地政学と日本の大戦略

地政学と日本の大戦略
https://www.kokuminkaikan.jp/chair/lecture/fCnQxZz8

 ※ 「地政学」とは、畢竟、「応用の学」である…。

 ※ 「大理論」のみを学習・理解したところで、あまり役には立たない…。

 ※ 日々の「世界情勢」に当てはめ・応用してみることでしか、その「学」の鍛錬・深化をはかることができない…。

 ※ この「論考」も、その一つの「試み」でしかない…。

 ※ ただ、「パワー」と「マネー」の混同の戒めは、噛みしめておくべきだろう…。

『第1015回武藤記念講座要旨 2016年4月2日(土)
講師:キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 宮家邦彦氏

はじめに

第一章「地政学リスクとは何か? 」

第1節 「乱用されている地政学リスクという言葉」
第2節「分からないことは地政学リスクとするエコノミスト達」
第3節「地政学により国際情勢を分析する「前提」」

第二章「ヨーロッパ・ロシア・中東の地政学的脆弱性」

第1節「NATOの拡大と民族主義の台頭」
第2節 「ロシアの地政学的脆弱性」
第3節「イラク(メソポタミア)の地政学的脆弱性」

第三章「中国の地政学的脆弱性」

第1節「中国の膨張と縮小の変遷」
第2節 「中国の海洋戦略」
第3節「南シナ海での米中対立」

終章「地政学から見た日本の大戦略 」

第1節「米国による抑止力の限界」
第2節 「海洋国家大英帝国に見習うべき日本」
第3節「島国同盟の発展を」

「質疑応答」

はじめに

私は父の事業を継ぐため、10年ほど前に外交官の職を辞した。それまではパワー(権力)の立場にあったが、実業界はお金の社会である。お金は見えるし、数えられるし、貯めておくことが出来る。一方パワーは見えないし、数えられないし、貯めることも出来ない。政治家はパワーが見えないから、選挙でお金をあれほど使うのではないか。もしパワーが見えるものならば、国内選挙は百戦百勝であろう。一方私は外交官として国際政治のパワーの動きを27年間追ってきたが、本日は、私がどのように「パワー」の動きで国際関係を見ようとしているかをお話したい。

第一章「地政学リスクとは何か? 」

第1節 「乱用されている地政学リスクという言葉」

有力紙が、北朝鮮の水爆実験と核ミサイル発射、及びニューヨークと上海の株式の暴落までも地政学リスクと解説しているが、前者は核拡散のリスクであり、後者は市場リスクである。又年初のサウジアラビアとイランの国交断絶も宗派対立であり、地政学リスクではない。

米国大統領予備選挙におけるトランプ現象も地政学リスクではない。トランプ氏は米国の「光と影」の「影」を代表している。冷戦は資本主義の勝利に終わったが、社会主義の影響を受けた修正資本主義により、富の再分配と社会福祉政策が進められた。然しその結果政府の肥大化と非効率を招き、市場原理主義に回帰したので、勝ち組と負け組の格差が拡がるところとなった。トランプ氏は「白人・男性・ブルーカラー・低学歴」の各有権者層のワシントンのエスタブリッシュメントに対する「格差にへの怒り」を代弁し、普通の人ならば、口が裂けても言えない「女性蔑視と人種差別」発言を繰り返している。このワシントンに対する不満は民主党のサンダース氏の支持にも表れている。然しこのままいけば、共和党は分裂し、民主党のクリントン氏を利することになろうが、それは大統領選挙だけでなく、米国政治の「地殻変動」を引き起こすことになるだろう。

さらに風刺漫画で知られるフランスの政治週刊紙「シャルリー・エブド」のパリの本社がイスラムの風刺画で襲撃を受けた事件、及び過日のブリュッセル空港の爆破事件はテロのリスクである。ベルギーはいい意味では自由のある国であるが、テロ対策は出来ておらず、「ヨーロッパの9.11」の危機が到来したといえる。

