ロシア、核情報提供を停止 米国「軍縮条約消滅に備え」

ロシア、核情報提供を停止 米国「軍縮条約消滅に備え」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN120EJ0S3A310C2000000/

『【ワシントン=中村亮】ロシアが3月初めに核戦力の運用に関する情報提供を停止し、バイデン米政権が反発している。運用の全容把握が難しくなり、米国で軍拡論に拍車がかかる公算が大きい。米政権は50年以上ぶりに米ロの核軍縮条約が消滅する場合にも備え、対応計画の策定に着手した。

ロシアのプーチン大統領は2月28日、米国とロシアの新戦略兵器削減条約(新START)の履行停止を定めた法律に署名した。新START…

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『新STARTは米ロ間に残る唯一の核条約で、2026年2月が有効期限になる。後継の枠組みに合意できなければ1972年以降、初めて米ロの核軍縮の枠組みがなくなる。

バイデン政権は新STARTの維持を目指して実務者協議をロシアに呼びかけているが、実現のめどは立たない。

米国務省高官は10日、日本経済新聞の取材でロシアから協議日程の提案はないと話し「今後も提案があると想定していない」と断じた。22年11月にはエジプトの首都カイロで開催を計画し、ロシアが直前に延期していた。

バイデン政権は核軍縮条約が消滅するシナリオに備える。同高官は「新STARTを(26年2月まで)履行できない状況が続き、その先も(米ロ間で軍縮の)手段が何もない最悪のケースを議論している」と明かした。米国家安全保障会議(NSC)や国務省、国防総省などを交え、省庁横断で対応策を協議している。

新STARTの履行停止で影響を受けたのが核運用の把握だ。国務省は15日、ロシアから戦略核戦力に関する情報の通知が停止したと発表した。米国とロシアは戦略核戦力の移動や配備状況などに関して情報を互いに通知してきた。国務省高官は3月初めに情報提供が停止していたと説明した。

人工衛星などを使えばある程度は代替できるとの見方が多いが、高官は「最終的に(新STARTと)同じだけの安定をもたらす透明性を確保できない」と懸念を表明した。米国は互いに年18回認められている実地査察に関し、ロシアが拒んでいるとも繰り返し非難してきた。

米ブルッキングス研究所のスティーブン・パイファー非常勤上級研究員は弾道ミサイルへの核弾頭配備数の把握が難しくなる可能性を指摘する。ロシアは新STARTの履行停止中も核弾頭配備数の制限を守ると明言しているが、パイファー氏は「時間が経過するにつれて米国は信頼を失う」と分析した。

米軍備管理協会のダリル・キンボール会長は「監視や査察の欠如が不確実性や最悪の想定を生み出し、軍拡競争につながる可能性がある」と危機感を語る。26年以降に米国とロシアの軍縮枠組みが消滅すれば、両国が短期間で核弾頭の配備数を倍増させるシナリオを挙げて警鐘を鳴らす。

米国で核戦力の運用を担うアンソニー・コットン戦略軍司令官は3月上旬、議会公聴会で新STARTが消滅するケースへの対応に関し「私の任務は米大統領に柔軟性の高い抑止策を提示できるようにすることだ」と証言した。追加の抑止策が必要になるとの見方を示唆する発言だ。

日本の岸田文雄首相は5月、広島市で開く主要7カ国首脳会議(G7サミット)で核軍縮を主要テーマの一つに据える。

国務省高官は「岸田首相のアプローチに深く感謝している」としつつ「ロシアが核の脅しを拡大し、中国が核計画の透明性や開放性を欠いいたまま(戦力を)増強するリスクを無視して軍縮へ急に向かうことはできない」とも述べた。』