豪州、2030年代に原潜配備へ 米英と中国抑止強化
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『【ワシントン=中村亮、シドニー=松本史】米国とオーストラリア、英国は13日、豪州の原子力潜水艦取得に向けた工程表をまとめた。豪州が2030年代に最大5隻の米国製原潜を調達する。米国は潜水艦の生産や補修能力拡大へ5年間で46億ドル(6100億円)を投じる。3カ国で中国抑止を強化する。
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バイデン米大統領とアルバニージー豪首相、スナク英首相は13日、米西部カリフォルニア州サンディエゴの海軍基地で会談した。米英豪は2021年9月、安全保障の枠組み「AUKUS(オーカス)」を創設。米英の技術支援を受けて豪州が原潜を取得すると決め、工程表や仕様の詳細を詰めてきた。
バイデン氏は演説で「AUKUSの最も重要な目的は急変する世界の流れのなかでインド太平洋の安定を推進することだ」と強調した。中国の軍拡や海洋進出への対処を念頭に置く。「米国は太平洋国家だ」と言及し、インド太平洋への関与を重視する立場を鮮明にした。
米政府高官によると、工程表は3段階に分かれる。23年から30年ごろまでの第1段階は主に訓練期間となる。米英の原潜が豪州への寄港を増やし、豪州軍に原潜の運用を訓練する。米国は造船所に豪州の技術者や労働者を招き、原潜の生産や維持・補修の技術を伝える予定だ。
第2段階の30年代初めに豪州が米バージニア級原潜を3隻購入し、必要に応じて2隻を追加する。米国と豪州は巨額の投資で米国の潜水艦の生産や維持・補修能力を拡大する。豪州向けの原潜生産が米軍の調達計画の遅れにつながらないよう配慮する。米政府高官は記者団に豪州の投資規模をめぐり「莫大な貢献になる」と説明した。
第3段階は米英豪の技術を組み合わせた新型原潜の生産に移る。名称は3カ国協力をアピールするため、攻撃型原潜「AUKUS」とする。豪州は自国で生産して40年代初めの取得を目指す。英国も30年代後半に同型の原潜を調達する計画だ。
米国が原潜技術を他国に供与するのは、豪州が1958年の英国に続いて2カ国目。バイデン政権は同盟国との協力を重視して「統合抑止力」の強化を提唱している。豪州が原潜を取得できれば、中国に対して統合抑止を高められるとみる。
豪州がいま保有するディーゼル潜水艦に比べ、原潜は潜水可能期間が圧倒的に長い。秘匿性が高くて、敵の攻撃を逃れやすい利点も大きい。
原潜の建造は難度が高く、建造期間が計画より延びたり、費用が膨れ上がったりするリスクがある。原潜技術は機密性が極めて高く、米国が迅速に技術供与を進めるかどうかも成功のカギを握る。豪州の配備まで米英豪の綿密な意思疎通が欠かせない。
豪州にとっては原潜は過去最大級の防衛装備品の調達となる。少なくとも8隻とする原潜の建造費用は1000億豪ドル(約8兆8000億円)前後まで膨らむとの見方が強い。国内に原潜の造船所を有する米英と異なり、技術者や労働者の確保も課題となる。
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青山瑠妙
早稲田大学大学院アジア太平洋研究科 教授
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発表された豪州の原子力潜水艦取得に向けたAUKUSの工程表はとても野心的で、これにより英、豪を結ぶ巨大軍事産業が生まれ、三国間の海軍協力が始動する。中国の軍事的挑発を抑止するだけではなく、中、ロ、北朝鮮の軍事協力の抑止をも念頭に入れているので、AUKUSはとても重要な意味を持つ。AUKUS、日米韓協力、米・フィリピンの軍事協力などで、アメリカが主導する新しい安全保障のネットワークがインド太平洋で形成されつつある。
2023年3月14日 8:33
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高橋徹
日本経済新聞社 編集委員・論説委員
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ひとこと解説
オーストラリアが現在6隻運用するコリンズ級ディーゼル艦は2038年に退役を予定しています。入れ替え期の「空白」を避けるため、まず米国製のバージニア級原潜を購入・配備し、その後で米国から技術導入して自国で生産する新型原潜「AUKUS」の導入という二段構えの計画としました。AUKUSが21年9月に突然公表されてから1年半。日英豪の3カ国が短期間で計画をまとめ上げたところに、インド太平洋における中国への警戒感が感じ取れます。ただインドネシアなど豪州の近隣国には、原潜計画に批判的な声も残ります。アジア諸国への丁寧な説明は今後も不可欠でしょう。
2023年3月14日 7:31』