第2節「分からないことは地政学リスクとするエコノミスト達」

自ら理解できないので、例えば原油の価格が暴落しているのは、米国とサウジアラビアの陰謀であるとする「陰謀論」を語る人がいる。然し、そもそもエネルギーの値段は平時にはマーケットメカニズム、有事には政治的に決まるものであり、今は平時であるので、米国のシェール革命による需給関係で決まるのである。その他、説明できないリスクに対して「運命論」を弄ぶ人、先を読めないので事後に「結果論」しか言わない人、そしてパワーの源泉はマネーであると主張して「経済合理性」と「地政学的利益」を区別しないエコノミスト達がいる。何故エコノミストに地政学が分からないのか、それは、エコノミストはパワーとマネーの区別が分からないからである。

第3節「地政学により国際情勢を分析する「前提」」

私は地政学により、国際情勢を五つの「前提」で分析している。うち三つの前提は「パワー」に関するものである。それらは第一に「地政学の「地」は、地理(山、川、海、島)のことであり、国家のパワーと脅威は、地理に依存する」、第二に「パワーが空白・真空状態になったときには、新たな矛盾と紛争を生むことである。即ちパワーは見えないが動くものであり、パワーがなくなって真空になったところへは、周りにあるパワーがあらたに入って来る。そしてその時には銃声がして戦争が始まる可能性が高い」、第三に「パワーは複雑な現象であり、二国間、地域、グローバルに因数分解できる。それらの因数は三つの同心円で表され、各々ベクトルを有しており、通常はそれらのベクトルはあさっての方向を向いているが、三つのベクトルの方向が一直線になったとき、パワーは動くと考える」

あと二つの前提の一つは「経済合理性を優先しないこと」である。これはある意味で上の三つを超えて大切である。例えばロシアのクリミヤ併合は経済合理性では説明できない。原油安でロシア経済は苦しい中で、国際法違反で世界中から経済制裁を受けるかもしれないのに併合したのは、経済合理性を超える「地政学的利益」のメリットを考えたからである。即ちその国の将来を考え、カントリーリスクを守るのに必要であるのならば、経済的合理性を考えず、地政学的利益を考えるべきである。

そしてもう一つは、人類は7~80億人もいるが、この世の森羅万象がすべて分かる筈はないと割り切り、分からなくなった時には、「視点を180度転換して見る」ことである。それは地図を逆さまにすると、見えないことが見えて来るのと同じである。

第二章「ヨーロッパ・ロシア・中東の地政学的脆弱性」

第1節「NATOの拡大と民族主義の台頭」

バルト三国、ワルシャワ条約機構のメンバーだったポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリアの加入によりNATOは拡大した。その結果NATOの勢力がロシアに迫ったので、ウクライナ、クリミヤの問題はロシアにとってはお金の問題でなく、上述の通り地政学的利益としての安全保障の問題であった。又ヨーロッパでは、スコットランドはイギリスから独立しようとしたし、イギリスではEU離脱か残留かの国民投票が行われる予定であり、パリではイスラム移民排斥のデモが激しく、ドイツではネオナチが台頭、そしてハンガリーではシリアの難民出て行けと騒いでいる。その結果欧州では、欧州議会の選挙結果もそうであったが、極右政党が躍進している。冷戦時代は、米ソの厳しい対立の中で民族主義は封じ込められていたが、冷戦後、民族主義が息を吹き返し、移民と難民の受入反対、テロなどの醜い争いが復活したのである。

第2節 「ロシアの地政学的脆弱性」

ロシアの脅威は、三方からとなる。東にウラル山脈、南にコーカサス山脈、西にカルパティア山脈の三つの山脈に囲まれた東ヨーロッパ平原は、メソポタミアほどには平たんではないにせよ、広大な面積を有する。そこでは歴史上、西からはバイキングとナポレオン、南からはムスリム、東からは、モンゴル族とフン族が、自然の要塞がないモスクワを常に脅かしたのであった。然しメソポタミア人は殺されたが、ロシア人は戦ったのであった。即ち自然要塞のないロシアは敵が入って来る前に、彼らの土地を奪って緩衝地帯にすればよいと考え、15世紀から緩衝地帯を必要以上に拡大して、大国をつくりあげたのであった。然しながら、これは征服された民族にとっては、侵略されたことになり、よいことではなかったことも確かである。一方厳寒で人口希少であり、力の真空地帯となっている極東ロシアには中国不法移民が侵入している現実がある。

