ECB、0.5%利上げを決定 インフレ抑制を優先
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR16BAB0W3A310C2000000/
『【フランクフルト=南毅郎】欧州中央銀行(ECB)は16日の理事会で、3会合連続となる0.5%の大幅利上げを決めた。スイスの金融大手クレディ・スイス・グループの経営不安などが高まったものの、インフレ抑制を優先した格好だ。ラガルド総裁は「すべての手段を使って対応する用意がある」と述べ、欧州金融システムの安定を保つことを強調した。
ラガルド氏は記者会見で「現在の市場の緊張を注意深く監視している」と述べた。ユーロ圏の銀行は「(金融危機の)2008年に比べて格段に強固だ」と指摘し、さらに必要に応じて流動性支援に乗り出す方針も示した。米シリコンバレーバンク(SVB)の破綻後、主要中銀の政策決定は初めてでECBの判断に注目が集まっていた。
主要政策金利は3.5%と08年10?11月以来の高水準に引き上げる。先行きの利上げペースは、不確実性が高まっているとして「データ次第」と述べるにとどめた。次回5月会合ではインフレの長期化を視野に利上げ幅を見極める方針だ。
欧州のインフレ圧力は根強い。16日公表した最新の経済・物価見通しで、ユーロ圏のインフレ率は23年を5.3%、24年を2.9%と想定した。経済成長率は23年が1.0%、24年が1.6%を見込む。量的緩和策で膨らんだ保有資産の圧縮は6月にかけて月150億ユーロ(約2兆1000億円)規模で削減する方針だ。
2月のユーロ圏の消費者物価指数は前年同月比の伸び率が8.5%と高止まりした。価格変動の大きいエネルギーや食品などを除いたベースでは5.6%と過去最高を更新し、ドイツやフランスなど一部の国ではインフレ率が再び高まっている。
ECBは物価が中期的に2%に戻るまで利上げを続けると繰り返し説明してきた。市場では利上げ幅を0.25%に減速するとの見方が広がっていたものの、前回2月会合で示唆していた0.5%の利上げを継続した。
16日の欧州市場でクレディ・スイスの株価は一時前日比3割超上昇とひとまず反発している。ECBの大幅利上げ公表後は伸び悩む場面があった。為替市場ではユーロは方向感を欠く展開。米国市場では、大口預金が多い米ファースト・リパブリック・バンク株が一時4割下げるなど一部銀行への不安がなお強い。
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伊藤さゆり
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究理事
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分析・考察
今回の理事会の声明文は「あまりに高く、あまりに長くインフレが見込まれることから0.5%の利上げを決めた」との文言で始まる。
予告通りの利上げ幅を維持する一方、今後の方向性は示さず、「データに基づくアプローチ」を強め、「今後の経済金融データ」、「基調的インフレのダイナミクス」、「金融政策の伝達の強さ」の3要素を考慮することを、ラガルド総裁は記者会見で繰り返し述べた。
ユーロ圏の銀行システムの強靭性を再三強調したことも今回の記者会見の特徴。
会見終了後も欧州株は前日を上回る水準を維持している。
とりあえず、市場心理の一層の悪化を回避することには成功したようだ。
2023年3月17日 0:13 (2023年3月17日 0:37更新)
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上野泰也
みずほ証券 チーフマーケットエコノミスト
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ひとこと解説
前回理事会での事実上の予告通りの0.5%ポイント利上げ決定に関しては、欧米通信社が内幕を報じている。ロイターによると、経営不安が取り沙汰されるスイス大手銀行が16日、スイス国立銀行(中央銀行)から最大500億スイスフランを借り入れる選択肢を行使して流動性強化の断固とした措置を取ると発表したことによって、大半のECB当局者は0.5%ポイント利上げに動く自信を得たという。また、ブルームバーグによると、0.5%ポイント以外の決定であれば投資家の間にパニックを引き起こすかもしれないとの懸念に後押しされたという。仮に利上げを見送ると、事態は表面で見えているよりも深刻だと市場が受け止める恐れのことだろう。
2023年3月17日 7:26
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滝田洋一
日本経済新聞社 特任編集委員
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ひとこと解説
①えっ0.5%。市場参加者は見事な肩透かしに。クレディスイス・ショックを機に0.25%への利上げ幅縮小の予測をよそに、2月の理事会の宣言通り0.5%利上げを決めたからです。
②欧州銀行の経営不安には、資本・流動性基盤が強靱と指摘するとともに、必要な場合には流動性を供与するとECBは明言しました。この言い回しはスイス中銀とソックリです。
③インフレ抑制には0.5%利上げ、金融不安には流動性供与――いかにも理屈好みのECBらしい政策割り当てですが、ブレーキとアクセルを一緒に踏む感じが否めません。
④2008年にはベア・スターンズ破綻とリーマン破綻の間にも利上げを続けたECB。その既視感が漂います。
2023年3月16日 22:40 (2023年3月16日 23:03更新)
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白井さゆり
慶應義塾大学総合政策学部 教授
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ひとこと解説
米国のシリコンバレー銀行などの破綻やクレディスイス銀行への懸念から、現状維持か0.25%の利上げを予想する市場の見方も多かった。しかし、以前に予告したとおり0.5%の利上げを行った。クレディスイスがG-SIBsとして厳しい金融規制下にあり自己資本比率が高いことやスイス中銀の流動性支援もあり、ユーロ圏の銀行が総じてみると自己資本や流動性比率が高く波及するリスクが低いとの判断をもとに、インフレの抑制を優先したようだ。CBは域内の銀行のクレディスイスへのエクスポージャーがどの程度なのか調査を行ったようで、影響は限定的と判断したようだ。またスイス中銀と同様にECBは流動性供給が可能だ。
2023年3月16日 22:40』