テック・金融が負の共振 米、SVBなど2行の全預金保護
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB134DD0T10C23A3000000/
『2023年3月13日 20:13 (2023年3月14日 5:46更新)
【この記事のポイント】
・SV銀破綻、危機防止へ預金全額保護と流動性供給
・金利高、テックの資金流出と債券運用の逆回転招く
・止まらぬ銀行株安 利上げ難局、見送り観測も浮上
【ワシントン=高見浩輔、ニューヨーク=斉藤雄太】米金融当局が金融システム不安の未然防止に動いた。12日、シリコンバレーバンク(SVB)など破綻した米銀2行について預金を全額保護すると発表、預金流出の広がりを防ぐとともに、銀行への資金…
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『金融緩和下のカネ余りで潤った米ベンチャーと銀行が負の共振に陥った。急速な金融引き締めが米経済の弱点をあぶり出している。
SVBと、ニューヨーク州金融監督当局が12日付で事業停止を公表したシグネチャー・バンクの預金を全額保護の対象とする。
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米国ではドッド・フランク法(金融規制改革法)で預金保護の上限は25万ドル(約3400万円)と定められている。ただ、金融不安につながりかねない場合に米連邦預金保険法(FDI法)に例外規定があり、米財務省や米連邦預金保険公社(FDIC)、米連邦準備理事会(FRB)が協議してこの規定の適用を決めた。
FRBは流動性供給で支援する。「銀行タームファンディングプログラム(BTFP)」を新設し、金融機関を対象に、米国債や住宅ローン担保証券を担保として、最長1年の融資をする。融資期間を従来からある連銀貸し出しの3カ月から1年に延ばし、経営を安定させる効果を高めた。FRBが「最後の貸し手」となって金融システムを守る機能を拡充する。
バイデン米大統領は13日朝に演説し「米国の銀行システムは安全」としたうえで、「こうしたことが起きないように議会や規制当局には銀行に対する規制を強化するよう求める」と表明した。
10日にSVBを管理下に置いたFDICは買い手探しの競争入札を始めたが、難航していた。動画配信機器販売の米ロクが現預金の26%をSVBに預けるなど、多くの新興企業が口座を持っており、預金が保護されなければベンチャー企業が資金不足に陥り経営問題となる可能性があった。
SVBの預金者にはシリコンバレーの新興企業や起業家の富裕層など大口顧客が多い。保護対象外の預金が22年末の預金残高のうち9割の約1560億ドルと大きい。
預金者など破綻銀行の債権者の救済は経済原則をゆがめる。米当局は、取り付け騒ぎが複数行に広がるリスクを未然に防ぐことを優先した。経営者解任とともに株主責任も明確にしてバランスをとった。納税者負担にならないとも明言した。
苦境の背景には金融環境の急変がある。新型コロナウイルスに対応した金融緩和下、米テック産業は資金調達を急増させた。その資金を預金として集め債券運用に充てたのがSVBだ。インフレ退治の金融引き締めでベンチャー企業はキャッシュが流出し、SVBも預金の減少と金利上昇による債券含み損を抱える逆回転となった。
米銀全体でも預金は昨年4月から5000億ドル程度(約3%)減少し、債券含み損は約6200億ドルに膨らんだ。預金流出などで資金不足に陥れば、含み損が実現損となるリスクがある。
米当局は「(SVBなどは)多くの銀行にはない特殊なケース」(米財務省高官)として、破綻が連鎖的に続くとみていないもようだ。
13日の米株式相場は下落して始まった。ダウ工業株30種平均の前週末対比の下げ幅は一時200ドルを超えた。SVBの預金全額が保護されることになったが、金融システムの先行き不安から株売りが優勢だ。特に中堅銀行や地銀の下げが目立つ。ベンチャーキャピタル(VC)向け融資が多いファースト・リパブリック・バンクは8割近く下落する場面があった。
08年のリーマン・ショック当時は、リスクの見えにくい証券化商品が金融業界に広がり、住宅バブルが崩壊すると信用収縮に陥った。今回、テックバブルのひずみは特定の銀行に集中しているもようだが、過小評価されていたリスクが顕在化する構図は似通う。
FRBの今後の金融政策に影を落とす可能性もある。米金融大手ゴールドマン・サックスはFRBが21〜22日に予定される米連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げをいったん停止すると予想した。
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田中道昭
立教大学ビジネススクール 教授
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分析・考察 月曜の米国市場では中堅地銀を中心に12行の株価が大幅下落(ファーストリパブリックの株価は一時79%安)、サーキットブレーカー発動で株式取引停止となりました。共和党側が政争の道具としてモラルハザードである等の批判を強め、バイデン氏も銀行の預金者は守るが株主は守らないと発言したことが大きく影響。サマーズ元財務長官がマクロ環境からは6%程度までの利上げが潜在的に必要とコメントした中で、銀行危機への懸念から市場では利上げ停止の観測が強まっています。国内外の金融機関で何度か金融危機を経験してきましたが、こういう局面で最も警戒すべきなのは流動性リスク。日本でも一旦は効率性よりは流動性を重視すべき局面です。
2023年3月14日 6:30いいね
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白井さゆり
慶應義塾大学総合政策学部 教授
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分析・考察 今回の政府とFRBの対応は早かった。2つの対応が際立つ。一つは全額保護を付与してBank Runを止めようとしたことだ。大半の預金者がベンチャーキャピタルやテック企業の経営者が保有しているので全額保護で比較的早く預金流出をとめられると判断した。もうひとつはFRBが新たなに緊急流動性支援を行い担保のヘアカットをしないでより多くの資金を借り入れできるようにした点だ。SVBは債券をFRBに担保として提供して融資を受け、預金流出に対応できる。預金流出に対応するために債券を売却して損失を計上しないですむ。ただSBVは緩い規制が適用されていたため後に規制当局は議会で責任を追及されるかもしれない。
2023年3月13日 22:23 』