第3節「イラク(メソポタミア)の地政学的脆弱性」

イラクの南の石油積出港バスラの標高は4メートルであるが、1千キロメートル離れた首都バクダットの標高は32メートルであるので、イラクは、ほとんどまっ平の平原で、強い敵に対して無防備である。歴史上、その平地を目指して、北の高地からはトルコ(オスマントルコはこの地域を何百年も支配)、東の高地からはイランが攻め込み(ペルシャ・アケメネス朝とササン朝で合計千年以上この地域を支配)、南からは食い詰めた遊牧民ベドウィンが度々侵入、西は、今はシリアであるが、ギリシャ・ローマ時代にはアレクサンダー大王がインドまでの東方遠征の途中で攻め込んで来たのであった。即ちイラクは古来、言葉は悪いが「煮ても焼いても食えない」隣国からの侵略と殺戮の十字路としての「地政学的脆弱性」を有するのである。

さらに最近では、2001年の同時多発テロ後、アフガニスタンに続き米国は2003年にイラクに侵攻した。イラクは内戦状態となり、ベトナム以来の米兵の戦死者に米国内の厭戦気分が高まり、オバマ大統領は2011年までにイラク撤退を決意し、かつ実行した。そしてその米国の不介入主義で「パワーの真空」が生じたのである。アラブの春で中央政府が弱体化している折、その真空を埋めたのは、南半分はシーア派のイランのイスラム革命防衛隊、北半分はイスラム国であった。

第三章「中国の地政学的脆弱性」

第1節「中国の膨張と縮小の変遷」

紀元前2世紀の前漢の時代から現在までの2100年間の「漢族」の領土の膨張と縮小の歴史は、東西南北の蛮族(東夷、西戎、南蛮、北狄)との攻防の歴史であった。5/6世紀の南北朝の時代までは、漢族は万里の長城を隔てて北の匈奴と鮮卑等の蛮族と相対していたが、唐時代の8世紀後半には、中原から中央アジアに抜ける回廊が北は「ウイグル」、南は「チベット」にはさみこまれていた。これはまさに、その当時の中国の地政学的脆弱性を表している。唐の滅亡後宋となったが、宋はやがて女真族の「金」に北半分を支配され、13世紀にはモンゴル族の「元」が中国全域を支配した。14世紀に漢族の明が復活するも、西方はウイグルとチベットが勢力を拡大しており、元に比べれば支配領域は小さかった。17世紀には満州族が「後金」を経て「清」を建国して、ウイグルとチベットを含む中国全域を支配、やがてロシアが南下してウラジオストックを取り、日本も満州を占領した。

以上中国の漢族の国の大きさは、周りの蛮族との力関係で決まり、周りが強くなれば小さくなり、周りが弱くなれば大きくなつた。一方現在の中国の国境には、どのような蛮族がいるのか。先ず北の蛮族はロシアである。然し、ロシアと中国は1960/70年代に路線対立していた頃には仲が悪かったが、現在ロシアは味方ではないかもしれないが敵ではない。内モンゴル、チベット、ウイグルは掌中に収めたし、インドはヒマラヤ山脈が横たわり脅威ではない。ベトナムとは抗争を歴史的に繰り返して来たが、1979年のベトナムが勝利した中越戦争以来、陸地では戦いを交えていない。従って中国の陸上の国境は安定しており、地政学上脆弱ではない。

陸からの脅威がないのに、中国はなぜ膨大な軍事費を使い、沢山の空母とミサイルを保有しようとしているのか、それは、海からの脅威に備えているからである。 即ち今の中国で、「最も豊かであるが、最も脆弱な地域」は天津から香港までの太平洋岸である。そしてその富を支えるのに何が必要か、普通は「ヒト、技術、カネ、資源、エネルギー」である。然しその内中国が持っているのはヒトだけである。その他は海から来るからである。何故海から来るのか、それは伝統的に海上輸送コストの方が陸上輸送コストより安いからである(だから海が栄えるのであるが)。そしてその海の輸送ルートを邪魔しているのは日米同盟であると彼らは見ているのである。

