ポーランド、安全保障のため他の予算が削減されても占領されるよりはマシ

ポーランド、安全保障のため他の予算が削減されても占領されるよりはマシ
https://grandfleet.info/european-region/poland-is-better-off-with-other-budget-cuts-for-security-than-being-occupied/

『英国紙は「戦争を回避するのに代償が必要だとポーランド人は気がついている」と指摘し、ポーランドの与党党首も「安全保障に対する投資が財政を圧迫し、他分野の予算削減を強いられたとしても敵に占領されるよりはマシだ」と述べた。

参考:Poland builds Europe’s largest land force to counter Russian threat
参考:Матеуш Моравєцький: ми повинні мати настільки сильну армію, щоб її ніколи не довелося використовувати

安全保障に対する投資が財政を圧迫し、他分野の予算削減を強いられたとしても敵に占領されるよりはマシ

ポーランドの国防計画はNATO参戦を前提に「東から侵攻してくる敵をヴィスワ川で食い止める戦略」を採用しており、前政権のPO-PSL(市民プラットフォーム-ポーランド農民党)連合はヴィスワ川より東の地域の軍事拠点を整理・縮小、ポーランド軍が所有していた土地や建物を開発業者に払い下げてしまったが、2015年にドゥダ大統領と法と正義(PiS)が選挙に勝利すると国防計画の抜本的な改革に着手した。

出典:Leszek Chemperek/CO MON

ロシアの脅威が本物だと考えるドゥダ政権は「ヴィスワ川東部地域を支配していた時代に回帰したいと考えるプーチンがポーランドに侵攻してくるかもしれない」と危惧、過去50年間で最大の再軍備に乗り出したポーランドは欧州最強の陸上戦力を手に入れるつもりで、この計画は遠い将来の話ではなく2030年頃までに実現する本物の計画だ。

ポーランドは国防予算を引き上げ、M1A2SEPv3+M1A1FEP+K2+K2PL×計1,366輌、ボルスク×1,400輌、クーガー×300輌、K9A1+K9PL×計648輌、HIMARSとChunmoo×計788輌、パトリオット×8基、F-35A×32機、FA-50×48機、AH-64EV6×96機、AW149×36機、MQ-9B×4機、アローヘッド140フリゲート×3隻、コルモラン型掃海艇×3隻、偵察衛星×2基を手に入れる予定で、昨年契約したK2やK9の一部はポーランドに到着し始めている。

ポーランドは昨年7月にK2、K9、FA-50の取引に関する基本合意書(LOA)に署名、8月にK2を2025年までに180輌、K9A1を2026年までに212輌取得するため契約を正式に締結したばかりだが、ロシア(カリーニングラード)国境に近い地域に配備されている第11砲兵連隊は昨年12月にK9A1×24輌を受け取っており、同隊のアダミアック大尉はTelegraph紙の取材に「我々は古い大砲を沢山もっていたが、砲兵将校として新装備の到着に興奮している。(K9A1は)どこからでも撃つことが出来て撃てない場所はない」と自信満々に語っているのが興味深い。

アダミアック大尉は「隣国で発生した戦争のことを考えると反撃に効果的な武器を手に入れたことは自信につながる。我々は全ての装備を迅速に更新しており、これは能力の進化ではなく革命に近い」とも述べているが、安全保障に対する大規模投資(2035年までに約14兆円を装備調達に投資予定)はポーランド経済の成長が続くという前提の計画で、Telegraph紙は専門家の話を引用して「ポーランドは安定した経済成長を遂げてきたものの現在は不況に近く、EUの資金を活用して経済を活性化させなければ状況を危機的なものになりかねない」と警告。

出典:pixabay

EUの資金とはCOVID‑19復興基金のことでポーランドには約300億ポンドの補助金が割り当てられているのだが、司法改革(現政権が裁判所の独立を毀損する法律を可決したためEU加盟条件=法の支配に違反すると問題視されている)の影響で揉めており、EUは問題が解決するまで復興基金の配分をブロックしているためポーランドは約300億ポンドの資金に手を付けることが出来ないのだ。

要するにTelegraph紙は「EUの資金を活用した経済活性化は当分見込めない=経済成長が鈍化もしくはマイナス成長になる可能性が高く、現在進めている安全保障への大規模投資は国家予算を圧迫する」と指摘しているのだが、同時に「戦争の危機が迫っているため、ポーランド人は代償を支払う必要があることに気がついている」とも付け加えている。

