い点の間が開いているのは「塹壕が途切れている」という意味ではないので注意してほしい。

関連記事:ウクライナ軍、BM-30で使用する射程100km以上のVilkha-Mを実戦投入
関連記事:ウクライナ軍兵士、バフムートの戦いは無限のリソースをもつ敵との絶望的な生存競争
関連記事:ウクライナ侵攻385日の戦況、ウクライナ軍が守るバフムートは刻々と状況が悪化

※アイキャッチ画像の出典:DoD photo by U.S. Navy Petty Officer 2nd Class Alexander Kubitza
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投稿者: 航空万能論GF管理人 米国関連 コメント: 43  』


TKT
2023年 3月 16日

返信 引用 

この二つの選択肢というのは、米軍関係者とやらが勝手に言ってることであり、その他にウクライナ軍には
「能力的にできない、無理なので結局春の攻勢はやらない」
という選択肢もあるでしょう。

米国が戦略的に重要でないと考えているバフムートからも、ウクライナ軍司令部、参謀本部は撤退しないと決めているように、米軍がウクライナ軍に春の攻勢をやれ、と一方的に言ったからといって、本当にウクライナ軍が米軍の言う通りに何でも実行するとは限らないのです。

またウクライナ軍によるクレミンナの奪回が失敗しているように、実行したとしても、
「春のめざめ作戦」
のように阻止される可能性も高いと言えます。ロシア軍はすでに反撃を予想して、クルクスの
「パックフロント」
のような対戦車縦深陣地を前から準備しているのです。NATO各国が少しづつかき集めたレオパルト2戦車は、このロシア軍が時間をかけて準備した対戦車縦深陣地に正面突撃を強行するのでしょうか?

アメリカ軍が編成を急がせた結果、ウクライナ軍に訓練不足の戦車乗員が多ければ、まさにマリアナ沖海戦の
「七面鳥撃ち」
のようにもなりかねません。

それ以前に、バフムトを陥落させたロシア軍が、マリンカやアウディイウカからの攻勢を本格化させて、万が一に突破でもした場合は、ザポロジェにウクライナ軍を集めても、逆に北東から突破したロシア軍に包囲されるような危険もあります。
13 』

『 YK
2023年 3月 16日

返信 引用 

残念ですが海外の戦況情報のサイトでロシアよりのサイトは当然でしょうが、中立だけでなく、比較的西側応援のサイトでさえ、のきなみウクライナの悲劇的な状況を示し始めています。日本の応援サイトはここ以外は異常に偏っていてウクライナ応援ですが・・・ウクライナは夏まで持たないのではないでしょうか・・・。
15 』

『 ななし
2023年 3月 16日

返信 引用 

米政府関係者が行っていることが事実なら、バフムートがあまりにもヴェルダンすぎる…ドイツがあのとき成し得なかったことをロシアがやっているというか
そしてドイツと違ってロシアは多くの兵士が死んでも戦争継続できるという

前からアメリカは反撃重視のスタンスだけど、防御でどれだけ敵を削っても反撃で成功しないとジリ貧だと一番分かってるのがアメリカなんだろうな
3 』

『 霞ヶ浦
2023年 3月 16日

返信 引用 

危惧していたけど世界経済がいよいよヤバくなってきたからタイムリミットができる可能性はある
とりあえず反攻作戦が成功するかどうかが鍵だが難易度はどれも高そうなんだよな
4 』

『 だんだん暖かくなってきました
2023年 3月 17日

返信 引用 

機甲部隊の再建に手間取っているとは言え露軍が戦線に対して兵員密度が不足しかつ地形障害に悩まされ後方での防御工事も進んでいなかった昨年までともうだいぶ様相が違ってきましたから、成功するしないの予言は別にして去年のハルキウ奪還通りとは行かないでしょうね。

反撃までの準備にしては最早遅滞戦闘におけるバフムトでの拘束の意味が政治的な意味しか残っていないというか何故戦線整理に及ばないかもよく分からないです。

東欧諸国は戦車提供に積極的ですが要のG3MBTが雀の涙ですし春季~夏季の攻勢でルハンシク陥落させてロシア本土からの接続解消のような大胆な作戦夢見ますがスバトボ~クレミンナ~スタロビルスク方面で攻撃に出るか各地の突出部の整理ぐらいが現実的かもしれません。
2 』

『 2023年 3月 17日

返信 引用 

もはやアメリカはこれ以上の支援を続ける気はなく、次の攻勢の圧倒的な勝利による戦争終結を模索しているのかもしれませんね。

そんな乾坤一擲の大勝負となりえるのは困難な南部の遮断しかなく、比較的成功の可能性が高いものの戦争終結に結びつかない東部や北東部ではないと。

まあたとえ失敗したとしても全土奪還の希望が潰えて戦意の落ちたウクライナがロシアに対して譲歩したいというなら尊重するという名目も立ちますし、もちろん成功して南部の部隊の全滅が視野に入ってくればさすがにロシアも降伏してくるだろうということで、どちらに転んでも都合はよさそうです。

ウクライナがアメリカの要望に逆らって東部や東北部で反撃に出る可能性もありますが、まあその場合は支援を切られるだけでしょう。
5 』

『 名無しみくす
2023年 3月 17日

返信 引用 

この主題とちょっと外れてしまい申し訳ない。ドローン墜落と関連しての解釈が気になる。これほど敵対的で準戦争行為を取り、ノルドストリームテ口爆破疑惑もあるアメリカのドローンをロシアが公海上で墜落させたのは、国際的にはどう捉えられているのだろうか。

国際法違反は違反として教条主義的にロシア側が批判されるのか、もしくはアメリカは何を言っているのだ?もう戦争やってんだ、黒海に爆装した敵国機を撃墜するのは当然だろ。とアメリカが反感買うのか。

国際情勢の反応を早く知りたい』