第2節 「中国の海洋戦略」

中国人民解放軍が、軍事戦略の「パワー」を展開するための目標ラインとして「第一列島線」と「第二列島線」がある。 第一列島線は、九州鹿児島を起点に南下、沖縄、台湾を内側に取り込み、フィリピン、ボルネオ島の西側を通り、南シナ海をほとんどすべて支配しようとするものである。そこは日本のシーレーンと「ガチンコ」するが、中国は「第一列島線の内側は中国の海であるので、入って来ないで欲しい。入って来るのならば仁義を切ってください。そして仁義を切るのならば政治的譲歩をして下さい」と言っているのである。さらに20X0年までには 小笠原からグアム、サイパン、パプアニューギニアに至る第二列島線の内側も中国の海としようとしている。それは「米国は、台湾、朝鮮、日本から出て行ってハワイに帰って下さい。太平洋は広いので二国で分けましょう」と言おうとしているのである。従ってふたつの列島線により、中国は公海における航行の自由を事実上否定し、西太平洋の力による「現状変更」を画しているのである。

第3節「南シナ海での米中対立」

米国は、フィリピンに本土以外で最大のクラーク空軍基地とスービック海軍基地を有していたが、1991年のピナトゥボ山の大爆発を契機に、フィリピン国内で反米の基地反対闘争が起こり、上院で継続使用が拒否されて、同年11月米軍は両基地から撤退した。然し、戦略上の要衝であるこの地域において、駐留アメリカ軍の軍事的抑止力を失った結果、「巨大なパワーの真空」が生まれ、地政学上の「脆弱」が生じたのであった。そして案の定中国は、米軍が撤退して数か月後の1992年に「領海法」を制定して、東シナ海、南シナ海の領有を宣言し、現在の南沙諸島(スプラトリー諸島)と西沙諸島 (パラセル諸島)の人工島造成につながっていくことになるのである。2014年5月には西沙諸島に中国は巨大なオイル・リグ(石油掘削装置)を持ち込み、ベトナムと一騒動があり、2015年の5月には米国は南沙諸島の人工島造成の映像を世界に明らかにしたが、中国は聞く耳を持たなかったので、10月には人工島の12カイリ以内にイージス艦を航行させて厳重抗議したのであった。一方フィリピンは上記オイル・リグ騒動の前の2014年4月米国との新しい軍事協定で、1)米比同盟による「国防協力」の強化 2)米軍の「巡回型プレゼンス」の強化 3)フィリピン国軍の「最低限防衛能力」の確立が約束された。
終章「地政学から見た日本の大戦略 」

第1節「米国による抑止力の限界」

米海軍は空母11隻と海兵隊のヘリ空母8隻を、世界の海に配置して警戒している。そもそも通常軍隊の部隊は3の倍数で保有されている。海軍においても一隻は戦っており、二隻目は次に戦う準備、そして三隻目は戦いを終えて修理と休養と訓練を行うローテーションを組んでいる。従って保有する空母11隻の内、実際戦っているのは4隻だけである(勿論非常の場合それ以上に使えるが、「継戦能力」が落ちる)。東アジアは、空母1隻とヘリ空母1隻体制である。然し中東とアジアの危機が同時に訪れた場合、米国は中東に空母2隻を派遣するであろう。なぜならば、日本は、自国のエネルギーを確保するためにせよ、中東のホルムス海峡で米軍の代わりに戦う能力と設備を有しないからである。その結果南シナ海と東シナ海が空になることが心配される。新安保法制が必要な所以である。尚東日本大震災の時は、(義務でなく友情で行われた)「トモダチ作戦」で空母2隻とヘリ空母1隻が派遣されたのであった。このような体制は朝鮮半島有事の時以外ありえないだろう。