出典:KancelariaSejmu/RafałZambrzycki CC BY 2.0

PiS党首のカチンスキ氏は「安全保障に対する投資が財政を圧迫し、他分野の予算削減を強いられたとしても敵に占領されるよりはマシだ。ウクライナで起きていることを目にした人なら、このことに疑いを持つことはないだろう」と述べており、モラヴィエツキ首相も「(平和を望むなら)決して使用する必要がないほど強力な武力をもつ必要がある。国を守るためには全ての国民が訓練に参加して射撃や困難な状況下で生き延びるための技術を見つける必要がある」と訴えているのが印象深い。
危機に対処するためには代償が必要で「全員が協力しなけばならない」という事をポーランドは自覚している

ポーランドは軍隊のサイズを14万人から30万人(この数字は最低ライン)に拡張することが決まっているが、これだけの人員を確保するため「米軍モデルを参考にした採用プロセス」や「兵士の待遇改善」にも取り組んでおり「志願制を維持しながら意欲を備えた兵士の確保」を狙っている。

出典:Robert Suchy 宣誓を行うポーランド軍の兵士

例えばポーランド軍の新兵採用プロセス(28日間の基礎軍事訓練+11ヶ月間の専門訓練)に支給される給与を正規兵士と同じ給与水準に引き上げ、兵役に就いた満26歳までの若者に所得税免除の特典を与え、大学卒業後に入隊する若者には学費をカバーする奨学金(5年間勤めれば奨学金の返済は不要)を提供、大学在学中に参加できる軍事的な座学や演習等のスクールプログラムを拡充して参加者には報酬も支払い、プログラムを全て受講したものには卒業と同時に伍長として採用、追加の特別テストに合格すれば士官として採用することも約束。

勿論、職業軍人として働く兵士や士官の待遇改善も計画されていており、一定の勤続年数を経過すると支給されるモチベーションアップ手当、住宅手当の引き上げ、ポスト不足による昇進の遅れを改善するため1つのポストについて必要があれば複数の人間を任命(勿論条件付き)できるよう制度を改善、下士官から士官への昇進限界=ガラスの天井撤廃を約束するなど勤続意欲を高める工夫にも取り組んでいる。

さらに国民に対する基礎的な軍事訓練も全国で毎週末開催されており、この取り組みにはNATOも協力しているのが非常に興味深い。

Jestem ogromnie zbudowany tym, że ludzie w niedzielne popołudnie poświęcają swój czas i chcą podnosić swoje umiejętności.
Dobrej niedzieli wszystkim! pic.twitter.com/Wgs3e2JCkL

— Mateusz Morawiecki (@MorawieckiM) March 12, 2023

4% of GDP for defense spending – thanks to improvements in public finances – this is an investment in the security of Polish citizens and the entire Alliance. pic.twitter.com/GFXngP4sCl

— Mateusz Morawiecki (@MorawieckiM) March 12, 2023

Naprawa armii zaczyna się od naprawy finansów publicznych. Żmudna i profesjonalna praca @KAS_GOV_PL i @MF_GOV_PL doprowadziła do wypracowania budżetu na inwestycje, które pozwolą Wojsku Polskiemu zapewniać nam trwałe bezpieczeństwo. pic.twitter.com/zl13t4PXsB

— Mateusz Morawiecki (@MorawieckiM) March 12, 2023

Silna, wiarygodna, solidarna – taka jest Polska w NATO. I takie jest NATO w Polsce. 24 lata w najsilniejszym Sojuszu na świecie.

Strong, credible, united – this is Poland in NATO and NATO in Poland. 24 years in the world’s strongest Alliance. pic.twitter.com/PRljixcTnw

— Mateusz Morawiecki (@MorawieckiM) March 12, 2023

12 marca 1999 roku 🇵🇱 weszła do NATO. Weszliśmy do sojuszu państw wolnych, które nawzajem zobowiązują się do obrony swojego bezpieczeństwa.

