新局面の中ロ連携に潜む影 ウクライナ和平に波乱も

新局面の中ロ連携に潜む影 ウクライナ和平に波乱も
上級論説委員 坂井 光
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD08C9P0Y3A300C2000000/

『2月23日、モスクワ・シェレメチェボ空港の到着ロビーで民族衣装を着たロシア人による歓迎式典が行われた。出迎えられたのは中国からの一団。同国政府がコロナ禍で中断していた団体渡航を解禁して最初のツアー客だ。

2022年2月のウクライナ侵攻以降、孤立感を深めるロシア。その中国への接近ぶりが市民レベルで強まっていることを印象づける出来事だが、経済統計は両国関係の変化をより鮮明に映している。

タス通信など…

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『タス通信などによると、22年の中国との貿易額は1903億ドル(約25兆4千億円)と前年比29%増えた。特に輸出は制裁で西側向け石油・ガスが減少するなか、一部を代替する形で43%も増加した。

輸入では、家電や日用品などのほか、自動車、機械など中心に13%増えた。ロシア経済に詳しいイワン・ツェリッシェフ新潟経営大教授によると、並行輸入の経由地の一つとして中国の機能が確立。ロシアが直接輸入できない電子部品や機械類などを代わりに第三国から調達しているという。侵攻前から中国は輸出入ともに最大の相手国だが、もはや代替できない存在だ。

ロシア中銀によると、輸出決済通貨における人民元の割合は22年1月の0.4%から9月に14%へ上昇。逆にドルは52%から34%に低下した。

モスクワの外為市場における通貨取引の割合は人民元・ルーブルは22年1月にはほとんどなかったが、11月には25%となり、ドル・ルーブルの43%に近づいてきた。これが23年は通年で逆転する見通しだ。財務省は外為市場への介入を今年から人民元で実施することを決めた。

人民元経済に取り込まれるロシア。その事実は政治面でも中国依存を招いている。

「われわれは国家主席がロシアを訪れるのを待っています」。2月22日、王毅(ワン・イー)共産党政治局員とクレムリンで会談したプーチン大統領は習近平氏との早期会談に期待を表明した。ここから透けて見えるのは、いつ会うかを決めるのは中国側という現実だ。習政権に忖度(そんたく)せざるを得ない厳しいロシアの立場がうかがえる。

一方の中国はどうか。対米関係上、ロシアへの影響力が強まるのは歓迎だ。戦争の長期化は中国経済にとってマイナスだが、割安なエネルギー調達は可能となった。それらの功罪を冷静に見極めながら優位な立場を利用するしたたかさがうかがえる。

侵攻は中ロ連携を新たな局面に変えた。問題はその影響が両国関係にとどまらないことだ。この1年で世界では、法の支配など理念を重視する西側と、経済を優先するグローバルサウスといった新興国との溝が浮き彫りとなった。

中ロはその立場の違いを利用し、新興国を取り込んでいる。中国がサウジアラビアとイランの外交正常化を仲介したのはその一環だ。

アフリカなどでも中ロの強権的手法をまねる政権が増え、経済面でも国家統制色が強まっている。折しも、フランスのマクロン大統領は3月2日、「フランサフリック(アフリカの仏影響圏)の時代は終わった」と発言した。

プーチン大統領(前列中央)はアフリカ諸国に接近している(2019年10月、ロシア南部ソチで開いたアフリカ諸国との首脳会議)=ロイター

さらに中国はウクライナ危機の解決を目指す「和平案」を2月に発表した。西側とは異なる独自の方針を明らかにすることで新興国の中国接近を促す戦術といえる。ロシアに配慮したその内容は将来の和平実現に向け波乱要因になる懸念さえある。

ただ、中ロ連携が同盟にまで進展するかといえば、可能性はほとんどないだろう。相互依存とはいえ、経済的にも政治的にも対等でない非対称な関係にロシアでは不安と不満が広がっているからだ。

中国もロシアに肩入れすることで米欧の制裁対象になることは避けたい。エネルギー調達でサウジアラビアなど中東勢との関係を強化しているのは、ロシアからの輸入に支障が出ることも想定した冷淡な判断からかもしれない。

さまざまな要素が複雑に絡み合う中ロ連携はどこに向かうのか――。習氏の訪ロはその重要なヒントを与えてくれるはずだ。ただ、いまから確実にいえることもある。西側にとってより難敵で不確実な存在になるということだ。』