第2節 「海洋国家大英帝国に見習うべき日本」

小さな海洋国家からすれば、魑魅魍魎が住むとも言える強大な大陸国家群と対抗するためには、第一に大陸国家間のバランス・オブ・パワー(勢力均衡)を維持することが大切である。即ちその内の一つの国家が強くなって大陸を支配し、力が余って、ナポレオンのフランス、ヒットラーのドイツのように島国を攻めてくる覇権国家ができないようにすることである。第二に大陸との健全な距離を保ち、大陸に深入りしないことである。深入りした白村江の戦い、秀吉の朝鮮出兵、日韓併合等は国力を消耗するだけだった。第三に資源がない島国としては、シーレーンを確保して自由貿易と加工貿易に生きることが大切である。

以上3点はイギリスの「特許」とも言えるが、日本の英国との島国同盟である「日英同盟」は大成功であった。即ち日本は英国と組んで、ユーラシア大陸の大国ロシアと中国のバランスを維持し、すでに大陸へ進出してはいたが、大陸との健全な距離を維持し、イギリス海軍を使ってロシア海軍を牽制し、シーレーンを維持して自由貿易で栄え、かつ民主主義を導入出来たのであった。その大成功を一番妬んだのは日英同盟を潰しにかかった米国であった。そして戦略的間違いは、日本と共通の利益がない大陸国家ドイツとイタリアと三国同盟を結んだことであった。全然島国と関係ない、あの同盟が失敗の始まりであり、すべてを失ったのであった。

第3節「島国同盟の発展を」

ところが日本はその失敗による敗戦後、「日英同盟」に次ぐ、第二「島国同盟」としての「日米同盟」を結んだのであった。なぜならば米国は大陸国家でなくて世界一の島国であり、日米同盟はこの島国同盟により、ユーラシア大陸のソ連共産党と中国共産党のバランス、南北朝鮮のバランスを維持出来たのである。即ち日米同盟のお蔭で大陸に入って行く必要がなくなり、米国第七艦隊のお蔭で中東までのシーレーンを確保出来、自由貿易により経済発展して、民主主義を回復出来たのである。中国がどのような政治を行うかに対しては、彼ら次第であり、我々の問題ではない。我々の問題は中国により我々のシーレーンの自由航行が阻害されるのを防ぐことである。

今や、パワーに限界のある米国は、ヨーロッパ、中東、アジアに気を配らねばならないので、第二「島国同盟」だけで足りないと考えるべきである。島国同盟を拡充して第三「島国同盟」として、米国に次ぐ世界第二の島国オーストラリアとの同盟も有効であろう。インドネシア、フィリピンも考えられるが、インドは島でなく亜大陸であり、島国同盟には適さないのではないか。 

「質疑応答」

「質問1」

オーストラリアとの第三「島国同盟」の話だが、党内クーデターで首相交代があり、又南シナ海で海洋進出を強める中国をけん制するため、米海兵隊の駐留先の一つとなっている北部のダーウィンで、中国企業が99年間の港の長期リース契約を結んだことに波紋が広がっているが、オーストラリアを味方にして大丈夫か?

「回 答」  

オーストラリアの国益を考えれば中国を全く無視はできないのだろう。問題はそのバランスをどう取るかである。中国が国際ルールを破り続けるならば、やがてオーストラリアも目が醒めるだろう。又党内クーデターと言うが民主主義のルールに則っている筈である。一方軍事上は沖縄とダーウィンとグアムから南シナ海は等距離にあるので、「南シナ海の現状を維持する」との戦略的視点からはダーウィンは重要な拠点であり、米国はおおいに困惑しているだろう。然し中国が米軍の基地を見たいというのならば、見せてやればよいし、問題は中国がそこに軍事基地を作るかであるが、それはありえないだろう。勿論無視はできないし、けしからんと思うが、それを事実として受け止めていかざるをえない。尚なぜ沖縄からダーウィンとグアムへ分散するかであるが、沖縄はすでに中国のミサイルの射程範囲に入っており、防衛基地を分散することが必要であるからだ。

「質問2」

ロシアは北方4島に基地を建設している。4島は返還される可能性はあるのか?