On March 12,1999, 🇵🇱 joined @NATO. We entered into an alliance of free states that commit themselves to mutually defending their security. pic.twitter.com/ZvLoXeOAtM

— Mateusz Morawiecki (@MorawieckiM) March 12, 2023

昨年秋から定期的に開催されている「Train with NATO」はポーランドの民間人を対象にした特別演習で、ポーランド軍に加えて国内に駐留する米軍、ルーマニア軍、クロアチア軍などの同盟国も教官役を務め、戦時に必要不可欠な小銃の扱い方、火の起こし方、仮説シェルターの作り方などをポーランド国民に教えており、この取り組みにはモラヴィエツキ首相も率先して参加している。

要するにポーランドは「国を守る」という行為を政府や軍に丸投げするのではなく「全ての国民が何らかの形で関与する形式=国民に兵士になるよう強要しているのではなく、ただ守られる存在から戦時に何かできる存在になることが目的」を採用しており、この取り組みの特筆すべきところは「本当に多くの国民が訓練に参加している」という点で、Telegraph紙が「ポーランド人は国を守るため代償を支払う必要があることに気がついている」と指摘したのは事実である可能性が高い。

出典:Polish Ministry of National Defense

ここ2年~3年の動きを見る限り、ポーランド政府も国民も「自国の文化」や「社会の生存」を担保する安全保障に本気で取り組んでおり、危機に対処するためには代償が必要で「全員が協力しなけばならない」という事を自覚しているのだろう。

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※アイキャッチ画像の出典:Mateusz Morawiecki
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投稿者: 航空万能論GF管理人 欧州関連 コメント: 20  』

『 a10
2023年 3月 13日

返信 引用 

ポーランドのこの姿勢と意識は尊敬の念を持たざるを得ないですね。
これも侵略されて国土も国民も文化も蹂躙された歴史を持つが故なんでしょうか?
政府から国民まで危機意識がまるで無く国防をアメリカに事実上丸投げの島国とはまるで真逆ですね。
55

    ミリオタの猫(冬眠中だけど、一言だけ)
    2023年 3月 13日
    返信 引用 

そりゃね、ポーランドが滅亡したのは一度だけじゃ無いからね

ポーランドは18世紀にロシア・プロイセン・オーストリアにより3度分割された挙句滅亡

その後独立を目指してナポレオン戦争にフランス側で参戦・独立を果たしたがナポレオンの敗戦でまた滅亡

第一次世界大戦が終結した1918年に独立を回復するも21年後の第二次世界大戦で今度はドイツとソ連に分割され、またまた滅亡

オマケに第二次大戦後は約半世紀近くに渡りソ連の支配下にあったんだから、安全保障に関するポーランドのやる気は年季が違う

この点、米国との太平洋戦争で本土決戦・一億総特攻を呼号した結果、歴史上唯一核兵器を二度も喰らって政府も国民も心の底から戦争と軍国主義と米国が恐くなり、以後米国と民主主義と平和のポチになった日本とは歴史も環境も全く違う
24 』

『 欲張りセット
2023年 3月 13日

返信 引用 

一発だけなら誤射かもしれないし、九条があれば侵略されないし、
侵略者がきても酒酌み交わせば分かり会えるから大丈夫だって、レフトの人が言ってた!
16

    霞ヶ浦
    2023年 3月 13日
    返信 引用 

最初に関しては割りと重要な事ではあるんだけどね
11 』

『 現実主義者
2023年 3月 13日

返信 引用 

自国の安全保障に対するポーランドのこの考え方は今の日本には到底理解できないだろうね。
まぁ、長年歪んだ平和主義を叩き込まれたからそれも無理も無いかもしれないけど、個人的な考えとして理解できない最大の要因としてはやはり日本は他国を蹂躙して地獄の苦しみを与えた侵略国家の歴史はあっても自国を侵略されて地獄を味わった歴史を持たない事が1番の要因じゃ無いだろうかね。
だから安全保障に無頓着で何でもかんでも軍国主義だ右翼だと非難する自称平和主義団体やら鈴木M男みたいな侵略された側の気持ちなどまるで理解しない、侵略者に理解を示す様な無責任な輩が大勢存在するのも頷けるのだろう。
言ってはいけないけど日本がポーランドの様な考え方を持つには侵略されて痛い目を見るしか無いんじゃ無いだろうかね。
6

    YJ93
    2023年 3月 13日
    返信 引用 

ま、元寇で2回、薩英戦争で1回くらいやられてますけどね。撃退できたけれども。
6 』