「回 答」  

ロシアのプーチンがヨーロッパの陸上でやっていることと、中国がアジアの海上でやっていることは基本的に同じであり、醜いナショナリズムを追求している。そして醜いナショナリズムと帝国主義のDNAが合体するとモンスターになるのである。日本は両国と個別に交渉するのではなくて、ロシアと中国を同列において、G7との協調により、「力による現状の変更は認めない」と主張するべきである。北方四島は、よい漁場であると言うだけでなく、米国に対する原子力潜水艦の隠れ家として軍事戦略上重要な基地であるので、容易には返してくれないだろう。いますぐやっても半分も帰って来ないだろう。然しチャンスはありうる。私が待っているのは、中国がロシアにとって戦略的脅威になるときである。このときはロシアが対日戦略を変更して、外交革命をやり、関係改善を求めてくる時であろう。それは1972年ソ連が中国にとって強大な国になったとき、中国が米国・日本両国と関係改善を図ったのと同じである。但しそれはあと30年後か100年後かは定かではないが。

「質問3」

韓国での買い物で円は通じたが、なぜだろうか。

「回 答」  

韓国で円は通じるのは有難い。但しこちらはウォンでもらっても困るが、向こうは円でもらって大歓迎だろう。韓国は不幸な歴史があった。反日が、国内政治的に意味があることがあったし、これからも政治家レベルではなくならないだろうが、民衆レベル、経済レベルでは、相互依存はものすごく進んでいるのである。

「質問4」

朝鮮半島は中国が奪取してしまうのではないか、北朝鮮を抑えるには中国の力が必要である。北朝鮮は核を持っていても、叩き潰される恐怖心があるのではないか、又朝鮮半島は日本の防衛にどのような意味を持つのか。

「回 答」

朝鮮半島は地政学的に脆弱である。朝鮮半島は小さな半島であり、東側は山岳地帯であり、使えるのは西側だけである。朝鮮の人は不幸な民族であると言わざるを得ない。なぜならば中国、満州、日本に囲まれていたが、さらにロシア、米国にも関与されることになり、朝鮮半島の人達にとっては、そのような狭いところへ攻めて来られたら中国のように上海から重慶に逃げる如く「戦略的重心」が存しないのである。

よって朝鮮の外交は、面従腹背、バランス外交にならざるをえなかったのである。日本が併合する前の李氏朝鮮時代も、ロシア、日本、中国がいて、独立派がいてバランスを取ろうとしたがバランスはとれなかったのである。冷戦時代は特別の時代だった。一度攻めてきたことのある、又何をするかわからない北朝鮮が怖かった。よって米韓同盟に日米同盟をプラスして、「韓米日」同盟を基軸外交としたのであった。然し冷戦の時代は終わったので、北朝鮮はもう怖くないと考えているだろう。米韓が本気で戦ったら数週間で勝つだろうが、その数週間の間に何万発もの砲弾が雨あられと降ってきて、ソウルは火の海となるであろう。その結果は韓国経済の終わりとなるだろう。然しそのような馬鹿なことをする筈がなく、戦いは起こらないだろう。即ち韓国は戦わない、米国も戦わず、日本は戦う気はなく蚊帳の外である。

一方中国は北朝鮮がなくなるより、あった方がよいと考えるだろう。何故ならば、北朝鮮はバッファーであるからだ。中国とすれば、もし統一韓国、統一朝鮮半島になるならば、自由で市場経済が行われ、米軍が駐留し潜在的に反中で核兵器を持つかもしれない国と直接国境を接することは、絶対に避けたいだろう。だから必死で北朝鮮を維持しようとするだろう。中国は北朝鮮の生命維持装置を握っているのである。然し現在は当事者間で奇妙なバランスが出来ており、三代目の最高指導者、34歳の金正恩は足許を見て、やりたい放題をやっている。

「 以上は、宮家邦彦氏の講演を國民會館が要約・編集したものであり、文章の全責任は当會館が負うものである。」』